1 父/娘平手1
「ザン!!」
父であり、コーチであるタルートリーの声に、ザンはビクッと縮み上がった。彼は、つかつかとコートの中に入ってくると、馬跳びの姿勢になった彼女のお尻をばしっと叩いた。彼女はよろけて転びそうになった。父が彼女の体を支えてくれた。
「…有難う御座います…。」
震える声で答えた。
ザン・遅坂。中学一年生。厳しくて怖い両親と、知的障碍がある弟、武夫の4人暮らし。父がコーチをしている女子バスケットボール部に所属しているが、入りたくて入ったのではなく、無理矢理に入部させられた。他に入りたい部があると言ったら、父の膝の上で嫌と言う程、お尻をぶたれた。
父は、娘であろうと女は尻以外打たないと公言しており、いつもお尻を叩かれてきた。叩かれる理由は、納得できることもあれば、理不尽と思えるものもある。遅坂家は父の言葉が全てなので、それはどうしようもなかった。彼は減点法で怒るので、誉められた記憶は無く、ザンは、父に愛されていると実感出来なかった。
母アトルは、彼女には厳しい人で、いつも家に居る分、ザンは父よりも母に叱られた記憶の方が多い。彼女の愛情は弟に傾いている為、ザンは滅多に可愛がって貰えない。ただし、愛されていないとは思っていない。
弟は、母に溺愛されているので、ザンは彼を嫌っている。でも、弟自身は良い子で、いつもにこにこ笑っていて、ザンと父以外、皆に愛されている。彼には不思議な所があり、現実派の父はそこが嫌なようだ。
父が決めた躾はお尻叩きでという決まりに則って、ザンは叱られたら必ず、武夫は時々、お仕置きとしてお尻を叩かれている。父の趣味で母も叩かれているが、ザンは気にしないと決めていた。
部活終了後、女子バスケ部員は壁に手をついて一列に並び、タルートリーのお尻叩きを受ける。別に全員と決まっているわけではないが、厳しいタルートリーに注意されずに済む部員はいないので、結果として、全員がお尻を叩かれる。それは、一部マニアの目を楽しませているとかいないとか。
ザンは、ミスの時も、この時も、自分だけがとても強く打たれていると感じる。必要以上に痛い思いをさせられている気がして、とても辛い。でも、止めたいと言ったら、また叩かれるのは目に見えているので、ただ我慢している。
掃除やら何やらを終えた後、更衣室へ戻りながら、ザンは涙が零れるのを感じた。タルートリーを酷く怒らせるミスをしてしまった。家へ帰ったら、お仕置きだろう。その痛みを思うと、涙が止まらない。泣きながら廊下を歩き、更衣室に着いた。戸を開けようとすると、後ろからぐいっと引っ張られ、向きを変えられた。こんな乱暴をするのは父しかいない。ザンは怯えながら顔を上げた。 彼女を睨みつけている父の顔があった。目をそらしたかったが、そらすときつく叱られるので、必死でその瞳を見つめ返す。
「着替えが終わったら、部室に来なさい。」
「はい、お父さん…。」
返事を聞いたタルートリーは、さっさと歩いて行く。ザンは着替えたくなくなった。
部室の前まで来たが、動けない。これからぶたれると思うと、中へ入って行けないのだ。でも、多分、自分が来たと父は気づいただろうし、いつまでもグズグズしていると、回数が増えてしまう。ザンは意を決して戸を開けた…が、どんっと父に扉をぶつけてしまった。
「あ、ご免なさい!」
身を竦めていると、中に引っ張られた。
「なかなか入って来ぬから、入れようと思えば…。」
「ご免なさい…。」
謝るザンを無視して、タルートリーは鍵をかけた。「わたし、逃げたりしないよ。」
ザンの言葉に、父は意地悪な目をすると、鍵を開けながら言う。
「お前は、裸の尻を打たれている所に、誰かが入ってきても良いというわけか。」
「あっ。そんなの嫌…。余計なことを言ってご免なさい、鍵をかけて。」
父は無言で自分を見ている。ザンは後、何を言えばいいのだろうと考えた。「……あ、お願いします。」
「よろしい。」
父は、やっと鍵をかけてくれた。
手を引かれて、膝の上にうつ伏せにされる。椅子が低いので、手が床についた。目を閉じて身構えようとする間もなく、制服のスカートの上へ手が飛んできた。痛かったけれど、声を出さないように我慢する。
ばん、ばんっと15回ほど叩かれた後に、スカートが捲くられる。お尻に力が入る。パンツだと殆ど防御してくれないから。
ばしっ、ばんっ、ばんっ…。パンツの上からは20回。父に、今、何回かと訊かれる場合もあるので、数える癖がついている。
パンツを下ろされ、とうとう本番が来てしまった。既にザンの目には涙が滲んでいた。とても恥ずかしがる余裕はない。ばしぃっ、びしぃっと平手がお尻に当たる。とても痛い…。『お父さん、凄く怒ってる…。帰ってからもう一回ぶたれちゃうかも…。』ザンは怖くなる。
「うっ、くっ。」
痛くて、ぶたれる度に少し声が洩れる。でも、もう少し我慢してからでないと…と必死に耐える。涙の方はどうしようもなく、ぽろぽろと床に落ちる。泣いても怒られないので、それは少し楽だ。
「あの程度のボールがとれぬとは…今まで何をやってきたのだ!」
それまで無言だった父が言葉を発した。「一年生でレギュラーをやらせているのに、あれでは、わたしがお前を贔屓してると、他の部員に思われてしまう。」
本当は贔屓どころか、他の部員以上にしごかれて苛められてる…と言いたかったけれど、黙っていた。ちっとも嬉しくないけど、それも一応は特別扱いだから。
「反省する気が少しでもあれば、扉の前で黙って立っていないで、すぐにでも罰を受けに来るものではないのか?いや、わたしが言い出す前に、お前から、『お父さん、わたしのミスを罰して下さい。』と申し出ようと思うのが、当たり前ではないか?」
言いながらだんだん腹が立ってきたのか、叩く力が強くなった。ザンは、もう我慢できずに、大きな声をあげた。
「痛いっ、痛いっ。…そんなの無理…。いたっ。」
「つまり、お前は少しも反省しておらぬと言うのだな!?」
「そういう訳じゃ…。あっ、痛いっ、ご免なさい!」
大人しくしていられずにザンは暴れ始めた。父が怒るのは分かっていたけれど、体が言うことを聞いてくれない。「許して、お父さん!」
「何を言うとる。お前は少しも反省しておらぬではないか。きつく罰してくれるぞ。」
お尻が凄く痛いのに、お父さんの口調では、始まったばかりみたいに聞こえた。