7.

『西部署に、改めて捜査制限が言い渡されたよ』
「わかった。とりあえず、現状維持で。・・・すまないな、大将」
『 いつものこった。気にすんな』

鳩村は、携帯を切り、閉じた。

「あいつの気持ち、考えると、今でもあの決断は酷かったかな、って思う」
「でも、本当に逃げ通したままじゃ、公開捜査になって、龍にさらに負担に・・・・!!」

大下が急ブレーキをかけた。鳩村がしていた、シートベルトが瞬間的に固定され、助手席のシートに括りつけられた。

「この車の安全性は、確実に問題ないな」

目を転じて、二人が正面を見る。道の真ん中に立っていた男に、二人とも見覚えがあった。

「りゅ・・・」
「シッ」

龍だった。いつものライトブラウンの髪ではなく、漆黒の髪。いつものふわっとしたヘアスタイルではなく、ムースで押さえつけた髪型、いつものストリート系のスタイルではなく、漆黒のスーツと、ダークグレーのネクタイ。
そして、極めつけは、色の濃いサングラス。

「・・・どちらのホストですか」

龍は、無言で車に乗り込む。大下は、あきれつつも、車を発進させた。

発進した後の車の中で、ようやく龍はサングラスを外した。

「龍、お前ドラマは」
「俺の分は後撮りにしてもらった」
「城西署の刑事は?」
「まいた。簡単簡単。 それより、これからどこへ行くんだ」
「お前、おれたちに付き合って捜査するつもりか?」
「ああ。当然。俺の功が殺人? ふざけるな。あの刑事たちにそれを証明してみせるんだ」
「それはいいが、お前は目立ち過ぎるぞ・・・」
「だから、変装したんじゃないか。ドラマのメイクさんにお願いしてさ」

サングラスを外して、ようやく分かった、口元のほくろ。
大下はバックミラー越しにそれを見、苦笑して、自分の眼鏡を外して渡した。

「足りねえよ。これしてろ。お前は、これから探偵なんだからな。目立つ行動は禁止。・・・ところで、名乗る時、どうする?」
「・・・立花はまずいかな・・・。ドラマの名字にするよ。麻生。麻生隆でよろしく」
「それは逆に目立つよ・・・」
「とっさに返事出来ない方が怪しまれるよ」
「じゃあ、タカシって呼ぶ様にする」
「お願いします。大下先輩」
「殊勝だな。いつになく」
「・・・・ぶっ飛ばすよ」

後部座席から睨みつける龍に、大下が笑って答えた。

「しおらしいのは、お前らしくねぇ」
「新人らしくしてただけなんだけどな。ところで、これからどこに行くんだよ」

それには、鳩村が答えた。

「田園。あいつが記憶をなくす前に立ち寄った場所だ」
「記憶をなくす?」
「そのあと、気付いたら、死体と一緒だったって話。言っておくが、龍」
「あ?」
「コウについて、不利な事とか、暴言とか、あるかもしれないが、いちいち腹立てるんじゃねぇぞ」
「わーかってるよっ」

龍は、後部座席でふんぞり返った。
その様子を見て、鳩村は苦笑いをした。

大下の携帯が鳴る。

「俺、運転中。鳩村出てくれよ」
「ああ」

鳩村は、電話を大下のジャケットのポケットから引っ張り出すと、画面を確認した。

「竜崎?」
「あ、うちの社長。ちょっと頼み事したんだ。聞いてくれよ」

鳩村は、首を傾げながら、 電話に出た。

「はい、大下の携帯です」
『鳩村君か』
「はい」
『TOP探偵社社長の竜崎だ。今回の被害者の事を調べてみた』
「ありがとうございます・・・。色々と・・・」

竜崎の話の内容はこうだ。

今回の事件の被害者は、豊田仁、45歳。フリーのルポライターをしている。
独身で、最近は仕事もあまりなく、借金で首が回らなくなって来ている。
ところが、一週間ほど前、「大スクープものだ」というネタを掴んで、有頂天になっていたらしい。
それも、芸能界の話だそうだが。

『高崎君に、関係のある話らしいんだが、それ以上は豊田氏も喋らなかったそうだ』
「龍にね・・・」

鳩村はちらりと龍を見た。龍は、そんな鳩村の視線を真正面から受け止めている。

『当方は全面的に君らをバックアップして行くよ。頑張ってくれ』
「ほんとうに、ありがとうございます」

電話はそこで切れた。

Next


戻る