小説家
やたら、人を驚かすのが好きな変な小説家がいる。名は田所平八郎という。驚かしても愛嬌があればよいのであるが、そういうものがないから始末におけない。この男もそういう輩である。
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「先生、原稿締切まで後2時間15分です、頑張りましょう」
青空出版の担当編集者、木内が時計を見ながら団扇で田所を仰ぐ。
「分かっとるよ、でも、なかなかアイデアが湧かないんだよ、君」
「そこを何とか、お願いいたします」
「ほう? 原稿、原稿と、君は私にお願いばかりだなあ。しかしな、お願いされても出ないものは出ない」
「そこを何とか、ひとつ」
「分かった、一つでいいんだな」
「ええ?? まあ、取りあえず、一つあれば」
そう言いながら木内は首を傾げた。
平八郎はふう、と息を大きく吸う。とぼけた顔が少しずつ鬼のような顔になって、あっという間に夜叉のごとく鬼畜のごとく赤色の顔に変貌した。その瞬間、
「おらああああー」
木内担当編集者は平八郎の繰り出したパンチで後ろへふき飛んだ。倒れた体を起こしながら木内は驚いて言った。
「先生、何をなさるのです。ご無体な」
「これが本当の、ゲンコだ」
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