モーニングソング(追悼歌)

 

かつて60機もの戦闘機がひしめき合っていたやたらと広い格納庫。

ここには今、わずか5機の戦闘機が並べられていた。

整備は行き届き、戦時中だというのに機体はピカピカに磨き上げられている。

コックピット内もごみひとつ落ちていないほど綺麗にされている。

しかし全ての機体はすでに時代遅れの旧型機である。

航空戦になれば的以外の何者でもない。

そんな老いぼれ機の前に、まだ少年や少女と呼ぶような子供達が5人、直立不動の姿勢で待機している。

彼らはこの2週間この老いぼれ機に乗り死ぬための訓練を積んできた。

と言っても彼ら全員、一月前はただの学生だったのであるから飛ぶので精一杯。

とても空戦などできるはずがない。

にもかかわらず出撃を前にして彼らの瞳に恐怖の色はなかった。

ただ何人かの瞳は泣いたために赤くなっていた。

遺書はすでに家族のもとへ届けられている。

彼らは待機し続ける。

ただ次の命令が来るまで。

 

格納庫脇の待機所で電話が鳴る。

電話が鳴り終わりしばらくすると左腕を包帯で吊った将校が待機所からこちらへ来る。

子供達の前に立ち将校は言う。

「出撃命令だ。諸君がここに戻る事はもう二度と無い。諸君の勇気が平和をもたらす事を切に願う」

一番左の背の高い少年が叫ぶ。

「もとより生還を期せず!」

その隣、ショートカットの少女が叫ぶ。

「もとより生還を期せず!」

一番右の内気そうな女の子が叫ぶ。

「もとより生還を期せず!」

その隣、わんぱくそうな男の子が叫ぶ。

「もとより生還を期せず!」

最後に中央の一番年上の少年が叫ぶ。

「もとより………もとより生還を期せず!」

 

雷鳴が轟き雨が一層強さを増す。

この基地に配置されている全員に近い将兵が滑走路に沿って整列し敬礼をする。

雷鳴に負けぬよう大音量で国歌が流される中、滑走路からたった5機の戦闘機が空へ舞い上がった。

 

 

 

 

 

そして………

 

そのわずか5時間後、終戦協定が結ばれ戦争は終わった。