20 荒井由実
フォークのことあれこれ
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荒井由実を知ったのは、弟が僕と一緒に下宿していた頃だから、もう4年ぐらい前【★30年前=補足】のことだった。「コバルトアワー」というLPを買ってきたら、「兄貴も流行を負うオチョンキ(お調子者)だヨ、つまらねーものを集めるのが好きだネ」と、いつものようにからかわれたものだ。《ユーミンブーム》なる時期のことだ。元「赤い鳥」の片割れが組んだハイファイセットが荒井由実のバックコーラスをしていることも気になって買った。『卒業写真』が気に入ったこともある。
●ニュー・ミュージックの旗手
ニュー・ミュージックなる言葉がある。いつも若い世代や新人は既成の流行に反抗するポーズをとって登場したがる。そして、彼らを持ち上げる評論家や広告屋はそれを手早く目立ち商品にして儲けようと努める。受け入れる者たちもかっこよさを気取って口にする。こういった見栄と商魂に裏付けられて実体の伴わない新語や造語が巷に氾濫(はんらん)する。
荒井由実もニュー・ミュージックの旗手としてデビューした。しかし、ニュー・ミュージックというのはアイマイな概念である。彼女の特色は、ロックやフォークの《商品性》を最大限に利用し、自分自身を売り込んだ点にある。作詞、作曲、唄の3つをすべて自分でまかない、なおかつ、華やかな行動をしたことである。彼女の場合は、唄のまずさや顔の悪さを奇抜なアクションでカバーしたことである。でも、作曲面では優れている。彼女が唄ってもぱっとしない曲も、たとえばアグネス・チャンの『白い靴下』(弟が気に入っていた)、ハイファイセットの『卒業写真』(僕が気に入っていた)、ばんばんの『いちご白書をもう一度』(悪友が気に入っていた)などがヒットした。
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●気に入っている唄
僕が気に入っているのは、失恋めいた曲だ。だみ声で鼻にかかったヘタな唄だがそれが気に入っている。このての曲を歌のプロにまかせたらつまらないはずだ。生意気な女が普通の女の子になっているようで味がある。
彼女のバックバンドのメンバーは、これまた、元「はっぴいえんど」の片割れが「ティンパンアレー」というグループ名で参加している。このグループの演奏スタイルがいわゆるニュー・ミュージックといわれる人々の曲作りに影響を与えているようである。ロックをベースにしてボサノバ風にアレンジした軽演奏といったところだろう。ティンパンアレーのメンバーは元々凝り性のミュージシャンたちだ。でも、何ごともあっさあり、流れるように処理するのも時代の反映ではなかろうか。それはまた、一時期にのめりこみすぎるほど聴衆を無視し、しっぺ返しを味わった者たちが体得したものかもしれない。
荒井由実はもういない。結婚してしまった。そして、小生意気な曲を作り始めている。
6月は蒼く煙って
なにもかもにじませている
雨のステイション
会える気がして
いくつ人影見送っただろう ♪
(『雨のステイション』荒井由実作詞・作曲)
【補足】この章は清書したときは削除したものです。フォークとは別物というこだわりがあったためです。でも、関係する人たちも多いので元に戻して掲載しました。
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