あるかもしれない未来

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途中
 むしゃむしゃむしゃ…。ラークは朝食をとっていた。最後に大根の漬物に手を伸ばした。ばりばり…。
「なかなか美味い。」
 一枚を手に取り、玄関へ向かう。ふと振り向き様、「メイドロボ。茶碗、洗っとけ。」
「分かりました、旦那様。」
 いかにもな機械の音声が帰ってきた。ラークは、外へ出た。
 ゴオオオォォォォ。
「うるせえ…。」
 頭上から飛行機の飛ぶ音がした。少しすると、実際に鉄の塊がゆっくりと飛ぶのが見えた。猫は人間より耳がいいので、騒音を強く感じてしまう。
 空中を睨んでいるラークの瞳に、変な動きをする星が見えた。
「今度は何処の星からお出ましだよ…?鬱陶しい。」
 ラークは宇宙船に愚痴った。

 第一者リトゥナと第二者ターランが、人間界と公に交流すると妖魔界のTVで放送した。ずっと何処かに消えていた創造主が復活し、妖魔界の神が定めた決まりをなくしてしまった。その結果、妖魔界を始めとする魔法界は人間界に姿を現わせたのだ。
 ターランは、前々から人間界との交流を望んでいたし、リトゥナは、母が元人間なのもあって、人間界に興味を持っていた。二人の利害は一致した。しかも、地球は修復不可能なほどに環境破壊が進み、一般の人間は、宇宙に行くか、何処か他の場所に行くしかなかった。宇宙旅行は危険が多く、人間達は妖魔界に住む事になった。他の魔法界は、他種族との共存に難色を示し、受け入れ先は妖魔界だけだったからだ。
 そして…。人間界の技術は妖魔界より劣っていたが、人間だから持てた技術もあり…。妖魔界はがらりと変わった。当然、受け入れられる者と、そうでない者がいた。人間を食べる妖怪は、人間が大きな顔でのさばるのは我慢できないと思ったし、ラークみたいに、妖魔界が変わってしまうのが嫌な者もいた。それでも、妖魔界では第一者達に逆らえないので、否応なく妖怪達の世界に、人間は入ってきたのだった…。
 人間達にも様々な反応が合った。受け入れを素直に喜ぶ者、人間を栄養源とするタイプの妖怪の存在に怯える者、何を勘違いしたのか、核兵器などを用い、妖魔界を人間用の場所にしようと考える者…。しかし、妖怪の運動能力に勝てる筈もなく、最後の考えを持った者は、あっという間に消え去った。
 トゥーリナのように、人間を食べる妖怪でも人間と結婚して、上手くやっている者もいるし、隠れて人間界に住んでいた妖怪の存在が明らかにされ、生き残った者達の考えが変わっていった。

 ラークは漬物を食べ終えると、小川の側まで行き、顔を軽く洗うと、ううんと伸びをした。彼の耳がぴくっと反応した。後ろからかすかな機械音が聞こえてきたのだ。
「旦那様。洗顔と歯磨きは、洗面所で行って下さい。」
「へいへい。」
 メイドロボにラークは生返事をした。

 このメイドロボは、ターランが制定した法律によって、ラークの住む村に移住したクロードが作ったものだ。普通の黒人の彼にメイド萌えの思想はないので、このロボットはただの機械人間だ。
 妖魔界に機械を浸透させる為に、ターランは、全ての町や村に、一人は人間の科学者を配置すると決めたのだ。
 従来のメイドロボには、外見に個性がなかったが、クロードは好きなパーツを付けて、妖怪らしい外見などに出来るようにした。その技術はあっという間に妖魔界中に広がったが、ラークの物はそのままだった。
「クリュケさんみたいにも出来るぞ。」
 親切心のつもりだったが、クロードは、彼の逆鱗に触れた。トゥーリナが近くにいなかったら、クロードを含めた人間がこの村からいなくなる所だった。

「川が汚れると、皆が困ります。」
「経験から出た言葉だな。」
 ラークはぼそっと呟いたが、メイドロボには意味が分からなかった。嫌味を解するほどの高度な脳は持っていないのだ。「分かったから、家に戻っていろ。」
「はい。」
 ういーん、ういーんと機械音が鳴り響き、それは去って行った。

2004年04月06日(火) 11時
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