糖尿病、糖尿病性網膜症 当院は中医学による、眼科針灸を専門とする治療院です
更新日 2009.1.28 1.003
○現代医学での概要
○中医学での捉え方と、当院での治療の実際
○千秋針灸院で行う測定法について
○当院の症例報告
○院長からひとこと
○関連リンクと参考文献
現代医学での概要
糖尿病
糖尿病は様々な遺伝因子・環境因子により発症すると考えられている。インスリン依存型〔T型、若年型〕と非依存型
〔U型、成人型〕の肥満と非肥満のもの、その他二次性がある。40歳以上の日本人10人に1人が羅患している。
食後で血糖200以上は糖尿病と診断できるが、自己注射を行う者は既にβ細胞が減少している。しかしβ細胞は無く
なる事はまれなので適切な治療により自己注射を止めるまでに回復する可能性はある。
初期から中期では口渇、多飲、多尿、体重減少、全身倦怠、インポテンツ等。合併症として白内障、網膜症、腎症、
大動脈硬化壊疽、神経痛、末梢神経障害、壊疽、易感染等。食事、運動療法による血糖コントロールが全期に渡り有効。
自己注射による低血糖はジュース等の糖分を取らせる。治療は早期ほど有効だが、10年で網膜症50%、腎症40%であり、
食事・運動療法が難しい事を証明している。
糖尿病性網膜症
糖尿病により網膜の毛細血管が痛み、出血や新生血管が生じる病気で糖尿病発症後、平均約5年ほどで発症がみられ、
10〜15年経過すると半数以上となる。日本の成人の中途失明原因の第1位である。単純性網膜症、前増殖網膜症、
増殖網膜症へと進むが、眼の異常を自覚できるのは増殖網膜症からという場合も多い。糖尿病の眼への合併症としては
網膜症の他、白内障、虹彩炎、調節障害や外眼筋麻痺などがある。
当院の鍼灸治療では目周囲の血流改善により、増殖性網膜症の末期である網膜剥離が起こる前であれば、治療の対象と
なります。鍼治療により飛蚊症の改善や視力向上も確認しています。ただし糖尿病のため毛細血管が痛みやすく、一時的に
改善しても何かのきっかけで急に視力低下をきたす等、不安定な状態になりがちです。ですので増殖性網膜症の段階では、
とにかく失明を避けるための一時的な治療や、血糖のコントロールが十分に行われるまでの時間稼ぎが目的になります。
基本となる血糖のコントロールができていれば、鍼灸治療の適応疾患です。
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中医学での捉え方と、当院での治療の実際
糖尿病は消渇と呼ばれ、飲食の不節制、感情の乱れ、先天的な原因、性交過剰等の原因で、陰津を損傷し燥熱が体内に
発生したために起こると考える。清熱、健脾、滋養、肝腎等により育陰生津の治療を行う。
『金匱要略』では消渇治療薬として白虎加人参湯が挙げられているが現在でも有効な処方である。中薬や針治療の早期
開始と長期間治療を続けることが重要となる。
糖尿病
非インシュリン型・インシュリン自己注射を行っている患者さんの多くの例で、針治療を数年程度かけて行えば、HbA1c値は
概ね7.0未満へと概ねコントロールできています。針灸治療単独ではなく、他療法と併せて行うことが大切になってきます。
このことから当院では糖尿病本体や糖尿病の合併症を一緒に治療していくとともに、病医院での治療は基本的に維持して
いただいています。頻尿(多尿)や体重減少、倦怠感等の症状を軽減する効果も出ています。網膜症に代表される合併症が
出てから通院される方が多いのですが、早期から針灸治療を併せて行うことで、糖尿病のコントロールが容易になり、
病医院での検査結果でも良好な結果が期待できます。
糖尿病性網膜症
合併症の中でも最も日常生活に影響のある病気で、眼底での出血を繰り返して視力を失っていきます。千秋針灸院では
網膜からの出血性疾患として網膜黄斑変性症の治療例が多く、ほぼ同じ治療方法で糖尿病性網膜症も治療可能です。
視力の向上だけでなく、飛蚊症をはじめ各種症状が改善して、目の調子は安定する傾向がみられます。
眼疾患の針灸治療は当院の専門領域でもあり治療実績も蓄積されています。
千秋針灸院で行う測定法について
NIDEK社システムチャート SC-2000
当院の視力測定はNIDEK社のシステムチャート SC-2000 を3メートルの距離から運用するもので、眼科領域では最新の
視力表であり、一般の眼科では測定不能な場合さえある0.1未満の視力まで詳細・正確に測定可能です。視力測定は毎回
片眼ずつに加え両眼も行う場合があります。視力は測定時の調子で変動があるのですが、変動・両眼も含めた患者さんの
実際視力を把握していきます。
(本機は公式に0.03より遠見視力検査が可能です。また白黒反転・小児チャート等、疾病に応じた測定が可能です。)
当院の測定で視力の2〜3段階程の向上が確認されたケースでは、眼科医を受診された場合の視力検査でも同様に視力は
向上しています。当院は多くの症例で眼科医にも視力の改善は認めていただけています。当院での測定は治療方法や
方針を転換する時期を探るためにも重要です。このため当院の測定を拒否される場合、治療をお断りすることがあります。
鈴木式アイチャート
鈴木式アイチャートは全国の眼科や脳外科などで各種スクリーニングに役立てられている検査方法です。
歪みや暗点などの自覚症状に関して、鈴木式アイチャートにより視界内の状況・領域を把握する測定を行っています。
歪みや暗点の視野内での位置や大きさ・状況を測定し、針灸治療により変化があれば、測定結果に反映されます。
アムスラーチャートを改変したチャートにより、変視部位の座標が特定しやすくなっています。この測定法を導入してから、
視野内の歪みの消失・改善や、眼底検査でも検出できない微小な眼底出血の変化が確認できるようになりました。
眼科領域の治療には最低限、視力や視野等を客観的に把握できる環境が必要になりますが、一般の治療院では通常、眼科
領域に特化した設備や備品が備えられていません。眼科領域の鍼治療を受けられる場合には、治療が漫然と続けられたり、
治療効果が判然としない場合が多くなることを防ぐためにも、測定法は重要になります。当院との提携治療院では、視力表や
鈴木式アイチャートを導入している治療院もあり、提携治療院では測定したデータを生かすことも可能です。
(全ての提携治療院が導入している訳ではありません。)
当院の症例報告
症例1 40代 両眼・増殖性網膜症
15年前に糖尿病と診断され、4ヶ月前から眼底出血があり、視界が曇ったような感じがし、強い飛蚊症があったが、
数日前に転倒し、右目がほとんど見えなくなった。直近のHbA1cは11前後、インスリン自己注射は行っていない。
眼科での矯正視力は右0.4、左0.9
当院測定結果
初診時 右0.05、左0.8 (持参の眼鏡で測定。右目は転倒したため眼底出血が強まったものと思われる)
3診目 右0.1 左1.0 (5日後 視界の曇りは転倒直後から若干薄くなる)
10診目 右0.5 左0.9 (3週間後 転倒前に戻った感じ。曇りはまだあり、強い飛蚊症も残っている。)
20診目 右1.0 左1.5 (7週間後 非常に調子良く、視界の曇りや飛蚊も少ない。ただし視力の数値は不安定)
比較的短期間に大幅な視力の向上や、視界内の曇り、飛蚊症の軽減が得られた症例ですが、HbA1cはインスリン
自己注射を行っていないためもあり変化はなく、糖尿病への根本的な治療が必要と説明し続け、半年後にようやく
インスリン自己注射を開始してHbA1cは7前後まで下がり、視力も安定しました。
当院での糖尿病性網膜症への針治療は、視力をはじめ目の状態を向上・安定させる可能性がありますが、病気の
本体である糖尿病の血糖コントロールができていないと、たとえ目の調子は良くなっても糖尿病からの進行圧力は
止まりません。網膜剥離の発症前なら網膜症はとりあえず針治療で抑え、その間に適切な治療や食事・運動療法を
取り入れて糖尿病を改善しましょう。当院の観察ではHbA1cが7.0を超えると網膜症の進行圧力が高まるようです。
症例2 60代 両眼・前増殖性網膜症、外眼筋麻痺を合併
数年前から飛蚊症があったが、1年程前に外眼筋麻痺が起こり、その時に糖尿病および網膜症と診断された。
眼科での視力(裸眼)は左右ともに0.7、HbA1cは直近で8.1。インスリン自己注射は行っている。
当院測定結果
初診時 右0.7、左0.9 (裸眼で測定。0.5前後でも見えない場合がある等、かなり不安定な見え方をしている)
6診目 右0.7 左0.9 (5週間後 飛蚊は消失、視力は安定してきた。外眼筋麻痺も自覚的には改善した。)
20診目 右0.8 左0.9 (20週間後 HbA1cは7.1と良くなっている。視力は安定し、飛蚊症も出ていない。)
60診目 右0.7 左0.8 (1年半後 HbA1cは7.2。視力は安定し飛蚊症も出ていない。外眼筋麻痺は気にならない。)
視力は数値としては大きな変化は無いものの、安定した見え方をしており、飛蚊症の消失や外眼筋麻痺といった
自覚症状は改善されました。HbA1cも8.0前後から7.0前後へと改善しています。治療開始から1年後に治療間隔を
2週間に1度とし、良好な状態を維持しています。
症例の患者さんに限らず糖尿病への針治療は、インスリン注射等の適切な治療や食事・運動療法を伴っていれば、
HbA1cに代表される数値は若干良好となる傾向があります。針治療は網膜症へのアプローチだけでなく、糖尿病
本体への全身治療も併せて行うため、網膜症の進行予防に加えて、糖尿病の改善にも役立てることができます。
院長からひとこと
糖尿病を患っている方は日本だけではなく中国でも数多くの患者さんがいます。糖尿病の診断が付いた時には既に進行
しているケースも多く、食事や運動は頭ではわかっていても、なかなか改善できないものです。そうはいっても放置すれば
進行して、手足の痺れや目の症状が現れてくるので、油断はできません。
インシュリンの自己注射が必要になるまで進行してしまうと、針灸による治療もやや難しくなってしまいます。
糖尿病性網膜症も5〜10年程度で発症・進行してくると考えられますので、やはり早期に治療を開始すべきでしょう。
針灸治療の目標は代謝異常の正常化と合併症の予防にあるのですが、食事、運動療法、経口剤療法、インスリン
注射等と併用すべきで、針灸治療のみとするような過信は禁物です。非インシュリン型で、肥満体型〔痩せていない〕、
刺針時のヒビキ感がはっきりしている、という場合等に治療効果は高いという報告もあります。
進行程度が深く関わりますが、中国での報告は針灸のみの治療で血糖値降下などの有効率は7割程度とされます。
日本での報告は週2回程の治療で数年間という報告があり、早期から長期間の治療が必要です 。
糖尿病性網膜症は糖尿病の合併症としては、失明の可能性さえあり最も日常生活に影響を与える病気です。当院では
増殖網膜症の末期である網膜剥離等が起きる前に進行を抑え、同時に日常生活の改善を含めた糖尿病への根本的な
治療を行っています。視力や症状の改善と共に、HbA1cの改善や安定も効果の目安となります。当院は眼科領域の治療を
専門としており、眼科医学に基づいた測定・評価法によって針灸治療の効果を確実なものとしています。
千秋針灸院には様々な病気や症状の方が来院されますが、当院は網膜黄斑変性症、網膜色素変性症、緑内障をはじめ、
糖尿病性網膜症を含めた眼科関連疾患の患者さんは、来院される方全体の6割以上、年間延べ3.000例(08年)に上ります。
こうした結果、眼科領域の疾患に関しては臨床例が圧倒的に多く、データや治療法、経験も豊富に蓄積されているため、
一般の治療院と比較して治療結果にも大きく差がつくと思われます。遠方の方は提携治療院等、紹介可能で充分な治療
水準の治療院がある場合には、通える範囲にある治療院を紹介していますが、眼科領域の疾患に対応できる治療院は
非常に限られていますので、通院可能な場合は出来る限り当院、もしくは提携治療院での治療をお薦めします。
●眼科領域の難病治療を提携治療院で(当院ページ)
参考文献
『今日の眼疾患治療指針 第2版』 医学書院
『眼科プラクティス2 黄斑疾患の病態理解と治療』 文光堂
『眼科プラクティス12 眼底アトラス』 文光堂
『眼科プラクティス21 眼底画像所見を読み解く』 文光堂
『眼窩プラクティス22 抗加齢眼科学』 文光堂
『視能学・増補版』 文光堂
『現代の眼科学 改訂第9版』 金原出版
『中医臨床 102号 眼科の中医治療』 東洋学術出版社
『難病の針灸治療』 緑書房 他
臨床各論 医歯薬出版株式会社
わかりやすい内科学 文光堂
針灸学〔臨床篇〕 東洋学術出版社
最新針灸治療学 医道の日本社 他
本ページの内容は現代の眼科医学及び中医学、千秋針灸院の治療実績に基づいて書いているものです。
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