*2

 ベッドの中のロヒアリムが、じっとかれを見つめている。
ファラミアは妙な緊張を感じながら扉を閉めた。
息苦しいような閉塞感を払拭しようと、カーテンを開けるために窓に寄ると、ガラスのすぐ向こうが岩肌なことに気づく。
陽光の入らないつくりの部屋は、昼だというのに蝋燭が灯されていた。
弟君はため息を吐くと振り向いた。頬にいつもの穏やかな笑みを浮かべる。

「起こしてしまって申し訳ない。ローハンの方々に、エオメル殿の様子を見て来て欲しいと頼まれたものですから」
「−−そうですか」
「どうなさいました。御加減が悪いのですか」
「・・・」
ロヒアリムは視線を落として黙ってしまった。
ぼうっとして生気のない姿が、いつも快活なエオメルらしくない。顔色も悪かった。
なれない環境で体調を崩したのかもしれない、とファラミアは思った。

(エオメル殿は我が国にとって大事な客だ。だから父は自分の館に預かって静養させているのだろうか)
「旅の疲れが出ましたか?あなたの国とは気候も違いますから」
「はい・・・」
力ない声でロヒアリムが頷く。
「熱がおありかな」
手を伸ばして額に触れようとすると、相手はビクッと身を震わせてその手を振り払った。
「失礼しました」
ファラミアはその過剰な反応に戸惑った。

「ところで、あなたのお仲間はもう帰りの予定をたてているようです。エオメル殿はどうなさるおつもりですか」
「わたしにかまわず、帰国するよう伝えてください」
エオメルが抑揚のない声で答える。
だが、弟君を見上げた瞳は不思議に潤んでいた。
「わたしはもう暫くミナス・ティリスに留まります。大候閣下のお許しを得なくては動けませんから」

(・・・?)
「そうですか。わかりました」
なにか釈然としないものを感じながらファラミアが肯う。
するとエオメルは、顔を背けてベッドに横たわってしまった。
掛け布団を顔まで引き上げ、もう話すことはないというそぶりである。
「ではわたしはこれで。ごきげんよう、エオメル殿」
弟君の挨拶にロヒアリムは「ええ」と面倒くさげな声を出した。
ファラミアは扉を開けて退出した。廊下は更に暗く肌寒い。
室の横には衛兵が剣を携えて待機していた。
執政の館を出てエクセリオンの塔を仰いだときには、執政家の次男の心はひどく乱れていた。

 エオメルの言葉を告げても、隣国の騎士たちは納得しなかった。
生真面目で律儀な軍団長が部下だけ先に帰れなどと言うとは、信じられないとかれらは訴えた。
直に言葉を交わしたいと詰め寄られ、ファラミアは「わかりました。そのように取り計らいます」と請合った。
孤独を好むデネソールが自分の館に他者を招くことは、ほとんどない。
執政不在の折に、勝手にロヒアリムたちを入館させるわけにはいかなかった。
(では一度エオメル殿に、こちらにおいで頂くことにしよう。歩けないほど弱っている訳でもないようだ。それにしても、取り付く島のない様子だったが・・・)

 そんなファラミアに耳打ちする者がいた。
ローハンからの客は執政の寵愛を受けている、という。

それを聞いてかれは唖然とした。
−−エオメル殿が、父と?まさか。
想像だに出来ない話である。
デネソールは私生活に立ち入られることを嫌うので、息子といえどその日常を把握するのが困難だ。
だが近年、特定の誰かに心を動かした様子はなかった。
執政が盲愛を注いでいるのは唯ひとり、長子のボロミアだけである。
ファラミアは眉根を寄せて考え込んだ。が、やがて顔を上げて苦笑する。
「どういう経緯なのかは知らないが。好きにすればいい、どちらも大人なのだから・・・」
そう呟いて得心しようとした。
しかし心の波立ちは去らなかった。

 翌日ファラミアは再び執政の館を訪れた。
「ローハンの方々が話したいと望んでいるので、エオメル殿を連れて出る」
その言葉に、デネソールの近習が異議をとなえた。
「客人をこちらに留めておくよう、命じられています」
「父上がお帰りになられたら、わたしが説明しよう。エオメル殿の姿を見たいと騎士たちが強く主張しているのだ。もしも隣国との諍いに発展したら執政はどう思われるか」
かれが強く言うと近習は引き下がった。

「お仲間が心配して姿を見たいと言っておられます。ですがこの館に、父の許可なくかれらを招くのは難しいことです。もとの宿舎にお戻り願いたいのだが」
ファラミアがそう告げても、ベッドの中のエオメルは宙を見つめて答えない。
かれを無視しているというより、何か物思いに浸ってる様子である。
「エオメル殿」
強い口調で呼びかけるとロヒアリムはかれを見た。
「一緒に来てください」
「・・・大候閣下が、戻るまでここにいるようにと仰いました」
かすれ声でそう呟く。ファラミアはそれを聞いて動揺した。

 襟元から覗く肌と、乱れた金髪・・・やはりあの話は本当なのだろうか。
−−あの父が、この部屋でこのロヒアリムと・・・。
「父は今、不在です。あなたはローハンの騎士としてすべきことがあるでしょう」
そう言われ、エオメルはようやく頷いた。
ベッドから降り部屋着の上にマントをはおる。
その立ち姿をファラミアは素早く観察した。
長身で体格に優れ、肩も腕もたくましい。
長い髪は暗い部屋でも艶めいて、思わず触れたくなる。

 立場は上位にいながら、ゴンドーリアンは素朴で剛健なロヒアリムに友愛と微妙なコンプレックスを抱いていた。
かれらは育てている馬と同様に、大地を自由に駆ける足を持っており、束縛を嫌う。
そういう相手ほど捕らえてみたくなるものかも知れない。
(父はこの若い駿馬を一頭、手元に繋いで置く気になったのか)
それは確かに魅力的な思いつきだった。

 一緒に宿舎に戻り、エオメルが顔を見せると騎士たちは喜んだ。
そしてかれらの軍団長が、いつになく疲れている様子に納得し、帰国を延ばして静養することに同意した。
「のちほどエオメル殿を送り届ける際には、我が国が護衛をつけます」
弟君がそう約束したので、ローハン使節はエオメルを残して引き上げることに決まったのだった。
騎士たちとの話し合いが済んだエオメルは、執政の館に帰りたがった。
だがファラミアがそれを押し留める。

「あそこは静かで、父には良い場所なのでしょう。でもあなたはもっと風の通る、明るい部屋で過ごされたほうが早く元気になれますよ」
かれは自分の自室にも近い、回廊沿いの客間にエオメルを連れて行った。
何か言いたげな相手に「館に帰っても、父はまだ数日は戻りません」と言い聞かせる。
エオメルは大人しく部屋に入った。そしてすぐ寝台に横になった。
「お疲れになりましたか」
「少しだるいようです」

 ファラミアは横たわるロヒアリムの姿をじっと見つめた。
エオメルが気づいて視線を向ける。
「なんですか?」
「いえ、食事を用意させましょうか」
「今は欲しくありません」
「わかりました。ではまた・・・」
そう告げて部屋を出た弟君の心の奥で、何かが「つかまえた」と囁いていた。

 夜が更けた頃、ファラミアが客室を訪れると、エオメルはバルコニーの手すりにもたれて月を見ていた。
「まだお目覚めでしたか」
振り向いたエオメルが少し眉をひそめる。
もう深夜で訪問するには不躾な時刻だった。
「失礼、あなたに届け物があるのです」
ファラミアは持っていた包みをロヒアリムに差し出した。
相手が不思議そうに受け取る。
「数刻前に父から届きました。あなた宛です」
「デネソールさまから・・・」
エオメルは驚きの声を上げた。そして包みを開く。

 中から現れたのは、見事な細工の短剣だった。
全体に金箔が施され、鞘と柄にはふんだんに宝石が埋め込まれている。
二人はそれを見つめて感嘆した。月光に照らすと光の粒が散るようだ。
「素晴らしい」
エオメルが頬を高潮させて言った。
「見事な品ですね。ほら、ここに」
ファラミアは柄を指差して見せた。
「エオメル殿の血縁でもあるロスサールナッハの紋章が彫られています。誰かから贈られた品を、父はあなたにあげようと思ったのでしょう」

 そして穏やかに微笑んだまま、弟君は言った。
「成る程、あなたは凄腕だ」
ロヒアリムの瞳が見開かれ、表情がこわばった。
「いや、父はあまり人に贈り物などしない人間ですから。あなたは特別ということなのかな。その宝剣はエオメル殿の金髪によく映えてとてもお似合いです」
「−−これはマークに下さったものだと心得ます。国に帰ったら、国王陛下に献上いたします」
宝剣を胸に押し戴くように抱えながらエオメルは答えた。
「いいえ、これはあなた宛です。そんなことをしたら父ががっかりしますよ」
表情は優しげだが、口調に皮肉がこもっている。

「何を仰りたいのですか」
「別に」
ファラミアは月明かりに照らされたロヒアリムを、下から上に視線で舐め上げた。
その侮るような目の動きに、エオメルはカッとした。
もともと激昂しやすい方なのである。
「あなたは無礼だ・・・」
「そうですか」
ファラミアがクスクス笑う。それが相手をさらに苛立たせた。

「出て行ってください」
「なぜお怒りになるのです?もっとも、そうして怒る姿も魅力的だが」
エオメルは弟君を睨んだ。そしてその横をすり抜けて部屋に戻った。
宝剣を荷物の中に仕舞い、それを持って出て行こうとする。
「どこに行くんです」
「デネソールさまの館に戻ります。そこで待つように言われてますから」
「戻っても父はいませんよ」
「それにあなたの側にいたくない」
ファラミアはエオメルの腕を掴んで引き戻した。

「離して下さい」
かれは相手にぐっと顔を近づけた。青い瞳がロヒアリムを見据える。
「父と寝てるんでしょう?」
ズバリ切り込まれて、エオメルは硬直した。
「兄につきまとっていたと思ったら、次は父の歓心を買うとは。エオメル殿はこの国で何をするおつもりなのかな」
「な、何もするつもりはありません」
エオメルは我に返ると、逃れようともがいた。

「わたしに逆らうのですか?ならあなたはやはり危険な方だ。企んでいることがあるのですね?」
「そんな、違います」
腕力に自信があるロヒアリムだったが、そのように言われて困惑した。
エオメルはゴンドーリアンの言葉にいましめられてしまったのだ。
そして戸惑っているうちに、ベッドに押し倒された。
「ファラミア殿!」
身体に跨がれてエオメルは叫んだ。

「あなたは一体」
そう言いかけた相手を唇でふさぎ、弟君は舌を押し込んだ。
「ウッ」
かれはこれまで、エオメルのことをボロミアの崇拝者だとしか思っていなかった。
だが、触れる舌の熱さがファラミアを燃え立たせる。
−−わたしは昔から、触れてはいけないものにばかり惹かれてしまうのですよ。エオメル殿・・・。
嫌がる相手の唇を貪りながら、弟君は胸の中で呟いていた。

 長い息が詰まるような口づけが終わると、ロヒアリムは苦しげに咳をした。
間髪いれずファラミアがエオメルの上衣を引き剥ぐ。
あらわになった肌は驚くほど白かった。
北方系のロヒアリムたちはもともと色白の方なのだ。普段は日焼けしているが、執政の暗い館で半月も過ごしているうちに、色が抜けてしまったらしい。
(父もこの肌に触れたのか・・・)
ファラミアは惑乱して相手を見つめた。

「アッ、嫌だ・・・!」
乳首をつまむと、白い体が魚のように跳ね上がり、紅く染まる。
「敏感な肌だ。やはり父は目が高いようですね」
弟君の指がすり合わせるようにエオメルの突起を愛撫する。
「やめてくださいッ」
「でも、ツンと立って色も濃くなりましたよ。−−それに、こちらの方も」
片方の手が下腹部に伸ばされ、布地の上から揉みまわした。
それは硬度を増していた。
「感じてるんでしょう?エオメル・・・」
そう囁く声の響きが、その父親のものとひどく似ていた。
ロヒアリムは天井を見上げて喘いだ。

 下半身を露出させ愛撫をほどこしても、エオメルはかれに身を任せようとしなかった。
ペニスは固く勃起しているのに、懲りずに抵抗をくりかえす姿が、いっそう弟君の支配欲をそそる。
かれは相手の足を抱えて押し上げ、強引に開かせた。
薄紫色の蕾が扇情的に誘っている。
「ここを使って愉しむのがお好きなのですね。勇敢な騎士殿が、そういう嗜好とは意外だな」
「離して下さい・・・!」
羞恥に暴れる身体に乗りかかりながら、ファラミアは「違うと言うんですか?なら、わたしが確かめてあげますよ」と言って自らの欲望をあてがった。

 固く窄まったまま、ほぐれていない部分にゴンドーリアンの性器が突き立てられ、ねじ込まれる。
「ひっ・・・いやだ!」
秘所をこじあけて貫く快楽がファラミアを駆り立てた。
力づくで根元まで埋め込むと、エオメルが「アアーーーーーーーッ!」と悲痛な声を上げた。
その口に掛け布団の端を突っ込んで声を封じ、かれは激しく腰を突き上げはじめた。

「うっ−−ぐうッ」
エオメルは涙をこぼして苦痛に呻いている。
だが、その体内の肉壁は熱くぬめって、ファラミアのペニスを悦ばせた。
一突きごとにいよいよきつく締め上げ、たまらない快楽に導く。
エオメルのペニスも大きく勃ち上がって露を漏らしていた。それを握って上下に擦る。
「ふ、うぅ、んう・・・っ!」
相手は耐えられずに白濁を放出し、ファラミアの腹を濡らした。
エオメルは快感に仰け反り、後腔がビクビク蠕動した。

 堀り続けるうちに、貫いた部分は溶けほぐれて動かしやすくなった。
ファラミアは相手の足首を掴むと左右の限界まで広げさせた。
挿入の角度を変え、腰で円を描いて、かきまわす。
ああっああっとエオメルが喘ぎ、弟君の眼前で再び性器をそそり勃たせた。
「はしたないペニスですね、エオメル殿。わたしに無理強いされているのに、よがって大きくするとは。あなたは実に淫蕩な方だ」
欲情に白皙をゆがめてファラミアは言い、繋いだままロヒアリムの身体をひっくり返してうつ伏せにした。

「うう・・・!」
力が抜けた頼りない身体を持ち上げて、膝を立たせる。
「もっと激しく犯してあげます」
筋肉のついた腰をしっかり抱え、ベッドに這うロヒアリムに後ろから打ち込んだ。
「あーッ、ああぁッ」
エオメルの口から布が落ちて、部屋に悲鳴が響き渡る。
「だ、駄目、ああ、もういやだ・・・!」

「嘘だ」
ファラミアは鋭く言って、さらに深く最奥に没入した。
そのまま上下に大きく揺らす。
「ひーッ、アアーーーアアァーーッ!」
身体を激しくよじるロヒアリムの声は、悦楽の嬌声にしか聞こえなかった。
「好きなんでしょう、こうされるのが!」
秘所が裂けそうなほど弄られるうちに、エオメルはきれぎれに聞こえる言葉の主が、ファラミアなのかデネソールなのかも分からなくなっていた。



「さあ、ご気分はいかがですか、馬の司殿?」
ファラミアがいつもの白い笑みを浮かべて、ロヒアリムの部屋に入ってくる。
宵闇の、薄暗い部屋の中でぼんやりしていたエオメルはハッとして顔を上げた。
「何か用ですか」
「特に何も」
エオメルが眉間にしわを寄せて相手を見、すぐにそっぽを向く。

 この部屋で犯された翌日、疲れきって泥のような眠りに引き込まれていたロヒアリムを、執政の次男が「エオメル殿、もう昼ですよ」と起こしに来た。
目覚めたエオメルは、体に残された陵辱の感覚とともに、前夜のことを思い出した。
思わず感情が迸りそうになったとき、ファラミアの後ろに侍従たちが控えていることに気づいたのだった。
あわてて毛布を引き上げ、呆然としていると、弟君はにっこり笑った。
そして「支度をさせますから、昼食をご一緒しましょう」としれっと言ったのである。

 それから二日がたっていた。
あの夜以来、ファラミアがエオメルに挑むことはなかったが、時折「御機嫌伺いです」と言いながら部屋に現れる。
そのたびにエオメルは怒りのような怯えのような、自分でもよく分からない思いに翻弄されていた。

「どうして用もないのに来るんです」
「あなたの気を引きたいんですよ」
「何を仰っているのか・・・」
ファラミアが指をのばして長い巻き毛を掬い取ろうとする。
「触らないで下さい!」エオメルは強く首を振って嫌がった。
「その美しい髪を乱してよがるあなたは、素晴らしかったですよ」
舌で唇をなめながら弟君が言う。思わず枕を投げつけるエオメルである。
それを敏捷に避けた相手は、笑いながらベッドに寄ってきた。
「出て行ってください・・・!」
「ここはわたしの国ですから」
「なら、わたしが出て行きます」

 立ち上がろうとするエオメルの肩を、ファラミアは押し留めた。
「またですか。あの夜も同じことを言いましたね」
そして整った顔を近づける。エオメルはのけぞって逃げようとした。
「それでは、その後のことも、また同じにして欲しいですか」
「な・・・」
すぐ間近にファラミアの青い瞳が迫っていた。
エオメルは縛られたように身体から力が抜けてしまうのを感じた。
その目には、父親の昏い瞳と同様に、ロヒアリムを従わせる何かがあった。

「くっ・・・い、痛い・・・」
ファラミアが加減しながら二度目の挿入を試みる。
今までエオメルを抱かずにいたのは、最初のときに乱暴に扱ってダメージを与えてしまったので、それが回復するまではと遠慮していたのである。
「あぁッ、あッ、あああ・・・!」
押し広げた間に腰を密着させ、ロヒアリムとゴンドーリアンの肉が再び交じり合う。
敏感な部分を異物に侵され、疼痛がエオメルを苛んだ。
「動かしますよ」
「ま、待ってくださ、アーーーッ」
熱い硬い肉棒が内部を往復し、内壁を擦りあげる。
ロヒアリムは「あっ、ああんッ・・・」と馬上の姿からはかけ離れた声を上げて、髪を振り乱すのだった。

 激しい行為が終わったのちに、ファラミアは「父に知れたら、どうします?」と相手に問いかけた。
「・・・何をですか」
「あなたがわたしとセックスしていることをですよ」
まだ乱れた息を吐いたままのエオメルが、ファラミアを見つめる。
そして目を閉じて「罰を受けます」と答えたのだった。
−−まるでそれを期待しているような口ぶりだ、とゴンドーリアンは思った。
「エオメル殿」
その声が聞こえないかのように、エオメルは目を閉じたまま動かない。
ファラミアはしばらく相手の顔を見ていたが、いつか眠りに落ちていた。

 翌朝、あたりの気配のざわめきにファラミアは目を覚ました。
耳を澄ますと、いくつもの人声と馬の嘶き、慌しく駆けまわる足音が聞こえてくる。
(−−父上がお戻りになった・・・)
ファラミアは隣に横たわるエオメルを見た。ロヒアリムはまだぐっすり眠っている。
かれは相手を起こさぬよう寝台を降りると、身支度を整えて外に出た。
噴水広場には、荷物の積まれた馬車がいくつも止まっていた。
侍従たちがそれをほどいて、あちこちに運んでいく。デネソールが受け取った贈り物の数々だろう。

 ファラミアがその様子を見ていたとき、城門をくぐって護衛に守られた馬車が現れた。
ひときわ豪華なつくりから、執政が乗っているのだとわかる。
かれがそばに寄って控えていると、ゴンドールの支配者が降りて来た。
執政は一通り辺りを見回して、次男に目を留めた。
「ファラミアか。無事にオスギリアスから戻ってきたのだな」
父親はかれをねぎらうように声をかけた。
この何年もかけられた事のない、優しい言葉である。
ファラミアは内心、ショックを受けた。

「ボロミアはまだ帰らんのか」
「は、はい」
「そうか、特に問題は起こってないな?」
「はい。あ、ローハンの使節が数日前に帰国しました。大候のもてなしに感謝すると言っておられました。−−エオメル殿だけは、まだこの都に留まってらっしゃいますが」
そう息子が告げると、デネソールは笑みを浮かべた。
「わかった。おまえもご苦労だった」
執政は晴れやかな笑顔のまま次男の肩を軽く叩いた。
これほど機嫌の良い父をはじめて見る、とかれは思った。
戸惑うファラミアを残して、デネソールはエクセリオンの塔に入っていった。

 どこか混乱したまま、かれはエオメルのいる客間に向かった。
部屋に入ると、ロヒアリムがバルコニーから身を乗り出して外を眺めていた。
そこからも広場の様子が見えるのだ。
「エオメル殿・・・」
ファラミアの声に相手は振り向き、「デネソールさまが帰られたのですね」と言った。
その瞳は熱くひたむきだった。ファラミアの胸が軋みをあげる。
「今はどちらにおられるのか」
「父は今、エクセリオンの塔に・・・エオメル殿!」

 ロヒアリムが戸口に向かおうとする。
その腕をとって引き止めた。
「お待ちなさい」
そう言うかれに、相手は感情のない目を向けた。
(なんて目をするんだ。まるで・・・)
自分を行かせまいと、ゴンドーリアンが腕をつかんだまま離さない。
それを見て、エオメルは懐から短剣を取り出した。

 デネソールが贈ってきた宝剣である。
鞘から抜き、ファラミアに刃を向けた。
「離せ」
剣を指しつけられ、弟君はうめくように息をついた。
−−わたしはあなたを行かせたくない。
だが何を言えばいいのか、言葉が出てこない。
エオメルが深淵を思わせる昏い瞳でかれを見据える。
(まるで、父上と同じような目を)

「執政になれたら」
ロヒアリムが低い冷たい声でかれに告げた。
「あなたが執政の地位を手に入れたなら、わたしに触れてもいいでしょう」
「エ・・・エオメル殿!」
残酷な言葉がファラミアを切り裂いた。
(でもあなたには無理だ)と言いたげな視線で一瞥し、ロヒアリムは身を翻してゴンドーリアンの腕から逃れ出た。
そして立ちすくむかれを残して駆け去っていったのだった。



「デネソールさま!」
塔の上でパランティアの所在を確認していた執政の元に、金色の髪をなびかせた長身のロヒアリムが駆け上がってきた。
「馬鹿者、この部屋には近寄るなといっただろう」
一喝した執政だったが、内心、相手の姿を見て眩しく思った。
「申し訳ありません、一刻も早く参上しようと・・・」
一息に塔を昇って来たのか、エオメルの息が上がっている。

−−かつて、エオルもこのようにキリオンの前に現れたのか、とデネソールは思った。
年老いた執政が、敵の攻撃に亡国を覚悟したその時、遥か北の国からきらめくブロンドの青年王が駆けつけた。
たくましく、誠実なエオル王の助けを得て国を守ったキリオンは、かれにカルナレゾンの地を与えたのである。
今にも駆け去りそうなエオルをゴンドールの傍らに留めたい、もう北の国には帰すまい・・・そう老執政は考えたのに違いない。

「わしに会いたかったというのか、可愛い奴だ」
デネソールが手を差し伸べると、エオメルはその手を取って足元に跪いた。
「おまえのために、色々と用意したものがあるぞ。ではまたわしの館で愉しむとしようか」
「デネソールさま・・・」
見上げるエオメルの瞳が濡れていた。
「おまえはいい声で鳴くからな。今夜もたっぷりその声を聞かせてもらうぞ」
「はい・・お望みのままに・・・わたしは大候殿の僕です」
エオメルが執政の手に頬ずりし、口づける。

「もういい、立て。下におりるぞ」
立ち上がったロヒアリムの下腹部にデネソールが手をやって確かめた。
「あっ・・・」
「もうこんなに固くしてるのか。淫乱な馬番だ」
「ああ・・・デネソールさま・・・」
「我慢できそうにないか、ここで欲しいか?」
執政の指が、エオメルの尻にまわって揉みあげる。
そして秘所をぐっと押すと、ロヒアリムは「ハアッ」と悶えた。
崩れるように床に横たわってしまう。

「仕方ない奴だな、わしは旅から戻ったばかりだというのに」
若い身体にのしかかりながら、デネソールはふと思いついて尋ねた。
「おまえに似合う宝剣を見つけてな。先に送ったはずだが、受け取ったか?」
「はい。ここに・・・」
エオメルは懐から剣を取り出した。
「ふん、ちゃんと届いていたか。そうだ、まずこの剣でおまえを責めてやる。尻を抉りまわされるのが好きだったな?」
デネソールが短剣を取り上げてロヒアリムの前にかざして見せた。
エオメルの瞳が欲情に輝き、執政に同意を告げた。

 白い塔の上で、ロヒアリムはゴンドールの支配者の腕に抱かれ、快楽にすすり泣くのをやめなかった。



20060909up



何をされたのか、いつのまにかメロメロになってる兄貴。パパの凄テクにやられたのでしょうか。
しかし数年後、新執政
恐怖のリベンジが〜。




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