潰瘍性大腸炎・過敏性腸症候群   更新日 2013.4.6   1.005 本文へジャンプ
IBD(炎症性腸疾患)、IBS(過敏性腸症候群)

○現代医学での概要と針灸治療
○当院での針灸治療について
○当院での治療効果の実際
○患者さんからよくある質問
○院長からひとこと
○関連リンク・参考文献


現代医学での概要と針灸治療

潰瘍性大腸炎 UC
・原因不明で大腸粘膜に生じる慢性の炎症疾患で潰瘍を形成します。若年者に多く発症し、頻繁に繰り返す下痢や下血、粘血便が主症状です。病変は直腸から始まり大腸全域で潰瘍を形成します。直腸炎型、左側大腸炎型、全大腸炎型に分けられ、慢性化して長期に渡る程、深部大腸に炎症が広がる傾向があります。また重篤な合併症を起こすなどして、予後不良となる劇症型も知られています。一日数〜十数回の下痢や粘血便、腹痛などの症状があり、急性期には発熱、頻脈、体重も減少します。発症後10年以上が経過すると大腸・直腸ガンのリスクが高まるため、長期的な経過観察が大切になります。

・薬物治療として、ペンタサ、アサコール、サラゾピリン、中等症・左側大腸炎型以降ではステロイドやイムラン(免疫抑制剤)、抗菌薬、血液成分除去療法(LCAP、GCAP)なども行われます。重症例ではクローン病などで用いられるレミケードが選択される場合もあります。

・一般に寛解時には食事制限はほとんどありません。アルコールや刺激物を避ける程度の内容です。活動期では高蛋白、低脂肪、低線維食が推奨されています。現代医学的には根本治療はありませんが、服薬を続けることで症状は落ち着きやすく、比較的良好な状態を維持できる傾向です。大腸の定期的な検査は大切です。また眼科領域を専門とする当院では、潰瘍性大腸炎やクローン病の合併症として、非感染性ぶどう膜炎(黄斑変性の診断を含む)の症例を診せていただくことがあります。

・主な病変が大腸にある潰瘍性大腸炎では、クローン病に比較して血液成分除去療法(LCAP、GCAP)の効果が高い傾向があります。免疫低下などの副作用のリスクは小さい治療のため、免疫抑制治療(レミケードやイムラン)に比較して安全といえます。元々直腸・大腸ガンのリスクのある潰瘍性大腸炎では、免疫を抑制する治療法は、できる限り選択すべきではないと考えます。

過敏性腸症候群 IBS
・腸管の知覚過敏(痛み等)や消化管運動の異常により、腹痛や腹部不快感、便通異常が慢性的に起こる症状で、消化管に病変部が見られないものを指します。病変部が明確な炎症性腸疾患(IBD)である潰瘍性大腸炎やクローン病とは異なり、発熱や下血等はありませんが、ストレスなどにより症状が強まる傾向です。内科の検査では異常は認めらませんが、比較的強い症状では患者の日常生活での負担になっています。治療としては腸の働きを高めたり症状を抑える薬物治療や、抗うつ剤が処方されています。心身医学的な治療が行われる場合も多くなります。

・患者さんは検査で異常は認められないため周囲に理解され難いのですが、症状は強いため日常生活は実際に大きく障害されています。現代医学的なアプローチで解決する場合は良いのですが、順調に回復していかない場合や、薬物の長期投与や副作用による別の症状に悩む方も多いのが現実です。中学・高校生では学校生活でのストレスなどから不登校の原因になる場合もあります。
海外では鍼灸治療を含む代替医療の利用も多くなっており、日本国内でも鍼灸治療の果たす役割は今後大きくなると考えられます。

・またクローン病や潰瘍性大腸炎の患者さんでは、以前は過敏性腸症候群と診断されていたケースも多く、後になってIBD(炎症性腸疾患)へ移行する場合も有ります。また針灸治療などでIBDが寛解して良好な状態になると、疲れやストレスの際には下痢や便秘などのIBSに似た症状が出てきます。IBS、IBDは独立して存在する疾患ではなく、消化器系の健康状態が悪化した時に生じる連続した病態とみなすことができます。このことからIBSは消化器官の機能障害に留まっている状態であり、今後は悪化してIBDに移行したり、改善して健康な状態に近づく双方向へ変化する可能性があると言えるでしょう。


中医学での捉え方

・中医学では潰瘍性大腸炎などは〔腸へき〕、〔赤沃〕などと呼ばれています。『素問・太陰陽明論』で「食事が不節制で規則的に生活していない者は陰に影響を受ける。長引けば腸へきとなる。」と あります。飲食の不節制により脾が運化しなくなり湿が体内に溜まったり、不規則な生活で外邪が虚に乗じて侵入し脾胃を損傷して起こります。結果として湿熱や寒湿が結腸に溜まり腹痛や下痢が起こって便に粘液や血が混じることになります。治療は腎を温め脾を健全にする目的で温法と清法を併用します。

・中医学の「腸へき」は主に潰瘍性大腸炎やクローン病を連想させる症状ですが、分かりやすくいえば温法により腸の働きを高めて腹痛や下痢を抑え、清法により発熱や下血・炎症を抑えるということになります。中医学では矛盾する「温補と清熱を同時に行う必要がある」ことから、特にクローン病では大変難しい治療になります。この分野での経験の深い治療家でなければ対処できない疾患です。

過敏性腸症候群は下痢型・便秘型に関わらず、温補と清熱の必要性を見極めながら対処していきます。
どの疾患においても脾・腎もしくは肝がポイントになり、温補と清熱を使い分けることが大切になります。


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当院での針灸治療について

○可能な限り「食べて治す」治療法です。体重を増加させて体力や正常な免疫力の強化を目指します。
 (現代医学での常識的な治療とは方向性が異なります。賛同いただける患者さんにお勧めします。)
 (潰瘍性大腸炎の場合には寛解期が適応です。強い活動期は内科的な治療が必要です。)

○内科での治療薬とは併用可能ですが、特に免疫抑制剤等で治療を行う場合は注意が必要です。
 (レミケード、イムラン等の免疫抑制剤を使用する場合は、治療効果が相殺される恐れがあります。)

○潰瘍性大腸炎の場合、状態によっては比較的長期間に渡り、週に2回程度の治療が必要になります。
 (過敏性腸症候群では、この限りにありません。多くは数ヶ月程度で比較的容易に安定します。)
 (潰瘍性大腸炎で下血が頻繁に起こる重症・活動期の場合には、内科的な治療を優先すべきです)

・針灸により、主に腸での栄養吸収力を高めることや、下痢・下血を起こし難くなることに重点を置いた治療を行っていきます。適切な針灸治療は結果的に体重増加や、正常な抵抗力(免疫力)を高めることにつながります。私自身(クローン病)の例でもあるのですが、十分な体重があれば、少々下痢等を起こしても容易に回復します。体重=余力と考えていただいても結構です。針灸治療を行うことで症状を抑えながら内科での薬物治療も併用して、十分な食事を摂り可能な限り体重・体力を高めることが大切です。なお体重減少がみられない場合には、必ずしも体重増加は目標とはなりません。

・症状や体調が安定していることを確認できれば、薬物(ペンタサなど)から徐々に離脱することも目標になります。薬物治療からの離脱には良好な検査結果等を基にした医師の理解も必要になります。この段階は現代医学の常識ではありませんので、全ての方に可能ではないかもしれません。その後は薬治療からの完全な離脱と食事制限を無くす方向で治療を進めていきます。最終的には針灸治療も治療間隔を空けて、完全寛解=治癒を目指していきます。

・レミケードをはじめとする免疫抑制を目的とした一部の内科的な治療は、正常な免疫力を高める針灸治療と作用を相殺してしまいます。特に潰瘍性大腸炎では直腸癌や大腸癌のリスクがあることから、免疫を抑制する治療法は発癌のリスクが高まることが懸念されます。針灸治療は免疫抑制剤等の副作用を抑える治療としても優れる可能性はありますが、本来治療の方向が異なりますので、十分な治療効果が得られない可能性があります。当院での針灸治療については、こうした方向性に賛同いただける患者さんにお勧めします。


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当院での治療効果の実際


○軟便や下痢、腹痛、軽度の下血は治療を続ける間に緩和していくケースが多いです。
 (薬剤の暫減には医師の理解が必要になります。良好な状態となり薬から離れることを目指します。)
 (過敏性腸症候群や、下血などの少ない軽症の潰瘍性大腸炎では治癒例があります。)

潰瘍性大腸炎
・寛解期にサラゾピリンやペンタサ、アサコール等でコントロールされている方は、針灸治療を取り入れることで、腹痛の症状緩和や下痢を起こし難くなり、排便回数も減少しています。また食欲は増し、体重は増加する傾向があります。当院では症状の変化とともに体重の推移に着目しており、特にクローン病では総合的な回復の目安としています。潰瘍性大腸炎では主に排便回数や性状の変化に着目しており、針灸治療開始後は大きく減少・変化する傾向です。ステロイドについては頻繁な下血が続く場合には、下血の改善との兼ね合いを見ながら少しずつ減らすことは可能ですが、医師の指示によるステロイドの減量が必要です。

・潰瘍性大腸炎の軽症例では、完全に医学的な治療が不要となる治癒例(完全寛解)をはじめ、服薬が不要になったり症状が消失・軽減することが期待できます。ただし頻繁な下血を伴う重症例については潰瘍性大腸炎の活動期と考えられ、状況により針灸治療の適応が難しい症例があります。


過敏性腸症候群
・針灸治療により腹痛の症状緩和や便秘・下痢を起こし難くなり、精神的にも排便の不安を緩和することが期待できます。頻繁に処方される安定剤の服用から離脱できることも必要なのですが、高齢者の方では安定剤等の副作用としての症状(便秘)の場合があり、こうしたケースでは改善が難しい場合もあります。潰瘍性大腸炎やクローン病に比較して、特に若い方や下痢の多いタイプでは数回程度の治療で症状が緩和する症例が多く、針灸治療は広くお薦めできます。


・小学生から高校生にかけての過敏性腸症候群は、頭痛やだるさ等の症状も含めて、学校を休みがちになったりする原因になることも有ります。症状の重さにもよりますが当院で針灸治療を行うことにより、数回程度で比較的容易に改善して登校が可能になるケースも多いため、原因が体の不調にある場合には適切な針灸治療をお勧めします。

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患者さんからよくある質問

Q.適切な治療間隔はどのくらいでしょうか?

・過敏性腸症候群や比較的軽症な潰瘍性大腸炎の場合には、週に1回の針灸治療を推奨しています。症状や病勢がやや強い時では週に2回の治療を推奨しますが、潰瘍性大腸炎の場合で毎日頻繁な下血が続いているような場合には、内科での治療を優先すべきです。針灸治療によって症状が軽快すれば、徐々に治療間隔を空けていきます。経過が良好な症例では、隔週1回〜4週に1回、服薬も必要なくなり治癒として継続した針灸治療を終了している方では、やや調子が落ちたと感じる際だけ来院される患者さんもあります。

Q.合わせて服用できる漢方薬や健康食品などはありますか?

・私も患者さんから教えていただいたのですが、青黛(セイタイ)という名前で健康食品などとして販売されているものがあります。粉っぽくて服用し辛いですが、確かにクローン病(大腸型)や潰瘍性大腸炎の患者さんに良いようです。私自身(回腸・大腸型クローン病)も服用を試したところ、下痢が収まる経験をしています。主に大腸に病変がある炎症性腸疾患には効果があるようですが、小腸型クローン病などではあまり変化が無いようです。潰瘍性大腸炎は大腸に病変があるため効果が得られ易いと考えれます。ただし健康食品の位置付けですので、確実な効果は証明されておらず、服用は自己責任ですので注意は必要です。

・また潰瘍性大腸炎は大腸自体の傷みが強い状態ですが、大腸を含めた消化器官全体の吸収能力が落ちていること、大腸の修復に良質なタンパク質や炎症に対するビタミン類(抗酸化作用)が必要なことから、当院では栄養療法として良質なタンパク質や十分なビタミン類の摂取を推奨しています。詳しくは来院時にご説明します。潰瘍性大腸炎への漢方薬については患者さん毎に体質や状況が異なり、画一的な対応が難しいため誰にでも推奨できる漢方薬はありません。漢方薬を処方していただける信頼できる医師や薬剤師にご相談下さい。
 
Q.潰瘍性大腸炎は治癒しますか?

・潰瘍性大腸炎は、国の指定している特定疾患であり、内科的には完治しない病気とされています。しかし適切な針灸治療が行われた場合には、軽症であれば治癒(完全寛解)した症例は少なくありません。治癒している患者さんでは下痢などがやや頻繁だったとしても、病歴は数年程度までで短く下血がほぼ無いことが共通しています。一方、毎日何回もの下血があるなど重症な症例では、下痢や下血の回数や量は減るといった症状の改善は見込めるものの、完全な治癒は期待できません。なお治癒(完全寛解)とは、潰瘍性大腸炎に関わる症状が無いもしくは軽微で、一切の服薬や食事制限が不要な状態を指します。

・潰瘍性大腸炎やクローン病では、ぶどう膜炎や黄斑変性などの眼疾患を合併することがあります。千秋針灸院は眼科領域を専門に針治療を行っていますので、こうした合併症についても対応することが可能です。

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院長からひとこと


特定疾患指定ということに囚われず、「完全寛解」を目指し前向きに治療に取り組みましょう。
 (潰瘍性大腸炎・クローン病は難病ですが、発症までの過程があるのと同様、回復の過程もあります。)

・病名こそ潰瘍性大腸炎、クローン病、過敏性腸症候群とそれぞれ異なっていますが、中医学の側から見た場合には似通った病気であり、症状の出方が異なる疾患と捉えていきます。つまり現代医学の検査では病変の見つからない過敏性腸症候群も、下血等の重篤な症状こそありませんが、潰瘍性大腸炎やクローン病の延長線上にある病気と見なして治療を行っていきます。潰瘍性大腸炎は、入院が必要な強い活動期は針灸治療の適応ではありませんが、病勢が落ち着いている時期を見計らって治療の開始をお勧めします。過敏性腸症候群では不適応となる期間はありません。

・潰瘍性大腸炎で専門医療機関を受診されている場合に、潰瘍性大腸炎の診断をクローン病に変えてでも、レミケードを行おうとする病院があるようです。潰瘍性大腸炎は長期的に発癌のリスクを伴う病気ですので、免疫を低下させる治療は避けるべきです。レミケードをはじめとした免疫抑制療法は高確率での副作用、長期観察例が少ない事、更に悪性腫瘍や感染症により致命的な経過を辿るケースさえあるものです。この治療さえもクローン病を完治させるものではありませんので、病勢が強く他の有効な治療手段が無い場合の最後の手段の一つとされています。病名がはっきりしない場合(潰瘍性大腸炎の疑いがある場合)に、クローン病として免疫抑制療法を行うことは避けましょう。

・IBD・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎・クローン病)は、私自身にとっても他人事ではない疾患です。私自身の病気のことはクローン病から針灸へに紹介させていただいています。一般にクローン病は発症後、10〜15年も経つと腸の狭窄など、大きな問題が生じてくるのですが、既に発症から20年以上が経過している私が完全に服薬無し・食事制限無しで済んでいる事例や、また千秋針灸院で針灸治療を受けられている比較的軽症のIBD患者さんでは、治癒(完全寛解)例も少なくないことから、現代医学的な治療が必ずしも正しい選択とは限らないということを知っていただけたらと思います。

・慢性化したIBDで何度も入退院を繰り返し、腸の状態を悪化させてしまうと一筋縄ではいきませんが、そもそも全ての病気はある日突然発症するわけではありません。元々の素地(体質)に加え、発症するまでの長い過程が必ずあるものです。そして潰瘍性大腸炎を含めた多くの病気は「ある」と「なし」の二択ではなく、多くは
「健康」-「やや健康」-「不健康」-「病気・初期」-「病気・中期」-「病気・末期」と連続しているものです。つまり治療方法の選択によっては潰瘍性大腸炎も「健康」な状態に近づけていける可能性があり、針灸治療は容易ではありませんが治癒へ向かう道筋を持っています。

・私もクローン病と診断され、国の指定する特定疾患ということで落ち込んだ時期もありました。しかし病気を調べ攻略法を見つけ、ついには治癒(完全寛解)を実現できました。自分で調べた漢方薬も合っていたのでしょうが、重要なポイントは病気と向き合う中で私自身の価値観が変わったことだと思います。
「体を壊すほど仕事をして稼ぐ必要は無い=高収入より面白い生き方を選ぶ→好きなことを仕事にする」
「現代医学では回復不可能=他に病気を攻略する方法を考える→自分で治療法を編み出して治す」

という図式の答えが中医学による針灸治療でした。なにせ自分自身が治療家であることは何よりも心強いです。IBDは、恐らく半分くらいは「気持ちの持ち方」で状態が変わってきます。誤解を恐れずに言えば「病気を過大に評価しない」こと、「こうでなくてはいけない」という固定観念を変えることと思います。

・潰瘍性大腸炎については、発症当初は繰り返し再燃している症例でも長期的には活動性が弱まり、発症から10年以上が経過した患者さんの90%程は、問題を抱えながらも日常生活を営むことができているようです。心配な癌化は十年後で約1%、三十年後で約20%というデータがあり、逆に見れば99%、80%の患者さんは癌化しなかったということで、まったく油断して検査等をしないのでなければ恐れることはありません。その証拠に長期生命予後の数字は、一般の方と生存率の差はありません。必要な治療を優先してある程度自制した生活を送っていれば、そのうち治る病気という具合にとらえて、自分の人生観を変える機会と考えるくらいが適当でしょう。


・IBD(炎症性腸疾患)は自分自身の病気ということで、深い思い入れがあります。現在のところ当院は眼科領域への針治療を専門としていますが、私自身の病気であり、この難病を完全に克服できた体験からIBDへの針灸治療こそが、本当に「私にしかできない役割がある分野」と思います。この病気を持つ全ての方が、少なくとも私と同程度までに回復されることを願ってやみません。針灸治療が少しでも手助けになれば幸いです。 


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  ・本ページの内容は現代医学及び中医学、抗加齢医学、千秋針灸院の治療実績に基づいて書いたものです。
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