温泉の定義対比表を作って


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 法律を持ち出して定義の違いをあれこれ並べるのをわたしは好まない。「温泉法」という法律と「鉱泉分析法指針」という通達を持ち出して違いを並べ、定義があいまいとか、混乱というのも目的の違いを忘れるからではないか。知らないよりマシだから違いをまとめてみた。ちなみに、温泉法は環境省のホームページの自然公園の中に掲載されている。

 温泉は、源泉から湧出する温度が摂氏25度以上か、含有物質が基準値以上あれば足りる。いずれかを満たせば温泉であって、療養効果の有無は問わない。また、温泉法は物質を19も並べているが療養泉の物質は8つで一致するのは6つしかない。同じ物質でも呼び方が異なり含有量も違う。温泉法はあれもこれも取り込んで規制するために療養泉だけに絞らなかったのだろう。

 成分となる物質だって薬効が確実ではないようだ。また、古くから名が知れた温泉を取り込むために温度や物質容量を低くするしかなかったという説もある。だから、古い温泉だといって療養効果があるとは限らないし、含有物質だけで温泉の良否を決めるのも疑問である。

 西洋や中東も含めた入浴の歴史を思い出せば風呂は療養だけで利用してきたわけではない。古代ローマやイスラム社会では社交の場として風呂があった。むろん、不特定多数の人間が利用するためには衛生が保たれなかればならないわけで、そのための規制が欠かせない。これは風呂のもたらす効果より環境衛生や風紀にかかわることだ。法律はそういう側面も考慮しているのだろう。

 温泉の善し悪しは温度や物質だけで決められるものではない。また、源泉をそのまま使えばいいとも限らない。そういうものが融合しあい、適切に維持・管理され気持ち良く利用できることが善し悪しを決めるのではないか。見た目の設備の良さより、お湯の適切な管理がされ利用者の健康を害さない施設が優先されることだろう。言葉で言い表せないが入浴も含めて自然環境を身体で感じるものだろう。

【注】

1 温泉法と鉱物分析法指針に共通する物質名は次のとおりである。溶存物質(ガス性のものを除く)、遊離炭酸/遊離二酸化炭素(CO2)、フェロ又はフェリイオン/総鉄イオン(Fe2+・Fe3+)、水素イオン(H+)、総硫黄(S)、ラドン(Rn)。

2 鉱物分析法指針の療養泉には銅イオンとアルミニウムイオンの2つが含まれるが温泉法にはない。また、温泉法に掲載されているバリウム、重炭酸そうだ、ラジウムなどは療養泉にない。

3 療養泉の分類や泉質名は、明治時代から使われてきた旧泉質名と国際基準に合わせて1979年から使われている新泉質名がある。

4 出典:石川理夫『温泉法則』集英社新書0215H、2003年