ここは何処だろう…

 

見渡す限りの漆黒の闇

風の囁きすら聞こえない無音の世界

 

(怖いよ!)

膝を抱えて蹲っているのは―――幼い僕

誰も知らないところで助けもなく、どうしたらいいのか途方に暮れて、自然と涙が溢れてくる。

 

その時だった

 

―――「キラ、みぃーつけたっ!」―――

 

幼いその声に顔を上げれば、まるで朝の太陽を連れてきたように、闇を消していくその子。

差し出されたその手を、必死の思いで掴んだんだ。

「・・・どうして僕のこと、見つけられたの?」

すると太陽のような笑顔・・・いや、逆光が眩しすぎて誰なのか表情がよく見えないのに、酷く安心して思わず尋ねたら、あっけらかんとその子は言った。

 

―――「だって、私は―――」―――

 

 

 

 

 

「・・・ぁ・・・」

その眩しさを必死で追いかける様に眼を開けば、そこはまだ暗闇だった。

(またあの夢、だったんだ・・・)

ベッドサイドのデジタル時計が仄かに「AM3:25」を映し出している。

「はー・・・」

前髪をかきあげれば、額にうっすらと汗が滲んでいた。

深いコバルトに染まった天井を見上げたまま、僕はぼんやりとその陰の作る黒い溜まりを見つめていた。

 

『デスティニー・プラン』を大々的に発表したギルバート・デュランダル議長の死から、もうすぐ一年が経とうとしていた頃だった。

終戦後、デュランダル議長を推進する派閥と対立政権とで混乱が続くプラントに、ラクスは招集された。

彼女はあくまで一時的に、次の議長が決まり、プラントの情勢が落ち着くまでの顧問的役割を担った。

僕はラクスの名目上の護衛として、その時だけザフトに入隊し、独立して動けるよう指揮官クラスの待遇を受けた。

(―――「ほんの一時です。終わりましたらすぐにオーブに戻りましょう。」)

そう言ってラクスは微笑む。

プラントにいることで、僕がデュランダル議長の推進派から複雑な感情を向けられることに、彼女は気を使ってくれた。

だけど、彼らの冷たい視線以上に、僕の心に澱の様に淀み溢れてくるのは、議長との最後の対面の時だ。

 

 

(―――「今ここで私を撃って、再び混迷する世界を、君はどうしようというんだ?」)

暗闇の中でまっすぐ僕に向き合い、デュランダル議長が挑むように話しかけてくる。

(―――「・・・覚悟はある。ぼくは、戦う!」)

あの時もそう言った。

だけど彼は尚も僕に問うてきた。

(―――「戦う?今や何の肩書もなければ、立場さえ曖昧な君が、何をもって誰と戦うというんだね?」)

(―――「それは――・・・」)

そこで僕はいつも言い淀む。
ザフトにいるのはあくまでラクスの護衛として。でも僕は射撃の訓練一つすらしたことがない。MSの操縦以外に唯一できるとしたら、敵の気配からラクスを庇うことだけ。

(―――「戦う目的も手段も持たない君が、どうやって世界を維持していくつもりだ?」)

言葉は柔らかいのに、あの切れ長の黒い瞳が、とてつもない威圧を僕に放つ。

(―――「できる・・・やって見せる。」)

そういうのが精一杯の僕に、彼はついに僕の核心を突いた。

(―――「私を撃ってまで作ろうとした世界だ。口にした以上、君はそれを実現させなければならない。これは私だけでなく、君に討たれて散っていった命への責任だ!君はその責任をどうやって取るつもりだ!?」)

(―――「―――っ!!」)

 

そう、幾ら彼を葬ったのがレイだったとして、彼の命も、そして共にしたグラディス艦長の命も、僕が・・・僕がその分平和を勝ち取らなければならないのに!!

 

「・・・―――ラ!目を覚ましてくださいな、キラ!!」

「・・・ラ、クス・・・」

ぼんやりとする視界の中、目の前には朝の光に横顔を照らされた、不安そうなラクスの顔。

 

あの後、また眠りに落ち、この夢に戻ってしまった。

あの眩しい光の子が助けてくれたと思ったのに、油断するとあっという間にこの闇に引き戻されてしまう。

 

僕の手を握るラクスの温かく柔らかい手。僕はそれを軽く握り返す。

「ごめんね。また心配かけちゃったね。」

「キラ・・・」

ラクスは言葉を噤める。

僕と議長との最後の会話をラクスは知らない。

だからどんな言葉を口にすれば、僕の心が解けるのか計りかねているんだ。

ただそれでも傍に居てくれるだけで、僕の心は柔らかくなれたのに、最近はどうしてかな、黒い夢が僕の心を凍らせる。そして、答えのないまま、また夜が来る。

「もうすぐ新しい議長が承認されます。ラメント氏の可決が発表されましたら、オーブに戻りましょう。」

微笑みながら僕の頭を胸元に引き寄せてくれるラクス。

「・・・うん・・・」

オーブ、その名を聴くだけで、少し心が軽くなる。

あそこには父さんも母さんもいる。勿論、アスランも。

 

そして、何よりあそこにいるのは―――

 

 

 

だけどオーブに戻っても、僕は黒い夢に侵された。

度重なる戦禍から立ち直ったオーブで、穏やかな日を手に入れたはずなのに、僕はそれでも・・・

「焦ることはないわ。今は心も身体を休める時よ。」

そう母さんは言って、父さんも強く頷いてくれる。

 

わかっているんだ。

 

だけど・・・

 

 

***

 

 

数日後、オーブ行政府代表執務室の電話が鳴った。

「代表、あの・・・」

「どうした?ミリィ。」

受話器を持ったまま、戸惑っているミリアリアに、カガリは顔を上げ声をかける。

「ラクスさんから、お電話なのですが。」

「ラクスから?」

カガリは訝しむ。私用なら携帯にかけてくるはずなのだが、わざわざ執務室に直接かけてくるとは

「まさか、また襲撃されたのか!?」

だったら緊急事態だ。アスハ家所有の別荘は、幾つもセキュリティーが掛けられているが、それでも彼女を狙う者達はハイエナよりもしつこく厄介だ。慌てて受話器を取ったカガリ。

「ラクス、何があった!?無事なのか?」

<カガリさん・・・>

だがカガリが耳にしたのは、あの優しい歌声とは似ても似つかない、ラクスの悲鳴にも似た叫び声だった。

<キラが・・・キラがいなくなってしまったんです!>

 

 

***

 

 

アカツキ島はアスハ家所有の私有地だが、その殆どが鬱蒼とした森に囲まれている。

道なき道を僕は彷徨っていた。

「逃げたって、何にも解決しないのに…」

そう呟いて自嘲する。

でも、母さんや父さん、ううん、それ以上にラクスが懸命に僕を癒そうとしてくれれば暮れるほど、何故か辛くなってきたんだ。

 

だって僕がデュランダル議長に向かって宣言したんだ。

「ぼくは、戦う!」と。

それは早く世界を平和にしなきゃいけない。

ラクスがこんな身を隠すような、大好きな歌も我慢しなきゃいけない世界から、早く抜け出せるように。

でも、どうしたらいいんだろう?

 

足の向くまま歩み続けてふと気が付く。

「あれ?ここは何処?」

慌てて振り返るが、元々道なんてなかったんだ。どこをどう歩いてきたのかわからない。

(迷ったんだ!)

もうすぐ夜の帳が落ちる。そうしたら森の中はあっという間に漆黒の闇。

既に足元が暗くてコーディネーターの僕の眼でも、この先に進むことに警鐘を鳴らしている。

 

行くこともできず、戻ることもできない。

(まるで今の僕と同じじゃないか。)

 

自然とへたり込んで、膝を抱えて蹲る。

風に騒めく木立が、まるで僕を責め立てる様に聞こえる。

 

―――「お前は孤独だ」―――と

 

(一体、僕はどうしたら・・・)

戦闘とは違う恐怖が襲い掛かってくる。

戦い以上の恐怖―――孤独に打ちのめされそうになる。

(怖い―――!)

その瞬間だった。

風ではない、ガサガサと木立が乱暴に揺れて、驚き顔を上げた瞬間、そこには

 

「キラ、見ぃーつけたっ!」

 

「あ・・・」

木々をかき分け、差し込んでくる木漏れ日が金色に輝いて、差し出されたその手の持ち主を背中から照らしている。

金色の髪が、まるでお日様を連れてきたみたいに明るく輝いて、そこにあった闇を消し去ってくれるようで。

「君は―――って、カガリ!?」

何でカガリがここに?

僕は思わず面食らう。だって彼女は今頃行政府で、今後の世界について必死に閣議を続けているはずだ。

だが、柔らかな金糸に枯葉をいくつも付け、更に紫の首長服に小枝をひっかけたまま、まるで泥んこ遊びをした後の子供のようないで立ちで、カガリはそこにいた。

「カガリ!?って、お前、ちょっとプラントに行っている間に私の顔、忘れたのか?」

「そうじゃないよ!そうじゃなくって、何でこんなところにカガリがいるのさ?絶賛閣議中じゃないの?」

「そうなんだけどさ。弟が行方不明になったら、何よりも家族を優先させるのが人情だろ?」

「行方不明って、そんな・・・」

「じゃあ何でラクスに黙って家を出たんだ?」

「それは・・・」

言い淀んでしまうついでに視線も外す。口を強く噤んでいた僕を見て、カガリは「ほら」ともう一度手を差し出して、僕を立たせた。

「言いたくないのはわかった。深くは追及しない。でもお前のことだ。オーブに戻ってきたはいいけれど、デュランダル議長亡き後の世界をどうしたらいいんだろう?とか一人で勝手に抱え込んでいないか?」

「―――っ!!」

確信を突かれて心臓が跳ね上がる。一瞬強張った僕の動きを見て、カガリはもう察してくれたようだ。

「あのな。そういうのを考えるのは私たちの役目だ。お前が一人で抱え込んだってできる訳ないだろうが。」

「確かにそうなんだけど…」

「お前が言ったんだぞ。「みんなで考えよう」って。私が囚われていたセイランからお前が救い出してくれた時に。言った張本人が覆してどうする。」

「・・・」

そういえばそうだ。全然有言実行できないんだな、僕って。

するとカガリは暫し無言で薮を掻き分け、僕の目の前をどんどん歩いていく。慌てて後を追っていくと

「わぁ…」

一面の海だった。浜辺に穏やかに波を寄せている。夕暮れの光を受けた海は、青ではなく美しいオレンジに輝いていた。

「どうだ?素敵だろう。」

「うん、凄く綺麗だ。」

素直に気持ちを口にする。するとカガリはその海を背に、僕に向かって両手を広げて見せた。

「全部、お前が守ったんだぞ。」

「僕、が?」

「そうだ。ネオ・ジェネシスの刃から、この海も、そこに生きる者達も、この草木の命、一つ一つをお前が守ったんだ。」

そこに生きる命、一つ一つを愛おしむ様な優しい金色の瞳が僕を包んでくれる。

ラクスに抱くのとは違う感情だ。

全身に絡まって藻掻き苦しめられていた糸が、プツリと切られ、全ての緊張が自然と解けていくような。

すると―――おかしいな。何故か目の奥から熱いものがとめどもなく溢れてくるんだ。

「もっと自慢していいんだぞ?自由を勝ち取るのも大事だが、その前に命が無ければ・・・住む場所も口にできるものも無くなってしまったら、自由も選択もできない。お前はその最初の基礎を守り切ったんだ。誇りに思えよ。」

そう言って抱きしめてくれる腕も身体も、僕の方が何時しか大きくなっているのに、何でかな・・・もっと大きな安心感に包まれるんだ。

「よしよし。大丈夫、大丈夫だから。」

そう言って背中を摩ってくれる彼女。

AAの甲板で、一人苦しんでいた心がほぐれた時と同じだ。

 

ややあって互いにその腕を解くと、カガリはまた僕の少し前をゆっくり歩きだす。

ふと、僕はその背に問いかけた。

「ねぇ、カガリ。」

「何だ?」

「どうして僕の居場所が分かったの?」

不思議なんだ。あんな鬱蒼とした森の中からどうやって僕を見つけ出せたのか。

するとカガリは、何の屈託もなく、当たり前のように笑顔で言ってくれた。

 

「だって、私はお前の双子のきょうだいだからな。もう一人の私を見つけられない訳ないだろう?」

 

瞬間、夢の中にいたあの子を思い出す。

 

あぁ、そうか。

あの子はカガリだったんだ。

 

僕がアスランのことや、バルトフェルドさんとアイシャさんを討ってしまって苦しんでいた時も、シンに撃たれてフリーダムが大破した時も、いつも僕を見つけ出して救ってくれたのはカガリだ。

 

闇に隠れた僕の心を、双子の片割れはいつもこうして闇から救い出してくれた。

 

「そっか。」

自然と口元が緩んで笑みが零れる。

この世で唯一、血を分けたきょうだい。

それ以上の理由なんて必要ないんだ。

 

「それにな」

カガリが胸を張るように言ってきた。

「私は、かくれんぼは得意なんだぞ!」

かのオーブ代表ともあろう人が、頭に葉っぱや小枝を付けたままのいたずらっ子の様に、にかっと笑って見せてくれた。

「ホント?」

「あぁ。何せ子供のころから家庭教師やマーナ達から逃げまくっていたからな。誰にも見つからないのが自慢だったんだ。アスラン以外。」

「アスラン?見つかったの?」

「だってアイツ、3次元で追ってくるんだぞ!?壁を走って登ってくるわ、屋根の上から飛び降りてくるわ、どうやって逃げたらいいんだよ!?」

「ぷ・・・あはははは!」

本気で主張してくるカガリに、思わず笑ってしまった。凄く大きな声で笑ったのは久しぶりだ。

一瞬カガリが怒ったらどうしようって思ったけど、カガリは少しだけ頬を膨らませて見せたけど、直ぐに笑顔に変わった。

「良かった。お前がまだ笑えて。」

「カガリ?」

「ラクスから「最近キラが笑わなくなった」って聞いてな。夜も魘されることが多いって言っていたし。それで、みんなに不安なところを見られたくないと思っていたら、脱走したわけだ。」

「別に脱走って訳じゃ・・・」

するとカガリは立ち止まって僕を見上げた。

「なぁ、キラ。」

「何?」

「私はお前が抱えている悩みを詳しくはわからない。だからと言って無理に話してくれとは言わない。言いたくなった時に言えばいい。ただ何故かな。初めて会った時から、お前のこと放っておけなかったんだ。」

「それもやっぱり双子だから、かな?」

「そうかもな。」

カガリが靴を脱いで、砂浜をはだしで歩きだした。

波に消される前のカガリの足跡を僕は追う。

 

そういえばいつもこうだった。

ストライクを見つけてしまった時もカガリの後を追いかけた時も。

命がけの戦いの後、アスランとの再会でどうやって彼と話を切り出すか悩んだ時も。

連邦とザフトが再び開戦し、自分がどういう道を選ぼうとした時も。

全てはカガリの後を追いかけて、開いていった道だった。

 

でも今回は違う。

僕自身が背負った業だ。

僕が切り開かなきゃ―――

 

そう決意を固めた時だった。

「キラ!」

カガリが振り向いた。

「何?」

「今度の5月18日、空いているか?」

「え…大体僕は空いているけれど…」

「そうだったな。じゃあ18日にアスハ家に来てくれ。ラクスも呼びたいところだけど、できたら今回は一人で。」

「うん、わかった。」

僕は微笑んで頷く。自然と口角が上がるのはカガリのせい。

彼女があの自信満々の笑顔を向けた時、誰よりも強いことを僕が知っているから。

 

 

***

 

 

そして5月18日。僕はアスハ邸に出向いた。

「お、約束通り来たな。」

「そりゃ来るよ。あと、これ。」

僕は少し大きめの箱を差し出す。

「何だ?これ。」

「ラクスが持たせてくれたんだ。二人でお召し上がりくださいな。ってさ」

「そうか。じゃあこれを持って中庭に行こうか。」

アスハ邸の広い敷地。緑が眩しい芝生の上に白いクロスのかかったテーブルと椅子、白い茶器が置いてある。

僕らは対面で座ると、メイドさんが先ほどの箱とお皿をワゴンに積んできてくれた。箱を開けば

「うわ〜!これお誕生日のケーキか?」

カガリが目をキラキラさせて感嘆している。

大きなスポンジにたっぷりの生クリーム。そしてその上にマジパンでできた薔薇を飾り付けしてある。

真ん中の大きなチョコレートプレートには

『Happy Birthday KIRA&CAGALLI』の文字が。

そう、ラクスがこの日のために、と僕らの誕生日ケーキを用意してくれていたんだ。

綺麗に切り分けられたそれを、早速カガリが口に運ぶ。

「ん〜〜!美味ぁ〜〜い?」

「カガリ、代表たるものがはしたないよ。」

「良いんだ。こういう美味しいものを口にした時こそ、心からの言葉がでるんだから。」

唇の端っこについたクリームをペロリと舐めながら、カガリはワゴンの下にあった包みを取り出す。

そして改まって僕に向かった。

「今日来てもらったのは他でもない。お前への誕生日プレゼントだ。」

「え、僕に?」

とはいっても、別にリボンも包装紙もかかっていないその袋をがさがさと開けてみると、そこにあったのはファイリングされた一冊の冊子。

「なにこれ。・・・『世界平和監視機構』?」

表紙に書かれたそれを読むと、カガリは得意気に言ってのけた。

「そうだ。通称『コンパス』だ。」

「“こんぱす”ってあの〇を書く時、使うやつ?」

「違うーっ!『compulsory observational making peace service』の頭文字をとって『C.O

.M.P.S.』で��コンパス”だ。方位磁石だな。まぁキラの言うコンパスで〇を書くのもあっているかもな。〇は「輪」であり「和」という意味も成すからな。」

カガリの説明を聴きながら、僕はパラパラとその骨子を読み漁った。

そんな僕の様子を見守りながら、カガリはお茶を一口飲み下しながら話し出す。

「私の目指すべき目標は軍縮だ。しかし先の大戦は一応の結末を見たが、未だ世界は平和とは言えない。細かな紛争や戦争に一般市民が死に怯え、貧困に喘いでいるのが実情だ。そこで大西洋連邦もプラントも、勿論人種にも宗教にも関係なく、皆が自国の軍ではなく国家間共通組織として、各所の復興や事態の鎮静化を図るために活動する―――と、考えたんだ。」

僕は思わず顔を上げて片割れの顔を見つめる。

遠く空の彼方を見つめるその金眼と、凛とした表情の中に、あの時、力のなさに泣き続けた彼女はもういない。

「だが事態の鎮静化には、相手が武力をもってくることが大半だろう。そんな相手にいくら両手をぶらりとさせたまま「戦闘は止めてください」と言ったところで聞いてくれるわけがない。ある程度抑えるための力が必要だ。そこで、だ。」

カガリはぼくの持ったままの冊子から、付箋の付いたページを開く。そこには

「新しい、フリーダム!?」

「そうだ。これをお前に託したい。」

「僕に?」

僕は驚いて目を丸くする。そんな僕にカガリは語ってくれた。

「あぁ。平和を指し示す方位磁石『コンパス』。その針の先端をお前が担ってくれれば、私も安心だ。勿論、隠居してまた森の中に隠れたいって言うんなら勧めないけどな。」

カガリがニヤリと笑う。

 

君はやっぱり僕の心を見つけてくれる。

戦争のための武器じゃない。

自由と平和を導くための名を冠するMS――『フリーダム』。

僕が手にしたかったのは、平和の剣。

一番欲しかった力―――

 

僕の口角が自然と上がったのを見つけたのか、カガリが僕を覗き込む。

「どうだ?でかい誕生日プレゼントだが、気に入ってくれたか?」

「だったら、僕からもプレゼント。」

「ほぉ〜何だ?」

「僕からカガリに託すよ。『僕の力』を。」

「なるほど、力をプレゼント、か。とてつもないデカいプレゼントだな。」

「気に入ってくれた?」

「勿論だ。」

カガリが口角を上げる。僕も自然と笑顔になる。

そして無意識にお互い手を差し出し、力強く握り合う。

 

5月18日、19回目の誕生日。

僕らはそれぞれ贈り合う。

「平和への道標」と、そこに向かって「歩く力」を。

 

 

 

・・・Fin.