フクロウめがね〜新しい友だち
冠島から青葉山までは二十キロ程の距離ですが、半分も進めばもう岬の上で、下には小
さな島や人間の部落が見えます。まばらに明かりのつき始めた部落の上を通り過ぎ、パン
タは青葉山にたどり着きました。
「ふーん、なかなか良い所だな」
青葉山が気に入ったパンタは、木の枝に止まって一休みすることにしました。するといつ
の間にか黒い鳥の集団が現れ、パンタの周りをぐるりと取り囲みました。
「何だこいつは。見慣れない奴だ」
パンタを取り囲んだのは、カラスの集団でした。
「おい、お前はどこから来たんだ」
「俺たちの言うことを聞かないと、痛い目にあわせるぞ」
ずらりと並んだカラスは、どうやらならず者のようです。でもパンタはけんかをする気
はないので,静かに言いました。
「ぼくはパンタって言うんだ。冬が近づいたので、暖かい土地へ行く途中なんだよ」
「ふん、俺たちの縄張りを通るのなら、あいさつくらいしていけ」
「知らなかったんだよ、ごめんなさい」
パンタはちょっと腹が立ちましたが、おとなしくあやまりました。
「いや、この小僧が昨日飛んでいたのを、俺はこの目で見たぞ」
一羽のカラスがパンタを見たと証言したので、カラスたちはさらに勢い付いて騒ぎ出し
ました。
「やっぱりそうか。うそつきミミズクめ」
「ああ、生意気な小僧だ。こらしめてやれ」
パンタが昨日この辺りを飛んでいたのは本当のことですが、カラスの縄張りを知らなか
ったのも本当のことでした。
「本当に知らなかったんだよ」
「うるさい。これでもくらえ」
一羽のカラスがなぐりかかってきました。いくらパンタがあやまっても、カラスたちは
許す気がないようです。それというのも、実はカラスの集団は、最初からパンタをいじめ
るつもりで集まってきていたのです。
「このわからずやめ」
カラスたちが話し合いに応じないので、パンタは襲い掛かってきたカラスに反撃を加え
ました。北の森にいた時も、カラスとのけんかは何度かしたことがあります。だからカラ
スが集団で襲ってきても、絶対に負けない自信がありました。
「あいたたたっ」
たちまち数羽のカラスが、パンタのキックで撃退されました。
「こいつ、子供のくせに手ごわいぞ」
カラスは思わぬ抵抗にあって退却し、パンタを囲んだまま様子を見ています。
「お前たち、何をぐずぐずしているんだ」
「あっ、カンクロー兄貴」
カラスの集団の後ろから、他のカラスよりも一回り大きく、凶暴な顔つきをした一羽の
カラスが現れました。カンクローと呼ばれた大きなカラスは、その集団のリーダーでした。
手下のカラスたちがどのような戦い方をするのか、黙って見ていたのです。
「でも兄貴、この小僧結構強いんで」
「ふん、お前たちが弱すぎるんだ。練習相手に丁度良いと思って黙って見ていたんだが、
全く情けない連中だ」
「面目ありません、兄貴」
カンクローは馬鹿にしたような目付きでパンタを見下し、手下のカラスを怒鳴りつけて
います。
「兄貴、今度こそ俺が」
一羽のカラスがパンタに飛びかかろうとしましたが、カンクローはそのカラスを押し止
めて言いました。
「まあ待て。お前一人で勝てる相手ではない。もうすぐ日が暮れるから、その前に決着を
つけてしまうぞ」
日が暮れて暗くなれば、夜目の利くトラフズクの方が有利になります。パンタはそれを
期待していたのですが、集団のリーダーであるカンクローはかなり戦上手なようで、パン
タの考えを見抜いていました。
「カンクローさん、ぼくはけんかをする気はありませんよ」
パンタはリーダーのカンクローなら話し合いに応じるかと思いましたが、カンクローは
全然相手にしませんでした。
「ふん、弱すぎてもこいつらの練習相手にはならないから、お前くらいの腕前の奴が丁度
良いんだ。楽しませてもらうぜ」
カンクローはにやりと笑うと、今までになく鋭い声で号令を発しました。
「攻撃態勢をとれ!二段鶴翼の陣だ」
パンタにはカンクローの号令の意味が分かりませんでしたが、カラスたちは素早く戦闘
隊形を整えました。先程とは打って変わって、どのカラスも見違えるくらい素早い動きを
しています。
「かかれ!」
カンクローの号令一下、カラスたちは戦闘隊形のままでパンタに襲い掛かってきました。
パンタにとってこんな戦い方は初めてなので、パンタは面食らってしまいました。それに
パンタが北の森で戦っていたのはハシボソガラスでしたが、カンクローの一味は一回り大
きなハシブトガラスで、突き出たおでこと太いくちばしが特徴です。
カンクローの一味は良く訓練されていました。数羽で『∧』型を編成したカラスの集団
が、一羽の大きな鳥のようになって襲い掛かってくるのです。単独ではだらしなかったカ
ラスも、今度は信じられないくらい統制の取れた動きをしています。
「小僧、さっきの仕返しだ」
一対一の戦いでパンタに負けたカラスは、恨みを込めて襲ってきます。統制の取れた集
団攻撃をかけてくるので、パンタは反撃するどころか、逃げ回るだけで精一杯です。
「このままではだめだ。やられてしまう」
パンタは何とかして森の中へ逃げ込もうと考えました。狭い森の中なら集団で飛び回る
ことは出来ないし、上空よりもずっと暗いので、カラスは困るに違いないと思ったからで
す。でも戦慣れしたカンクローは、そんなパンタの考えを見抜いていました。
「それ、もう一息だ。森の中へ逃がすんじゃないぞ」
二つに分かれたカンクローの集団は、片方の一隊がパンタに攻撃をしている時、他の一
隊は下に回ってパンタが森に逃げ込むのを妨害していました。それでもパンタはカラスの
攻撃をかわしていましたが、戦いが長引くにつれてだんだんと疲れてきました。
「よし、そろそろ仕上げにかかるぞ」
カンクローはパンタの疲れを見越して、最後は自分自身で攻撃するつもりです。
「お前たちは下がっていろ」
カンクローの手下は鶴翼の陣を保ったまま、上下に分かれてパンタの後ろに回りました。
前にはカンクローがいるので、パンタはどこにも逃げることが出来ません。初めて来た土
地なので、パンタには助けを求める仲間はいません。マタベエたちのいる冠島はうっすら
と見えますが、ここでパンタが危機に陥っているなんて誰も気付かないでしょう。
「小僧、覚悟しろ」
カンクローが大きく羽ばたいて、パンタに襲い掛かろうとしたその時です。カンクロー
の後ろで大きな声がしました。
「こらあ、弱い者いじめするなー」
声の主は一羽のフクロウでした。パンタと同じようにまだ子供ですが、子供とは思えな
いほど堂々としています。
「誰だ!邪魔する奴は」
カンクローはパンタへの攻撃を中止し、後ろを振り返ってそのフクロウをにらみつけま
した。
「わあ、キンタだキンタだ」
「キンタが来たぞ、逃げろ逃げろ」
手下のカラスはそのフクロウを知っており、キンタという名前を口にしながら大騒ぎに
なりました。今まで統制の取れていた鶴翼の陣も乱れ、早くも逃げ出そうとしているカラ
スもいます。しかしカンクローだけは冷静で、浮き足立った手下を叱り付けました。
「だらしない連中だ。子供のフクロウじゃないか」
「でもカンクロー兄貴、そいつはキンタですぜ」
手下のカラスはいつもキンタに痛め付けられていましたが、カンクローはキンタの名前
は知っていたものの、実際に会うのは初めてでした。
「お前たちがいつもキンタキンタと大騒ぎしているから、もっと凄いフクロウだと思って
いたぞ。こいつはまだ子供じゃないか」
「でも兄貴、キンタの馬鹿力は普通じゃないんでさあ」
「こいつの言う通りで。キンタは相手にしない方が・・・」
手下のカラスは早く逃げたくて仕方ないのですが、カンクローはキンタと戦うつもりで
います。手下がいつもやられているキンタを倒せば、自分の実力を誇示することが出来る
からです。
「小僧、お前がキンタか。俺が相手だ。行くぞ」
言うが早いか、カンクローはキンタに向かって一直線に突っ込んでいきました。キンタ
も逃げることなく、真正面からカンクローの攻撃を受け止めました。両者羽ばたきながら
爪をからませ、空中での力比べが始まりましたが、なかなか勝負はつきません。
「くそ、この馬鹿力フクロウめ」
カンクローはさらに力を込めてキンタをねじ伏せようとしましたが、それでもキンタは
平然としています。
「ええい、いまいましいがいったん退却だ」
カンクローがそう言って力を緩めたので、キンタも安心して力を緩め、戦いは終わった
かのように見えました。しかしこれは悪賢いカンクローの作戦で、退却すると見せて急上
昇し、反転して背後からキンタに襲い掛かりました。
「キンタさん、危ない!」
パンタは夢中で叫びました。
普通の鳥は目が頭の両側にあるので視野が広く、死角となるのは真後ろのわずかな範囲
だけです。しかしフクロウやミミズクは目が正面に並んでいるので、後ろ半分は死角にな
って見ることが出来ません。だからパンタは大声でキンタに知らせたのです。
「なあに、カラスの考えていることはお見通しさ」
キンタはカンクローの奇襲攻撃を簡単にかわしてしまいました。
「くそ、しくじったか。ミミズク小僧め、邪魔しやがって」
カンクローは得意の奇襲攻撃が失敗したのは、パンタの声が原因だと思っていました。
でも実際にはキンタはカンクローの退却が偽りであることを見抜き、背後から襲ってくる
に違いないと予測していたのです。だからパンタが声をかけなかったとしても、キンタは
カンクローの攻撃をかわしていたでしょう。
「卑怯者め、許さないぞ」
キンタは猛スピードで突進し、カンクローに得意の頭突きをかましました。
「あいたたたっ」
キンタの頭突きは強力で、カンクローは一撃でふらふらになってしまいました。
「こら、お前ら早く助けに来ないか」
カンクローは手下に助けを求めましたが、逃げ腰になっているカラスたちですから、助
けに来たのは三羽だけでした。
「まだやるつもりか」
キンタが救援に来たカラスに向かっていくと、三羽とも戦わずに逃げてしまいました。
でもその隙にカンクローも逃げ出し、手下のカラスと共に飛んでいってしまいました。
「けがはなかったかい」
カラスを追い払ったキンタが、木の枝で休んでいるパンタの所に来て言いました。
「キンタさんと言うんですか、危ないところをどうもありがとう。ちょっと痛いけど大丈
夫だよ」
パンタは元気よく答えました。
「どこから来たんだい。名前は?」
「ぼくはパンタって言うんだ。北の方から来て、暖かい土地へ行く途中なんだよ。キンタ
さんに何かお礼をしなくっちゃ・・・そうだ!」
パンタはサングラスのことを思い出しました。
「キンタさん、これをどうぞ」
「えーっ、なんだい、それは」
パンタがサングラスを差し出すと、キンタは大声を上げました。キンタもサングラスを
見るのは初めてだったのです。
「これはサングラスって言うんだけど、これをつけると明るい昼間でもまぶしくなくて、
とても便利なんだよ」
「へーえ、そんな物があるのかい。でもどうやって使うの」
「簡単だよ。ほら」
パンタは素早くサングラスをかけました。
「きみの目が見えなくなったしまったよ。きみの方からは見えるのかい」
「もちろん見えるよ。暗くなってきたので見えにくいけどね」
「ふーん、不思議な物だなあ」
キンタはパンタからサングラスを受け取り、逆向きに持って目に近づけ、パンタの方を
見ました。
「本当だ。ちゃんと見えるけど、どうしてなんだろう」
「うーん、それはぼくにも分からないや」
パンタはその理由を聞いていませんでしたが、実はサングラスをくれたブツブツばあも
知らなかったので、パンタに教えることは出来なかったのです。
「でもこれをぼくがもらったら、きみは困るんじゃないの」
キンタはサングラスをパンタに返そうとしました。
「大丈夫だよ。ぼくはもう一つ持っているからね、ほらっ」
パンタはそう言って、別のサングラスを取り出してかけました。前のサングラスとはレ
ンズの形が違っています。
「へえ、だいぶ感じが違うんだね」
「うん。どちらでもキンタさんの好きな方をあげるよ」
「そうかい。それじゃあどちらにしようかなあ」
キンタは二つのサングラスを見比べ、どちらにするか迷っています。でも意を決して、
パンタが後から出した方を選びました。
「よし!こっちに決めた。こっちの方が格好いい」
「そうだね。そっちの方が強そうで、キンタさんにふさわしいと思うよ」
キンタが選んだのはレンズの両端が上に尖ったもので、パンタが持っているのは真ん丸
レンズのサングラスでした。
「それじゃあかけてみるよ。こうすればいいんだね」
キンタはパンタのまねをしてサングラスをかけてみましたが、サングラスはするりと抜
けて地上に落ちてしまいました。
「おっといけない」
キンタはあわてて地面に降りていきました。パンタもキンタの後を追って地面に降り立
ちました。
「ははは、失敗しちゃったよ。今度はうまくやるぞ」
キンタは照れ隠しに笑いながら、サングラスをかけ直しました。しかしどうしたことか、
今度もサングラスは落ちてしまいました。
「あれえ、おかしいなあ。パンタ、もういちどやって見せてよ」
「いいよ。簡単なんだよ、ほら」
パンタのサングラスは、落ちたりはしませんでした。
「ぼくには向かないのかなあ。パンタ、これと交換してよ」
キンタは真ん丸レンズのサングラスを受け取り、改めてかけ直しました。でもやっぱり
今度もうまくいきません。
「どうしてもだめだなあ。簡単だと思ったんだけど・・・」
キンタがサングラスをかけられなかったのは、決して下手だったからではありません。
トラフズクのパンタの場合は頭の上に耳羽があるので、サングラスのつるを耳羽にかける
ことが出来ます。でもフクロウのキンタには耳羽がないので、サングラスをかけることが
出来なかったのです。
「残念ながらぼくには使えそうもないや。でも君にあった記念品として、この尖った方を
もらっておいてもいいかい」
「うん、いいよ。でも残念だね、とっても便利なものなのに」
パンタは残念がりましたが、キンタはそれほど気にしていないようでした。
「北から来たって言ってたけど、これからどうするんだい」
「もっと南の暖かい所へ行こうと思ってるんだ」
「じゃあぼくのいる森へ来ないか。ここより暖かいよ」
「キンタさんは、ここに住んでいるんじゃないのですか」
「ああ、そうさ。さっきのカラスの一味があちこちで悪いことをしているので、ぼくも見
回りで忙しいんだよ」
パンタには決まった目的地というものはありませんでした。そしてキンタのいる森なら、
安心して冬越しが出来ると思いました。
「キンタさんありがとう。よろしくお願いします。でもここから離れてしまうので、マタ
ベエさんたちにあいさつをしていかないと・・・」
パンタは今までの出来事をキンタに話しました。
「それじゃあ明日冠島に行こう。今日のところはまず夕食だ。ほら、獲物がいるぞ」
キンタは地面をうろついているネズミを、あっという間に捕まえてしまいました。二人
は夕食を終えると、明日に備えて早々と眠りにつきました。
「起きろよパンタ、朝になったぞ」
キンタの声でパンタは目が覚めました。昨日の戦いで疲れていたので、ぐっすりと寝込
んでいたのです。
「おはようございます、キンタさん。あいたたたっ」
パンタはすぐに起きようとしましたが、体のあちこちが痛みました。昨日のけがが、ま
だ完全には治っていなかったのです。
「大丈夫かい、パンタ」
キンタも心配してパンタの顔色をうかがっています。
「ううん、大丈夫。冠島は近いから飛んで行けるよ」
思ったよりパンタが元気だったので、キンタも安心しました。
「それじゃあ出発しようか。実を言うと、ぼくはあの島へ行くのは初めてなんだ。カンク
ローの一味も冠島までは行ってないようだからね」
キンタはとっても楽しそうでした。誰だって初めての場所へ行く時には不安があります
が、それ以上に未知への期待もあるものです。特に今回はパンタの話を聞いているので、
不安よりも楽しみの方が大きかったのです。
「じゃあぼくが先に行くから、後についてきてね」
パンタは体の痛みも忘れて飛び立ちました。まだ太陽は低いので、サングラスをかける
必要はありません。
「ほら、もう着いたよ」
島ではマタベエたちが、パンタとキンタを見つけて集まっていました。
「よく来たね、パンタ。もう友達を見つけたのかい」
ドンベじいさんがうれしそうに話しかけました。
「うん、皆に紹介するよ。キンタさんって言うんだ。カラスに襲われて危ないところを、
キンタさんに助けてもらったんだよ」
「それは良かったね。キンタ君、助けてくれてありがとう」
パンタはカンクロー一味に襲われた時のこと、そしてこれからの予定をマタベエやドン
ベじいさんに話しました。
「じゃあキンタ君の森で、来年の春まで一緒に暮らすんだね。キンタ君、パンタのことを
よろしく頼むよ」
「はい、任せて下さい。ところでこの島へはカンクローの一味は来ませんか」
「ああ、あちこちを荒らし回っていると言うカラスの集団のことだね。この島には奴らの
えさがないためか、一度もカラスの姿を見たことはないよ」
マタベエは堂々としたキンタの態度を見て、これならパンタを任せても安心だと思いま
した。
「パンタは今日も泊まっていけないのかね」
ドンベじいさんは今度も残念そうな顔をしました。
「ドンベじいさん、パンタはぼくが守りますから心配しないで下さい」
キンタは力強くドンベじいさんに告げました。
「そうだよ、ドンベじいさん。パンタはこれからだって来られるんだし、来年北の森へ帰
る時にはこの島に寄ってくれるさ。なあパンタ」
マタベエがパンタの頭をなでながら言いました。
「うん、約束するよ」
「そうかい、絶対にまた来てくれよ」
「じいさん心配するなって。それよりキンタ君の森まで行くのなら、そろそろ帰った方が
いいんじゃないかね」
「そうだね。じゃあドンベじいさんも元気でね」
マタベエに促されて、パンタとキンタはドンベじいさんに別れを告げ、青葉山に向かっ
て冠島を飛び立ちました。マタベエと仲間たちは岬まで送ってくれましたが、ドンベじい
さんはしょんぼりと地上に残っていました。
青葉山についたパンタとキンタは、一休みしながら相談を始めました。どの経路を通っ
てキンタの森に行くかです。
「真っ直ぐ行けば早いけど、地形は覚えにくいかもしれないよ」
「少しくらい遠回りになっても、分りやすい方がいいな」
「それなら川沿いに行くのが一番だ。でもその場合は・・・」
キンタはパンタの顔を見て言葉を止めました。
「その場合は・・・何か問題があるんですか」
「途中の町に、カンクロー一味の根拠地があるんだ」
「でもキンタさんは、カンクローと仲間をやっつけたでしょ」
「いや、カンクローには兄貴分のカラスがいるんだ。まだ会ったことはないけれど、カン
クローよりもずっと手強い奴らしい」
キンタが手強いというのですから、パンタでは全く勝負にならないでしょう。出会わな
いように避けて通るのが賢明です。
「じゃあ真っ直ぐ行くしか方法はないの」
「いや、暗くなってから行けば、カラスは寝ているから出くわす心配はないよ。暗くなっ
てからの出発でもいいかい」
「ぼくは暗くなっても大丈夫だよ。カンクローには会わない方がいいけど、カンクローよ
り強いカラスがいるの」
「名前はカンザブローと言うんだが、手下のカラスも多いらしい。今までは遠くにいたん
だが、最近住み着いたらしいんだ。これはホウホウじいから聞いた話だから、絶対に確か
な情報だよ」
「ホウホウじいって、誰ですか」
「ぼくより南の森に住んでいる、物知りじいさんのことさ」
パンタの森には物知りのブツブツばあがいたし、冠島のドンベじいさんも物知りでした。
パンタはホウホウじいがどんなフクロウなのか、会ってみたいと思いました。
「ぼくもホウホウじいに会えるかなあ」
「もちろん会えるさ。ホウホウじいは子供が好きだからね」
「ふーん、楽しみだなあ」
「ホウホウじいの森はぼくの森から近いんだ。ぼくの森に着いたら連れてってやるよ。さ
あ、もう少し暗くなるまで、一眠りしておこう」
キンタとパンタは少し位置を変え、小枝が茂って外から見えにくい枝に移ってから眠り
につきました。