Autumn
懲戒免職になった警官達は、既に拘留は解かれ、自宅謹慎扱いになっていた。
鳩村はそのうちの一人の家にバイクで乗り付けた。
その家は一戸建て。手に入れるのにとても苦労したのではないかと思った。
それがまた、動機だったのかもしれない。
だがその家も、ひっそりと人の気配すらなかった。
家のインターホンを押してみるが、反応がない。
ドアをノックしてみるが、やはり人の気配も感じられなかった。
「そりゃ、そうだよな・・・」
人の口に戸は立てられない。
周囲の白い目に耐えきれず、引っ越ししていることも充分考えられる。
別の家に行こうと踵を返そうとした時、かちっと音がして、あまり顔色の良くない女性が顔を出した。
「はい・・・」
すっかりやつれた感じの女性は、鳩村を警戒心たっぷりの視線で上から下まで見た。
「すみません、怪しいものではありません。鳩村と言います」
鳩村は、ライダースーツの内ポケットから警察手帳を出して提示した。その手帳に、女性は極端な反応を示した。
有無を言わさず、ドアを閉めようとしたのだ。
慌てて、鳩村は靴を挟み込むと同時に、ドアを両手で引き止めた。手から離れた手帳が、紐1本で辛うじて転落を免れる。
「帰って下さいっ。主人はもういませんっ」
「・・・いない?」
「あの事件で解放されてからすぐ後、うちを出て行きました」
「出て・・・」
男の妻は、鳩村の力が抜けたのを見て、一気にまくしたてた。
「あなた方は、身内を告発して、いい気になっているかも知れませんが、うちの主人達はそんな人達じゃありませんでした。詳しく調べもしないで、一方的に判断してスキャンダルを沈めるために、うちの人達をスケープゴートにしたんですっ。無理矢理な取り調べをして、調書まで取って。ふざけないでっ」
そう言うと、鳩村を押し出し、一気にドアを閉めた。
後には、鳩村の背後でこそこそ話をするご近所さんの声が静かに流れるだけだった。
鳩村は、また派出所の前に来ていた。
バイクを目の前に止めて、それにまたがったまま、派出所をぼーっと眺めていると、ドアが少しずれているのに気がついた。
よくよく見てみると、ドアに新しい傷があり、まるでこじ開けられた様な感じに見える。
鳩村がドアに手をかけると、何の抵抗も無く、すっと開いた。
念のために、ホルスターから銃を引き出し、中へと入って行く。
耳を澄ませても、人の気配はなく、一応見て歩くが、やはり人はいなかった。ふっと息を吐いて、銃をしまう。
何だって、こんな人のいない派出所に忍び込む必要があるのか。
鳩村は首を捻った。
ロッカーをチェックしてみるが、空になっているか、鍵がかかっている。異常は見られない。
というか、鳩村の私物以外は、閉鎖当日にメンバーそれぞれが持ち帰っている。
容疑に巻き込まれた三人のは、証拠品として没収。それ以外の書類は、西部署に機密として補完されている。
おかしい。
何かがおかしい。
鳩村は、何となく鍵のあったシンク下を手で触った。
そこには、鳩村がわざと用意しておいた、ダミーキーがあったのだが。
ない。
「狙いは、鍵、か」
ダミーはダミー。ぱっと見た感じは分からないのだが、その鍵では鳩村の持っている鍵の穴にはあわない。
つまり、開かない。
鳩村はシンクの下のパテを取り外した。
これも、新しく付けたもの。
じっくり見てみると、ため息をついた。
「指紋残ってないか。気付かれたかな」
罠だったのだが、見事に回避されたようだ。
こうなってくると、俄然。
「売られた喧嘩は、買うしかないだろ」
燃えて来るというもの。
鳩村は、別の警官の元へと向かった。
その家では、警官本人に会えた。
川野辺保。派出所の中では一番下っ端だった男だ。
鳩村を目の前にして、おどおどと落ち着き無く、せわしなく貧乏揺すりをしている。
「俺、一番下だったし。よく分からなかったんですが、ちょろまかしているのは、知ってました」
落ち着きない態度は、言葉にも現れている。自分は悪くない、という弁明をこの後、延々と続ける。
先輩方が横領しているけど、自分が言ったら何されるか、という話である。
「けど、連帯責任で、結局こうですから。あの時に言っておけばよかった、そう思いますよ」
川野辺はそういうと、大きく息を吐いて、肩を落とした。
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