次世代革新的原子炉の動向
掲載日2011年9月11日 斉藤 清
福島第一原発が、東日本大震災で壊滅的な被害を受けてから、今日で丁度半年が経った。しかし、いまだ原子炉の安定冷却から安全な廃炉への目途が立っていない。この機会に「次世代革新的原子炉」の動向について、一言書いておくことにした。
3年ほど前に雑談していた時、国内の某原子炉メーカーが、小型の非常に低濃縮のウラン燃料を使った原子炉のシミュレション結果を実証する革新型原子炉の開発をしているらしいという話があった。
これは、4S(Super Safe Small Simple)という電力中央研究所と国内某原子炉メーカが共同開発している多目的ナトリューム冷却高速炉のことかなと思った。
日本原子力委員会のHPを見ると、日本でも次世代革新炉の研究が盛んに行われているようだ。
電力中央研究所、日本原子力開発機構、三菱重工、日立、東芝、東工大、東大などが色々の奇抜なアイデアの原子炉の基礎研究をしているらしい。
下記のHPをクリックすると、当時(2002年?)、日本原子力委員会が募集した、我が国で研究されている「次世代革新的原子炉」の動向を示す要約論文を見ることができる。(pdf様式、全68頁。)この中に上記の「4S」の原子炉の記述もある。
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/kakusinro/bosyu/020910/furoku-2.pdf
また「次世代革新的原子炉」の各国の動向は、下記をクリックすると見ることができる。(pdf様式、全13頁。)
http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/kakusinro/bosyu/020910/furoku-1.pdf
従来のBWR(沸騰水型原子炉)もPWR(加圧水型原子炉)も、大昔の丸型ボイラーに似た原始的な構造で、丸い筒のなかに発熱体(核燃料)が入っていて、その熱で丸ボイラーの中の水が加熱されて、沸騰水型ではそこから発生する加熱・高圧蒸気でタービンを廻し発電する、また加圧水型ではそこから発生する高圧加熱水を熱交換器を通して加熱・高圧蒸気にしてタービンを廻すものである。
少し前に、このHPに「福島原発事故の放射性物質がヨーロッパまで届いていた」という記事を掲載したが、その中の一節を再掲しよう。
「火力発電と異なり、原発は、現在の人智を超える部分を多分に持っている未完成・未成熟技術による設備であることを、今回の福島原発事故で思い知らされたのである。ジェームスワットの蒸気機関の発明から280年近くかけて現在の大容量火力発電設備になったが、原発の開発速度が早過ぎ、安全が追いつけないのではなかろうか。達磨(だるま)の形をした格納容器と圧力抑制室は、形を見るとどうしてもタコ入道に見え、最新鋭のスマートな装置には見えないのである。それに較べて蒸気タービンや直結する発電機は、150年以上かけて現在の形状になり、恰好も良く最新鋭のこれぞ機械という感じがする。」
現在の重油や天然ガスで動かす火力発電所のボイラーは、丸ボイラーでは無く、水管ボイラーから還流ボイラーへと進化しているので、蒸気のエンタルピー(注1)上昇を大きくでき、効率的な発電ができるようになっている。しかし商業発電用原子炉の基本技術は、数十年前に開発された構造がベースになっており、丸型ボイラー(風呂釜に似たボイラー)に似た構造で、原子炉の熱変換効率が悪く、原子炉や熱交換器が大型化するばかりでなく、タービンを廻す蒸気のエンタルピー上昇が小さいので、タービンや発電機も、火力発電所では3000rpm/3600rpm(50Hz/60Hz)で回転するが、原子力発電所の場合は1500rpm/1800rpm(50Hz/60Hz)でしか回転できないので、大型化してしまう。そこに目を付け、コンパクト化、大出力化のアイデアが色々研究されているようだ。
(注1)エンタルピー:エンタルピー(enthalpy)とは、熱力学における状態量のひとつである。物質の発熱・吸熱挙動、及び、外部に対する仕事量にかかわる値である。物質が発熱して外部に熱を出すとエンタルピーが下がり、吸熱して外部より熱を受け取るとエンタルピーが上がる。また、物質が他の物質などに仕事をするとエンタルピーが下がり、外部より仕事を受けるとエンタルピーが上がる。エンタルピーの次元はエネルギーの次元[J(ジュール)]と等しい。
また「もんじゅ」は液体ナトリュームを冷却材として使うので、水や蒸気と接触すると爆発的に燃える危険があるので、小型原子炉では液体ナトリュームの替わりに化学反応の起こらない不活性ガス(ヘリュームガス)で原子炉を冷却する案や、CO2ガスを利用することも研究されているらしい。重金属は水との化学反応性が低いので、鉛ビスマス合金をナトリュームの替わりに使用する案なども研究中であるらしい。
また核燃料の温度が高くなると、自動的に核連鎖反応が抑えられる方式で、核連鎖反応制御棒を必要としない原子炉も研究しているらしい。
どれも一長一短があり、特に高圧、高温、高放射線に曝される環境で使用する構造材の開発が非常に難しいらしい。
殆どの次世代革新炉は、まだ大型炉の開発段階に至っておらず、また大型炉が原理的に難しいものもあり、数万kWの小型原子炉を各地に分散配置する案が多いようだ。
これは原子炉を自家発と同じく、工場や需要地に近接して設置することになり、到底市民として受け入れることができないであろう。一回核燃料を投入すると、50〜100年連続運転できるという宣伝の原子炉もあるが、それはシミュレーション上でのことで、実際に各部の材質でそんなに長時間耐える物があるのか疑問である。
ビルゲーツ氏が資本を出して設立した米国テラパワー社が、国内某原子炉メーカーとコンタクトを取っているのは、ビルゲーツ氏はソフトウェアでは強くても、原子炉は核分裂反応制御工学、熱力学、伝熱工学、材料力学、流体力学、金属材料学、電力工学などのエンジニアリングの塊で、特に使用する特殊材質の金属・ガスや、加工法などを某原子炉メーカーから学び取ろうとして、そのメーカーに接触しているのだと思った。
いずれにしても電力会社が実際に建設に乗り出すのは、大容量の原子炉が作れるようになる時だから、その頃まで筆者は年齢的に、残念ながら見届けることが出来ないと思う。
日本は、次世代の原子炉だと称して、「もんじゅ」を建設したが、液体金属ナトリュームを減速材(冷却材)にしているため、液体金属ナトリュームが水と接触すると爆発する危険な装置で、現在デッドロックに乗り上げ、廃炉にする方法さえ決まっていない状態である。軽水炉の廃炉は米国のスリーマイル島の原子炉の経験があるが、ナトリュームを減速材(冷却材)にした「もんじゅ」の廃炉は、どうしたら良いのかも分からない状態らしく、敦賀半島の尖端にじっと立っているだけである。
今まで造って来た原子炉を安全に処分することが、それらを造って来た我々世代の責任で、このツケを次世代に廻すのは止めたいものである。
東工大や東大も次世代原子炉を色々研究しているようだが、その研究費を軽水炉事故でまき散らされた放射能を帯びたゴミの無害化研究に廻してほしいものである。
前にも書いたが、原子力に替わる次世代(21世紀後半に実用化予定)エネルギーとして核融合反応を利用して、地球に太陽を作ると派手に宣伝され、多額の費用を掛けて日本では「JT−60」、またヨーロッパでは日本も協力して国際熱核融合実験炉「ITER」が建設され研究が続けられているが、一向に実用化に向けてのタイムスケジュールが発表されない。現代人の知識では簡単に解決できない、難し過ぎる問題が多すぎるからかもしれない。核融合反応を利用した発電システムは、上記の革新型原子炉の開発より更に難しい、夢のまた夢の研究なのだろうか?日本のJT60は、20年以上前から研究しているが、さっぱり成果がマスコミなどに発表されない。マスコミ側の取材もさぼっているのだろうが、一体全体どうなっているのだろうか??
これが完了してから、次の革新型原子炉の研究をしていただきたいと思う。
また、これらの研究費で大学や国の研究機関が係わっているものは、我々の税金が使われている。学者の実績作りのために、多額の研究費が使われるのは疑問である。原子炉メーカーと共同で、実用化の可能性の高い原子炉に限定して、開発を進めるべきだと思った。そして研究状況(成果)を、毎年国の検査機関がチェックするべきである。そして実用化の見込みの少ないものは、直ぐ中止していただきたい。
中国の高速鉄道の事故では無いが、最近は開発速度優先が過ぎて、安全がおろそかになっている風潮が、残念ながら次世代原子炉の研究でもあると思った。