続・俺の館で何をしている
 AQUA 

T’ve been itching and itching and itching to ・・・






 おかしい。
ゴンドール執政家の次男、ファラミアがエドラスに来ないのである。

 ローハンの王子セオドレドは、あれこれ考えながら毎日不機嫌に過ごしていた。
先日かれが拉致したボロミアが、「いやあ楽しかったですぞ〜」と大喜びでミナス・ティリスに帰って行ってから、もう二週間が過ぎようとしている。
人の話を何ひとつ聞いていないボロミアのことだから、白い塔の都に帰るなり、「セオドレドとエオメル殿が大歓迎してくれてなあ!二人は「次は是非ファラミア殿とお会いしたい」と言っていたぞ!すぐ行ってやれ、弟よ」とかなんとか、勝手に話を捏造して喋ってるのに決まっている。
だから、すぐにでも弟君がやって来るだろうと思われたのだが・・・。

 もっとも、兄と違って物事の裏の裏まで読む性格のファラミアである。
弟の方を快く思っていないセオドレドの意向を察して、ローハン訪問を遠慮しているのかもしれない。
と普通なら思うところだが、セオドレドはファラミアの人柄をよく知っていた。
(あいつは遠慮なんかする生き物じゃない)
それに、うちのエオメルのことをかなり気に入った様子だったし・・・と、王子はいらいらと歩き回りつつ、弟君の動向を推量していた。

 ボロミアが帰国してしまうと「本当にまたファラミア殿がいらっしゃるのでしょうか」とエオメルが途端にそわそわし始めたのだった。
妙に顔を赤くして、うっとりと宙を見つめたりする様子が実に腹立たしく、セオドレドは顔を引き攣らせながら従弟の姿を睨んでいたが、やがて「わたしはこれからエドラスに戻る」と相手に告げた。
「あ、そうですか。ではわたしもご一緒します」
ウキウキして言うエオメルをセオレドレドはじろりと見て、命令した。
「いや、いい。おまえはこのまま西の谷のエルケンブランドのもとに向かえ。そして、西マークの警備を強化するんだ。三ヶ月はエドラスに帰ってくるな」

「ええーっ!」
エオメルがあからさまな不満の声を上げる。
「なんだその声は。わたしの指図が聞けないと言うのか。おまえが果たすべき勤めは何だ、第三軍団長エオメル!」
セオドレドが厳しい声で叱咤すると、従弟は「はっ」と言って背筋を伸ばした。
「・・・心得ました。西の谷に向かいます」
そう言って敬礼しながらも、エオメルの顔には無念そうな表情が浮かんでいた。
セオドレドは不愉快に思ったが、何も言わないでいた。

 従弟が西の谷に出立するのを見送った後、王子もヘルム峡谷を発ってエドラスに帰って来た。そしてファラミアの到着を待ち受けていたのだが・・・。



 さて。
いくらセオドレドが黄金館で待っていても、執政家の弟君は来ないのだった。
何故なら、エルケンブランドのもとに向かったはずのエオメルは、そのまま西の谷を素通りしてしまっていたからである。
さらにかれはエドラスと馬鍬砦と自分の領地東谷すら通り過ぎて、ファラミアに会いにミナス・ティリス−エドラス間を結ぶ大西街道に行ってしまったのである。
生まれて初めて、エオメルは敬愛する従兄を裏切り、軍務を放棄したのだった。
もう一度弟君に会えるかと思うと、どうにも下半身がLIGHT MY FIRE !状態になってしまい、その暴走を収める術もわからず、冷静な判断力を失ってしまったのである。

 ロヒアリムが街道で野宿しながら待つこと三日、澄み切った青空の下、ついにゴンドールの方角から誰かが馬に乗ってこちらに向かってくるのが見えた。
服装から身分の高い若い男だということが、遠目にも分かる。
「ファラミア殿ー!」
エオメルは叫びながら、相手に向かって駆けて行った。

 近づいて来た馬上の主は、確かに執政家の次男ファラミアであった。
「これは、エオメル殿。どうなさったんですこんな所で」
驚いたファラミアは手綱を引いて馬の足を止めると、ロヒアリムに呼びかけた。
「あなたがいらっしゃるのではと思って、ずっとお待ちしていたんです」
頬を高潮させながらかれがそう言うと、弟君の顔にも喜色が浮かんだ。
「わたしを待っていたですって?いきなりそんな嬉しいことを・・・罪な方だなあなたは」

 ファラミアが馬から下りると、エオメルは熱情のままに相手に抱きついて頬をこすりつけた。
「お会いしたかった・・・!」
「わたしもです、エオメル殿」
二人は熱く囁きあうと、激しい口づけを交わして舌を絡ませあった。
「んん・・・」
ひとしきり唇をむさぼった後、エオメルは甘く呻きながら顔を離して、目の前の白い綺麗な顔をうっとりと見つめた。

 相手は優雅な笑みを浮かべると、いきなりその場にかれを押し倒した。
「は?えっ?」
「言葉は無用ですエオメル殿、さあやりましょう」
「あのッ、ここは街道の真ん中ですが。日に何度かは人も通りますし」
「ハハハ、どうでもいいですよそんなこと。わたしは誰に見られようが平気です」
繊細な外見の割りに、豪快というか所かまわずな弟君である。

 さすがに、エオメルは焦って相手を強く押しのけた。
「だ、駄目です!そこの茂みの裏に、わたしが野宿していた窪地がありますから。そこに行きましょう、ね、ファラミア殿。ほら馬も繋がなきゃいけないし」
そう言いながら立ち上がり、弟君の手と馬の手綱を引いて街道から脇に入り込む。
「うーん、わたしは通りすがりの他人に眺められながらのアオカンて、結構興奮して好きですけどね」とぶつぶつ言いながら、エオメルについて行くファラミアだった。

「エオメル殿の引き締まった肌の記憶が、昼も夜もわたしを苦しめていました。そして兄上の話を聞いてからはもう、いてもたってもいられず、またローハンにやって来てしまったのです」
そう囁きながら、広げたマントの上でファラミアはエオメルの衣服を毟り取るように脱がしていった。
「ああ・・・ファラミア殿・・・」
胸に口づけられ背中に指を這わされ、下着を摺り下ろされてエオメルは喘いだ。
ファラミアがエオメルの股間に顔を寄せ、かれの性器を口で咥える。

「はぁッ」
舌を操って舐めしゃぶりながら、弟君はロヒアリムの後腔に指を押し込んで刺激した。
「あぁっ、あッ、あん」
甘い喘ぎを洩らしつつ、エオメルが身体をのたうたせる。
「ここに欲しいですか?」と秘所を指で抉りながらロヒアリムに尋ねると、相手は長い金髪を散らして頷いた。
「はい・・・!わたしをあなたの好きなように扱ってください・・・!」
「わかりました。ではご要望にお応えしましょう」
ファラミアは自らも衣服を脱ぎ去ると、開脚したエオメルの下半身に腰を押しつけた。
そして相手の肉を指で軽く広げるようにしながらあてがい、ペニスを深々と挿入する。

「あぁーーーーッ、ファラミア殿・・・ッ!」
エオメルの歓喜の悲鳴が真昼の草原に響き渡る。
めりめり肉壁を掻き分けながら体内に押し入ってくる感触に、かれは激しく悶えた。
「あッ、くッ、大変いい具合ですよ、エオメル殿・・・!」
奥まで納めた弟君が、呻きながら腰をつかい始める。
「ひッ、あぁッ、はぁッ、いいっ、ファラミア殿ォッ」
自らも腰を突き上げながら、エオメルは相手にしがみついて快楽をむさぼった。

「ああ、エオメル殿!ずっとあなたとこうしたいと思っていました。遠慮しませんよ。あなたが泣こうが喚こうが、わたしが満足するまで犯し続けますからね!」
そう言うなり、ファラミアはガンガン腰を突き出して、堀り上げた。
「ひいッ!ああぁッ、凄いファラミア殿ッ、あぁんもうッ、わたしを滅茶苦茶にしてくださいっ、身体が裂けちゃってもかまわないっ!」
弟君の柔らかな髪を指で掻き毟るように乱しつつ、エオメルは相手の動きに合わせて身体をくねらせ、晴れやかな青空の下で淫猥な声をあげ続けるのだった。

 時が過ぎ、日が落ちる頃になると、ゴンドーリアンは流石に体力の限界を感じて行為を切り上げることにした。
「ふう・・・さすがにペニスがこすれて痛くなってきました。もうこの辺にしておきましょうか、エオメル殿」
ファラミアはそう言って身体を起こすと、脱ぎ散らかしていた服を拾い上げた。

 しかし今までかれの下になっていたロヒアリムの方は、下半身を白濁まみれにしてぐったりと横たわったまま動かない。
弟君の貪欲な責め苦に、何度もいかされた挙句腎虚をおこして、とっくに気を失っていたのである。
「おや、エオメル殿。どうなされたのです、さあ、起きてください」
弟君が白い手でロヒアリムの顔をペシペシ叩く。
やがてエオメルが目を開けた。

「ああ・・・ファラミア殿・・・」
「よかった。なかなか目を覚まさないから、もしや犯り殺してしまったのではと思いましたよ」
ゴンドーリアンはにっこり微笑んだ。
「はあ、ちょっと涅槃を見てしまったような気が」
そう呆然と呟くかれに、「もうすぐ日が暮れます。冷たい風も吹いてきました」と服を手渡しながら、ファラミアが言う。
「このあと、わたしはどうすればいいですか」と問われて、「あ、そうですね。ここから少し行った東谷にわたしの館があります。そこに向かいましょう」とエオメルは答えた。

 二人は身支度を整えると、馬を連れて再び街道に出た。
「そういえば、前回あなた方がいらしたときに使ったディルドウのことですが・・・あの後、殿下がラウロスの大瀑布に投げ捨ててしまったんですよ」
東谷に向かう道すがら、エオメルは申し訳なさそうにファラミアに言った。
「捨てた、ですって。始祖の貴重な遺物をですか。大胆なことをしますねセオドレドさまは」
「そうなんですよ。“こんな下らない物があるからだ!”とか言って。もう、殿下ったら。わたしは一度しか試してないというのに」
「残念でしたね。兄上もそれを聞いたらがっかりするでしょう」
ファラミアが慰めるようにロヒアリムの肩に手をかける。

「はい、ボロミア殿にも申し訳なく思います。ですがわたしは・・・」そう言ってエオメルは相手を見ると、はにかんだ笑みを浮かべた。
「あんな作り物より、ファラミア殿の方がずっといいです」
「エオメル殿・・・!」
ロヒアリムの言葉に、弟君は感激して相手の手をぎゅっと握り締めた。
エオメルの方もそれに答えて、力強く握り返す。
暮れなずむ黄昏の街道を、ロヒアリムとゴンドーリアンは薔薇色のラブオーラを撒き散らしつつ、東谷に向かっていった。



 所変わって、黄金館である。
そこには、一向に来る気配のないファラミアにヤキモキしどおしなセオドレドがいた。
「今まで待っても来ないということは、あいつはマーク訪問を断念したのか?くっそう、ファラミアめ、来ると腹が立つし来なくても腹が立つ!なんて嫌な奴なんだ」
もう、弟君のことはほっといてまたヘルム峡谷の砦に戻ろうか、とセオドレドは考えた。
それに、最近敵の侵入が増加している西マークのことも気にかかっている。

−−エオメルも参加していることだし、わたしも一度エルケンブランドの部隊の様子を見に行ったほうがいいかな。
そう考えた王子は、最近の西マークでの戦の動向を知ろうと西の谷の領主に使いを送った。
が、帰ってきた伝令はなんと「エオメル殿はいらしてません」とのエルケンブランドの返事を携えてきたのである。

「エオメルがいないって、どういうことだ!」
セオドレドが激しく詰め寄ると、哀れな伝令は汗を流しながら、「は、はい、エルケンブランドさまの仰るには、エオメル殿は「西マークの警備に加わりたかったが、急に体調を崩したのでしばらく自分の領地で休養します」と言われて、西の谷を通り過ぎて行ったとか・・・」と告げたのだった。
それを聞いたセオドレドは「わかった、もう下がれ」と低い声で言って伝令を追い出した。
そして秀麗な顔をしかめながら窓に寄ると、遠くゴンドールまで続く大西街道の方をじっと眺め下ろしたのだった。



「エオメルはどこだ」
いきなりの世継ぎの王子の訪問に、東谷のエオレドたちは驚いた。
(エオメルがわたしに背いた・・・!)
思いもかけぬ背信に、激昂して馬を飛ばしてきたセオドレドである。
しかし、もしかして従弟は本当に病で寝込んでいるのかもしれない、との可能性も捨てきれない王子だった。

−−だが、あの丈夫が取り柄で風邪も引いたことのないエオメルが、まさか・・・。
それに一向にエドラスに現れない弟君のことを考え合わせれば、二人でしめし合わせていちゃついている確率のほうが高い。
疑惑と心配に千路に思い乱れつつ、王子は従弟が父親のエオムンドから受け継いだ東谷の砦、アルドブルグ館の城門をくぐったのだった。

「こ、これはセオドレドさま!」
エオメル子飼いのエオレドたちが慌てふためいて整列し、かれを迎えた。
「おまえたちの主人はどこだ。中にいるんだろう。それに・・・ゴンドールからの客人も」
セオドレドが表情を引き締めて尋ねると、エオレドたちは互いに顔を見合わせて、「はい・・・」と言いにくそうに答えた。
王子は悪い方の予想が当たったことを知った。
そして、かれらの困惑した顔つきから、エオメルとファラミアが何をしているのかも理解した。

 エオメルの寝室は二階にあった。
バーン!と扉を開けて踏み込むと、寝台の上に裸の従弟と執政家の次男がいた。
大きく広げたファラミアの股間に顔を埋めたエオメルが、口でご奉仕の真っ最中である。
「ぐおーーーー・・・」
セオドレドが断末魔の呻きを発する。
エオメルは咥えたまま顔を上げて「ふぇっ、ふぇんか」と驚きの声を上げた。
「おや、セオドレドさま。ごきげんよう、そろそろいらっしゃる頃だと思ってましたよ」
弟君が金髪を指でかきあげつつ、上品な声音で挨拶する。

「−−わたしの命令に逆らって、軍務を放り出したあげく男と密会か」
セオドレドはファラミアのことは無視すると、従弟の顔だけを見つめて言った。
「おまえにはあきれ果てたぞエオメル。もはや言い訳は無用だ。軍団長の任を解き、このマークから追放する」
口調は鋭く、完全な真顔で告げる王子に、エオメルは蒼白になった。
「殿下・・・」
と一言いったまま、固まってしまう。

 するとファラミアこれ見よがしに従弟を抱き寄せた。
「そうですか、ではエオメル殿はミナス・ティリスにお連れします。なに、すぐわが軍のアイドルとして皆に慕われるようになるでしょう。ご心配なく、王子殿下」
それを聞いたセオドレドは歯を剥きだして「勝手にしろッ!」と喚いた。
そしてバタン!と乱暴に扉を叩きつけて立ち去った。



「今来たと思ったら、もうお帰りとは。あなたの従兄殿はせわしない方ですね」
のんびりとファラミアが言う。
だが、エオメルのほうは、さすがに淫らな気分が吹き飛んだらしい。
後悔と苦悩の表情でうつむいている。
「エオメル殿」
弟君が背中を撫でると、エオメルは顔を上げて相手を見た。
「どうしよう・・・殿下は本当にお怒りのようです、とても許してもらえそうにない・・・」
その大きな瞳がたちまち涙でいっぱいになっていく。
おやおやと思いながら、弟君がかれの頬を手で挟んで瞳を合わせた。
「あなたをミナス・ティリスに連れて行くといったのは本気ですよ。エオメル殿、わたしと一緒にゴンドールにいらっしゃいませんか。兄も父も、あなたを歓迎するでしょう」

 エオメルは相手の青い瞳をじっと見つめた後に、首を横に振った。
「いいえ、ファラミア殿。わたしはどこにも行きません。わたしはこのマークの地以外では生きられない人間なのです」
弟君はそれを聞くと、「そうですか」と言ってため息をついた。
「わかりました・・・残念ですがあきらめましょう」
「すみません」
申し訳なさそうに言うエオメルに、ファラミアは微笑んだ。
「いいんですよ。それに、あなたのおかげで今まで大変楽しい思いをしましたから。この辺で、わたしも少しはお役に立たなくてはならないでしょうね。エオメル殿、わたしがあなたのことをセオドレドさまにとりなして差し上げます」

「ファラミア殿が・・・?しかし、殿下は一度言ったことはなかなか曲げない方ですが」
「それほど深刻に考えることもないでしょう。王子殿下はわたしとあなたが仲良くしてるので、ちょっと拗ねておられるだけですよ」
ファラミアは寝台を降りると、手近にあったガウンを羽織って扉に向かった。
「わ、わたしも一緒に行きましょうか」
そう言って追いかけてこようとする相手に「いや、あなたはここで待っていて下さい。すぐ戻ります」と答えて、弟君は部屋を出て行った。

 廊下の突き当たりにある客室にセオドレドはいた。
猛獣のような唸り声をあげながら、足を踏み鳴らして室内を歩き回っている。
「ここにおいででしたか、王子殿下」
戸口から弟君が声をかけると、セオドレドは相手を険しい目で睨んだ。
「ふん、来ると思っていたぞファラミア。口先三寸でわたしを言いくるめるつもりだろうが、そうはいかん」
「別にそんなつもりはありませんが・・・」
弟君は軽い口調で言いながら、部屋に入ってきてソファに腰掛けた。

「で、セオドレドさまは何をそんなにお怒りなのですか」
ローハンの王子が目の奥に鋭い光をくるめかせる。
「・・・エオメルがわたしを裏切った。軍務を放棄しておまえとの情事に耽っていた。これ以上最低なことがあるか?あの、真面目で純情なやつがそんなことをしでかすとは。もとはと言えば、おまえたち兄弟がマークに押しかけてきたのが原因なんだからな」
「今更そんなことを言われても困りますね。時間を戻すわけには行かないし」
「おまえらがエオメルを誘惑してこんなことになってしまったんだ。あいつは真っ白な心の清らかな奴だったのに。おまえたちと会ってから、どんどん堕落してしまった」

「なんですかそれ、まるでわたしと兄上の心が黒くて汚いみたいじゃないですか」
「その通りだろ!」
セオドレドが怒鳴ると、弟君は白い顔に苦笑いを浮かべた。
「なんて失礼な、と言いたいところですが、他ならぬセオドレドさまのことですから許しましょう。それにしても、エオメル殿は堕落ではなく成長しているんですよ。いつまでも子供じゃないということです」
「騎士軍団長の勤めよりセックスを優先させることのどこが成長だっ」

 それを聞いたファラミアは、肩をすくめて「フー」と息を吹いた。
「エオメル殿はまだ二十歳でやりたい盛りなんですよ、仕方ないでしよう。あなただって、あの年頃の時分には、自分の国をほっぽり出してしょっちゅうミナス・ティリスに来てたじゃないですか。エドラスからは結構な距離があるというのに、ただもううちの兄上とヤリたい一心で何往復なさいました?それに比べたら、従弟殿はちょっと嘘をついてサボっただけなんですから、いいじゃないですか」
「・・・ううう」とセオドレドが、思い出したくない過去を指摘されて不明瞭な声をあげる。
弟君は更に押しかぶせて言った。

「今まで黙っていましたが、あの頃はみんな迷惑してたんですよ。隣国の王子だと思うから一応歓迎してはいましたけどね、内心「また来たのか」と呆れてました。わたしだって、あなたが来るたび兄上を独占してしまうので、寂しい思いを抱えてましたよ。早くローハンに帰ればいいのにと、ずっと呪ってましたから」
「の、呪うなよ」
思わず、後ずさりしてしまうセオドレドである。
「もっとも当の兄上はと言えば、いつもセオドレドさまがお帰りになった後、あなたのことなんか一秒で忘れてましたけど」弟君はふふん、と鼻で笑った。
「“なあファラミア、さっきまでいたローハンのあれはなんて名前だっけ〜アハ☆”とかよく言ってましたよ」

「くくくくそう、今になってそんな昔の話を・・・腹黒なヤツめ・・・」
古傷を抉られた王子は、思わず胸の辺りを押さえてしまう。
「ま、確かに昔話なんかどうでもいいですね。話題を戻しましょうか。あなたとエオメル殿の仲がいくらこじれようと、わたしは一向に構いませんよ。どうぞ従弟殿を追放しちゃってください。わたしがかれをゴンドールに連れて行くまでです」
「おまえがそう言えば、わたしがエオメルを許すはずだと思ってるんだろ」
弟君をねめつけながら王子は言った。
しかし相手は楽しげな口調で「ミナス・ティリスでエオメル殿と昼も夜もやりまくり生活の始まりですか。実に楽しそうだ」などと言いだすのだった。

「ううううう」とセオドレドが拳を握り締めて呻吟する。
その様子を見て、ファラミアはにっこりと笑った。
そして「で、あなたは本当はどうなさりたいのですか」と尋ねた。



 ファラミアとセオドレドが戻って来たのを見て、それまで寝台の上でぼんやりしていたエオメルはハッと顔を上げた。
「セオドレド殿下・・・!」
転がるように床に下りると、かれは従兄の足元に跪いた。
「申し訳ありませんッ、それ以上は言いません。わたしに出来るのはただ殿下の許しを請うことだけです」
セオドレドのブーツのつま先に、額を擦りつける様にしてエオメルが土下座する。

 王子は腕を組んで、従弟の金色の頭をじっと見つめた。
そしてため息をつくと、「顔を上げろエオメル、もういい」と呟いた。
エオメルがセオドレドを見上げて言う。
「どのような罰でも甘んじて受けます。軍団長の地位も返上いたします。ですから、わたしを殿下のお側に置いて下さい」
従弟が真剣な眼差しでかれに訴える。だがセオドレドは視線を外して息を吐いた。
「エオメル、わたしはおまえが本当にしたいと思っていることを、止めさせることは無理なんだと分かったんだよ。任務を放擲してまでファラミアと会いたがるとは想像していなかった。おまえはわたしの側にいたいと言うが、本当はどうなんだ・・・ファラミアと一緒にゴンドールに行きたいんじゃないのか」

「何をおっしゃいます、殿下!わたしの忠誠はローハンと共にあります、他の国では暮らせません!」
思わず従兄の足に縋って、エオメルは叫んだ。
「でもおまえはファラミアが好きなんだろう?ゴンドールにはボロミアもいるし・・・」
「そ、それは、確かにファラミア殿もボロミア殿も大変好ましい方々ですが。わたしはローハンを去ろうなどとは露ほども」
セオドレドの後ろに控えた弟君は、言葉を交わす従兄弟同士の姿を黙って見ていた。
「殿下は、わたしがいなくなった方がいいと思っておられるのですか」
「・・・だから本当は行きたいのに、わたしに気兼ねして我慢することはないと言ってるんだ」
それを聞いたエオメルは、思わず大きな瞳に涙を浮かべて王子を見つめた。

「わたしはもう、あなたにとって必要のない人間なのですか、セオドレド・・・でも、あなたは心底わたしを嫌ったりはしないでしょう・・・?子供の頃から、あなたはいつもわたしを許してくださいました。だから今度も、わたしを見捨てたりしませんよね・・・?」
すると、セオドレドが従弟の頭にそっと手を置いた。
「わたしがおまえを捨てなくても、おまえはどんどん成長してわたしを置き去りにしていくんだろう。確かにもう子供じゃないんだな−−そのことが今回よくわかったよ」

 エオメルは王子の手をつかんだ。
そして押し戴くようにして指に口づけながら、激しく囁いた。
「いいえ殿下、わたしはどこにも行きません・・・殿下がわたしを不要のものだとおっしゃっても。たとえ追放になっても、わたしはあなたから離れない。生涯、殿下にお仕えいたします」
「エオメル・・・!」
セオドレドが強い口調で相手の名を呼ぶと、従弟は瞳に力を込めて、王子を見上げた。
「−−わたしにはおまえが必要だ。ずっと側にいてくれるのか」
「はい殿下、もちろんです!」
それは、従兄弟同士が互いの信頼と友愛の絆をあらためて確かめあう、美しい光景であった。

 キラキラした視線を交わしながら、ロヒアリムたちはうっとり見つめ合っている。
ファラミアはその様子を、(・・・ちょっと、二人で勝手に盛り上がってますけどね。なんとなくむかついてきましたよ。怒)と、心のなかで思っていた。
が、表情はあくまで穏やかである。
「お二人とも、和解が成立したようですね。わたしも大変喜ばしく思います」
ファラミアが声をかけると、エオメルは笑顔を向けた。
「ありがとうございますファラミア殿!あなたのおとりなしのおかげで、殿下がわたしを許してくださいました」

 それを聞いたセオドレドは「何を言うか、こいつは何もしてないぞ」と従弟に言い、弟君を振り向いた。
「おいファラミア、聞いたか。エオメルはゴンドールになんか行きたくないってさ!」
−−なんです、その勝ち誇ったような言い方は。と不愉快に思いつつ、弟君は優雅に微笑んで見せた。
「ああそうですか。良かったですねセオドレドさま。いいですよ別に、なんといってもあなたの大事な従弟殿のお初は以前わたしが頂いてしまいましたしね。それにこの数日というもの、わたしは一日中エオメル殿の肛門に挿入し続けの中出ししまくりで、充分すぎるほど味わい尽くしましたから。ははははは」
ごく上品な口調で、お下劣なことを言う弟君である。

「うわーっ」
王子が思わず顔をゆがめて髪をかきむしる。
そしてエオメルは顔を赤くして「いやん」と身をよじった。
「おや、どうなさいました。今更くやしがっても遅いですよ」
「この悪魔!エオメル、おまえもこんなやつに簡単に犯られるんじゃないッ!」
セオドレドが怒鳴ると、従弟は「だってぇ・・・」と呟きながらもじもじするのだった。
「わたしに出し抜かれて、プライドが傷つかれたのですか、王子殿下」
青い澄んだ瞳でファラミアがローハンの王子を見つめて言う。

「そんなに従弟殿がお好きなら、意地を張ってないで素直に認めるべきですね。今からでもエオメル殿を抱けばいいじゃないですか」
弟君に促されて、セオドレドはつい「おお、やってやる!」と答えてしまった。
もともと直情径行の強いロヒアリムである。世継ぎの王子も例外ではない。
「エオメル、いいな!」
従兄に問われたエオメルが、頬を上気させて「は、はい」と頷く。
すると執政家の次男は両手を広げて、「お二人とも大変素直で結構です。それではこれよりセオドレドさまも参戦、第二ステージに突入というわけですね」と笑顔で宣言したのだった。




この後かなり変な展開に続いてしまいます。


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