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祖母と旅するアフリカ

(六)五日目-前編-

クリスマスに喜望峰を旅する外国人たち、

プラナリアのようなアザラシを見るため苦しむこと

翌日はクリスマスである。「メリー・クリスマス」と挨拶すると、皆「あなたもね!」と答えてくれる。天気はよくないけど、ガイドのケディさんが運転するワゴン車に乗って、喜望峰へ1日旅行だ。ガイドは英語。私は祖母に逐一通訳をしようと考えていた。

「ケープタウンは、サンフランシスコなどと並んでゲイの人々が多い町です。この美しいベイエリアは、彼らの出会いの場になっています」と、ケディさんは言う。私は他人がどんな性的嗜好を持っていても別に気にしないけど、祖母に説明するのがめんどくさい話は訳さないことにした。ケープタウンの旧市街は古い建物が多く、治安がよくないが、海側の地域はきれいなマンションや高級ホテルが並んでいて、各国のセレブも泊まるそうだ。

まず、船に乗ってアザラシを見に行く、とケディさんは言った。沖にアザラシがたくさんいる岩があり、観光スポットになっているのだ。船着場には中国人の団体客が多く、私は絶対ここで中国語を使ってやろうと思った。トイレを借りたお土産屋のレジ係に、「中国人?」と聞かれ、「日本人です。でも中国語勉強してるから、絶対エクササイズするつもりです」と答える。祖母は、ここでジャッカス・ペンギンのマグネットをお土産に買った。

船の乗客は半分が中国人、残りは各国の観光客で、私たちの隣のブースに座った人は白人のサリドマイダーだった。出港直後は、祖母・コヤマさんともアザラシ島に対する期待などを語る余裕があったが、外海の波は荒くボートはとんでもなく揺れる。コヤマさんはぐったりと横になってしまい、祖母は朝食のピンク色のグアバ・ジュースを吐いた。船酔いに苦しむ人はわれわれだけではなく、私が全く酔わなかったのは、よるべなき日本人の女3人が3人とも倒れてしまったら何がどうなるか分からない、という緊張感によるところが大きい、に違いない。

しかし、アザラシ島、というかアザラシ岩に着くと、乗客は一気に回復して写真を撮りまくったのだった。岩に張り付いているアザラシは、高校の生物部の実験材料・プラナリアを連想させる。なお、がんばって話しかけた中国人に私の中国語は通じなかった。きっと彼も船酔いだったのだ。

 

「ああ、苦しい思いをするために乗ったようなものだね」と、下船後に祖母はため息をついた。

ケディさんはアザラシ島へは行かず、車で待っていた。アザラシの次はペンギンだ、という。アフリカ大陸最南端として観光化されている喜望峰は、ケープタウンの町からは結構遠い。だから喜望峰に行くまでに、途中の観光地をまわるのだ。ペンギンのいる公園は、フォース湾沿いにある砂浜だ。なお、風光明媚なフォース湾を見ながらプロポーズをするのはやめよう。なぜなら、それは間違い(False)だから。

この砂浜のペンギンは、20年前には2組のカップルしか居なかった。今は3000羽規模のコロニーに育っているという。「こんなふうになるなんて、予想もしていなかったんですよ」とケディさんは言う。ペンギンはかわいいが、よく見ると縄張り争いをしている。斜め45度の角度から相手をねめつけ、それでも近づいてくる奴を突っつくさまはまるで893のようだ。かわいいんだけど。

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