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宇宙からの贈物
「僕さびしいよお」 とぼとぼと人通りのない大通りを歩く春雄は、寂しさで押しつぶされそうだった。たった一人の肉親だった姉の美智子が消えた。 ☆ 「いい子だから、心配しなくていいんだよ。姉ちゃんがいつも春雄ちゃんのことを守ってやるからね」 美智子は春雄の手を引きながらよく面倒を見てくれた。春雄にとって姉は神様だった。 「姉ちゃんはお前がいてくれることだけが望みよ。もう、父ちゃん、母ちゃんみたいにいなくならないでよ」 そう言いながら、美智子は春雄の頬に、自分の頬を擦り付ける。春雄はそれがくすぐったくて目をつぶりながらも、姉の温かな頬の感触を心地よく感じた。二人の両親は、美智子が10歳、春雄が5歳のとき、交通事故で二人を残し天国へ旅立ってしまった。その後、二人は養護施設に引き取られた。 5年の歳月が流れた日、事件が起きた。宇宙船らしき物体が突然街の中に落下して来た。マスコミはこの謎の物体を連日報道した。事件から3日経過したとき、船体に刻まれた文字が解読された。望みを叶えてくれる機械と刻まれていた。「魔法の装置が宇宙の友人からプレゼントされた」とマスコミは騒いだ。 4日目、この機械のスイッチが起動された。 ☆ 養護施設にはたくさんの仲間がいた。みんな幸せになることを夢見ていた。楽しい家庭を持つことが春雄たちの願いだった。願いを考えるたび、一人、二人と施設の仲間の姿が消えていった。昼休み、園長先生が春雄たちを集会室に集めて言った。 「いいですか。あなた方はこれからどんな望みも願ってはいけません。考えてもいけません。分かりましたか。ああ、あなた方に夢を見るなと言うなんてあたしはどうかしちゃったわ」 園長先生は話しながら涙ぐんだ。 科学者は、機械を止めなければと思ったが、その瞬間に消えた。一体何処へ行くのか。ただ単に消えてしまうのか。行き先を探ろうとするものは、姿をたちまちのうちに消した。願わないことなどできるはずはない。 春雄は宇宙船の前にやって来た。すでに人影はなかった。もう自分しかいないのかもしれない。そう思うと春雄は悲しかった。 わずか数時間前まで姉と一緒にいたのに。その姉も消えた。いや、姉は何処かにいるに違いない。何処かにいてほしいと春雄は願った。 「春雄ちゃん、あたしね、大人になったらね、幸せなお嫁さんになりたいなあ」 そう話した途端、姉の姿は消えた。 「姉ちゃん、お嫁さんになったのか? 」 忽然と姿を消した姉を探した。それが、1時間前のことだ。 「幸せそうな姉ちゃんの顔が見たいなあ」 やがて春雄の姿は消えた。 春雄が姉のいる世界に到着したか、本当に消えたのか、宇宙船を作ったものにしか分からない。 ☆ ウイーン、ウイーン。宇宙船は誰もいなくなった世界で、今も人の欲望を叶えようと機械音を唸らせていた。
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