協力出版物語                   もどる

(1)

1991年、日本はバブル経済が崩壊した。地価は下落し株価は暴落した。バブル景気に浮かれて株に投機し土地を買いあさった日本人は未曽有の不況に苦しむことになった。
北海道拓殖銀行が倒産し、ついで日本長期信用銀行、日本債券信用銀行、山一證券が倒産した。日本の土地神話が崩れ、銀行の持つ債権は不良債権となり、銀行は企業に融資しなくなった。日銀はこれを何とかしようと、都市銀行に貸し出す金利を下げ、さらに日銀は金利をゼロにした。しかし不況でモノが売れない以上、企業は事業を拡大することはなく、また企業が融資を求めても銀行も企業の倒産を恐れ貸し渋りするようになった。
多くの企業が倒産し銀行は単に金を預けておくだけの貯金箱に成り下がった。
大量の失業者が出て、フリーターやニートはもはや、その存在が当たり前になった。
この不況は当然、出版業界にも及んだ。
日用品、生活必需品でさえ売れない時代に娯楽本など売れなくなるのは当たり前である。
それと、急速に発達したパソコンによって、人々はわざわざ紙の本を買わなくても、ネットで情報を集められるようになったのが出版不況に拍車をかけた。
大手でない、いくつかの出版社は、この出版不況を逆手にとって悪質商法に走った。
それは、「協力出版」「共同出版」などと名づけて、全国の書店に流通させる出版形態である。
それは、一言でいって、本を売ることによって、出版社が儲けを出す通常の出版形態ではなく、本を出版してみたいと思う人の心をくすぐる詐欺商法だった。
つまり、「作家としてデビューしてみませんか」という宣伝によって、全国から原稿を募集する。そして出版社に投稿してくるアマチュアの原稿に対して、「素晴らしい」「埋もれさせるにはもったいない」などと褒めちぎった感想を返し、投稿者を舞い上がらせる。そして、「我が社も出版費用の幾分かを払いますので商業出版してみませんか」と著者に誘いをかける。そして、版権(本の所有権)は出版社にある本を作る、というものである。しかし、実際は、出版社は本の制作費に金などビタ一文出しはせず、製作費、流通費、倉庫代、など、すべて著者負担の金額であり、さらに、その上に出版社が、100万円から200万円などという法外な金額を著者から、ふんだくって利益を出す、本を作って著者から得た法外な製作費によって利益を上げる詐欺商法だった。
・・・・・・・・・・・・
北海道十勝病院である。
個室の病室には、松田ゆみこの父親の松田白が脳梗塞で入院しており、肺炎を起こしていた。危篤の状態だった。病院からの「お父様は今日が山場かもしれません。ぜひともお越しください」という連絡をうけて、ゆみこは、急いで病院に駆けつけた。
個室には「面会謝絶」のカードがかけられていた。
ゆみこはトントンと病室の戸をノックした。
すると戸が開いて看護婦が出てきた。
「どちら様でしょうか?」
「松田白の娘、松田ゆみこです。父が危篤と聞いてやって来ました」
ゆみこはハアハアと息を切らしながら言った。
「どうぞお入りください」
看護婦に言われてゆみこは病室に入った。
病室には、うかない顔をした主治医とナースが立っていた。
父親の口には酸素マスクが被せてあった。
心電図のモニターには波形は時々、期外収縮の波が出ていた。
血圧は60/30。脈拍は120。SpO2は80%だった。
「松田さま。お父様は危篤状態です。昇圧剤も投与しましたが血圧が上がりません。不整脈も起こってきたのでカルチコールという抗不整脈薬を投与して何とか、持ちこたえていますが、あと1時間もつかどうかでしょう。話したいことがあったら、何なりとお話ください」
そう言って主治医は酸素マスクのキャップを取り外した。
「お、お父さん」
ゆみこは涙をハラハラと流しながらヒッシと父親に抱きついた。
「ゆ、ゆみこ」
父親の閉じていた目がうっすらと開き、かすかに唇が動いた。
「ゆ、ゆみこ。わ、私は死んでいく。しかし悲しむことはない。人はいつかは死ぬのは当然のことだ。私は79歳まで生きて幸せな人生だった。母さんと恋愛結婚し、仕事も成功した。そして、お前のような優しい立派な美しい娘まで生まれて・・・お前に看取られて死んでいくのはこの上ない幸せだ」
それは死んでいく者が最期の力を振り絞って発する言葉だった。
「お父さん」
ゆみこはハラハラと涙を流した。
「ゆ、ゆみこ。死ぬ前に最後のお願いがあるんだ」
「なあに。お父さん」
「わしは、山の挽歌、という随筆を書いた」
「ええ。知っているわよ。私家本として自費出版したわよね。お父さん」
「ゆみこ。あれはわしの拙い随筆だが、わしは自分が生きた証として、あれを出版して世に残しておきたい。どうか、あれを自費出版でかまわないから出版してくれないか」
「わかったわ。お父さん。必ず出版するわ」
「あ、ありがとう。わしの人生は幸せだった。こんな孝行娘に看取られて死んでいくのだから・・・」
そう言うや、父親は静かに目をつぶった。
心電図のモニターに映し出されいるバイタルが急に乱れだした。
血圧がどんどん下がっていくので医師は昇圧剤を静脈注射した。
「いかん。血圧が上がらない。心筋虚血が起こったのだろう」
それでも血圧は上がらず、さらに心電図の波形が出なくなっていき、やがてツーと平坦になり出した。
「私が心臓マッサージをする」
そう言って医師は、エッシ、エッシと胸骨に手を当てて心臓マッサージをした。
心臓マッサージによって、少しは心電図に波が現れ、血圧も少し上がったが、それは死んでいく人間をほんの少しの時間、僅かに延命する効果しかなかった。
数分経った。
医師の心臓マッサージも虚しく、心電図の波形はツーと平坦になった。
医師は心臓マッサージをやめた。
そして主治医は、呼吸と脈拍と対光反射を調べた。
すべての生存反応がなくなり、ペンライトを瞳に当てたが瞳孔は開きっぱなしで収縮することはなかった。
医師はゆみこに顔を向けて、
「ご臨終です」
と一言いった。
ゆみこの目からどっと涙が溢れ出した。
「おとうさーん」
ゆみこは泣きじゃくりながら父親を抱きしめた。
「おとうさん。わかったわ。約束は守るわ。山の挽歌は必ず出版するわ」
ゆみこは、もう息をしていない父親に向かって誓うように言った。
医師が死亡診断書を書いた。
ゆみこは葬儀社に電話して葬式の手続きを迅速にとった。
すぐに霊柩車が来て、ゆみこの父親の遺体は霊柩車で十勝の実家に運ばれた。
翌日の夜、松田白の通夜が行われた。
喪主は当然のごとく、ゆみこが勤めた。
通夜には、松田白の友人、知人、会社の同僚などがたくさん来た。
「いやあ。松田白さんはいい人だった」
「松田白さんは山を愛し、自然をこよなく愛するいい人だった」
「私も職場では白さんに色々と親切にしてもらったよ。本当にいい人だった」
などと、皆、松田白を懐かしむ発言ばかりだった。
その度に黒い喪服に身を包んだ、松田ゆみこは、「有難うございます」と深く頭を下げた。
父はこんなに皆に愛されていたんだ、という実感があらためて湧き上がってきて、ゆみこは、よよと涙を流した。
「しかし白さんも、こんな美しく正義感の強い気丈夫な娘さんを、この世に残してあの世へ行ったんだ。白さんも十分に満足した人生だっただろう」
「ゆみこさんの正義感の強さは父親ゆずりなんだろう」
「白さんは、いつも言っていたよ。親バカと言われるかもしれないが、わしの娘はわしの唯一の自慢なんじゃ、とね」
などと、来客たちは、喪主を務める、ゆみこを讃えた。
それはお世辞ではなかった。
ゆみこは子供の頃から、この世に二人といない絶世の美女として全校生徒の憧れの的だった。
大学は慶応大学の生物学部に進学した、ゆみこだったが、「ゆみこならミス日本に選ばれるわよ」と友達に言われて、本人は気が進まなかったが、ミス日本に応募したら、何と優勝してしまったのである。その美しさは、大学を卒業し結婚し子供を産んだ今でも、色あせることはなかった。
通夜が済み、翌日、葬式が行われ、松田白の骨は松田家の墓に葬られた。
これで父の死は一区切りついて、ゆみこはほっとした。
(さあ。父との約束だわ。父の遺稿集・山の挽歌を出版しなければ)
と、ゆみこは気持ちを切り替えた。
しかし、ゆみこは、本の出版については全く知識がなく父の遺稿をどこの出版社で出版すればいいのか、わからなかった。
そんな、ある日の夕食の時である。
新聞を読んでいたゆみこの娘の繭子が母親に言った。
「お母さん。文興社という出版社が原稿を募集しているわよ。何でも単なる自費出版ではなく、全国の書店に置かれる商業出版だって」
そう言って娘の繭子は母親に北海道新聞を渡した。
どれどれ、とゆみこは娘から北海道新聞を受けとって見てみた。
すると新聞には半面をとった文興社の大きな広告があった。
それには、こんな宣伝が書かれてあった。
「広くアマチュアの人からの原稿を募集します。原稿をお送り下さい。当社で原稿を詳しく読み込ませて頂きます。内容が良くて売れる見込みのある原稿は当社が費用の全額を持つ商業出版とします、内容は良いが売れるかどうかわからない原稿も商業出版としますが著者の方にも多少の費用負担をして頂く協力出版をお勧めします、売れる見込みのないと判断した原稿には自費出版をお勧めいたします」
と書かれてあった。
ゆみこは本の出版に関しては知識がなかったので、
「ふーん、面白そうね」
と興味を持った。
世間的な知名度も名もないアマチュアの書いた原稿など売れるものではない、ということは仄聞で知っていた。
しかし死んでいく父が今際の時に頼んだお願いである。
責任感が強く、父をこよなく愛していた、ゆみこは出来ることなら、父の遺稿集を出来るだけ多くの人に読んでもらいたいと思い、ダメで元々と思いながら勇気を出して文興社に父の原稿、山の挽歌、を送ってみた。
出版社から、どんな返事が返ってくるか、ハラハラドキドキものだった。
しかし驚いたことに、2週間後に、文興社から返事の封書が来た。
それには出版契約書と原稿に対する僅かな評価が書かれてあった。
「松田様がお送り致しました、山の挽歌、を拝読させて頂きました。慎重な出版会議の結果、作品の完成度は高く、ほとんど手直し、編集する必要は無いと決まりました。このような優れた作品はぜひ世に問う価値があると思います。我が社としましても、山の挽歌、を書籍化して全国の書店に配布したいと思っております。おめでとうございます。しかしながら、作者であるお父様は知名度も名声もありません。なので出版にかかる費用は我が社も出させて頂きますが、松田様にも本の制作費の一部として200万円の協力金をお支払い頂けないでしょうか。ぜひとも協力出版をご検討ください」
との返事だった。
ゆみこに瞬時に疑問が起こった。
一番は「作品の完成度は高く、ほとんど手直し、編集する必要は無いと決まりました」と言いながらも、作品のどこがとのように良いのかは一言も触れていないことだ。
本当に出版社は父の原稿を読んだのだろうか?
もしちゃんと読んでいるのなら、山の挽歌、の内容について、具体的にどこがどういう風に良いと一言くらいは出版社は言ってもいいではないか。
それが一言も述べられていないというのはおかしい。
本当に出版社は、父の遺稿・山の挽歌、を読んだのだろうか?
そして、おかしいと思ったことは著者への印税が、たったの2%であるということである。
普通、本を制作すると著者への印税は10%位である。
つまり定価1000円の本が1冊売れたのなら著者は100円、受け取れるのである。
そして、さらにおかしいと思ったことは。
出版契約書では版権(作った本の所有権)が文興社になっていることである。
普通、商売では、買い手が売り手に代金を支払い、そして物を買う。自費出版なら本は著者の所有物であるから、これは問題ない。しかし著者が出版社に金を払って、その上出版社の所有物である本を作るというのはおかしい。これはまるで買い手が金を払って、その上売り手に物を差し上げるようなものである。
ゆみこは、文興社に疑いをもつようになった。
それでネットで色々と文興社についての評判を調べてみた。
すると、文興社に対する悪評がわんさと出てきた。
ゆみこの疑惑は募っていった。
ちょうどその頃、自費出版本の制作を手掛け自費出版本を書店流通させていた渡辺勝二という人を知った。
渡辺勝二氏は日本の自費出版の文化を守りたいと思っている良心的な人だった。
そして、(本の所有権は著者にある)自費出版本を作成し、それを知人に差し上げるだけではなく、内容の良い、売れる見込みのある本であれば、それを書店に置くことをしていた。
ゆみこは渡辺勝二氏に電話をかけてみた。
ゆみこは、文興社が示してきた、山の挽歌、を本にした場合の制作費の概算を渡辺勝二氏に聞いてみた。
すると渡辺勝二氏は鼻息も荒く怒りに満ちた口調で言った。
「松田さん。山の挽歌、を本にした場合、その制作費は200万円などかかりません。1刷は1000部ですね。それなら50万円で作れます。文興社はとんでもない詐欺出版社です。あんな出版社にだまされてはいけない。あなたには200万円と言ってきたようですが、確かに文興社は著者に大体200万円くらい本の制作費の一部と言って請求しています。それだけでもう文興社は150万円以上の利益を得ています。文興社は本を売ることによって利益を出している出版社ではなく、本を作るという口実で著者から、巻き上げる製作費で莫大な利益を出している悪質詐な詐欺的な出版社です」
これを聞いて、ゆみこも文興社にだまされたことを確信した。
「わかりました。教えて下さって有難うございます。あやうく文興社にだまされる所でした。私も何とかして文興社との契約を取り消すよう動いてみます」
「松田さんは、もう文興社と出版契約を結んだのですか?」
「いえ。まだ文興社が一方的に出版契約書を送ってきただけでサインはしていません。仮契約はしてしまいましたが。文興社に出版に関する疑問を色々と電話で聞いているのですが、なかなか答えてくれないのです」
「そうですか。出版契約を結んでいないのなら、まだ本の制作は行われていないでしょう。早く手を打てば契約を反故にして、200万円もの大金を支払わなくて済む可能性はあると思います」
「そうですか。では頑張ってみます」
「文興社は非常に悪質な出版社です。実は私も自費出版業界のモラルの向上を目的として『文興社商法の研究』というわずかな内部資料を30部程度作成したのです。ところが、それが不運にも文興社の手に渡り、私を訴えてきたのです。名誉棄損、営業妨害だから1億円の損害賠償金を支払え、と言ってきたのです。文興社は数えきれない多くの著者から、ふんだくってきた法外な資金源で何人もの弁護士をつけて私を訴えてきたのです。これは名誉棄損ではなく文興社に対する批判封じです。私は堂々と戦う覚悟です。文興社は投稿者から送られてきた原稿を、おだてあげて、著者を舞い上がらせ、製作費の一部と言って法外な金額を著者から、ふんだくって、それで莫大な利益を上げている悪質出版社です。版権(本の所有権)は出版社にありますから、著者と出版契約をして200万円、著者からふんだくった後は本は自分で宣伝して売りな、です。著者はみな泣き寝入りしています。こんな悪質商法が許されていいはずがない」
「そうだったんですか」
「文興社だけじゃない。近代文〇社。新〇舎。碧〇社、なども同様です。協力出版などと銘打って、文興社と同じ手法で悪質出版をしている出版社は多くあります」
「そうなんですか?」
「ええ。そうです」
ゆみこは渡辺勝二からそれ以外でも出版に関する色々なことを教えてもらった。
さて、文興社が渡辺勝二氏を訴えた裁判の第一審では裁判長の判決は次のようなものであった。
「被告、渡辺勝二氏の『文興社商法の研究』は自費出版文化を守りたいという強い気持ちから公益を図る目的で作成されたものと考えられる。しかし『文興社商法の研究』は左側に文興社側の商法の事実が箇条書きで書かれており、その右側に渡辺勝二氏の見解が述べられている。これを読む者は、右側の渡辺勝二氏の見解だけを読む者もいる可能性がある。それによって文興社を批判的に見る者も出る可能性もある。よってその点は名誉棄損と考えられ、被告、渡辺勝二に300万円の支払いを命じる。なお訴訟費用の大部分(20分の19)は文興社の負担とする」
というものだった。
渡辺勝二氏は、このこじつけ判決に納得したわけではないが、これ以上、裁判を続けても意味は無いと考え控訴せず文興社に300万円支払って文興社と和解した。
しかし文興社はテレビ局、新聞社、全てに「全面勝利」とのファックスを送った。
さて。外国と違って日本、日本人のほとんどは裁判を好まない。裁判には弁護士をつけ高額な報酬を支払わねばならず、時間と金を非常に浪費するからだ。しかも判決は裁判長の気まぐれで決められ、裁判を起こしたからといって勝てるものでもない。
裁判長が異なれば判決はコロッと変わる。なので日本人は裁判を好まない。
しかし、ゆみこは違った。ゆみこは、それまで、えりもの森の裁判、サホロ岳ナキウサギの裁判、など不条理と思えることは堂々と裁判で訴えていた。たとえ判決に不服があっても、不条理なことに対しては、時間と金を費やしても戦う覚悟をもった肝の座った女だった。
ゆみこは文興社との仮契約を取り消そうと思った。
しかし相手は悪質な詐欺商法の出版社である。
それで、ゆみこは文興社とのやりとり、は後で裁判になった時の証拠として「メールでのやりとりでお願いします」と言った。
ゆみこの、冷静で堂々とした、物怖じしない態度に文興社も、「これはやっかいな相手だ」と思い、「仮契約は反故にしても構いません。200万円の全額返金にも応じます」との言質を取ることが出来た。
やったー、とゆみこが喜んだのはもちろんだが、ゆみこは、協力出版と銘打って、その実、本を作ることによって利益を出している出版社に対する強い義憤と悪質商法にだまされる被害者をださないようにとの思いは抑えることが出来なかった。
そんなある日の夕食の時である。
「お母さん。社会に対して言いたい事がたくさんあるんでしょ。それならブログをやってみない?」
娘の繭子が言った。
「えっ。ブログってあの何か日記みたいなもの?でもどうやって設定するのかわからないし。私はアナログ人間だから・・・・」
ゆみこは躊躇した。
「そんなに難しくはないわよ。お母さんは社会に対して言いたい事がいっぱいあるんだから、ブログでそれを発言したらいいと思うわ」
繭子は嬉しそうに言った。
・・・・・・・・・・
翌日の昼は日曜だった。
繭子は朝からパソコンをカチカチやっていた。
「繭子ちゃん。何やっているの?」
「へへ。いいこと」
1時間くらい経った。
「出来たわよ」
娘が大きな声で言った。
「どうしたの。何が出来たの?」
昼食の準備をしていた、ゆみこが娘のいじっていたパソコンを覗き込んだ。
「へへへ。お母さん。ブログの設定をしちゃったわよ。お母さんのブログよ」
「まあ、繭子ちゃん。そんな勝手にしないでよ」
「でももう設定しちゃったもん。まだ公開していないからタイトルやカテゴリーやプロフィールはお母さんが決めて」
しょうがないわね、と言いながらも、もう乗りかかった舟である。
ゆみこは、娘に教えてもらいながらブログを始める決意をした。
タイトルは。
エート。
何としようかしら?
ゆみこはストレートの美しい黒髪を掻きむしりながら考えた。
「ヒステリー女のブログ」「ザ・女瞬間湯沸し器」「独蜘蛛おばさんの批判箱」などなど。
いくつか考えたが「独蜘蛛おばさんの批判箱」で決定した。
名前は実名の「松田ゆみこ」にした。
プロフィールは以下のように書いた。
「北海道十勝地方在住。蜘蛛や野鳥、野生動物など自然に広く関心を持ち、自然保護活動に関わっています。寒いのは苦手ですが、北国の雄大な自然が大好きです。十勝自然保護協会会員。日本蜘蛛学会会員」
こうして松田ゆみこのブログ「毒蜘蛛おばさんの批判箱」が出来た。
一旦ブログが出来てしまえば、あとは記事のタイトルを決めて、記事をかけばいいだけだった。
ゆみこは自分が関わった文興社だけではなく共同出版・協力出版・共創出版などと名乗っている出版社すべての動向を調べて記事にしていった。
ネット上でいくつもある掲示板で匿名で文興社の批判を書く人はたくさん居たが、それらはみな感情的な幼稚な悪口ばかりだった。
その中で実名を出して、しっかりと読むに耐える記事を書いているのは、日本で、松田ゆみこ一人だけだった。
ゆみこは文興社にだまされた被害者ではない。
ゆみこが出版の仮契約をしていた、父の遺稿・山の挽歌、は、契約解除することが出来、200万円の全額を文興社に支払うことなく済んだのであるから。
しかし、ゆみこは正義感が強く度胸があったので、自分の恨みを書きなぐるのではなく、冷静に、協力出版の問題点を書いた。
そして、excite blogで、「共同出版・自費出版の被害をなくす会」というブログをも開設した。
ゆみことしては、協力出版をしている出版社を潰そうという意図は全く無く、原稿を投稿しようとする出版に疎い素人を錯誤するようなことは止めて欲しい、という思いだった。
ゆみこは記事に対して誰からでもコメントを受け入れるように、コメントをオープンにした。
しかし、ゆみこの記事に文興社は怒り狂った。
文興社は黙っていなかった。
・・・・・・・・・・・
ある日、日本蜘蛛学会会員からニュースレター「遊絲」が来た。
日本蜘蛛学会は会員220人の小規模学会である。
「この度、札幌市で活動報告を兼ねた懇親会を催したいと思っております。会員の方は奮って御参加ください」
と書かれてあった。
ゆみこは返信用ハガキの「出席」の方に〇をして投函した。
当日。ゆみこは質素倹約をモットーにしているので、白のリネンタッチトップスと青いスカートでANA Crowne Plazaホテル千歳へ行った。
一階の宴会場には、すでに20人ほどの学会員が来ていた。
ゆみこは実名でブログを出している上、元ミス日本で、その美しさは、アラサーになった今でも色あせていないので日本蜘蛛学会では皆の人気者だった。
「やあ。松田さん。お久しぶり」
「ブログ拝見していますよ。えりもの森裁判、サホロ岳ナキウサギ裁判に次ぎ、今度は、共同出版批判ですか。いやあ。松田さんは勇気があるお方だ。文興社から何か嫌がらせをされていませんか?」
「皆様。心配して下さって有難うございます。しかし大丈夫です。日本は言論の自由が保障されています。私は公共の福祉を目的として批判記事を書いています。向こうも言論には言論で対応してくるでしょう」
と堂々と言った。
そのように、ゆみこは悪いことは悪い、と物怖じせず堂々と言う性格だった。
日本蜘蛛学会の会合が終わった帰り。
・・・・・・・・・・・・
ゆみこは路上でタバコを吸ってる、北海道一の札付きの不良高校、北悪道工業高校の生徒10名を見かけ、
「あなた達、高校生でしょ。タバコは止めなさい」
と果敢にも注意したところ、リーゼントにサングラスの不良生徒達は立ち上がって、ゆみこに詰め寄った。
「なんやと。オバハン。われ。ええ度胸しとるやんけ。わしらを誰だちゅう思うとるねん」
と何故か北海道なのに関西弁ですごまれて、腕をつかまれたが、
「離しなさい」
とゆみこは毅然と注意した。それに怒った不良どもはゆみこを取り囲んだ。
「へへ。いいケツしてるやんけ」
一人がゆみこの尻をいやらしい手つきで触った。
「このチンピラ不良どもー」
ゆみこは、天地が裂けんばかりの声で怒鳴って、腕を掴んでいる前の男に思い切り膝で金蹴りを食らわせた。それが見事に命中し、男は、「うぎゃー」と叫び、玉を押えてピョンピョン跳ね回り、地面を這い回って悶え苦しんだ。大切な玉が潰れてしまったかもしれない。ゆみこの怒髪天を突くような声と虎のような眼差しに、不良達は、怖れをなして、スゴスゴと逃げてしまった。ゆみこはパッパッと服を掃って、唖然としている衆人をあとに、その場を去ろうとした。その時、一人の男がゆみこに駆け寄ってきた。
「あなたのド迫力に感服しました。どうか我が全日本女子プロレスに入って頂けないでしょうか」
声を掛けてきたのは、ヒール(悪役)がなく、今一人気がでない全日本女子プロレスのスカウトマンだった。
「いえ。私はか弱い女で、とても運動は出来ません」
と丁重に断わった。その日、ゆみこは家に帰ってから、「高校生の喫煙について」と題してブログ記事を書いて投稿した事は言うまでもない。
ゆみこは文興社に限らず共同出版をしている出版社、すべての動向を注意深く見て記事にしていった。
しかしその中でも文興社が一番、悪質なのがわかってきた。
尾崎浩二氏という無名の自称ジャーナリストが「危ない!共同出版」という本を出版した。
ゆみこは、共同出版を批判する正義感のある人もいるのだな、と感心してその本を買って読んでみた。しかし驚いたことに「危ない!共同出版」では共同出版社すべてを公正・中立な立場から批判しているのではなかった。しかもページ数もごくわずかだった。「危ない!共同出版」ではもっぱら新〇舎だけを批判していて、他の共同出版社の批判は全くなかった。新〇舎は自社ビルを持っておらず、貸しビルにテナント料を払って共同出版をしていた。しかしこの「危ない!共同出版」やネットの掲示板での新〇舎批判によって、新〇舎に原稿を投稿する者の数は激減し、新〇舎は高額なテナント料を支払うことが出来なくなってしまって倒産した。出版社が倒産してしまっては出版社から協力出版で出版している著者たちの本は発売出来なくなってしまう。そこで新〇舎の著者たちの本を発売できるようにと新〇舎は文興社に事業譲渡した。そして尾崎浩二氏はリタイアメント情報センターという協力出版に関する相談をするNPO法人の所長になった。しかしこのリタイアメント情報センターは文興社の傘下の組織であった。文興社は尾崎浩二という者を使い新〇舎を倒産させ、新〇舎の著者たちの本を全部、文興社から出版を継続して出来るようにしようと文興社は最初から計画していたのである。そして、その通りになった。リタイアメント情報センターはうわべは、協力出版・自費出版に関する相談をするという名目だが、実質的には、すべての相談者を文興社から出版することを、言葉巧み勧める組織なのである。つまりこれは文興社にとって協力出版社の競争社である新〇舎を潰し協力出版社は文興社一社にしようという文興社の計画だったのである。それ以外でも文興社の悪質商法は数えきれないほどたくさんあった。

ある時、ゆみこに柴田晴郎という歴史に詳しい男からメールが届いた。
それには、「あなたの主張に賛同しました。私は本の出版にある程度くわしいので、出版に関してわからないことがあったら何でも聞いて下さい」と言ってきた。ゆみこも初めは柴田晴郎を信じた。しかし柴田晴郎は実は文興社の工作員で、ゆみこの貴重な時間を奪って、ゆみこに多大な労力を払わせて疲労させるのが目的だったのである。

ゆみこは、協力出版の問題を、ブログで、ひるむことなく批判し続けた。
ゆみこは、文興社に「共同出版と銘打って文興社に出版権のある本をつくり、著者から本の制作費の一部と言って法外な金額を取って、本を売ることによってではなく、本を制作する費用によって利益を得て経営している貴社の商法は錯誤的、詐欺的商法であると思います。泣き寝入りしている著者もたくさんいます。それは間違っているのではないでしょうか?」という内容の公開質問状を送った。
しかし文興社は良心のカケラも無い悪質な人間ばかりなので、ゆみこの質問状は無視した。
文興社はゆみこに対し匿名でウイルスメールを送ったり、さらには営業妨害だからブログの文興社批判の記事は削除するように言ってきた。
しかし、ゆみこは気性の強い女だったので、文興社の悪質な要求にひるむことなく、ブログで文興社を批判し続けた。
・・・・・・・・・・・・・
2010年の7月7日のことである。
風呂の蛇口をひねったがお湯が出てこなかった。
ガスはつく。
どうしてだろうと思って、ゆみこは、風呂のお湯の栓を開けたまま、家の外に出て給湯器を見てみた。すると給湯器は動いていなかった。
給湯器は20年前に設置したものなので、もう寿命になったのだろう。
ゆみこは急いで、給湯器交換業者に電話した。
「もしもし。給湯器が故障してしまったのですが、見ていただけないでしょうか?」
「はい。わかりました。今、使っている給湯器はいつ設置したのですか?」
「20年前です」
「音はなりますか?」
「いいえ。全く鳴りません」
「そうですか。給湯器の寿命は10年が目途です。まず寿命で交換時期だと思います。7万円ほどの給湯器がありますから、交換ということでよろしいでしょうか?」
「ええ。よろしくお願い致します」
10分ほどで給湯器交換業者が来た。
修理人は給湯器を開いた。
中は激しく劣化していた。
「やはり、もう寿命ですね。交換しかないですね。新しい給湯器は7万円ほどですが、交換でよろしいでしょうか?」
「ええ。よろしくお願いします」
「では交換にとりかかります。交換には1時間ほどかかりますので、家の中で待っていて下さい」
と修理人は言った。
修理人は給湯器の交換の作業を始めた。
心の優しいゆみこは、
「素早い対応を有難うございます。お茶とお菓子を召し上がって下さい」
と言って、盆の茶と和菓子を載せて、修理人の前に置いた。
すると修理人は、
「これはこれは、どうも有難うございます」
と言って、由美子の差し出した茶を飲んだ。しかし修理人は茶を飲み終わると、人が変わったように素早い手つきで、サッと懐からタオルを取り出して、いきなり由美子の口に当てた。
「な、何をするんですか?」
修理人の、いきなりの訳の分からない行為に、ゆみこは大声を出して抵抗した。
しかしなぜか急激な眠気がゆみこを襲ってきて、ゆみこの意識は薄れていった。

(2)

由美子は目を覚ました。
見知らぬ、どこかの部屋の一室だった。
見知らぬ大勢の男たちが、由美子を取り囲んでタバコを吹かしながら、ニヤニヤ由美子に視線を向けていた。
「ここはどこ?あなた達は一体、誰なのですか?」
由美子は回りの男たちを見まわしながら、おびえながら言った。
「何処だと思う?」
一人の男が、薄ら笑いを浮かべながら由美子をからかうように聞いた。
「わ、わかりません。教えて下さい」
由美子は高まってくる心臓の鼓動を感じながら聞いた。
「ふふふ。教えてやろう。ここは東京の文興社の本社の社長室さ」
男はふてぶてしい口調で言った。
「な、なぜ私が東京の文興社の本社に居るのですか?」
由美子の不安は募っていき、得体の知れない恐怖から、その声は震えていた。
由美子には、さっぱり訳が分からなかった。
由美子の記憶にあるのは、北海道の自宅にいた時、給湯器が故障して修理の人が来てくれて給湯器を交換してくれた時のことが、記憶している直近のことだった。
心の優しい由美子は、修理人に、「お疲れでしょう。お茶とお菓子を召し上がって下さい」と言って、盆の茶と和菓子を載せて、修理人の前に置いたのである。
修理人は、「これはこれは、どうも有難うございます」と言って、由美子の差し出した茶を飲んだ。修理人は茶を飲み終わると、素早い手つきで、サッと懐からタオルを取り出して由美子の口に当てた。「な、何をするんですか?」庭師の、いきなりの訳の分からない行為に対して大声を出したのが、由美子が覚えている最後の記憶だった。その後、由美子は気を失ってしまったのである。
それが、どうして今、自分が東京の新宿の文興社の本社に居るのか、由美子には、さっぱりわからなかった。
「ふふふ。教えてやろう。確かにあの給湯器は20年前に設置された物だが、まだ使えたんだ。しかし、わざと故障させて使えなくしたんだよ。そして、あの給湯器の修理人に100万円と引き換えに、ある仕事を頼んだのさ。給湯器の取り付けの、合間に、お前の口をタオルで塞げと。あのタオルにはクロロホルムがたっぷり沁み込んでいたのさ。我が社の社員が3人、車でお前の家の近くに、ひかえていたのさ。眠ってしまったお前を、車に乗せ、北海道から青函トンネルを抜け、東北自動車道を走らせて、お前をここまで連れてきたってわけさ」
男は勝ち誇ったように言った。
「な、何でそんなことをしたのですか。これは犯罪ですよ。私は警察に訴えます」
由美子は男たちをにらみつけて激しい口調で言った。
「何でそんなことをするのですか、だとよ。トロい女だな。そんなこともわからないのか?」
男が言うと、皆が、わっははは、と嘲るように笑った。
「本当にお前を拉致した理由が分からないのか?」
男が念を押して確かめるように聞いた。
「わ、わかりません」
由美子は堂々と言った。
「トロい女だな。じゃあ教えてやるぜ。お前は我が社に何をした?」
男は余裕の口調で、口元を歪めながら言った。
「な、何って何でしょうか、私は何も違法なことはしていません」
由美子はキッパリと言った。
「ふざけるんじゃないよ。お前はブログやJANJAN記事で、さんざん、我が社の信用を落としてきたじゃねえか」
男は怒鳴りつけるように言った。
男は続けて言った。
「お前が2007年にブログを始めて、我が社を批判する記事を書くようになってから、我が社に送られて来る原稿が、それまでの1/3までに減ってしまったんだ。全部お前のせいだ。お前は自分のしたことが、とんでもない営業妨害の名誉棄損だということが、わからないのか?」
男は怒鳴りつけるように言った。
それは違います、と由美子は言った。
「た、確かに私は、2007年にブログを始めて、文興社に対して批判的な記事を書いてきました。しかし私は、事実を調べて事実を書いてきただけです。公共の福祉に反していませんから、私の書いてきた記事は、営業妨害でも名誉棄損でもありません」
由美子はキッパリと言った。
「ふざけんじゃねえ」
窓際に居た別の男が怒鳴りつけた。
「何が営業妨害でも名誉棄損ないだ。これは立派な営業妨害だ」
男は口角泡を飛ばして言った。
「そうだ。そうだ。これは営業妨害、名誉棄損いがいの何物でもないぞ」
男はドスの効いた声で恫喝的に言った。
その場に居合わせた、みな、男と同じことを唱和した。
由美子は文興社の無法な態度に驚いた。
「と、ところで、なぜ私にクロロホルムを嗅がせたり、意識のない私を車で輸送したりしたのですか。これこそ完全な犯罪ですよ」
由美子は理路整然とした態度で言った。
「その理由がわからねーか?」
男が由美子を小ばかにするような口調で言った。
「わかりません」
由美子はキッパリと言った。
「やれやれ。トロい女だな。わからねーなら教えてやるよ。我が社に対する、お前の営業妨害、名誉棄損のオトシマエをつけさせるためさ。俺たちに詫びを入れさせるためさ」
ここに至って、由美子は文興社のアクドサに気づいた。
「あなた達は卑劣です。あなた達のしていることは犯罪です」
由美子はキッパリと言った。
「わかってねーな。俺たちは法を守ろう、なんて気持ちはカケラも持ち合わせていないんだぜ」
男は堂々と言った。
「卑劣です。あなた達は卑劣です」
由美子は腹から声を振り絞って立て続けに叫んだ。
しかし、文興社の社員たちは、由美子の訴えなど、どこ吹く風といった様子だった。
「おい。この女の詫び、まず何からする?」
男が皆を見回して言った。
「決まってんだろ。今まで散々、煮え湯を飲まされてきたんだ。まず素っ裸になって、オレ達の前で裸踊りをしてもらおうじゃねえか」
一人の男が言うと他の男たちも、おう、そうだそうだ、と言い囃した。
裸踊りと聞いて、咄嗟にそのイメージが由美子の頭に映って、由美子はぞっとして全身に鳥肌が立った。
「おう。由美子。まず着ている服を全部、脱いで、素っ裸になりな」
男が恫喝的な口調で言った。
「ほら。早く脱げ」
皆が囃し立てた。
「嫌です。そんなこと。あなた達は人間としての良心というものは無いのですか」
由美子は目を吊り上げて言った。
「強情な女だ。自分で脱ぐのが嫌というのならオレ達が脱がすまでだぞ」
一人の男が言った。
「それが嫌ならオレ達でお前を素っ裸にして浣腸するぞ」
別の男が言った。
一人の男が大きな、1000mlのガラス製浣腸器と、ぬるま湯で満たされた大きな洗面器を由美子の前に置いた。
「ふふふ。この洗面器には1リットルのグリセリンが入っているぜ。お前が自分で服を脱がない、というのなら、お前を俺たちが脱がせ、後ろ手に縛り、四つん這いのポーズにして、こいつを全部、お前の尻の穴に注ぎ込んでやる」
「ふふふ。1リットル全部、注ぎ込んでやる。そしてトイレには行かせないぜ。お前は便を排泄したい苦しい欲求に耐えるか、オレ達の前で、クソを大量にぶちまける、かのどっちかだ。お前が苦しみ、のたうち回る姿、そしてクソをぶちまける姿、をしっかりビデオに撮ってやる」
男たちが由美子に、そんな脅しをした。
由美子は、なかなか決断がつかなかった。
悪魔たちは実際、それをやるだろう。
由美子は、ぞっとしてすくんでしまった。
由美子は眉を寄せて、渋面で悩んでいた。
由美子は今まで、夫いがいの男に体を見られたことは一度もない。
その由美子が迷う姿を見るのも、悪魔たちにとっては、この上ない楽しみだった。
健全で自然や動物を愛する由美子にとってSМプレイなどというものは、訳の分からない、頭のおかしな人間のする行為としか思えなかった。
由美子も子供の頃、便秘になったことがあり、自分で浣腸した経験はあった。
誰に見られているわけでもなく、イチジク浣腸、1本だったが、尻の穴に、プスッとイチジク浣腸の茎を差し込む恥ずかしさ、そして液体を注ぎ込む恥ずかしさ、そして苦しい便意が起こってきた経験はしているので、浣腸の苦しさは知っている。衆人環視の中、四つん這いにされ、大きな浣腸器で浣腸され、悶え苦しんだ挙句、一気に便を排泄するのを見られ、さらに、それをビデオで撮影される恥ずかしさには、とても耐えられなかった。
しかも文興社の悪質商法をブログ記事で批判してきた、その社員たちの前で裸になることなど屈辱の極みだった。
「ふふふ。脱がないというのなら浣腸だな」
そう言って、決断できず迷っている由美子に男たちが近づいてきた。
「ま、待って」
由美子が制した。
男たちの足がピタリと止まった。
「どうした?」
男たちは、せせら笑って立ち止まった。
「ぬ、脱ぎます」
由美子は、とうとう観念して、顔を真っ赤にして、小さな声で言った。
由美子は今まで手厳しく文興社批判のブログ記事を書いてきた。
社長の瓜谷綱延にまで公開質問状を送りもした。
当然、由美子は、文興社は自分のことを快く思っていなく、目障り極まりない存在と思っていることは容易に推測できた。文興社と由美子は敵対関係だった。
由美子は、文興社に騙されて、法外な金を払って、文興社から著者として本を出版した被害者ではない。なので文興社に恨みはない。協力出版と銘打って、著者を心地の良い言葉でおだて、本の制作費用といって儲けるアクドイ商法の犠牲者を無くしたいという、正義感から文興社批判の記事を書いてきたのである。版権が文興社にあるから、契約を交わして金を受けとったら、もう文興社は、著者の本を裁断処分しようが、どうしようが一向に構わないのである。
むしろ、文興社は月に500冊も協力出版本を出版するので、倉庫代がかさみ、そしてそもそもプロ作家でない無名の一般人の本など、売れないのである。なので、宣伝など全くせず、宣伝は自分でやれ、それで、友人、親戚、知人なと数人は買うだろう。あとは、倉庫代がかさむから、裁断処分にする、というのが、文興社商法なのである。由美子は文興社に騙されそうになった時、真っ先に考えたのは、この悪質商法での被害者を無くさなくては、という強い正義感であり、悪質商法に騙されて泣いている著者たちに対する憐憫、慈愛の念であり、これ以上、文興社の悪質商法に騙される被害者を出してはならない、という強い正義感だった。
しかし由美子は、天使のように心が優しいので、悪を憎んで人を憎まず、であり、文興社を憎んではいなかった。しかし文興社の社員たちは、良心のカケラも持ち合わせていない外道の集まりだったのである。そのため、由美子のブログには、文興社からの嫌がらせのコメントが、多く書き込まれた。さらに柴田晴郎などという、実名の人間を使って由美子に、散々な嫌がらせ、をしたのである。
由美子は膨大な時間と手間をかけて、それらの嫌がらせに対応した。
そういう辛抱強さも由美子は持っていた。
しかし由美子は人間を信じていた。
どんなに文興社が自分を嫌っていても、文興社も言論には言論で対応してくるだろうと確信していたのである。
しかし現実は違った。ことを由美子は今、思い知らされた。
文興社は犯罪をも何とも思わない、無法者の集団だったのである。
「ほら。由美子。脱ぐ、と言っただろう。早くとっとと服を脱げ」
男が吐き捨てるように言った。
「ほら。早く脱ぎな。脱がないと、オレ達が強引に脱がして、浣腸するぞ」
グリセリン液のたっぷり入った浣腸器を持っていた男が、立ち上がって由美子に近づいてきた。
「わ、わかりました。ぬ、脱ぎます」
由美子は声を震わせながら言った。
由美子は横座りしたまま、着ていたジャケットを、手をブルブル震わせながら、取った。
これで由美子は、ロングスカートに、白いシャツという姿となった。
シャツの下には、豊満な乳房を納めたブラジャーの輪郭が、クッキリと見えた。
二つの大きな果実を納めたブラジャーは内側から白いシャツを力強く押し上げて、シャツに二つの仲良く並んだ、こんもりとした盛り上がりを形作っていた。
「おおー。すげー、おっぱいじゃねえか」
男たちは、思わずゴクリと唾を呑み込んだ。
中には、もうすでに、股間がテントを張っている者もいた。
「おい。シャツも脱いで、スカートも脱ぐんだ」
男が言った。
由美子は、ワナワナと手を震わせながら、シャツのボタンを上から外していった。
シャツの内側からは、胸の上に仲良く並んで、張りついている二つの乳房を、窮屈そうに納めて、形よく盛り上がっている、白いブラジャーの二つの膨らみが、顕わになった。
「おい。由美子。シャツをとれ。そしてスカートも降ろせ」
男が言った。
由美子は今にも泣き出しそうな、哀愁のある憂いの表情で、シャツを腕から抜きとって外した。そして、中腰になり、スカートのホックを外し、スカート下げて、足から抜きとった。
悪魔どもの命令には逆らえないと覚悟が出来ていたのである。
スカートを降ろしたことによって、ムッチリとした、大きな尻の肉を納めて、股間に貼りついている、由美子の白いパンティーが露わになった。
由美子はスカートを抜きとると、必死で両手で胸の膨らみを押さえながら、ペタンと座り込んでしまった。
由美子は今にも泣き出しそうな感じだった。
無理もない。
今まで、散々、強気にブログ記事で批判してきた文興社の男たちに、乳房と尻の肉を覆い隠すだけの下着姿で取り囲まれているのである。
どうして、こんな屈辱にか弱い女の精神が耐えられよう。
しかし、男たちは、そんな由美子の心を見透かしているかの如く、ことさら意地悪く、ニヤニヤと、ピッチリと閉じ合わせた由美子の体に、いやらしい視線を向けている。
「ふふふ。どうだ。由美子。今の気持ちは?」
ポタリ。
由美子の目から、キラリと光る一筋の涙が頬を伝わって流れた。
「おい。由美子。こんなことで泣くくらいなら、女の分際で、オレ達に戦いを挑もうなんて考えるんじゃねーよ」
「お前もバカなヤツだぜ。女のクセにオレ達をコケにしよう、なんて大それた事をするから、こんなザマになるんだぜ」
悪魔たちは、由美子を徹底的に貶めるような言葉を吐きかけた。
由美子は、太腿をピッチリと閉じ、両手で胸の膨らみをヒシッと覆うことによって、狂せんばかりの屈辱に耐えた。
普通の女なら、とっくに泣き崩れていただろう。
人並みはずれた強靭な精神の由美子だから、こんな屈辱にも、かろうじて耐えれたのである。
しばしの時間が流れた。
由美子は、この屈辱的な姿を見られることで、悪魔たちの、復讐の炎が消え、彼らの溜飲が下がることを、祈るように期待した。
しかし事態はそうは動かなかった。
「おい。由美子。座ってじっとしていないで、立ち上がれ。お前の下着の立ち姿を見せろ」
男の一人が言った。
「由美子。さあ。立ちな。下着を着ているから恥ずかしくはないだろう」
「お前の立ち姿を見たら、予定していた、裸踊りは勘弁してやるぜ」
最後の発言が由美子の心を動かした。
下着姿を見ることで、彼らの溜飲が下がるのなら・・・
自分の下着姿を見ることで彼らが満足するのなら・・・
そう思って、由美子は、横座りから、ゆっくりと立ち上がった。
ヒシッと胸の二つの膨らみを覆っている白いブラジャーを覆い隠していた両手の一方を、パンティーの谷間に当てた。
それでも恥肉を納めて盛り上がっている女の部分であるビーナスの丘は隠しきれなかったが。
由美子は片手で胸の膨らみを覆い、片手で恥部を覆った。
それは、ボッティチェリのビーナスの誕生の図だった。
由美子の白いパンティーと白いブラジャーだけの下着姿は美しかった。
華奢な肩、細い腕、見事にくびれた腰。その割には、豊満な胸の膨らみと、大きな尻、それに続く大きな太腿。まさに理想のプロポーションであり、グラビアアイドルとして、週刊誌の表紙を飾っても何ら不思議ではなかった。
下着姿を見られることは恥ずかしかったが、下着姿はビキニと同じように、女の恥ずかしい所を隠している。
由美子は、彼らが自分の下着姿を見ることで、彼らの溜飲が下がって、解放されるのなら、それに甘んじよう、と思った。
彼らの視線は女の恥肉を納めて、こんもりと盛り上がっている、ビーナスの丘に集中していた。
「おお。何て美しい体つきだ」
「何て大きな尻なんだ」
「何て大きな太腿なんだ。しがみついて頬ずりしたいな」
男たちの発言は、由美子をおとしめ、嘲笑するものから、由美子の肉体美を賛美するものに変わっていた。
無理もない。
由美子は大学1年の夏、友達に誘われて、海水浴場に行ったことがあるが、その時、由美子は友達が選んでくれた、ビキニを着て、浜辺の出た経験があるのだが、由美子は海水浴場にいる男たち全員の激しい、食い入るように向けられた視線を痛いほど感じたのである。
「おー。ハクイ女」
「女優かグラビアアイドルじゃねーか」
という声も聞こえてきた。
由美子は恥ずかしくなって、友人の手をヒシッと掴んで、友人に頼んで、ビーチの端の方の、人があまりいない所にビニールシートを敷いてもらって、日光浴をした経験があるのだが、海水浴場の男たち全員の視線は由美子に集まっていた。
由美子がビキニを着て、衆人の前に、ビキニに覆われているとはいえ裸同然の体を晒すのは、恥ずかしいくはあったが、自分の肉体が、海水浴場の男たちを惹きつけていることに、ほの甘い、心地よい快感が起こっていたことも事実だった。
今、由美子はそれと同じ気分だった。
男たちに取り囲まれて、下着姿をまじまじと見られているのは屈辱とはいえ、それで彼らが満足して、それで放免されるのなら、それもよかろう、という気持ちに由美子は変わっていたのである。
しばしの沈黙の時間が経った。
(さあ。私の下着姿を見ることで満足できるのなら、見るがいいわ)
由美子は、そんな優越感に浸っていた。
しかし、この後のストーリーは、由美子の予想していた展開にはならなかった。
由美子の背後にいた文興社の社員が二人、由美子に気づかれないよう、抜き足差し足で由美子に近づいてきたのである。
由美子はそれに気づいていない。
男の一人が、素早く由美子のブラジャーのホックをプチンと外してしまったのである。
豊満な由美子の乳房を包んでいた、ブラジャーがその弾力を失って、一気に収縮した。
そして男はブラジャーの肩紐を肩から外してしまった。
肩紐はブラジャーを由美子の体に取りつけている機能を失って、肘の辺りに、だらしなく、引っ掛かっているだけの状態になった。
「ああっ。な、何をするの?」
由美子は思わず、大声で叫んだ。
由美子は、何とかブラジャーが落ちてしまわないように、必死で両手でブラジャーを押さえた。
と、その時。
由美子の背後に居た、もう一人の男が、素早く、由美子のパンティーを掴んで、一気に、サーと引き下げてしまったのである。
「ああっ」
由美子は、こういう時には女は誰でもするように、反射的に両手でアソコを隠した。
男の一人は、由美子の肘が伸びたのをいいことに、由美子のブラジャーの肩紐を由美子の腕から抜きとってしまった。
もう一人の男は、由美子のパンティーを足首まで引き下げ、足首を持ち上げて、足から抜きとってしまった。
一瞬のことだった。
これで由美子はブラジャーもパンティーもむしり取られて、一糸まとわぬ丸裸になってしまった。
由美子は乳房とアソコを手で隠しながら、クナクナと座り込んでしまった。
「あっははは」
部屋にいる男たち全員が嘲笑した。
「卑劣だわ。あなた達は卑劣だわ」
由美子は涙まじりに言った。
「ふふふ。由美子。セクシーな下着姿をオレ達に見せつけて、いい気になっていたようだが、残念だったな」
男が言った。
「ふふふ。由美子。たかが下着の立ち姿を見ただけで、お前のしてきた営業妨害をチャラにしてやろう、なんてオレ達が思うわけがねえんだよ」
「ふふふ。最初っから、こういうふうに、お前に期待をもたせて、いい気持ちにさせておいて、そして、貶めてやろう、という計画を立てていたのさ」
悪魔たちは、そう言って、あっははは、と哄笑した。
由美子は文興社の社員たちの、卑劣さを、あらためて実感した。
もう由美子は文興社の社員たちの言う事を絶対、信じない確信をもった。
由美子からブラジャーとパンティーをとった男は、由美子のパンティーを調べ出した。
パンティーを裏返して、体に触れている面を出した。
パンティーのクロッチ部分には、うっすらと黄色がかった一条の線の跡が見えた。
男は由美子のパンティーを、突きつけるように差し出して、
「おい。由美子。この染みは何だ?」
と聞いた。
由美子は、それを見ると真っ赤になった。
「おい。由美子。この染みは何だ、と聞いているんだ」
由美子が答えないので男は再度、恫喝的な口調で聞いた。
しかし由美子は答えられない。当然である。花も恥じらう乙女の由美子に、そんなことを答えられるはずがない。答えられないことを知った上で、悪魔どもは由美子に意地の悪い質問をしているのである。
由美子は顔を真っ赤にして俯いている。
「やれやれ。オレ達に戦いを挑もうという、のなら、パンティーにオシッコの跡なんて、つけちゃいけねーぜ。子供じゃねーんだから」
男はそんな揶揄をした。
由美子は真っ赤になった。
「どれ、匂いを嗅いでみるか。勇ましい女戦士のパンティーの匂いを」
そう言って男は由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を近づけた。
「や、やめてー」
黙っていた由美子が、羞恥心に耐えきれず、叫んだ。
しかし悪魔たちは、由美子の叫びなど、どこ吹く風と聞く耳など持たない。
悪魔たちは、ニヤニヤ笑いながら、裏返した由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
そしてクンクンと鼻をヒクつかせた。
「おおー。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
男はことさら由美子を貶めるように、大きな声で言った。
「女はマンコの中までは洗わないんだよ。何故だか知っているか?」
隣にいた文興社の社員が聞いた。
「知らなかった。なぜ洗わないんだ?」
悪魔男が聞き返した。
「女の膣内にはデーデルライン桿菌という菌があってな。それがグリコーゲンから乳酸を作っているんだよ。そのため膣内がpHが5.0くらいに保たれていて、それが雑菌の侵入を防いでいるんだよ。それが膣や子宮を雑菌から守っているんだよ。だから女は膣の中までは決して洗わないんだよ」
男が説明した。
「ふーん。そうだったのか。知らなかったぜ。男は、毎日、包皮を剝いて亀頭についた恥垢をちゃんと洗って清潔にしているというのにな。女って不潔なんだな」
悪魔たちは感心したように言った。
そして、なぜ由美子がパンティーを嗅がれそうになった時、声に出して嫌がったかを理解した。
「おい。オレにもパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」
「オレにも」
「オレにも」
男たちが騒めき始めた。
「おい。由美子。パンティーを返してほしいか?」
男が聞いた。
「か、返して下さい」
由美子は泣きじゃくりながら言った。
「だったら、ここまで取りに来な」
そう言って男は由美子のパンティーをつまんだ手を由美子の方に伸ばした。
パンティーは男の手から、物憂げにダランと垂れていた。
由美子は、乳房とアソコを手で隠しながら、ゆっくりと立ち上がり、ヨロヨロと覚束ない足取りで、男の方に歩み寄った。
その時、反対側にいた男が、「おい。オレにも由美子のパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」と言った。
由美子は男の持っている自分のパンティーをとろうと手を伸ばした。
すると男はサッと手を引っ込めた。
「ああっ」
由美子はパンティーを取れず困惑した。
「ふふふ。あいつがお前のパンティーの匂いを嗅ぎたいと言っているんだ。残念だったな」
と男はふてぶてしい口調で言った。
男は由美子のパンティーをクシャクシャと丸め、ほーらよ、と言って、反対側の男に投げた。
小さく丸まった由美子のパンティーは部屋の中の宙を飛び、反対側の男の手にキャッチされた。
パンティーを受けとった男は、由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
そしてクンクンと鼻をヒクつかせた。
「おおー。本当だ。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
男はことさら由美子を貶めるように、大きな声で言った。
そしてパンティーを投げた男と同様に、
「おい。由美子。パンティーを返してやるぜ。オレはウソは言わない。だから、ここまで取りに来な」
そう言って、男は由美子のパンティーをつまんだ手を由美子の方に伸ばした。
由美子は頭の中がグチャグチャになってしまっていて、もう正常な判断力が無くなっていた。
そのため、「返して下さい」と言ってヨロヨロと覚束ない足取りで、男の方に歩み寄った。
その時、別の所にいた男が、「おい。オレにも由美子のパンティーの匂いを嗅がせてくれよ」と言った。
男は由美子のパンティーをクシャクシャと丸め、ほーらよ、と言って、反対側の男に投げた。
小さく丸まった由美子のパンティーは部屋の中の宙を飛び、反対側の男の手にキャッチされた。
パンティーを受けとった男は、由美子のパンティーの染みのついたクロッチ部分に鼻先を当てた。
ここに至って由美子は悪魔たちは、パンティーを返す気などないのだ、ということを100%確信した。
「うわーん」
由美子は泣きながら、床の上に座り込んでしまった。
由美子のパンティーのパス回しが部屋にいる文興社の社員たち全員に行われた。
男たちは、パンティーを受けとると、
「うわー。本当だ。オシッコの跡がついているよ」
と言ったり、クロッチ部分に鼻を当てて、パンティーの匂いを嗅いで、
「うわー。本当だ。スルメに酢を混ぜたようなニオイがするぜ」
と言ったりした。
由美子にとってこれ以上の屈辱はなかった。
毅然とした態度で堂々と文興社を批判するブログ記事を書いてきた由美子。
文興社の反論や嫌がらせは覚悟していた、由美子だっだが、まさか、こんな非道な犯罪までするとは思っていなかったのである。
しかし悪魔どもは人間なら必ず持っているはずの良心というものを、完全に捨て去っていたのである。
「おい。由美子。お前は、こんな臭いパンティーを履きながら、オレたちを批難していたのか。恥ずかしくないのか」
などと、由美子を揶揄した。
「ふふふ。裸になったくらいで、オトシマエがついたなどと、甘ったれたことを思うなよ。お前の記事のおかげで、投稿者が1/3に減ってしまったんだ。年間の損失額は低く見積もってみても、10億だ」
「おい。由美子。オレ達をコケにした詫びを言え」
男たちは恫喝的な口調で言った。
しかし由美子に答えられるはずがない。
由美子は正当な批判記事を書いてきただけであって、悪いのは詐欺的商法をしている文興社の方なのだから。
しかし無法者どもに、そんなことは通用しない。
黙っている由美子に、男の一人が一枚の紙を放り投げた。
「おい。由美子。どうしても詫びを言わないというのなら、ここに書いてある文を読め。土下座してな」
男は恫喝的な口調で言った。
由美子はおそるおそる、その紙を開いてみた。
それは全身の毛穴から血が噴き出るかと思うほど、の屈辱的な文章だったからだ。
・・・・・・・・・・・・・
それには、こう書かれてあった。
「私、松田ゆみこは女の分際で違法なことは全くしていない文興社様をさんざん、誹謗中傷、営業妨害してきました。しかし、それが全くの誤りだと気づきました。私は自分の浅はかなワガママから文興社様に10億円の損害を出してしまいました。これは死んでも許されることではありません。私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください」
紙には、こう書かれてあった。
何という強悪な人間たちだろうと由美子は思った。
文興社の悪魔たちはクロロホルムを嗅がせて、車に乗せて拉致して文興社本社に連れ込み、その上、由美子を一糸まとわぬ丸裸にして、その姿で、屈辱的な詫びを言わせようというのだ。
由美子は一瞬、舌を噛んで死のうかと思った。
その思いは、どんとん募っていき、由美子は舌を歯で挟んで死ぬ用意をした。
もう由美子には死ぬ覚悟が出来ていた。
しかし人間が死ぬ間際には、これまで生きてきた中の様々なことが、一瞬の内に頭に浮かんでくるものである。
死を覚悟した由美子にも、それが起こっていた。
学生時代の楽しかった思い出。
文興社に父の原稿を送って騙されたこと。
ブログを始め、文興社と戦おうと思い決めて、文興社批判の記事を書き出した時のこと。
それらが走馬灯のように、由美子の頭をよぎっていった。
それらの思い出の中で、由美子の父親の姿が一際、明瞭に浮かび上がった。
由美子が物心がついた時から優しく、時には、厳しく、由美子を可愛がり、色々なことを教えてくれた父。由美子の苦手な数学を何時間もかけて教えてくれた父。
自然の美しさ、そして人の命の尊さを教えてくれた父。
由美子は父を世界一尊敬していた。
その父が末期ガンになって入院し死ぬ間際に言った言葉が明瞭に思い出されてきたのである。
余命、一カ月と告げられて以来、由美子は病院に泊まり込みで父を看病した。
「お父さん。死なないで」
病院のベッドに酸素マスクと点滴をつけられ、血圧が低下してきた父は、遺言として、由美子にこう言ったのである。
「ゆ、由美子。世の中で一番、大切なものが二つある。それが何だかわかるか?」
由美子は即座には答えられなかった。
なので父親がすぐに、その答えを言った。
「由美子。それは人の命だ。そして正義だ。この二つが人間にとって一番、大切なものだ。この二つは決して捨ててはならない。由美子。お前はこの二つを決して捨ててはならない。他人の命を大切にし、そして自分の命も大切にしろ。たとえ、どんなに苦しい過酷な目にあっても、決して死んではならない。わかったな」
「わかったわ。お父さん」
その言葉を最期に父は死んだのである。
由美子は、うわーん、と洪水のように溢れ出る涙を流して泣きながら、いつまでも死んだ父にすがりついて泣いた。
その言葉が明瞭に浮かんできたのである。
そして由美子は、今、その意味に隠された真意を理解させられた思いがした。
正義感の強い、由美子の父は、由美子がブログで文興社を批判する記事を書き出したのを止めなかった。由美子の正義感の強さも父親ゆずりなのである。
由美子は今、はっきりと悟った。
世間そして人間というものを知っていた父。
人間の善も悪も知っていた父。
一人の人間が巨大な悪の組織に戦いを挑めば、こういう事になることを父は予見していたのだ。
由美子は文興社批判の記事を書いている由美子を黙って、止めなかった父の言葉の真意を理解した。
由美子に父と交わした約束を守らねば、という思いが込み上げてきた。
死を覚悟したことで、かえって、生きることへの、ゆるぎない決意が由美子に起こった。
どんな生き恥を晒しても生きねば。
どんな屈辱にも耐えなくては。
(お父さん。私、負けないわ)
由美子は心の中で、そう呟いた。
由美子は四つん這いになった。
そして、頭を床につけて土下座した。
そして紙に書いてある文を読んだ。
「私、松田ゆみこは女の分際で違法なことは全くしていない文興社様をさんざん、誹謗中傷、営業妨害してきました。しかし、それが全くの誤りだと気づきました。私は自分の浅はかなワガママから文興社様に10億円の損害を出してしまいました。これは死んでも許されることではありません。私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください」
あっははは、と文興社の悪魔たちは哄笑した。
何という人間たちなのだろう。
自分は文興社に騙された被害者ではないのに、文興社の詐欺商法を知ったことで、これ以上、文興社に騙される被害者をなくそう、という正義感からブログ記事で実名で文興社を批判する記事を書いてきた由美子。その由美子にクロロホルムを嗅がせて、眠らせ、車に乗せて、北海道から文興社本部に連れ込んで、丸裸にして、その上、社員みなの前で、土下座させて、詫びを言わせるとは。
しかし良心を持ち合わせていない悪魔たちには、それは通用しないことだった。
「おい。由美子。裸踊りをすると言ったんだ。立って裸踊りをしろ」
男が言った。
由美子は立ち上がった。
そしてフラダンスを踊り始めた。
由美子の関心は、自然や生物、蜘蛛、社会問題などであって、おおよそ由美子は子供の頃から運動やスポーツは苦手で興味なかった。
しかし由美子は、日本蜘蛛学会の会員であり、そこで吉田順子という会員と親しくなった。
吉田順子はフラダンスをしていて、由美子にフラダンスをやってみない、と誘ったのである。
運動神経のニブい由美子にフラダンスなど興味なかったが、友達のよしみで一度、フラダンス教室に出てみたのである。
吉田順子に勧められてフラダンスを踊ってみると、これが結構、腰を使った全身運動になることがわかって、健康にも良く、由美子はフラダンス教室に通い続けることになったのである。運動神経はニブいが何事にも熱心な由美子の性格のため、由美子はフラダンスの基本をマスターしてしまった。
フラダンスは、ハワイの伝統的な歌舞音曲で、最初は男が踊っていたのだが、いつの間にか女の踊りとなった。ゆったりとした足の運び、繊細な手の動き、腰を振る踊りであり、ラフィアスカートを履いていても、腰の動きが男を悩殺するほど、美しく、男を魅惑する踊りだった。
もちろんフラダンスはブラジャーとラフィアスカートを履いて踊るものだが、今の由美子は、一糸まとわぬ丸裸である。
顕わになった豊満な由美子の乳房が揺れ、腰のくねりが悪魔たちを悩殺した。
悪魔たちは、
「ははは。どうだ。由美子。オレ達に逆らうヤツはこういう羽目になるのさ」
「もっと色っぽく腰を振れ」
などと由美子をおとしめる揶揄の言葉を吐いた。
(お父さん。私、負けないわ)
由美子は、どんなに苦しい逆境におちいっても生き抜くと、父の今際の時に誓った約束を心の中で唱えながら、一心にフラダンスを踊った。
約1時間くらい踊り続けた。
由美子は、汗だくになって、息もハアハアと荒くなって、とうとう倒れ伏してしまった。
「おい。由美子。これで放免と思ったら大間違いだからな」
悪魔たちは、そう言って、由美子の前にノートパソコンを置いた。
「おい。由美子。さぽろぐのブログと、ここログのブログに出している、148の文興社批判のブログ記事を全部、削除しろ。それと24のJANJAN記事もだ。それと、excieブログに作った共同出版・自費出版の被害をなくす会もだ」
ああ。何ということをする人間たちなのだろう。
文興社に騙されてはおらず金銭的被害は受けてはいないのに、文興社の悪質な詐欺まがいの商法を知り、これ以上、泣き寝入りする著者が出ないよう、そして文興社と著者との間でトラブルが起こらないようにと、貴重な時間を割いて、ブログ記事によって世間に文興社の行っている商法を正確に述べているだけだというのに。
悪魔どもは、それらのブログ記事を全部、消せ、というのだ。
ブログのログインパスワードは由美子しか知らないから、これは由美子にしか出来ない。
由美子はノートパソコンの電源を入れ、ログインIDとログインパスワードでさぽろぐブログにログインした。
そして、涙をハラハラと流しながら、今まで書いてきた、148もの文興社批判のブログ記事を削除していった。
由美子にとっては耐えがたいことだっだが「嫌です」と言っても、悪魔たちは暴力を振るって由美子を拷問にかけ、パスワードを聞き出すことは明白だったからだ。
さぽろぐの148の文興社批判の記事を全部、削除すると、次は、ここログの148の文興社批判のブログ記事を削除した。そして次は、JANJAN記事を削除し、次に、excieブログの「共同出版・自費出版の被害をなくす会」のブログも消した。
これによって、由美子が書いてきた、文興社批判の記事は完全に無くなってしまった。
由美子の目からは涙がとめどなく流れ続けた。
しかし悪魔たちは、もっと酷いことしか考えていなかった。
「おい。由美子。ブログに新しい記事を書け。記事のタイトルと文はここに書いてある」
そう言って文興社の悪魔たちは、由美子に紙切れを渡した。
タイトルは「文興社に対するお詫び」だった。
それにはこう書かれてあった。
「私、松田由美子は浅はかな勘違いから、見当違いの文興社批判の記事を148も書いてきました。しかし文興社は違法なことはしていません。企業が利益を追求することは当たり前のことです。私は、今まで、そんなことも分からないで文興社を批判してきました。私は今、心より自分のしてきた間違った、文興社に対する名誉棄損、営業妨害を後悔しています。私は今後、一切、文興社に対する記事は書きません」
ああ。何ということだろう。
文興社の悪魔たちは、由美子の文興社批判の記事を削除させるだけではなく、詫びの文章まで書かせようというのだ。
由美子は切れ長の美しい目から、ハラハラと涙を流しながら、渡されたメモに書いてある文章を入力していった。
「文興社に対するお詫び」というタイトルで。
「私、松田由美子は浅はかな勘違いから、見当違いの文興社批判の記事を148も書いてきました。しかし文興社は違法なことはしていません。企業が利益を追求することは当たり前のことです。私は、今まで、そんなことも分からないで文興社を批判してきました。私は今、心より自分のしてきた間違った、文興社に対する名誉棄損、営業妨害を後悔しています。私は今後、一切、文興社に対する記事は書きません」
と書いた。
「ふふふ。ざまあみろ。これで我が社は安全だ。お前のように我が社を本気で批判してくるヤツはもういないだろう。これで我が社は永遠に安全だ」
あっははは、と悪魔たちは笑った。
「ふふふ。由美子。これで済んだと思うなよ。お前のおかげで、我が社は10億の損失をこうむったんだ。それに、記事を削除したとはいえ、多くの人がお前の記事を読んで、我が社を疑うようになったからな。お前の我が社に対する批判記事をワードにコピペして保存しているヤツもいるだろう。それに、ネットで我が社を批判するヤツを説得する役の柴田晴郎も使えなくなってしまったからな」
「おい。由美子。お前はさっき(私はこれから文興社様の奴隷として、文興社様の命じることには全て従います。まずは文興社の方々に私の裸踊りを見せることで、私の償いの始まりにしたいと思います。どうぞ、たっぷり私の裸踊りをご覧ください)と言ったな。じゃあ、さっそくもう一度、裸踊りをしろ」
男が恫喝的な口調で言った。
何という極悪非道の集団なのだろう。
卑劣にも、自分を拉致監禁して、北海道の家から東京の文興社の本部に連れてきて、丸裸にして、詫びを言わせ、148の文興社批判のブログ記事、および、JANJAN記事を削除させ、(私が間違っていました)という文興社に対する謝罪記事をブログに書かせた、憎みても余りある文興社。
それでも、まだ気が済まず、由美子をとことん嬲ろうというのだ。
通常の人間なら精神がおかしくなってしまうだろう。
しかし、由美子の強靭な精神力が、由美子を発狂から守っていた。
しかし、由美子はどうしても裸踊りをする気にはなれなかった。
なので、乳房とアソコをヒッシと手で隠して、微動だにせず、じっとしていた。
由美子の気持ちを察してか、男が由美子に、ある発言をした。
「おい。由美子。お前も一糸まとわぬ丸裸の裸踊りはつらいだろう。オレ達にも人の情けはある。パンティーとブラジャーは返してやるから、それを身につけて、さっきのようにフラダンスをしろ」
そう言って男が由美子の前に、純白のブラジャーとパンティーを放り投げた。
由美子は堅苦しいほど誠実な性格なので、たとえ相手に力づくで言わされたとはいえ、相手の暴力に屈してしまったのは、自分の意志であり、自分の意志で言った以上、約束は守らなければいけない、という健気な信念も由美子の心の中にはあった。
(パンティーとブラジャーを着けていれば地獄の屈辱にも何とか耐えられるわ)
由美子は急いで立ち上がり、まずは右足にパンティーを通し、そして次に左足にパンティーを通した。そしてスルスルとパンティーを腰の位置まで引き上げていきパンティーを完全に履いた。
これでアソコと尻は隠された。
次に由美子はブラジャーに両腕を通して、手を背中に回して背中のホックをした。
これで二つの乳房はブラジャーの中に納まった。
その滑稽な仕草に、男たちは、あっはは、と腹をかかえて笑った。
由美子は、たとえ力づくでも、自分が約束したことは守らねば、という健気な信念から、立ち上がった。
「おい。由美子。情けで下着を身につけることを許してやったんだ。これで恥ずかしくないだろう。さあ。とっとと色っぽく腰を振って踊れ」
口惜しいが確かに彼らの言う通り、一糸まとわぬ丸裸での裸踊りは屈辱だったが、女の恥ずかしい所をしっかり隠している下着を身につけているのなら、まだ何とか耐えられた。
由美子は、またフラダンスを踊り出した。
由美子は腰をくねらせ、全身をゆったりとくねらせながら、フラダンスを踊った。
その、ゆったりとした動きは、この世のものとは思えないほど美しかった。
(パンティーとブラジャーがしっかりと私の体を覆い隠してくれている)
さっきの一糸まとわぬ丸裸の屈辱の裸踊りに比べれば、そして、その屈辱的な裸踊りをしてしまった後では、パンティーとブラジャーをしっかりと身につけて踊るフラダンスでは、屈辱感は軽減されていた。
由美子は精一杯のサービス精神をもって、一心不乱にフラダンスを踊った。
もう由美子は観客を楽しませることだけを考えているフラダンサーになりきっていた。
こうやって彼らを満足させてやれば、彼らも情にほだされて、拉致監禁したことを反省して、自分を文興社本部の部屋から解放してくれることを期待した。
そうすれば北海道の自宅へ戻れる。
(さあ。私のフラダンスをうんと鑑賞するがいいわ)
由美子はそう思いながら一心不乱にフラダンスを踊った。
文興社の社員たちも、みな黙って、誰も、由美子をおとしめる発言をする者はなく、由美子のフラダンスを心地よく鑑賞しているように、由美子には思われた。
実際、文興社の社員たちは、由美子のフラダンスに、ただただ酔い痴れているような態度だった。
由美子の念頭には文興社が自社の悪質商法を反省し、拉致監禁したことを反省し、(由美子さん。すまなかった。私たちが悪かった)と言って、全員が由美子の前に身を投げたしてくることを期待をした。
しばしの時間が経った。
由美子もフラダンスを踊り続けることに酩酊していた。
その一瞬の隙である。
文興社の社員が、一人、優雅にフラダンスを踊っている由美子に、そっと背後から忍び寄った。
彼は優雅に踊っている由美子に気づかれないよう、ハサミで由美子のパンティーの両サイドをプチン、プチンと切ってしまった。
パンティーは、由美子の腰に貼りついている機能を失って、前も後ろもダランとめくれ、そのまま床に落ちてしまった。
そして彼は、間髪を入れず、由美子のブラジャーの背中のホックの所と、両方の肩紐の所も、ハサミで、プチン、プチンと切ってしまった。
ブラジャーも由美子の胸に貼りついている機能を失って、スルリと床に落ちてしまった。
「いや―」
不意のことに、由美子はアソコを両手で隠し、ペタンと座り込んでしまった。
「あっははは」
男たちは、ここぞとばかりに腹をかかえて笑った。
「おい。由美子。お前はオレ達がお前に見とれていて、お前の健気な心情に同情して、踊りが終わったら、お前に謝罪するとでも思っていたのだろう。バカなヤツだ。お前に見とれていた態度は、あらかじめ計画しておいたお芝居だ。お前に少し希望の光を与えておいて、そして、お前を地獄に突き落とすのが最初からの狙いだったのさ」
男の一人がタバコをくゆらせて、せせら笑いながら言った。
由美子の前にある純白のパンティーとブラジャー。
それは、もう体に貼りついておく機能を失って、何の役にも立たない物でしかなくなっていた。
「おい。由美子。踊りを続けろ。もう、踊りは終わりにしてやる、とは言ってないぜ」
悪魔の一人が吐き捨てるように言った。
しかし由美子は立てなかった。
極度の絶望感と、今度は丸裸を晒して、悪魔どもの前で踊らなくてはならないかと思うと、どうしても立てなかった。
「おい。由美子。立て。裸が恥ずかしいというのなら、恥ずかしい所を隠す物をやるぜ」
そう言ってポイ、ポイ、と小さい物を由美子の前に放り投げた。
由美子は、それを見て真っ赤になった。
それはピンク色の小さな♡型のニプレスだった。
3つある。
「おい。由美子。そのニプレスを恥ずかしい所に着けな。そうすれば恥ずかしい所は隠せるぜ」
「おい。由美子。ニプレスの裏にシールが貼ってあるだろう。それを剥がしな。そこには接着剤がついているから、体に貼れば、外れることはないぜ。恥ずかしい所は隠せるぜ」
男たちは吐き捨てるように言った。
そう言われても由美子は、すぐに彼らの言うことを聞くことは出来なかった。
ニプレスは確かに乳首やアソコに貼って、女の恥ずかしい所を隠すものではあるが、それはストリップショーで着けて、女の方から男たちに、挑発的なセックスアピールをするための物である。
小さな、申し訳程度のニプレスをつけたところで、体全体として見れば、裸とほとんど変わりはない。むしろ全裸よりも、男たちの性欲を掻き立てる効果もある。
見れそうだけれど、見れないことがエロティシズムなのである。
そんな恥ずかしい物をつけさせて踊らせようとは。
由美子は悪魔たちの、執拗な嫌がらせに辟易していた。
「おい。由美子。ニプレスをつけるのか、つけないのか、どっちだ?」
男が恫喝的な口調で怒鳴りつけた。
「ニプレスをつけたくないなら、つけなくてもいいぜ。それなら全裸で踊りな」
別の男が吐き捨てるように言った。
そう言われても由美子は、どうしてもニプレスをつける気にはならなかった。
一人の男が、ツカツカと躊躇している由美子の前に歩み寄ってきた。
「そうか。ニプレスはつけたくない、というんだな」
そう言って男は、由美子の前にある、3つのニプレスを取り上げようと手を伸ばした。
その時である。
「ま、待って」
由美子は男にニプレスを取られる前に、3つのニプレスに手を伸ばして、ひったくるように掴みとった。
確かに、ニプレスはストリップショーで女の方から男たちに、挑発的なセックスアピールをするための物である。
しかし女の恥ずかしい所をギリギリに隠せる物でもあるのだ。
「そうか。ニプレスをつけるというんだな。なら早くつけろ」
男が言った。
悪魔たちは、ニプレスをつけるかどうかを由美子の判断に任せて、その決断を由美子にさせることで、由美子の狼狽する様子を楽しもうというのだ。
ここに至って由美子は、悪魔たちのヘビのような執拗さに気づかされた。
しばし迷ったが由美子は決断した。
相手は人間の良心というものを持たない悪魔たちである。
いうことを聞かなければ間違いなく、もっと酷い仕打ちをするだろう。
由美子は小さな♡型のニプレスをアソコと乳首につけた。
確かに、ニプレスの裏のシールを外すと、そこには、ネバネバした接着剤がついていて、両乳首とアソコにつけると、ニプレスは由美子の体にピタリと貼りついた。
由美子は立ち上がって、さっきと同じようにフラダンスを踊った。
両乳首とアソコをギリギリにかろうじて隠しているだけの小さな♡型のニプレスをつけている姿は全裸と変わりなく、いや全裸以上にエロチックだった。
それは悪魔たちの性欲を激しく刺激した。
悪魔たちは、激しい興奮のあまり、ハアハアと息を荒くしながら、勃起した股間をズボンを上からさすって由美子の踊りを見た。
30分くらいした。
もう日が沈んで夜中になっていた。
「よし。今日はこのくらいにしておこう。明日からも、うんと楽しめるからな」
悪魔たちの一人が言った。
「そうだな」
皆が賛同した。
「よし。じゃあ、こいつを地下室に連れていけ」
由美子は文興社の社員二人に腕をつかまれて、エレベーターで文興社のビルの地下室に連れて行かれた。
地下室にはゴリラが飼えるほどの大きな檻があった。
「さあ。入りな」
と言われて由美子は檻の中に入った。
「ふふふ。これはお前を飼うために買った檻さ。お前は死ぬまでこの檻の中で暮らすんだ」
そう言って二人の男は去って行った。
由美子は途方にくれた。
自分は一体どうなってしまうのか?
このまま悪魔たちに弄ばれて殺されてしまうのだろうか?
発狂しそうなほどの激しい不安が由美子に襲いかかった。

(3)

「うわー」
由美子は目を覚ました。
全身が汗びっしょりだった。
呼吸もハアハアと荒かった。
「松田さん。どうしたんですか。給湯器の交換は終わりましたよ。何だかひどくうなされていたようですけれど悪い夢でも見ていたんですか?」
修理人がニコニコ笑いながら聞いた。
由美子は咄嗟にスマートフォンを見た。
2010年7月7日の午後5時だった。
(はあ。夢だったのか。私は恐ろしい夢を見ていたのね。夢でよかったわ)
由美子はほっと一安心した。
「給湯器の交換をして下さって有難うございました」
由美子は修理人に礼を言って代金を払った。
・・・・・・・・・・・・
それからも由美子はブログで文興社の批判記事を書き続けた。
しかし柴田晴郎が文興社の関係者であることがわかり、文興社から柴田晴郎に関する記事を削除するように、さぽろぐが言ってきた。
削除しなければ、さぽろぐでの記事の投稿は禁止する、と言ってきたのである。
文興社が強権的にさぽろぐに圧力をかけてきたのである。
由美子はやむなくこの条件を受け入れた。
由美子にとって文興社だけではなくブログでの世の中の不正批判はもう生きていくうえで欠かせないものになっていたからである。
それで予備のため、@niftyココログにもブログを開設した。
その翌年の2011年に東日本大震災が起こり、その翌年の2012年には第二次安倍政権が発足した。
由美子は文興社批判を続けながらも、由美子は東日本大震災の東電と政府の対応を批判する記事を書き、そして安倍政権の悪政を批判する記事を書いた。
平和を愛する由美子にとって集団的自衛権を認める安保法制は我慢が出来なかったのである。
文興社は相変わらず、版権が文興社にある、著者から受けとる製作費で儲ける悪質商法を続けていたが、由美子の文興社批判のおかげで、文興社が悪質商法で儲けているということが、世間に認知され、文興社も「協力出版」の名前を使わなくなった。
由美子は2011年から、ツイッターを始めた。
2020年から起こったコロナ禍およびコロナワクチンの危険性についての記事を連日書くようになった。
文興社批判どころではない政府がワクチンと称して毒を日本全国民に打つ大変な時代になった。これから世界はどうなるのかと由美子は驚愕した。
2024年の現在でも由美子は実名の松田ゆみこの名前で、ツイッターおよび、さぽろぐ、および@niftyココログで、世の不正を糾弾する記事を書き続けている。


2024年9月16日(月)擱筆