die Welt von das Eis(ディ ヴェルト ヴォン ダス アイス)
作:井上氏
start of narrative
灰色の風景
綺麗な円を描く、断崖の風景
人が人のままに立つことを許されない風景
光の届かない風景
闇、極寒、破壊、そして負の遺産が覆う風景
流れゆくのは時間だけ
吹雪く、吹雪く、氷の世界
それは大地の傷跡を隠すかのように
―――ああ、分かっている。それよりも―――
戦 局
2090年イギリス
米英露VS欧州連合による第四次世界大戦当事国の一つであるこの国は、海峡を挟んだフランスを含む欧州連合の最前線となっていた。
戦場は英仏海峡トンネル。別名ユーロトンネルと呼ばれるこの海底トンネルは1990年に貫通し日本の青函トンネルを破った世界一のトンネル。
しかし第三次大戦の際に片方の線路がテロで破壊され、反対側の線路との境を完全に塞ぎ、使用不能にしたため、現在トンネルは一本だけとなっていた。
ドーバー海峡は開戦当初に両国が大量の機雷(水中の地雷)を撒いたために揚陸策戦が行えなくなり、二国間を唯一繋いでいるトンネルを取れば相手国へ一気に攻め込めるとあり、何とかこれを確保しようと、他の戦線は戦力の再編のため小規模化する中で開戦当初から変わらぬ激戦を繰り広げていた。
「アルバート先輩〜!」
呼ばれた相手、英軍特殊空挺部隊(通称SAS連隊)第一特科隊長――エイム・アルバート中佐――は自分を呼んだ相手、副長に振り返りつつ溜息をついた。
「どうしたんですか?先輩」
今年17になったばかりの史上最年少のSAS入隊経歴を持つ青年(副隊長)は尋ねたが返ってきたのは返事ではなく頭上に降ろされた鉄拳だった。
ごつん。
「いっ!な、何するんですか?!」
「職務中は隊長と呼べといつも言っているだろうが。それで、どうしたエンタート大尉?」
階級を強調すると、頭を押さえていた副長――サクス・エンタート大尉――は姿勢を正し、報告した。
「豪州近海に停泊中の艦隊より連絡がありまして、豪州が爆発と共に消滅したそうです」
「!?……豪州
は
SAM
と
ASM
の宝庫だろ。爆撃にしろ弾道弾にしろ迎撃は充分可能なはずだ。大体EUは反物質を持ってない。それに、英国海軍は一体何をやっていたんだ」
「いえ、敵戦力は確認していません。突然爆発したそうです」
「・・・・・・・まあ何にしろ消滅したのは事実か。この時期に戦力ダウンはキツイな」
「駐留軍は全滅。残った前線の部隊も戦意喪失は免れませんし。あの、それと………」
「豪州はひとまずいい。それよりも例の車両完成したか?」
「えっと…はい、今こちらに搬送中です」
「さすがLAGを開発しただけはあるな。よし、全部隊に伝達。『
EURO
STAR
』だ」
告げて立ち去ろうとするエイムに
「了解しました!・・・・・・・あ!せんぱ・・いっ!」
ごつん。
「・・・・・何だ」
「忘れたんですか?!豪州には今、連隊司令と護衛の第二隊が・・・・・・!」
頭を押さえ涙声で叫ぶサクス。
「!!」
「どうしますか?策戦は延期して本部に戻りますか?」
「・・・・・・いや予定通り策戦は開始する」
「しかし!」
「今しかチャンスはない。全員にLAGを準備するよう伝えろ」
LAG―――Light Armor Gear―――
SAS専用にエニマース博士がAGを基に開発したモノで密閉装甲のAGと違い、全身を特殊装甲で覆われているが間接部は GF 繊維になっており、アイパーツは透明性・対衝撃に優れるネオポリカーボネットを採用。
AGに比べ装甲強度は劣り12.7mm弾を防ぐのが限度だが、標準サイズで比較するとAGの2,5mに対しLAGは2mと正体面積が小さくなり機動性が大幅アップした。
人工筋肉の出力は落ち、BADは搭載されているが機体維持と自動標準のみで生命維持などAGにある機能の大半は無い。
自動小銃程度なら片手で精密射撃が可能。
脚底に RD 機構が付いている。
統一規格の機体に対し体格の個人差を埋めるため、機体との隙間は衝撃吸収素材が挟まれている。
「・・・了解しました」
エンタート大尉は敬礼すると走り去り、一人になったエイムは俯き手を握り締めた。
mistake
それまでのユーロトンネル攻防戦は線路を利用した策戦が殆どで装甲列車や爆薬満載の無人列車を対岸へ走らせるなど作戦とも呼べぬ手段が大半だったが、ここにきて英軍はアルバート中佐が考案した策戦を採用した。
それは何も奇策だった訳ではなく、本人に言わせれば「原点に戻る」のだそうだ。さてどういう策戦なのかというと………………
「このトンネルに限らず、トンネルを造るためには穴を掘る掘削機が必要だ。そして掘削機の実際に削る部分、この部分を複合装甲で強化しトンネルを進ませる。敵はトンネル幅いっぱいの掘削機を避けることが出来ないので一方的に後退させることが出来る。このトンネルを掘った日本企業から掘削機を米国経由で調達し、エニマース博士が完成させた。彼女はLAGの設計者でもありSASは大いに世話になっている。じゃ、大尉後宜しく」
そういうとエイムはどっかりと自分の椅子に腰を降ろし、同時にサクスが立ち上がり話を続けた。
「では割り振りですが、掘削機は僕が運転します。皆さんは地雷等爆発物の処理を含む車両支援と拠点構築をお願いします。距離があるのでこれはトンネル距離ごとの各隊輪番制にします。何か質問は?」
「坊主、いいか?」一人が手を挙げた。
「どうぞヴァリアント大尉」とサクス。
ヴァリアント先任大尉―――連隊の中で一番の古株。本来ならば彼が副長なのだが、本人は頑なに拒否。代わりにサクスを推薦した人物。自分の子供くらいの年齢であるサクスを「坊
主」という愛称で呼ぶ。
「もし掘削機・・・・というよりはシールド車両だが、もしコイツが途中で破壊されたりしたらどうするんだ?」
その問いにはエイムが答えた。
「そうだな、その後は我々『SAS』が残った距離を制圧するってのでどうだ?」
「なるほど、そりゃ最もだ」苦笑で応じる大尉。ついで周りも意味を悟り苦笑した。
エイムは全員を見回して、一転して真面目な口調で言った。
「会議終わりの前に聞いてくれ。皆も承知のように先程連絡があり豪州が爆発により消滅した。当初は敵の攻撃かと思われたが、実験中の反物質による爆発の線が高まってきた」
サクスが続ける。
「豪州軍のタイムスケジュールを調べたところ、爆発前後の時間帯は反物質の精製作業でした。恐らくこれが原因ではないかと思われます」
「・・・・・尚、同地で会議に出ていた連隊司令及び護衛の第二隊も巻き込まれた。英国海軍では生存確率ゼロとみている。明日の策戦は何としてでも成功させ、司令への弔いにしよう。・・・・・以上」
エイムが告げると隊員達は席を立った。
「エニマース博士ってどんな人ですか?」
掘削機の操縦方法を教わるべく、会議終了後エイムはサクスを博士の所へ連れて行こうとした。インテリが苦手なサクスは躊躇したが、「俺もインテリは苦手だから」とか「行かないと色々と後悔するぞ」とか言われ(脅され)結局行くことになり、その道すがらサクスが尋ねた。
「ん?LAG造った人だぞ」
「いえ、そういう事ではなくて……。セン・・・・いえ隊長は会ったことがあるんですか?」
「LAGの性能試験の時にな。それもデート付きだ」
「そうですか、じゃああまり芳しくない方なんですね」
「それはお前の美的想像センスが歪んでるってことだよな」
「いいえ違います」
「じゃあお前を何度も救ってやった偉大な先輩の美的センスが歪んでるってのか?」
「それも違います」
「じゃあ何なんだよ」訝しがるエイム。
「先輩の言葉が信用できないだけです!」
「おいおい俺はそんなに信用ないか?」
「当たり前です。じゃあ聞きますけど一昨日の訓練は何なんですか?」
「あれか?注意力を高める訓練だが?」
「海岸単独・装甲目標想定で『カニ』と戦うことが訓練ですか?!」
「フォークも徹さない装甲あるだろ?」
「装甲じゃなくて甲羅です!・・・・・・じゃあこの前のは一体どう説明してくれるんですか!」
「この前って?」
「シールズ司令官との会合の時ですよ。先輩が遅刻した時です。あの時先輩何て言ったか覚えてますか?」
「ああ、あん時か。『キツめだから覚悟しとけよ』だろ?」
「そうです。どんな怖い人だろうって冷や汗だらだらだったんですよ?それを着いてみたらただ太ってるだけじゃないですか!そもそもあの人本当にシールズなんですか?丸い顔に丸い胴体……雪ダルマじゃないですか!それも真っ赤で口から泡吹いてカニみたいで。カニダルマですよ、カニダルマ!怖いどころか会合の間噴き出さないように必死だったんですよ?!」
「だから言ったろ。キツめだって」
「だから何がですか!」
「ベルトが」しれっとエイム。
「じゃあ何に覚悟するんですか!」食い下がるサクス。
「体臭」
脱力のあまり壁に手をつくサクス。
「冗談だって」
「体臭なんか気にしてたらSASに入れませんよ・・・・・」
「・・・・・それもそうか」納得したように大袈裟に頷く。
「は〜もういいです。あれ、先輩どこ行くんです?」
あらぬ角で曲がるエイム。
「ウォシュレットだ。先行ってろ」振り向かずに応える。
サクスは一人で格納庫へと向かった
通路の角を曲がった所、格納庫までもう少しの地点でサクスは立ち止まった。そして呆気に取られた。前方に立つ人間の容姿とその行動に。
(女性。GパンにGジャケット。背は自分より少し低い程度。全体的に細身。歳は20手前といったところか。顔は・・・・・・)
SASとして無意識に人物観察をするサクス。そして視線を上げると―――――
(び……美人!)
ゴールドのセミロングに清楚な顔立ち。
見惚れているサクスだったが、顔を振って再び不審者に注目した。実際のところ外見はさておいて、問題はその行動であった。同じ所を回り、時折止まっては手帳を眺め、今度はバックから小型の機械を取り出し、画面をチェックしてからまた歩き出す。近くの扉を開け、中を確認してから溜息をつき扉を閉める。
怪しさ大爆発である。
(基地の人ではないしなぁ。スパイか?スパイは美人と相場が決まってるし。後は自爆テロか・・・・・・。中東では若い人が多かったって習ったし。何にしろとりあえず確保……か)
一部偏見が混じっていたが、決断するや否や拳銃を抜き、スライドを前後させると一挙動で飛び出し、女性の前に出ると銃を向けた。
「バックを床に置いてゆっくり手を挙げて下さい」
女性は自分に向けられた銃と相手の顔を見、驚愕の表情を浮かべゆっくりと指示に従った。
(困った………この後どうしよう)
考えた挙句、セオリー通りの質問をした。
「どこの所属ですか?」
「・・・・・整備部、装備開発課です」
(……そんな部署あったっけ?)
「ここで何をしていたのですか?」
「ちょっと道に迷ってしまって・・・・・」
「どこへ行こうとしていたのですか?」
「・・・・・・格納庫です」
女性は拳銃のせいか、オドオドしながら答えた。
(格納庫・・・・・やっぱりテロか?そうすると爆弾か。チェックするしかないな。でも男性による女性への身体検査は規則違反だしな・・・・・。そうもいってられないか)
「念の為身体検査を行います。動かないで下・・・・・・」
後頭部に何かが押し付けられカチリ、という音でサクスは言葉を切った。
(二人目がいたのか!)
ちらっと女性を見ると明らかにホッとした顔をしていたのでこの考えは確信へと変わった。
とりあえず銃に安全装置を掛け、床に投げ捨てたサクスは無駄とわかりつつ聞いてみた。
「も、目的は掘削機か?」が、予想に反して返ってきた言葉は
「何やってんだお前?」と聞き慣れた声。
驚いて振り返ると
「せ、センパイ〜」
エイムが立っていた。
「びっくりさせないでくださいよ〜」
「驚いたのはこっちだ。人がいない間にレディーに拳銃突きつけて追い剥ぎとは、いい根性してるな」
撃鉄を下ろし、銃をしまいながら冷ややかに告げた。
「ち、違いますよ!不審者がいたんで・・・・・」否定するサクス。
「身体検査は問題だな。規則違反だし、こりゃ立派な強制わいせつだな」
「まだ触ってません!」変なところを指摘するサクス。
「じゃあ強制わいせつ未遂だ」
「あうっ・・・・・・・・」
項垂れるサクスを放って、エイムは女性に声を掛けた。
「怪我はありませんか?変なこととかされませんでしたか?」
「いえ、大丈夫です」
「ウチの者がご無礼をしました」
「先輩、お知りあいですか?」
「アホ。この人がかの有名なルッシェ・エニマース博士だ。才色兼備の見本みたいな人だろ」
お約束の一言にサクスは全身の体液が凍った。
「そんな、才色兼備だなんて」否定するルッシェ。が、微妙に頬が赤い。
「お前が俺のことを信用しないからこういうことになるんだ。言ったろ、『行かないと後悔するくらい美人だ』って」
果たして言ったかどうか怪しいエイムの言葉を無視し
「す、スミマセンでした!」彼女に向かい、腰から90度に上体を曲げるサクス。
「そ、そんな謝らないで下さい。うろうろしていた私が悪いんですから」
恐縮するルッシェを前に更に言葉を足す。
「で、でも・・・・・!」
「まあまあ、博士がいいって言ってるんだから」
「僕が納得いきません!」
仲介に入るエイムに言い切り、封筒を渡した。
「『査問会願』!?」封筒にはそう書かれていた。
「策戦開始まで部屋で謹慎してます!」
言うな否やルッシェに再び頭を下げ、もと来た道を全速力で引き返していった。
「お、おい!・・・・・・あちゃ〜、まずったなぁ」
「どうしましょう。こんな事になるなんて・・・・」
苦笑するエイムに心配顔のルッシェ。
「ちょ〜っとからかってやるつもりだったのになぁ」
「真面目な子なんですね・・・」
と、エイムが所持していたレシーバーから声がした。
『ザザッ・・・・エイム、どうするんだ?』ヴァリアント大尉からだった。
そう、実はサクス、この二人にハメられていたのだ。彼らだけではない、一連の出来事は監視カメラを通じて同僚の殆どに見られていた。
エイムが企画した『衝撃(笑劇)ドッキリ大策戦』はサクスの先入観を取っ払い、且つ親睦を深めるのが目的で、あの後すぐバラして笑って終わらそうとしていたのだが・・・・・
「大尉〜どうしたら良いと思います?・・・・・っと、それより博士」
「はい、何ですか?」
ヴァリアントに応えてからエイムはルッシェに近づき、誰に聞かれる訳でもないのに耳打ちした。
「はい、勿論です」と笑顔で応え、一礼して格納庫に向かう。
「それにしても何であいつこんなの持ってるんだ?」
レシーバーの向こうでヴァリアント達が真剣に考えているのを他所に、封筒を室内灯に翳して透かし見ながらこれをどうするか悩んでいた。
OPERATION EURO STAR
「よう、どうした坊主。元気ないな」
LAGを装着したヴァリアントは策戦直前だというのに未だにLAGを着ていないサクスに話し掛けた。
「はい、まあ・・・・・」
「大丈夫か?顔色も悪いぞ。これから一大策戦って時に、しっかりしろ。お前さんは掘削機という一番重要なポジションにいるんだからな」
サクスは掘削機という名詞から何を思い出したのか、身を強張らせると
「いえ、ちょっと事情がありまして操縦は隊長がすることになりました」
と、搾り出すように言った。
「そうか・・・。ま、何にしろ元気出せや。そんな顔してるとツキも逃げちまうからな」
そう言って立ち去った。
「はぁ」
サクスは溜息をついて各隊を調整する司令部のテントに向かった。
その頃エイムは掘削機の運転席で最終チェックをしていた。
「へえ、刃がちゃんとついてるのか。……それよりも、ありゃあ相当重症だぞ」
サクスのところを去ったヴァリアントが運転台の傍まで来て言った。
「そんなこと言われても・・・・・年長者として何か良い方法は無いんですか?」
「そんな簡単に見つかったら世の中の学者は商売上がったりだ。それに隊長はお前だろ。兵の士気を保ち、隊を安定させるのも立派な役目だぞ」
(ずるっけえの)
表情にはおくびも出さずにエイムは心の中でヴァリアントを恨んだ。
「でも今はそんなことを話している暇はありませんよ。この策戦が終わったらじっくり考えましょう」
「そうだな。ただ例の計画に支障がでないようにせんと。・・・・・おっと時間だ。では頼むぜ隊長」
途中、周り、特に後ろにいる人物に聞こえないよう声を潜めて、ヴァリアントは車両の後方へ下がった。
「エニマース博士、準備はいいですか?」
作戦中、掘削機の修理のため車体の後部手摺に掴まっているルッシェに声をかけ、頷くのを確認してからエイムは無線機を掴んで叫んだ。
「
全部隊
へ
、
『ユーロスター』。
繰り返す
、『ユーロスター』!」
無線に各隊から確認の返事がきたのを確認してエイムはギアをトップに入れアクセルを目一杯踏み、車体を大トンネルの中に突入させた。
「前方に敵AG出現。偵察機と思われます」
トンネルの1/3を通過した時、車両の傍にいる高出力の各種探査装置を搭載したAGから連絡を受けると同時にシールドに火花が散った。
「お、撃ってきたな。小火器程度じゃキズしかつかねえぜ」とエイム。
「敵AG、探査範囲外まで離脱」
「地雷は?」
「探査範囲内では確認してません。・・・・・・っとAG3機確認」
「お、今度は何するんだ?」
「アルバート隊長、なんだか楽しそうですよ?」とルッシェ。
<ピーピーピー>
AGコクピットに警報音が響く。
「前方より
携行ロケット
らしき熱源反応!」
「撃ってきたか!」
煙の尾を引いて飛んできたロケットがシールドに直撃、大爆発。
「博士、シールドはもちますか?」
「大丈夫です。もっとも普通の装甲じゃ大破してますけどね。私が改良した複合電磁反応装甲シールドはそんな柔じゃありません」
耳を塞ぎながら自信たっぷりに言うルッシェ。
「了解博士。各隊へ、このまま前進する」
途中、地雷・指向性爆薬・重機関銃・手榴弾・RPGと幾多の攻撃を受けながらトンネルを進み、観光用に造られた水中駅『シーベット駅』までの全行程3/4を制圧したがシールドは殆ど壊れかけていた。
「ようし皆もう少しだ。博士、車体は大丈夫ですか?」
「シールドのダメージがそろそろ限界です。車体もこれが終わったらもう使えませんね。・・・・・あっ、アルバート隊長を責めてるわけじゃないんですよ」
「わかってますって」笑顔で応えるエイム。
「隊長、このまま進めば昼過ぎには到達でき・・・・キャッ!」
と、200mほど後方のトンネル側面が爆発した。
「何があった!」
無線に問い掛けると
『
敵
!爆発坑よりAG!これより迎撃に入る!』
と返答があり、声に銃声が重なった。
「くそっ!博士はここに居てください。俺も迎撃に加わります」
言うなりエイムは車両から降り、LAGのウエポンホールドからDR―22 20mm半自動小銃を取り出すとRDを作動させ、戦闘に加わるべく移動した。
一方、テントで無線を聴いていたサクスは迷っていた。行くべきか、行かないべきか。いや『行かない』のではない。『行けない』のだ。謹慎中の隊員は前線に立つことを禁じられている。違反すれば処分が冗談抜きで2乗されることもある。
(どうしよう・・・・・・!)
隊長達なら自分が参戦しなくても勝てると思う一方で、SAS隊員としての戦闘欲求や元来心配性の性格が葛藤を起こしていた。が、実際のところ彼の心は1対2で決定していた。
サクスは無線機を置き、何か武器を探そうとテントを出て、脇にあったLAGを見て驚いた。横にはエイムの予備のDR―22。
(先輩・・・・・感謝します!)
数秒で装着するとDR―22を持ちRDを全開して、トンネル横で大急ぎで増援準備している輪番待ちの部隊を追い抜き、中に入っていった。
薄暗いトンネルに曳光弾が飛び交っていた。
「チッ、こいつらGSG9だ・・・・!」エイムは歯噛みした。
GSG9とは独軍特殊部隊で、WWVまでは合同策戦を取っていたこともあった。
「ぐうっ・・・!」
側面から一掃射を受けてエイムは機体をRDで後退させ、弾道を追って向き合った。
と、再び一掃射
「クソッ!」回避し再び後退しながら敵AGの動きを追う。
(あの撃ち方・・・・・・)
エイムはフェイスガードを開き、独語で言った。
「
Bist
du
Garland
?」
相手はAGの外部スピーカーを使い、英語で応えてきた。
「
That’s
right
,
as
might
be
expected
.」
「まさかGSG9が配備されているとは……。そこまで評価されてもね」
二人は距離を取りながら互いの母国語で話を続けた。
「ふん、よく言う。それにここに来たのは俺の意思だ」
「我々と戦うことが判っていながらなぜ・・・・・?」
「だからだよ。俺は一度SASの実力を試してみたかったのさ。西側最強と言われている部隊がどんなものかな。そういえばあの少年はどうした?俺はSASのトップ二人を倒したいのだがな」
「……まあちょっとありまして。その内来るかと・・・・。それよりどうしてもやります?」
エイムは苦笑して答え、冗談めかして聞いたがガーランドは無言。
「ったく、仕方無い。相手になりましょう」
フェイスガードを閉じRDで一気に距離を詰める。
「いい覚悟だ!」
ガーランドは叫びつつ重機関銃二挺を腰溜で撃つ。
AGは背部スタラタを、LAGはRDを使い
H
&
A
を繰り返した。
「エイム、援護する!」
1on1を始めた二機を見て、ヴァリアントは6連発回転式砲――エクスカリバーW――を撃った。
「
Mit
!」緊急回避するガーランド。
「大尉、下がっていて下さい」
「しかし!」
ヴァリアントに親指を立てるエイム。
「オルブライト!奴の相手をしろ」無線で指示をするガーランド。
『ザッ・・・・・了解』スピーカーに流れる一瞬の雑音と声。
「大尉、後ろ!」
「貴様の相手はこの私だ!」
突如乱入したAGによる
軽機関銃
の掃射をかわすも機体にいくつか被弾。
「第二ラウンド、いくぞ!」
ガーランド機が射撃を再開。
「・・・・・・・・!」エイムは際どく回避して反撃にでる。
AGはバーニアで跳び、回避。
「しまった!」
上を取られた為RDで右に全力で移動する。が、
(・・・・・あれ?)
ガーランド機は射撃せずにエイムが元居た場所に着地し、振り向きざまに撃った弾が機体を追いかけるように飛ぶ。
(甘い!このコースなら当たらない)
RDで横滑りしたまま撃とうとした矢先、脚が縺れ機体が倒れる。
「がっ・・・・・・!」
横滑り姿勢だったのでモロに衝撃を受ける。ミシッと胸部で音がしたが気にせずに機体をR
Dで起こし、後退しようとして・・・・・・・動かない。
その間もAGからの射撃は続く。
命中箇所に衝撃が走る。
腕に付いてる折りたたみ式シールドを展開しスタラタで跳躍後退。
HMD
に機体状況が表示され、内蔵スピーカーからBADの合成音が矢継ぎ早にダメージを告げる。
「散布地雷?!跳躍した時にか……!」
「お前達の負けだ」エイムと反対を向くガーランド。その先には―――
「
DAMN
!」
エイムは銃を捨てて積載している熱誘導
ロケット砲
を取り出し、放つ。
ガーランドは予め予想していたように振り返りもせず背中にある
熱源体
を発射、展開させ、一挙動でRPGを構える。が背後でチャフに寄せられたLAWが爆発、姿勢を崩す。
(
Erstaunt
……!)
姿勢を戻し、トリガーを引く。
攪乱する手段の無いRPGは白尾を引き真っ直ぐルッシェの乗る掘削機へ―――――
一方、ヴァリアントはオルブライトのAGに苦戦していた。
AGは上手く回避して腕部内蔵の軽機関銃で当ててくる。ダメージは低いのだが、LAGの軽装甲と『塵も積もれば〜』の原理で、少しずつ追い詰められていた。
「AGにしてこの動き・・・・お前、GSG9の裏チーム『
BUSH
』だな?」
「答える義務はない」
「一人でこの俺に勝てると思ってるのか?」
「そっくり返す」
「つまらん奴だな」
「いつまでその余裕が続くかな!」
大半が機体に命中するが、ヴァリアントは避けようともせず、キャノンを撃つ。
「肉を切らせて骨を断〜つ!」
一発目
弾はAGの真横を通るコースを飛ぶ。
「下手くそが!」
2掃射目を繰り出そうとすると、背後の爆発をモロに受け、吹っ飛ぶ。
「ぐあッ!・・・・・じ、時限信管か!」
二発目
機体を起こしていたため回避する間もなく直撃。
とっさに出した右腕に命中し、軽機関銃ごと腕部は大破するが胴体の損傷は軽微。
「お前の負けだ。5秒以内に機体から出ろ」
「パウエル!ラムズフェルド!」ヴァリアントを無視し無線に叫ぶオルブライト。
『『おうっ!』』ハモる声。
「3・・・・2・・・・何?!」カウントを切り、咄嗟に身を翻す。
RDで下がりながらオルブライトに向かって撃つが、既に起き上がっていて回避された。
「成る程、これで揃い組か」
いつの間にかオルブライト機の左右に立つAGを見て、言った。
「オルブライトを殺るとは流石だな」とパウエル。
「まだ死んでねえ」
「まあいい。いくら・・・」
「よくねえって、聞いてんのか!」
「黙ってろ(怒)・・・・SAS有数といえども次で終わりだ」と続けるラムズフェルド。
「我々が100年も前の映像から偶然発見し、改良した必殺技を受けてみよ!」
「「「必殺!」」」
三人が順に移動、跳躍。ヴァリアントに迫る―――――
<ドン!>
「ジェーッ・・どおっ!」
<ドン!>
「ストリー・・・むぐっ!」
<ドン!>
「アターッ・・ぐわっ!」
それぞれ腹部・胸部・組まれた手に防御行動無しでモロに命中し、三機とも衝撃で姿勢を崩す。そこへ追い討ちを掛けるように(実際掛けているのだが)
単発連射
の発射音が響く。
<ドンドンドンドンドンドンドン―――――――――!>
連続発射
の如き勢いで弾丸が発射され、弾切れでようやく止まった。
AGはどうなったかというと、貫通こそ(殆ど)しなかったもののパイロットは装甲強度ギリギリの弾の衝撃を全身に受け(貫通もして)、三機ともあえなく擱坐。
「ヴァリアント大尉!無事ですか?」
「おお、ようやく来たか坊主」
三機を警戒しつつ振り返るとサクスが立ち膝でDR―22を構えていた。
「お前、謹慎はいいのか?」茶化して聞くと
「・・・・一応覚悟してます」苦笑して答えるサクス。
「センパ・・・・隊長はどこですか?」
「あいつは向こうで一騎打ちの最中だ」
「隊長が?珍しいですね」
「・・・・相手はガーランドだ」
「GSG9が来てるのは知ってましたが、まさかガーランド・・・・さんまで」
サクスは苦しい顔をした。
「ここは俺が片付けておくから、お前はエイムの所へ行け」
「僕が行くより大尉が行ったほうが・・・・」
「俺はさっき追い出されちまった。あるいは坊主なら――――」
「分かりました。僕が行ってどうにかなるか分かりませんが、行くだけ行ってみます」
サクスは急いでエイムの元へと向かった。
「・・・・・さて、とりあえずこいつらを叩きのめしておくか」
ヴァリアントは起き上がりかけている三機にキャノンの銃口を向けた。
まず一機目。起き上がりの早い機体に撃つ。
近距離で撃った低伸高速の弾は胴体に突き刺さり、爆発した。
が、ここで二機が思わぬ行動に出た。キャノンが発射された直後、バーニアで機体を強制的に起こし、爆発に紛れそのまま離脱してしまった。
「逃げ足だけは速いな。腐っても『BUSH』か」
と逃げた方向の先を思い出し
「まずい!」
ヴァリアントは奴等が逃げた方向―――エイムが戦い、サクスが支援に行った―――に自分の迂闊さを呪いながら追った。
途中、AG一機を戦闘不能にしたサクスは、距離はまだ大きくあったもののガーランド機の斜め後方に立った時、エイム機が足元の小さい爆発で倒れるのを見た。
(地雷だ!策戦中に処理しそこねたのか!先輩がマズい!)
と、勘違いをしつつも大勢は的確な状況把握をし、援護しようとガーランド機にDR―22を向けた。しかしガーランドが銃を捨て、エイムと反対を向くのを見、気づいた。
(目的は掘削機か!……エニマースさんが!!)
エイムがLAWを発射すると同時に、サクスはガーランドと掘削機の距離を比較し、AGを警戒しつつスタラタで跳躍し、掘削機に近づこうと動いた。
(RPG?!)
ガーランドが熱原体を展開させ、携行ロケットを構えたのを見てRDに切り替え、倒したAGから回収した2連装マシンガンを構えた。
携行ロケットが発射されるとほぼ同時に、サクスはRPGの通過コースに向け2連装マシンガンのトリガーを引き続けた。
<ドヴァヴァヴァヴァヴァ――――――――――!>
(
JESUS
!!)
二列の弾道をRPGが横切る。
(ダメか?!)
<ドーン!>
(やった!)
空中で爆発し、四散するRPG。
「うわっ・・・・!」
後ろから衝撃を喰らってサクスはうつ伏せに倒れ、その横を『BUSH』のAGが一機、駆け抜けていった。
「ま、待て!」
スラスターで機体を強制的に起こすと弾切れのマシンガンを捨て、熱誘導LAWを取り出し、AGめがけ放った。
『BUSH』のAGは機動性重視の為、熱原体は搭載されてなく、直撃。
命中を確認するとRDを作動させ、掘削機へ近づく。と、内蔵レシーバーに入電。
『ザッ・・・・二時の方向!』
見ると『BUSH』最後の一機が掘削機へ迫っていた。
「博士、逃げて!」サクスは掘削機に叫んだ。
(このままじゃ間に合わない・・・・・・・・一か八かだ!)
「時間を稼ぎます!フォローよろしく!」
『何する気だ!』
無線には応えず、RDを最大にして加速すると音声認識に叫んだ。
「強制除装!」
瞬間、LAG前面・頭部各所の爆発ボルトが作動し、機体から開放されたサクスは機体を蹴り、更に加速。
掘削機から降りて敵が迫っているのを見、立ち竦んでいるルッシェに飛び付き、勢いで転がった。AGがこちらに拳銃を向けるのを見て、咄嗟にルッシェとAGとの間に入り、AGに背を向けルッシェを抱きしめ、目を瞑って祈った――――
(貫通しませんように!)
そこでサクスの意識は衝撃と共に途切れた。
2002年某月X日
世間がワールドカップと全高総文祭で燃え尽きた頃、とある医療機関の長期滞在者用の部屋で事の全ては始まった。
ここにその会話の記録を明かす…
残党:「おう『はっちん』元気そうだな」当時、肺にダメージを抱えていた私はそう呼ばれていた。
作者:「久しぶりだな大和の諸君」
残党:「オオワ?……俺は吉良大和なんて名前じゃないぞ?」
作者:「ダイワだボケ」
残党「………(滅殺!)」
――――――――以下略(この記録は最初の2行を除いてフィクションです)―――――――
何はともあれお初にお眼に掛かります。本当の出来事は中編のあとがきで書くとして、
とにかくここに1世紀の年月を経て(編集者:1年だろ)残党氏の宗教HPに掲載されることになりました。(だ、誰だ?!……ああっウソです!ウソだから……連れてかないで〜!)
サクス:え〜っと、作者が拉致されたので、代わりに僕サクス・エンタートが担当します。
作者:勝手に某国に連れて行くな。……そりゃあ行ってみたいけどさ(背後を確認)それにしてもお前、わいせつするし撃たれるし、大変だな(他人事)
サクス:ワイセツはまだしてません…!僕としては撃たれるより博士の方が大変ですよ〜……。
作者:俺もそうなんだよな〜、失敗ばかりで……。
サクス:そうなんですか?作者の過去に一体何が……?!
作者:ほっといてくれ。ああ、そうだ、お前死ぬからな。
サクス:ええっ?!そ、そんなぁ……
作者:こんな作者&作品ですが、どしどしご批判待ってます。バシバシ叩いてください。
本編&あとがきの(サクス用)テーマソングは井上陽水『人生が二度あれば』を推奨。
残党の感想
私の友人であり悪友であり同志である井上氏より頂いた作品です。
クッキングオフの100年前に起こった第四次世界大戦のお話です。
この戦争のせいで核の冬がおこり人類はシェルターに住む事になります。
まぁそれはこっちのお話なので置いといて。
マニアックです!
いや私にとってはそうでもないのですが普通の人には分からない事だらけでしょう(汗
おすすめのシーンは装甲目標が「カニ」だった〜
というやり取りの所です。
好きだな〜こういうお茶目な先輩(笑)
さてさてサクス君の安否が心配ですがそれよりルッシェの安否の方が心配です(ぉぃ