punishment in Hornburg・第二話






 目を開けると、従兄の背中が眼前にあった。
筋肉に覆われた肌の上にいくつもの線条痕が走っている。
昨夜の行為の最中にかれが感極まって、爪でかきむしった跡だった。
そのいくつかに血が滲んでいるのを見て、エオメルは傷に唇を寄せた。
背中に口づけそっと舌でなぞる。
感触に気づいたのか相手が身じろいだ。寝台が微かに軋む。
「うん・・・」低い声を洩らしたが、セオドレドは目を覚まさない。
エオメルは舌を這わせ続け、血を舐め取った。
それは甘い味がした。




−−頭が重い。それに・・・胸に泥が詰まっているようだ・・・。
暗闇の中でここはどこなんだ、と立ち尽くしている。そんな夢を見ていた。
ふいにエオメルは覚醒し、固い床の上に横たわる自分に気づいた。
全身に鈍い痛みとだるさがある。そして奇妙な違和感も。
(あ・・・?)
自分は素裸だった。戸惑いながら半身を起こして視線を上げると、従兄が椅子に腰掛けてこちらを見ていた。
部屋にはかれら二人だけで、他に人影はない。

「殿下・・・」
かれと目が合うと相手は微笑んだ。
「きみがひっくり返っているあいだに、部屋は綺麗にしておいた」
ぼんやりしていたエオメルは、王子の言葉を理解するのに少し時間がかかった。
自分の身に施された行為と、自らの失態が脳裏に蘇る・・・次の瞬間、東谷の領主のあらわな肌にバッと朱が散った。
「なっ、あっ・・・!」
全身を真っ赤にしてエオメルは喘いだ。
セオドレドは涼しい顔で「なかなか刺激的なお遊びだったね」などと言った。

 よろけそうになる身体を叱咤しつつ、かれは立ち上がった。
「畜生!あ、あんな侮辱をこのわたしに・・・許さないッ!」
激しい言葉をぶつけたが、世継ぎの王子は笑うだけだった。
「随分楽しんだくせに、何を言ってる。あんなに喜ばれたらおしおきの意味がないくらいだ。・・・そら、まだ欲しがってるじゃないか」
意味ありげに目線を送った先は、エオメルの下腹部である。
そこは未だに大きく勃ち上がったままだった。
「気を失いながら、ペニスだけ勃起させてるんだから嫌らしい子だ」
「うう、うるさいっ!」
エオメルは顔を歪ませて喚いた。恥ずかしさのあまり目眩がする。
固く膨張した性器がどうしたら萎えるのかわからない。自分の身体は、どこか壊れてしまった気がした。

「東谷に帰る!」
涙を滲ませてかれは言った。
「どうぞ、ご自由に。鍵はかかってない」
「服はどこだよ!」
かれの言葉に、セオドレドが意地悪く答える。
「きみがお漏らしして濡れてしまったから、洗濯中」
「なら、あなたの服を寄こせッ」
喚きながら従兄につかみかかろうとしたが、相手は素早く立ち上がって部屋の反対側に避けた。

「わたしはすぐに帰るんだ!」
地団駄を踏んでエオメルは怒鳴った。羞恥と悔しいのとでわけがわからなくなっていた。
「裸で出て行けばいいじゃないか。服なんか何処かで見つかるだろう。まあ、何人かには体中に痣がついているのと、勃ちっぱなしなのを見られるだろうが」
揶揄の口調に、火を噴く視線で従兄を睨む。
そして、かれは身を翻してドアから飛び出した。
背後でセオドレドが笑っていた。

 所々に燭台が置かれ灯が点された狭い廊下をエオメルは裸足で走った。
幸い、と言っていいのか誰にも会わなかった。
かれは夢中で駆けていたため、道がゆるやかなカーブを描いてさらに地下へ、そして草原とは逆の方向に向かっていることに、かなり進んでしまうまで気づかなかったのである。

 いつのまにか素足に触れる床の感触が変わっている。
エオメルは立ち止まってあたりを見回した。
(ここは)
岩肌の露出した壁が、微かに光を発している。
(アグラロンド・・・)
角笛城の背後、峡谷の奥に広がる燦光洞の入り口に来てしまったようだ。
限りなく広い−−と詠われ、過去の大規模な戦闘では常に避難所に使われてきた洞窟である。
内部は複雑に分岐して果てしなく続くといわれている。
エオメルは困惑した。
そして一旦戻って馬を探そう、と振り向いたとき、近づいてくる松明のあかりが見えた。

「エ−−オ−−メ−−ル!」
従兄の声だった。あれほど走ったのにもう追いつかれたのかと仰天した。
壁に嘲笑が反響し、かれの心臓がぎゅっと痛くなる。
「捕まえにきたよ・・・!」
そう告げられ、松明が振られると、壁に映ったセオドレドの影が大きく揺れた。
まるで幽鬼と化して闇にうごめくナズグルのように。
激しやすいエオメルは、たちまち恐慌にかられてその場から逃げ出した。
あれは幼い頃からよく知っている、優しい従兄だ−−そのことはわかっていたが、何故か、相手が怖くてたまらない。
向かう先は燦光洞しかなかった。



 わざと声を張って従弟を怖がらせようとしたセオドレドである。
目論見通りにエオメルが慌てて逃げていく。
かれはクスクス笑いながらそのあとを追った。
(まったく、素直なんだから)
城でのやりとりの際にも、故意にアグラロンドに通じる退避用の扉から、従弟が出て行くよう仕向けた。
さらに王子は途中で距離をショートカットする仕掛けも、熟知していたのである。

 狼に追われる羊のように、数歩先を、従弟がよろけながら逃げていく。
動揺と疲れでもうあまり早くは走れないようだ。
ハァハァと息が乱れ、足がもつれて倒れそうになっている。
「どこに行くんだ、東谷のエオメル」
セオドレドが松明を掲げると、燦光洞の壮麗な輝きの中に、壁に縋りながら必死に進もうとするエオメルの後姿が浮かび上がった。

「あっ」
従弟が声を上げる。
角を曲がった先は、一面宝石の鉱脈に覆われた広間になっていたのだ。
「行き止まりだな」
口元にだけ笑みを刻んでセオドレドは言った。

「なんだよ!来るなッ」
松明に照らされて輝く壁が、幻想的である。
その美しさにも気づかぬらしく、エオメルは岩を背にして怒鳴っていた。
追い詰められた表情が王子の嗜虐心を刺激する。
「なんだとは失礼な奴だ。東谷に向かうはずのきみが、方向違いしているから追いかけてきたのだが」
「うう」
かれを睨んだまま従弟は唸り、「どけよ!」と叫んで急に飛び出した。
そのまま王子の脇をすり抜けようとする。それを腕を広げて阻止した。
松明が床に落ち、パッと火花がはぜる。

 片手で素裸の胴を抱え、もう片方の手で相手の腕を捩じ上げながら、セオドレドは再びエオメルを壁に追いやった。
岩肌に押しつけ、その顔を間近に見つめる。見開かれた瞳は怯えていた。
「離せ!帰っていいって言ったじゃないか!」
従弟がわめく。セオドレドは相手に言った。
「それで?東谷に逃げ帰って、仔犬みたいに震えて過ごすのか?きみが引き起こした騒ぎはまだ、収まってないんだぞ。父に報告すれば、エドラスの重臣たちに諮らねばならなくなるし、かれらは東谷の提示した取引価格を不当なものだと非難するだろう。やがてきみは東谷から引きずり出され、最悪、領主の地位を失うことになる。まだ若いきみに東マークの裁量権を与えたことを、快く思っていない者だっているんだからね」

 エオメルは唇を噛み締めて従兄の言葉を聞いていた。
「いくらか金を儲けることと、東谷を引き換えにしていいのか。きみが何を意地になってるのか知らないが、価格を撤回し、しかるべき相手には謝罪することだ」
そう諭すと、従弟の瞳がゆれた。
そして何かを語ろうとした。
だが、東谷の領主はすぐに顔をゆがませて、「お断りだ!」と答えたのだった。

 相変わらずの強情ぶりにうんざりするセオドレドである。
かれは目を細め、酷薄に告げた。
「まだ躾けが不十分だったな」
そして手を伸ばしてエオメルのペニスを握りしめた。
「アッ」
従弟が悲鳴をあげる。
腕を突っ張って逃れようとするのを、王子は更に強く壁に押さえつけて耳元で囁いた。
「では、昨夜の続きをはじめるとしようか」

 若い身体がかれの腕の中で激しくもがいたが、その抵抗にはいつもの力強さが欠けていた。
「くそうッ、触るなったら!」
嫌がるエオメルの性器を握りながら、セオドレドは慌しく自らの衣服をはだけ下衣と下着を下ろした。
まず有無を言わさず挿入して思い知らせてやるつもりだった。
世継ぎの王子である自分の命令に逆らう憎らしさもさることながら、乱れて痴態を晒した従弟の姿に、すっかり欲望をそそられていた。

 ロヒアリムたちはもつれあい、絡まったまま地面に倒れこんだ。
「あぁっ」
ペニスを揉み込んで愛撫するとエオメルが喘ぎ声をあげてのけぞる。
昨夜、過激な行為を経験したからか、かなり敏感になっているようだ。
セオドレドはその隙に相手の膝のあいだに腰をいれ、片足を掬い取って持ち上げながら開かせた。
王子自身のものも、熱く逸っている。
体勢を取らされて初めて、エオメルはそのことに気づいたらしい。
瞳を見開いて叫び声をあげた。

「何だよ!なにするんだ!」
「セックス」
とだけ言って、押し当てる。
従弟はかすれた悲鳴を洩らした。
「な−−嫌だッ」
またいっそう激しく身体をよじって逃げようとするのを、許さず肉を押し開いて侵入を試みた。
制裁の意味もこめて、ほぐさずそのまま貫こうとするが、そこは固く閉じて王子を拒否していた。
(ほんの数刻前には、何本もの指を受け入れていたくせに・・・)

 膝を抱える腕に力を込めて、更に足を大きく開かせる。
「入れるぞ。少し力を抜いた方がいい・・・わたしは遠慮しないからな」


ごめんなさい途中です。第二話はまだ続きます。


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