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緑内障性視野障害への鍼施術  2024年6月5日Web公開版

2024年6月1日(日)  第74回 日本東洋医学会学術総会 
ミニシンポジウム「緑内障の漢方治療 ~目の不調でも腹を診る~」 大阪国際会議場  千秋針灸院 春日井真理


・解説内容については、当日参加いただいた先生方にスライドを交えて報告した内容を、広く一般の方に分かり易くお伝えするために
大幅に補足しています。当日は限られた時間のためにお伝えできなかった部分も含めて、完成版として見ていただけたら幸いです。

・千秋針灸院では皆様のご協力により多数の検査画像等を保有していますが、許可を得て研究会や学会報告、院内での説明時に限定しています。
・個人情報がネット上で拡散した場合、今後検査結果を患者さんが入手し辛くなるケースも考えられるため、安易な公開は慎むよう努めています。



・今回は日本東洋医学会のミニシンポジウム内で、緑内障性視野障害への鍼治療を症例報告を通してご紹介しました。

・日本東洋医学会は漢方・鍼灸などの東洋医学の国内最大の医学会で、東洋医学に関心のある医師、薬剤師、鍼灸師が会員となっています。
・私は東洋医学会の会員ではありませんが、座長の山本先生からの推薦、日本東洋医学会からの講演依頼という形で参加させていただきました。
・ミニシンポジウムの全70分の内、私の症例報告は僅か8分程ですが、当日は100名近い先生方が参加され、熱心に聴いていただけました。
・今回は統計症例報告ではなく、先の東北大学・有田先生による、鍼灸・漢方の研究報告に続く形での緑内障の長期的な症例報告になります。


・毎回お馴染みの施術画像です。実際鍼をする経穴名は抄録に記載されています。

・ディスポーザブル(使い捨て鍼)を使って、うつ伏せの姿勢から頚肩部や背中、腰にかけての目に関係するツボに針治療をしていきます。
・仰向けでは手足や眼の周囲に針をします。目の周囲は直径0.12~0.14ミリと特に細い針を使い、目周囲での出血等を大きく減らしています。
・8歳位の子どもさんから様々な眼の症状・病気に針治療を行っています。乳幼児は鍼よりも効果は弱まりますが、小児打鍼法で対応できます。



・症例①は20代と若い患者さんの症例で、レーザー手術に加え3種の点眼薬を使用しても眼圧は高く、視野障害は中~後期相当まで進行していました。

・眼科での眼圧は鍼施術前直近は右20・左24と高い状態でしたが、点眼薬は変わらずで2か月近く経過後は右16・左18へと大きく低下していました。
・鍼治療を行うと特に眼圧が高めの患者さんでは早期に低下していくケースが多いですが、長期的には点眼薬の変更もあるため評価できません。
・数回の鍼治療で眼圧25以上が10以下へと低下して手術を回避できた症例や、点眼薬で下がらない眼圧が鍼治療で初めて下がる症例もあります。


・公開は控えますが、症例①の左眼・静的視野検査(ハンフリー30-2)画像です。鍼治療前直近、半年後、5年後の結果となります。

・MD値とは平均偏差の値で、視野内の平均的な視野欠損の状況を示しています。静的視野検査を評価する上で最も重要な値の一つです。
・症例①では鍼治療開始前直近の右眼MD値は-13.71dBでしたが、鍼治療開始半年後-11.10dB、5年後-8.83dBと改善が見られます。
・鍼治療を継続された患者さんは、数年から5年位まではMD値の改善例が半数程度に見られ、その後も比較的安定するケースが多いです。


・73ヶ月間に14回行われた静的視野検査は、MD値の一時的な改善ではなく、長期的な確実性の高い改善であることを意味しています。

・MD値の改善はあり得ず検査への慣れや偶然とされますが、検査回数が多いほど確実性が増しますので、今回の結果は偶然ではありません。
・今回の報告は鍼治療開始前直近以降の全期間ですが、鍼治療開始前から何度も視野検査は行われていますので、慣れも除外できます。
・両眼共に比較的類似したMDスロープとなりますが、鍼治療開始前の左・後期、右・中期の視野障害は、左・中期、右・前期へと改善しました



・症例②は緑内障の診断が増え始める壮年期の患者さんの症例です。両眼共に緑内障性視野障害は前期相当になります。

・眼科での眼圧は鍼施術前直近は右20・左13でしたが、点眼薬は変わらずで1ヶ月後の眼圧は右15・左14と右は大きく低下していました。
・40代~50代の緑内障患者さんの視野障害は、前期~中期とまだ大きく進行していない症例が比較的多いことも特徴です。


・公開は控えますが、症例②の右眼・静的視野検査(ハンフリー30-2)画像です。鍼治療前直近、1年後、4年後、10年後の結果となります。

・症例②では鍼治療開始前直近の右眼MD値は-3.50dBでしたが、1年後-3.05dB、4年後-2.73dB、10年後-0.35dBと緩徐な改善が見られます。
・症例①・②のような早期に発症した緑内障は今後の視野障害進行が心配されますが、10年以上経過した50代でも進行は抑制されています。


・127ヶ月間に39回行われた静的視野検査は、やはりMD値の一時的な改善ではなく、緩徐ですが長期的で確実な改善であることを意味しています。

・症例②では10年以上もMD値の改善が続きますが、他の症例では放物線の様に次第に水平に近づき、やがて僅かに低下する傾向もあります。
・MD値の改善機序は質疑にも出ましたが、私は死滅した視神経の再生ではなく、弱って機能不全に陥った神経の再活性化が理由と推測します。
・私は敢えて上記の回答は控えましたが今後、大学病院等で視神経を細胞レベルで研究していく中で、明らかになっていくことと考えています。


・症例③は緑内障の進行した高齢の患者さんの症例です。両眼共に緑内障性視野障害は後期相当になります。

・眼科での眼圧は鍼施術前直近で右14・左15、点眼薬の変更はなく1ヶ月後の眼圧は右14・左15と不変でした。
・60代以降の緑内障患者さんの視野障害は、前期~中期の方から後期へと進行した症例も多く個人差も幅広いことが特徴です。


・公開は控えますが、症例③の両眼・静的視野検査(ハンフリー30-2)画像です。鍼治療前直近と6年後の結果となります。

・症例③では鍼治療開始前直近のMD値は右-24.61dB・左-21.46dBでしたが、6年後は右-22.40dB・左-19.74dBと緩徐な改善が見られます。
・高齢者では若年者に比較してMD値の改善する症例割合は減り、大きな改善も少なくなる傾向ですが、進行を抑制する可能性は高いです。


・72月間に13回行われた静的視野検査は、僅かにMD値は改善していますが、若年者ほど明確ではありません。

・症例③では6年間で僅かなMD値の改善となります。初回治療時から後期緑内障でしたが、少なくとも視野障害の進行は抑制されています。
・緩やかに視野障害が進行している他の症例でも、MD値のトレンド解析で予後が延長するなど、進行抑制を裏付ける結果も得られています。
・高齢者では生存期間中の視機能維持の観点から、鍼治療の導入方法を検討する必要があり、長期的に無理のない治療頻度が適切です。


・眼科での緑内障治療に、適切な鍼治療を併用することは、視野の主要な指標であるMD値の改善や長期的な視機能維持に繋がります。

・今回の報告は眼科での点眼薬や手術中心の緑内障治療に、東洋医学的なアプローチが有効であるケースを公に示せたと考えています。
・今後は眼科専門医による漢方薬に加えて適切な鍼治療を生かした、新しい緑内障治療の選択肢として確立を目指していきたい所存です。


・今回の報告に尽力いただいた山本昇伯先生をはじめ、緑内障ミニシンポジウムに登壇の演者様、日本東洋医学会の関係者の先生方、
ご協力いただいた患者様、千秋針灸院のスタッフ、支えてくれた家族や提携治療院の先生方、応援していただいた皆様に感謝いたします。


Copyright © Chiaki. All Rights Reserved 2024.6.5 

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