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祖母と旅するアフリカ

(七)六日目-前編-

会社公園のリスにえさをやれずに公開すること、

テーブル山に登って下界を覗き込むこと

なんだか早く目が覚めてしまうが、外出禁止で散歩もできない。ホテルでブッフェの朝食。私はりんごが好きで、ブッフェにあると必ず食べる。えるしっているかりんごしかたべないしにがみはてがあかい。祖母は入れ歯なのでりんごは食べられない。しかし蜂蜜とヨーグルトさえあればうれしいらしい。蜂蜜は長寿の源だからだ。なお、祖母のアイドルはみのもんたである。うちの家族は、だまされてブルーベリーご飯を食べさせられたことがある。誰も赤飯であることを疑わなかったのだが。

朝食後、ケディさんが迎えに来てくれて、オヤマさんも合流する。現地通貨(南アフリカ・ランド)がないので、頼んで両替所まで連れて行ってもらう。しかし、時間が早すぎて開いていない。新生銀行のカードを持っていたことを思い出して、銀行ATMを試してみる。すると、あっさりお金を下ろせた。驚いた。

本日はケープタウン観光だ、とケディさんは言う。ケープタウンは大変に美しい港町だ、これで治安がよければ申し分ないんだけど、と思う。まず、会社公園(カンパニー・ガーデンズ)を散歩する。この公園は、長距離航路の補給基地だったのだ。公園には、ボツワナで見たのと同じ、白い花をつけた木がある。たくさんのリスがえさをねだりに来る。地面に寝そべっているやつもいる。アフリカのリスは、ネコやイヌが怖くないんだろうか。何もお菓子を持っていないことをこんなに悔いたことはない。

見学コースに入っている南アフリカ博物館は、狩猟の成果である動物の剥製がたくさんある。中には絶滅したものもいる。1897年に建築された建物をずっと使っているこの博物館は、東京の国立科学博物館とどこか似ていて、天井の高い吹き抜けに海洋生物の模型や骨がぶら下がっている。たいてい、どの国でも博物館は似通っているのだが、ここではギュウギュウ詰めの剥製が異様な雰囲気を放っている。東京にプラハ、ハイデルベルグの博物館は、こんなに獣くさくなかった。

昔のアフリカ人の暮らしなども模型を使って再現されている。これは佐倉の歴史民族博物館と同じだなーと思う。でも、ボーア人(オランダから入植した白人農民)の暮らしは展示されていなかった。見学後、博物館の正面で、祖母と写真を撮ってもらう。緯度が高いからだろうか。ケープタウンの日差しはきつい。日焼け止めを塗っていないのが心配だった。

次はテーブル山だ、とケディさんが言い、私は祖母に伝えた。テーブル山が雲をかぶらないことはめったにない。今も見ると、山頂は雲に隠れている。祖母は山登りが趣味なので、山を見ると嬉しくなるようだ。駐車場からロープーウェイの入り口まで道路を歩いている時、私と目が合った白人の中年女性が顔をしかめた。ペラペラのプリントの服に、手入れのされていない髪の毛、しみだらけの肌、莫大なボディ・マス。プアーホワイトのおばさんを目撃したのかもしれない、と考え、誰にも言わずに胸にしまいこむ。

クレジットカードでロープーウェイ代を払って、山頂へ上る。標高1087m。清里と同じくらいの高山だ。植生も、高原の観光地の整備された花畑、といった感じだ。頂上の少し下あたりに、ハンドソープの泡のような濃密な霧がかかっていて、下界の風景は見えない。この霧が、街から見るとテーブルクロスに見えるのだ。

われわれは断崖絶壁を恐る恐る覗き込み、交代で写真を撮った。霧が峰や白根山を思い出す風景だ。テーブル山の山頂は広く、装備さえあれば、写真を撮るだけでなくハイキングもできそうだった。ふもとから登る登山道もある。祖母はもう少し歩きたかったかもしれないが、私にはその覚悟がなかった。いちばん短いコースを一周して、またロープーウェイで下りた。ロープーウェイは床が360度回転するつくりになっていて、自分が崖側に来ると、岩にへばりつくように生えている高山植物がよく観察できる。海側に回ったときは、ケープタウンの町を観察できる。

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