エオルの誓い(後編)  Oath of Eorl





 騎士団長エオメルが、負傷して帰館したため黄金館は騒然となった。

 エオメルは王の御前で近衛兵を呼び集め、新たな敵−−日の光を恐れず、戦闘能力も増した大型のオークの存在について語り、警戒を強めるよう進言した。
甥の報告を受けたセオデンはただちに各方面に斥候を派遣することを決め、黄金館の広間はそのまま軍議の場に変わった。
中つ国の地図が広げられたが、騎士たちの不安げな視線は一様にゴンドールの東側、黒の国モルドールに注がれていた。

 王は疲れた様子のエオメルをいたわり、寝室に下がって侍医の手当てを受けるよう指図した。
エオメルは感謝の言葉を述べると、足を引きずりながら退出しようとした。
すると伯父王はその背に「そういえばボロミア殿はどうなされたのだ、エオメル。一緒ではなかったのか?」と急に思いついて訊ねたのだった。
エオメルはギクリとして立ち止まった。
「はあ、ええと、ボロミア殿は・・・」
などと、しどろもどろになっているところにセオドレドがやってきた。

「父上、ボロミア殿は先刻わたしとエオメルと共に帰館されました。が、オークとの戦闘で大変疲労なされた由、客室で休んでおいでです。王に挨拶もせず申し訳ないと仰っていましたよ」
王子はそう答え、ほっとした表情の従弟の肩に手をかけて「きみも早く医師に診てもらえ」と言いながら押しやった。
広間を出て行くエオメルの姿を確かめてから、世継ぎの王子は騎士たちに告げた。
「わたしも斬り倒されたオークの死体を見たが、いままでに見たことのないような大きな奴らだった。十数匹はいたと思うが、ボロミア殿とエオメルがみな片付けてくれた。だが、見てのとおりエオメルは負傷し、ボロミア殿は疲労困憊の状態だ。諸侯らも気を引き締めて国内の警備に当たってくれ」
騎士たちは王子の言葉に威声を上げ、セオデンは髭を撫でながら頷いた。



 エオメルが王の御前で敵の脅威についてあれこれ喋りたてているうちに、セオドレドは誰にも知られぬようボロミアを館の中に運び込んでいた。
王子は機転を利かせて、ゴンドールの総大将を王宮づきの医師ではなく産婆に手当てさせることにした。
密かに連れて来られた老女は、ボロミアの傷の仔細を見て眉をしかめたが、すぐに必要な薬草をそろえて治療を始めた。
産婆は出産を手助けするだけでなく違法な堕胎もおこなうし、時には敵に暴行された女性の手当てをすることもあるのだ。そのうえ口が堅い。
ボロミアの名誉を慮ったセオドレドは、侍医よりも老女に総大将を任せるほうが適当だと考えたのだった。

 夕刻になって軍議が終了すると、王子はすぐさまボロミアの病室に向かった。
ゴンドーリアンは意識を取り戻しており、苦しげな様子だったがセオドレドを見て嬉しそうな様子を見せた。
「ボロミア殿!気がつかれたのか」
「王子殿下・・・わたしは・・・」
「もう大丈夫です、あなたを救うことが出来て本当によかった−−下劣なけだものどもはわたしが片付けました。ボロミア殿の傷の具合について見知っているのは(傍らに控えている老女を見やって)この者と、わたしだけです。どうか安心して身体を休めてください」

「殿下がわたしを救ってくださったのですね・・・感謝しますぞ」
目を閉じてそう呟いたボロミアは、すぐにハッとしてセオドレドに訊ねた。
「エオメル殿は?わたしと一緒にいたのだが、どうなされたのか」
「かれも無事です。負傷したので手当てを受けていますが、大事はありません」
セオドレドの答えに、ボロミアは安心して愁眉をひらいた。
「もうなにも心配いりません、ゆっくり休んでください」
セオドレドは、老女に「大将殿が安んじて眠れるような薬草を」と命じた。
そして煎じられた薬を飲ませると、やがてボロミアは静かに寝息をたてはじめた。
今頃は、エオメルも同じように眠りについているはずだった。
騎士軍団長が白の総大将心配のあまり、自分の怪我にかまわずボロミアのそばに付き添おうとするだろう、と考えたセオドレドは宮廷の侍医に、従弟の手当てをするさいに眠り薬を飲ませておけと命じたのである。

 産婆が手当てを終えて退室すると、次にセオドレドは病室にゴンドール使節を招きいれた。
かれらは姿の見えないボロミアを心配して面会を要求していたのである。
執政家の跡継ぎはの寝顔は安らかだった。
ゴンドーリアンたちが納得して宿舎に引き上げていったのちも、ローハンの王子はボロミアのそばにひとり付き添い、その白い寝顔を見つめながら物思いに耽っていた。



 翌朝早く、エオメルが痛めた足をものともせずにドタバタとボロミアの部屋に駆け込んできて、うたた寝していたセオドレドの目を覚まさせた。
「ボロミア殿のお加減はいかがですかっ」
エオメルは昨夜いつのまにか寝込んでしまった自分が信じられなかった。
だから目を覚ますなり飛んできたのである。
かれは眠る大将の枕元にかけよって、白い顔を覗き込んだ。
「おお、顔色が良いですね。よかった」
「−−朝っぱらからそんなに騒いだら、ボロミアが目を覚ましてしまうよ」
欠伸をしながらセオドレドが立ち上がる。
「じゃあ、かれの看病はきみにまかせて、わたしはすこし休もうかな」

「殿下は一晩中ボロミア殿に付き添っておられたのですか?それはお疲れでしょう。どうぞお休みになってください」
「ああ。では、かれが目を覚ましたらこれを」
セオドレドは昨日産婆が処方していった薬湯と薬草の使いかたを従弟に指示した。
そして後を頼むと言って扉を閉める間際に、眠るボロミアとそれを見つめるエオメルの横顔を見比べて眼を細めたのだが、むろん、従弟はそんなことには気づかなかった。

「・・・エオメル殿」 
眠りから覚めたボロミアの、緑色の瞳が瞬いた。
かたわらにマークの騎士軍団長を認めると、ゴンドーリアンの白皙がほころんだ。
「ああ、ボロミア!ご無事でよかった・・・。どこかお辛いところはありませんか?そうだ、何か食べますか」
エオメルが相手の頬に手を添えて言う。
「今は何も・・・。エオメル殿の元気な顔が見れてわたしは嬉しい」とボロミアは答えた。

「ええ、わたしはいたって元気でなんともありません。ボロミア殿に一刻も早く回復していただかなくては。本当に何も召し上がらなくてよろしいのですか。なら、これから傷の具合を拝見してもよいでしょうか。セオドレド殿下から消毒の方法を教わりましたので」
「そうですな・・・確かに、身体のあちこちが痛むようだ。いや、大したことはないが」
そのボロミアの言葉を受けてエオメルは病室を飛び出し、侍女を呼びたてて温かい湯をたらいに何杯も運ばせた。
そして人払いすると、ボロミアの寝間着をくつろげてウルク=ハイに切り裂かれた胸の傷を洗い清め、化膿止めの薬草を塗りこめたのだった。
総大将は傷口が染みるのか、ときおり眉をひそめつつ大人しくエオメルの手当てを受けた。
だが、うつ伏せにされ下穿きをずり下ろされそうになると、うろたえて声を上げた。

「エ、エオメル殿、もう結構ですから」
「何を言われるのですか、ちゃんと薬を塗らないと。化膿したら大変ですから」
「しかし・・・」
ボロミアは羞恥に身をよじっていたが、エオメルは至極真面目な口調で「傷の手当てをするだけです。わたしにまかせるのがお嫌だと言われるなら、ほかの者に頼むことになりますが・・・その、わたしたち以外の者に大将殿の怪我の具合を知らせてもよいのでしょうか?」と言った。
それを聞いたボロミアは恥ずかしそうに眼を伏せた。
「仕方ないですね・・・エオメル殿にお任せします」と言って枕に顔を埋める。
エオメルは、むろん純粋にボロミアの身体を直したい一心である。
なのに、下着を引き下ろして相手の真っ白な尻を目にしてしまうと、なにやら頭がクラクラするのだった。

「し、失礼します」
顔を赤くしながら白い肉を押し分け、傷ついた部分を剥き出しにする。
そして丁寧に消毒して薬を塗った。
まだ傷口は塞がっておらず、裂けた皮膚が痛々しかったが、出血は止まっている。
手当てするエオメルの脳裏には、大将がこのような怪我を負う元凶の光景が何度も浮かんできていたが、かれはそれが鮮明な画像になる前に打ち消していた。
はっきり思い出してしまったら、泣いてしまいそうだったからである。
エオメルの長い指がボロミアの奥深くに進入して、内壁をさするように薬草を塗布していく。

「う・・・」
ボロミアの呻き声に「あっ、痛かったですか」とエオメルは言い、指の動きを止めた。
「い・・・痛くはないですが・・・エオメル殿、もうそのへんで・・・」
「いや、まだ充分ではありません。もう少し奥まで薬を塗らないと」
もっと続けたほうがいいのに、と思いながらエオメルはボロミアの後腔に入れた指を抜くべきかどうか迷っていたが、やがてその差し入れた指が、柔らかな肉に締めつけられる感触に気づいた。
そして、指一本でもこんなに狭く締まるのだから、自分の・・・を挿入してみたらさぞかし・・・であろう、などとつい想像してしまったのである。
いかん、いかんぞ何を考えているのだエオムンドの息子エオメルよ!とかれは頭を振って邪念を追いはらおうとした。

「もう少しだけ、我慢してください。悪い菌が入っていたら大変ですから」
そう言って指をそっと引き抜くと、磨り潰した薬草を掬い取って再び挿入する。
ボロミアが「んッ」と小さな声を洩らして身体を震わせた。
内部で指をゆっくり回転させると、「ああっ」と喘いでボロミアの足が突っ張った。
エオメルは大将の敏感な反応に、指を埋めた部分を凝視した。
そして指先で内壁をぐっと押してみた。
「ハアッ、アァ!」ボロミアがあきらかにかれの指使いに感じて、よがった。
そのさまを見たエオメルの頭に血がのぼる。

 かれは可能な限り深くねじ込んで、ぐりぐりとボロミアの秘所をえぐりながら指を動かした。
「ァッ、ンッ、エオメル・・・っ!」
悲鳴のような嬌声を洩らすゴンドーリアンに、「・・・気持ちいいですか」と低い声で囁きかけた。
ボロミアはハアハアと息を吐きながら、首を捻じ曲げてかれを見上げた。
そして「ええ・・・かなり。でも、エオメル・・・それは治療じゃないでしょう」と言って笑った。
「まあ、そうですね」
そう答えたエオメルは、さらに行為を続行したいと思ったが、ボロミアが疲れた声で「今は休ませてください、エオメル。まだわたしにはそんな元気は出ないようだ・・・」と言ったので、急いで指を引き抜いた。

「申し訳ありません、ボロミア殿。つい、馬鹿なことを・・・わたしは本当に考えなしの愚か者だ」
ロヒアリムは顔を赤くしてうなだれた。
「あなたは可愛いマークの騎士殿ですよ。あなたの手綱に操られたら、わたしなど為す術もなくされるがままだ・・・」
白の総大将がそう言ってクスクス笑う。
それにつられてエオメルも笑顔になる。
「ただ今は休みたいのです。元気になったら、ぜひもう一度、一緒に遠乗りに出かけたいものだ」
「ええ、必ず。すぐお元気になられますよ」

 エオメルはボロミアの寝間着を整えて、毛布を被せた。
そして安眠作用のある薬湯をぐいと呷って自らの口に含むと、大将に覆いかぶさって口移しに飲ませた。
ボロミアが薬を飲み込んだあともかれは唇を重ねたまま離さず、相手の舌を捕らえて甘く噛んだ。
ひとしきりむさぼり吸ったあと、ようやく顔をあげて相手を見ると、ボロミアは瞳を潤ませてかれを見つめていた。
そして途方にくれた声音で呟いた。
「エオメル殿・・・わたしはあなたと離れられなくなりそうです・・・」
それを聞いたエオメルの顔が歓喜に輝く。
騎士軍団長は「なら、わたしは一生あなたから離れません」と言って相手の額に自分の頬をこすりつけた。

(わたしは幸福だ・・・)
ゴンドーリアンの指が自分の髪を撫でさする感触を感じながら、エオメルは甘い吐息を洩らすのだった。





ラブラブ〜んな二人ですが、次、くるわよくるわよ弟君が。

メルめ〜調子に乗ってられるのは今だけだからな。セオドレドさまの不機嫌、静かに増大中でいずれえらいめにあわされるから、覚悟しとけ〜。





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