旧制第一高等学校寮歌解説
我一高は |
明治35年第12回紀念祭寄贈歌 東大
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1.我一高は天下の雄 ベルリンエール何かせん 護國の旗、一千の士 陵になびき世界に虎視す 世は塵に 自治寮立てゝ十有二年 礎固し武香陵頭 一致共同守れる健兒ぞ勇ましき 天下に立つ可き大和丈夫 萬巻胸に鐵骨鍛へ 四海の中を轟かせ 斯こそあらなん武陵の健兒等 2.我自治寮は天下の魁 イートンエナも何かせん 四條の綱領、五棟の寮 胸に修め陵に聳ゆ 世は塵に塗れ人は夢を辿る 濁世避けて十有二年 礎固し武香陵頭 一致共同守れる健兒ぞ勇ましき 四海に覇たらん大和丈夫 石心磨き鐡腸きたへ 天地の中を轟かせ 斯こそあらなん武陵の健兒等 |
音符下歌詞、3段3小節の「ちぢりょう」は「ぢちりょう」の誤記であろう。 譜は瀧廉太郎の「箱根八里」の譜。この「箱根八里」は明治33年に作曲されたが、発表は翌34年の「中学唱歌」なので、発表されて間のない最新の曲である。上野の音楽学校は、本郷の一高から言問い通りを下れば、歩いてすぐのところ。一高生の中には、音楽学校に通う者もいた。嗚呼玉杯の作曲者「楠正一」もそうである。 ハ長調4拍子は変わらない譜の変更は、昭和10年寮歌集を中心に、概略、次のとうり。 1、「いさましき」(6段2小節) 「レーレレミドー」を大正10年寮歌集で、「レーレ(8分音符)レ(16分音符)ミドー」に、さらに昭和10年寮歌集で、現在の「レーレレーミドー」に変更。 2、「かくこそ」(8段1小節) 「ドーードドードー」を大正10年寮歌集で、現在の「ドーードドーード」に変更。 3、「ぶりょうの」(8段3小節) 昭和10年寮歌集で「ソーーミードー」を現在の「ソーーソミードー」に変更。 4、4分音符を付点8分音符と16分音符の2音に分けた箇所、1段2小節の2箇所他、10箇所(全て昭和10年寮歌集)。例えば、1小節の「てんかのゆう」は、「てん」・「ゆう」各1音の4分音符を2音にわけ一音歌詞一字とした。 |
語句の説明・解釈
明治30年に京都帝国大学が創設されているが、ここにいう帝國大學は東京帝國大學である。この寄贈歌以降、各帝國大學の先輩から紀念祭に寮歌が寄贈される慣わしとなった。 |
語句 | 箇所 | 説明・解釈 |
我一高は天下の雄 ベルリンエール何かせん | 1番歌詞 | 我一高は、天下第一の高等学校である。ドイツのベルリン大学、アメリカのエール大学など目ではない。 「ベルリン」 1809年フリードリッヒ・ウィルヘルム三世がベルリンに創設した大学。 「エール」 アメリカのコネチカット州にある私立大学。1701年創立。 |
護國の旗、一千の士 陵になびき世界に虎視す | 1番歌詞 | 校旗・御国旗は向ヶ丘に翻り、一千の一高生は、日本に仇なすものがいないか、世界を鋭い目で睨んでいる。「虎視」は、多く機会を狙って様子をうかがう時に使うが、ここは国を守るため世界の様子を注視すること。 「護國の旗」 一高の校旗は、校章の柏葉橄欖のデザインの真ん中に「國」の字が入る。校旗といわず「護國旗」といった。 「一千の士」 全一高生、すなわち全寮生の数(通学生も何割かいたが)。 |
礎固し武香陵頭 一致共同守れる健兒ぞ勇ましき | 1番歌詞 | 自治の礎も固い向ヶ丘の一高寄宿寮。一致共同して自治を守る姿は勇ましい。 「武香陵頭」 「頭」は、ほとりの意。「武香陵」は向ヶ丘。同年「大空ひたす」にも出てきた。桃源の故事の[武陵」と「向ヶ丘」とを結び付けた向ヶ丘の美称。[大空ひたす」と、この「我が一高は」の寮歌で初めて使われた。 |
天下に立つ可き大和丈夫 萬巻胸に鐵骨鍛へ 四海の中を轟かせ 斯こそあらなん武陵の健兒等 | 1番歌詞 | 将来、日本を背負うことになる日本男児が、萬巻の書を勉強して、身体を鍛え、天下にその名を轟かしめよ。かくあってこそ向ヶ丘の一高生だ。 「なむ」(なん)は、内心の確信・信念を丁寧に強調して語。 「萬巻胸に鐵骨鍛へ」 一高生には、文武両道で秀でることが求められた。世に言う「青白い秀才」ではない。2番の「石心磨き鐵腸きたへ」、3番の「勤儉尚武勵精叱咤」も一高生に求められたものである。 「四海」 よものうみ。天下。世界。 |
我自治寮は天下の魁 イートンエナも何かせん | 2番歌詞 | 我一高自治寮は、天下の先頭に立つ高等学校である。イギリスのイートン大学やドイツのエナ大学など目ではない。 「イートン」 イートン・カレッジ。イギリスのパブリックスクール。1440年ヘンリー六世によりイートンに設立。寄宿舎制の男子校。 「エナ」 ドイツ東部のイエナ市にある大學。正式名は、フリードリッヒ・シラー大學。1558年設立の新教徒のギムナジウムに起源をもつ。18世紀末からゲーテ、シラー、フィヒテ、シェリング、ヘーゲルらが関与。 |
四條の綱領、五棟の寮 胸に修め陵に聳ゆ 世は塵に塗れ人は夢を辿る 濁世避けて十有二年 | 2番歌詞 | 自治の導である四綱領を守って、五寮の一高寄宿寮が向ヶ丘に聳える。世間は塵に汚れ、人は浮かれ快楽に耽っている。そういう濁世を避けて、向ヶ丘に籠城してから十有二年となった。 「四條の綱領」 寮開設にともない木下校長が寮生活において守るべき精神として示した四つの項目のことで、次のとおり。 第一 自重の念を起して廉恥の心を養成する事 第二 親愛の情を起して公共の心を養成する事 第三 辞譲の心を起して静粛の習慣を養成する事 第四 摂生に注意して清潔の習慣を養成する事 「五寮」 一高の東・西・南・北・中の5棟の寄宿寮。 |
石心磨き鐵腸鍛へ | 2番歌詞 | 鉄石のように堅固な精神を鍛え。 「石心鐵腸」 (「鐵心石腸」ともいう)は、鐵石のように堅固な精神。志操堅固。 |
我寮生は男子の粹 |
3番歌詞 | 我一高寮生は、男の中の男である。イギリスのケンブリッジ大学やオックスフォード大学など目ではない。 「劍橋牛津」 イギリスのケンブリッジ大學とオックスフォード大學。ともにイギリス指導階層の最高教育機関。起源はオックスフォードが12世紀(イギリス最古)、ケンブリッジが12から13世紀にさかのぼり、独自の歴史と伝統を誇る多数のカレッジから成る。 |
二條の線、柏葉の章 頭にまとひ身にぞかほる | 3番歌詞 | 一高生の帽子には二条の白線と柏葉の徽章が光り輝き、その姿には気品が漂う。 「かほる」は、煙・火・霧などがほのかに立ち上って、なびきただようの意。昭和50年寮歌集で「かをる」に変更された。 3、我寮生は男子の粹 二條の線、柏葉の章 頭にまとひ身にぞかほる 世は塵に塗れ人は夢を辿る 塵寰絶ちて十有二年 誓は固し武香陵頭 一致共同守れる健兒ぞ勇ましき 宇内に覇たらん大和丈夫 勤儉尚武勵精叱咤 社会の夢を驚かせ 斯こそあらなん武陵の健兒等 |
塵寰絶ちて十有二年 | 3番歌詞 | 俗界の俗塵を絶って十有二年。俗塵を絶って向ヶ丘に籠城して十有二年がたったこと。2番の「濁世避けて十有二年」に同じ。 「塵寰」 汚れた世界。俗世間。塵界。 |
宇内に覇たらん大和丈夫 勤儉尚武勵精叱咤 社会の夢を驚かせ | 3番歌詞 | 天下の王者たらんとする猛く勇ましい日本男児。勤勉で節約を重んじ、武勇を尊ぶ。文武両道に励み努めながら、安逸を貪る世の人を大声をあげて、叱っては励まし、目覚めさせる。 「勤儉尚武」 業務に勤勉で、節約を重んじ、武勇を尊ぶこと。一高の伝統精神。 「勵精」 励み努めること。 |