片倉家1
4 お仕置きブログ
お父様の部屋にやってきた。書斎も兼ねているようで、本が一杯ある。本が好きなわたしは、目を輝かせて本を見た。
「本が好きなのか。」
「はい。」
「そうか。いいことだ。お前にも読めるような本があるかもしれんの。後で探してみよう。だが、今はこちらを見るのだ。」
お父様が指し示したのは、巨大なデスクトップパソコンだった。
「何これ、このパソコンでかい……。昔のパソコンなの?」
「いや、色々な機能が付いているので大きいのだ。低機能で良いのなら、ノートパソコンのように薄くても良いのだがな。」
「へー。お仕事で使うのかな。」
「趣味である。」
「はー……。で、何を見れば……。ん? “娘の躾の記録”? 凄いタイトルのブログだね。躾って入ってなければ、親ばかブログとも思えるけど。」
「ふむ。」
「で、これが何の……。あ、お姉様のブログなのかな。お兄様とは別なの?」
「違う。お前のだ。……今までの話しの流れで、どうして気付かないのだ……。」
お父様が少し呆れたような顔で言う。
「頭悪いんだから仕方ないの。わたしのブログかぁ。……えっ、ってーことは、ブログでお仕置き日記をやるの?」
「うむ。お前が仕置きを受ける度に、動画を撮り、仕置き理由、回数、仕置き後の尻の写真を貼った記事を、そうだな……。仕置きから1週間遅れ程で更新する。読者に虐待と思われないように、お前本人のコメントも載せよう。」
「ど・動画!?」
思わず悲鳴を上げてしまった。お尻叩き動画は見て楽しむものという認識はあっても、自分が出演することになるとは夢にも思ってなかった。
「動画として残すことによって、わたしやアトルは仕置きを客観的にみることが出来るし、反省材料として、後の仕置きへ生かすことが出来る。お前にとっては罰になる。」
「……お仕置き後のお尻の写真まで……。」
「犯した罪にふさわしい罰だったかを知る為には、分かりやすい写真が必要なのだ。例えば、強姦などの証拠として写真を撮ったりもする。同意と思われて水掛け論にならないように、生々しい記録を残すわけだ。」
「はー、徹底してるね……。わたしのコメントを付けて批判対策も考えるとか……。」
「反省文にもなる。……いや、そうだの。ただの感想でも良いし、仕置きやわたし達への悪口でも構わん。その方が生々しい感情が見え、お前本人だと思われやすくなる。」
「計算高いよ、お父様……。」
お父様はわたしよりよっぽどお仕置き日記に情熱的だ。子供の躾に、ここまで全力になれるんだなーと感心してしまう。
「今は炎上なるものがあるのだ。対策はやり過ぎぐらいでちょうどいい。」
「体罰も暴力呼ばわりして、煩いしね……。虐待されてる子が救われやすくなってるなら、良いことだけど。」
「……で、お前はこのブログをどう思う? わたしとしては、お前のやろうとしたノートに書くよりずっといいと思っている。ただ、全世界に公開されることになるので、お前本人に虐待と思われそうなのが不安だ。」
「面白いからやりたい。動画は恥ずかしいけど、興味あるし……。」
わたしは微笑んだ。
「そうか、良かった。」
お父様に抱っこされた。やっぱりお父様の広くて逞しい胸はいいとわたしは思う。将来、彼氏が出来ることがあったら、同じことを思うんだろうかとちょっとワクワクする。痩せないと彼氏なんて無理だけど。
「色々対策とか練ってるって事は、お兄様達のブログもあるの? それで培った経験なのかな。」
「……。」
お父様が顔をしかめている。
「ないの?」
「お前に悪く思われそうなのだが……。ないのだ。これが初めての経験だ。」
「そっかぁ。」
わたしはふうっと息を吐き出した。なんとなく、そんな気がしていた。
「お前が養女だから扱いが悪いと思われても仕方ない……。言い訳も出来ない。」
「うーん。別に良いよ。お母様にも好きな時にお尻を叩くって言われちゃったし。やっぱ実の子とは思い入れも違うでしょ。」
何故かわたしの心は落ち着いていた。
「ひろみ……。」
お父様が申し訳なさそうな顔で、わたしをきつく抱いてきた。
「……上の子二人はそれ程手のかからないいい子で、楽に育てられた。だから、お前には色々と手をかけてみたくて……。」
お父様は真剣な顔でわたしを見た。「わたしがお前を娘として大事に育てたい気持ちに偽りはない。今更こんなことを言っても、説得力はないがの……。」
「少なくとも、わたしに手間をかけたい気持ちは伝わるよ。だって、そうじゃなきゃ、お尻叩き動画作るだとか、こんなブログ作るだとか、面白そうではあるけど、めんどくさそうなことやらないでしょ。」
わたしはニコッと微笑んだ。「根底に愛を感じられる限りは、お父様やお母様の玩具でも良いよ。むしろこの家に相応しい娘となる為に……とか言われて、精神的にがんじがらめに縛られて、厳しく叱られたりしながら叩かれるくらいだったら、モルモット的にあれこれ試されたりする方が、面白くていいと思う。」
「そうか……。」
「うん。わたしにお嬢様なんて無理なんだ……って辛く切ない気持ちで枕濡らす毎日を送るくらいなら、やー、今日もお尻叩かれちゃったよー、お父様は厳しすぎると思う、ってわたしが悪いんだけどねってボケながら、明るくブログに書く方が絶対楽しい。」
喋っていたら本当に楽しくなってきて、わたしは思っていたより明るい声を出していた。
「有り難う。」
「お礼を言うとこなのかな……。」
わたしは首をかしげる。
「お前に非難されたり、泣かれたりしてもおかしくないことなのに、そんな風に言って貰えて、わたしは嬉しいのだ。」
「そっか。」
「うむ。」
わたし達は微笑み合った。
最初想像していたのと大分違う感じではあったが、わたし達は上手くやって行けそうだと、わたしはホッとしたのだった。
お父様とのお喋りを終えたわたしは、メイドさんに案内してもらってお母様の部屋にノックをしてから入った。お母様がやってきて、わたしはぎゅっと抱かれた
「お母様の部屋も見たくて来ちゃった。」
「いつでも歓迎しますわよ。ふふふ、私の部屋はどうですか?」
お母様が放してくれたので、わたしはゆっくりと部屋を見学することが出来た。といっても、別に抱っこが嫌だったわけではない。むしろ嬉しかった。頻繁にしてくれたら嬉しいなとは思ったが、さすがに中学生にもなって抱っこしてとは言いにくい。
「わたしの部屋と違い過ぎー。」
黒と白のが目立つ部屋だ。モノトーンって奴だ。「何このかっこいい部屋。お父様の部屋より男っぽいんだけど。」
お父様の部屋は書斎かと思うくらい本が多かっただけあって、木が多く、暖炉が似合いそうな暖かな感じの部屋だった。
「そうですか?」
「お母様の部屋は都会的というか、人工的というか、かっこいいんだけど、ちょっと冷たい感じ。お父様の部屋とは真逆かも。」
「真逆と言う程、違うかしら?」
お母様が不思議そうな顔で自分の部屋を眺め回す。お洒落な男の部屋として、雑誌に載っていそうなイメージだ。
「お母様、自分はこんなかっこいい部屋が好みなのに、娘には随分と女の子らしいものを求めてるんだね。」
「自分にないから、娘に求めるのですわ。」
お母様が考え深げに言う。
「正反対の性格だから、かえって仲が良いみたいな感じ?」
「そうかもしれませんわ。」
「ふーん。面白いね。」
わたしは感心していた。
17年2月14日
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