今日の壮絶たるイタリア・ワイン・ブームの中、おそらく誰しもがこの”Vin Santo(ヴィン・サント/聖なるワイン)”と呼ばれるものの名を耳にしたことがあると思います。 フルーツ以外のデザート文化に比較的乏しいここトスカーナでは、”カントゥッチ”と呼ばれる乾燥菓子を浸して食べることにて知られており、どこのリストランテやエノテカ、バーに行っても、セットで愉しむ事が出来る”定番中の定番”とも言えるデザートとワインであるのです。 トレッビアーノ、マルヴァジア種などのイタリア原産古典品種葡萄を収穫後影干しにし、糖度が凝縮したものを醸造発酵させ、バリックよりも小さい小樽にて3年以上熟成させる。中でも、赤ワイン品種であるサンジョベーゼ種を同様に処理し、8年以上の樽内熟成が行われたものなどは「オッキオ・ディ・ぺルニーチェ」と呼ばれ、”幻のワイン”などと更に希少評価されていたりするものなのですが、単なる技術や行程、労力以外にも、伝統により守られた「マードレ(酵母)」が質の決め手となるところだけに、ますます”聖なるのワイン”と呼ばれるだけの神秘さが漂うものだと言えるでしょうか。重点的な糖度凝縮家庭と個性的な樽質、その小ささ、そしてその中で行われる長い長い熟成からくる神秘的な琥珀色・・・充実したコクと溢れるアロマ、深く満たされたボディが緩慢に下を包み込めば、潤った喉越しを心地良い酸味がフェード・アウトしていく・・・本当に良い”ヴィン・サント”ほどに奥深いワインはそうあるものではありません。 ですが問題もあるようです。爆発的ほどであった世界的なトスカーナ・ブームにより、すっかり「モスカート・ディ・アスティ」などのように知名度を上げ、より多くの人々に親しまれようになった結果の良し悪しは如何、”ブーム”により沸き起こった”需要”に押し出されて生まれた”ヴィン・サントらしきもの”が大量にまかり通ってしまっている状況を作り出してしまったことも事実です。不完全な発酵や、樽選択の間違い、そして曖昧な熟成・・・・薄い色合いが象徴する”軽すぎる濃度”深いな酸味を浮き立たせ、まるで出来損ないの梅酒のよう・・・・そして、そんな経過が生み出してしまった結果は、”ワインを知る人々達のヴィン・サント離れ”。かのフランスのソーテルヌ、ハンガリーのトカイなどなど、世界中に数多く眠る偉大なデザート・ワインを前に、”粗野や甘さが煩わしい”、もしくは”浮いた酸味が安っぽい”、更に”当たり外れの格差激しいワイン”とのレッテルを貼られてしまっているのが現状なのです。そして残念ながら、それらの雑言は大抵が的を得ています。ですが、それでも”当たり外れの格差”と上記したことに注目してください。そうです、存在するのです。かつて、親しい友人へのささやかな贈り物ように極少量だけ生産されていた時代の”美しきしきたり”を忠実に未来へ伝える名作が幾つか。あえて明確に記しておきますが、特に2つのワイナリー「アヴィニョネージ」と「サン・ジュースト・ア・レンテンナノ」の作品は、正に類を見ぬレベルに仕上がった不朽の銘作。 。 さて、そんな至高のデザート・ワインの愉しみ方ですが、定番”乾燥菓子カントゥッチ”の他に、カラメル、蜂蜜、アーモンド、松の実、レーズンや乾燥フルーツ類などの癖のある素材に彩られたタルトやクリーム・ベースのデザートなどに応用が利くと言えるでしょう。 基本的にトスカーナ州全域とウンブリア州の一部にてその生産が見られ、中でも「キャンティ」「キャンティ・クラッシコ」「キャンティ・ルフィ―ナ」「カルミニャーノ」「モンテプルチャーノ」のものの大半はDOC制定されています。それ以外のものは「ヴィン・サント・トスカーノ」の名でIGT、又はVDT扱いにされているようです。北イタリアのトレンティーノ州にも見られますが、今回は除外させて頂きました。 下記に、トスカーナ州最も代表的なヴィン・サントを11本、そして、スーぺル・トスカン同様にIGTとして生まれているデザート・ワインを1本、そして「ブルネッロ・ディ・モンタルチーノ」にて有名なモンタルチーノ地区の伝統的デザート・ワイン「モスカデッロ・ディ・モンタルチーノ」を1本紹介してあります。他、近年トスカーナでは多くの優秀な”アレアーティコ種の赤いデザート・ワインが生まれてきていますが、公正な試飲をまだ済ませていないために、それは残念ながらまたの機会ということにさせて頂きます。今回は諸事情のためにワイン・ラベルがいささか不揃いですが、実際の試飲は既に行われており、赤字で記載されている評価は個人的なテイスティング結果ということになりますので、ご購入の際などの参考にしてみて貰えると光栄につくところです。 次回は多少の時間を要しますが、”偉大なるヴェネト州のワイン”をご紹介いたします。 -VIN SANTO(ヴィン・サント)-