(全く難題だよなぁ・・・)
午後の日差しも穏やかな行政府代表執務室。
大きなデスクの上にいくつも積み上げられた書類の束は眼中に入らないかのように、カガリは左手で頬杖を突きながら、右手の万年筆の先をトントンと紙に叩く。無意味に広がるインクの痕で、いかに彼女の悩みが深いかが手に取るようにわかる。
「あの…いかがされました?代表。」
流石に気になったのか、ミリアリアがそっと近づき声をかける。するとやや眉間にしわを寄せたままのカガリが、ふと気づいたように彼女に向かって顔を上げた。
「なぁ、“あき”って言ったら何が欲しい?」
「は?」
ミリアリアが思わず素っ頓狂な声を上げてしまうと、カガリは「そういう反応になるよな」と表情だけで伝えて小さく肩を落とす。
慌ててミリアリアが取り繕った。
「“あき”って、季節の“秋”のことですよね?」
すると眼下の彼女は手元の書類に視線を移したまま、ため息をこぼす。
「そうなんだが、そういわれて思いつくものがなくてな。」
カガリは万年筆の後ろで頭をコリコリと掻く。柔らかな金糸が窓辺から入る心地よいそよ風に揺れた。
南国オーブも流石に10月も終わりとなると、ささやかながら涼しさを覚える。
(10月―――)
ミリアリアはふと思い出した。
そう、毎年この時期になると、カガリが禅問答でもしているかのように悩める時がある。
そして、その原因は「彼」のせいだ。
(なるほど。今年はそういう宿題でしたか。)
ミリアリアは気づいて思わず微笑ましそうにカガリを見つめ直す。
普段、為政者として悩める時の顔立ちはそれでも凛としており隙が無い。だが今日の悩める乙女の表情は、ミリアリアにも身に覚えがある。
ミリアリアはふと口にしてみた。
「ザラ一佐からの今年のお題はそれなんですね。」
アスランの名を出した途端、カガリの身体がピクンと小さく跳ねる。本当にこの女性は何年たっても嘘が付けない素直な性格で分かりやすい。
「あ、あぁ…その、今年も例の季節が来たし、何か欲しいものはないか尋ねてみたんだ。」
「アスラン、お疲れ。今日も状況に変わりはないか?」
<カガリも。今のところターゲットにさしたる動きはない。だけど時間の問題だな。>
昨夜のいつもの定期連絡。互いの仕事と割り切っていても、やはりこうして直接話ができるのはささやかな喜びだ。できたら直接会いたいのだが。
彼のさらりとした濃紺の髪が風にそよぐ音。ほのかに感じる彼の香りと温もり。
それを直接感じたい、そう、せめて一年に一度の大切な日には猶更。
「それはそうと、アスラン。…その・・・今年の10月29日は休暇は取れそうか?///」
毎年のことなのに、やはり聞こうとすると頬が自然と熱くなる。赤らんでいるであろう頬を誤魔化す様にして、カガリは両手で自分の頬を抑えながらモニターを覗き込む。
だが意に反してアスランは冷静だ。
<29日か?まだこういう状況だ。無事にターゲットの足取りを終えたのなら、そこまでの報告をしに行くことはできるが。…29日に何かあるのか?>
「―――!(ほらやっぱり!)」
分っていたとはいえ、自身の誕生日まで忘れるとは、流石はアスランだ。自分のやるべきことのためなら、それ以外に関心を示さない。真面目と言えばそれまでだが、ここまでくると鈍いにもほどがある。
「だーかーらー!お前の誕生日だろ?それで、その・・・会えないかと思って///」
上目遣いにモニターの向こうをうかがえば、翡翠が少し見開いた。やっぱり忘れていたらしい。すると
<あ、あぁ。誕生日か。だがさっきも言った通り、状況にもよるから今のところ、何とも言えないな。>
きっぱりと言い切るアスラン。それはカガリだって十分わかっている。仕事とプライバシーのどちらを優先するか、と言われれば、二人とも揃って「仕事」を選ぶだろう。特にストイックなアスランは、カガリのためならともかく自分のことは簡単に打ち捨てる。そう、そういう奴だと知っていながら惚れたのだ。ならばこういう場合も想定して奥の手で祝うとするか。
カガリは顔を上げる
「だったら欲しいものはないか?プレゼントだけでも渡したいんだが。」
<プレゼント、か。>
モニターの向こうでアスランが視線を上に外す。
毎年これが一番の難点だ。また今年も「別にない」の一言で終わるのだろう。本当に欲の無い男だとつくづく思う。
彼はいつも遠くからカガリを見守ってくれる。心身ともに包み込むような優しさで。だからその恩を返したい。ただむやみに贈り物をしたところで、彼は喜ぶとは思えない。だからこうした誕生日というイベントは、絶好のチャンスなのだ。
でも
(今年も「カガリの気持ちだけで嬉しいよ」の一言で終わらせるつもりか。)
そうはさせまい、と意気込んだカガリの前で、アスランは思いがけないことを言った。
<そうだな。“秋”が見たいな。>
「それで秋の贈り物ですか。確かに抽象的なのはザラ一佐らしいというか。」
ミリアリアが苦笑する。決してミニマリストではなさそうだが、彼が何かを欲しがるとしたら、この世でたった一つだけなので、それ以外今のところ眼中には入らないだろう。
「そうなんだよな。一応29日は補給を兼ねて昼頃オノゴロに立ち寄るから、それから18時までに軍港に戻るまでなら、何とか時間が取れるらしいんだが。」
そういって頭をかきむしるカガリ。
為政者としてファウンデーションとの戦いや、自国防衛の判断と実践は見事なものだった。時折感情的にムキになることもあったが、むしろ政治家の冷徹さじゃなく人間的な温かい感情を持っていると伺える。こんな愛すべき我らが代表の可愛らしい悩みだ。せめて同じ女性として、苦悩する代表を少しお助けしなければ、と一息ついてミリアリアが口を開く。
「秋ですか。確かにオーブじゃプラントほど秋は感じられないでしょうね。」
座ったままのカガリは改めてミリアリアを見上げた。
「やっぱりそうかな。ヘリオポリスもプラントも宇宙空間だけど、天候と季節の環境設定はプログラムされていたもんな。」
カガリは再びため息をつく。この常夏で秋の体験をさせるのは難題だ。すると
「だったらオロファトの植物園とかどうでしょうか?あそこは室温調整されているし。」
「サイ…」
デスクの向こうで入力作業に追われていたはずのサイが、眼鏡の位置を直しつつ、カガリに提案して見せた。
「確かに。あそこなら秋の草花なんかもあるし、室温も下げてあるな。」
「あ!私はやっぱり花より団子かな。オロファトの有名なケーキのお店でこの時期、栗のお菓子が出るんですよ!モンブランとか、すっごく美味しいんですv」
続いて秘書官の若い女性が頬を緩めて思い出している。
(ケーキか…アスランは甘いものはあまり好きじゃないけど、マロングラッセとかなら口にできるかな。コーヒーを添えて。)
「あとカフェでも秋になると茶葉やコーヒー豆のブレンドの種類が変わるそうですよ。南半球と北半球の季節が変わるから、産地も違うところの豆が届きますし。」
また別の秘書官が声を上げた。
(コーヒーというと、バルトフェルドだよなぁ。でもアイツのは絶対参考にならないから、奴に話を聞くのはやめておこう。)
頷きながら心の中で独り言ちるカガリ。
(これに買い物でアスランが欲しそうなものをプレゼントにして…植物園を鑑賞して、カフェで一休みして、そこで欲しいものを聞いてお店に行く―――オロファト市内なら18時までに十分時間は取れる!よし、少しずつビジョンが見えてきた!)
「みんなありがとう!参考にしてみるよ。」
ようやくいつものお日様のような笑顔がさした。彼女の表情はみんなを安心させてくれる。
「頑張ってきてください、代表!」
そう言いつつ、その場の秘書官と官僚たちは一同、心の中で思う。
―――ザラ一佐、代表を泣かせたらタダじゃすまないから!―――
***
10月29日午後13時過ぎ―――
秋らしいベージュのブラウスにキュロットスカート。変装を兼ねたベレー帽に身を包み、カガリは携帯の画面に現れる時刻をチラチラと見比べていた。すると
「すまない、遅くなって。」
そういって待ち合わせの植物園の前に駆け込んでくるアスラン。彼にしては珍しく淡い色のセーターを着こんでいる。やはり仕事上寒冷地にも赴くこともあるから、少しは衣類にも気を使っているのだろう。買い物に服も一つ候補に挙げておこうか。
「仕方ないさ。補給のリストを確認したりしていれば、時間はいくらあっても足りないだろう。むしろ忙しいところに悪かったな。」
そういって眉尻を下げるカガリ。
「いや、カガリこそ忙しいのに、俺のために時間を空けてくれるなんて、それこそ申し訳―――」
そこまで言った口をカガリが人差し指を当てて止めた。
「私がしたかったんだからいいんだ。さ、折角の時間がどんどん短くなる。お前の望む“秋”があるかわからんが、秋を探しに行こう!」
カガリは周りの目も気にせずアスランの手を取って、先を歩きだした。
「初めて来たけど、こんなに色んな植物があるんだな。」
園内は想像していたより広々としており、カガリが手をかざして一望する。
隣でアスランが遠くを見るようにして言った。
「懐かしいな。俺も植物に詳しい方じゃないけれど、母が農業研究をしていたから、いろんな草花を見てきた記憶がある。そうだ、これなんか、コペルニクスにいた時、カリダさんから頼まれてキラと一緒に取りに行ったな。」
「これって、この箒みたいな草をか?」
「ススキというんだ。十五夜という時にこれとお団子をお供えしていたな。」
「へー、もう既に月(コペルニクス)にいるのに?」
「そう言われると、今更だが、月にいたのにな。疑問にも思わなかった。」
「ぷ、あははは!」
カガリが笑いだす。アスランもつられて苦笑しながら「キラには言うなよ」と一言添えた。さらに
「あそこには紅葉もあるのか。それに銀杏並木まで。」
「え?どれだ?」
アスランがどこか嬉しそうに指を刺した先には、赤や黄色の五色に彩った樹木と、見事に黄色に染まった街路樹が。
「これもよく見たことがある。キラと一緒にカリダさんに連れて行ってもらった公園にもあったし、ラクスと出掛けた先で、あんな銀杏並木の下を歩いたこともあったな。」
そう語るアスランの嬉しそうな横顔を、カガリはまじまじと見つめる。
アスランの過去はあまり本人が語りたがらない。母親を亡くし、軍に志願してそこで親友のキラと戦い、戦友を亡くし、ラクスとは婚約破棄。そして父親と分かり合うことなく見送るしかなかった。
あまり彼の過去を掘り返すようなことをカガリはしたことはない。寧ろ自ら話す気持ちになれた時、自然と教えてくれるようになってからでいい。
苦しみが思い出に代わったとき、きっと前に踏み出せる。
(その一助に、私も成れたら嬉しいが。)
「どうした?カガリ。」
呼ばれてみれば、アスランの澄んだ翡翠が不思議そうにこちらを見ていた。
「な、何でもない!心配するな!」
慌てて誤魔化す様に両手を振るカガリのその手をアスランは握った。

「なっ///」
「さぁ行こう。」
今度はアスランが驚き固まるカガリの手を引く。そこにいたのはターミナルの諜報部員でもなく、オーブ軍一佐でもない、どこにでもいるただの一人の青年だ。
その笑顔にカガリも自然と表情が明るくなっていった。
そう、この普通をもっとアスランにあげられたら―――
***
黄色一色に染まった銀杏の並木道に面したカフェテラス。
そこで二人は休憩する。
二人で温かなコーヒーと紅茶を抱えながら、取り留めない話を続ける。

ここには政治も戦争も調査もない。緊張が取れた空間を二人きりで楽しむ。
「アスラン、コーヒー美味しいか?」
「あぁ。確かにいつもの物と味が違うな。苦みが深くて。カガリは?」
「私も、今回はダージリンにしたが、多少の渋み美味しい。マロングラッセと丁度いい取り合わせだ。」
カガリが視線で促すと、アスランもテーブルの上の小皿に盛られたマロングラッセを見る。
「これは・・・相当甘いんじゃないのか?」
彼は甘いものは得意ではない。モダン焼きと違って流石にマロングラッセは知っていたようだが、ここまで砂糖の結晶に覆われて、表面が真っ白なのは見たことがなかったようだ。
「多分お前が思っているよりは落ち着いた甘さだぞ。ラム酒につけてあるからちょっとアルコールの香りがするかもな。でもコーヒーを飲む前に甘いものを口にすると、よりコーヒーが香ばしく、美味しくなるんだぞ。」
「そうなのか?」
どこかいぶかし気に摘まんだマロングラッセをしげしげと見つめるアスランに、カガリはにやりと笑う。
「もう、お前は相変わらず食への冒険心がないな。一つだけでも口にしてみろよ。あ、嫌だったらこの前のモダン焼き屋に行ってもいいんだぞ?」
「ま、あれはあれで不味くはなかったが…」
「だから素直に美味いって言えばいいのに。きっとこれもそう思うぞ。」
たわいもないこの空気がたまらなく愛おしく感じる。
(もっとこの時間が続けばいい・・・)
そう思いながら、目の前のアスランが覚悟を決めてマロングラッセを口にしようとしたその時だった。
<ピーピーピー>
カガリの携帯からアラートが鳴り出した。
カガリは表情を変え、すぐに出る。相手は軍令部からだった。
「どうした?」
<休暇中申し訳ありません、代表。現在オーブ南南西海上から正体不明のMSと思われる物体が接近中です>
「所属は?」
<わかりません。こちらからの発信にも応じず、このままですと領海侵犯の可能性があります。MSにしては想定以上の高速機です。>
カガリは頭を回転させる。
(不味いな。高速機か。フラガ一佐がいたらよかったが、今マリューとミカガミで南アフリカ共同体の救援依頼に応じてもらっているからな。何とかムラサメ隊で威嚇と防衛に先んじさせて、国民への避難発令をしなければ―――)
「直ぐにムラサメ隊を向かわせろ。私も今戻る。その前にEEZに侵入したら、私の号令を待たずに避難勧告を発しろ!」
「カガリ。」
声をかけたのはアスランだった。
「高速機なんだろう?だったら俺も出る。ムラサメを一機借りることはできるか?」
「アスラン…」
「フラガ一佐がいれば事足りただろうが、未確認機だ。どれだけの力を持っているかわからない。少しでも手がある方がいいだろう。」
現在ズゴックとキャバリアーアイフィリッドは調整中だ。それ以前に極秘機体である2機を身元不明のMSとオーブ領海内で戦わせるわけにはいかない。
折角こうして安らげるひと時をプレゼントしたかったのに。
でもアスランの表情を見て、彼の心はもう決まっていることを悟る。
それに自分も。私欲より優先すべきものがあることを、二人は十分に知っている。
「頼めるか?ザラ一佐。」
「了解しました。」
カガリの目前で敬礼するアスラン。カガリはすぐに通話した。
「ムラサメ一機、すぐに実弾装填して発進準備をさせておけ。ザラ一佐が出撃する。」
<ざ、ザラ一佐がですか!?了解しました!>
通信士の声が緊張から希望へと変わる。そう、オーブの盾、赤の騎士に敵う者はいない。
通信が切れた瞬間、カガリとアスランは頷きあった。
そして2時間後―――
「そうか、撃墜できたか。」
軍令部指令室の大画面のモニター越しに、カガリはアスランを迎えた。
<どうやら無人の攻撃機だったようだ。おそらくファウンデーションが使用していた無人攻撃機が何らかの信号に反応して目標設定されていたオーブに向かっていたらしい。詳しくはこれからモルゲンレーテでプログラムを解析する。シモンズ主任がブラックボックスを受け取りに来ている。>
「了解した。」
そこで大画面の通信は切れた。
だがカガリはデスクの小さなモニターへ切り替えると、大役を済ませた彼に微笑んだ。
「ありがとうな、アスラン。誕生日なのに散々だったな。」
カガリが苦笑すると、アスランは首を横に振って微笑んだ。
<君と、君のいるオーブを守れたんだ。それで十分、なんだが…>
一瞬、何かを考えるように彼の視線が明後日の方を向いた後、改めて口を開いた。
<カガリ、この後オノゴロまで来れるか?>
「今から?もちろん軍令部にいるからすぐに行けるが。」
<ありがとう。もうすぐ着艦するから>
そういって敬礼して見せると、画面はブラックアウトした。
カガリはアスランらしからぬ申し出に、ふと考える。
(出迎えて欲しい、とか?アスランはあんまりそんなこと言わない奴だと思ったが。…でも予定外の出撃だ。労わなきゃ。)
カガリがデッキに向かうと、丁度ムラサメが着陸した。
「お疲れ、アスラン。」
「カガリも。…それで、さっき言ったことなんだが、ちょっと後で付き合ってもらえないか?」
「あぁ、良いけど…」
時計を見ればもう17時になるところだ。
今からオロファトに戻って、食べ損ねたスイーツや店を回る時間はない。
(今から彼に何をしてあげられるだろう?)
一生懸命慣れないデートプランを立てたのに、結局は時間の大半を戦闘に使わせてしまった。
(せめてプレゼントは事前に用意しておけばよかったな。)
気に入らないものを渡したところでそれはカガリの自己満足だ。どうせならアスランに気に入った何かをその場で見つけてプレゼントしたいと思ったのだが。
「は〜出撃までさせて、結局何もしてあげられなかったじゃないか…」
思わずしゃがみ込んで、自己嫌悪に陥る。
アスランは一旦報告書を届けに行ったらしく、カガリの前に戻ってくると。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「いや、そうじゃないんだが…なんというか消化不良というか…」
顔だけあげて、どこかしゅんとしたままのカガリに、アスランは手を差し出す。
「ほら。立ってくれないとこの後付き合ってもらうところに行けないだろう?」
そういうアスランの表情は、逆に何故か嬉しそうだ。
差し出したカガリの手を引いて向かったその先に待っていたのは―――キャバリアーアイフィリッド2。
「あれ?キャバリアーの発進準備がもうできていたのか。」
まだ早いのに。あと1時間あるんだから、その間に何かアスランにしてあげられることは―――
だがアスランはカガリの手を引いたまま、キャバリアーの搭乗口から、更に上部デッキのコックを開けた。
「うわ、久しぶりだな、ここ。」
そうだ。ファウンデーションとの決戦が終了し、オーブに戻って来た時、アスランとひと時、ここで二人きりで話をしたっけ。
アスランは手招きすると、キャバリアーのデッキに座り込み、カガリも隣に座らせた。そして先ほどデッキを通りかかった際に持ち出していた紙袋から、コーヒーのカップの一つカガリに差し出した。
「お前、いつの間に。」
「先にメイリンに準備してもらっていたんだ。」
「気が利くな。だけどせめてもうちょっとセンスいい物だったらよかったな。」
「それはメイリンにも言われた。」
「そうか。」
カガリは笑う。少し冷えた指先に、カップから伝わる熱が温かい。先ほどまでの落ち込みが温もりで溶けていく。
二人で小さくカップを当てて乾杯した。

「改めてお疲れ様。そして誕生日おめでとう、アスラン。」
「ありがとう、カガリ。一緒にこうして俺が望んだ秋が見られてよかったよ。」
満足そうなアスランの横顔に、カガリは疑問を持つ。
(望んだ秋?)
キャバリアーの上じゃ、食べ物も植物も何もないのに…「秋がある?」
「秋?どこに?」
カガリが周囲をうかがっているのを見て、アスランはカップを置いて天を仰いだ。
「このオレンジに光る海も空も、いつも確かに見えるけど、秋はこのオレンジがより強く輝いているから。」
カガリはそう言われて改めてその景色を眺める。
誰もいない、オレンジに輝く空全天全てが二人だけのものだった。
そして夕日に輝く波間、そこに溶けていきそうな太陽のオレンジ。
確かにそうだ。空気が少しの冷たさを孕み、それが澄んでより空も海もきれいに見える。
「見たかったんだ。カガリとこの景色を。この景色はコペルニクスにも、プラントにも絶対ない。オーブにだけある俺の一番大好きな秋の色だ。」
カガリはその満足そうな横顔を見て、ようやく笑みが浮かぶ。
(ちゃんとしたプレゼントも何も渡せていなかったけど、そうか。このオーブ全体が秋だったんだ。)
平和でなければ見られない景色。
カガリはちゃんとプレゼントを贈っていた。
オーブを守る。
それで得られた何物にも代えがたい、「平和」でなければ味わえない、この秋を。
「よかった。お前の希望が叶って。だったら来年はもっといい物準備しなきゃな。」
「もう来年の話か?」
アスランは呆れるが、カガリは上機嫌で話す。
「そうだ。約束したからな。それを見るまで絶対死ねないだろ?」
「カガリ・・・」
そうだな。絶対死ねないな。
アスランは微笑み、夕日に輝く柔らかな金糸を持つその姿を熱を込めて見つめる。
欲しかったのは、君の隣。
どんな秋でも構わない。
誕生日に、君の隣を独占できれば、どこでもよかったんだ。
来年の誕生日か。
今度は何を貰おうか。
いっその事、言ってみようか。
永遠に、君の隣を、と
・・・Fin.