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日頃の針灸の世界で思ったことが、とりとめも無く書いてあります。
見る方の立場によっては、不快に思われる事もあるかもしれません。
特定の方への非難や攻撃ではありませんので、ご了承ください。

トピックス

鍼灸治療の専門分野への取り組みと可能性  2009.4.6 NEW

良い治療院の探し方(患者さん向け)5周年その@
 2006.4.3 

針灸専門での開業は難しいか(鍼灸師・学生さん向け)5周年そのA  2006.4.3 

治療は一番、ですが治療の環境にも目を向けたいものです 2005.8.25

現代医学の投薬中心の治療への疑問 2005.3.13 

鍼灸治療の適正な料金設定を考える 2005.2.14 

いよいよ始まる病医院での鍼灸治療と開業鍼灸師 2005.2.9 

治療者から見た「治る患者さん」「治らない患者さん」
 2004.11.11 

日鍼会の主張と鍼灸業界の未来を考える 2004.6.6 

治療者においての得手不得手〔開業3周年〕 2004.4.1 

中国に留学する意味 パートA 2003.11.9 

鍼灸治療の効果判定 2003.8.17 

古典中医学と現代中医学について 
2003.2.4 

増え続ける新しい癒しの流れ 2002.10.20 

治療院の仕事と治療者の健康 2002.9.26 

鍼灸とあん摩〔手技療法〕の違い 2002.8.26 

治療院での物品販売 2002.8.2

鍼灸の保険改定〔保発0524003号〕を考える 2002.7.3

鍼灸師免許だけの開業は難しいか 〔Bはり・きゅう師免許のみの場合〕 2002.6.20

鍼灸師免許だけの開業は難しいか 〔Aあんま・マッサージ・指圧師免許取得〕 2002.6.3

鍼灸師免許だけの開業は難しいか 〔@柔整師免許取得〕 2002.5.20

これまでと、これから 〔千秋針灸院は全日開業一周年〕
 2002.4.3

理容師と鍼灸師の未来の姿 2002.3.24

中国に留学する意味 2001.11.27

鍼灸学校の学生時代の勉強法について 2001.7.22

中国と日本の針灸治療の刺激の違い 2001.6.22

無資格者による施術と資格にまつわる諸問題 2001.5.27

治療院〔医院も含む〕の評判について一言 2001.5.5

何でも値下げのブームについて 2001.4.14



 鍼灸治療の専門分野への取り組みと可能性

  インターネットの普及による新しい鍼灸へのニーズ

  2000年頃までの鍼灸院は地元に密着した、基本的に口コミによる来院が中心でした。対象疾患も多くは整形外科分野で、加えて
  他の幅広い疾患に対しても可能な範囲で対応していたのが、通常の治療院の姿と思います。こうした状況では整形外科分野以外を
  専門的に扱い、同一疾患に対して数多くの症例を持つ治療院が登場する素地はありませんでした。しかしインターネットの普及により
  状況は大きく変化し、当院でも実に新規患者さんの9割以上、全国から多くの方が眼科疾患の実績に期待してホームページより来院
  されるようになり、年間延べ3000名(08年)を超える眼科領域の患者さんを治療する機会をいただき、各疾患への理解や治療実績の
  集積が大きく進歩しました。インターネットの普及によって、病医院並に鍼灸においても、現代医学での治療が難しい疾患へ、高度な
  専門領域への対応が可能な治療院へのニーズが生まれていると思います。

  鍼灸への期待は高まっているのですが、受け入れる治療院側には通常、整形外科領域を除けば、あまり治療経験がありません。
  例えば眼科領域で多い緑内障も、10例以上の治療経験を持つ治療院は多くはありません。また現代医学の基礎として『眼科学』を
  学んだ鍼灸師もあまり無いと思います。通常の治療院が得意とする整形外科分野でも、『整形外科学』を在学中に学ぶ学校は、
  四年制の鍼灸大学くらいです。私も恥ずかしながら『整形外科学』を読み込んだことはありません。経験も知識も不足する治療院と、
  インターネットから比較的深い部分まで情報を得る患者さんで、知識面での逆転や十分なサポートが難しい状況が生まれています。

  当院の鍼灸治療の専門分野への取り組み

  臨床数の重要性
  日本の場合は鍼灸院へ来院される方の多くは整形外科領域の患者さんです。当院でも5年前までなら6〜7割の方が整形外科の
  主訴で来院されていましたので、例えば五十肩や腰痛症については信頼に足るだけの臨床数があります。しかし医学全体から
  すると整形外科領域はかなり狭い分野です。実際、狭い整形外科領域から他の領域へ伸びていけないのが日本の鍼灸です。
  規制緩和で鍼灸師が大幅に増えていますが、整形外科領域から他の領域へ発展していけなければ、免許は取っても仕事が無い
  という鍼灸師で溢れてしまい、鍼灸の可能性も拡がりません。

  眼科領域の様々な疾患のページを作っていて気づくのですが、確かな内容で書くためには、やはり臨床数がモノをいいます。
  治療効果もたった1名では「偶然」かもしれません。数名あれば少しは「良い」のかもしれません。5名くらいで「多分良い」、10名を
  超えると「ある程度確信が持てる」ように思います。これでも少ないように思われるかもしれませんが、同じ疾患の方を10名も治療
  させていただくというのは大変勉強になり、本当に感謝しなくてはならないことと思います。開院以来、眼科領域を主訴として来院
  された患者さんは300名以上、延べ1万人程もあり、大変多くの患者さんを診せていただく機会をいただき、眼科領域の各疾患の
  ページも改訂を重ねながら、より内容を深めて書かせていただけることができました。

  つまり、どんな疾患でも相当数の同じ病気の患者さんを治療させていただく機会をいただけないと、自分の臨床を扱った詳細な
  内容は書けないように思います。日本の鍼灸師が整形外科領域から拡がっていけないのは、たぶん臨床数が無いからです。
  HPに鍼灸で治療可能な病名を並べる程度は簡単ですが、患者さんが知りたがっている本当に深い部分を臨床から理解し、
  伝えていくことは数名程度の臨床経験では難しいものです。日本という現代医学を偏重する環境の中で、どのように針灸治療を
  多くの方に役立てられる治療としていくのかは、これからの私たち鍼灸師の課題です。日本では治療経験を積むだけでも困難を
  伴いますので(苦笑)
  

  専門医レベルに近づく知識量が必要
  私も眼科領域の患者さんが増えて、眼科領域の治療に集中しはじめた2006年頃までは、治療経験はあっても基本的な眼科学の
  知識が不十分だったため、様々な場面で十分なサポートができずにいました。しかし2007年からは基礎となる『眼科学』にはじまり、
  現在では眼科専門医レベルの内容まで読み込んで、ようやく最低限のサポートはできるようになりつつあると感じています。眼科
  分野一つをとってみても、これだけ集中した勉強が必要なのですから、私にはとても他科まで同様に力をいれることができません。
  眼科分野関係の専門書籍や設備にも、既に100万円以上は投資してきました。私もまだまだ発展途上ですが、現代医学でも認め
  られるような水準の確実な治療効果を積み重ねるためには、専門医レベルに近づく勉強と医学的な裏づけのある豊富な症例数が
  必要と思います。

  以前、医師の話として「鍼灸が効果的な場面があるとは思うが、客観的な結果や再現性に乏しいので、誰(患者)でも、何(病気)
  でも、何処(治療院)でも良いとは思えない。」を聞きました。私も少なくとも眼科分野では、このように言われないだけの勉強や
  症例報告を出していきたいと思います。日本の鍼灸は各専門分野への取り組みが遅れていますので、私には専門分野への
  鍼灸は大航海時代のような可能性を秘めているように見えます。例えば顔面神経麻痺専門、パーキンソン病専門、耳鼻咽喉科
  専門、皮膚科専門等、あっても不思議ではありません。今まで無かった専門分野ですので、全力で取り組んでいけば、その分野の
  トップレベルになることも不可能ではないでしょう。また不思議なことですが、一つの分野で結果が残せると、他の分野での治療に
  生かすこともできるようになります。

  これから鍼灸の世界へ進むという方に

  まずは多くの患者さんを診せていただく機会から
  鍼灸師は養成学校を卒業し国家資格を取得して、就職もしくは開業していくのですが、どちらにしても開業時に十分な技術を持った
  鍼灸師はまずありません。(5〜10年以上勤務されていた場合は別かもしれません) 「センスが必要」等という意見もありますが、
  余程センスの無い方を別にすれば、臨床数に勝る上達はありません。ですから開業後は兎に角、多くの患者さんを診せていただく
  機会が必要です。開業はある意味、周囲の既に実績のある治療院から患者さんを奪うことですが、同時に内容を比較されること
  でもあります。ここで考え違いをしてはいけないことは、治療実績の無い新規開業者が、たとえ多少自信があっても、評判も含めて
  周囲の既に実績のある治療院に治療で勝ることは有り得ないということです。実績は時間をかけて少しずつ積み上げていくもの。
  
  ですから開業当初は「患者さんからいただく治療代以上の治療をする」ことが絶対条件と思います。実費でも療養費の扱いでも
  構いませんが、周辺の治療代の相場より安くし、少しでも多くの患者さんに来院していただく必要があります。少なくとも延べ1万人
  (開業から3〜5年程度)は経験を積むことを最優先すべきです。この間に得意な分野や興味のある領域が自覚できると思います。
  千秋針灸院でいえば、当初は療養費(健康保険)を導入しました。鍼灸の療養費は整形外科分野に限定して認められているため、
  眼科領域を専門とする当院では、新規に利用される方はほとんどありませんが、開業当初から比較的順調に多くの患者さんに
  来院していただけたのは療養費のおかげでもあります。この頃の経験がなければ、現在の治療成績は無かったと思います。

  「治療力」をつけ専門分野へ
  私は特に眼科分野で現代医学の観点から鍼灸治療を検証する作業を続けています。日本の鍼灸では中医学をはじめ経絡治療や
  ○○式など様々な治療法があり、日本の治療家は治療法ばかり拘っているようです。私もかつては中医学の鍼灸治療に最初に
  出会いましたし拘ってきました。しかし全国の提携治療院での治療結果から見ると、治療法はあまり関係無いことが分かって
  います。治療法よりは臨床経験をベースにした「治療力」が大切で、これがある先生の結果が安定して優れる傾向があります。

  「治療力」とは何かというと私の見るところ、鍼灸による臨床数と経験年数が主で、才能等が占める割合はそれほど大きくは無いと
  思います。簡単に言えば鍼灸でどれだけの期間、真剣に治療に取り組んできたかが結果になります。ですから、これから治療家を
  目指す方は、自分で納得のできる治療法を見つけたら、どうしたら多くの臨床経験が積めるかを考えて、就職や開業を選ぶ必要が
  あると思います。そういう方向性で頑張っていくと、いつの間にか「治療力」も身に付いてくるのです。現在の私は中医学を基礎に
  してはいるものの、治療法に一切の拘りは無く、現代医学の面から検証可能な結果を重視しています。結果から治療法を分析する
  ことで、確実で再現性のある治療法を生み出していくことが可能です。結果を出せる治療が患者さんにとって良い治療です。

  専門分野への勉強法について
  「日本で鍼灸の実績がそれほど無い医学の分野に、どうしたら進んでいけるのか」は、当院でも手探り状態です。しかし基礎は
  必要ですので、基本的には医学書を読み込むことが大切と思います。私の場合は視能訓練士さんの教科書リストをいただき、
  また医学生向けの参考書やテキストから順に読み込んでいきました。現在は専門医向けの書籍を読み進んでいます。本当は
  医学部で聴講させていただけると良いのですが、独学でも順を追って進めていけば何とかなるものです。曖昧になりがちな
  鍼灸の専門書より余程確かな情報が得られます。インターネットでの情報は速さと確かさもありますが、専門書を読み込んで
  得られる知識は無償で得られるインターネットでの情報の比ではありません。現代医学の基礎がしっかりできてこそ、最新の
  情報も正しく受け止めることができます。

  鍼灸の効果を客観的に捉えるのにも、正しい専門知識が役立ちます。当院の視力・視野・変視症などの各種測定は眼科医学に
  基づいています。どれも専門書から得たもので、医学的根拠を持つ測定法です。どんな疾患でも必ず特徴や着目すべき部分が
  あり、そこを客観的な評価ポイントとすることができます。例えばクローン病なら血液検査はできませんが、体重や便の回数は
  重要な指標です。残念ながらこういう基本のことさえ知識の無い治療家が多く、「脈が良くなったから」等を指標にするようでは
  進歩はありません。脈や舌が良くなっていることは治療家の頭に留めておき、客観的な評価ポイントが改善しているかどうかを
  検証していただきたいものです。
実は私も最初の頃は視力等を数値化されることが怖く感じていました。しかし確かな治療が
  できていれば、全てではありませんが数値もついてくるものです。現在では数値で評価されるのは当然という感覚です。

  これから鍼灸の世界へ進まれる方は臨床数や経験年数では、既に活躍されている治療家を上回ることはできません。この弱点を
  克服できるのが、医学の各分野の専門性です。これまでの治療家はある意味全ての分野を治療対象としてきたため、幅広く対応
  できる代わりに、あまり専門性は高くありません。そもそも一人の人間が医学の全分野で専門家になることは医師の現状を見ても
  不可能です。有名な治療家でも鍼灸治療の多くが整形外科分野であることから考えれば、それ以外の分野の臨床数はそれほど
  多くはなく、例えば延べ10万人の患者さんを治療した治療家でも、眼科分野に限れば数千人というところでしょう。この程度では
  専門性が高いとはいえません。眼科分野を専門にしている当院では、延べ1万人程ですので、眼科分野に限れば数十万人の
  一般の治療実績に匹敵する経験があることになり、また分野を限定して取り組むことから専門性も大きく進むことになります。

 専門的な治療院探しのポイント(おまけ)

  患者さんが治療院を探す際に、どの程度の疾患の理解や臨床経験があるかは、以下のポイントで分かると思います。
  ○病気ごとに患者さんが一番気にされている症状や現象が説明されており、鍼灸で対処できるのか。
  ○治療上の課題や、病気の詳細なタイプごとの治療結果や効果の特徴まで説明できるか。
  ○どのくらいの期間で治療が完了できるのか。継続が必要なら、どの程度の治療間隔で済むか。
  ○治療効果を医学的に根拠のある測定法により効果判定はされているか。あるいはできるのか。
  また多くの病名を並べている治療院は、範囲は広くても内容は浅くなると思います。何でも専門は不可能です。

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 良い治療院の探し方(患者さん向け)

   最近では私の治療院も含めて、ホームページを持つ治療院が増えてきました。実際ホームページから探して
   来院される患者さんは、新患の方の約半数に上ります。また、その方から紹介されて来院された方を含めると、
   約7割もの患者さんがインターネットがきっかけで来院されていることになります。逆に言えば、それだけ多くの
   方が治療院を探されているということになります。しかしホームページの内容には規制が無く、治療院が全く
   自由に内容を書くことができるために、私のようなプロの視点で見た際に、明らかな誇大広告や問題のある
   内容が掲載されている場合があります。必死で良い治療院を探されている患者さんほど、冷静な判断が難しく
   なってしまい、多種多様な治療(?)に迷い込んでしまう危険があります。今回は針灸に限らず、ホームページで
   治療院を探す場合の注意点を挙げてみます。

  何でも治す、1回の治療で治す治療院
   このように書いている治療院がありますが、中程度までのギックリ腰(急性の腰部痛)ならともかく、現代医学でも
   苦戦しているような慢性病に対しては、1〜数回程度で治癒することは常識として有り得ません。針灸をはじめ、
   薬物を使わない治療法は、患者さん自身の治癒力を引き出す治療法で、即ウイルスを除去したり、臓器や関節を
   修復させたりするものではありません。千秋針灸院でも様々な難病の治療をさせていただいていますが、多くの
   場合は数ヶ月、場合によっては数年以上に渡る地道な治療と、患者さん自身が改善を自覚されたり、当院および
   病医院等での検査結果で向上を確認する作業の繰り返しです。毎日こういった仕事をしてきた私から見ると、
   「1回の治療で治る」病気は、一定水準の治療家なら誰が治療しても治る病気に違いありません。また、「何でも
   治す」というのは、もちろん有り得ない話です。特に難病等の場合は医師に状態を確認して貰って下さい。
   千秋針灸院の場合では、患者さん自身が改善を自覚されることと同じく、医師による診断も大切にしています。      

  遠方・全国から来院される治療院
   千秋針灸院も眼科系の疾患をはじめ、いくつかの得意な・特徴的な疾患の治療があり、同じ病気の患者さんが
   集中して、特定の疾患の専門院的になっている場合があります。インターネット時代ですから情報が公開される
   ことで多くの患者さんが集まり、治療実績も蓄積されるメリットもあります。しかし遠方からの患者さんの来院は
   通院に困難が伴い、特に治療期間が長期に渡る慢性の疾患では、治療間隔が間延びしてしまうことから充分な
   治療効果が得られないまま中断されてしまうケースが増えてしまいます。慢性病の治療は場合によっては生涯の
   サポートが必要になりますので、遠方・全国から来院される患者さんの確実な治療は、非常に困難を伴います。
   このことから治療院を探されている患者さんは、まず「治療院が通える範囲にあること」が大事な条件と思います。

   このことからホームページで「遠方・全国から来院されます」等と書かれていると、「紹介してあげれば良いのに」と
   思ってしまいます。千秋針灸院では通院が比較的楽な西濃地域以外の患者さんは、可能な限り近くの治療院を
   紹介するようにしていますが、最近は一般に治療が難しい疾患で、千秋針灸院では結果の良好な一部の疾患に
   関しては、当院への来院をお薦めしています。本当は私が出張すれば良いのかもしれませんが・・・。治療家の
   数だけ治療法があるというのが現実なので、私もこの問題は頭の痛いところです。

  他の治療を受けさせないようにする治療院
   問題のある治療家(?)が良く使う言葉に「他の全ての治療は受けないで下さい」という話があります。治療効果の
   判定が難しくなる等の理由もあるのでしょうが、要は、治療家(?)の治療を邪魔されたくないということでしょう。
   多くの場合は患者さんの信仰心を引き出す催眠商法です。こういう治療家(?)は、外部からの医学的な意見を
   患者さんにされては困りますので、他の治療に対しては否定的になります。患者さんが実際に受ける治療は、
   結局のところ患者さん自身が選択される訳ですが、例えば顔面神経麻痺や帯状疱疹後神経痛などの、医学的な
   回復期が限られている疾患については、選択を間違えると取り返しのつかないことになります。また、その大切な
   回復期を治療家(?)が間違った治療で浪費させてしまうことがあるならば、それは犯罪と言えるかもしれません。

   では、医師や私たち治療者が他の治療についての相談を受けた場合に、どう答えるのか、ということですが、
   医学的に明らかな誤りがある場合を除けば、「良くなる方も、ならない方もあると思います」、「分かりません」と
   いう答えになります。心ある治療者は決して専門外の他の治療を頭から否定はしないものです。

  国家資格はありますか
   様々な肩書きを書いている先生があります。患者さんにとって最低限大切なことは日本国の定めた国家有資格
   者であるか、という点です。開業して治療を行える者は、医師(含歯科医)、柔整師、はり師、きゅう師、あんま
   マッサージ指圧師のみです。他にも看護師に代表される医療系国家資格はありますが開業資格はありません。
   また薬剤師には体を診て治療方針を決定するをする資格がありません。ただし少なくとも日本国の定めた医療系
   国家有資格者であれば、開業資格が無い場合でも一定の医学知識を修めていますので、大きな事故は起こり
   難いといえます。

   問題は、いかにも公的な資格や肩書きを並べ立ててはいるものの、実体の無い資格や最低限の医学知識も無い
   場合があることです。国家資格が無い者の治療(?)を受けて症状が悪化した場合に、傷害事件として訴えることは
   できますが、なんと損害賠償は問い難いそうです。国家資格が無い者の治療(?)を受けた患者さん側にも過失が
   生じるという話を聞いたことがあります。国家資格の有無を確認しましょう。国家資格の無い方は、問い合わせの
   際にいろいろと理屈を付けてきます。有資格者の方は「はい、○○です。」と明確に答えられるはずです。ちなみに
   整体師やカイロプラクティック師、気功師、認定○○師、中医師、針灸医師等は日本の国家資格ではありません。
   また最近時折見かける中国を含む海外の資格のみでも、治療行為はできません。少なくとも日本の国家資格を
   持った上で多少の意味合いを持ってくる程度です。一見もっともらしい肩書きには、ご注意を。

  耳ツボ療法について
   最近は耳ツボ療法の宣伝が盛んに行われています。治療院の方へは国家資格の無い方でも始められるという
   触れ込みで売り込まれていますが、これはちょっと注意が必要です。ダイエットに限っての話ですが、耳のツボを
   どのような形であれ刺激するという程度の方法では、まれに5キロ以上減少できる場合もありますが、せいぜい
   数キロが限度です。実は売り込んでくる団体からは、「耳ツボの刺激だけでは充分な効果が得られにくいので、
   当○○が推奨する栄養補助食品を摂取していただきます」という内容の文書が届いています。栄養補助食品を
   併せて摂取した場合の効果は不明ですが、少なくとも耳ツボの刺激だけでは充分な効果は得られません。

   中国では痩身治療には、全身の針灸と共に補助として耳ツボの刺激療法を行います。対象になる患者さんは
   明らかな病的肥満に限定されています。このことからも耳ツボ療法を受ける場合には、方法を良く確認した上で、
   納得して治療を始められることをお薦めします。耳ツボ療法は様々な疾患の補助療法としては優れた治療法と
   思いますが、千秋針灸院では栄養補助食品等を売りたくは無いので、美容目的の耳ツボ療法は基本的にお断り
   しています。

   他に料金等もありますが、以前書いた鍼灸の適正料金の話も参考にして下さい。自由診療だからといって相場を
   遥かに超える治療院はどうかと思います。あと本当に良い治療院の探し方・・・難しいですね。実は本当に優れた
   技術を持った治療院は、ホームページを含めた一切の宣伝を行っていないと思うのです。なぜなら針灸治療を
   はじめ手技療法は、患者さん一人づつへの手作業のため時間がかかります。優れた技術で結果を出している
   治療院では患者さんが自然に集中するために、一定以上の患者さんを抱えることができません。千秋針灸院でも
   過去に新規の患者さんの受け入れを控えたことがありますが、ホームページの更新を止めることを含めて大変
   悩みました。診療補助スタッフの確保や他院への紹介で解決してきましたが、更に優れた技術のある治療院なら
   非常に悩ましい問題になるはずです。忙しくなって、現在引き受けている患者さんへの充分な治療が行えなく
   なるのは困りますので、本当に優れた治療家は、あまり目立たない所で活躍されているというのが実際のところ
   かもしれませんね。

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 針灸専門での開業は難しいか(鍼灸師・学生さん向け)

   近年の規制緩和で鍼灸師の養成学校が増加し、多くの鍼灸師が卒業していますが、卒後の就職や開業は
   かなり困難な状況です。特に鍼・灸師資格はあっても、あんま・マッサージ・指圧師(以下マ師)資格は規制
   緩和はされておらず、取得の間口は限られています。マ師資格が無い場合、医療機関への就職は限られており、
   また開業しても公にマッサージ等と表記することもできませんので、事実上は針灸専門で開業するか、他の
   資格を取得するか、あるいは針灸とは無関係な他の仕事に就くことになってしまいます。千秋針灸院は
   針灸専門治療院として開業し、いつの間にか六年目に入っている針灸院ですが、ここまでは私の当初からの
   想いである「中医学による針灸治療で、難病を持つ患者さんの力になりたい」という方向性を変わらず持ち
   続けています。養成学校卒業後の状況は厳しい現実がありますが、どうしても針灸専門の治療家を目指したい
   という方のヒントになれば幸いです。
   

  治療手段はありますか
   日本国内の養成学校では臨床について、腰部痛、肩部痛等の日本で従来から行われてきた鍼灸マッサージの
   適応範囲程度の内容しか勉強できません。実際に開業してみると、患者さんが探している鍼灸治療は、実に
   様々な疾患です。現実に当院でも半数以上の患者さんが、整形外科分野以外の疾患で来院されています。
   このことから従来の鍼灸マッサージの適応範囲だけでは、患者さんのニーズに応えることは難しいと思います。
   中国の中医薬大学では、実際に中国国内の医療機関で行われている幅広い適応疾患を、授業と病院実習で
   身に付けていくことができます。このため開業時から様々な疾患の患者さんを受け入れていくことができました。
   この結果、私は゛よろず治療院゛(笑)から始めることになりました。

   私は必ずしも中国留学はお薦めはしませんが、そうでない場合には治療院の研修や勉強会等で、みっちりと
   様々な疾患の実際や具体的な治療方法を学ぶ必要があると思います。書籍からの勉強も含めて、かなりの
   努力が必要になります。また養成学校での勉強は結局は国家試験対策であり、例えば理解している思っている
   五十肩ひとつとってみても、疾患の現状把握から原因・機序・予後の判定は意外にも難しいのが現実です。
   ただひとつの疾患への理解も、本当に深い部分はなかなか知ることができません。私も患者さんから教えて
   いただくことがしばしばあります。

  ある疾患や対象を絞って専門化する方法
   先の治療手段習得自体の困難さに加えて、医学の大変幅の広い疾患全てでエキスパートになるのは大変な
   ことです。一般に延べ三万人程は患者さんを診ないと一人前とは言えない、と聞いたことがあります。私で現在
   半分ほど、ということは開業して毎日十数人くらいの患者さんを診て、十年程度の時間がかかることになります。
   これではいつまで経っても一人前にはなれませんし、経営的にも困難です。

   例えば女性鍼灸師なら女性専門の治療院にして、主に婦人科疾患や小児疾患のエキスパートを目指すのは
   非常に効率的と思います。私のように針灸で治療可能な全ての疾患を対象にするのに比べ、集中的に対象
   疾患の実際と治療方法を学び、治療実績を蓄積することで、私のような゛よろず治療院゛を上回る専門性が
   身に付けられるはずです。同じように従来の適応範囲である腰痛等に絞って専門化するのも良いと思います。
   同じような疾患・症状への症例・実績数が専門性を高めますので、難易度の高い腰痛症等への確実な治療が
    可能になるならば゛よろず治療院゛に負けることはないでしょう。私の場合は中国へ留学してことから、様々な
   疾患への治療方法を身に付けていたため、゛よろず治療院゛から始めて、特に実績の上がった治療からホーム
   ページでは前面に出しています。基本的に゛よろず治療院゛ですが、得意な疾患への専門性を高めているという
   段階です。

  確実な実績を上げる方法
   日本での従来の鍼灸マッサージは慰安的な側面が強く、医学的に認められる効果を上げるという視点が乏しい
   現実があります。鍼灸学会等が中心となって頑張っていますが、まだまだ発表されているのは一部の疾患に
   限られています。しかし本当に効果のある治療は、患者さん本人の自覚だけではなく、医療機関の検査でも
   明確な好結果が得られる場合が数多くあります。例えば当院の眼科疾患への治療は、針灸治療単独で視力や
   視野の拡大、眼底部位の改善が医師により確認されています。疾患毎に医学的に根拠があり、かつ患者さんに
   分かりやすい簡易的な検査方法を考案し、結果が出たら医療機関でも検査をしていただくのが私の方法です。

   疾患毎に、どのような検査方法を行うかは公開しませんが、この結果と医療機関での検査結果は概ね一致
   しています。確実に医学的にも根拠のある実績を積み重ねることが疾患の把握と攻略に繋がりますので、
   特別な簡易検査方法が無い場合でも効果が上がっていると判断されるなら、医療機関での検査で確認して
   いただくと良いと思います。病医院の検査でも結果が出ていれば、患者さんにも自信を持っていただけます。

  ホームページは最良の広告
   鍼灸師は国家資格のため、広告等は規制を受けていますが、ホームページは閲覧される方が自ら探すという
   性質上、広告には当たらないとされています。このため虚偽や個人・企業等の名誉毀損等、問題のある内容
   以外なら、自由に表現することが出来ます。ネット上の情報は玉石混合ですが、鍼灸師も確実な内容であれば
   積極的にアピールしていくべきでしょう。私は開業時から、ホームページと一度だけ地域の学区地図に載せて
   いただいたことを除いて一切の広告・宣伝をしていません。学区地図から来院された方もありませんでしたので
   現在は止めてしまいました。現在来院される新規患者さんの半数はホームページからです。患者さんが多くて
   これ以上来院されては困るという場合は必要ないかもしれませんが、パソコンは苦手だから・・・等と理由を
   付けている方は努力不足と言われても仕方ないと思います。

   もう一つ、ホームページで実際に実績の上がってきた疾患を紹介していくと、自然に同じ疾患の患者さんが
   集まってきます。このことは実績のある得意な疾患は、更に実績が上がるということになります。かつての
   ゛よろず治療院゛なら数十年経っても症例数が集まらないような特定の疾患の治療実績が、開業から丸5年の
   当院に集中する結果となっています。この結果については、全く最近のインターネットの普及から起こってきた
   新しい現象と思います。全く新しい現象ですが将来も情報化の流れは止まらないと思われますので、今後は
   ある特定の疾患について、非常に専門的な治療実績を蓄積した治療院が登場しても不思議ではありません。
   もちろん鍼灸師は国家有資格者なのですから、医学的に根拠のある治療効果が伴うことは絶対条件です。

   千秋針灸院での5年間を振り返りながら書いてきましたが、これからの千秋針灸院はどうなっていくのでしょう。
   私は基本的には゛よろず治療院゛が好きです。困っている方に、なんとか良くなるよう頑張りたい一心で仕事を
   しています。また更に、クローン病を患った経験から、より深い部分で現代医学で難しいとされている難病に
   針灸から向き合いたいと思っています。ですので今後は゛よろず治療院゛+特定の疾患へのエキスパートを
   目指していくことになると思います。長い目で見ると、今後は医療機関で鍼灸治療も始まると思われますが、
   迎え撃つだけの内容は整いつつあります。鍼灸専門での開業は決して楽な道ではありませんが、しっかりと
   目的を持って歩んでいくと、大変やりがいのある仕事です。これから目指される方も夢を持って進んでください。


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 治療は一番、ですが治療の環境にも目を向けたいものです

   針灸院にとって、治療効果を上げることはもちろん第一です。しかし大切なことはそれだけではありません。
   「患者さんが求めていることは何か」を適切に掴んで、可能な部分から実現させていく作業は経営努力として
   だけではなく、更に治療効果を上げていくことにもつながります。千秋針灸院でもできていることばかりでは
   ありませんが、針灸の勉強同様に診療を続けていく限り向上心を持って取り組んでいきたいと思っています。
   今回は千秋針灸院で行っている実例です。もっと頑張りたい部分もあるのですが、現状報告までということで。

   大きな設備面の変更としては、2004年にトイレの全面改修をしています。それまでは店舗に元々の備え付けの
   和式水洗トイレでした。患者さんに障害者の方があり、和式で手摺も無いので使えないということから改修に
   踏み切っています。もちろん手摺も付いた洋式トイレです。費用はかかりましたが、意味のある改善になったと
   感じています。

   また見えない部分として乾燥機をガス式に変えることで、リネン類の仕上がりの柔らかさや殺菌効果を上げて
   います。最近はディスポシーツ等の流れもあるのですが、肌触り等にこだわってリネン類も全てホテル仕様以上
   (一枚数千円)の品質にしています。毎日頻繁に洗濯・乾燥を繰り返す必要はありますが、コスト面でもディスポ
   より有利な上、患者さんにも好評です。

   使用する針に関して、ディスポ針の品質も良くなっています(安価な輸入品には、やや不安を持っています)が、
   依然として国産の良質なステンレス針にこだわっています。患者さんごとに個人専用針のパッケージを作り、
   毎回滅菌し一定の使用期間や回数までに全て更新する方法を取っています。やはりコスト面でもディスポ針より
   有利な上、針の品質も比較になりません。安全性の点からも人から人への感染は有り得ない管理方法なので
   今後も継続していきたいと思います。ただしディスポ針の使用は業界の流れでもありますので、患者さんが選択
   できる方法も検討中ではあります。

   来院される患者さんの中には真夏でも長時間歩いて来院される方もあり、診療時に脈を診ると軽度の熱中症の
   ケースもあることから、患者さんが自由に飲めるウォータークーラーを設置しました。衛生の確保のため、毎日の
   洗浄が必要なのですが、万一の熱中症や脳血管障害の予防として役立っているものと思います。最近この
   機械が故障したことから、本格的なレンタルのウォーターサーバーを設置することに踏み切りました。出てくる
   水は全てサントリーの「南アルプスの天然水」で、セルフクリーニング機能も付いた最高クラスのものです。
   千秋針灸院の規模からするとコスト面で厳しいのですが、アメニティの観点からも当面導入してみるすることに
   決めました。お盆明けに入ってくるのでドキドキです。(笑)

   診療には東洋医学的な説明も大切ですが、正確な現代医学的な説明も非常に大切です。患者さんは何らかの
   病気で針灸院に来院されますが、多くの場合病院等にも通われています。しかし改善されつつあるとはいえ、
   医師の診療は大変忙しく、十分な病気・治療・投薬等の説明がされていない場合も多いです。針灸院の治療は
   一人の患者さんと接する時間が比較的長く、詳細な説明がし易い環境にありますので、病気や投薬に関しての
   現代医学的な疑問には積極的に答えるようにしています。即答できないことは宿題にさせていただいています。
   責任ある回答をするために医学書院の『今日の診療プレミアム Vol.14 ハイブリッド・DVD-ROM版』を導入して
   います。この資料は多数の医師が日常の診療のマニュアルとして使っているもので、現代医学的に根拠のある
   内容ですので大変役立ちます。7万円以上しますが、私には安い買い物です。(ちょっと強がりかも)

   お金のかかる改善ばかりでなく、少しの配慮で大きな改善につながる場合もあります。千秋針灸院は非常に
   スペースが限られているので玄関も小さいのですが、私も含めたスタッフの靴も玄関に並べていました。ある
   患者さんから「障害のある人には靴が多すぎて靴を脱いだり履いたりがし辛い」という指摘があり、早速私や
   スタッフの靴は片付けました。これまで多い時は7〜8足の靴が並んでいたのが多くても5足程度になり、障害の
   ある方でもこれまでよりは使いやすくなりました。患者さんからの指摘はとてもありがたいものですね。玄関の
   靴は経営的には外から見えるようにすることで、患者さんが入りやすくなる効果があると教えられてきましたが、
   全く経営者の理屈ということに気づかされました。私はいつも患者さん本位で行きたいものです。

   いろいろと取り組んでいる例を挙げてみました。千秋針灸院の宣伝のようになってしまいましたが、まだまだ
   アイディア不足やコスト等から至らない部分も沢山あります。しかし今後もアイディアと少しのお金をかけて、
   時間をかけてより良い治療院づくりを続けていきたいと思っています。針灸院はもちろん治療が大切なのは
   いうまでもありませんが、私は全ての部分で患者さんの立場に立ったレベルの高い治療院を目指していきたいと
   思っています。開業したての頃に先輩の先生に言われたのですが、「患者さんにお金を使える治療院には
   患者さんが集まり、また患者さんのためにお金をかけられるので良いサイクルが生まれる。」という話を聞き
   ましたが、そのとおりと思います。やっぱり私の理想とする治療院は自分自身が通院したいと思える治療院かな。

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  現代医学の投薬中心の治療への疑問

   当たり前のように病医院で行われている投薬や注射ですが、臨床で多くの患者さんを診ていると疾患によっては
   投薬や注射によって悪化や進行させられているのでは? という思いがありました。以前は感覚的に感じるもの
   だったのですが、最近は当院でも根拠あるデータが揃ってきていて、病気や症状によっては病医院での投薬や
   注射が悪化や進行の原因になっている可能性もあるようです。現代医学の薬物治療は多くの病気を克服し、
   20世紀以降の人の平均寿命を延ばしたことに疑う余地はありませんが、現在行われている様々な薬物治療が
   患者さんにとって必ずしも有益とは限らないと思います。詳細は今後さらに臨床データを集め各種の学術大会等を
   通して発表していきたいと考えています。

  現代医学での薬物治療の目的と使われ方

   薬は様々な疾患や症状に対して用いられていますが、@投薬により疾患の治癒を目的とするもの、A疾患に伴う
   症状を抑えQOL(生活の質)を向上させる、B予測される疾患や症状を予防する目的、C原因不明の症状を改善
   するもの、等が挙げられると思います。@は例えば結核治療薬=硫酸ストレプトマイシン(ストマイ)等が古くから
   あります。Aはパーキンソン病に対するL-ドーパ、アトピー性皮膚炎に対するプレドニゾロン(合成副腎皮質ホル
   モン)等、Bは服薬の副作用を抑える胃薬や高血圧症や高脂血症改善薬、Cは睡眠薬や精神安定剤等が挙げ
   られます。多くの場合、薬物は主にこれらの目的を一つ以上持って処方され、慢性疾患ほど複数の薬が処方される
   傾向があります。(@〜Cは便宜上の区分で、定められた医薬品の区分ではありません)

   @に関しては疾患の治癒を目的としており、確定診断がついている場合は必要性のある処方です。しかしながら
   ABCに関しては必要に応じて処方されるべき薬剤ですが、常用することで副作用や服薬量が増えていく場合も
   多く、「症状を抑えられれば良い」というように安易に処方されている可能性が無いわけではありません。当院で
   患者さんから聞く「医師に新たな症状を訴える度に、新しい薬が増えていくから言わない」というのは笑えない
   話です。

   本物の治療とは、患者さんから疾患が生じた原因をできる限り把握し、疾患や症状を抑えるために必要な治療や
   指導を行い実際に効果を上げることです。さらに慢性疾患でも症状は改善しつつ、服薬量や針灸治療の頻度等が
   減っていくことが本来の治療の姿のはずです。服薬や私の針灸治療からも離れられなければ治癒とは言えません。
   針灸治療でもあてはまるのですが、本当に良くなっていれば通院する間隔を空けたり、「もう来なくても大丈夫」と
   言ってくれるのが、本物の治療をしている治療院と思って下さい。    

  パーキンソン病に対するL-ドーパ

   パーキンソン病に対するL-ドーパ投与は一般的に行われている治療法ですが、この病気は10年以上という長い
   時間をかけて進行し、日常生活全てで介助が必要になっていく病気です。進行に伴いL-ドーパの薬効時間が
   短縮するために投薬量が増え、様々な副作用に悩まされてくことになります。私は針灸治療によって症状の改善
   だけでなく、L-ドーパの薬効時間が延長すればL-ドーパを減らせる可能性があり、科学的にも根拠がある上に
   患者さん自身が納得できる本物の治療になると考えました。患者さんは自分の薬効時間は良く判っているので、
   治療毎に継続して記録したところ確実に延長していました。諸症状の改善に加えて現在当院で治療中の全ての
   患者さんでL-ドーパの薬効時間延長を確認しています。

   そして当院で最初にパーキンソン病治療に来院された、ある患者さんは1年半余りの時間をかけてL-ドーパの量を
   漸減し、ついにL-ドーパは不要になりました。針灸治療の頻度も減らしています。症状が全て消失しているのでは
   ありませんが、患者さん自身の努力もあって服薬は全く無しで済んでしまっています。ここまで改善する例は稀と
   思われますが、そもそも針灸治療は薬物ではないのでL-ドーパの代わりにはならないはずで、そうだとすると
   パーキンソン病に対して処方されるL-ドーパは、安易に増量され過ぎているという他に説明のしようがありません。
   そして不用意に増量されたL-ドーパが症状の進行を加速させている疑いすらあります。本当は怖い現代医学(笑)
   といったところでしょうか。なお病歴や症状の重さ、投薬量によって改善は様々です。針灸治療によって全ての方で
   L-ドーパ不要が実現できるということではありません。

  他の疾患や症状でも

   パーキンソン病に限らず同じような例は少なからずあります。アトピー性皮膚炎に対するプレドニゾロン(合成副腎
   皮質ホルモン)も塗り続けるだけでなく、痒くなると痒みの症状を抑えるために塗り、痒みが治まると塗らなくなると
   いう不規則な使用方法が繰り返されることでも悪化していると思われます。便秘薬等の症状改善薬でも同じことで、
   生体が薬に依存してしまうことで本来の機能が損なわれていきます。これらの症状改善薬は針灸治療を続けていく
   うちに、いつの間にか必要なくなる場合が結構多くあります。

   現代医学での整形外科分野の疾患・症状の治療は、他の医療分野と比較し治療効果の面で立ち遅れているのが
   現実なのですが、例えば五十肩で整形外科で出される湿布薬を半年以上貼って全く改善されなかったものが、
   一度の針灸治療と湿布薬を止めるよう指導しただけで概ね治癒の状態になったという、湿布薬が患部を冷やす
   ことで血行を悪くし自然な回復を妨げていたと思われる例もあります。当院で針灸治療をされる患者さんの多くで、
   こうした薬が不要になっていくのは針灸の効果とも言えますが、本当は不必要な薬を飲まされ続けていたのでは
   ないかという場合も多く見受けられるのです。

  本物の治療をしていくために  

   何かしら症状がある場合に、基本的に医療機関を受診するのは当然のことです。現代医学は診断・検査の分野で
   基本的に他の方法(東洋医学を含む)よりも優れているのは明らかです。しかし薬物の問題に見られるよう、肝腎の
   治療方法に関しては必ずしも適切とは言い難い場合が少なからずあります。特に慢性疾患の病名が付いた時は
   耐え難い症状を当面取り除くような薬物を除き、処方された薬の説明を良く読んで、薬以外の治療方法は無いかを
   よく検討してから使用すべきです。少しでも納得いかない場合は別の医師はもちろん、私たち鍼灸師のような現代
   医学とは異なった診断・治療法を用いる専門家の意見を聞くのも良いと思います。できれば良い病院探しとともに
   近くの良い治療院を見つけておくと良いでしょう。

   既に慢性疾患の治療のために多くの薬を内服されている方は、現在の薬を自己判断で止めることは非常に危険
   です。リバウンドや悪性症候群という副作用以上に怖い症状が出てしまうことがあります。飲んでいる薬を安全に
   減らす方法は医師等の専門家の指示に従う以外に方法はありません。まだまだ少数ですが、最近では患者さんの
   希望に少しでも耳を傾けてくれる医師もあり、慢性疾患の症状を維持するだけの治療方法から薬を減らして本物の
   治癒に少しでも近づく治療へと転換できた方もあります。慢性疾患では現在の治療を一度見直してみるのも良いと
   思います。ただし病気の弱みにつけ込む高価な治療法や、一見もっともらしい怪しげな健康食品には要注意です。
   ↓の鍼灸治療の適正な料金設定を考えるにも書きましたが、「高いから良い」は疑ってかかった方が安全です。

   今回は現代医学に批判的な内容になっていますが、私は基本的には科学的根拠のある現代医学が医療の中心に
   あるべきという考えです。しかし現実は政治や製薬メーカー等の意向が医療現場に色濃く反映され、本来あるべき
   「人のための医療」が歪められていることを、一人の臨床家の立場から日々感じています。私は医療の中心である
   現代医学とは異なった視点から今後も医療を考え、針灸治療という立場から実践していきたいと思います。

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鍼灸治療の適正な料金設定を考える

   数多くの治療院がHPを持つようになり、様々な情報がネット上で集められる時代になりました。治療院を探される
   患者さんにとってだけでなく、鍼灸師の側からも全国の治療院の情報を集めて参考にさせていただく事もあります。
   私のような同業者がプロの視点で他院のHPを見る場合、内容にもよりますが少し読めば概ね治療者がどんな方か
   分かります。治療効果に疑問を持つような内容も時々目にするのですが、誰の目にもはっきりしていることに治療
   料金が挙げられます。この話、自由診療の鍼灸業界ではタブーなのですが、敢えて小話として取り上げてみます。
   もちろん極端な話、1回の治療代が無料でも、たとえ100.000円以上でもかまわないのが自由診療です。ですから
   特定の治療院をやり玉に挙げているのではありません。適正な料金設定を考えるきっかけになれば、という話です。   

  他業種から医療関連までを参考にしてみる

   国家資格をはじめ、様々な技術の一般的な料金を調べてみました。(あくまで例で、平均的な金額に近いと思います)
   弁護士相談料 1時間10.000円(日弁連弁護士)、理容料金 1回3.700円(理容店の例)、自動車部品取り付け工賃 
   1時間6.000円(ディーラー基本料金)、自動車学校技能教習料金 1時限4.930円(普通車・教習追加料金の例)、
   歯科自由診療 1回7.000円〜31.500円(歯周病治療の例)、医科自由診療(東洋医学) 40分1回7.000円(再診療
   +治療費の例)、病院の自費診療 健康保険点数×12円で算定(保険証の無い方)、獣医診療代 1回5.000円
   〜15.000円(中型犬の一般的な診察・検査・投薬含む)、接骨院の自費診療 30分3.000円(柔整師による整体治療)

   ※技術料金を参考にする目的でHPから簡単に調べたもので、根拠あるデータでないものもあり、単純な比較はできないことをお断りします。

   業種によって様々な料金がありますね。どこから考えたら良いか書いている私が判らなくなってきます。数字を
   眺めてみると、ここに挙げた理容料金、工賃、教習料金、自費接骨院は1時間当たりの単価は約6.000円前後に
   なりそうです。また、医師(歯・獣含む)、弁護士は1時間当たり約10.000円あたりが相場に感じられます。この数字は
   1人の有資格者や技師が1時間付きっきりで仕事をする場合の技術料となり、他に成功報酬や物品販売、検査や
   薬剤費が入ってきます。他業種の相場から鍼灸師の技術料相場を考えると、1時間当たり6.000円前後という数字が
   浮かび上がってきそうです。1人で付きっきりになるマッサージ料金も1時間6.000円というのが一般の相場です。   

  針灸院でかかる経費から考えてみる

   針灸院で必要になる経費は、固定費(家賃等)、人件費(雇っている場合)、維持費(水道、光熱、機器レンタル料等)、
   消耗品費(針・艾・綿花・消毒液等)に大まかに分けられます。(税制上の正確な区分ではありません) この中から
   1回あたりの治療費に組み込むべき費用は一般に消耗品費となります。立地条件等で家賃が非常に高い場合には
   上乗せがあっても良いと思います。

   消耗品費ですが一般に多用されている針はディスポ針で1本15円程度まで、灸はカマヤミニで1個12円程度です。
   綿花や消毒液、ディスポシーツ等を入れても1回当たり1.000円を超えることは無いと思います。これに前述の技術
   料金を加えると1人当たりの単価が計算できます。例えば千秋針灸院では1時間当たり2人の患者さんを診療できる
   ので、30分当たり3.000円に消耗品費1.000円を加えた額が概ね適正な料金設定と考えられます。つまり4.000円。

   1時間に1人の患者さんのみを集中して治療する方法なら1時間あたり6.000円に1.000円を加えた7.000円が相場と
   いうことでしょうか。同じように1時間3人(占有20分)なら2.000円+1.000円の3.000円、4人(占有15分)なら1.500円
   +1.000円の2.500円、5人(占有12分)なら1.200円+1.000円で2.200円、6人(占有10分)なら1.000円+1.000円の
   2.000円という計算になります。この計算は治療者がひとりの場合の机上の空論ですが面白いですね。   

   とても大雑把な計算ですが、様々な実際の治療院の料金を調べてみると、結構当てはまっているようです。この
   ことから1人の治療者が1時間に同時に2人程度を治療する一般的な治療院の料金は4.000円前後のはずです。
   1時間に1人のみを治療する治療院の料金は7.000円前後というのも結構現実的にある数字です。町中で家賃が
   数十万というような場所ではもう少し上乗せが必要かもしれません。この金額から大きく外れる治療院は、恐らく
   料金設定が高過ぎる(儲け過ぎ、経費のかけ過ぎ、経営努力の不足等の問題)、または安過ぎる(儲けが出ない、
   経費をかけ無さ過ぎ等の問題) と、いうことでしょうか。安くできるのは経営努力という見方もできるでしょう。

  平均的な家計から考えてみる

   平成16年度の全国の勤労者世帯での1ヶ月当たりの収入と支出から考えてみます。(総務庁・統計局データ)
   平均46.4歳、世帯人員3.48人の1ヶ月の収入は実収入が530.028円、保健医療費は11.531円となっています。
   保健医療費は医療機関の窓口で払う一部負担金や医療用品、器具、医薬品、サプリメント等を含んでおり、
   もちろん針灸院にかかる費用も含まれています。一般的な家庭で使える医療費は思ったより低いことがよく
   分かります。別の調査で鍼灸治療院にかかる際に期待されている費用は1回あたり2.000円前後というデータが
   あります。仮に2.000円なら毎週1回として、1ヶ月に8.000円〜10.000円です。家計調査と整合性がありますね。

   治療院の側から見ると1回の単価が2.000円という数字は、充分な治療を行おうという場合は、あまりにも厳しい
   数字です。しかし、1回4.000円の治療費なら毎週1回で16.000円〜20.000円、2回なら32.000円〜40.000円です。
   病気の治療ということで必要な費用とは言っても、一般的な家庭で使える1ヶ月の費用は高くて20.000円程度
   までと思います。逆の見方をすれば、この範囲で治療できない治療院は通う選択肢から外れることになります。
   家計から見ると、自由診療の針灸院の料金は間違いなく「高過ぎる」ということが言えると思います。

  まとめ 

   鍼灸治療は充分な治療効果を出すためには、最低でも週に1回以上の治療が必要な性質の治療法です。
   できれば状態の悪い時期は週に2回以上行いたいのが本音です。隔週1回では状態の維持がやっとです。
   臨床現場で経験を積まれた一定水準の鍼灸師なら、誰もが納得していただける話と思います。治療を開始した
   初期に必要な治療回数を重ねるのはやむを得ないことですが、自由だからといってどんな料金を付けても良い
   ものではないし、必要も無いのにいつまでも治療を長引かせて負担を強いるのは、患者さんの立場に立った
   治療者ではなく完全なビジネスです。やたらと高価で「○○に、この□□が効く」という健康食品と変わりません。
   
   平成17年度中には病医院での鍼灸治療が徐々に開始され、内容は鍼灸専業治療院にとっては大きな脅威には
   ならないと考えていますが、料金設定については数百円〜数千円が予想され、現在利用されている患者さんを
   含めて比較されるのは間違いありません。この時に内容にもよりますが、1時間単価で10.000円以上もする治療が
   果たして必要とされる治療でしょうか。自由診療の業界ですし、選択されるのは患者さんなので問題は無いという
   同業者の声も聞こえてきそうですが、新しく開業される方や、「患者さんが来ない」と嘆かれる治療院では、一度
   こうした面を見つめ直すと良いかもしれません。対象疾患は限られますが、保険(療養費)を扱うのも経営努力の
   ひとつと思います。私自身も含めて、国民に必要とされる鍼灸師でありたいものです。 

   今回はタブーとされる内容を結構はっきりと書いてしまいました。久しぶりに他院のHPをいろいろと回って刺激を
   受けたのもあるのですが、無資格(国家資格)の整体院や怪しげな治療、健康食品関連ばかりでなく、鍼灸師の
   ような有資格者が誇大にHPで宣伝していたりするケースも目立ち、どのような観点から説明すべきかという点で
   治療代から書いてみました。自由診療の鍼灸治療にも適正と思われる料金の考え方があり、治療代が高いから
   内容が優れていることでは無いということを知っていただきたいものです。

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いよいよ始まる病医院での鍼灸治療と開業鍼灸師

   2004年末に厚労省が病医院での鍼灸治療の混合診療の可否を検討し、いよいよ病医院での鍼灸治療の開始が
   現実味を帯びてきました。病医院での鍼灸治療が患者さんにとってどんな内容になるのか、私達鍼灸師にとって
   どういう意味を持つのか等を考え、鍼灸治療の将来の姿を垣間見てみたいと思います。

   厚労省は平成17年度中に全国対応になることを明言しています。 

  病医院で始まる鍼灸治療

   全国の病医院で鍼灸治療が混合診療として認められることは時間の問題となっています。つまり医療機関の中で
   実費での鍼灸治療が受けられることになります。治療の対象とされる疾患は自由診療のため、医師が治療効果を
   認める全ての疾患になります。治療費に関しては内容により数百円〜数千円が予想され、既存の開業治療院の
   数分の一の料金設定と思われます。治療内容は多くは針のみ(艾を使った灸はなし)で、主に整形外科疾患で局所
   治療中心となりそうです。針灸専門治療院のように広範囲に渡る疾患を治療対象とする医療機関も出てくるとは
   思われますが、ごく僅かでしょう。    

   患者さんにとっては自由診療とはいえ安価に、また医師の管理下で安心(?)な鍼灸治療を受けられることになり、
   医療機関で鍼灸治療を受ける機会は大幅に増えることが予想されます。しかし実際に多くの医療機関で行われる
   鍼灸治療は対象疾患や範囲、治療にかけられる時間は制限されてきます。鍼灸治療を専門にしてきた私達から
   見ると、これまでの整形外科でのマッサージや牽引、電気療法よりは治療効果が上がるものの、とても患者さんの
   多様な症状に幅広く対応できる内容は望めないだろうと予想しています。

  鍼灸師にとっての意味

   医療機関で実際に鍼灸治療を行うのは当面は鍼灸師が担当することになります。規制緩和で鍼灸師は増加する
   一方ですが研修や就職先が無く、臨床経験を積む場が皆無に近い現状は改善されることでしょう。ただし現在、
   近い立場にあるマッサージ師が医療機関内で低い立場にあることを考えると、かなり厳しい労働条件になると
   思われます。また当面と書いたのは、鍼灸師の業務範囲が曖昧なまま医療機関での鍼灸治療が開始されてしまう
   場合には、理学療法士や看護師に仕事を奪われる可能性が出てきます。解剖学をはじめ現代医学の知識量は
   元々鍼灸師を上回っており、看護師では注射針が鍼に置き換わるだけで痛み等の症状のある部位を治療できる
   ことになります。鍼灸師以外の資格による鍼灸治療も、医師の管理下での治療となるため、現状では何ら問題に
   なる可能性は低いでしょう。鍼灸師の雇用拡大に繋がる一方で、雇用されなくなる可能性も秘めています。

   多くの開業治療院にとって、治療対象は整形外科系疾患が中心となっているため、間違いなく大きな影響がある
   はずです。また保険(療養費)の取り扱いをしている治療院は、鍼灸治療を行う医療機関からは基本的に同意書は
   出なくなります。医療機関内での鍼灸・マッサージ治療が可能になると、内容・効果・料金で大差の無い治療院は
   存在する理由がなくなってしまいます。既存の治療院が淘汰される一方、新規開業は医療機関内で行われる
   以上の内容でなくてはならず、遥かにハードルは高くなるでしょう。   

  開業鍼灸師に求められる将来像

   では、存在する理由のある治療院は何か、と考えると実は簡単な話で、内容・効果・料金で医療機関に差を付け
   られる治療院が残っていくことになるはずです。

   内容なら鍼灸・マッサージにこだわらず、自分が正しいと思えるなら積極的に新しい治療法を取り入れ、流れに
   乗るのも方法です。また私のように頑固に針灸専業にこだわるのも方法です。医療機関では行われないような
   専門的な治療内容にしていくことです。もちろん治療院内の衛生や設備等の整備は、それ以前の問題です。

   整形外科系疾患への鍼灸治療が一般に広く浸透した場合に鍼灸治療に期待されることは、整形外科分野以外の
   例えば現代医学での難病に対しての治療や、難易度の高い整形外科系疾患での治療効果ということになるかと
   思います。治療効果はこれまでも書いてきた通り、患者さんが納得できる基準づくりや目標の設定が必要です。

   技術の対価としての適正な料金設定は難しいものですが、恐らく現状の治療費は高すぎると思われます。鍼灸
   治療が一般に広く浸透した場合、整形外科分野以外への期待や現代医学で難易度の高い疾患への適用という
   ニーズは生じるものと思われますが、治療費が高すぎては新しいニーズも消えてしまいます。治療者の生活も
   かかっていますが、自分自身が治療に支払える常識的な料金を考えてみて下さい。医療機関の自由診療での
   鍼灸治療はかなり常識的な料金が設定されるはずで、割高に感じられる治療院はいずれ淘汰されると思います。

   病医院内での鍼灸治療解禁が間近に迫っていますが、実際に始まってみないと分からない部分も多いです。
   開業して成功している治療院でも近所に鍼灸の効果や適応範囲を認めて、積極的に取り入れようとする医院が
   出てこれば大きな影響を受けますし、付近に興味を持つ医師が全く無い場合には影響は皆無かもしれません。
   地域によって大きな違いが出てくることも予想されます。どちらにしても鍼灸治療が広く認知され、これまで以上に
   高いレベルで内容を競うことになりそうで、治療方法の選択肢や鍼灸治療の水準が上がることで患者さんにとって
   良い方向に向かうことを願いたいですね。
   ※療養費をはじめ関係法規等は今後変化する可能性もあります。

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治療者から見た「治る患者さん」「治らない患者さん」

   このページを見ていただいている方は、以前にどこかで鍼灸治療を受けられた経験のある方も多いと思い
   ますが、鍼灸治療の効果の実際については、「良く効いた」という方と「あまり効かなかった」という方、いろいろな
   感想を持っておられると思います。もちろん治療者の技術や方法、内容も大きく関係してくるのはもちろんですが、
   今回は治療者から見た「治る患者さん」「治らない患者さん」ということで、治療効果の実際を書いてみたいと
   思います。


 
病気を治療するということ

   治療院に訪れる患者さんの初診時の状態は様々ですが、
仮に病気というのを「病気になった樹」を考えてみて
   下さい。正常な樹は大地に根を張り、枝・葉を積極的に伸ばして大きくなります。しかし病気になると葉を落とし
   たり、根がぐらついて傾いたりし、最後には枯れ死したり倒れてしまいます。全ての医療は様々な方法でこう
   いった状態を治していくものです。例えば現代医学の投薬は農薬を撒くようなものかもしれません。漢方薬は
   植物エキス剤(活力剤)、鍼灸や按摩・マッサージ・指圧・整体等は剪定や傾きを矯正するような治療かもしれ
   ません。農薬に悪い印象を持つ方もあるでしょうが、症状によっては農薬が必須となる場合は当然あります。

   病気を「傾きかけた樹」ととらえると、傾き加減によって大きな力や必要な治療の間隔、回数、時間もかかります。
   ですが、忙しい現代では傾きかけているにも関わらず、様々な理由で必要な治療が出来ない場合が多いのです。
   理由は「仕事に忙しい」「経済的に難しい」「遠方で通えない」等が主な理由と思います。時には「お酒やタバコが
   止められない」という場合もあるでしょう。治療者側からみると、こういった制約があると、現代医学的な治療や
   漢方薬、鍼灸治療に関わらず治療効果は上がりにくくなってしまいます。恐らく医療に関わる全ての方に共通
   する意見と思います。   

 千秋針灸院での治療効果の実際

   千秋針灸院の場合は病気や症状の重さにもよりますが、多くの場合で最初は週に2〜3回程度の来院をお願い
   しています。その後、状態が改善して少し間隔を空けても大丈夫な状態になると週に1度、各週1度と治療間隔を
   広げていき最後には終了となります。仕事等で症状の原因が継続して生じる患者さんの場合(例えば腰痛)は
   良好な状態を保つ治療間隔(週1回〜隔週1回程度や悪くなった時のみ治療)を維持する場合もあります。
   状態は患者さんの自覚症状や、VASや舌・脈診、理学検査やデジカメ写真等の他覚所見で継続的に捉えて
   判断しています。基本的に良くなれば全ての治療から離れるべきという方針で進めていますので、健康維持の
   ために来院されているという方はあまりありません。

   治療効果が現れはじめる時期は、疲労性の腰痛や整形外科系の軽度の症状では1回〜数回、ヘルニア等の
   慢性化した整形外科系疾患や内科系疾患では数回〜長くて数ヶ月といったところです。3ヶ月以上続けて
   充分な効果が上がらない場合には、針灸では不適応といっても良いでしょう。針灸治療には即効性もあるの
   ですが、継続した治療により時期が来ると急に回復し始めるケースも数多くあります。難治とされるヘルニアや
   黄斑変性に代表される眼疾患、内科の自己免疫疾患等はこのパターンで回復する場合が結構多くあります。
   人間の体も回復する為のパワーを貯めていく時間が必要なようです。 

   私も針灸治療を行う側として、上に挙げた制約と治療効果の実際を考えてみたのですが、実際上記のような
   制約が無く、概ね必要な治療間隔で治療を続けられたケースでは、8〜9割の方で患者さん自身が納得される
   治療効果が出ています。(当院はいわゆる難病の方も多く、全ての方が完治しているわけではありません。)
   しかし治療上の制約が多く、必要な間隔で治療が行えない方では、5割程の患者さんにしか充分な治療効果が
   出てこないようです。ここまではっきりと治療効果が分かれてしまうと、上に挙げた制約をどうやって取り除いて
   いくかが非常に大きな問題になることがよく判ります。    

 治療院の選び方

   まず「忙しく時間が取れない」場合は治療院までの距離とも関係しますが、患者さん自身が病気や症状の重さを
   考えて時間を取ってもらう他に方法はありません。仕事と体をどう考えるのかは患者さんの価値観次第です。
   「治療者からの指示を守れない」場合も同じです。一般に普通に守れない指示を出すことはありません。

   「経済的に難しい」については、針灸治療に関して対象となる疾患が限られてはいますが健康保険法で療養費と
   して基準が定められています。本当は全ての治療院で健康保険(療養費)の扱いがあって欲しいのですが、
   現実には高額の実費のために、治療を受けたくても受けられない患者さんも多く残念なことです。保険の取り
   扱いは手続きにやや面倒な部分があるのですが、患者さんのために経営努力として取り扱って欲しいものです。
   
   「遠方で通えない」については、遠方の方には私も情報を集めて良い治療院を紹介するように努めています。
   最初は週に2〜3回程度の来院をお願いするので、遠方のため来院が難しい方には可能な限り近くの治療院に
   通われるようお勧めしています。ある程度の治療水準や内容があれば、治療効果は大きくは変わりません。
   別の場所にも書きましたが、「遠くの大先生より、近くで評判の良い治療院」へ続けて通う方が賢明です。

   また内科系の疾患などで必要な方には体質に合った漢方薬(中薬)のアドバイスをする場合があります。針灸と
   漢方薬は同じ中医学上の治療法なので診断法はほぼ同じです。私は漢方薬の専門家ではありませんので、
   ベストな選択はできませんが、ベターな選択は可能です。医師に保険で処方してもらえる漢方製剤でも一定の
   効果は期待できますので、週に1回程度の針灸治療と漢方薬で大きく改善しているケースもあります。
   ただし漢方薬の知識は全ての鍼灸師に共通するものではないし、法律上も処方はできませんので、実際の
   内服等は医師や薬剤師の指示に従って下さい。私自身もかなり慎重に選ぶようにしています。

   本当は治療効果の実際は、各疾患ごとに別のページで書いていこうと考えていたのですが、いろいろと忙しく
   なってしまったこともあって今回は概略だけになりました。各疾患ごとの実際についてはいずれ書いていきたいと
   思っています。針灸治療は決して万能ではありませんが、病気や症状によっては他の治療法に比べて非常に
   優れている場合も多くあります。今回は私も治療家として「治るべき方は治っていただきたい」という思いから
   書いてみました。これから治療院を探される方は、まずは時間や距離・費用から「充分に通えるかどうか」から
   選んでいただけたらと思います。
探し当てた治療者との出会いが良いものであると良いですね。
   ところで植物の話...病気の治療や大きく傾いた樹は起こすのが大変なので例えてみましたが...説明が難しい(笑)

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日鍼会の主張と鍼灸業界の未来を考える

   日鍼会の会報で、某団体(?)が、あはき法19条にあるよう、視覚障害者保護の為に、マッサージ師だけでなく、
   鍼灸師も際限の無い定員増に歯止めをかけるよう国会へ請願中ということが載ってました。日鍼会としては、
   定員増に制約を設けることに反対する逆請願を行うそうですが、果たしてどうでしょうか。

   様々な立場から賛成・反対という意見があると思いますが、私は最近の定員増に問題があるとは、あまり思え
   ません。定員増で問題になるのは、@急に新設校が増えた為、指導する側の人数・技術が追いつかないこと。
   A免許取得者の研修先等の受け皿があまりにも少ないこと。B免許取得者の増加により視覚障害者も含めて
   過当競争になること。等が挙げられると思います。

   @については、ある程度時間が解決することになります。新設校の定員割れの現状を見ても、無制限に養成
   施設が増え続ける訳はありません。養成学校自体も淘汰される時期が必ずやって来ます。
   Aについては、現在最大の問題です。開業鍼灸師の現状は経営方法にもよりますが、多くの人を雇って診療を
   行うだけの規模は普通ありません。病医院での鍼灸導入に期待もありますが、健康保険制度の問題もあり、
   現在までのところ未知数です。
   Bについては、過当競争によって技術・経営努力ができない鍼灸師は淘汰されることになります。ただ現状で
   気になるのは、悪質な広告や経営で、鍼灸そのものの社会的な評価を低下させかねない方が出てこないかと
   いうことです。また過当競争は行き過ぎると問題のある手抜き〔衛生上等〕が行われかねない危険があります。
   現在でも、針はディスポ(使い捨て)でも、鍼管やシャーレは滅菌さえせずに使いまわしていたり...という一部の
   現実が更に加速する恐れがあります。

   これらを踏まえて大きな話になりますが、この結論は日本の鍼灸医療の未来をどう作っていくかということに
   繋がってきます。鍼灸医療が誰にとっての利益になるのかということです。私は国民・社会の利益にかなう事が
   第一と考えますので、某団体の請願も日鍼会の主張も、そのままでは役不足と思います。視覚障害者の利益
   のみを主張するのは前時代的な発想で、さらに言えば背後に過当競争の抑制 = 現開業者の保護という目的が
   透けて見えます。日鍼会の主張は正論ですが、定員増を認めたところで業界の多くの問題を解決することは
   できません。   

   中国や米国の現状を見てみると、医療業界は医師も含めて国家資格は既に更新制の時代に入っています。
   米国では数年間の単位で必要な講習数を受けない場合は免許を失効します。中国でも統一国家試験が始まり
   ましたが、数年間隔での再試験をクリアできない場合は免許を失います。日本の場合は医療業界で事実上の
   頂点である医師免許が生涯免許で鍼灸師免許もそれに習っています。自動車免許すら更新制なのに...です。
   医療業界も新しい医学情報や安全情報は次々に出てきていますので、必要な知識や技能を維持していくことは
   本来必要なことと思います。ただ中国式に再試験となると、昨日まで診療していた治療院がいきなり閉店という
   問題も出てきますので、米国式の講習・単位制が妥当かと思います。

   実は医師の世界では国家免許とは別に専門医制が普及しつつあります。これは先に挙げた米国式で、○○
   専門医という名称を基準を満たした医師だけが使えるというものです。臨床検査技師他の国家資格でも徐々に
   一般化しており、病医院での就職や仕事の内容に反映しつつあります。日本の免許制度は生涯免許という
   問題を少しでも解消しようという試みです。就職や看板に関わることなので、積極的に講習が行われています。 

   ただ開業権のある鍼灸師の世界は一筋縄ではいきません。どんなに不勉強な鍼灸師でも治せる方はあるし、
   どれだけ勉強して肩書きがあっても治せない方はあるものです。臨床に触れるほどに感じることですが、人の
   体を治すということは大変奥が深く、未知の部分があまりにも多いものです。これを実感している鍼灸師ほど、
   単なる技術・知識の講習が臨床に結びつかないか分かってしまっている部分があります。ただこういった現実を
   理解した上で必要な講習制度を、治療に関わる者の義務として半ば強制的にでも作っていくしかありません。

   また国民・社会の期待というと、治療水準もさることながら現状ほとんど実費となっている治療代についても、
   健康保険で賄えるものになって欲しいものです。ある調査で、鍼灸治療に期待する1回の治療費の平均は
   約2.000円前後ということです。私の所(3.000円)も含めて期待される金額には程遠いのが現実でしょう。
   日鍼会は会員の実費治療の全国平均の半額である1.800円程度〔現在2術1.490円〕を請願していくそうです。
   この金額が妥当かどうかは別として、先の講習制度や衛生基準等を完全に満たした治療院には、医師の同意
   不要で健康保険を使える治療院としてはどうでしょうか。国家資格はあって開業権はもっていても、普通に
   健康保険が使えない治療院は、余程の技術がなければ自然に淘汰されます。病医院や接骨院で保険が
   使えない所がほとんど無いのはそのためです。健康保険が使えることが一定水準の確保にも繋がる訳です。

   理想論ばかりの話になってしまいましたが、無資格者や悪質な治療院がはびこり問題が大きくなる中で、
   国民・社会の利益を目的とした法制度を一日でも早く確立して欲しいと思うこのごろです。

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治療者においての得手不得手〔千秋針灸院開業3周年〕

今年からの私個人の目標でもあるのですが、資格を取得して実際の治療を始めると治療者ごとに得意または
不得意の疾患が出てきます。臨床の経験が増えれば増えるほど自分の現在の実力が判ってくるものです。
もっと膨大な臨床経験を積み、努力を重ねた先生ならば、「得手不得手」はなくなるのかもしれません。しかし
私を含め多くの治療者は発展途上であり、日々患者さんの診療にあたりながら患者さんから多くを学ばせて
いただいていると思います。何故「得手不得手」が出来てくるのか、というのが今回のテーマです。

経験から生じる「得手不得手」
実際に治療に携わるようになると、様々な疾患や症状のある患者さんを診療していくことになります。その際に
治療経験の有無は大変重要になります。例えば五十肩ひとつとっても、発症初期から症状の重い時期、軽快
していく過程の時期があります。患者さんの現在の状態を的確に捉えて必要な治療方法を行ったり、適切な
治療間隔を設定することが大切です。未経験の疾患や症状に対しては、似た症状や疾患に準じて治療を行う
ことになります。場合によっては手探りに近い状態になりますが、これも臨床経験の長さがモノをいいます。
ひととおりの疾患や症状を診るためには延べ30.000症例が必要と聞いたことがあります。

治療方法から生じる「得手不得手」
鍼灸にはさまざまな流派があり、臨床の実際も様々です。一般に患部周辺の局所を重視する現代医学的な
治療法は整形外科的な疾患に強く、内科的な疾患や不定愁訴は不得手です。また解剖学的な内容よりも
経絡を重視する伝統的な治療法は内科的な疾患や不定愁訴には強く、整形外科的な疾患は不得手でしょう。
もちろん治療者の水準が大きく関わることですが、治療方法による得手不得手は確かにあります。これを
解消しようと複数の治療法を併せて用いる場合は、本来の治療結果が得られにくくなる弱点もあります。

学習から生じる「得手不得手」
鍼灸師は国家資格を取得する為に専門学校等を卒業していますが、国家資格を持っているというだけでは、
自動車免許の取りたてと同じく臨床ではほとんど役に立ちません。鍼灸師として仕事をしていくための最低限の
基礎やルールを身に付けているだけです。大切なのは卒業後も臨床と共に勉強を続けることなのですが、
卒業後の勉強は臨床と直結してくるため、どうしても個人の好き嫌いが出てしまいます。興味を持って追求した
内容や治療に長けてくるのは当然でしょう。

治療者自身から生じる「得手不得手」
治療者自身の性格等も実際の臨床に関係してきます。舌診・脈診・問診・各種テスト法等、治療には様々な
確認事項があり、証立て〔見立て〕や手技等の治療の実際があるのですが、大変細かく見ていく方、ある程度
ポイントは押さえつつ大雑把に捉える方、そもそも治療法が一律の為、関係無いとする方等いろいろあります。
やはりそれぞれ弱点があり、全体像を捉えにくかったり、大切なことを見落としたり、一律の治療法では疾患や
症状ごとに対しての得手不得手が激しくなるでしょう。
また、多くの治療者は臨床経験から自分の得手不得手を知っているものです。良好な結果が出ている疾患に
対しては自信を持って治療ができます。治療者のこうした性格や姿勢も結果となって出てくるものです。

開業してからの「得手不得手」
これから開業する方はまだ分からないかもしれませんが、開業は全て治療者の思いどうりに治療ができるとは
限りません。疾患や症状によって必要な治療は変わってくるのですが、ある程度治療時間や内容に制限を
かけないと日々の診療はできません。1人の患者さんの治療中には次の患者さんも待っている訳です。この
あたりの折り合いは難しいものです。治療時間や内容は治療料金と関係してきますし、治療間隔や内容は
治療の成否や過程に関わってきます。このあたりがうまくいかないと来院される患者さんが限られたり、治療の
成果が挙がらない等して、治療者が実力を持っていても長期に渡って診療を続けていくのは難しいと思います。

治療の「得手不得手」はそれぞれが関連し合って出てくるものなので、まとまりがつかなくなってしまいましたが、
治療者ごとに確かにあるものです。これを克服する為には長期に渡って臨床経験と勉強を続けることが第一と
思います。治療方法の弱点については、治療法を改良したり、別の治療法を併せて用いたりと治療者の工夫も
必要でしょう。開業してからの診療方法の実際については新規に開業する方はよく考えておく必要があります。
千秋針灸院も3周年〔開業からは3年9ヶ月〕ということで、次のステップアップを目指していきたいと思います。

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中国に留学する意味 パートA

前回の中国に留学する意味を書いてから、はやくも2年が経ってしまいました。この間結構多くの方から
中国への直接留学の相談がありましたが、日本の鍼灸師免許を持たない方からの相談が多くありました。
既に免許を取得されている方と、持たない方では留学が成功するかを含めて大きく異なりますので、
前回の内容を補足する必要を感じています。

既に鍼灸師の方の留学

留学当時、右も左も解らなかった私を導いてくれた先生方の多くは日本の鍼灸師免許を持った方でした。
現代医学の基礎も有り、鍼灸・中薬への関心も高いので、本来見学等を許可されている施設や病院、
老師以外にも積極的にコンタクトを取って、非常に多くの内容を学ばれていました。中国語が充分に話せる
方は、自分から積極的に直接老師に質問やお願いをすることで、納得いくまで訊いていったり、手技や
時には治療までさせていただいていました。既に中国語が充分に話せる方〔医学中国語も含めて〕なら、
短期・長期問わず、自分の姿勢次第で求めているものを追求していくことは充分に可能でしょう。

中国語が充分で無い方はどうしても通訳を介することになります。この場合、老師に納得いくまで質問する
ことは難しくなります。通訳の方は様々な配慮から全てを直訳はしていません。また間違いもあります。
そうなると留学は通訳を通しての日本語と、実際目の前で行われている臨床のみしか理解できません。
3ヶ月程度までの短期留学程こうした傾向が強く、留学から多くを学ぶのは難しくなります。やむなく短期で
留学する方は、現地で長期留学の方〔迷惑でしょうが〕に様々な面で助けていただくことをお薦めします。

初めて医学に触れる方の留学

留学を目指す結構多くの方が、初めて医学に触れる〔かつての私も〕という方です。最大の難関は中国語で
しょう。一般的な会話レベルなら先に1年程度語学の大学へ留学すればOKですが、その後医学の専門用語を
中国語でマスターしながら基礎医学を身に付けなければなりません。中国語で基礎医学を身に付けるのは、
日本の鍼灸専門学校の勉強とは比較にならない難易度です。しかも中医薬大学は国立の医学部でもあるの
ですから、レベルは留学生クラスといっても相当なものです。日本の大学と違い、入学よりも卒業の方が何倍も
難しいということも考慮したほうが良いと思います。

留学して学生生活をしていると様々な誘惑もあります。よほど目的意識を持っていないと卒業はできません。
日本の鍼灸専門学校ですら、目的意識が甘く中途退学する方も結構あります。異国の地で何の制約も無く、
また勉強は非常に難しいのですから、現在まで学科卒業〔学士取得〕者が非常に少ないのは当然です。時間も
語学と大学で最低5〜6年は時間もかかります。卒業時に統一国家試験を受けられますが、この試験に合格
しても日本の鍼灸師資格は取得できません。帰国後さらに3年間、日本で勉強する必要があります。

私は実際、これだけの時間と労力、費用もかかりますので、現実問題として日本の鍼灸師資格を先に取得する
のが妥当と思われます。私も中国で仕事をするのかどうか〔実際私には仕事先も含めて選択肢がありました〕
という点から日本を選びましたので、学士取得から進修班に切り替え〔当時は許されました〕ました。これから
学士取得を目指そうという方は、本当に必要かどうかを見極める必要があります。極論かもしれませんが、
学士取得ができて日本で鍼灸師をという努力ができる方なら、迷わず日本で医師免許を目指すほうが賢明と
思われます。医師免許を取得して鍼灸治療を行うことは合法です。〔健康保険は使えませんが〕

また活躍の場を日本ではなく海外で、という方は学士取得も良い選択肢と思います。米国〔州別〕等の鍼灸師
資格取得要件には4年生大学卒以上という条件がある場合もあり、日本の鍼灸専門学校の3年間では要件を
満たせないことがあります。この件は詳しくは他のHPでお願いいたします。

共通したこと

長期留学は勉強する機会も多い反面、かなり費用もかかります。留学期間中に日本で仕事に就いていれば
幾らかでも稼げることを考えれば、年間100万円程度の留学費用だけでは済まないことも考慮すべきでしょう。
しかし、どんな留学でも誰にでも出来るようで、なかなか実際には出来ないものです。実際に留学できる
機会があるだけでも幸運なことかもしれません。中医学の勉強だけでなく、自分自身の成長や別の世界が
開けるというような評価し難い部分はきっと得られると思います。〔実際に全く別の分野で活躍されている方も
あります。〕 鍼灸師という立場や世界から目に見える損得だけでないことは確かです。

前回の補足ということで書きましたが、基本的なメリットは前回書いたそのままと思います。留学というと
様々な関係の方から、全く異なる意見が返ってくるのは仕方ありません。しかし、どうしても中国で
実際に行われている臨床に触れてみたいという方は、実際に行ってみる他、手段はありません。実際に
行った方にしか決してわからない何かがあるのも事実です。今、自分を振り返ってみると、留学の成功は
可能性に賭けた冒険みたいなものでした。ですが、現在の私なら同じ冒険は出来ないというのも本音です。

最近では学校法人 後藤学園 http://www.lifence.ac.jp/ のように、卒後に中国留学の道もあるような
中医学に力を入れている学校もあります。○○中医薬大学日本校はちょっと吟味が必要ですが...〔笑〕。

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鍼灸治療の効果判定

中医学に限らず東洋医学全般にいえることですが、治療が効果を上げているのかが、かなり分かり難い
現状があります。特に客観的な指標が出にくい痛み、痺れの感覚の変化については、私も大変苦労して
います。また針灸治療の効果も患者さん自身の病気への取り組み方〔例えば運動等〕や治療者への信頼
の程度で結構大きく変わる経験をしています。これらのことは現代医学でも、ある程度は同じ部分があるの
ですが、様々な検査機器等が発達している分、患者さんへの説得力も高いといえます。中医学等の東洋
医学も、もう少し「脈が変わった」「もう痛みはないでしょ」と、患者さんに治療効果を押し付けるのではなく、
病状の適切な説明と客観的な指標を患者さんに提示する必要があると感じています。今回は、その話です。
 

検査器具を用いた検査法

針灸院レベルでは病医院並みの高価な検査機器は経営上も免許上でも使うことはできませんが、数万円
程度までの検査器具等でも、使いこなせば結構様々な疾患を見つけたり、医師も納得させるデータを取る
ことができます。以下は千秋針灸院で使っている検査器具の一部〔ほとんど?〕です。

※※血圧計〔脈拍〕 血圧は高血圧症、脈拍はバセドウ病等の経過や中医学で疾患の寒熱の度合いを診る
※ ポータブル心電図 不整脈の度合いや種類を見分ける。6万円位で買えます。〔私は現在訓練中〕
※※角度計 五十肩をはじめ整形外科系疾患の関節可動域や痛みの出る角度を調べます。
※ 握力計 頸肩腕症候や麻痺性疾患での握力低下を診ます
※ クワドメーター〔大腿四頭筋筋力測定器〕 膝関節疾患での大腿四頭筋等の筋力を診ます
※ 視力検査表 視力を計っていきますが3m用なら狭くても大丈夫。紙製なら数百円からあります
※ 視野検査表 無料で送ってもらった物ですが、緑内障を見つけたこともありました

これらに加えて、舌診、アトピー等の皮膚炎、腫脹、麻痺、外傷等はデジタルカメラで記録していきます。
数字が出る検査についてはPC上でグラフを作って説明することもあります。長期的な変化が大切になります
ので、千秋針灸院では比較的頻繁に検査をしますが長期の傾向を重視しています。
※※
は治療院さんは少なくとも用意して欲しい器具

客観指標の難しい痛み、痺れ感覚

外から見たり感じることが出来ない痛み、痺れ感覚は客観的に診断することが難しく、ペインスケール等も
試してみましたが、患者さんにいつも付ける数字を覚えられてしまいダメでした。最近試しているのはVAS
〔Visual Analogue Scale〕です。この方法では患者さんが前回付けた位置を覚えられない為、結構効果が
はっきりと分かります。ただし、痛みの感覚は患者さんごとに基準が異なるので、他の方との数値比較は
できません。コストや検査時間も少ない為、お薦めの検査ですが、数字の変化を見ても納得されない方も
あります。〔痛みの感覚を有るか無しかのみで考えられる方や、検査の説明が理解されていない場合〕

不定愁訴や問診事項に対して

私の治療院では患者さんが気になることは全てについて問診するようにしていますので、時には数十項目
もの不定愁訴が出ることもあります。この時、例えば夜間の頻尿や痙攣発作等では回数や程度を、または
有無を簡単に記録していきます。治療効果が上がっていれば、最初の数十項目が目立って減少してきます。
長期間に渡る治療は患者さんも治療者側も効果が判然としなくなる傾向がありますので記録は重要です。

患者さんへの話し方の注意点

著名な先生にも見受けられるのですが、治療者は患者さんに「もう痛みはないね」と確認する傾向がある
ようです。治療後にこのように聞くと「ありません」「ほとんどない」と返ってきますが、「ほとんど...」は少しは
痛みが「有る」ということです。私は「痛みは残ってませんか」「ほとんどということは少し残っていますね」と
聞いていきます。患者さんを説得するのではなく、納得しててもらえる治療をしていくことが大切です。

前回の予告から時間が開いてしまいましたが、実はこの間クワドメーターの検査をやりすぎて、患者さんから
嫌われてしまったことがありました。筋力が数字ではっきりと出てしまう為に、運動等の努力が足りないと強く
患者さんに思わせてしまったのが原因でした。針灸院は病医院とは異なる良さ〔薬を使わない、全身を診る、
数字や画像で分からない痛み等の治療に優れる、等〕を求めて来院される方が多い為、その方には私の
治療院が病医院と同じように映ってしまったようです。検査も部分ばかり診ていると失敗するという例と思い
ます。針灸治療は単に技術だけの治療ではないということを肝に命じて、毎日の診療に取り組んでいます。

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古典中医学と現代中医学について

中医学という学問は、元々中国開放以後に中国共産党の指導の下で、古来からの書籍や歴史、伝わって
いる流派等を総合的に解釈し、西洋医学に並び立つ〔当時の事情〕学問として中医学院〔現中医薬大学〕で
研究され、現在も臨床に生かされ進歩を続けている学問です。日本にも国交回復以降に伝わり、最近では
世界的にも医学としての認知が高まっていて、各地に教育機関が設置されています。全く中医学に対しての
認識が白紙だったアメリカ等では、この中医学がそのまま教育として取り入れられました。しかし漢方医学等
として独自の発展をとげていた日本では、この中医学に対して様々な取り込み方が生まれました。

もちろん臨床で生かされることが大切なのですが、様々な取り込み方が学ぶ方にとっては少なからず混乱を
招いている気がします。随分偉そうな書き出しになってしまいましたが、一度中医学を整理してみようと思い
書いてみました。 中医学の詳しい生い立ちや背景は、各種の専門書に任せますのでご容赦下さい。

中国での学舎教授〔現代中医学〕と家伝師授

学舎教授とは中国人や外国人留学生が、4〜5年間の学士過程や2年以上の修士過程等、中医薬大学で
学び、付属病院等での研修を通して中医学を学んでいくものです。学ぶ内容は解剖学等の基礎医学から
中医診断学、針灸学、中薬学〔漢方薬〕といったものから、病院等では老師〔中医師〕についてカルテを写し、
患者の舌脈を診て、老師の指導を受けながらの治療を行っていくものです。日本の鍼灸師等、海外での
有資格者は基礎医学を免除され、中医学のみを学ぶこともできます。ただし当然学士は貰えませんし、統一
国家試験を受けることもできません。また、中国での中医学を未履修の場合は他国の有資格者であっても
〔医師でも〕見学程度は出来ても臨床に触れることはできません。このあたりは結構厳格です。

病院等で行われている中医学は現代医学も積極的に取り入れられています。中医学による診断のみでは
なくレントゲンやCT、血液検査はもちろんのこと、薬についても西薬〔現代医学の薬〕が選択される場合すら
あります。こうした現場を見て、中医学を学んでいる鍼灸師の方はおそらく「これが中医学なの?」と思われる
かもしれません。中医学を基本に治療しながらも現代医学からも積極的に検証し、治療効果を確実なものに
していく〔中国の現代医学治療ではその逆らしい〕のが中国での中医学です。私の場合は最初に出会った
ので当たり前に受け入れることが出来ましたが、これが「現代中医学」と批判めいて呼ばれる理由です。

家伝師授は昨年の李世珍老師のように何代にも渡る流派があり、詳しくは私も知りませんが中医学の基本
部分の中でも流派ごとに重視している考え方〔例えば子午流注とか〕があり、治療も流派ごとに洗練された
〔例えば特定の経穴を用いるとか、刺針法とか〕方法があります。私たちが先のような病院等で研修する
場合でも、それぞれの老師には診断や治療法に特徴があり、老師の得意とする治療を多少でも身に付け
られる可能性はあります。中医学は本来、家伝による主な流派をまとめたものともいえるので、中医学では
全く聞いた事のないような特殊な診断法や治療法は、臨床の場で出会うことは少ないと思われます。

日本での取り込み方〔古典中医学〕

日本では中医学に相当するような、ある程度統一された「日医学?」はありません。日本の場合は中国の
『傷寒論』、『難経』、『黄帝内経素問・霊枢』に代表される古典を基にした、いくつかの流派があります。
各流派は完成されていますが、近年中医学の影響を受けて少し変化のみえる流派も出てきたようです。
ある意味で進化なのですが、中医学をどのように捉えるかに迷い〔試行錯誤〕もあるように思えます。
また、用語も似かよっていたりするため、古典中医学〔現代中医学に対する呼称〕の講義等を聴くと、
流派ごとの考え方や背景がわからない場合、どうも噛み合わない〔お互い様と思いますが〕ところが出て
くるように思います。各派はそれぞれ古典を基に臨床を追求した立派な流派なのですが、様々な古典
中医学が同じ用語を別の意味で使っている為、初学者の方に混乱を招く結果となっている気がします。

うまくまとめるのは難しいのですが、体系づけられた中医学が机上だけでなく臨床に取り込まれ、成果を
上げることができるかどうかが重要と思います。私の治療も分類すれば「現代中医学」になると思いますが、
実際の臨床では基本を中医学に置きつつ、より効果の上がる治療法を選択する場面も多くあります。また
「効果が上がる」というのは次回に続いていくのですが、現代医学の面から見ても納得のいく判別方法で
なければ、治療者〔あるいは患者〕の思い込みに過ぎません。日本では鍼灸師にできることは限られて
いますが、少しでも客観性のある評価法を身に付ける事で、日頃の治療にも確信を持ちたいものです。

これから中医学〔針灸〕を学ぼうとする方は、ぜひ東洋医学出版社の中医学の基礎篇・経穴篇・臨床篇を
丁寧に読み込むことをお薦めします。この3部作については、ほぼ中医薬大学で使われるテキストと同じ
内容です。これを押さえた上で臨床や家伝〔流派〕へ入っていくのが、混乱が少なくて済むと思います。

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増え続ける新しい癒しの流れ

「癒し」というと、少し針灸治療とは違うと思われるかもしれません。ただ「癒し」は成熟しつつある社会では
一時的な流行ではなく、これまでの豊かなモノ社会とは異なる、新しい豊かさのキーワードの一つかも
しれません。私には最近の鍼灸マ業界にも、この新しい流れが確実に入ってきていると感じています。
しかもその流れの一定部分は、私達のような鍼灸マの有資格者が「無資格者」と呼んで見ないふりを
してきたところから出ています。私は鍼灸マの資格が不必要とは思いませんが、自由で時代に敏感な発想
に資格は必ずしも関係無い事を感じています。また、病医院等でも快適さや「癒し」を配慮した新しい動きが
始まっているようです。以下最近の「癒し」情勢を思ったまま書いてみます。 

一流デパートに入る「癒し」
首都圏等では以前からの傾向かも知れませんが、この名古屋地区でもデパートや大型スーパー等に次々
と、「癒し」のチェーン店が入ってきています。内容はマッサージ、カイロ、アロマテラピー、フットセラピー等の
手技療法、健康食品等の販売です。施術者の多くの場合、有資格者ではありません。〔1店舗に一人程度は
有資格者がいる様子〕 名古屋の松坂屋では「癒し」の専門フロアまで設けているそうで、地元テレビでも
紹介〔特集〕されたほどでした。デパートは時代の象徴を売る場ですから、こうした「癒し」が時代の流れを
象徴していることはいうまでもないでしょう。私の見た番組では資格については何も触れられませんでした。 

「癒し」の技術水準の高さ
いくらデパート等の中とはいえ、一定度の技術が無くては「癒し」を売ることはできません。そこでこうした
チェーン店では、徹底した技術指導があることを知りました。詳しくは書きませんが、テレビで番組化されて
いた売れないラーメン屋さんの修行なみであることは間違いありません。〔テレビで放送したらドラマになる
くらいの内容ですよ〕 修行期間は長くても数ヶ月程度までと短いものの、徹底した技術水準確保の為の
指導や試験は鍼灸マの専門学校と比べても、間違いなく実戦向きな内容と思われます。〔全てのチェーン
店が必ずしもこうした内容ではありません〕

「癒し」の機械を導入する病医院
鍼灸マの治療院に対して比較的資金に余裕のある接骨院や病医院では、患者さんに快適さを提供しようと
する傾向も強まってきました。鍼灸院日記にも書いたレナードエアは、某病院が大量に設置したそうですし、
ヘルストロン〔詳しくは知らないので個人的には信用していません〕等の高額機器を導入する個人医院も
聞いています。昔から接骨院も機械を上手く導入していて、先日の一宮健康祭りでの柔整ブースでは香りや
音、光を組み合わせた機器〔有名なアルファ21〕も体験出来たり、マッサージ〔実験的を強調〕等、「癒し」の
時代に敏感な姿勢が感じられました。

代替医療を取り入れ始めた医療機関
破綻しかかった医療保険財政の現状から、厳しい基準により病医院の選別がされており、従来は可能な
治療ができなくなった一般の病医院が増えて、必然的に棲み分けが始まっています。一部の病医院では、
治療効果を含めて特色を出す為に、採算を問わず鍼灸を取り入れる動きも出てきました。未確認ですが
首都圏では、鍼灸、マッサージ、カイロ、アロマテラピー等を代替医療として総合的に行っている病院も
あるようです。〔某有名BBSで求人していました〕 現在のところは一握りの病医院が行っているようですが、
数年後にノウハウが確立すれば既存の鍼灸マ治療院には脅威になるかもしれません。

東洋医学として鍼灸を学ぶ医学生
同じ動きでは幾つかの国立大学医学部でも医学生の科目として、これまでの漢方薬だけでなく、鍼灸も含
めた東洋医学を選択できる大学があるそうです。愛知県鍼灸学会あたりには指導依頼があるそうで、医学
生への実技指導依頼などには慎重に対応〔苦慮〕しているそうです。私は医師が臨床の場で実際に刺針
するとは考えにくいと思っていますが、医師に簡単な整形外科分野の疾患等への即効性を理解して貰える
反面、これまで治療院が行ってきた中で比較的簡単な整形外科分野の症例は、鍼灸を取り入れた病医院
が治療を担当する場合が増えると思います。

これまで私達鍼灸マ業界の方は比較的保守的であり、「我が道を行く」という方も多かったと思います。既に
充分患者さんも来院され、将来も何の心配ないという治療院は今までどうりで良いかもしれませんが、これか
ら実績を積んでいく若手の治療家の方は考えて見る必要がありそうです。治療の側の理屈でベッドの仕切り
すら無かったり、汚れたままの院内や設備、服装では「癒し」という流れからも遠ざかる一方です。私は一定
水準の治療は出来て当たり前で、治療以外の部分でも病医院やデパートに対して対等以上にならなければ
生き残れないと感じています。患者さんの立場に立った、ちょっとした配慮〔お金がかかることばかりでなく〕が
治療効果も高めてくれるのではないでしょうか。

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治療院の仕事と治療者の健康

鍼灸師である私たちが、この仕事を選んだ理由は様々と思われますが、自分の健康を損なった経験が
きっかけとなった方は少なくないと思います。私もクローン病を患った経験が、上海への留学から現在に
到るまでの始まりです。自分の様々な経験〔体験や勉強、思想等〕を日々の患者さんの治療に生かして
いける素晴らしい仕事なのですが、もともと健康を損なった経験がある方には結構きつい仕事でもあります。
その辺を愚痴やお説教にならないよう、私の治療院での体験から書いてみたいと思います。

気のやりとりをする仕事
中国や日本、流派を問わず、針灸治療は「気」のやりとりをする仕事です。実際に針を刺入して補瀉の手技を
行う際だけではなく、誤解を恐れずに言えば、患者さんが治療院に入ってみえた時から「気」のやりとりが
始まっています。強い症状を抱えた方の「気」は時に攻撃的であったり、自虐的であったり、萎縮していたりと
様々であり、こうした「気」の違いで私の受け止め方も若干変わってきます。患者さんが治療院の中にみえる
間はずっと「気」をやりとりしている為、患者さんが多くなると私も「気」を消耗してしまいます。千秋針灸院は
私と嫁さん〔事務〕の二人ですが、院内の患者さんが一時に四人を超えると消耗が激しくなる気がします。

慎重さを要する仕事
舌脈を診たり、刺入時の感覚等も慎重になりますが、温灸の火傷防止や抜針の確認、院内での転倒防止、
電話の対応、院内やベッド周りの衛生、予約や治療費の受け取り、同意書や保険の確認まで、かなり慎重
さが要求されます。最初の頃は全てを自分でやっていましたが、今は役割を嫁さんと分担したため楽には
なりました。しかし私も経営者である以上は全ての部分に神経を向ける必要があります。

時間を要する仕事
千秋針灸院の外来の診療時間はたった6時間ですが、院内の整備を含めると7〜8時間はかかってしまい
ます。往診もあったり、その他医師への書類やレセ〔保険請求〕等にも慎重さと共に時間が必要になります。
治療資材や消耗品の買出し等も必要ですし、PCでのデータ処理や日計表等の会計処理もあります。他にも
院内の仕事は沢山ありますので、ある程度計画的に進めないと眠る暇も無くなってしまいます。

ここまで、実際の治療院の仕事は大変だということを書いてきましたが、ある程度慣れれば誰にでもできる
ことです。しかし私たちは仕事だけすれば良いというものではありません。家庭生活もあれば、勉強も必要
ですし、鍼灸師会の行事があったり、趣味の時間も必要です。こうなってくると勤務の方はともかく、自営業
の方は余程生活に気を使わないと無理や無茶をしがちになり、健康を損なったり本業〔治療〕でミスが出たり
神経が行き届かなくなったりします。医者の不養生〔私は医者ではありませんが〕とはよく言ったものです。

私の周りの先生方を見渡してみても、大変優れた治療技術を持っている先生でも、かなり不健康な生活を
されている例が多くあります。鍼灸師会の仕事が忙しい、勉強に忙しい、遊びたい等々様々な理由があり
ますが、入院されたり中には若くして亡くなってしまった方もあったり...。 健康を扱う仕事だからこそ治療者
である私たち自身がしっかりと健康でなくてはいけませんよね。

1年程前に同級生と会った時に、学生時代と比べて随分と痩せた方がありました。既に開業していた先生
でしたが、「自営業だからこそ体作りが必要です」と話されていました。彼は生活を見直し、運動療法や食事
療法を取り入れて、1年足らずで約15キロも痩せて体作りをしたそうです。私も共感して今年始めから7キロ
程痩せることができましたが、運動が伴わないためか体力の上限は変わらないようです。ただでさえ持病の
クローン病があるのですから、頑張らなくては...。 今回は私自身の反省文になってしまったようです。

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鍼灸とあん摩〔手技療法〕の違い

昨日某BBSの書き込みで、中国帰りの鍼灸師は手技療法〔マ師を含む〕を小馬鹿にしている〔要約〕と
いうような書き込みがありましたが、私も対象〔被害妄想?〕、ということで少し書いてみます。

先日も飛び込みで「ちょっと揉んでもらえんか」という方が来院されましたが、丁重にお断りしました。また
近所の評判でも、「あそこは揉んでもらえんから」と言われているようです。一方で患者さんからは「鍼や灸を
しっかりやってもらえる」「よく体を診てもらえるから来ている」と言っていただけます。患者さんのニーズ
は様々ですが、どうも日本では鍼灸マを区別したり、一緒にしたりと混同されるようです。本当は私達鍼灸
〔マ〕師が、都合良く使い分けている部分も少なからずあります。治療はあん摩中心でも鍼灸師と呼ばれ
たい方...、政府との団体交渉では一つに団結して...等、なかなか複雑ですが整理してみると...。

法律、医療保険の扱い上の違い
鍼灸マ関係の法律は、正式には『あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等』です。法的には同じもの
といえます。健康保険の療養費区分では別となり、鍼灸は併用して請求できますが、マッサージは併用
できず別請求の扱いです。病医院などの医療機関では今のところ針灸は行えず、仮に行っても1円の請求も
できません。マッサージについては理学療法として請求をする医療機関もありますが、病院経営者側の
拡大解釈であり、黙認されていますが本来の姿ではありません。このように健康保険上ではやや異なると
いえるでしょう。

東洋医学〔中医学も含む〕としての鍼灸マ
原始時代の中国での医術は「痛いところを撫でる、さする、薬になる食物を摂る、石で切開する」と考え
られています。他の文化圏〔欧州等〕でも同様な医術が発達しましたが、中国圏では特に「気の思想」が
発展しました。経絡の考え方や気功、導引等は、「気の思想」の代表的なものといえます。こうした観念から
鍼灸、中薬、あん摩等をとらえると、全て東洋医学の範疇に収まります。この範疇は現代医学〔西洋〕とは
異なる東洋医学にひとまとめとして、社会的にも認知されていると思います。

技術としての鍼灸マの違い
鍼灸〔鍼と灸も別技術〕と按摩等については、背景は似ているものの全く別の技術といえます。中薬〔漢方
薬〕と按摩等が同じ技術の治療と言われる方はいないでしょう。鍼または灸、あるいは鍼灸マを併用して
治療する場合が多いですが、それぞれの技術は体を診るのは同じでも勉強法や実際の運用は異なります。
仮にマ師免許を持っていても針灸専門で治療している私に、あん摩を望まれても技術的にできないですし、
その逆も当然できないでしょう。勉強と共に、日々の各技術での治療経験の積み重ねが全てです。

日本人の鍼灸マに対して意識
鍼灸マ師以外の方〔患者さん等〕と話していると様々な方がありますが、年配の方のイメージは、鍼→鍼医者、
灸→家やお寺で行う、あん摩→あん摩さんという方が多いようです。若い方の意識は大きくバラツキもあり
ますが、鍼灸や整体→東洋医学で痛みを取る治療、マッサージ→美容や疲労回復等という感じです。上記の
表現はうまくありませんが、年配の方と若い方では治療法の区分や目的が異なるのは確かだと思います。
最近では各治療法とも現代医学等、多様な治療法との融合が進んでいて、カイロや○○式△△等といった
呼称も多くなりました。ただ中国◇◇も含めて、本物かどうかは吟味する必要があります。私達も鍼灸〔マ〕師
側の治療への意識と、患者さん側の意識は異なるし、以前とは変化しているのを理解すべきことと思います。

中国での扱われ方
中国での扱われ方は、私の留学当時は中国人向けには中医師、針灸医師と中薬医師〔?〕は大学で正規の
学士コースがありましたが、推拿〔日本でいうあん摩〕は市民講座の様なもので、中国人の一般の方が習う
技術の一つ〔○級等レベルの差があるかもしれません〕でした。当時中国の資格制度は未成熟でしたので、
現在は変わっているかもしれませんが...。中国整体〔推拿〕で留学する方もありますが、留学生が集まると開
かれる臨時コース〔当時〕に過ぎません。全てでは無いと思いますが、一部は業者と学校の金儲けと聞きます。

様々な見方から鍼灸マの捉え方を挙げてみました。まとめると法律や医学としての背景は似ているものの、
技術的な違いは明らかです。また患者さんの意識は私達プロとは異なることや、時代の中で変化してきて
いることもうかがえます。私達は患者さんのニーズに合った治療法を提供していくべきで、これを見誤ったり、
より高い技術を目指す努力をしなければ、たとえ老舗治療院でも先細りは必死でしょう。私自身が針灸専門
を選択したのも、患者さんのニーズに応えようとした結果です。技術として異なる他の治療を批判するのでは
なく、治療家の方それぞれが、針灸専門やマッサージを中心、あるいは整体でも、それぞれの治療法を追求
することが、結果として患者さんの期待に応えられるものと、私は考えていますがいかがでしょうか。

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治療院での物品販売

私の治療院のような小規模針灸院でも開業して以来、健康食品や健康器具メーカーがDMやメールを
送ってきます。立派なカタログだけでなく、中にはサンプルも同封されていて、いくらか興味を持つことも
あります。しかし私の治療院では基本的に物品販売は行っておらず、必要な方に分ける艾やカイロくらい
です。しかし中には最近世間を騒がしている中国の健康食品〔含中国茶〕等を、置いている治療院もある
ようです。〔現在は撤去されているでしょうが...〕 今回は物品販売について考えてみました。

様々な物品販売を行っている治療院さんもありますが、物品販売は治療院にとってどのくらい魅力が
あるのでしょうか。私の所へ送られてくるDM等の情報をまとめてみると、概ね標準販売価格の4割〜7割
といったところです。つまり仮に5.000円の物品を販売した場合、1.500円〜3.000円程度の利益です。
数百から数千単位で大量に販売できる場合は利益がでると思われますが、一日の患者さんの来院数が
数十人程度までの治療院では販売量は限られてくるはずです。一回の治療費は3.000円〜5.000円程度
で、針や灸などの原価は数百円ですから、比較すると利益としては割に合わないのではないでしょうか。

健康食品については、いわゆる漢方薬に近いものは、さすがに針灸院には売り込みに来ないようです。
お茶や、自然食品の売り込みが多いのですが、中医学の立場から見ると食品等にも患者さんに合った
「証」があるので、全ての方に無条件でお薦めできるものはありません。また品質表示が不明なものも
多い〔品質表示そのものが信用できない〕となれば、とても責任を持つことなどできません。患者さんから
の問い合わせは某昼のテレビ番組等の影響で多いのですが、そんなときは『タイプで選ぶ 新食べ物学』
あたりを見てもらっています。

健康器具については、サポーターといった治療補助器具から一時期流行った足裏シート、トルマリン、枕
果てには浄水器まで、食品以上に種類の幅があります。治療の補助器具〔サポーター〕あたりは置きたい
気持ちもあるのですが、多様な種類〔サイズ、部位等〕が必要な上、結構高価ですから経営的なリスクも
あります。流行ものは面白がる程度に付き合うなら良いですが、本気になる頃には時代遅れになるで
しょう。高価な浄水器等は論外。大抵の場合、買われた方は後悔しているはずなので、治療院の評判が
下がること必死です。私の治療院では治療器具等でどうしても欲しいと言われた場合に限り、取り寄せる
こともありますが決して勧めることはしません。実際のところ治療器具を家庭で使いこなせる方は少数です。 

私は物品を販売することは、その店〔治療院〕の信用を売っていることになると思います。仮に私の治療
院で物品を売るなら、買われた方が必ず効果を実感できる物品でなくてはなりません。もし物品に問題や
不満があれば、それは治療者の技術を含めた全ての信用を失うことになります。私は針灸については
プロですから、自分の針灸治療により起こりうる症状〔例えばメン幻反応〕が予測でき、万一の場合は
対処もできますが、食品や器具の素性や買われた方がどう使うかまで予測が出来ない為、責任が持て
ません。同じ理由で衛生状態が患者さん任せとなる皮内針等も、かなり慎重に使用しています。

今回の中国産健康食品の事件で信用を落とした治療院〔聞いているのは整体院〕もあるようですが、
治療技術を売っている治療院が、専門でない物品販売で信用を落としてはいけないと思います。今回の
事件は、私には「治療院は治療技術を売るべき」ということを改めて認識させてくれた事件でした。

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鍼灸の保険改定〔保発0524003号〕を考える

5月末の突然の保険改定で、驚いた方〔鍼灸師さん〕もあるかと思いますが、様々な憶測や噂の中、
ようやく市〔保険者〕や鍼灸マ師会等からの通達が始まり、情報が整理されてきました。私の所の様に
針灸治療に保険使用をどんどん勧める治療院さんは、今回の改定は非常に関心があるかと思います。
そこで先日の保険講習や個人的に知り得た内容をまとめてみました。赤字部分は通達の原文です。
私は慎重にとらえていますが、今回の改定が今後の針灸治療の普及と発展に結び付けられるならば、
患者さんにとっても、私達鍼灸師にとっても素晴らしいことですね。

(1) 施術料金について 〔省略〕

(2) 支給期間及び支給回数について

従来、はり師、きゅう師の施術に係る療養費は、初療の日から1月以内は15回までを、1月を超えて
6月以内は各自10回までを限度として支給していたが、本年6月1日以後は、個別の症状を勘案し、
従来の支給期間や支給回数の限度を超えて支給しても差し支えないものとすること。

なお、施術を受ける場合に必要な医師の同意に係る取扱いについては、従前のとおり、昭和61年
4月21日付保険発第37号によるものであること。

療養費の支給については、個別のケースに応じて、必要性を十分考慮して対応すべきであるので、
療養費支給決定にあたって、必要に応じ申請者に施術者が作成した施術内容のわかる文書の提出を
求めるなど、その適正な支給に万全を期するよう指導されたい。

(1)は、約0.65%の引き下げということで、現在の保険財政を考慮すれば仕方のないことでしょう。
(2)についてが今回もっとも大きな改定部分ということになります。この文は3つの部分に分かれており、
まず中段については、はり・きゅうの保険はこれまで通り、最初に同意書と3ヶ月ごとの再同意が必要で
あることをいっています。上段についても文面通り受け取れるように見えますが、「個別の症状を...」の
部分は、「支給しても差し支えないものとすること」という表現です。「支給すること」といっている訳では
無いことに注意が必要です。

上段に目を奪われてしまいがちですが、実は下段には大変な内容が書かれています。かなり慎重な
文面で、個別のケースに応じて、必要性を十分考慮...」とあり、更に「必要に応じ申請者に施術者が...」と
いう一文が加えられています。
上段の部分と対応させて読めば、安易な支給はしないとも受け取れます。
また、「施術者が作成した施術内容のわかる文書の...」は、暗にカルテ記載の義務〔当然ですが...〕と
必要な場合にコピー等の提出が求められる可能性をうかがわせます。

これらを総合して考えてみると、私は単に支給期間や回数制限が撤廃されたと喜んではいられない気が
しています。また今回の改定は財政難にあえぐ保険者にとっても、負担増につながる信じられない改定の
はずです。あくまで想像の域は出ませんが、保険者が取りうる対応策がいくつか考えられると思います。
委任払いを認めない保険者の増加、全部や一定の割合でカルテのコピー等の文書提出を求める、一定
の期間や回数を超えた場合に医師に意見を求める等、保険者によっては考えられることでしょう。特に
期間については、民間保険の交通事故等が3ヶ月で症状固定〔給付打ち切り〕にされてしまう現実があり、
こうした考え方を導入されると大変なことになります。〔県鍼灸マ師会でも同様の説明がありました。〕

今回の改定からいえることは、私達の施術者側が保険の要件を満たしたレセプトを提出すること〔医療の
先行、同意書、再同意等〕はもちろん、カルテにきちんと記載すること、回数が多い場合や長期間に渡る
施術はその必要性を医師や保険者に納得いくように説明できることが求められるでしょう。誰かが自分に
都合の良い解釈で無茶な請求を行った場合には、これまで以上の規制がかかる可能性すらあるでしょう。

私は〔これも鍼灸師側の都合かもしれませんが〕、一応これまでの基準までが保険者の容認できるラインと
考えています。つまり施術は月に10回程度まで、再同意を取った上で半年以内まで、これを超える場合は
カルテ提出を覚悟していますし、迷惑をかけるので勘弁して欲しいですが、直接医師への照会も有り得ると
考えています。施行されたばかりなので、すぐに保険者が動くとは考えにくいですが、そうした時代に備えて
おくことが必要になりそうです。今回は専門的な話になりすぎてしまい申し訳ありません。

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鍼灸師免許だけの開業は難しいか 〔Bはり・きゅう師免許のみの場合〕

私はマ師資格も持ってはいますが、マ師会には入会していませんし、業務として行いませんので、
はり・きゅう師免許のみの方と同じ立場です。千秋針灸院も看板に「針灸専門」と書いてしまった
ので、他療法を取り入れる訳には行きません。専門学校時代に「針灸だけなんて無理」と聞かされ
続けてきた反動もあっての少々強引な開業でしたので、マッサージ中心で開業した同級生の方達の
話を聞いていると、私の所と随分事情も異なるようです。針灸のみの開業について少し書いてみます。

針灸のみで開業する場合、勤めていた治療院から患者さんを引き継いだり、往診等で少しずつ実績を
上げて満を持しての開業でなければ、開業直後は大変厳しいのが現実でしょう。他の療法〔含現代
医学〕で効果が思うように上がらない症状や薬物治療中心の現代医学を避けたい方、針灸好き〔?〕な
方でなければ、針灸のみの治療院に通ってみようという方はあまり多くはないはずです。実際、私の
治療院でも、一定の評判が立つまでの間は、1日の患者さんは数名以下という日が続きました。
マッサージを取り入れてた治療院なら、「ちょっと揉んでもらうか」と比較的来院され易かったはずです。

このことから針灸専業で開業される方は、結構長い目で経営を考える必要があります。正直、多額の
借金を背負っての開業はまず無理でしょう。機材等にも余計な経費はかけれません。暇な時は絶好の
勉強時間と思うしかありません。来院される方は、やはり口コミが中心ですから、私は特に気をつけて
いることがあります。他のページにも書きましたが、デジカメの記録や各種測定を行い、患者さんに
治療の意欲を持ってもらうこと。経過の良い方の治療を無用に長引かせないことです。
患者さんの立場に立った視点を持ち治療にあたれば、時間はかかりますが必ず自分に帰ってきます。

同じ市内で開業して10年程の針灸院さんがありますが、評判が良く1日の患者さんの来院が40名程、
内容はもちろん針灸だけ、治療者は一人だけなので当然マッサージ等の手間はかけられないそう
です。大変な努力家で流派にこだわらず勉強会等に熱心に参加されて、日々の治療の中で実践して
経験を蓄積していくことで現在があると話されていました。私などはとても及びませんが、親の跡を
継いだ訳でもなく、柔整免許もなく、交通の便もよくなくても、これだけ成功を収める先生もあります。

私は開業して2年足らずなので、まだ先は分かりません。数年後は行き詰まっているかもしれません。
しかし現在のところ針灸専業を続けています。今思えば鍼灸学校時代の「針灸のみなんて」には、
何の根拠も無いと感じています。私達の業界は、かつては盲人の方の職業として、針灸マが一体で
成り立ってきました。しかし免許所持者の多くが晴眼者となり、現代医学や中医学等の影響から
治療が進歩し、患者さんの要求も高くなった現在は、某CMではありませんが「時代は変わった」と
思います。実は私達が「針灸だけでは...。」という伝説〔?〕に囚われているのではないでしょうか。
針灸を志す方なら、サービスマッサージ等は行わず徹底して針灸治療を磨き、結果を出していくのが
早道と思います。もちろん他の療法で治療したい方は、自分の目指す治療を磨くのが良いと思います。

鍼灸学校の学生やマッサージ等を中心に針灸治療もされている先生方と話をして感じることですが、
実は残念なことに針灸の可能性や効果を一番信用しないのは鍼灸師かもしれません。一番必要な
ことは、私たち鍼灸師が針灸の効果を確信し、常に技術向上を目指して努力することと思います。
最後に同級生から聞いた一言、「どんな治療でも、必要としている患者さんが必ずいる」は、今は
本当に実感しています。最初は大変でも針灸治療を目指すという方、共に頑張っていきましょう。

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鍼灸師免許だけの開業は難しいか 〔Aあんま・マッサージ・指圧師免許取得〕

 柔整師免許は必要かの次は、あんま・マッサージ・指圧師免許取得は必要か〔以下マ師免許〕
です。日本では昔より針灸マは一体という慣習から、マ師免許は鍼灸師免許と同時取得が可能
〔養成学校による〕です。同時取得に必要な時間や費用も、鍼灸師のみの場合とほとんど変わ
らない為、同時に取得可能な場合は取っておいて損はありません。実際、私も持っています。
しかし針灸治療院の開業にマ師免許やマ施術が必要かというと話は変わってきます。

前回にも書きましたが、学校に入学すると様々な情報が飛び交います。特に「針灸だけではやって
いけない」という話は幾度となく耳にします。学校の教員ですら私のいた鍼灸マ科〔本科〕の講義で
「鍼灸科〔専科〕は可哀相だ。いずれ他の資格も取らなければ仕事はない。」と言い切っていました。
「マ師資格はついでだ」と思っていた私は随分面食らったのを覚えています。実際病院等の求職の
多くはマ師資格であり、鍼灸師の求人は大変限られているのが現実でした。

治療院を開業してマッサージ等を取り入れる場合、いくつか最近の話を聞きましたが、利用者の方が
気楽にかかれる〔マッサージだから〕為、開業直後の収入が良いそうです。具体的には初期の目標と
される月30万円〔施術者一人〕の売上に直ぐに到達〔宣伝方法等条件も重要〕したそうですが、針灸
専業の私は恥ずかしながら半年以上という結果でした。しかしその後の伸びは今一つという所も多い
ようです。最近ではマッサージ施術は病医院や接骨院でも当たり前に行われています〔役所は黙認〕
から、実費でのマッサージ施術は、よほどの技術やサービスがなければ難しいようです。

そして本題の開業にマ師資格は必要か、は一概には言えません。実は針灸の治療者を目指す方に
とって、最も不足しているのはお金ではなく、研修をする場が不足していることなのです。針灸院は
治療者一人の零細な所が多く、とても人を雇う規模と収益がありません。針灸治療者を目指す方は
この点に一番苦労します。マ師資格を持っている場合は、とりあえず就職の窓口が広く、マッサージを
取り入れている治療院で、少しずつ針灸も学ぶ機会があるかもしれません。
 マッサージ施術も鍼灸と同じく医師の同意があれば保険を使うことが出来ます。しかし単価が最大で
1.150円ですので、多くの場合往診として行われます。この場合2キロまでの請求は最大3.025円で、
なんとか経営ベースに乗りそうです。しかし単価が高く行政から睨まれており、今後は不透明です。
とはいえ、開業初期で経費すら出ない時期には、重要な収入源となる可能性があります。〔5.24改定〕

マッサージを治療に取り入れることで治療者は治療手段が広がります。しかし一方で患者さんからは
「按摩さん」と見られてしまいます。これは古くからの日本の慣習で、マッサージが疾患の治療とは
見なされていないことを意味します。ある針灸専業の治療院で患者さんの拡大を狙ってマッサージを
始めた所、それまで来院されていた患者さんが離れてしまった話をベテランの先生から聞きました。
私の針灸院でもそうですが、患者さんに「針医者」と呼ばれます。実際地域に落ち着いてくると骨折や
外傷等の本来針灸の守備範囲ではない疾病まで相談されます。〔これにはかなり勉強させられました〕

また、マッサージという針灸とは別の技術を勉強する必要がある為、肝心の針灸が疎かになりがち
です。鍼灸学校時代でも、鍼灸マ科〔本科〕の学生はマッサージに頼り、針灸の勉強を疎かにする
傾向がありました。針灸専業の治療院は針灸だけで結果を出さねばなりませんので、技術向上の
意欲は大変高いものになります。長い目で見た時に限られた治療時間でマッサージ中心の針治療と
針灸のみでの治療を積み重ねるのでは、針灸治療の技術や実績が違ってくるのは当然でしょう。

私は針灸での治療を目指す方にとってマ資格の取得は、あまり重要ではないように思います。
私の治療院では全く行いませんが、マ師資格がなく針灸専業を掲げていても、実際は前柔捻などと
称して数分程度のマッサージを加える治療院も多くあります。往診での保険請求を行いたい場合や
専門的な技術を学び、治療に使いたい方以外は不用です。本当は針灸の治療をしたいと考える方が
免許の同時取得ならともかく、経営の為にマ師資格を更に3年かけて取得するのは考えものです。
では、本当に針灸だけでやっていけるのか? ということは、また次回。

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鍼灸師免許だけの開業は難しいか 〔@柔整師免許取得〕

 近頃、上海留学時代に色々とお世話になっていた方と連絡が取れて、当時の留学生仲間の
近況を聞くことができたのですが、既に鍼灸師免許を持っていた先生方が柔整師免許取得の
ために専門学校に通っている〔いた〕話をききました。私の地元にある中和医療専門学校も
柔整科が新設されて、鍼灸師と柔整師の両方の免許を取得して開業を目指す方もあります。
実は私の中和鍼灸専門学校〔当時〕卒業時に柔整科が新設され、私も開業か柔整師免許かと
悩んだ時期もありましたが、結局少しでも早く開業する道を選びました。

治療には様々な方法がありますし、治療家を目指す方が必要な国家資格を取得して開業を
目指すことは当然のことですから、私が意見すべきことではありません。また私は柔整師では
ありませんので、柔整業界等の実際については詳しくはありません。その上で今回は、針灸
治療を目指す方〔私もその一人〕にとっての柔整師免許を考えてみました。

開業を前提に鍼灸師免許を取得する場合、治療技術が必要だけではなく、当然経営を意識せず
にはいられません。私も専門学校時代には、学校の教員や幾人かの開業鍼灸師から、「針灸だけ
ではやっていけない。マッサージを治療に入れるか、可能ならば柔整師免許を取得すべき」等と
何度も言われてきました。なぜ柔整師免許かというと、やはり同意書を必要とせずに保険治療が
できることが魅力〔?〕です。また愛知県や大阪府では同意書による針灸保険治療は比較的行え
ますが、他府県では難しい現実もあるかと思われます。

柔整師は医師の同意書を必要とせずに健康保険で治療ができますが、様々な制約もあるようです。
打撲か捻挫〔原則応急処置〕でしか保険請求が認められない〔骨折、脱臼は医師の同意が必要〕、
治療部位が限られ単価が安い〔最大、打撲か捻挫で約1.200円、参考として針灸は1.530円、〕、
社会保険や組合保険での不支給が増加〔針灸マも同じ〕、同一治療院での針灸〔実費でも〕治療の
併用は認めない等、保険者の保険財政難も絡んで徐々に保険治療の制約が強まっているようです。

針灸治療の実際の臨床から柔整の保険を考えた場合、鍼灸・実費治療の併用不可〔実際は黙認〕、
病名の調整が必要〔全て捻挫とする等の矛盾〕や安い単価〔治療に時間をかけれない〕等の問題が
ある為に、自分の目指す針灸治療が難しくなってしまうと思われます。また柔整師免許取得にかかる
3年間という時間や最低400万程度必要な学費、柔整師会加入の費用〔鍼灸マとは1桁違う〕や設備
投資〔治療法にもよるけど...〕等、針灸〔マ〕での開業に比べて敷居が高くなります。

利用する患者さんの立場を考えると、新規開業にあたって保険が簡単に使えることは大変な魅力が
あります。実際、開業柔整師さんの収入は鍼灸師の数倍といわれています。しかし、今後も今までと
同様に保険を使えるのかという点で大変不透明です。私の場合は保険を使える魅力に加えて、整形
外科分野の勉強〔整形外科学等、学校の講義が鍼灸に比べかなり専門的〕の必要を感じたことから
柔整師免許取得を考えた時期もありましたが、自分の治療がやりにくくなること等の不安から断念
しました。様々な考え方があるかと思いますが、結局は自分がどんな治療をしたいのかを忘れずに
必要な免許を取得することではないでしょうか。

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これまでと、これから 〔千秋針灸院は全日開業一周年〕

全日開業して1年が経ちましたが、実は上海留学中から鍼灸専門学校の2年生までは、まさか
自分で開業するとは夢にも思いませんでした。理由は治療と経営の両立は難しく、私は治療に
専念したいので経営者にはなりたくないという気持ちが強かったからです。しかし帰国後の
数年間で、この近辺〔東海〕は特に中医学を実践している治療院が少なく、あっても就職が
難しい上に給与、条件等に問題〔学校の求人情報では針灸専門院の月給は大体15万円程度で
賞与なし、社会保険等もなし〕がありました。これでは長期間の就職はできません。そこで開業に
踏み切った訳ですが、今でも治療に専念したい気持ちを強く持っています。〔今でも中医学の
治療に専念できるなら勤務でも構わないと思うほど...〕

私は開業までに随分と回り道をしています。上海留学以前の部分は省略しても、2年間の留学に、
3年間の鍼灸専門学校、時期が重なる部分もありますが、3年間の長谷川針灸院勤務、同時に
半年ほどの半日開業を経て、昨年4月より全日開けるようになりました。開業にあたって目指した
ものは「自分が治療を受けたい治療院」でした。そのためにデジカメ等で可能な限り、目で見える
治療効果を提示する、必要な方が治療を集中してできる様に週の2回目以上の治療代を半額に
したり、保険取り扱いも行いました。その他衛生面等の細部に至るまで経営はさておき、自分の
思うままの仕様で押し切ってしまいました。

長谷川先生にアドバイスをいただきながら半日開業の準備を進めていたころは、様々な準備や
手続き等に忙しくて開業の広告さえできないまま、ある日〔2000.7.16〕突然開業してしまいました。
開業案内は表のお知らせだけ、おまけに夕方からしか開けられない為、昼間はシャッターが
降りています。針灸専門の看板も近所では〔?〕という方が結構ありました。こんな訳でいきなり
開けた針灸院は、初日0人という静かなスタートとなりました。〔針灸院ができるまでを参照〕

2000.9から保険取り扱いができるようになりましたが、秋冬なのに夜間のみの開業のため、当然
患者さんの来院数は伸びずに、1日に2〜3人程度の日が続きました。2001.4に全日開ける前後に
ようやく夜間の患者さんに治療効果を認識していただけることができ、口コミで来院される患者
さんが増え始め、また昼間もシャッターが降りなくなったことから、ようやく開業していると分かって
いただけるようになりました。夏ごろからはホームページを見て来院される方も増え、整形外科系
疾患以外の相談も多くなり、現在に至っています。先のことは分かりませんが一年経った現在は、
ようやく今後も頑張れそうな手ごたえがあります。

私たちを含めた医療業界は大きな転機を迎えています。右肩上がりの時代が終わって、これまで
住み分けができていた医療業界も、病医院や接骨院が針灸やマッサージを取り入れ始めて
いますし、鍼灸師では介護保険の方面に活路を見出す方もあります。厳しい時代ですが、様々な
方面に発展の可能性があるともいえます。私は針灸一本で、特に難病等の分野で上海で実践
されていた中西医結合〔中国伝統医学と現代医学の融合〕を、日本で可能な形で実現を目指し
たいと考えています。まだ歩き始めたばかりで、道程は遠そうです。

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理容師と鍼灸師の未来の姿 

 男性には馴染みの深い職業として、床屋さんの理容師という資格があります。 あまり知られて
いない方もあると思いますが、資格全盛の現在で美容師免許取得者の増加とは対称的に、
尻すぼみになっている資格です。最近興味深い話が聞けましたので少し書いてみます。

私自身は理容師ではありません。他所から聴いた話なので少し無責任な内容かもしれません。

 理容師資格は医療に近い資格です。例えばお馴染みの赤と青のストライプは動脈、静脈を表し
ますし、カミソリを職業として扱えます。同時に美容師に比べ衛生基準等が厳しく、例えばマスク等の
着用や切った髪を床に落としてはいけない等、少し現実的ではない法律に規制されています。
かつては多くの養成学校がありましたが、現在は愛知県下で1校のみ、卒業生は年間数名という
話です。美容師は大変な人気資格ですが、理容師は後を継ぐ方がいない状況となっているそうです。

 理容師は資格で許されている業務範囲が美容師に比べ広く、美容師と同等以上の技術もあるの
です〔誤解を恐れずにいえば上級資格〕が、なぜ現在の状況に追い込まれているかという話は興味
深いものでした。理容師の組合は仕事の保護に重点を置き、営業時間や料金、休日等を厳格に
定めています。〔県内の床屋さんの休日が統一されているのはご存知ですね。〕一方、美容師の
側については定められた規制は無く、自由に料金や営業時間を決定できます。

 例えば休日について考えれば、月に6日程の統一休日は、6日分のお客さんを美容師に取られる
結果になります。営業時間の統一も同じ事です。こんな素人でも分かりそうな規定を頑固に守って
いるのは不思議ですよね。その理由を尋ねたら、多くの開業理容師さんは技術に自信を持っており、
自分はウデがあるから関係無い、変える必要は無いと考えているそうです。理容師組合は組合に
入らない理容師の締め付けや、保健所との癒着で厳しい衛生規定をかわすことに重点を置いて、
理容師の業務拡大や現実の競争相手である美容師は無視しているそうです。この辺りの話を
聴いていると事情は異なりますが、私たちの業界にも当てはまる部分があるような気がします。

 はっきり言えば、自分の所が良ければ...とか、腕さえあれば...とかです。開業している以上、経営や
技術向上のための努力は当たり前です。その上で個人治療院ではどうにもならない保険関係とか、
他の医療業との調整や行政への働きかけも必要になると思います。整形外科や柔整〔接骨院〕が、
いつの間にか保険でマッサージを行うのを周知の事実としてしまったのも、団体の力関係のため。
最近は針灸も垣根が取り払われようとしていて、遠くなく看護士による針灸施術の話も聞こえて
きそうです。〔事実、鍼灸師に指導要請もあったそう〕 こうなると針灸治療は普及しても鍼灸師は
不要となり、開業の壁も高くなって一部の実績のある治療院だけが残るとなりかねません。以上は
最悪のシナリオですが、理容師の現実を聞いていると、未来の鍼灸師の姿が見えてくるようでした。

 他のHPの掲示板の書き込みやメールでも、針灸に対して大変な熱意があり、これから鍼灸師を
目指す方も多いと思います。針灸治療は優れた可能性を持っており大変魅力がありますが、残念
ながら取り巻く環境は大変厳しいといわざるをえません。それでも針灸を目指そうという方や、既に
始めてしまった私〔?〕のような方は、腕も磨きつつ環境を変える努力をしなくては20年、30年後は
ないでしょう。私も大変な時代に始めてしまったものだ〔笑〕と思いますね。

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中国に留学する意味

 現代医学、中医学ともに予備知識も少なく、上海留学を強行した私の場合は、いきなり針灸専門
コース〔普通進修班〕に入れたため、他の日本等からの留学生〔免許所持者〕の方々に多くの情報や
知識をいただき、試験等をなんとか乗り切って卒業できました。〔現在ではこの方法は認められない
ようです〕帰国後、鍼灸師免許を取得して開業することができたのも、始まりは留学時代の先生方
〔現在は日本国内で活躍中〕からの助けがあったからで、本当に感謝しています。

 このホームページを出している関係で、ときどき中国留学についての問い合わせもあるのですが、
私の留学は既に5年以上前の話なので、情報としては参考になりません。しかし実際にある程度の
長期間に渡り、中国留学を経験している方はそれほど多くはありません。旅行や数ヶ月程度までの
短期間では中国の表面的な悪いところ〔または良いところ〕だけしか見えてこないでしょう。そこで
中国に留学する意味を自分も振り返って書いてみようと思いました。

 中国の中医薬大学へ留学する手段と内容
 中国留学には幾つかの方法があります。免許所持者を対象とした3ヶ月程度の国際進修班〔通訳
付き〕、1〜2年で専門課程を受講する普通進修班、大学院クラスの内容の高級進修班〔ともに原則
中文〕等が一般的です。免許の無い方は中国語をマスターした上で漢語水準試験をパスして大学
〔4〜5年〕へ入学し、中国の統一国家試験をうけるのが普通です。この他、日本の国内で1〜2年程
基礎を学び、最後に1年程度中国の大学へ留学するコースもあるようです。内容は中薬〔漢方薬〕、
針灸が中心です。推拿〔マッサージ〕や薬膳〔食事療法〕等のコースもありますが、あまり一般的では
ありません。免許所持者のコースは現代医学を省き、純粋に中医学を講義と臨床から学ぶことが
出来ます。一般の方は現代医学も含めて学ぶことになります。

 留学の長所
 留学の長所は、やはり本格的な中医学の臨床に触れられることに尽きます。日本で中医学を掲げ
ている治療院の多くは、取り入れてはいるものの中医学を独自に解釈したり、カイロ、マッサージ等の
他療法を組み込んだ治療法が多く、否定はしませんが中国での臨床とは異なる治療法といえます。
臨床実習では現代医学と併用する実例〔中西医結合〕や中薬との併用、半年以上の実習期間に
より〔3ヶ月の方は除く〕、中医学の治療を継続した場合の効果を実感できます。また老師〔先生〕に
つくため、舌・脈診等の実際や手技も教えてもらえますし、少し手が開いた時には実際に刺針して
いただけました。整形外科系の疾患の他、内科、婦人科、小児科、眼科、耳鼻咽喉科、救急等の
幅広い臨床に触れることが出来ました。老師によっては治療をさせて貰える場合もありますが、
許されるのは整形外科系等、日本でもみる機会が多い疾患ばかりで、ここはもう一つ。留学の
最大の魅力は一口で言えば中医学の実力を実感でき、針灸の効果を確信できることと思います。
 
 中医学の専門課程では、『中医学を学ぼう』にある様、基礎から順序立てて講義があります。
日本の専門学校の多くは東洋医学概論等で中医学を取り入れてはいますが、中医学とはいえない
部分が少なからずある上、講師の先生は中医学を臨床等で実践されていない場合が多く、臨床に
直結した話が聞けない場合が多いと思います。〔中医学に力を入れている一部の学校は別です〕
中医薬大学で講師は病院等で中医学の臨床を重ねている方が担当しますので内容も実践的です。

 私の留学は僅か2年強なので、まだまだ見えていないことも多くありますが、中国は大変広く、
地域性、言語、民族、価値観まで、とにかく幅広く深いものがあります。中国からみた日本も考え
させられます。最低でも四季を過ごしてみないと見えないものがあるというのは本当で、私の場合も
最初は衛生面やインフラ、騙しが多いこと等、悪い面ばかりが目に映り、客観的に評価することが
難しかったです。しかし1年程すると、「なぜ中国はこうなのか」ということが見えてきて、感情に
左右されずに長所を評価するようになりました。こうなると積極的に良い部分を学ぼうという意欲が
出てきて、中国留学の後半は中医学を含めて大変得るものが大きくなりました。

 留学の短所
 留学全般を通して金銭的に結構な金額がかかります。日本と違い収入は期待できないため、お金が
出て行く一方になります。過ごし方にもよりますが、最低学費も含めて年間100万円以上はかかるはず
です。他に有資格者の場合は、日本での学んだ知識が邪魔をして3ヶ月程度留学された方の中には、
中医学の正当な評価ができない方もありました。また、通訳を介すると老師へ直接言葉が伝わらず、
思うように質問ができない場合や日本語訳等に問題がある場合〔通訳のレベル次第〕がありました。
免許が無い方の場合は留学期間が長期に渡るため、途中で挫折する方が多くなります。様々な誘惑も
多く、よほどの意欲を持って取り組まないと卒業は不可能でしょう。更に日本で専門学校等に3年行か
ねばなりません。かなりの遠回りと言わざるえませんが中医薬大学を中医師や針灸医師として卒業
できた方なら、日本の専門学校での講義や国家試験の程度は問題になりません。日本での諸流派に
惑わされることもなく、卒業後も確信をもって中医学の臨床を追及できることでしょう。また、生活を含め
た様々な面で思うように行かないことも多く、良い老師との出会いも含めて「運」も左右するでしょう。
 
 中国側も留学生慣れしていますので、以前ほど丁寧に教えてはくれない場合が多いと聞いています。
また開放前からの経験の深い老中医と呼ばれる老師の多くは既に引退されています。経済的な面や
様々な誘惑、言葉の壁等を含めて、私は積極的に中国留学はお薦めできません。しかし本物の中医学
を学びたいという強い意欲がある方であれば、留学中も積極的に学ぶ姿勢がありますから良い老師に
めぐり会え、大変充実したものになると思います。中国の老師はこちらの熱意が伝われば、しっかりと
応えてくれます。できれば通訳無しで1年以上は留学されると、大変多くのことを学べると思います。

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鍼灸学校の学生時代の勉強法について

私の場合は、いきなり中国留学を強行〔?〕したために、最初に出会った中医学を動物の赤ちゃんの
刷り込みのよう〔笑〕に無条件で信用して勉強を続けたことで、他の諸流派の影響を受けない内に
中医学の基礎を高めることが出来たように思います。帰国後、様々な諸流派とも出会いましたが
現在も出来る限りネイティブな中医学による治療を崩さず、また治療の特徴ともしています。
しかし鍼灸学校等で初めて針灸に触れる機会を持つ学生の方は、大変迷いを生じることになります。
日本の鍼灸学校では中医学を含め様々な流派に出会う機会がありますが、基本的には国家試験を
意識した広くて浅い内容で、あまり臨床では通用しないのが現実です。そこで各人の勉強法が出て
きますが、いずれも長所と短所があるように思われます。以下いくつかのパターンについて考えて
みます。〔全く勉強しない方は論外です。〕

治療院でのアルバイト〔内容により違法〕
生活費や学費もいくらか稼げ、治療院の経営や治療以外の部分〔衛生や患者さんとの接し方〕等、
開業を目指す方には大変勉強になります。また大きな声では言えませんが、学生に実質治療させ
ている治療院〔マッサージ等〕もあり、違法ですが正直なところ卒業後の早期開業は、このパターン
でなければ厳しいでしょう。欠点は、実質学生に治療させる治療院では、そもそも違法であり場合に
より摘発される可能性〔事故、事件等〕があること。そうでない治療院も経営者の方針により、かなり
過酷な労働条件となることがあります。経営者の多くは「使える人をできるだけ安く」と考えますので、
技術を教えて貰うことは二番目以降となります。教えて貰える治療院に勤めれれば幸運といえます。

師弟関係的に教えて貰える治療院で勉強する
アルバイトではなくて、先生のご厚意により技術を教えて貰える治療院もあります。治療技術は違法
に実質治療をしている場合と同じく内容次第で実力もつきます。特に脈診等を重視した流派では
先生について勉強する他に方法が無く、こうして実力を身につけていく方も少なからずあります。
しかし場合によっては、「教えているから」と実質サービス労働等を強要される場合もあるようです。
また、師弟関係にしても結局は師の能力が治療技術の限界となります。よほど腕の立つ先生につく
場合はともかく、海千山千の治療家がいますので師匠は選ばなければなりません。なお、教えて
貰える治療院ではアルバイト料はあまり期待できません。

勉強会等に積極的に参加する
主に有資格者を対象にした、理論から臨床まで様々な勉強会や講座も全国で開かれています。
一度の講義や実技で臨床に直結する内容もありますが、多くの場合は継続して出席することで
その流派の理論から臨床までを身に付けます。この方法の問題は費用がかかることで、鍼灸
学校の3年間で100万円以上使われる方もありました。勉強会等に出席することは良い事ですが、
あまりに費用がかかるのは考えものです。また実際の治療は技術のみではなく、患者さんへの
応対や予約の取り方を始め必要な経営能力も問われます。私も経営に関しては素人でしたので、
開業してから痛感したことがたくさんありました。

学生の多くの方は上記の3つを組み合わせて勉強していました。しかし積極的に勉強をされている
方の中には、いくつかの流派を学んでいる為に知識が混乱している方も見かけます。入学してすぐに
様々な諸流派の中から自分に合った治療法を見つけるのは難しいことです。そこで私のお薦めですが
鍼灸学校の1年生から2年生の前半までは、とにかく様々な流派に触れる機会を持ち、また先生を見
つけていくことです。2年生の後半からは、それまでに見つけた流派から自分に合いそうな治療法を
選んで深めていきます。私も学生時代の後半は授業中も含め全て中医学の勉強や古典の読破に
費やしました。それでも時間が足りないくらい卒業すると仕事で勉強時間が取れないのが現実です。

また知識の混乱は基本となる勉強〔私なら中医学〕がある程度の水準に達していれば、他流派の
勉強会に出ても混乱しません。むしろ自分の見方から他の流派を分析して、自分の治療法を崩さず
臨床に組み込むことができます。こうなると他流派の勉強会も宝の山状態で、勉強も臨床と一体と
なって楽しくなります。中医学の勉強法〔留学も含む〕は、また次の機会に。

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中国と日本の針灸治療の刺激の違い

私の場合、上海中医薬大学での留学から帰国して、日本の針灸治療に初めて接したのですが、
帰国したばかりの頃は様々な違いに戸惑いました。中でも針灸治療での刺激量の違いや、按摩
マッサージ等を併用する日本独特の習慣、中医学的に見た場合の灸法の用い方に誤りがある等、
鍼灸専門学校での教育に抵抗を感じたことを憶えています。今回は実際の臨床で問題となる刺激量に
ついて取り上げてみます。

中国で使用されている針は、いわゆる中国針であり、直径0.30o〜0.35o程の太さ〔日本針の8番〜
10番相当〕が一般的です。顔面部等でも0.25o程の太さ〔5番相当〕を使っています。私も老師に
刺針してもらうことを勉強になると感謝しながらも眼の周囲〔承泣とか〕等では半泣き状態でした。
また針のヒビキ感〔簡単に言って鈍痛〕は必須で、患者の病所に向かってヒビキ感を出すよう練習
させられたものです。患者も慣れたもので、「来た来た」と言っていました。このように中国での針灸
治療は大変な強刺激であり、一方で熟練した老師の治療は非常に優れた治療効果を上げていました。

さて日本に帰国した私は、未熟ながらも留学で身につけた技術や知識を生かすべく鍼灸専門学校へ
入学し、初めて日本の針灸治療に接しました。日本には中医学も入って来ていますが、多彩な治療
方法が独自に発達しています。私も幾つかの流派を覗いてみましたが、細い針〔1番前後〕を使う先生が
多く、中には接触針〔針を当てるだけ〕で治療される先生もみえました。私は、どのような刺激量で
あろうと治療効果が伴なえば良いと考えますが、ちょっと覗いた程度の私では実際の治療効果の
判定に疑問があったり、なにより私が身に付けていけるかという点で不安がありました。そのくらい
少ない刺激量だったのです。

ところで治療を受ける患者さんの状態も中国と日本では異なりました。中国では基本的に病院内の
針灸科等で治療を受けます。必要な検査や投薬等は同時に受けることができます。患者さんの
治療に対する信頼も厚く〔先生による〕、強刺激も受け入れる傾向〔たまに倒れる人もいたけど〕が
あります。日本では病院と鍼灸院は異なる施設で、互いの連携は充分とは云えません。鍼灸院に
来院する方はどちらかというと少数です。針灸治療の信頼はあまりなく〔これも先生による〕効果を
認める方も整形外科分野に限定するか、按摩等の付属療法と捉える方が大部分です。これでは
痛みを伴なう刺激は許されないと思います。

よく中国と日本の針灸の刺激量の違いを、人種や食習慣の違いとして挙げる方がいます。確かに
私も日本と中国の患者さんで、多くみられる脈象に違いを感じています。しかし中医学では脈で
言えば微弱な脈〔大変体の弱い方〕から力強くしなやかな脈〔大変丈夫な方〕まで幅広く診断から
治療までを体系化しています。丈夫な方に微弱な刺激〔あるいは逆〕では誤った治療となりますし、
逆にいえば、どのような体質の方でも治療家が体質に合った治療ができるはずです。

開業して経営も考える立場になると、患者さんの反応を覗いながらの治療方針の決定も必要に
なるかもしれません。しかし必要な刺激量ができなければ、治療効果は上がらず、結果的に治療の
できない鍼灸師と言われてしまいます。実際は難しい部分もありますが、急性病等の患者さんが
比較的強刺激を受け入れてもらえる機会を逃さず、患者さんも確認できる結果を示していく必要が
あると思います。私自身に自問している問題でもありますが、努力しなくてはなりませんね。

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無資格者による施術と資格にまつわる諸問題

福岡県の方で無資格者によるマッサージ院が摘発されたそうです。この事件は容疑者が
マッサージ師の資格を借りて開設し、実際には無資格者によるマッサージ行為が行われて
いたとの事です。ご存知のように、あんま・マッサージ・指圧師は国家資格で、その業務を
独占している〔医師を除く〕はずですが、最近は○○式マッサージ、リフレクソロジー〔足裏
マッサージ〕等として、摘発をかわす業者や無資格者も後を絶ちません。しかし一方で、
資格に関わる様々な環境も変化しており、単に資格の有無だけで割り切るのが困難との
現状もあるかと思います。以下、思いつくまま挙げてみます。

1.あんま・マッサージ・指圧師〔以下マ師〕、はり師、きゅう師資格とは
はり師、きゅう師、マ師は現在、高卒以上の者で3年間の研修、国家試験合格が必要となる
国家資格です。晴眼者の学費は3年で最低でも300万円程度は必要になります。日本では
鍼灸師とマ師は慣例として同列に扱われ、資格も同時に取得可能です。〔各学校により異なり
ます。〕

はり師、きゅう師、マ師、これらの資格は元来、平たく言えば日本では福祉政策の一環として、
視覚障害者の方の職業確保の意味合いがありました。国立の鍼灸学校が、視覚障害者のみを
入学の対象とする理由です。この経過から日本の鍼灸治療といえば、針灸と按摩・マッサージ・
指圧が同時に行われる独特の治療が発達した経緯があります。

2.あんま・マッサージ・指圧師をめぐる環境の変化
法律施行当時の主な手技療法であった按摩、マッサージ、指圧は、時代の変化と共に日本が
豊かになり多様なサービスを求める中で、一般の方にもカイロ、整体、エステ等と共に広く
浸透して、多様なニーズや流行が生まれました。○○式や足裏、アロマ等、本当に様々な
種類があり、把握できないほどです。ニーズがあれば人や金が動き出すもので、特にマ師は
その業務範囲が明確でないため、多くの無資格者が横行することになりました。

慰安的サービスを目的として参入を目論む立場から見た場合、技術水準の割に先に挙げた
資格要件を満たすハードルが高いことも、逆に資格を無視する風潮を強めたと思われます。
規制緩和の流れからマ師資格そのものが消滅するという説もありますが、私は既制の法律や
権益は簡単に変わらないので、名前だけの形骸化したマ師資格は残ると考えています。

3.はり師・きゅう師をめぐる環境の変化
針灸の分野では世界的に中医学が注目され、日本でも鍼灸大学が誕生するなど医学の
分野からも注目を集め、学術的にも高度な内容を持ち始めました。マスコミ等でも取り上げられ、
一般の方からは様々な疾患治療を目的とした代替医療として、高水準の針灸治療が求め
られる時代になってきています。

一方、日本の鍼灸学校での教育水準は学校にもよりますが、社会の期待に応えていける
レベルからは程遠いのが現状です。〔教えられる人が少ない〕 また、医師会は針灸治療を
医療の現場に取り込むべく、厚生労働省に対して強く働きかけており、近い将来は病院内で
針灸治療が一般化する可能性も高そうです。〔開業鍼灸師の多くが廃業に追い込まれ、
新規開業が事実上不可能となる可能性があります。〕

4.最近の鍼灸学校増設について
福岡の柔整師養成学校〔接骨免許〕の新設認可を皮切りに、全国に鍼灸師養成学校がたくさん
新設、増設されています。鍼灸師は今後、2〜3倍に増加し、競争が激しくなることが予想されて
います。しかしマ師養成学校はひとつも増えていません。これが何を意味するのか、政治家は
何も話はしてくれませんが、私は病院に勤務する鍼灸師の大量養成と、マ師の保護〔福祉と
しての〕あるいは資格の形骸化に狙いがあると見ています。

5.まとめてひとこと
まず大変深い問題であり、上に挙げた内容は随分と言葉足らずな事をお断りしなくてはなりま
せん。本当は書きたくても書けない事も数多くあります。
私は針灸と按摩・マッサージ・指圧は
別の療法という認識を持ち、それぞれが技術の向上と生き残りを賭けて努力しなければ、
現在の良い意味での自由な治療〔方法〕は不可能になり、最終的に中途半端な技術者は
全て医師と企業に吸収されるとみます。〔勤務鍼灸マ師の全てが中途半端の意味でなく、
現在の開業鍼灸マ師も同じ事です。〕鍼灸マを単に職業として見るならば三療を複合した
形態の治療も考えられますが、私は他の療法をマスターする余裕はないので、治療としての
針灸に絞って全力投球をしたいと思います。

今回の無資格施術の摘発等が進めば、なし崩し的にマ師資格を無力化する風潮に一定の
歯止めをかけるかもしれません。しかし上に挙げたように、資格そのものに多くの問題が生じて
いることも事実です。色々な意味で現在は過渡期であり、今後の展開を見守る必要があります。
〔ちょっと業界の話になりすぎてしまいました。スミマセン〕

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治療院〔医院も含む〕の評判について一言

ちょっとだけ言い訳になるのですが、針灸治療というのは魔法ではありません。治療者の五感と
知識〔私の場合は中医学〕、経験をフルに活用して患者さん自身の治癒力を引き出そうとする
治療法です。例えば、いわゆる五十肩〔数回で治癒する腱板炎等ではない〕では、通常6ヶ月〜
1年程度は治療が必要ですが、患者さんによっては数回治療されると、治らないので他の治療院に
いかれることがあります。

治療する立場から言えば、病気はそれぞれ発症から治癒〔軽快〕までに段階も個人差もあるので、
他の治療院から転院された患者さんを最初に診療した時点で、ある程度「まだ病勢が強いので
苦戦しそう」とか、「回復期に入っているので早期に楽になりそう」等と予測ができています。予測が
確実な場合は患者さんに告げたりしますが、通常は治療成果の保証とされると問題があるので、
あまりはっきりとは告げません。〔医師も同じです〕

その上で治療を開始すると患者さんに様々な思惑が生じます。つまり、「あの先生は腕がいい」とか
「あの治療院では治らない」という評価が生まれてきます。しかし治療する立場から見ると、疾患にも
よりますが、一度の治療で治ってしまう程度の症状は、ある程度の治療水準を持った先生なら誰でも
治療できる疾患ですし、病勢の強い時期に通院されても症状の悪化を食い止めるのがやっとという
事もあります。このことを患者さんに理解してもらうのは正直とても難しいものです。

これから治療を考えられている方が、ある治療院〔医院も含む〕について評判を聞くなら一人の方から
だけではなく、できるだけ複数の方から評判を集めるべきでしょう。また、治療院の先生は多くの
患者さんから情報を得て、プロの視点で評価しています。他の治療院を悪く言うことは通常ありませんが、
良い治療院は教えてもらえます。治療院を決めたら、よく先生の話を聞いて頑張って通院してください。
治療する立場から見たアドバイスでした。

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何でも値下げのブームについて

最近患者さんから聞いたり、昨日の挨拶回りの際にも見かけたのですが、どうも私達の医療の
分野にも、価格破壊の波が少しずつ来ているような気がします。というのは、特に実費の針灸院や
整体院で1回の治療費が1.500円〜2.000円未満が増えているようで、中には針灸院で1回1.000円
という所がありました。接骨院や整形外科で保険料金でマッサージ治療も行う所が登場する中、
4.000円〜5.000円というこの辺りの実費の相場は新規開業の方では、もう通用しないのかも
しれません。〔千秋針灸院も実費は3.000円ですが...適応可能な疾患については保険診療を勧めて
います。〕

個人的には技術の安売りには反対の立場です。適切な収入が得られなければ必要な内容の治療が
できない為、結果的に患者さんに不利益が生じます。また私達技術屋の仕事は某外食産業の様に
半額にしたところで、仮に患者さんが3倍に増えても腕一つなのでこなすことができません。しかし
一方で、これから学校を卒業され新規開業される若い鍼灸師の方〔私も同じ立場〕は、既設の老舗で
信頼ある針灸院の縄張り〔?〕に食い込んでいかねばなりません。その一つの手段として治療費の
安価を売り物にすることは、食べていく為に必要なことかもしれません。正直なところ、治療費が
いくらであろうとベッドが空いていたら、1円にもならないのです。

千秋針灸院では疾患の治療を第一の目標に掲げました。正直、実費で4.000円〜5.000円で週に
2〜3回来院してもらうのは、標準的な家庭では不可能な金額です。保険診療を導入したのは、
針灸治療を比較的裕福な方だけでなく、必要な方に必要な内容の治療を行うためで、現在の
治療費は何とか食べていける収入を確保できる予定〔?〕から割り出した料金です。長引く不況で
コストの削減や価格競争が激しくなっていますが、安価でも治療内容を削減すれば結果的に
患者さんの期待に応えられず、針灸治療を求める人口を減らし結果的に自分の首を絞める事に
なります。どんな時代でも私達鍼灸師は第一に治療技術で競いたいですね。

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