「照明OKか? よし、カメラ回して!! よーい、アクション!!」 カチンコの乾いた音が響く。リハーサル通りのカメラワーク。そして、それを音も立てずにじっと見守っているスタッフ。 そんな一瞬の静寂の中に、凛と響く男の声。 「『誰が誰に騙されたって? 悪いけど、あんたのやったことを真似しただけだよ?』」 公園の中、地面に這いつくばる男を見下ろし、ジャングルジムに寄りかかっている男。スタッフの目は、その二人に注がれている。 少しの間をおいて、監督のOKの声が出る。カチンコの乾いた音が2回立て続けに鳴らされ、それを合図にするかのように、現場にざわめきが戻る。 「チェックしまーす」 女性のスタッフの声に、モニターを覗き込む主演の男。 言わずと知れた、高崎龍である。 「OKだね」 「高崎さん、刑事さんが」 「刑事?」 モニターから顔を上げ、ため息をつく。 『面倒くさい』 という意味合いである。 「城西署の高橋です。君の弟の立花巡査について・・・」 高崎がきつい目を向ける。 「これでも、俺俳優なんだよね。ここであんた達と話をしているって、マスコミに知れたら、それこそ問題なんだよ。そこの喫茶店に移動してくれないかな」 高崎の提案で、龍と刑事の高橋、龍のマネージャーの坂本玲(あきら)は、近所にある喫茶店へと移動した。 龍のファンたちも着いて来たが、坂上が押さえて、喫茶店には3人だけになった。 「立花巡査の居所に心当たりは」 高橋は、額から汗が吹き出す。 テレビで見る彼と、あまりにもイメージがかけ離れているのだ。 蔵王の樹氷の様だ。 高橋は、まるで、自分が取り調べを受けている気分になっていた。 坂上は気が気でなかった。こんな龍は、そうとう頭に来ている状態だからだ。 「れ、連絡があったら、しら、知らせてくれ」 高橋は、からからに乾く喉を水で潤し、名刺を置いてあわてて店を出た。 「隆・・・」 坂上は元々、この兄弟の幼なじみだ。功と誕生日が同じだということで、母親同士が仲が良かった。兄弟が東京に出てしまってからは、個人的に龍を追いかけて上京して来たほど。 「・・・玲・・・、携帯、交換してくれないか」 「交換?」 この後の行動が目に見えた玲は、龍と携帯を交換した。 「あと、ワンシーンだ。龍」 龍は、大きく息を吐いた。 店の外では、ファンが待っている。
まだ、俺は 『高崎龍』 だ・・・。 |