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鍼施術による緑内障性視野障害へのアプローチ 2017年3月15日 Web公開版

2017年3月12日(日) 第34回 「眼科と東洋医学」研究会 台東区民会館  千秋針灸院 春日井真理 菊池真樹子

・解説内容については、当日参加いただいた先生方にスライドを交えて報告した内容を、広く一般の方に分かり易くお伝えするために
大幅に補足しています。当日は限られた時間のためにお伝えできなかった部分も含めて、完成版として見ていただけたら幸いです。


 今回は眼科の静的視野検査の結果から、緑内障性視野障害の報告です。

・「眼科と東洋医学」研究会は、東洋医学に関心の深い眼科専門医の先生方が年に一度、症例などを持ち寄り報告するもので、
今回34回目となる歴史のある研究会です。日本眼科学会の関連団体のため、眼科専門医に必要な認定単位が取得できます。
今回は眼科医以外に薬剤師、鍼灸師の参加も増えたことで、座席が足らなくなるほどの盛況となり、千秋針灸院からは最新の
統計症例報告として「鍼施術による緑内障性視野障害へのアプローチ」を、先生方に見ていただける絶好の機会となりました。

・昨年同様、背景に使った小さな波紋は、今回の報告が眼科医療の選択肢の一つとして、針治療があることを知っていただく
きっかけとなることへの願いを込めています。私はホームページを通して広く一般の皆様に丁寧に説明していくことと同時に、
医療の中心となる眼科専門医の先生方に直接説明させていただくことで、少しでも多くの患者さんの目の健康に、適切な針治療が
役立てられることを願っています。


 複数回の検査結果が手元にある方は限られるため、対象となる症例は少ないです。

・千秋針灸院で診せていただき、治療は他院で受けられた症例を含めると、緑内障については概ね200名以上の実績があります。
しかし今回の報告は眼科の先生方に正しく評価していただく必要から、眼科から静的視野の検査結果を入手された患者さんに限られ、
かつ鍼治療前後の直近に各2回以上の検査結果が残り、緑内障性視野障害の確実な症例のみを対象とさせていただきました。
結果として8名15眼と症例数は少なくなりましたが、データの信頼性は申し分なし。なお眼科での点眼薬などの治療は考慮していません。

・HFA30-2とは、静的視野計(ハンフリー)による中心から30度以内の視野検査で、緑内障性視野障害では標準的な検査方法です。
・GHTとは緑内障半視野テストといい、視野障害のパターンが緑内障の特徴を示す事を判定する検査です。視野検査に含まれています。
・視野検査は通常、半年に1回程度。状況により3ヶ月毎の場合もあります。眼科が決めることなので、当院が干渉することはありません。

 昨年と同じスライドを使わせていただきました。気が付かれた方はいるでしょうか。

・千秋針灸院での鍼治療について患者さんの立場で一番心配される内容は、眼球を傷付けたり悪化する心配はないのか。という
ことですが、目の周りについては非常に浅い鍼(深さ数ミリ)ですので、眼球自体を傷つけたり網膜に悪影響を与える心配は全く
ありません。まれに僅かな皮下出血を生じることがありますが、鍼治療による出血はいつまでも消えない痕を残す心配はありません。
痛みについても小学生低学年から実際に行えているため、「なんだ、痛みはこんなものか」と安心される患者さんがほとんどです。

・緑内障は多くの場合、ぼやけていた部分がはっきり見えるなど、1回の治療だけで視野内の感度は改善することが確認できます。
・視野などの状況により週2回もしくは1回の治療から始めて、概ね3ヶ月程までに結果が安定してきます。その後は治療間隔を
空けても視野などの維持は容易なケースが多いため、状態を確認しながら週1回~隔週1回以下に治療を減らしていきます。
・様々な理由により治療回数や間隔が適切に行えない場合には、十分な結果に繋がらない場合もありますので、必要であれば
お近くの提携治療院などへの通院もご検討下さい。


 視野検査は鍼治療前後2回の平均値の比較として、測定誤差を減らしています。

・鍼治療の前後で各2回のMD値の平均を比較しています。ハンフリー視野計は比較的誤差は少ないのですが、2回の平均値とすることで
患者さんのコンディションや、レンズの装着状況など検査毎の微妙な違いから出る誤差を軽減しています。2回の平均値で比較することは
眼科学的に意義のある評価するために最低限の基準となりますので、今回の報告も眼科同様の基準としました。

・緑内障性視野障害におけるMD値は個人差はありますが、一般に緑内障の進行に伴い1年で-0.5db程度低下することが分かっており、
眼科での点眼薬や手術などの治療も、低下量を抑えることが目標となっています。このため今回は平均MD値を比較して、±0.5db未満の
変化は不変、0.5以上の改善は有効、0.5以上の低下は悪化としています。現在の眼科医療で平均MD値の改善は不可能とされるため、
「一度失われた視野は、回復することはない」は、眼科医療の常識となっています。

 鍼治療によりMD値(視野内の平均的な視野欠損の状況値)は改善する傾向です。

・当院で鍼治療を続けられた患者さんの平均MD値の変化は、9眼(60.0%)で改善、4眼(26.7%)で維持、2眼(13.3%)で悪化という結果でした。
全15眼の平均MD値も-4.4dbから-3.64dbへと17.3%の改善であり、概ね6割の方で鍼治療による視野の改善傾向にあることが分かりました。
専門家の方に統計学的に検討していただいたところ、鍼治療前後での有意差の信頼性は95%以上を達成しており、症例数は少ないものの
妥当な結果であるとの意見をいただきました。(計算上は97%以上とのことです)

・今回の結果については、私も日々の診療で感じていた感覚と概ね合っています。緑内障の患者さんは眼科で視野検査を行われますが、
視野検査の結果を比較していくと、鍼治療開始当初から半数以上の方でMD値は改善し、その後に安定する傾向があります。グラフ上で
維持や悪化は-4db未満の初期緑内障(定義上は-6dbまで)に集中していますが、当院では初期緑内障かつ中心10度以内に問題が無い
場合には、患者さんの負担軽減のために治療間隔を早期に週1回~月1回へと減らしていることも理由かもしれません。要検討課題です。


 7年間鍼治療を続けられた正常眼圧緑内障の1症例をご紹介しました。

・長期間鍼治療を継続されている、初期の正常眼圧緑内障の1症例をご紹介させていただきました。
・眼圧については既にレーシックを行われていたため、検査値は信頼性が低くなり、一般に眼圧は低めになります。
・初期緑内障で、かつ中心10度以内も正常なため、当初3ヶ月は週1回、以降は隔週1回の鍼治療となりました。

・当院にて約2年半治療を続けられ、現在はお近くの鍼灸院で治療を継続されている患者さんです。

 眼科検査(MD値)の結果は右肩上がりに改善。理想的ですが珍しい症例です。

・鍼治療開始前に2回の視野検査を行っていますが、1回目は恐らく慣れていないための低値であり、2回目以降が正確な数値です。
通常であれば時間と共にMD値は徐々に低下するのですが、鍼治療を始めてから緩やかに改善し、直近の視野検査では両眼共に
MD値は+へと改善しています。MD値が+の意味は、同年代の正常眼以上に視野・感度が良好という意味で、当院では時々あります。

・注目すべきは鍼治療だけでなく、10回目検査後から当院でも血流・血圧改善のための指導を強化しており、この頃(2013年頃)から
他の緑内障の患者さんでも良好な結果が増えてきました。低血圧を改善することを中心に軽度な運動やツボ押しなどを取り入れ、

点眼薬に頼った眼圧降下だけでなく循環改善を目指すことは、今後の緑内障治療の重点課題になると思われます。

 視野に限っての評価なら治癒。血流改善が大切なことを学びました。

・鍼治療開始から7年経過した現在は、眼圧は右5、左7と当初より更に下がり、MD値は両眼で+、GHTも正常範囲内です。
視野に限っての評価であれば、緑内障性視野障害は治癒として差し支えない状況です。7年という長い期間で徐々にMD値が
改善した事実は、「一度失われた視野は、回復することはない」という常識を覆す結果と言えるでしょう。但し、ここまでの
良好な結果は当院でも稀であり、様々な患者さんの努力や幸運も重なった結果と思われます。


・眼科医の先生から「鍼治療で眼圧が下がり過ぎ、低眼圧黄斑症の恐れは無いか」という質問がありましたが、この症例は
レーシック術後のための低眼圧ということと、他の症例も含め針治療による低眼圧黄斑症の経験は無いことをお話しました。
眼圧は鍼治療を始めると、概ね15以上のやや高めの方は低くなりやすく、15未満の方は若干低下し安定する傾向です。
鍼治療を適切に行えている患者さんでは、多くの場合に手術等を回避することに繋がります。


 今後は視野以外の検査や症例数の増加も課題、緑内障への挑戦は続きます。

・鍼治療は緑内障性視野障害を一定度改善することを含め、進行を遅らせる可能性があることが、眼科検査でも明らかに
なりました。また鍼治療を含めた血液循環の改善全体が、眼圧以外に緑内障治療の新たな鍵になる可能性も分かってきました。

・課題として更に多くの症例数も必要ですし、近年では視野以外にも様々な検査法から、緑内障は詳細に検討されており、
鍼治療の評価は視野以外にも多面的に行う必要も出ています。また患者さんがご自身で可能な血液循環の改善方法を、私達
眼科医療の側が適切に提示していくことも大切です。課題だらけではありますが、希望の光が見える統計症例報告となりました。


・今回の報告に尽力いただいた竹田眞先生をはじめ、「眼科と東洋医学」研究会の眼科の先生方、ご協力いただいた患者様、
共同発表者の菊池先生やスタッフ、支えてくれた家族や提携治療院の先生方、応援していただいた皆様に感謝いたします。


Copyright © Chiaki. All Rights Reserved 2017.3.15 

千秋針灸院の著作物ですので、無断使用・転用等は固くお断りします。引用などの際は著作者を明記するようお願いします。

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