キリオンの返礼前編
〜a farewell gift from Cirion

エオルの誓いの続きです。
エオル〜は管理人がまだウブかった(偽証)最初期の作品にも関わらず、おおげひん!
読み返すのイヤーン・・・であります。
テーマはボロタンに片思い☆な兄貴の恋の行方なのですが、
ファラセオメルボロみんな仲良し♪に着地したいと思っています。




 従弟のエオメルの、自分を見る目が、地獄のように冷たいのである・・・。

 その日の軍議の席でも、従兄弟同士はいつものように顔をあわせた。
エオメルのセオドレドに対する態度は、傍目にはごく礼儀正しいものだった。
しかし、第三軍団長の瞳の奥から放たれる冷気は、北国のブリザードを思わせた。
セオドレドは従弟の顔から視線を微妙に外しつつ、東の国境ぞいの防衛について騎士たちと討議しあったが、補給の指示など与えながらも、背中に嫌な汗が流れるのを感じていた。

 原因はわかっていた。
そもそもの発端は、王子の知らないところで、エオメルとゴンドールのボロミアが情事を楽しんでいたことにある。
(とセオドレドは思い込んでいるが、それは誤解だった。二人は多少の接触はあったものの、実際の行為には至らなかった)
一月ほど前、親善使節としてやってきた執政家の長子に、エオメルはすっかり恋してしまった。
そして二人で遠乗りに出かけた途端、すぐにどこかの草むらでおっぱじめたらしいのである。
(とセオドレドは妄想していた)
すると天罰覿面、行為の真っ最中にオークに襲われてしまったのだ。
(とセオドレドは決めつけていた)
ボロミアは重症を負い、エオメルも負傷して、自分が駆けつけなければ二人ともあやうく命を落とすところだった。
その命の恩人である自分が、ボロミアとの仲を厳しく問い質したというのに、エオメルは頑として「やっていない」と言い張ったのである。

 実際にその通りなのだが、セオドレドは従弟の言葉を信じなかった。
なぜこのわたしにそんな嘘をつくのか、とかれは激怒した。
幼い頃から、大切に育ててきた従弟である。
自分とエオメルのあいだには、他の誰とも違う情愛と信頼の絆があるはずだった。
それを、一方的に断ち切られたような気がして、セオドレドの自尊心は傷ついた。
エオメルの身体には情事の痕跡がはっきりと記されており(つけたのはグリマだが、エオメルはそのことを知らないのである)、言い逃れなど出来ないはずなのに「絶対に違う」と言い張るさまが実に憎たらしく、つい我を忘れて、過激なお仕置きを施してしまったのである。
そして従弟の泣き喚く姿を見ているうちに、自分もだんだんその気になってきてしまい・・・まあ、ついでだからと、犯してしまったのだった。

 するとエオメルは、セオドレドの腕の中であんあんきゃあきゃあと乱れに乱れた。
そのあまりのよがりように、いつから従弟はこんなに男に抱かれ慣れた身体に仕上がっていたのだろう、何人の男と楽しんだらこうなるのだと邪推しすぎて混乱したセオドレドは、嫉妬と快楽に翻弄され、悔しいやら気持ちいいやらでわけがわからなくなった。
そして翌朝気がつくと、何故か馬小屋でひっくり返っていたのである。

 以来ずっと、エオメルのかれに対する視線は、氷点下の状態だった。
−−確かに、ちょっとは、わたしも悪かったかもしれないが・・・。
そう思うものの、セオドレドは従弟が嘘をついたと思い込んでいる。
まずエオメルが先に、何がしかの謝罪を行なうべきじゃないのか、とかれは考えていた。
なのに従弟は、無言で怒りの視線を向けてくるだけだった−−そのことにセオドレドは失望していた。
もちろん、成人したエオメルが誰とセックスしようが自由なことはわかっている。
しかしセオドレドの心の奥には、エオメルは自分の所有物だ、といういささか傲慢な認識が居座っているのである。
従弟が自分の知らないところで、ボロミアだの他のロヒアリムたちだのと散々楽しんでるに違いない、と思い込んだ王子は、自分から和解を申し出る気になれないでいた。
とはいえ、エオメルとの不和に疲れてもいた。

「エオメル」
軍議が終了して解散を告げた後、セオドレドは従弟を呼び止めた。
他のロヒアリムたちと共に、広間の出口に向かおうとしていた第三軍団長は、振りかえって「何か御用でしょうか、殿下」とたずねた。
感情のこもらない、素っ気無い口調である。そして瞳の中にいまだ怒りが籠っている。
セオドレドは内心辟易しながら、温和な笑みを浮かべて相手に告げた。
「父上がデネソール候に書状を送るそうだ。先月は執政家の嫡男がわざわざ来てくれたのだから、今回は王子のわたしが使者に立つように、とのことだ。ボロミアに関しては色々失態もあったし、お詫びと御機嫌伺いを兼ねてというか・・・」
エオメルは王子の言葉を黙って聞いている。
「だからきみも一緒に行かないか」

「えっ」
いきなり告げられて、エオメルの大きな瞳が見開かれる。
「デネソール候は格式を重んじる方だから、随行の者もそれなりの身分でないと。きみなら王族に準じる立場だし、わたしと同じくゴンドールの血を引いているし、それに」
セオドレドは従弟をじっと見つめて言った。
「ボロミアに会いたいだろう?」
そう問われたエオメルの表情が強張る。
「−−何を企んでいるんです」
セオドレドは肩をすくめた。
「別に企んでなどいないよ。言った通りの意味だけど・・・きみはボロミアが好きだから、会いに行きたいだろうなと思ったんだが」

 エオメルは軽く唇を噛んだ。
そして「勿論、またボロミア殿とお会い出来たら嬉しく思います」と答えた。
その頬が少し赤くなっている。
「殿下が供をしろと言われるなら、喜んで随行します」
顔を上げてそう言う従弟の瞳の奥に、喜びが踊っていた。
「やっぱりきみは行かなくていい、と言ったら?」
セオドレドが意地悪く言う。エオメルの表情はみるみる険悪になった。
「わたしをからかっているのですか。なら結構です!ゴンドールには行きません。わたしは自分の領地に戻ります」

 もともとあまり自制心のない熱血タイプのエオメルである。
そのまま足を踏みならして身を翻そうとするのを、セオドレドはあわてて制止した。
「冗談だよ。きみはもうゴンドール表敬使節の一員に決まっているからね」
軍団長は、世継ぎの従兄を一瞬にらんだ。
そして、心の不平を抑えるように息を吐くと、「わたしは自分では何も決めません。殿下のおっしゃる通りにするだけです」と言って頭を下げた。



 数日後、ローハンの王子セオドレド率いる一団は、ミナスティリスに向けて出発した。
マークの強壮な駿馬で飛ばせば四日ほどで到着する道のりである。
だが急ぐ必要もないので、要する日数は十日程度と思われた。

 その最初の野営の夜のことである。
騎士たちと火を囲んで酒を飲んでいたセオドレドは、エオメルがその輪から抜け出て、天幕に入っていくのに気づいた。
王子とその従弟は、身分柄、同じテントで休むことになっている。
だが何となく、エオメルと二人きりになるのが気まずいオドレドだった。
かれはいつまでも酒を呷って、ぐずぐずしていた。
やがて焚き木が消えかけ、飲むのに飽きた騎士たちがそれぞれの寝所に向かうようになると、セオドレドも仕方なく自分のテントに引き上げた。

 見ると、従弟は頭まで掛布を被って横たわっていた。
入り口のすぐ側に寝床をしつらえているのは、敵に襲われたときに自分が盾になるつもりなのだろう。
「エオメル、もう寝たのか」
セオドレドが問いかけても、相手は答えない。
律儀な軍団長は、世継ぎの王子が眠りにつくまで、自分が寝込むことはないはずなのだが。
セオドレドはため息をつくと、自分も身を横たえた。
その夜見た夢は、従兄弟双方にとって胸苦しいものだった。

 二日目の夜のことである。
その夜もセオドレドは深酒をして、前日より酔いが回っていた。
かれは寝所に戻るなり、背を向けて横たわるエオメルを見下ろして言った。
「いつまでも強情なやつだな、きみは」
そして、従弟を軽く蹴飛ばしたのである。
「何をするんですッ」
エオメルは素早く身を起こして王子に怒りの視線を向けた。
「ほら、やっぱり狸寝入りじゃないか」
「特に用もないのに起こされるのは迷惑です」
「わたしは話がしたいんだ。それを無視してむかつく奴だ」
「明日うかがいます」
「昼間のきみはつんと澄まして、取りつく島がないじゃないか」
「澄ましてなどおりません」

 二人は薄暗い天幕のなかでにらみ合った。
ボロミアの訪問以来、互いの心の中を見せ合う会話を交わすのはこれが初めてである。
「エオメル、わたしはきみの主筋だぞ。そのわたしに対してその態度はどうかと思う。あらためるべきじゃないのか」
セオドレドが上から見下ろしたままそう言うと、エオメルは表情を引き締めて相手を見返した。
「忠誠は、強要されるものではありませんぞ」
その言葉に、酔ったセオドレドの血の気が上がる。

「成る程、きみはわたしを忠誠に値しない人間だと思っているのだな!わたしは誰よりもきみを信頼して来たのに。今になって裏切られるとは思わなかった」
「そんな意味ではありません、わたしはいつなりと殿下のために命を捧げる所存でおります。それがマークの騎士の務めと心得ますゆえ!」
エオメルは心外そうに言い返した。
だが、それを聞いて余計腹を立てるセオドレドである。
「務めか。騎士の体裁でわたしを敬うふりをしているだけなのか。なんという侮辱だ」
「違います」

 エオメルは反論しようとしたが、王子にさえぎられた。
「誰も見ていなければ、きみはわたしのことなど平気で見捨てるつもりだな。わたしはあの森できみたちを助けてやったというのに。わたしがいなかったら、きみもボロミアも死んでいたんだぞ!オークにも気づかず、情事に耽るようなだらしないきみたちをだ!」
セオドレドに捲し立てられ、エオメルの顔が引き攣る。
すっかり誤解している王子に、これ以上どう説明したらいいのか分からない。
それにボロミアとの甘い思い出は、セオドレドにも話したくないことだった。
「何を言われているのか、よくわかりません」
エオメルはそっぽを向いて言った。そして「もう休みます」と横になった。

 その背中を王子がまた蹴る。
「話は終わっていないぞ!」
うんざりした様子のエオメルは、無視して起き上がらない。
「わたしはずっときみの無礼な態度を我慢してきたんだ。ちょっと何かされたからって、一ヶ月も不機嫌だなんて、どうかしてるんじゃないか」
さすがにエオメルはこらえかねて跳ね起きた。
「ちょっと何かとは、なんですッ!あ、あのような辱めを受けて、腹を立てぬ男が何処にいるというのです!」
声を荒げて詰め寄る従弟を、セオドレドはふん、と鼻で笑った。
「辱めだなんて大げさだな。楽しんだのはお互い様だろう?きみはわたしに抱かれてよがっていたじゃないか」

「嘘ですーッ!」
大音声で絶叫する軍団長である。
「うるさいな。部下たちが何事かと思うだろう」とセオドレドは耳をふさいで見せた。
「きみはボロミアと会うなりすぐ寝るような奴だ。他の男とも随分遊んでいるくせに・・・わたしにだけ、清純ぶってみせるのが気に入らないよ。本当にきみには騙された。そうやって、実はわたしの気を引いているのか?」
エオメルは血が出るほど唇をかみしめてセオドレドを見た。
勝手に妄想を膨らませて話を捏造している相手を、いい加減目を覚ませっ!とぶん殴ってやりたい気持ちである。
だが、そうはいっても、目の前にいるのはかれがこの世で一番敬愛する従兄なのだ。
その秀麗な顔に手を上げることなど、出来るわけもない。

 エオメルは黙って王子を見据えていた。
するとその腕をセオドレドがいきなりつかんだ。
そして低い声で「こっちに来い」と言った。
「触らないで下さい・・・!」
振り払おうとエオメルがもがく。だが、セオドレドの指の力は強かった。
「黙れ。わたしの為なら命も投げ出すと言ったじゃないか。わたしの望みどおりにしろ・・・これは命令だからな」
そう言うと、セオドレドは従弟を強引に天幕の奥の自分の寝床に引きずり倒した。

 敷布の上に乱暴に転がされたエオメルは、相手を見上げて言った。
「わたしはあなたの自由になどなりませんぞ!」
そして自分を守るように愛剣を胸に抱え、王子を激しい目で見つめるのだった。
その様子は、純情で一途、かつ扇情的だった。
まだまだ子供だと思っていた年下の従弟は、いつのまにか、充分セオドレドの恋愛対象になりうる好ましい青年に成長している。
王子はあらためてその事実に気づいた。
なのに、肝心の相手は全身に拒否を表して自分をにらみつけている。
セオドレドの胸が恋の痛みに軋みをあげた。
そして従弟が可愛いからこそ、余計に憎たらしく許せなく、罰を与えてやりたい気がしてくるのだった。

 かれはエオメルを見てせせら笑った。
「なんだそれは、貞操でも守っているつもりか?誰がおまえに何かしてやるなんて言ったんだ。自惚れるんじゃない」
従弟の金髪を鷲づかみにし、無理やり頭を上げさせると、セオドレドは衣服の裾をはぐった。
目を剥いて見つめるエオメルの眼前で下着を下ろして、たくましいものを露出させる。
「男ばかりの一団だ。目下の者に相手をさせるのは当然だろう?だがな、わたしだって嫌がる者を抱いてやるなぞまっぴらだ。いいかエオメル、これをどうやって慰めるのかは知ってるな?昔、わたしが教えてやったことを忘れたとは言わせないぞ」
かつて、10代半ばの好奇心旺盛な頃、セオドレドに手淫の愉しみを手ほどきされたエオメルは、しょっちゅう従兄と互いの性器を愛撫しあっていた。
そして宮殿の物陰で、密やかなため息と忍び笑いを交し合ったものである。

−−でも、そのときのセオドレドはもっと優しく微笑んでいた・・・。
悔しいような、悲しいような表現しようのない感情に顔を歪ませていると、髪を強く引っ張られて「早くしろ」と促された。
エオメルは無言で従兄のペニスを指で握りこんだ。



みんな仲良く〜v とかゆうてるわりに、いきなり不穏なロヒ〜ずであります。



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