55歳未満の人のコーヒーの多量摂取は、死亡リスクを大幅に増加させる

最新疫学研究情報No.97

「55歳未満の人がコーヒーを多量に摂取(>28杯/週)すると、死亡リスクが大幅に増加する」との発表が、米国のサウスカロライナ大学とオクスナーメディカルセンターと英国のバース大学の研究者によってなされました。

全米コーヒー協会(NCA)の最新の調査によれば、米国成人のうち、約64%の人がコーヒーを毎日摂取し、その平均摂取量は1日3杯強であることが報告されています。これまで40年にわたってコーヒーが肥満や高血圧、冠動脈性心疾患に及ぼす影響について調査されてきましたが、「コーヒーと死亡率との関連性」についての研究は限られており、その結果についてもしばしば論争の的になってきました。コーヒーが死亡率を下げるという調査報告がある一方で、相反する研究結果もあり、さらに性別やコーヒーの摂取量などによって異なる結果が示されており、研究者の間で見解が分かれてきました。

今回の研究は、エアロビクスセンター縦断研究(ACLS)と呼ばれる大規模コホート調査に登録した20~87歳の男女43727人を対象に、「コーヒーの摂取と死亡率(*総死亡率と心血管疾患による死亡率)」との関連性を調査する目的で実施(*1971年~2002年)されました。

研究チームは被験者に対し、ライフスタイル・病歴についてのアンケートや空腹時血糖・血圧・心電図などの検診を行い、そのデータに基づき被験者をコーヒーの摂取量ごとに6つのグループに分け(※1)、死亡率との関連性を比較検討しました。(調査期間中に2512人の被験者が死亡しています。そのうち、804人(32%)が心血管疾患によるものです。)

16年間の追跡調査の結果、コーヒーを多量に摂取していた人は、男女を問わず喫煙者が多く、心肺の健康レベルが低かったことが判明しました。「コーヒーと総死亡率」との関連性では、コーヒーの摂取量が増えるほど死亡率が上昇することが確認され、コーヒーを最も多く摂取していたグループ(>28杯/週)は、全く摂取していなかったグループに比べ、死亡リスクが21%高かったことが明らかにされました。しかし、この関連性は男性に限定され、女性では認められませんでした。さらに年齢別に見ると、55歳未満では、コーヒーを最も多く摂取していたグループは、全く摂取していなかったグループに比べ、死亡リスクが男性で1.56倍、女性で2.13倍も高かったことが確認されました。一方、55歳以上では、男女ともに関連性は見られませんでした。

また「コーヒーと心血管疾患による死亡率」の関係については、関連性が見られませんでした。

研究者らは、「今回明らかにされたコーヒーと総死亡率との関連性は、初期に実施された他の研究結果と一致していたが、最近の研究では多様な結果が報告されている。中高年者を対象としたいくつかの研究では、コーヒーが死亡率を下げるという調査結果も示されているが、これは対象条件の選択の際などに生じた偏りによる結果である可能性がある。本研究では幅広い年齢層を対象としており、そうした偏りは少ないものと考えられる。

コーヒーは何千もの化学物質で構成されている複雑な混合物である。最近の研究では、コーヒーが飲食物の中でも抗酸化物質の主要な供給源となることが明らかにされている。それは、炎症に対して効果をもたらす可能性があることを意味する。その一方で、コーヒーにはカフェインが含まれており、それがアドレナリンの分泌を刺激し、インスリンの活性を阻害し、血圧を上昇させ、ホモシステインの濃度を高めるといった悪影響を及ぼすこともよく知られている。コーヒーのこうした作用のすべてが互いに影響し合い、結果的に健康効果を失わせているのかもしれない。今回の結果は、コーヒーを多量に摂取する人に対し、遺伝的な要因やコーヒーの摂取に関連する別の因子の有害作用によって、リスクがさらに高まる可能性があることを示唆している。コーヒーが死亡率を上げる可能性があるという今回の結論については、年齢とコーヒーの摂取量という2つの因子の相互作用に、遺伝的なコーヒー中毒の要素が関係したことによる総合的な結果であると仮定している」と述べています。

研究チームはさらに、「今回の結果により、特に若い人たちにはコーヒーを多量に摂取することを避けるように勧めることが適切かもしれない。今後、別の集団を対象とした研究によって、さらなる分析が必要とされる」と結論づけています。

※1研究者らは、1週間当たりのコーヒーの摂取量により、被験者を「0杯」「1~7杯」「8~14杯」「15~21杯」「22~28杯」「>28杯」の6つのグループに分けています。

当研究所の見解

最近のコーヒーに関する疫学研究ではプラスの効果だけが次々と発表されていますが、今回のようなマイナスの研究結果が示唆されたことは極めて珍しいことです。この研究は大規模コホート調査で研究デザインに偏りがなく、その点では評価に値するものと思われます。しかし、コーヒーの淹れ方(成分濃度)についての基準が徹底されていないという点で、厳密さに欠ける部分があります。研究者は当初、「少量のコーヒーは有益であり、摂取量に関係なく毒性はないという結果を期待していた」との知見を率直に述べていますが、今回の結果は、それを覆すものとなっています。コーヒーが健康に有益な効果をもたらすかどうかは、今後の研究で明らかにされていくものと思いますが、トータル的に見ればコーヒーは健康にとってプラスになるとは言い切れません。少なくともコーヒーを長期間多量に摂取することは、避けるべきでしょう。

出典

  • 『メイヨー・クリニック紀要 2013年8月15日号』online版
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