自販機

 

 

岡島敏夫はけちな自販機荒らしだった。町の自販機に近づくと、足をかがめ、右手を釣り銭の返却口に指をねじ込んだ。何もない。ちっ、と舌打ちをして次の自販機へと向かう。

以前なら何もないと、くそっ、舌打ちすると同時に、自販機に蹴りを入れたものだった。ところが、最近の自販機は盗難防止装置というやつが付いていて、衝撃を加えられると警報音を発するようになっている。だから、今では怖くて何もできない。

 岡島は行く当てもなく歩いていた。彼は、いわゆるホームレスだった。人通りのない郊外に来ていた。気温の下がる夜に歩く。それが、彼らの生き延びるすべだった。歩いていると、光り輝く物が見えてきた。近づくとそれは自販機であった。何故、こんな人のいないところにあるのだろう。ここなら、自販機荒らしをしても捕まらない。岡島はにんまりした。

 蹴ろうとしたら、危険というシールが目に入った。振り上げた足をおろすと、その先を読んだ。

「危険 盗難者防止装置付」

何、盗難者? 防止装置か。ふふ、なんてことはない。岡島は再度にんまりすると、販売機の鍵をめがけ、蹴りを入れた。がしゃーん。扉は開かなかった。そう思っていると、なにやら、自販機の中から低くモーター音が聞こえてくる。ういーん、ういん、ういーん、その音は段々と大きくなっていった。人は来るはずもないと分かっている。周りには民家などないことは知っている。

 最後、にんまりした岡島は2発目の蹴りを入れようとした。そのとき、自販機はまばゆい光を発光させた。どかーん。自販機は爆発した。岡島は綺麗に吹き飛んでしまった。

 

 

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