レジェンドハンター
 作:クエスト氏

 

魔が存在する世界フェーリブル

火、水、雷、氷、風、地、そして無の属性が存在している

人々が生活する大陸オーラーグには太古からそれぞれの神を信仰する国があった

北方に位置し氷山に囲まれた氷の神イシスを信仰する氷の国アルフェイド

南方に位置し砂漠に囲まれた火の神フィレアを信仰する火の国クルサ

東方に位置し常に暗雲がかかった雷の神ウィルを信仰する雷の国ベルガン

西方に位置し海に囲まれた水の神ウェイトを信仰する水の国ゼイル

大陸の真ん中に位置し四方を山に囲まれた地の神ジスクを信仰する地の国ローグ

大陸の上空に浮かんでおり風の神ディスを信仰する風の国フュース

伝承にのみ残る無の神ジェイルを信仰する無の国ラグナ

これらの国々のどこかにはそれぞれの神が存在するといわれていた

そして神に出会ったものは世界を制するともいわれていた

それにより世には神を探す者レジェンドハンターなるものが後を絶たない

だが同じく消息不明になるものもあとを絶たない

 

 

時はオーラーグ歴2879年

今まで平穏を保っていた国々の均衡が壊れ始め、太古の結界が破れようとしていた時代

だがそれに気づくものは誰もいない・・・

 

 

第一部   「水の国に眠る悪夢」

 

 

第一話   「成功者第一号」

 

 

「暑いな」

俺は隣の男に声をかける。

「・・・」

だが男は答えない。

「ゼイル領に入ったってのになんで暑いんだ?」

「・・・」

それでも答えない。

「なにか言えよジェン、つまらないだろ?」

俺は傍らを歩いている青髪の男――名をジェハン・ロレーンという――ジェンに話しかける。

だが返ってきたのは冷たいお言葉。

「こんな暑い中を歩くだけでも疲れるのに会話で体力を消耗してどうする」

言い返せない・・・くそっ、暇なんだから仕方ないだろ。なにせ歩き始めて4時間だ。

俺達はクルサの辺境の村セイルから国境を越えて同じくゼイルの辺境の村ネルドにつながる田舎道を歩いているわけなんだが道中には木と石と土と空しか見えない。

「じゃあなにか喋る気はゼロですか?」

「・・・」

ジェンはまた無言。

俺はもう諦めて空を見上げて歩いた。

青、青、どこまでも青、雲なんかこれっぽちも無い見事な快晴だ。なにもこんな日に晴れなくてもいいじゃないか。俺は空を睨もうとするが意味が無いのでやめる。

「にしてもほんとに暑いな・・・」

今日何度目か分からない言葉を口にすると突然視界の中の色が青から緑、そして茶色に変わったかと思うと俺はぐしゃっという音と共に盛大に地面に顔をうずめていた。

「・・・馬鹿かお前は」

上だけを見ていたとはいえ足元の石に気がつかないなんて俺ももう駄目かもしんない・・・。

俺は起き上がり石を見る。

一瞬目を疑った。

・・・石にしてはでかい、こんな石が道のど真ん中にあるものか?それになんか黒い。

だがそこまでしか俺の頭は働かなかった。

「こんなでかい石に気がつかないなんてな」

俺は空笑いしながら石、もとい岩を見つめる。

「・・・おいザック、本当に頭大丈夫か?」

ジェンが呆れたように俺を見る。こいつにしては珍しく俺を心配してくれてるのか?

「ああ、大丈夫。今度からはちゃんと下を見て歩くさ」

「いや、そうじゃなくてよく見てみろ」

ジェンは岩を指差す。岩がどうしたっていうんだ?目を凝らす。

「ああ、なんか岩にしては妙な色つやだな」

岩は黒光りしている。

「他には?」

「う〜ん、妙に細長い」

「まだ分からないか?」

ジェンはもう呆れ返っている。

「ああ、そうか。今度ここを通る人のためにどかせってことか」

俺の頭はもう完全に再起不能なほどに働いていなかった、岩をどかそうと触れてみると妙に柔らかい。

「今時珍しい岩もあったもんだ、柔らかいぞこれ」

持ち上げようとするとジェンの言葉が頭に響いた。

「もういい、私が教えてやる。それは人だ」

へぇ〜、そうかこの岩は人なのか、そうかそうか。

と俺が頭の中で繰り返していると俺の意識がだんだんと戻ってきた・・・人!?

「はぁ?!なんでこんなとこに倒れてんだよ!?いや、その前にジェン!おまえ人が倒れてるのに助けようとか思わなかったのか!?」

ジェンはなにを言うかとばかりに目を見開いて堂々と言う。

「他人を助けてなんになる?謝礼をもらえるようには見えんしな」

今度は俺が呆れる番だった。前々からこいつはそういうやつだとは思っていたがまさかそこまで薄情だったとは知らなかった。

「と、とにかく木陰に連れて行こう」

俺は慌てて人を持ち上げる、ここで一瞬考え木陰に移動し、抱えていた人を横にした。

抱いたときの重みや感触から女性ではないかと俺は推測した、男なら捨て置いたかもしれないが相手が女性ならそうはいかない。

野郎には適当に女性には優しくが俺のモットーだ。

「ちょうどいいや、ここで休んでいこうぜ」

俺は一息つきたかった。事実、さっきは暑さにやられて頭が働いていなかったからだ。

無言でジェンも木陰に座った。

まだ日は昇りきっていない、となると少しくらい昼寝してもいいだろう。

ネルドまではあと2,3時間でつくだろうと推測していた俺は目をつぶった。

 

そういえば自己紹介がまだだったな、俺の名前はザック、ザックス・ハーン。れっきとしたレジェンドハンターだ。

なぜレジェンドハンターになったかというと・・・なんとなくだ。

茶髪に褐色の瞳を持つ長身でハンサムな青年だ、自分で言うなって?そんなもん俺の自由だ。

生まれは分からない。ベルガンにいたんだが、孤児だったため誰も俺の素性は知らなかったし、俺自身も知らない。

唯一の手がかりは左手の甲の『絶望と希望の狭間の世界』と書かれた刺青だけだ。だがこれはいつ、どこの言葉かすら分からなくて誰にも読めない、だがなぜか俺は物心つくころには読めていた。不思議な話だ。

ちなみに俺の数メートル横にいるジェンについてだが、こいつの詳しい素性は知らない。

クルサの辺境にあるコルという村にいたのだがどうやらそこの生まれではないらしい

まあ詳しいことまで特別知りたいとも思わないしいいだろう・・・。

とまあこんなところだな。さて疲れたし寝よう。

 

 

目を開けると、幾分か日がゆるくなって涼しくなっていた。

俺はふと隣で横になっている女性を見た、頭から足の先まで紺のローブに覆われているためよく分からないが大分小柄なほうだろう、女性というよりは少女に近いかもしれない。

「また女の品定めか?」

横から皮肉めいた声が聞こえた。ちっ、起きてたか。

「ああそうだ、男が女をみて何が悪い。ま、女より男に興味がある奴に言ったって分からないだろうがな」

「なんだと?」

するとジェンは背中の大剣を抜く、抜き身の剣が鈍く輝く。

背中を冷や汗が流れるのを感じた。奴から殺気が感じられる・・・。

「分かった!俺が悪かった!今のは冗談だ!」

俺は必死でジェンをなだめる、こいつの目は本気だ!

ジェンが立ち上がろうとすると動きが止る、目線は俺の後ろ。

後ろを見てみるとさっきの女性、いや、やはり少女が起き上がってこちらを見ている。

少女の顔はフードが取れていて見ることが出来た。なかなか可愛い、肩口で切りそろえた銀色の髪が美しく、瞳の色は青。あと数年すればいい女になるだろう・・・って何を言ってるんだ俺は!

「あ、起きたんだ。気分はどう?大丈夫?」

俺が尋ねると少女はうつむいたまま答えない、このときジェンは舌打ちをして剣を鞘に収める、キンと音がすると俺は安堵のため息をついた。危なかった・・・。

「どうしたの?やっぱ気分悪い?」

少女は首を振って否定するが一言も喋らない。

「じゃあなに?」

俺が聞くと少女は俺の顔を見つめて思い出したように袋から羊皮紙と炭を取り出しなにか書き始めた、羊皮紙にはこう書かれていた。

――私喋れないんです――

俺は目を疑った、こういった人には初めて出会った。

「俺の声は聞こえてるんだよね?」

少女はうなずく。怯えてはいないようだ。

「家はどこ?」

少女はまた羊皮紙に手を伸ばす。

――ネルド――

「ネルドか、丁度いい、俺たちもそこに行く途中なんだ。送ってくよ」

少女は顔を輝かせて頭を下げる、お礼を言っているのだろう。

「いいよな、ジェン?」

俺は一応ジェンに聞く、もし嫌だと言っても連れて行くが。

ジェンはこっちを向かずに言う。

「お嬢さん、この男には気をつけたほうがいい、女とみると見境無く手を出す男だからな」

ピクッ。額に青筋が浮かぶが少女とはいえ女性の前でもあるため我慢した。

「じゃ、じゃあ行こうか、そういえば君の名前は?」

まだ微妙に顔が引きつっているのが自分でも分かったがこれが限界だ。

少女はさらに書く。

――コフィン・マーシェン――

「そうか、じゃあコフィ・・・でいいかな?」

少女、コフィは頷く。

「これ以上は暗くなっちゃうから歩きながらにしようか」

俺とコフィは立ち上がりジェンも続く。

歩き始めても真っ昼間とは違いそれほど暑くはないため楽だ。

「あ、そうそう俺の名前はザックス・ハーン、ザックでいいよ」

女性に名前を教えておくのは大事なことだ、しかもコフィはあと数年すれば大人になるだろうし損は無い・・・ってこれじゃジェンの言ったとおりじゃないか!

「レジェンドハンターをやってるんだ、最近は情報が無くて全く進展はないけど」

コフィは静かに話を聞いている、といっても喋れないんじゃ静かなのは当然か・・・。

「で、こいつの名前はジェハン・ロレーン。俺はジェンって呼んでる」

俺はジェンを指差す。

「勝手に人を自己紹介するな。お嬢さん、私はれっきとした傭兵だが決してこいつに雇われているわけじゃない。そこは勘違いしないでくれ」

コフィは不思議そうな顔をして俺のほうを見上げている、この話が気になるようだ。

「実はね、俺が・・・」

「私はクルサの東の辺境に位置するとある村に住んでいたのだが二ヶ月ほど前こいつがその村を訪れたのさ。なんでも村の近くの洞窟に火の神フィレアの手がかりがあると聞いたらしくザックはそこに入り込んだ。しかし、瓦礫が邪魔で進めなくなりそれを壊そうと爆弾を設置し洞窟を爆砕。その結果崖崩れを起こして村を破壊。そしてその村の修理代を請求するために私がついていっているのさ。代金は安く見積もっても1000万シェル、辺境の村とはいえどそれなりに発展していたからな。さらにこいつはその後クルサの首都フレイに行ったときに、酒場で見つけた女に手を出したのだがそれがまずかった。その女はフレイでも指折りの名家のお嬢様だった。そしてそれがバレテしまい、しかもお嬢さんの父親が親馬鹿だったのが災いして指名手配された。それからは必死で逃げて国境を越えここまでたどり着いたのさ」

俺はジェンを睨む、せっかく人がうまくかいつまんで話そうとしたのにこの男は・・・ちなみにシェルとはお金の単位のことでこの世界では最も一般的なものだ。

さっきの話を少し訂正させてもらう。奴にとっては村のことなどどうでもいいようで、ただ単に村を出るきっかけとして俺についてきているらしい。そして特に当てもないためそのままついてきている、ということだ・・・まあ仲間がいると俺も心強いわけだが奴にそんなことは口が裂けても絶対に言わない。

「お前のことだ、自分に都合よく話そうとしたのだろう?それくらいお見通しだ」

俺はちっと舌打ちする、ジェンはこうゆうときだけ勘が鋭いから困る。

「そうゆうことさ、だがな言っとくけど俺は一銭たりとも払わないからな」

聞くとジェンは背中にくくった剣を抜きながら言う。

「ほう、そうかならばお前の首を貰おうか。何も無いよりはマシだろう」

俺も腰にかけた短刀を取り出す。

本気で殺り合うわけではないが、金の話になると必ず起こるのがこれである。このやり取りは俺たちにとって一種の定例行事である。

こいつとの戦いは今まで八勝九敗、負け越しているため負けたくない。

この勝負は負けたほうが飯をおごることになっているが、俺たちの食う量は3人前までが軽食で5人前からが食事と呼べるもののため金が半端なくかかる。しかも今の俺は金欠気味のため余計に負けたくない。いや、負けるわけにはいかない!

「危険だからコフィは下がってて」

言うと俺とジェンは距離をとる、コフィは怯えたように少し離れる。

ジェンの剣は刃渡り120センチメートル近い馬鹿でかい両刃の大剣に対し俺のは刃渡り40センチメートルと30センチメートルほどの二本の剣、カトラスを使った二刀流である。

ジェンは破壊力抜群の重量級タイプなのだが全く攻撃に当たらない自信があるようで鎧のようなものはなにも着ていない、代わって俺はスピード重視の軽量級タイプといったところで急所のみを守る軽鎧を着ている。

当然ながら力ではとてもじゃないが敵わない。

ジェンは力、俺はスピードで勝負だ。

ジェンは右手で柄を掴み、左手は添える程度でもっている。剣の重さはかなりあるようだが俺は触らせてもらったことがないので詳しくは分からない、だが見た目からして少なくとも20キログラムはくだらないだろう、それを片手でしかも高速で振り回すのだからどのくらいの馬鹿力の持ち主かよくわかる。

その剣は黒に鈍く輝いており黒曜石にちかい材質のようだが違う。なにせどんなに強い力で叩き付けても折れることがない、こいつの戦い方だと普通の剣では一戦ももたずに折れてしまうのにだ。

どこで手に入れたのか聞いたことがあったのだが「拾った」の一言、つまりは謎の大剣だ。

そして俺は右手に長い方のカトラスを逆手で持ち、左手には特注で作ったつばの部分を握る形のカトラス――トンファーの腕に沿った部分に刃がついているようなもの――を腕に沿うように持つ。このカトラスは俺が偶然発見、採掘した特殊な鉱石で出来ており羽のように軽いしダイヤモンドを遥かに越える硬度を持ち、色は透き通るような白である。

それぞれが日の光に照らされる。

戦いに歓喜するように日光を吸収し鈍く光る大剣、そして日光を反射しきらめくカトラス

相反する二つが向かい合う。

ジリ・・・二人はすり足で移動する。

空気が張り詰める。

二人はタイミングを悟られないように思いっきり息を吸い込みそのまま止める。

そして動く!

急接近するとジェンは一刀両断するように大剣を振り下ろす!走っていることもあり威力は尋常じゃない。

俺はこれを左腕のカトラスを突き出し微妙な角度で受け流しながら右へ移動する。

もしここで少しでも大剣に対し垂直に近いといくら俺のカトラスでもジェンの大剣の前では折れてしまい、同時に腕がバッサリといってしまうだろう。逆に平行に近いと受け流せず力負けしてしまうがそんなミスをする俺ではない。

すれ違いざまに右手のカトラスで脇腹を切ろうとするが身体を反らされかすりもしない。

ここは間合いを詰めずにバックステップで離れる。

するとさっきまで俺がいたところを黒閃が奔る!ジェンが後ろに振り向きざま大剣を横に薙いだのだ、普通にはありえない反応速度だ!

そして間合いを詰めながら先ほどの回転を利用しさらに回転、遠心力で威力が倍加した大剣を振ってくる!

これを受け流そうとするのは危険だ。咄嗟に身体を曲げかがみ込む。

頭のすぐ上で風を薙ぐ音が鳴る!そして俺はそのまま低い姿勢を保ち間合いを詰める。

が、目の前にダガーが飛来する!開いていた左手で投擲したのだろう。

咄嗟に右手ではじき飛ばすが僅かなタイムラグが生じてしまった為すぐに左に飛ぶ!

するとさっきまでいたところに大剣が振り下ろされ地面を深くえぐり、砕く!

これがやっかいなのだ。普通は今の攻防で決まるのだがジェンの場合、腰に帯刀している投擲用のダガーで重量級に多い剣撃の後の隙を補っている。

それにジェンは力の割に身体は軽量級に見えるくらいに引き締まっているため、動きは俺ほどじゃないにせよかなり速い。

にしてもなんて力だ、俺は一度こいつが一撃で自分の身の丈以上もある岩を粉砕した時の事を思い出してしまいゾッとするが今はそんなことを考えてる場合じゃない。

俺たちは一旦距離を置き深呼吸する。

そして再度息を止め駆け出す!

すると交錯する瞬間に突然身体が蒼い稲妻に絡まれた!

な!雷術!?ジェンのやつ魔術が使えたのか!?

だが俺が驚愕したのはそれだけなかった、術の発動に必要な詠唱が全く聞こえなかったのだ。

詠唱無しで呪文を発動するなんてのは不可能だ!くそっ!どうなってる!?

稲妻は気絶させる程度のもののようでなんとか生きてはいるが身体が痺れて動かない。俺はもう地面に倒れていた。

くそ、また俺の負けか・・・と失いかけてゆく意識の中、目の前に同じように倒れているジェンを見た。

ジェンもくらっている?じゃあ一体、誰が・・・。

だが俺の思考はここで途切れた。

 

 

目を開けると真っ暗だった。

いや、微量の月明かりが窓から照らしていたためここが古臭い家のなかにあるベッドだとだけ分かったが、あとはこの部屋がかなり散らかっていること以外分からない。

俺は起き上がると窓から顔を出した、ひんやりとした夜風が気持ちいい。

月の場所からして今は深夜前といったところか。

俺は一息つくと昼間のことを考えた。

誰かがここに連れてきてくれたんだ?まあ、あの場にはコフィしかいなかったから通りかかった誰かが運んでくれたんだろう。

にしてもだ、あの術は誰が唱えたんだ?

ジェンではない、あいつに魔術は使えない――魔術を使うには生まれもった才能が必要で、誰にでも使えるというわけではない――はずだ。

だがそもそも詠唱が聞こえなかった。あんなことは普通ありえない、誰かが遠距離から放った?いや、そんなことをしても意味が無い。

・・・そういやそのジェンはどこだ?まあ、あいつなら大丈夫だろう、ゴキブリみたいな奴だ天変地異が起きても死ぬことは無い。

俺が色んなことを思案していると。

ギィ・・・ギィ・・・

部屋の奥、扉があると思える方向から足音がした。

俺は少し身構えると来訪者を待った。

・・・こんこん

ノックの音がするとゆっくりと扉が開く。

「誰だ?」

声をかけると、来訪者は驚いたように立ち止まる。

「・・・コフィか?」

俺は気配からそう推測した。

そうして来訪者は少し歩くと月明かりの元に照らし出された。やっぱりコフィだ。

「やっぱりそうか、俺たちをここまで連れてきてくれたんだよな?礼を言わせてもらう、ありがとう」 

コフィは少しうつむきながらトレイを差し出した。

「これは・・・?水とタオルか、介抱してくれてたのか?なんか悪いなこんなことまでしてもらっちゃって」

コフィは首を振った。照れているのかな?

「今夜は月も出ていていい夜だ、なあコフィ?」

コフィは窓の外を見ている、なんだかいい雰囲気だ。だがそれをぶち壊す声が聞こえた。

「ようやくお目覚めか」

奥からジェンが顔をだした。まったくタイミングの悪い奴・・・。

「ああ、そうだ俺はお前と違って身体が繊細だからな」

俺は精一杯嫌味っぽく言ったがジェンは全く気にかけていない。

「変な御託はどうでもいい。ザック、昼間のあの雷鞭は誰が放ったと思う?」

俺は眉をひそめる、ちなみに雷鞭とは昼間に俺とジェンが食らった術のことで、雷術の下級魔術であるが人を気絶させるくらいはたやすい。

「そんなこと知るか、詠唱は聞こえなかったし周りにはコフィ以外誰もいなかった。だが、コフィは喋ることが出来ない、遠距離から放ったにしても俺たちを気絶させる意味が無い・・・とまあここまで考えて行き詰った、お前は知ってるのか?」

ジェンはくっくっく、と笑うと続けた。

「信じられないだろうがなんとあれはこのお嬢さんが放ったそうだ」

俺は耳を疑うと同時に呆れた。

「ジェン、お前ついにいかれたか?ガキでも知ってることだが、術は詠唱がなきゃ発動できないんだぞ?」

ジェンはさらに声をあげて笑う。

「そうだな、今回ばかりはお前の言うことが正論だ、だが世の中には不思議なこともある。ようでな。お嬢さん、やってみてくれ」

ジェンがコフィを促すとコフィはうつむき手を上に向ける。

するとバシィッっという音と共にコフィの手から蒼い稲妻が窓の外に向けて放たれる。

俺は驚愕のあまり顎が外れそうになった。

 

 

「な、なんであんなことが出来るんだ!?」

俺とコフィはランプに照らされた比較的明るい居間のような所で向かい合わせに座っている。部屋の真ん中にテーブルが置いてあり椅子が6つ、俺から見て右手の方向に俺が寝ていた部屋につながる廊下。左手に寝室、ジェンが寝ていたところだ。そして背中側には出入り口と思われる古びたドアがあり、その脇にはこの部屋唯一の窓がある。そしてコフィの背中側には台所と思われる水場がある。

そんななかジェンは1人窓辺にたって夜空を眺めている、あいつにそんなロマンチックな趣味があったとは驚きだ。

それにしてもこの家はボロイ、廃屋のようなくらいだ、歩けば所々ギシギシ鳴るし窓にはガラスすらない。だが今の俺にはそんなことはどうでもよかった。

「詠唱がないと術は発動しないはずなのに、コフィは喋れないんだろう!?どうしてあんなことが出来たんだ!?なにか新しい詠唱の仕方でも見つけたのか!?だとしたら凄い!!これはぜひ売るべきだ!!そうすれば金になる!!」

俺の言ってることは段々金儲けの話になっていった。最近金欠だったからつい・・・。

コフィはしばし呆然としていたが、思いついたように羊皮紙に手をのばそうとすると後ろからジェンが言う。

「お嬢さんは書くのが大変だろうから私が説明しようか」

ジェンがこちらを向く。

「なんでジェンが説明するんだ?」

「お前が寝ている間に私は色々と話を聞いたからな。さて、先ほどの話の答えは単純だ、お嬢さんにも分からない。2年ほど前に試してみたら発動したそうだ」

俺はまたあごが外れそうになった。

「そんなんありか?」

「実際起きたことだ、否定のしようが無いだろうが」

「まあそうだが・・・でもなんで俺たちに放ったんだ?」

俺はコフィに目を向ける、コフィはうつむく。

「なんでも私とお前が本気で殺し合いをしていると思ったそうだ。だから止めるために気絶させた。そうだな?お嬢さん」

コフィは少しうつむいたままうなずく。

「ははあ、確かにあれは傍から見たらそう見えるだろうな。でもなコフィ、あれは本気でやってはいるが本当に殺しあってるわけじゃないんだよ」

コフィはさらにうつむいて顔を手で覆い隠す。

「別に責めてるわけじゃないんだけどな。あと、もう一つだけ聞かせてくれ。なんであんなところに倒れてたんだ?」

コフィは顔を上げない、うつむいたままだ。

「そればっかりは答えてくれないのだよ。だがあんまり深くたずねるのも野暮だから私は聞かないでおいた」

なにか言えない事情があるのか?・・・俺は勝手に推測して話を変える。

「さてとジェン、俺たちはこれからどうする?こんな夜中じゃあ宿はもう取れないし、野宿でもするか?」

ジェンに目を向けるとコフィが顔を上げた。

「お嬢さんが言うには昼間のお礼にここに泊まっていってください、とのことだ」

俺は再度コフィに目を向ける。

「ここはコフィの家か。でも泊まっていっていいのか、コフィ?」

コフィは嬉しそうにうなずく。・・・いい笑顔だ、いや別に変な意味じゃなくて。

「・・・じゃあお言葉に甘えさせてもらおうか」

そして俺たちはしばらくして夕飯をもらった。

 

 

目が覚めると昨夜のベッドの上だった、朝日が清々しい。

昨夜はよく分からなかったがこの部屋には所狭しと本が並べられていた。

俺は本棚に目を向ける。

魔術の特徴

   属性について

魔術を使える者使えない者 

・・・・・

・・・・・

 無術とはなにか?

なるほど、それなりには自分で魔術について研究していたようだ。

そういえば、魔術って基礎のこと以外よく知らないんだよな。今度調べてみるか。

俺は床の本に目を向ける。

人体構造図鑑・完全版

   トラップマスターへの道

毒薬の全て

・・・・・・

・・・・・・

絶対バレない!誰でも出来る暗殺

・・・どうやらコフィは見た目のわりになかなかにいい趣味の持ち主のようだ。

そういえば昨日コフィの作った料理を食べたあと妙に眠くなった気がしたが・・・きっと気のせいだろう。

さて、あまり詮索していては悪いし、なにか怖いものを見つけてしまいそうだから居間に行ってみるか。

俺はギシギシ鳴る床を踏みしめて居間に向かう。

すると居間に入るとどこからともなく声が聞こえた。

『あたしの声、聞こえる?』

聞いたことのない声だ。俺はとっさに身構える、だが感じられる気配は床でうつぶせで寝ているジェンとその前に立っているコフィだけだ。

「誰だ?」

俺はコフィのそばに移動し、かばうようにして周りに目を向ける。

『聞こえてるんだ!よっしゃ!両方とも術式成功!!』

と今度は喜びの、叫び声にちかいものが聞こえた。それと同時にコフィがグッとガッツポーズをする。

恐る恐る振り向く。

「これはコフィか?」

『そうよ』

俺はあまりのことに言葉を失いかけたがなんとか口に出す。

「なんでだ?喋れないんだろう?」

事実、コフィの口は動いていない。

『喋れないわよ。これはあたしの頭からあんたたちに電波みたいのを飛ばしてるの』

じゃあなんで昨日はやらなかったんだ?と俺が聞こうとすると・・・。

『そりゃあ出来ないわよ。昨日あんたたちが寝ている間にあたしがあんたたちの頭に細工して初めて出来たことなんだから』

「な、なんだって?俺たちに細工し・・・今、俺の考えを読んだか?」

俺は思わず後ずさりしながら聞く。

『読んだわ、まさかうまくいくとは思わなかったけどね、でも感度良好♪あんたもちゃんとあたしの声が聞こえてるんでしょう?』

「聞こえる、聞こえるが・・・あんたたちって言ったな?ジェンにもやったのか?」

『やったわよ、彼はさっき起きてきたんだけど、この話を聞くやいなや気絶したわ』

そうか、なんでジェンは床で寝ているのかと思ったがまさか気絶していたとは・・・。

「じゃあどうやって・・・」

『その前に、頼みがあるんだけど』

頼み?人にこんなことをしておいて頼みだと?いい根性してる。

『なんとでも言うがいいわ、どうせ断れないんだから』

「・・・いいぜ、言ってみろよ」

『あたしを仲間にして』

・・・俺は耳を疑った、仲間?仲間にしてだと?

「断るって言ったら?」

『そのときはこうするだけ』

すると俺の頭の中が急に熱くなる。

「な・・・何をしてる?」

『なにってあんた達の頭に細工したって言ったでしょ?それはこういうことも出来るのよ』

頭はさらに熱を帯びてきてすぐに耐えられなくなってきた。俺は頭を抱えた。

『さ、どうする?仲間にしてくれる?それともこのまま頭んなか蒸発させる?』

俺はなんとか抵抗しようとしたが頭はどんどん熱くなる。ついには立っていられなくなって、膝をつく。

くそっ、これじゃあ本気でヤバイ・・・。

「わか・・・った。仲間にする・・だから・・勘弁して・・・くれ・・・」

すると熱は一気におさまっていき、なんとか平常心を取り戻す。だが息は乱れていた。

『じゃあ決まりね、あたしは支度してくるからジェンにも伝えといてね』

そして俺はことの経緯を伝えるためにジェンを起こしにかかる。

「おい起きろジェン、いつまで気絶してるんだ」

ジェンの頬をペシペシとはたく・・・起きない。面倒だから俺は最終手段にうつる為にナイフを抜き。

「起きろやあぁぁ!!」

叫びと同時にナイフをジェンの首に振り下ろす!

ギィン!

すると首の手前で長剣が突き出され、ナイフと火花を散らす。

「目、覚めたか?」

ジェンは起き上がる。俺たちにとってはこれが日常だ。

「ああ、おかげさまでな。・・・ところで、なぜ私はこんなところで寝ているのだ?」

どうやらジェンはコフィの話を覚えていないらしい。

「そんなことはいいから、今さっきコフィが俺たちの仲間になったからな」

コフィの名前を聞くやいなやジェンは自分が聞いた話を思い出したのか一喝する!

「認めん!!決して私は認めんぞ!そんな人の頭に細工を・・・くっ、なんだ?頭が・・・熱い・・・」

コフィが制裁を下したようだ。

・・・どうやらこれは離れていても効果があるようだ。

これはもうコフィに逆らえないということか・・・はぁ・・・。

 

 

その後俺たちは特に用事も無いのでさっさとネルドを出ることにしたのだが一応観光にでもと村を見て回りながら通りを歩いていた。しかし村は妙に寂れていて観光どころではなかった。

コフィの家は廃屋――あ、頭が熱くなってきた――いや、ほんのちょっと古い家だったが他の家も似たようなもののようだ。

そしてどこの家にも共通のおかしいところがひとつあった。

どこの店に入っても必ずといっていいほどボーっとしていてどこか上の空の人がいたのだ。生活観があったところを見る限り誰かがその人の世話をしているのだろうが、店の方には全く出てこなかったしあれでは店も繁盛しないだろう。

そういえば去年あたりネルドからきたという旅人から「ネルドは無人の村だ」と聞いたのを思い出した。なるほど、これならそういう印象をもっても仕方ない。

 

 

『聞きたい?聞かないほうがいいかもよ?』

俺たちは観光した後、ネルドを出てひたすら西へ向かっている。ネルドの西には港町で有名なサーフェイスがある。ここまで来るとゼイルの温暖な気候がでてきて歩いていても暑くはなくどこか開放的な気分になる・・・はずなのだが。

その道中、一体どうやって俺たちの頭に細工したのか聞いてみたのだ。

『あんまり詳しく話しても分からないだろうし簡単に説明するわ。あのね、まず昨日の夕飯にあたし特製の睡眠薬をもったの。』

俺は少し目眩がした。やっぱりそうだったか・・・。

『んで、あんたたちが眠ったあとに地下にある私の研究室に運んで頭を切り開いて・・・』

「ちょっと待て!頭を切り開いてって、もしかして頭のなかに細工したのか!?」

俺はもう卒倒寸前だった。

『当たり前じゃない、頭を切り開いて音を感知する器官にちょっとした細工をしたのよ』

驚いた、何にってコフィのがらりと変わった性格もそうだがなにより術式である。

「おまえ!それはもう人体実験じゃないか!失敗したらどうするつもりだったんだ!?」

すると頭が熱くなり始める。

『おまえ、じゃないわよ。あたしを呼ぶときはちゃんと名前でいいなさい』

くっ、全く変なところでこだわりをもっている奴だ・・・。

『何か言った?ザック』

頭がさらに熱を帯びる。

「すみません、なんでもありませんコフィンさま。どうか熱くしないで下さい」

すぅっと熱さがなくなる。ふぅ、危なかった。

俺はなんとなくジェンに目を向けると・・・こいつ白目をむいたまま歩いているよ、すごい技術持ってるんだな。って感心してる場合じゃない!

『で、さっきの話だけど。それは大丈夫よ、失敗しても死なせることは絶対無いから。でも若くして痴呆性になるのは免れないわね』

どこが大丈夫なんだ?・・・俺の思考は恐ろしいことにたどり着く。

「なぁ、まさかネルドにいたあのボーっとしていた人たちって・・・」

もう聞くまでも無かったが万が一ということもあると信じて聞いてみる。

だが人生とはそうはいかないもので僅かな希望は見事に打ち砕かれた。

『あれはあんたたちと同じことをしようとして失敗した人たち。村の人はほとんど試してみたんだけどなっかなか成功しなくて、んで他の元気な人たちはみんな逃げたり隠れたりしちゃって実験台がいなくなっちゃったから道で倒れているふりをしてカモを探してたのよ。そしてその一組目があんたたち、しかも成功者第一号よ!』

そりゃああなた立派な重罪じゃあないですか。しかも村人は実験台で俺たちはその代用品となるカモですか。俺たちや村の人の人権はどこにあるんでしょう・・・俺は声が出なかった。

『重罪だろうとなんだろうとこっちは口がきけないんだから自警団に連れてかれても無罪放免ってわけ。あたしがやったことを知ってる人はいても仕返しを恐れてなんにも言わないし。犯罪なんてバレなきゃいいのよバレなきゃ』

ここまでくると呆れるを通り越して尊敬するしかない。しかもさりげなく完全犯罪を推進しているあたり恐ろしい・・・。

俺たちはなんてついてないんだろう・・・ああ神様、哀れな私たちを救ってください。

『なに?あんた神なんてもの信じてるんだ?そんなんじゃあ駄目よ、崇拝するならあたしを崇拝しなさい。よっぽど現実的よ』

俺はもう無視した。

『あ、無視したわね。蒸発させるわよ』

「ごめんなさい」

 

こうして3人はサーフェイスまでの道のりを進むのであった。

俺たちの人生はどうなるのだろうか・・・。

『あたしがしっかり面倒見てやるから安心しなさい』

うう・・・コフィに面倒を見られるなんて・・・・いつか絶対に逃げてやる!

『無理ね』

俺はもう泣くしかなかった。

 

 

そのころ首都レイゼルでは国王が暗殺されたという大事件がおきていた。

だが俺たちはそんなことを知る由も無い。

 

                            第一話   END

                               

第二話につづく 

  

   

 

あとがき

二作目です
小説を書いていると時間を忘れるもので何時間もぶっ通しで書いてしまうのが駄目ですね
受験勉強の妨げになることうけあいです(馬鹿)
一応連載(?)予定です
なにせ受験生ですし・・・でもしつこく時間を見つけては続きを書いてるかもしれません
前回とおなじく感想も欲しいですがなによりも批評の方が聞きたいです
つまらないと感じたらどんな細かいことでも構いませんので言ってください、精進しますので
ちなみに、ここではキャラの詳しい出生の話や魔術に関しての話は出てきません
というよりは一応連載なので伏線がないとつまらなくなるので(なにを偉そうに)出しませんでした
もし続編が完成すればそこで書く『予定』です
ほとんど思いつきで書いているためこの先がどうなるか自分には分かりません
全くもって駄目ですね。
それでもこんな作品を読んでくれた方は是非感想と批評のほうをお願いします

最後に残党氏へ
またまた的確なアドバイスありがとうございます
そのアドバイスされた箇所を完全に修正できるほどの腕が自分には無いのが辛いです
また厳しいチェックお願いします

残党の感想  

長編ファンタジーです。
連載決定です!
コフィ萌えです(笑)
受験生は大変です。
クエスト氏の腕はかなり上がっています。もう既に抜かれているかも(汗
私も受験の時に小説を書いていました。
小説を書く利点は他人から見ると一生懸命勉強しているように見える所ですΣ(ーー)
まぁほどほどにやってください。どちらをほどほどにかはあえて書きませんが(笑)
コフィの性格ががらりと変わる後半は見事にやられました。
シリアス系だと思ったのに・・・
今後のコフィの活躍に期待です!
次回作を楽しみにしつつ合格祈願もしておきます。

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