オメガ3脂肪酸は、細胞の老化を遅らせる

最新疫学研究情報No.96

米国のオハイオ州立大学のJanice K. Kiecolt-Glaser教授らの研究チームによって、「オメガ3脂肪酸を十分に摂取し、食事の油のバランスを変えると、細胞の老化を遅らせることができる」との報告がなされました。

細胞の染色体の末端にあるテロメア(*染色体の損傷を防ぎ、安定性を維持する役割を担う部分)は、細胞分裂のたびに少しずつ短くなることから、テロメアの長さが細胞の老化の指標となる可能性が示唆されています。これまでの研究により、テロメアの短縮と生活習慣病(*冠状動脈性心疾患・2型糖尿病・関節炎・アルツハイマー病など)の発症や早期の死亡といった健康問題との関連性が明らかにされてきました。テロメアは、生体内にさまざまな炎症を引き起こす炎症性サイトカイン(*免疫細胞や内臓脂肪細胞などから分泌される生理活性物質)や過剰なフリーラジカルなどによる酸化ストレスの影響を受けることが確認されています。一方、短くなったテロメアは、テロメラーゼと呼ばれる酵素によって修復されることが知られています。研究チームによる先行調査では、オメガ3脂肪酸が血清中の炎症性サイトカインの濃度を低下させる抗炎症作用があることが明らかにされています。今回の研究では、オメガ3脂肪酸が白血球のテロメアや酸化ストレスなどに対してどのような効果をもたらすかが検証されました。

研究チームは、体をほとんど動かすことのない過体重または肥満の中高年者106人(*平均51歳の健常者)を対象に、被験者を「オメガ3脂肪酸(※1)(2.5g/日)」「オメガ3脂肪酸(1.25g/日)」「プラセボ」のいずれかを摂取するグループに分け、4カ月間、比較調査しました。(二重盲検ランダム化比較試験。体内での吸収や代謝における個人差を考慮するために、被験者の血漿中のオメガ6:オメガ3の比率の変化も測定しています。)

調査の結果、テロメアの長さに関しては、いずれのグループにおいても明確な差は見られませんでしたが、オメガ3脂肪酸を摂取したグループでは、血漿中のオメガ6に対するオメガ3の比率が高くなるほど、テロメアが長くなることが確認されました。また、オメガ3脂肪酸のグループは、プラセボのグループに比べて酸化ストレスが15%少なかったことが判明しました。

研究者らは、「今回の研究により、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の摂取比率が、細胞の老化に影響を与える可能性が示唆された。米国の典型的な食事では、オメガ6脂肪酸が過剰になる傾向がある。米国人のオメガ6:オメガ3の摂取比率は15:1であり、オメガ3脂肪酸による効果を最大限に引き出すためには、摂取比率を4:1、さらには2:1にまで引き下げることが必要である。「炎症」「酸化ストレス」「免疫細胞の老化」の3つの徴候は、病気発症の初期段階の重要なメカニズムを示している。そうした徴候に対し、栄養学的な介入は、病気の発症を防ぐ可能性を秘めている。今回の研究成果は、オメガ6脂肪酸とオメガ3脂肪酸の摂取バランスの潜在的な影響についての理解を広げるために役立つ」と述べています。

※1被験者が摂取したオメガ3脂肪酸は、EPA:DHAを7:1の割合で配合(*先行研究により、DHAよりもEPAの方が抗炎症作用が強いことが示唆されたことによる)したサプリメントです。

出典

  • 『Brain,Behavior,and Immunity 2013年2月号 vol.28』
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