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蛇汚染3
wormtongue’s bad influence ver.final ...a tragedy will happen.
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今日も、アイゼン川を挟んでローハンと敵対勢力との激しい戦闘が行われているはずだ。 そして、オークと褐色人の騎士国への侵入は、じわじわとその数を増している。 われわれに必要なのは、なんとしてもアイゼンの浅瀬を制圧することだ。 それが叶うのも、時間の問題だと思われるのだが−−しかし、浅瀬周辺には王子セオドレド率いる精鋭、第二軍団が配置されて守りを固めている。
なんという目障りな奴だ。 ローハンの老王、死にぞこないのセオデンはすでにこの蛇の舌の言うがまま、東マークの守護者エオメルもおれには逆らえない。 だが、西マーク−−肝心のアイゼンガルド周辺を抑えているセオドレドは、国王の裁量を無視して勝手に部隊を編成しさらに防衛線の守備を強化してしまっている。 もはや、我慢ならない。
それにエオメルとセオドレドが、固い絆で結ばれている様子も、見ていて腹の煮える光景だ。 おれは以前、この二人の離反を画策したのだが、それは失敗したようだ。 エオメルの王子への心酔は揺るがず、セオドレドの従弟への信頼も失われなかった。
そう−−とうとう手を打つべき時が来たようだ。 世継ぎの王子の死という、決定的な打撃をローハンに与える時が・・・。
「−−あ・・・あぁ・・・」 甘い喘ぎが、強引に唇で封じられる。 「ん・・・」 密やかなため息と、忍びあう笑い声。 今は真夜中−−黄金館からは少し離れた、住む者もなく朽ちかけた暗い廃屋にわたしたちはいた。
今夜は風が強い。 隙間風が吹き込んで、窓が軋む音がする。 ガタン、と大きな音がして、わたしはびくりと身を震わせた。 思わず、古びた窓のほうを見あげてしまう。すると、「エオメル、わたしを見ろ」と言われて顎をつかまれ、キスの続きを求められた。 王子と舌を絡ませながら、わたしはすぐ甘い陶酔の中に引き込まれていく。
かれの指が、わたしの性器を刺激するのに応えて、わたしも相手の身体に指を這わせて愛撫する。 王子の腰を撫で、その奥の秘腔を探り当てる。 わたしはこの部分がどのように男を迎え入れるのかを、知っている・・・。 そっと指をめり込ませると、「よせ・・・」とセオドレドがうめいた。 「わたしのほうは、もうこんなです・・・これを貴方の中で鎮めて欲しい・・・」 固く立ち上がったものを相手に握らせて示しながら、わたしは王子の耳元で囁いた。
だが、かれは首を横に振った。 「いやだ。きみは乱暴だから」 そう言われて、わたしはあの厩舎でセオドレドを無理やり犯した時のことを鮮やかに思い出した。多分、王子のほうも同じ思いでいるのだろう。 「優しくします」甘い声でそう告げても、王子は「駄目」と言って肯わない。 「なら・・・」 わたしはセオドレドの頭をぐいと下方に押しやるようにして、「舌で舐めてください」と大胆に言った。 王子は言われるままに身体をずりさげ、わたしのものを口に含んだ。
「ああ・・・」 温かい、湿った感触に包まれてわたしは喘いだ。 熱くぬめる、濡れた舌に舐めあげられ、優しく甘噛みされる。わたしのものはビクビクと震えながらさらに張り詰めた。 強く吸われて、身体がうねる。 堪えられなくなったわたしは、思い切って「いいですか・・・?」と尋ねた。 かれはわたしのものを咥えながら、頷いた。
王子の頭を両手で抱えると、唇を噛み締めてセオドレドの口の中に放出する。快感にぞくぞくと身体を震わせながら、わたしは満足の吐息を吐きだした。 かれは白濁を飲み下し、舌で清めてくれたあと、身体をずりあげてわたしを見つめた。 そしてたった今、わたしのものを咥えていた唇で口づけられる。 精液の匂いのする従兄の舌を、わたしは激しくむさぼった。
グリマがサルマンのもとへ行く用事がある、というのでわたしと数名の部下は、蛇の舌とともにアイゼンガルドに向かうことになった。 名誉ある騎士軍団長であるわたしを、私用の護衛につかうとは・・・と腹立たしかったが、セオデン陛下に「エオメル、一緒にいってやれ」と命じられては、言うとおりにするしかなかった。
だがその反面、これはいい機会かも知れないと考えた。 以前から、わたしはサルマンに不信と疑念を抱いているのだ。 あの得体の知れぬ魔法使いは、褐色人やオークを手助けして、マークへの侵入を許している気配がある。 そのことを探るためにも、一度アイゼンガルドに潜入し、オルサンクの塔を偵察したいと思っていたのだ。
だが、その思惑は阻まれた。 アイゼンガルドの門前で、入場を許されたのはグリマだけだったのだ。 立ち入ることを拒まれて、ますます疑いを濃くしたがどうにもならなかった。 「二日たったら迎えに来い」 そう言いながらひとり門の中に入っていく蛇の舌の後姿を、わたしは歯噛みしながら見送った。
グリマを待つ間、われわれはヘルム峡谷で待機することになった。 しかしわたしは気が重かった。あそこにはセオドレド殿下がいる。 わたしはかれに会いたくなかった。 従兄と会うのは、あの−−厩舎での一件以来だった。 自分が王子にした仕打ちの罪深さは、日が経つにつれて心に重く深くのしかかっている。 いったいどんな顔をして、再び王子にまみえることが出来るというのだろう。
衛兵に要件を告げてわれわれは峡谷内に足を踏み入れた。 そして謁見の間に、セオドレド殿下はいた。 いたたまれない思いがした。わたしは王子の顔を見ることが出来なかった。 きっとかれは、わたしを蔑みの視線で見下ろしているに違いない・・・。 顔を伏せたまま、二日ほど滞在させて欲しい旨を告げると、従兄は「ゆっくり休め」と言った。 わたしは礼を述べ、逃げるようにその場を辞去した。
割りあてられた部屋に身体を落ち着けていると、夜になって夕餐の用意が出来たからと呼ばれたが、わたしは何も食べる気になれず、部屋に閉じこもっていた。 だが夜が更けた頃、近習が「セオドレド殿下がお呼びです」と告げに来た。 わたしは深いため息を吐くと、覚悟を決めて部屋を出た。
王子の私室には酒席がしつらえてあった。 椅子に座るように促され「夕食にも現れずに、どうした?」と聞かれた。わたしは「疲れていましたので」と答えた。 そのまま王子とともに酒杯を酌み交わすことになったが、あまり会話が弾まない。 わたしにとって、従兄と酒を飲むことは最も楽しい時間のひとつだったのに−−それをこんな気詰まりな沈黙の場に変えてしまったのは、すべてわたしの罪だった・・・。 あまりに間がもたないので、わたしたちは強い酒をぐいぐいあおった。 だが、快い酩酊はなかなか訪れてくれなかった。
浴びるほどに飲んで、さすがにめまいがし始めた頃、やはり飲みすぎて苦しそうに息を吐いていたセオドレド殿下が、急に「来い」と言ってわたしの腕を引っ張った。 どこへ・・・?と思うまもなく、わたしたちはともに足がもつれて椅子から転げ落ち、床に倒れた。 従兄の重い体がわたしの上に重なってくる。 そして荒々しく上着をはだけられた。 突然の王子の行為に動揺したわたしは、「殿下・・・」とうめいた。 酔っているのだろう、と相手を押しのけようとすると「動くな」と命じられた。
上も下も剥ぎ取られ、わたしの肌があらわにされる。 わたしは王子に求められている−−と呆然としながら、抵抗せずにされるがままになっていた。 これは制裁なのか・・・そう思いながら、畏怖に心を震わせ、目を閉じて相手に体をゆだねる。 王子の指がわたしを乱暴に押し開き、強引にえぐる。 「う・・・」 思わず呻くと、「このぐらいで痛いのか?」とかれは言った。その口調の冷たさに、胸を裂かれるような痛みを覚えた。
わたしが黙っていると、セオドレドはしばらく掻き回したのちに、指を引き抜いた。 そして自らの下衣を脱ぎおろしてのしかかってきた。 固い先端が押し当てられると、わたしは息を詰めて受け入れる心構えをした。 だが−−従兄は挿入をためらったらしい。 「随分狭そうだ・・・辛いんだったら止めようか」 王子はこの場に及んでも、不肖の従弟を気遣ってそう言ってくださるのだった。わたしには、もうそんな価値はないというのに。 「いいですよ。慣れていますから・・・」わたしは投げやりにそう言って、自分から脚を大きく広げた。娼婦のように。
セオドレドの鋭い視線がわたしに注がれる。 かれは「そうか」と呟くと、ぐいと押し入ってきた。 「ああっ・・・!」 一気に貫通されてわたしは喘いだ。 散々教え込まれた、グリマのものとは違う形、違う角度のものがわたしの内部に埋め込まれ、烈しく揺すられる。 わたしは受け止めかねて苦痛にうめき、逃れようとした。 王子はわたしの両手首を掴んで、床にはりつけにしながら責めつづけた。
峡谷の冷たい床の上で、わたしたちはもつれ合い、絡み合った。 「そんなに締めるな・・・」 腰を打ちつけながら、快楽よりも苦痛を感じているような声で王子が言う。 奥まで深く打ち込まれて内壁をこすりあげられているわたしは、卑しい獣のように乱れた声をあげて、よがり泣いた。 そして心の中で、何故貴方はわたしを抱くのですか−−と叫んでいた。
行為が終わったあとも、酒とセックスに酩酊した状態のわたしたちは、立ち上がる気力もなく床に転がっていた。 ようやく、夜気に肌が冷えて寒気に震え始めた頃、わたしは顔を上げてかたわらの王子を見た。 セオドレドは目を閉じて荒い息をしている。白い胸が上下していた。 「−−殿下、風邪を引きますよ」 そう言って腕に触れると、王子はうう、と眠そうな呻き声で答えた。 わたしはだるい身体を起こし、かれを抱き上げて寝台に連れて行って寝かしつけた。 そして散らばっていた衣服をのろのろと身につけると、「おやすみなさい」と囁いて部屋を出た。 閉じられた扉の向こうで、「・・・ここにいろ・・・」と言う王子の呟きが聞こえたような気がした。
次の日、廊下で顔をあわせたセオドレドは、二日酔いの頭痛に顔をしかめていた。 「くそ・・・昨夜は飲みすぎたな」 端正な貌を青白く澄ませてそう言う従兄に、わたしは頷きを返した。 「−−今夜はどうする」 と問われて、わたしの胸の奥がたかぶる。 だが、「もう酒はいいですよ」とだけわたしは言った。 王子はこめかみを押さえながらそうだな、と言い、わたしたちはその場を別れた。
峡谷の周りは敵の気配もなく、静かだった。 特に用件のないわたしは、アグラロンドの中を彷徨った。 きらめく洞窟の壁の手触りを確かめ、岩の上に横たわって頬に冷やりとする鍾乳石の感触を感じる。 目を閉じると、前夜、従兄と交わした情交の感覚が生々しく蘇る。
わたしは王子に貫かれ、征服された。 かれの慰み者になることを受け入れて、喘ぎ、のたうった。 かれはそんなわたしをどう思ったのだろう。 内心、なんという淫らな奴かと更に侮蔑の思いを深くしただろうか。 セオドレドはもはや、わたしへの情愛も信頼も失っているのではないだろうか。 その思いにわたしの心は惑い、千々に乱れた−−それでいながら、あさましくも王子の性器を深々と埋め込まれた瞬間の感触を、何度も反芻してしまうのだった。
−−ああ、セオドレド。わたしの敬愛する世継ぎの君。貴方の心のうちを覗き見たい・・・。 わたしは燦光洞の輝きに囲まれながら、解けない謎に呻吟していた。
夜になると、窓の外には鋭利な三日月が出ていた。 峡谷中の者が寝静まった深夜、わたしは寝台の上で毛布を引き被り、ある予兆を感じながら息を潜めて眠ることも忘れていた。 夜の底で、空気が絹糸のように張り詰める。 扉に背を向け、何を望んでいるのかもわからぬままに、その扉が開かれ、わたしの運命が訪れる時を待っていた。
恐ろしい緊張の中で、空気が不意に揺らいで、扉の軋む音がした。 重々しい扉がゆっくりと開けられて、誰かが部屋の中に入って来る。 わたしは身体を丸めて目を閉じ、身じろぎもせず待った。 わたしのもとに忍び歩いてくる足音が聞こえる。誰かが−−かれが・・・。
「−−エオメル」 低い声がわたしに囁く。 少年の頃から聞き慣れた声、わたしの内奥を揺り動かす声。 寝台に体重がかかる、ぎしりという音がした。 そしてかれの白い指がわたしの顎にかかり、「こっちを向け」と言われて振り向かせられた。 ・・・自分と同じ色の瞳が、間近にわたしを見つめている。 「セオドレド・・・」わたしは震える声で相手の名を呼び、従兄の首に腕を絡ませた。
甘い、眩暈の中でわたしたちは理性をなくして混じり合った。 従兄と口づけを交わし、かれの性器を口に含んで、相手のあらゆる要求に従う。 再び王子のペニスを迎え入れて、わたしの肉は悦びに濡れていた。 「あ・・・ああ・・・殿下・・・ッ」 深く穿たれ、えぐりあげられながら、わたしは「もっと・・・!」と悶えた。 グリマとのセックスでは経験したことのない、感興がわたしの内部を駆け巡っている。
従兄と、呼吸と動きをともに合わせることで、奇跡のように到達できる快楽の深遠が存在することを、この夜わたしは初めて知った。 「あっ、ああッ、んッ・・・!」 わたしの声は淫ら過ぎるだろうか。 あたりをはばからぬ、爛れた狂乱の声を発しながらわたしは喘ぎ、従兄にしがみついて自ら腰を突き上げた。
「どうしてくれるんだ。明日から一人じゃ眠れない・・・」 わたしの中で何度も果てた王子は、情事が終わったあともなお、わたしの身体を抱きしめて愛撫していた。 窓の向こうには、陽が登りかけている。 「どこにも行くな。ずっとここにいればいい」 そう言いながら、王子がわたしの髪を撫でる。 従兄の白い美しい顔を、わたしは魅せられたように見つめていた。
「セオドレド殿下・・・わたしは陛下のもとへ帰らねばなりません」 わたしの言葉に、王子は「親父のことなんか放っておけばいい」と言い、唇を塞がれる。 差し入れられた舌が口内を探る。それに舌を絡めて答えた。 ひとしきり甘美な口づけを交し合ったあと、わたしは意を決して王子の腕から抜け出た。 「もう朝です。殿下、アイゼンガルドにグリマを迎えに行かなくては。わたしだってこのまま峡谷に留まりたい・・・ですが、果たすべき軍団長の務めがありますので」
寝台から降り立って、身支度を整えながらわたしが言うと、セオドレドは顔をゆがめて「その軍団長の務めが蛇の舌の護衛か。なんというつまらん用件をきみに課すんだ、親父の奴は」と吐き捨てた。 「でも、そのお陰でこうして貴方に会えたのですから」 わたしは王子のなめらかな頬に手をあて、ずっと胸に秘めていた質問をようやく口の端にのぼせた。 「殿下・・・殿下はもう、わたしの罪を許してくださっているのですか・・・?」 従兄はわたしの手をとってそっと握り返しながら、「きみは初めから罪など犯していない」と告げたのだった・・・。
ヘルム峡谷の城門の前で、王子が金色の髪を靡かせながらわたしと部下を見送っていた。 出発の直前にも、わたしたちは人目につかない陰に隠れて抱き合い、すばやく唇を交わした。 「出来るだけ早く、エドラスにお戻りになってください。わたしが殿下の唇の感触を忘れないうちに・・・」わたしの囁きに、従兄は「ああ、必ずきみに会いに行く」と言いながら、抱きしめる腕に力を込めた。
アイゼンガルドの門の前で、不吉なオルサンクの塔を見上げていると、門が開かれて蛇の舌が場外に出てきた。 オルサンクは古いローハン語で「狡猾な心」を意味することを、わたしは思い出していた。 「待たせたな」 馬にまたがったグリマは、わたしと轡を並べながら「ヘルム峡谷にはセオドレドがいただろう。どうだった、王子の様子は」と尋ねた。 わたしは前を向いたまま、「別に・・・」と答えた。
蛇の舌の邪な瞳が、わたしの内面を貫き通すかのように、じっと見つめている。 そのからみつく視線は、冷血な蛇の皮に撫でられたように厭らしく、執拗だった。 エドラスへの帰途をたどりながら、わたしは我知らず戦慄し、身震いしていた。
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