物流
田所真之介は宅配一筋15年。33歳、独身。彼は、雨の日も、雪の日も、風の強い日も、台風の日も、どんな悪天候にも
負けず、お客様の真心を運ぶ仕事に誇りと自信を抱き、そして、安全、確実に運ぶという物流業界の一端を担ってきた。
「ご苦労様です。あら、これ、息子から誕生日のプレゼントですのよ」
「国元の母ちゃんから取れたての米だな」
真之介の運ぶ宅配の中には、見えないが送り主の愛情がぎっしり詰まっている。その荷を送り先のお客様に渡す。大抵のお
客様は荷札を見ると、こういう反応をしてくれるのである。
つい、嬉しくて感謝の気持ちが言葉をついて出てくるのだ。そんな一言を聞くことができるのも、この仕事を続ける楽しみ
でもある。
あるとき、歳を取った女性のお客様は荷を受け取ると、彼にしばらく待つように言うと、荷をほどき、そこからリンゴを1
つ取り出し、真之介の前に差し出した。
「いつもご苦労様です。お裾分けですよ」
真之介は恐縮しながら受け取る。
そんな真之介も時には病気になるときだってある。高熱が出てふらふらな時だって、寝てはいられない。そんなときは、預
かった荷を同業の幼馴染みのケーキやケンちゃんに頼む。ケーキ屋けんちゃんなどと呼ばれているが、彼はれっきとした
you便曲の社員である。
「配達、頼むよ」
「おお、任せなさい。送料2万円ね」
真心の配達は、バトンのごとく、引き継がれ、完璧に履行されている。
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