序.青春劇場いざ序幕

 
 1987年の12月のことだった。当時中学1年生だった僕は、クラスで仲の良かった友人と、映画のことについていろいろ話しているうちに、観た映画をお互いノートに記録してみようということになった。こうして始まったのが僕の「映画日記」である。それから15年。時代は昭和から平成に代わり、新しい世紀が始まった。気づくと「映画日記
は、細々とはいうものの、綿々と今にいたるまで続いている。映画のデータも1000本を越すものとなった。もちろん最初はそこまで長く続くとは思ってもいなかった。現に、一緒に始めた友人は、それからまもなくして映画の記録をやめてしまっているのだから。

 自分の青春の記録の一部である「映画日記」を今になって見直してみると、面白いことがわかる。中学生だったから観ているような映画があるかと思えば、果たして当時本当に理解していたのだろうかと思うような映画もある。10年以上たった今も鮮明に覚えている映画があれば、観た事実さえも忘れてしまった映画もある。しかしどの映画も、それらはすべて僕が実際に観て何かを感じてきた青春の一コマなのである。

 こうした自分の青春の記録を、何らかの形で表現できないだろうか。そう思ってこのホームページを立ち上げることにした。最近のインターネットの普及は目覚しいものがあり、僕の母親でさえホームページを持つ時代だ。しかし、ただ単に今までの「映画日記」をウェブ上に再現するだけでははっきり言って芸が無い。そういったホームページはすでに多くの人が作っているが、読んでいて面白いものは少ない。全世界に向けて配信する以上は、単なる自己満足では終わらせたくない。「映画日記」をもとに、何か新しいものが作り出せないであろうか。

 そんな時、大学時代のことを思い出した。大学4年生のことだっただろうか、当時所属していたサークルの後輩に、演劇科に進級して映画を研究したいという1年生の女の子がいた。ある時何気なく、彼女にD・W・グリフィスの話題を持ちかけたことがあった。映画史の本を少しでも読んだことがあれば、アメリカ映画最初の巨匠ともいうべきグリフィスのことは聞いたことがあるはずだ。当時映画ファンの一人にすぎない僕でさえそれは知っていた。ところが、彼女は映画を専門としたいと言っているにも関わらず、その名前すら知らなかったのである。こんなものでいいのだろうかとその時思ったものである。さて、自分に立ち返って考えてみると、決して彼女のことを笑ってばかりはいられない。かろうじてグリフィスは知っていたけれど、自分が映画史について知っているかと問われれば、自信を持って「はい」とは言えない。断片的に知識は持っているが、映画史上重要な映画も題名を知っているぐらいで実際には観たことないものがほとんどである。

 この機会に映画史を最初からたどる旅に出てみようと思いたった。ビデオの普及によって、過去の名作を観るのは容易な時代となっている。そこで、映画史上重要な作品を時代順に系統立てて観て行こうかと思う。そうすることで、ただ闇雲に映画を観ている時には気づかない発見に出会えるかもしれない。「映画史探訪」…このエッセイの題名をそう名づけることにした。

 この「映画史探訪」は、僕がこれまでに実際に自分の目で観た映画についていろいろと好き勝手に語ったエッセイである。したがって、例え映画史上重要な作品であっても、観る機会の無かった作品についてはあまり触れるようなことはしていない。そういった映画について知りたければ書店や図書館で映画史関連の本を探して頂きたい。もちろん、エッセイを執筆するにあたって参照とした文献・資料があれば、その都度本文中もしくは〈参考文献〉という形で紹介するつもりだ。
 この「映画史探訪」の旅は、まだまだ始まったばかりである。映画の歴史は100年を超え、今もまだ終わっていない。僕の旅もいつ終わるか分からないが、今しばらくお付き合いを頂きたい。
 


 なお映画史に関しては以下の資料を主に参照した。

ジョルジュ・サドゥール/丸尾定訳「世界映画史」1980年12月 みすず書房
佐藤忠夫「世界映画史」上・下 1995年12月〜1996年2月 第三文明社
井上一馬「アメリカ映画の大教科書」上・下 1998年3月 新潮選書
四方田犬彦「日本映画史100年」1999年3月 ちくま新書
「週刊ザ・ムービー」1998年3月〜2000年2月 デアゴスティニー

 各作品について参照したのは主に以下の資料である。

「アメリカ映画作品全集」1972年4月 キネマ旬報社
「ヨーロッパ映画作品全集」1972年12月 キネマ旬報社
「日本映画作品全集」1973年11月 キネマ旬報社
「世界映画作品・記録全集 1975年〜1989年版」1975年6月〜1989年4月 キネマ旬報社
「映画史上200シリーズ/日本映画200」1982年5月 キネマ旬報社
「映画史上200シリーズ/アメリカ映画200」1982年12月 キネマ旬報社
「映画史上200シリーズ/ヨーロッパ映画200」1984年1月 キネマ旬報社
双葉十三郎「西洋シネマ大系 ぼくの採点表」T〜V、別巻 1990年11月〜1997年3月 トパーズプレス
「映画100物語/外国映画篇」1995年7月 読売新聞社
「映画100物語/日本映画篇」1995年8月 読売新聞社

 その他の参考資料はその都度紹介する。
 
 

(2002年1月31日)

 

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