俺は・・・誰だ・・・。 『立花、功だ』 頭を振り、記憶を呼び覚ます。
『西部署の刑事の、立花だ・・・』
両手をぎゅっと握りしめる。 『てか、明日・・・じゃねぇ・・・、今日非番だから、署に返したじゃん・・・』 苦笑いする。 『なぜ、記憶が混乱したんだ・・・』 冷静に考える。 『携帯・・・』 ジャケットのポケットを探る。・・・ない。 『はめられた、としたら、犯人に持っていかれてるな・・・』 あの殺されていた男をじっくり観察する時間はなかった。顔もあまり覚えていない。 『あの状況じゃ、俺が犯人だろうなぁ・・・』 深くため息をつく。記憶が混乱していたとはいえ、現場から逃走した行為は、まずかった。けれど、どっちにしても、今の自分の服を見たら、誰でも犯人は自分と思うだろう。 べっとりと血糊がついたTシャツ。ジャケットが濃紺だったおかげで、血痕は誤魔化せているが、早くなんとかしなくては・・・。 ここは、城西署の管轄内。 頼れる人間はいない。 西部署か、七曲署の管内へと逃げられれば、何とかなるのだが・・・。
赤色灯、警官の制服が立花を追いつめる。
「コーちゃん?」
体がびくっと跳ねた。慌てて振り向くと、見なれた顔があった。 「・・・・カオルさん・・・」 西部署少年課の刑事、真山薫。元々横浜港署の少年課にいたが、TOPの鷹山と大下を追いかける様に、東京に来ていた。 「どうしたの?」 どうも、今朝の騒動を知らないようだ。 「カオルさんこそ、どうして」 「私のマンション、すぐそこ。今コンビニの帰りなんだけど」 「カーオルさーんっ、ちょっとかくまってぇ・・・」 鉄臭い匂いに、ようやく薫も気付いた。 「コウちゃん?」 二人は、裏道から真山のマンションへと入った。
部屋で、ある程度のことを聞くと、真山は電話をかけた。 「大下さん?」 薫は立花に電話を手渡した。 「もしもし」 途端に、立花の顔に安堵の色が広がる。 「ハトさん・・・」 立花はゆっくりと記憶を辿る。 「昨日は、定時に署を出て、・・・本屋に寄ったんだよ・・・。で、その後・・・喫茶店に入ったんだ・・・。・・・そっから記憶がない・・・」 鳩村が電話口の向こうで考え込む。 「とにかく、そこにいちゃまずい。カオルとお前が親しいのは近々分かる事だ。移動しろ」 くすくす笑う。 「だけどな、コウ」 鳩村の強い口調に、立花はただ弱く、 「・・・はい」 と答えた。 「・・・よし」
薫に付き合ってもらい、署に出頭したのはそれから30分後のことだった。 戻る |