旧制第一高等学校寮歌解説
オリムパスなる |
明治44年第21回紀念祭寮歌 南寮
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オリンパスなる諸神の 高しろしけむグリースの その 自治と和平のあたゝかき 光 七とせ三つを重ねつゝ 自治の光のはぐくみに いや咲き匂ふ 向ヶ岡に遊ぶ身の 我等が幸はいみじけれ *原譜に番数表示はなし。 |
ハ長調・4分の4拍子は不変、その他譜の変更は、ほとんどない。昭和10年寮歌集で微少の変更があった。 1、「オーリムパスなる」(1段1小節)の「なる」 4分音符 ソを ソーソ(付点8分音符と16分音符)に変更。 2、「よろこびを」(3段2小節)の「よろ」 4分音符・4分音符を付点4分音符・8分音符に変更。(大正14年寮歌集で付点4分音符・4分音符に変更している。後の4分音符が8分音符の誤植とすれば、大正14年寮歌集の変更となる) |
語句の説明・解釈
語句 | 箇所 | 説明・解釈 |
オリンパスなる諸神の 高しろしけむグリースの その |
1番歌詞 | その昔、オリュンポス山に宮居するゼウス以下12神が立派に治めたギリシャの国民の幸せを、今の時代にそのまま具現せるものに、自治の光と護国の精神に導かれ、自治寮で楽しく過ごしている一高生の幸せがある。 「オリムパスなる諸神」 ギリシャ本土北辺オリュンポス山に宮居すると考えられたゼウスを中心とするギリシャ人の神々十二神。このうち、知の女神アテナ、軍神アレスは、それぞれ一高の文武の守護神ミネルバ、マルス(ローマ神話名)のことである。 「高しろしけむ」 「高知る」は、立派に営む。立派に治める。 「グリース」 ギリシャ。 「自治と和平のあたゝかき 光悦しむ我等かな」 自治の光と護国の精神に導かれ、自治寮で楽しく過ごしている一高生の幸せ。「和平」は、護国の精神をいうと解す。護国の目的は和平である。「光」は、教え、導き。 「自治の光は常闇の 國をも照す北斗星」(明治34年「春爛漫の」6番) 「ギリシアを引き合いに出しつつ『自治』の理念に『和平』のそれを付け加えている点や、新精神の自覚による寮生活の刷新を願望している所に、注目すべき斬新さを見ることができよう。」(一高同窓会「一高寮歌解説書」) |
七とせ三つを重ねつゝ 自治の光のはぐくみにいや咲き匂ふ |
2番歌詞 | 寄宿寮は開寮以来、21年の年月を重ね、自治のお蔭で、一高には文武両道にわたり野球、端艇、文芸などのいろんな花が咲き匂う。この花の香に憬れ、故郷を離れ希望に溢れた一高に学ぶ我等は、たいへん幸せである。 「七とせ三つを重ねつゝ」 7×3=21 21年。 「自治の光の育みに」 自治の光で育った。自治のお蔭で。 「いや咲き匂ふ種種の花の香」 野球、端艇、文芸など文武のいろんな花が咲き匂う一高の名声。「種種」は、物事の品数・種類の多いさま。「花の香」は、一高の名声。 「草青き向ヶ岡に遊ぶ」 希望に溢れた一高に学ぶ。「草青き」は、樹木が青々と茂った。希望に溢れたと訳した。「遊ぶ」は、遊学。故郷を出て、他の土地や国へ行って学問すること。 |
岩根こヾしき溪間より 湧きくる水も時折に 濁るといへど |
3番歌詞 | 岩がごつごつとして険しい谷間に湧き出し流れて来るきれいな水も、時折、濁ることがあるが、水源の清い水のお蔭で、いつもきれいに澄む。すなわち、一高の自治の歴史にも多少の紆余曲折はあったが、その都度、立寮の清き心に戻って解決してきた。昔の物事を研究し吟味して、そこから新しい知識や見解を得ながら進んでいこう。 「岩根こヾしき」 「こヾし」は、ごつごつしている。険しい。 万葉301 長屋王「磐根のこヾしき山を越えかねて 哭には泣くとも色に出でめやも」 「湧きくる水も時折に 濁るといへど」 一高の自治の歴史にも多少の紆余曲折はあったが。 「古きを 温故知新。昔の物事を研究し吟味して、そこから新しい知識や見解を得ること。覓めるは、求める。 論語為政 温レ故而知レ新、可二以為一レ師矣 |
渡津海にうく大船の 船底かたく |
4番歌詞 | 外国航路の大型船には、長い航路の間に、多数の貝殻が船底に固く付いて、航海に支障をきたすという。このように年月が経過するうちに、多くのものには、古い絆がまとわりつくものである。すなわち、時代遅れとなった旧習が船底の貝殻のように自治を妨げている。一高生よ、古い絆に縛られていることに気付こう。このままでは、新しい時代に、そぐわなくなって自治の光は消え失せてしまう。 「渡津海にうく大船」 外国航路の大型船。渡津海は、外つ海で、そとうみ。外洋の海。 「船底かたく閉すとふ」 「とふ」は「てふ」の誤植。大正14年寮歌集で「てふ」と訂正された。 「古き絆は 籠城主義の弊害をいうか。 新渡戸校長は、『籠城主義とソシアリティー』の題目で「籠城主義には、①排他的になる。 ②単なる群居に陥りやすい。 ③高慢心を起こす。 ④異を唱える者を排除し、類型的人物を養成して自ら満足するという弊害があると説いた。(明治40年1月30日『校友会雑誌』163号) 「新世の眞の光」 「眞の光」は、1・2番の自治の光のことである。作者は、新渡戸校長のソシアリティーは、自治の光を消すものではなく、籠城主義の弊害を取り除き、自治に新しい命を吹き込むものと考えている。 |
この絆をば勇ましく 破りてかたくいと深き 自覺を啓くことこそは 我等が二なき |
5番歌詞 | この古い絆を勇気をもって絶ち切り、立寮の清き心に戻って、自治に時代に合った新しい命を吹きこんでいくのが、一高生の使命であると深く自覚して自治の礎を強化していくことが大切である。そうすれば、「自治が亡ぶ」などということは、永久に、この世で、耳にすることはないであろう。すなわち、自治は永遠の命を得て、末永く伝えられていくことであろう。 「自覺を啓く」 自治を守り、その礎を強化することが一高生の使命であり、そのために何をなすべきかを自覚することと解す。具体的には、籠城主義の弊害を取り除き、自治を刷新すること。新渡戸校長の提唱するソシアリティーに賛同し、これを自治に取り入れることをいうか。 「旧套墨守の壁を打ち破る新しい精神の啓示を希求し、その新精神の自覺こそ我等が誇りであることを歌い上げている。」(一高同窓会「一高寮歌解説書」) 「沈淪は常久に我世音なふことなけむ」 自治の不滅をいう。 |
先輩名 | 説明・解釈 | 出典 |
井下登喜男先輩 | 4、5節の『古き絆』が偽豪傑主義or籠城主義を指すとすれば、このくだりは新渡戸校長の諭したソシアリティーの理念を歌っていると考えられる。 | 「一高寮歌メモ」から |