≪2006年1月17日(火) 掲載≫     
≪2006年3月3日(金) 内容一部修正≫

「在ブラジル原爆被爆者協会 2006年 要望書

 2006年の年頭にあたり、在ブラジル被爆者協会の要望を発表させていただきます。

 昨年、戦後60年の節目が過ぎましたが、期待した在外被爆者の援護は、やはり具体的には何の進展もないまま新しい年をむかえています。
 祖国より来ない援助を待ちながら、また仲間が亡くなりました。被爆者はどこにいても被爆者、と21年間訴え続け、やっと裁判で認められ、権利を主張出来ることになりましたが、日本政府は、かたくなにも援護の実施に難問を示し続けています。
 昨年11月30日から、かってからの念願の、在外公館にて手当などの申請が出来るようになりましたが、まだ手当受給の実現にまではいたってはいません。申請できる項目も限られています。
 被爆後60年、在ブラジル被爆者の中で、援助を受けられるようになった人、受けられていない人の格差があまりにもひどい現状にかんがみ、被爆者すべてが同じ援助を受けられる様にと、我々協会役員一同、新たなる決意を固めております。
 今まで永い間、日本政府にほっておかれた海外に住む年老いた被爆者、これまでに亡くなった大勢の被爆者を思い、我々は背水の陣で臨み、つぎの事項が速やかに解決される事を切に望み、厚生労働省の言う人道上の援助が、分け隔てなく全ての被爆者に行き渡ることを要求いたします。


1, 時効問題

 5年以上前の権利は時効により消滅するとは、すべてが正確に運んでいればの話で、在外被爆者は、402号通達により、外国に住んでいるという理由で申請を受け付けてもらえなかったのです(日本に 行って申請しても外国で生活している人はだめですよと言われた)。その期間が時効にかかるとはおかしな話です。
 ただちに、このような時効制度の適用を取りやめることを要求します。

2, 確認証を受け取っている被爆者の件

 被爆者健康手帳を確実に交付しますという証書なのに 海外公館で手当・葬祭料の申請が出来ると決まった現在、何故、日本にまで行かせることにこだわるのでしょうか。実際 健康や高齢の為、長旅は誰が考えても無理だと分かっているから確認証を出したのではないでしょうか。
 当協会では、日本から被爆者援護担当の係官がブラジルに来られた時、確認証を貰っている被爆者に会って頂き、日本に帰ってから被爆者手帳を送付してくださいとお頼みしましたが、日本に来なければ手帳発行は出来ませんと、回答されてきています。
 この確認証を貰った方は日本に行くのが不可能なのです。一生涯被爆者手帳は貰えず、被爆したという事実だけを胸に秘めて死を迎えるのでしょうか。
 もちろん確認証では援護は受けられません。
 国際協定では在外公館内は本国国土として扱われ、亡命者すら拘束出来ないのに、何故 被爆者手帳取得には、高額な公費をつかって本人が日本まで行かなくてはならないのか、理解に苦しみます。

3, 帰国治療の件

 2005年にブラジルから帰国治療した被爆者は約20人でした。一人(付き添い無し)約 100万円の費用がかかりますので、総額2000万円の出費です。これだけの費用があれば、今ブラジルにいる被爆者全員が日本まで行かなくても医者にかかる事が出来ます。
 中には2度目、3度目の帰国治療をされた方がいる反面、帰国治療申請書を送付したけれど、老齢のため危険が伴うのではないかと帰国治療を断られた方も多数いて、この被爆者たちはブラジルで診察費、治療費を支払わなければいけません。
 まあまあ元気な方は日本に行き、無料で治療が受けられ、病弱で年老いて日本に行けない被爆者はほったらかし…。矛盾した政策です。

4, 医師団検診の件

 2年に一度来られる医師団検診では、2004年度にブラジル被爆者107人が診察を受け、医療費、被爆者の交通費、その他の経費をふくめて400万円以上かかっています。
 この中には日本から来られる医師、同行の職員などの交通費、ホテル代などの経費は含まれていません。
 もちろん、それも国の在外被爆者援護予算から支払われるものと考えますが、この予算を無駄にしない為に 現地の被爆者がいつでもかかれる指定病院を決めて頂き 全ての経費を治療の為に使わせていただきたい。

5, 在外被爆者保険医療助成事業の件

 この事業がはじまる前、2004年2月に厚生労働省の2人の職員が実態調査に来られた時、日本の22倍も広さの有るブラジルの実情からして、被爆者全員が入れる医療保険以外に方法は無いと提案しました。
 当時、保険制度は絶対だめと言われたのにもかかわらず、結局 後日 特例として出されたのが現在の保険医療助成事業ですが、ブラジルでは保険に入っている人だけが対象で、年間13万円(これを超えると特に理由がある場合は14万2千円)が限度とされています。
 経済的に保険に入れない人がもっともこの援助を必要とするのに、保険に入っている人だけが援助を受けられるのは、ますます格差がひどくなり、まったく道理に外れています。
 そこで、この制度は根本から考えなおし、全員が同じ様に援助を受けられる制度にしていただきたい。


 以上、項目別に意見を述べましたが、特に3項、4項、5項の、帰国治療、医師団検診、保健医療助成事業全部を見直して頂き、その無駄な費用を全額つぎ込んでブラジル在住の被爆者が安心して余生をおくれるようにして頂きたい。
 たとえば、サンタクルス病院はブラジル全土に系列病院があり、ほとんどの検診治療は間に合います。このような事を書きますと、ブラジルの被爆者は国民健康保険に入って居ないので、それは出来ないと言われそうですが、帰国治療で日本に行った人は無料で検診治療を受けています。その施行例をそのまま海外に当てはめて頂ければと願います。

 最近、日本では災害、犯罪被害者への精神的ケアが取り上げられてきました。実際、必要な、大切な課題だと喜ばしく思います。ましてや現在生き延びている在外被爆者においては、その一番大切な幼年、青年時代を原爆という類のない災害に見舞われた人達です。親兄弟を失い、被爆者という汚名を着せられ、60年過ぎた現在においても被爆後遺症に悩まされ、その実態は投下直後より調査を始めた加害国アメリカにも5割ほどしか解明されてないとか。その上、海外に移住したことで、日本政府からも援助の枠外に追い出され、加害国を訴えようにも 何のすべも残されていない人たち…。

 日本政府は、原爆責任をアメリカに対して放棄した地点において、被爆者への援護を全面的に受け止めたことになります。
 それなのに、何故、戦後外国に移り住んだだけの理由で阻害し続けるのでしょうか。
 日本を出ることは 被爆者で無くなることではありません。日本人で無くなったことでもありません。この事実を十分にご検討の上、もう遅すぎる、しかし、まだ間に合う人たちへの早急なる援護を要求いたします。

(了)