震災レポートNO.21 <2011・4・20> 原発のレベル7を認めても危機打開の見通しは見えない 「企業秘密」が盾になっていないか ●この震災レポートで、3回目の原発問題をレポートしてから2週間が経過しました。 その間に、前回指摘した疑問点のほとんどが、様ざまな報道で解明されました。同時にまたそこから新たな疑問が湧いてこざるをえません。 (1)なぜあっさりレベル7を認めたのか 私は原発に関する前回のレポート(震災レポートNO.17)で、すでにレベル6の状態になっている問題を提起しましたが、ようやく数日後の会見で、保安院が「レベル7」と認めました。 ●不可解なのは、遅きに失したとは言え、原子力保安院が、空中への放射能汚染がまだチェルノブイリの10分の1の段階で、意外にアッサリと福島第1原発からの放射能汚染を、レベル6を飛び越え、最高の危険度「レベル7」に引き上げたことです。 ●おそらく危機的事態の打開に時間がかかり、その間に放射能汚染はチェルノブイリのレベルに達するか超えるかしてしまうだろうから、早めに最悪のレベルだと認めたほうがよいという判断でしょう。 だからこそレベル7を認めたあとは、かえって事態打開の見通しが見えにくくなったと感じるのは、私だけでしょうか。 (2)情報の秘匿が繰り返されている 前回、私は炉心溶融と外部への放射能大量流出の事態は、3月14日から15日未明にかけて、また3月24日の作業員被曝事故の2回にわたり、はっきり分かるチャンスがあったが、判断できる情報が伝えられなかったことを指摘しました。 ●最近ようやく、3月15日は政府中枢でも2号基が暴走しかねない深刻な状態と認識され、内部は大変だったという報道がありました。 深刻さの根拠は、15日に格納容器の下を取り巻いている圧力抑制室という水のタンクで爆発音がおきた事実、74気圧まで高まっていた格納容器内の気圧が1気圧に下がったこと、2号基の放射能レベルが急上昇したというものです。核燃料を冷やす炉心の水位も下がったまま。 ●誰が見ても、炉心で溶け出した核燃料が外側の格納容器に出てきて、そこで水素爆発が起き、格納容器も損傷したため、かなりの放射能がもれ、注入している水の水位も上がらなくなったことが推測されます。 私が前回、格納容器の壊れ方として三つあげた中で、容器下部の損傷で、核燃料はむき出しのまま、格納容器まで達していることは確実です。 (3)汚染水の処理はますます不透明 作業員の被曝事故をきっかけに、タービン建屋、さらにその外の地下施設にも大量の汚染水が流れ出し、一部は海にまで流れ込んでいたことも分かりました。その汚染水の存在を、被曝事故の6日前に東電が把握していたことも判明しました。 ●政府にも、15日に2号基の深刻な炉心溶融と格納器への露出で高濃度かつ大量の汚染水が流れ出しており、その汚染濃度は深刻だということが察知され、17日か18日までに濃度も測定されていたということです。 これらが被曝事故まで公表されないままだったことの方が、もっと深刻だと感じます。 ●問題は水の処理です。 大量の海水や真水を投入しながら、流出した汚染水は3月末には「数千トン」、4月になって「1万トン」といわれ、現在では「7万トン」との報道です。 なぜ当初の報道水量が少なかったのか。現場で放水量を計算すればおよそ掴めたはずで、ひとケタも間違うはずはありません。 ●電源を復活させ循環冷却を動かす前に、この水の処理が大きな問題だということも指摘しました。 ところが、前回レポートを書いた4月4日直後、高濃度汚染水を貯蔵するため、別の貯水タンクの「低濃度」汚染水1万トンを海に放出する作業が始まりました。いまこのことが国際的な非難を浴びています。 汚染水が多すぎ、清水市が提供した1万トンの「メガフロート」や、米軍が注入用の真水を積んできて提供した複数の2〜3千トンの「バージ船」などを使うのを断念したとも言われますが、一旦貯蔵していた汚染水を海に投棄するのは、いままでと全く異なる発想であり重大な変化です。何があったのでしょうか。 ●いずれにしても総量が7万トン以上。今後も見通せば10万トン規模になる以上は、それを受け入れる器を早急に用意すべきです。 (4)「アレバ」社はどんな役割を果たしているのか 3月31日、サルコジ大統領と同時に、世界最大の原発メーカー・アレバ社のCEOが来日し原発処理の技術支援を表明しました。 私は前回、海外企業の支援を受けるときは、@受身ではなく政府側の主体性が大事で、”マル投げ”すれば安全を高く買わされること、Aアレバ社が得た情報は全て公開し、国際的に役立てるべきだと強調しました。 ●その日、夜の報道ステーションでは、総司会のF氏が「アレバの女性CEOは、『私たちを東電の社員だと思って欲しい』と語りました」などと嬉しそうに話しましたが、非常に気になりました。 翌日1日の「毎日新聞」は、「経済産業省の原子力安全・保安院によると、アレバの専門家二人は、放射線量の高い環境下での作業ノウハウがあり、東京電力や保安院と、現場での作業方法について検討を始めている」と報じています。 ●しかしその後、アレバの専門家がどんな状況判断をし、どんなアドバイスを与えてくれたかの報道はいっさいありません。機密保護だけはしっかり「東電の社員並み」になってしまっています。 そう思っていたら案の定、19日にアレバのCEOが再来日して、汚染水の処理はアレバが処理施設を造って引き受けること、費用など言っている場合ではない、これは特別の契約だと述べました。 独占企業の態度を見た思いで、前回心配したとおりになりつつあります。 ●もうひとつ気になるのは、アレバが到着して4日後に、急に方針を変更して今まで溜まっていた「低濃度」汚染水を海に投棄し始めたとき、アレバの汚染水処理の専門家は、なぜ国際法違反だと指摘してやめさせなかったのか、それともあべこべに、放水は彼らのアドバイスだったのか・・この疑問に答えるためにも、アレバ社として政府の協力の下で事態の経緯についてきちんと記者会見を行うべきでしょう。 ●わたしは、情報公開の一環として、せっかくアレバが現場に入るのなら、そこで得た貴重な情報とアレバの判断を全て公開すべきと書きましたが、この点でも、どうやら事態は全く逆の方向に進みそうで、日本の原発事故が「絶好の実験材料」にされていないかと非常に危惧します。 このままでは広島長崎に居座って被爆者の放射線データを次の核兵器開発に生かすため全部持ち帰ったABC機関に似たようなことになりかねない気がします。 ●冒頭に書いたように、レベル7を認めたからといって事態が好転するわけではなく、東電や政府が、レベル7にふさわしい責任を果たし、必要な決断と実行をしなければ事態はかえって悪くなってしまいます。何を言っても「レベル7」が言い訳に使われるからです。 (5)企業の基本姿勢が問われるとき ●今後に注目したいのは、国内の大企業の姿勢です。 原発事故がいかに深刻でも、圧倒的な日本人は国内から逃げられませんが、大企業の生産体制は国外に逃げることができるし、それに使える内部留保財政もたっぷり持っています。 日本以上に風評被害がおきやすい海外で、国内生産の家電や自動車を売り続けるより、内部留保も活用して、国内の景気回復に大いに貢献してほしい。 間違っても「社名は日本ですが、生産は汚染の無い貴国で行っております」などと宣伝することのないよう・・注目して見て行きたいと思います。 |