ターランの夢が叶った世界

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タマちゃんのお話

 町の中にある、草むらにすとんと座る。気持ちのいい風が頬を撫ぜて、買い物に疲れたターランを潤してくれる。いつもの待ち合わせ場所。ターランが一番乗り。トゥーリナはザンと何処を歩いているのだろう…。
 3人の生活にもすっかり慣れ、日々平和だ。このままずっと、3人仲良く何事もなく幸せだったらいいなと思う。
 満ち足りているターランの耳に、街頭TVの声が聞こえてきた。
「この商品は“子供の遊び相手”と言います。卵の状態でお子様へプレゼントしましょう。この卵を割らないように大切に保存しておくと、2週間で孵化します。物を大切にする、自分よりも弱い物を守るといった、大切な感情を発達させるのに役立ちます。そして、生まれてきた生き物は、お子様にとって良き遊び相手となるでしょう。」
 『宣伝するのにTVを使うなんて、人間界みたい。しかも、なんかすっごい商品?買う人居るのかな。』驚きつつ顔を上げて、画面を見た途端、ターランは凍りついた。「こちらがその中身です。」
 ちょこんと座っている小さな裸の生き物達。背に堕天使のような翼があり、中にはふわふわ飛んでいる子もいた。その中に、幼い頃のトゥーリナそっくりの子が居たのだ!楽しそうな子達の中にあって、指を舐めているその子は、少し寂しげに見えた。そんな所まで、トゥーリナにそっくり…。
 『欲しい!!買っちゃお!』
 画面の下に、テロップで電話番号が出ている。その商品の説明はまだ続いていたけれど、ターランはもう、聞いていなかった。


 元気一杯のザンと、優しい表情のトゥーリナが、待ち合わせの場所にやって来た。
「ウィンドウ・ショッピングっていうのも楽しいな、トゥーリナ!」
「ん?お前は難しい言葉を知ってるな。それ、どういう意味だ?」
「品物を見て歩くだけの買い物さ。」
「あ、俺達が今してきた事か。」
「そうそう。」
 ザンは、荷物だけが取り残されている場所に着くと、辺りを見回した。「これ、俺がターランに買って貰ったリボンだから、これ、俺等の物だよなあ…。」
「どうした、ザン。」
 トゥーリナの言葉に、彼女は荷物を指差した。「荷物だけ…?ターランは何処へ行ったんだ…?」
「便所かな?」
「あー、そうかもな…。…まあ、すぐ戻ってくるなら、心配要らないだろうし…。」
「盗られるような物は、入ってねえぞ。」
 ザンは中身を確認しながら言った。
「そっちの心配じゃなくて、ターラン本人。」
「ややこしい言い方だな。」
「そうか?」
 トゥーリナは不思議そうに言った。「…ま、二人で待ってようぜ。いつも待たせてるから、たまにはゆっくり待ってやるのもいいだろ。」
「ん。」
「はい、って返事しないと、ターランに怒られるぞ。」
「そういう注意の仕方は良くないぞ。トゥーリナ自身の言葉で言えよ。気持ちが伝わらないからな。」
「お前、最近生意気。正論を吐かれると腹が立つ。」
 トゥーリナはザンを膝に乗せ、軽くお尻を叩いた。「ごめんなさいは?」
「くすぐってー。ごめんなさい、ごめんなさい。」
 ターランが見たら、ちゃんと躾けてよ、と愚痴を言われる光景だが、じゃれ合う二人は楽しそうだ。


 ターランが何処に居たのか、というと…。
「本当に何枚でもいいんですけど…。」
「電話代ってそんなに高くないんです。なんせ、使う人があまりいませんから。」
「そうですよ、そんな高級品、おいそれとは頂けません。」
「でも…。つい、周りが見えなくなってしまって…さっきの俺は、かなり失礼だったと思うんです。」
 ターランは小さくなりながら言った。「じゃあ、5枚、置いていきますね。換金所では、5枚までしか取り扱ってくれない筈ですから。」
「2枚でいいですって。」
「1枚でもいいくらいです。」
「まさか、そんな訳にはいきません。」
 レジの前で、わたしが払う、いやわたしがと、揉めるおばさん達みたいになってきた。こうなったら、誰かが引かないと永遠に終わらない。でも、ターランも、町長夫婦も、譲る気配はない。『強情だなあ…。』ターランは息を吐いた。
 通販番組を見たターランは、あのトゥーリナに似た子を購入すべく、電話を所持してるであろう、町長の自宅を訪ねた。商品名を忘れないように一刻も早くと焦ったターランは、ロクに事情も説明せずに、電話を半ば強引に借りた。現金の持ち合わせがない彼は、お詫びと電話代を兼ねて、自分の羽根で払うと二人へ言った。超高級品である堕天使の羽根を好きなだけ渡すと言われ、二人は仰天し、いらないと言い出したのだった…。






2004年05月25日(火)

■作者からのメッセージ
ぷよ様の漫画からちょっと前のお話です。一部、漫画と違う所がありますが、世界観に合わせた為です。

ぷよ様へ
商品紹介の文句を一部変えて使わせて頂きました。わたしの言葉では考え付かなかったもので…。
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