おすすめ BOOKS



■「ろくろ首の首はなぜ伸びるのか」 武村政春(著) 新潮新書

架空の生き物、たとえば「ろくろ首」を、生物学的な観点から探ります。
生物の構造や機能を取り上げ、そのメカニズムを利用して、とことんまで
説明してみようという「遊ぶ生物学」です。

想像上の生き物を「教材」として使って、違った視点から生物学を
楽しめます。
「ろくろ首」の他にも、「カオナシ」(「千と千尋の神隠し」に出てくる
化け物)が出てきたり、吸血鬼やらカマイタチやら出てきます。

視点をかえて見直してみるという試みが、楽しい本です。


■「脳から見たリハビリ治療」
 久保田競/宮井一郎(編) ブルーバックス

従来は、経験的な知識に頼る部分の多かった脳卒中のリハビリテーション
ですが、最近は、脳のしくみに着目して機能回復を促進しようとする
考え方になってきています。

リハビリテーションをすることで、どう脳が変わるのかは、
脳卒中に限らず、脳神経に障害を生じた他の場合にも応用できる考え方
です。

脳卒中リハビリテーション入院の実際の流れは、どうなっているのか?
どんな検査やリハビリテーションをするのか?
チームリハビリテーションとは?

脳とリハビリテーションの関係を考えます。


■「博士の愛した数式」 小川洋子(著) 新潮文庫

もうすでに読んだ人は、多いと思いますが、
80分しか記憶がもたない数学博士のお話です。

第1回本屋大賞を受賞したこの本が、今回文庫化されました。
読み始めるやいなや、ぐいぐい博士の世界に引き込まれていきます。
まだ読んでいない人は、この機会に読んでみるとよいと思います。

映画化もされて、来年1月には映画でもみられるとのこと。
映画でもみてみたいものです。

「博士の愛した数式」公式サイト
http://www.hakase-movie.com/


■「ナースな言葉」 宮子あずさ(著) 集英社文庫

ナースギョーカイ用語をもとにしたエッセイなんですが、とっても
おもしろいです。

この本で、医療用語をおぼえたら、絶対忘れません。

「熱発(ねっぱつ)」(発熱のこと)
「清拭(せいしき)」(入浴できない患者さんの身体を拭き清めること)

このあたりは、よく使う言葉なんですが、看護師さんの本音を交えた話で、
忘れられない言葉になります。

また、
「海は死にますか、山は死にますか」
「お姫様だっこ」
となってくると、???なんですが、思わず爆笑してしまいます。

それにしても、看護師さんというのは、まじめでよく働き、研究熱心
です。
そんな看護師さんの仕事や、医療のこと、他のスタッフや患者さんとの
かかわりがみえる本です。


■「ビッグ・ファーマ 製薬会社の真実」
 マーシャ・エンジェル(著) 栗原千絵子、斉尾武郎(監訳)
 篠原出版新社

アメリカの製薬業界の話です。

アメリカの製薬業界の飛躍が始まったのは、1980年です。
基礎研究を有用な新商品へと転換していく一連の政策や排他的な販売権、
薬価規制からの自由、税額控除などにより、好調期に入ります。

製薬会社は、自らを新薬の開発者、製造者であり、改革を担う者であると
いい巨大な利益をあげていきます。

でも、本当のところ、研究開発費にどのくらいかけているのか?
どんな画期的新薬を作ってきたのか?
マーケティングや教育といわれる費用はどうなっているのか?
ヒット薬の独占権を引き伸ばすと確実に儲かる仕組みになっています。

2000年、景気後退により製薬業界も衰退が始まりますが、同時に
製薬業界独特の問題もあらわれてきます。

例えば、カナダでは、アメリカの半分から3分の2の価格で薬が買える
ため、カナダへ薬の買出しにいく高齢者のバスツアーが増加していたり、
確実に増え続ける訴訟の数々など。

アメリカの製薬業界の真実の姿をみることができます。


■「スティーブ・ジョブズ 偶像復活」
 ジェフリー・S・ヤング+ウィリアム・L・サイモン(著)
 井口耕二(訳) 東洋経済新報社

スティーブ・ジョブズは、ステーブ・ウォズニアクとともに、
アップルコンピュータ社を創り育てた人物です。
Mac(マッキントッシュ)に情熱を傾け、熱狂的なファンの支持を
得ました。
カリスマ性がある一方で、自分勝手でもあり、1985年には、自分が
つくりだした会社から追放されてしまいます。

追放後のスティーブ・ジョブズは、どうなったのか?

新会社ネクストをつくり、ピクサーという会社を買収します。
そして、なんと再びアップルコンピュータ社の救世主として返り咲き
ます。
この間に、コンピュータアニメの世界やiTunes/iPodという
音楽の世界でも、新しいことに次々チャレンジして実現してきました。

大変革をおこし続けている、スティーブ・ジョブズとは、どんな人物
なのか?
この本を読めば、それがわかります。


■「人体ビジネス」 瀧井宏臣(著) 岩波書店

人体はどのように利用されているのか、どこまでビジネスとなっている
のか、人体利用の実態についてのルポです。

人体を利用するビジネスにはいろいろあります。

まず、再生医療で最も産業化に近いのが再生骨と培養皮膚、そして
心筋細胞です。
技術面と倫理面で大きな問題をかかえているのは、ES細胞の研究と、
それにかかわるビジネスです。
それぞれどこまでビジネスになっているのでしょうか?

また、中絶胎児を利用して、治療・研究もおこなわれています。
その利用実態はどうなっているのか?
中絶胎児ゴミ捨て事件も記憶に新しいですが、胎児が人なのか
いのちなのかという位置づけはどう考えればよいのでしょうか?

すでに完全に商品化され、売買されている人体のパーツの代表は、
血液製剤ですが、これは過去、エイズ、薬害肝炎をひきおこしました。
他にも、脳硬膜製品による薬害ヤコブ病事件のこと、胎盤製剤による
プラセンタ療法のこと。

そして、臓器移植にかかわる臓器売買のまん延や、脳死での臓器移植のこと。

遺伝子ビジネスの現場での、遺伝子検査や、
お腹の中にいる胎児の遺伝疾患や先天異常を調べる出生前診断、
受精卵の段階で調べる着床前診断がすすんでいますが、
人間を選別する新たな技術として普及しつつあるのでしょうか?

人体利用とその商品化についてどう考えたらよいかを考えさせられます。


■「インフルエンザ危機」 河岡義裕(著) 集英社新書

インフルエンザウイルスに関する発見が増え、急速に研究が進んできた
のは1970年代からです。
90年代にはインフルエンザウイルスを人工合成できるようになり、
新たな研究やワクチン、抗インフルエンザウイルスの開発に応用されつつ
あります。
その一方でまだまだ解明しなければならない問題もたくさんあります。

もともとインフルエンザウイルスをもっていたのは、鳥のなかでもカモや
アヒル、カモメなど野生の水鳥でした。
現在、ブタ、ウマ、アザラシなどの動物、そして人間にインフルエンザを
発症させているウイルスは、すべて鳥インフルエンザウイルスが変異した
ものなのです。

そして今、鳥インフルエンザが脅威になっています。

「新型ウイルス」誕生のしくみは、どうなっているのか?
ウイルス研究者は、どんな研究をしているのか?

また、新型インフルエンザから身を守るために知っておきたいこととして、
インフルエンザ予報の的中率、ワクチン、抗インフルエンザ薬など。

ウイルス研究者によるインフルエンザ研究最前線がわかります。


■「続 直観でわかる数学」 畑村洋太郎(著) 岩波書店

「直観でわかる数学」の続編がでました。

「直観」の「観」は、「わかる」という意味です。
「直感」と勘違いしそうですが、読んだらタチドコロにわかるという
意味では、ないんです。
問題の本質がズバリわかる頭の中の動きである「直観」で、
「わかる数学」を目指して、今回も徹底的にシツコク考えていきます。

たとえば、学校では、足し算は、「一の位」から計算するように教わり
ました。
一の位を足して、十の位にくりあげてと計算していきました。
何の疑問もなく、下位から計算してましたが、上の位から、頭から
計算はできないんでしょうか?

計算は、頭からするということで、足し算だけでなく、引き算や、
掛け算も頭からしていくことを考えます。

他にも、割り算、正の数・負の数、平方根のことなど、
数学の本質を考えぬいていきます。


■「うつ病を体験した精神科医の処方せん」 蟻塚亮二(著) 大月書店

ある時は患者として、ある時は精神科医として、ある時は家族の立場から、
そして余談をまじえながら、うつ病を考えます。

うつ病を実体験した著者が、どうしてうつ病になるのか、
そしてうつ病は、理屈なくつらいこと、
うつ病治療しながら働くこと、薬の飲み方あれこれ、
家族や社会との関わりといったことを語ります。

「もっと肩の荷の軽い人生」を送れるようになるには、いかに
「楽な生き方に自分を変えるか」です。

「手抜き術」「低空飛行」「ともかく主義」、ときには「トンズラ」
といったうつ病の対処方法や生活技術を伝えます。

人生をもっと軽やかに生きてくヒントがつまった本です。


■「暗号の数理 改定新版」 一松信(著) ブルーバックス

暗号に関する基礎を解説した本です。

前半は、暗号技術がどのようにうまれてきたのか、暗号にはどんな種類が
あるのかということを、さまざまなエピソードで紹介しています。

そして、公開鍵暗号の原理、RSA暗号の原理について、作り方と解読の
原理を説明しています。

後半部分は、数学が苦手な人には、ちょっとわかりにくくなるかも
しれませんが、暗号技術には、こうした数学が使われているんだと、
言葉だけでもざっと知っておくのもよいと思います。

乱数、P問題、NP問題、時計代数、互除法、フェルマーの小定理など、
聞いたことのあるもの、ないものいろいろ出てきます。

量子暗号についても、これからの暗号技術には避けて通れないものとして、
すでに確立されている部分を、今回の改訂版で付け加えています。


■「ベンチレーター(人工呼吸器)は自立の翼」
ベンチレーター使用者ネットワーク(編) 現代書館

2004年6月、ベンチレーター国際シンポジウムが、札幌、東京、大阪の
三都市で開催されました。
ベンチレーターに関するイベントで、ベンチレーター使用者ネットワーク
初の国際シンポジウムです。
ベンチレーター使用者が地域で自分らしく生活するための方法や必要な
サポートについて情報交換がされました。
この本は、そのときのベンチレーター国際シンポジウムの報告書です。

では、ベンチレーターとは何か?

人工呼吸器のことです。
自発呼吸ができない人の肺に空気を送る機械です。
ALS(筋萎縮性側索硬化症)、筋ジストロフィー、ポリオ、
睡眠時無呼吸症候群など、さまざまな障がいをもつ人々が使用しています。

人工呼吸器と聞くと、生命維持装置、重症の人がつけている大型の機械で
外出もできないというイメージをする人が多いかもしれません。
でも、実際には、小型化されたベンチレーターをつけて、世界中を旅行して
いる人もいます。
考え方やアイデア次第で、どこにでも行けてしまうのです。
ベンチレーターは眼鏡や車椅子と同じで、日常生活の道具であり、
ベンチレーターに依存していると考えるのではなく、それは個性の一部
だと考えます。

各国の制度はどうなっているのか?
スウェーデンのパーソナル・アシスタント法では、介助料が直接、国から
個人に支給され、それをもとに障がい者が介助者を選び、雇用し、
教育します。
本人が望む介助をマネージメントし利用することが可能になっています。
他にも、カナダのダイレクト・ファンディング制度など。
各国での取り組みも紹介されています。


■「沈黙の壁」
ローズマリー・ギブソン(著) ジャナルダン・プラサド・シン(著)
瀬尾隆(訳) 日本評論社

1999年、米国科学アカデミー医学研究所(IOM)は、クリントン大統領の
要請で、指導的な立場にある医師たちによる医療事故対策に関しての報告と
提言をまとめました。
日本語訳は、「人は誰でも間違えるーより安全なシステムを目指して」
(日本評論社、2000年)です。

この報告により、米国では毎年推計で9万8000人が医療ミスで死亡している
ことがわかり、これを契機に緊急の課題として、医療の安全を確保する
医療システムの改革が進められています。

「沈黙の壁」は、2003年に医療従事者でない二人の筆者が、IOM報告の
提起した医療ミスの問題を取り上げて一般向けに書いたものです。

医療ミスは、患者にも医療従事者にも誰にでもおこることであり、
その原因には、安全を配慮していない医療システムがあり、連絡の行き違い
というコミュニケーションミスがあり、いくつかのエラーの連鎖による
患者取り違えなど、さまざまなものがあります。

そして問題を隠す文化がある医療に対して、エラー報告制度をどう義務
づけていくか、患者支援団体のネットワークづくりなど、エラーが発生
しにくい環境について考えていきます。

米国と日本の医療という制度の違いはありますが、安全なシステムつくりを
考えるには、たいへん参考になります。


■「素数の音楽」 マーカス・デュ・ソートイ(著)冨永星(訳)
 新潮クレスト・ブックス

2、3、5、7、11、13、17、19、・・・
といった素数は、数字の核であり、ほかのすべての数を作り出す構成要素
です。
そして、素数には、でたらめに現れているようでもあり、何か秩序をもって
いるようでもあるといった不思議な部分があります。

昔から数学者たちは、こうした素数にかかわる構造やパターンを
突き止めようと努力してきましたが、一見正しそうだけれど、どう証明
したらよいのか見当がつかないと悩まされてもきました。

中でも、超難問が「リーマン予想」というもので、これは、素数が
ランダムに振舞う原因を理解しようとするものです。

この本では、この難問にかかわってきた数学者たちの人となり、挑戦する
姿を描いています。

たくさんの数学者が難問に取り組んでいくうちに、素数という純粋な
数学の問題は、実用的なものにもなっていきます。
コンピュータやインターネットの登場での、暗号セキュリティーシステム
として、巨大な数を因数分解することは非常にやっかいな問題であることを
利用したRSAの暗号システムの元になります。

また、量子物理学(ごく小さなものに関する物理学)や
カオス理論(予測不可能なものに関する数学であるカオス)とも
「リーマン予想」は、密接なつながりをもっていることがわかってきます。

いろいろな分野で注目されはじめた素数ですが、「リーマン予想」は、
いつ誰が解くことができるのでしょうか?


■「パッチ・アダムスと夢の病院」
 パッチ・アダムス(著)モーリーン・マイランダ(共著)
 新谷寿美香(訳) 主婦の友社

ピエロ姿のロビン・ウィリアムスが、印象的な映画「パッチ・アダムス」は、
この本をもとに作られたものです。
単行本は、1999年にすでに出版されていますが、今回文庫化されました。

パッチ・アダムスは、健康になるためにはまず自分が幸せでなければ
ならないという基本的な考え方から、だた薬を出すだけが治療ではなく、
患者が喜びや連帯感を感じて幸せになることも治療だといいます。

そのため、パッチ・アダムスが目指すのは、単なる医療施設では
ありません。
芸術、工芸、芝居、農作業、学問、自然、レクリエーションなど、
とにかく患者たちが楽しくなれることを治療法として加えているのです。

こうしたそれまでにない新しい医療を提供する活動である
「ゲズンハイト・インスティチュート」を通して、その場しのぎではない
本当に必要とされる医療システムを考えていきます。

さらに、この本には、世の中をもっと幸せで楽しく生きられる場所にする
ためのヒントや知恵がいっぱい詰まっています。


■「みんなでつくるバリアフリー」 光野有次(著) 岩波ジュニア新書

バリアフリーについて、どれくらい知っていますか?

2000年に制定された交通バリアフリー法で、交通機関はいろいろなところで
バリアフリー化しています。
例えば、地下鉄乗り換え案内の工夫や駅のホームに柵や扉がついたこと、
超低床バスといったバリアフリー化があります。

2004年、日本の紙幣はかわりましたが、この紙幣を視覚障害をもつ人は、
どうやって見分けるのか、実は見分ける工夫がされていて、これも
バリアフリー化です。

他にも、バリアフリー住宅や座位保持装置、車椅子のこと、
また、すくいやすい食器や箸の自助具といった道具のこと。

障害のある人もない人も、高齢者にとっても、ともに使いやすい共用品や
共用サービスはどう考えるのか。

バリアフリー化について、どこまで進んでいるのか、いないのかの事例を
もとに、さらに何が必要なのか考えてみませんか。


■「ニュートンの海」
  ジェイムズ・グリック(著) 大貫昌子(訳) NHK出版

今年2005年は、アインシュタインの相対性理論発表から100年を記念する
世界物理年で、ちまたでは、アインシュタインがもてはやされてます。
そんな中、いまさらニュートン? といわれそうですが、この本を読むと、
ニュートンのすごさを改めて感じます。

リンゴが落ちるのをみて発見したという伝説で有名な万有引力を
はじめとして、微積分の発明、反射望遠鏡の発明、プリズムでスペクトルを
発見、錬金術の研究と、まだまだたくさんの発明や研究をしているんです。

しかも、たったひとりでです。
無学の農夫の息子として生まれたニュートンは、生涯を通じで家族らしい
家族もなく、友人もいなかったのです。
ひたすら憑かれたように、実験、研究にのめりこみ続けました。

せっかく発見したことも、自分の宝物として、なかなか人に知らせることも
なかったようです。
それでも、生きている間に成功し、硬貨に顔が刻まれるほどの有名人物に
なっても、84歳で亡くなるまで研究を続けています。

ニュートン以前は、まだ科学はなく、哲学の時代でした。
ニュートンの発明、発見が科学の基礎をつくりだしたんです。
近代科学の父、ニュートンは、すごいです。


■『新版「生体解剖」事件』 上坂冬子(著) PHP研究所

戦時中の昭和20年5月17日から6月2日までのあいだ4回にわたり
九州大学医学部で、米兵捕虜8名が生体解剖実験されました。
延べ40人を超えた医師、医学生が動員されたといいます。
広島の原爆投下の3ヵ月前です。

そして、旧日本軍は、生体実験を隠すため、生体実験された犠牲者を
広島での被爆死にすりかえるという隠蔽工作をおこないました。
この隠蔽工作が発覚したのは、33年後の昭和53年です。

生体解剖がおこなわれたのは、敗戦前のどさくさにまぎれて、
軍が捕虜を処刑したかったのか、それとも医学の進歩を望んだ医師が
戦争の中で暴走したのか?

戦争、戦争裁判の実態や、生体解剖事件、その後に派生、捏造された
人肉試食事件を追います。

生体解剖については、いくら戦時中のこととはいえ、
言い訳は許されない、どんなことでも自分さえしっかりしていれば阻止
できるはずという、当事者のひとりが語る言葉が深く心に残ります。


■「脳のなかの幽霊、ふたたび 見えてきた心のしくみ」
 V・S・ラマチャンドラン(著) 山下篤子(訳) 角川書店

いろいろなシンドローム(症候群)から、奇妙な神経疾患を調べると、
正常な脳の機能について、とても多くのことがわかるという話です。

例えば、
幻肢(腕を失ったあとも腕が存在しているように感じる)、
共感覚(2つ以上の感覚が入り混じること)、
カプグラ症候群(自分の母親そっくりだけれども偽者だという)、
盲視(見えないものを指させる)、
病態失態(自分の体の麻痺を本人が否定する)
など、
珍しい神経疾患も見方をかえてみれば、脳の機能を解明できるのです。

そして、さらに、
芸術に普遍性はあるのか?
哲学、美学、芸術にまで話が広がります。

脳の話は、まだまだ興味深くておもしろいです。


■「ジーニアス・ファクトリー」
 デイヴィッド・プロッツ(著) 酒井泰介 (訳) 早川書房

「レポジトリー・フォー・ジャーミナル・チョイス」は、ノーベル賞受賞者の
精子バンクとして、1980年に設立されました。

創立者のロバート・グラハムは、プラスチックを使って割れない眼鏡レンズを
発明して莫大な資産をつくりあげた後、ノーベル賞受賞者などの天才の
遺伝子を広めることを自分の使命と考えました。

マーケティング計画を練り上げ、広告コピーをひねり出し、ドナーの売り込み
を始めます。
当時においては、顧客のニーズを満たそうとしたはじめての精子バンクです。

このノーベル賞受賞者精子バンクは、資金難等の理由で、1999年に閉鎖されま
したが、この19年間に、このスーパー精子から200人以上の子どもが
生まれています。

この本は、ノーベル賞受賞者精子バンクにかかわりのあった人たちについての
話です。

精子提供したドナーは、どんな人たちだったのか?
トランジスタを発明した物理学者でノーベル賞受賞者の
ウィリアム・ショックリーは、どうかかわっていたのか?
ノーベル賞受賞者の精子バンクといいながら、ノーベル賞受賞者でない人たち
もドナーになっていたのは、どういうわけがあったのか?

また、生まれた子どもたちは、いまごろどうなっているのか?
母親や兄弟たち、そして育ての父親など、いろいろな人たちがでてきます。

家族っていったい何? と奇妙な感覚にとらわれます。


■「アマゾン・ドット・コム成功の舞台裏」
 ジェームズ・マーカス(著)星睦(訳)インプレスコミュニケーションズ

アマゾン・ドット・コムが小さなネット書店から世界最大のオンライン書店
になっていく、1996年から2001年の5年間が舞台です。
編集者としてアマゾンに入社した元社員が、この時期を振り返ります。

ゼロからコンテンツを作った時期、
株式公開を期に拡張路線に入る華やいだ時期、
ネットバブル崩壊とともに翳りが見え始める時期、
そして再生の日々、
本当にめまぐるしい5年間です。

この時期、アマゾンの一般社員はどんな仕事をして、どんなことを感じて
いたのか?
仲間と共に、会社を大きくする喜びがあれば、経営方針が変化していく中で
感じる不安、挫折・迷いがあります。

MBA(経営学修士号)を取得したばかりの中間管理職が大量にやって
きたり、ストック・オプションで、ちょっとしたお金持ちになったり、
元社員のひとりとしての視点で当時を鮮明に描いています。

アマゾン・ドット・コムに興味のある人、成長する企業の一般社員について
知りたい人におすすめです。


■「素数ゼミの謎」 吉村仁(著)石森愛彦(絵) 文藝春秋

今これを書いているときにも、あちこちからセミの鳴き声が聞こえてきます。

この本に登場してくるのは、セミです。
ただし、日本のセミではなくて、アメリカのセミで、13年あるいは17年に
1度だけ何億匹も大量発生するセミです。

日本のアブラゼミやミンミンゼミは、6〜7年の間、地中で幼虫でいて、
その後地上に出てきて鳴きはじめます。
6〜7年というのも、けっこう長いと思うのですが、アメリカの赤い目を
した小型のセミは、13年とか17年も地中にいます。

どうしてこんなに長くいるのか?
そして、13年、17年というのは、「素数」なんです。
この数字は、偶然ではなく、どうもわけあって素数年になったらしいんです。

生命の進化の不思議と、数字の不思議の関係は?
セミの鳴き声を聞きながら、思いをめぐらしてみたいものです。

子どもから大人まで楽しめる科学読みもので、短時間で読めて楽しいです。


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