トゥーリナが良人を食べちゃってたお話

 ある日、百合恵はふと両親は楽な死を迎えたのだろうかと思います。それから、良人を思います。生きていれば70のお爺さんである彼。いつか見た時は、若くて綺麗な女性と歩いていました。その人と結婚し、何人かの孫に囲まれているのだろうか…それとも、また暴力を振るい、孤独な人生を歩んでいるのだろうかと。
 百合恵は、夫に言います。
「今ごろ、良人はどうしているかしらね。」
「ああ、あいつなら、俺が食った。不味かったな。」
「冗談でしょ?」
 彼は笑っています。百合恵は、からかわれたのだと思いました。
「事故か病気か知らんが、もうとっくに死んでるのは確かだ。」
「そうなの。」
 百合恵はほっとします。『やっぱり嘘だったのね。そう言えば、人間を襲ったらいけないんだったわね…。』
 彼女の記憶は、半分間違っています。人間界で襲ってはいけないのです。魔界の神様は、人間達に、他の生き物の存在を隠しておこうと思っているからです。
 トゥーリナは第一者になった後、百合恵達を愛す余裕が出来ました。ある日、思い出しました。百合恵を殴り、苦しめていた存在を。第一者になって、知識も増えました。良人を襲って、暫く人間界へ行けないという罰を受けなくても済む方法も分かっています。彼は日本へ行き、良人を妖魔界へ引き摺りこみました。そして、怯えている良人を食べました。そう、妖魔界でなら、人間を襲っても大丈夫なのです。
 彼は百合恵にそれを伝えませんでした。聞いて百合恵が自分を怖がる事はあっても、決して喜ばないと知っていたからです。愛する百合恵を苦しめた男を片付けた自分。これは自己満足なのだとトゥーリナは思いました。だから、百合恵が良人の事を口にした時、彼は、冗談のような本気のような曖昧な言い方をしました。それでいいと思っているのです。

 それから何日も経ったある日、百合恵が言いました。
「良人は美味しかった?」
「不味かったって言っただろ?」
「…そう。どうやって食べたの?生きたまま苦しめて?」
「ただの冗談だぞ?」
「人間は意外と丈夫よ。切腹があった時代には、切ったくらいじゃ死なないから…。」
 トゥーリナは百合恵の顔を見つめました。
「どうした?」
「この頃、変なの…。暗くて気味の悪い考えばかり浮かんでくるの…。」
 トゥーリナは百合恵を抱きしめました。
「妖怪は魔の生き物だ。人間より闇の部分が強い。お前は普通の人間だったから、それについていけないんだろう。でも、そのうち慣れるさ。…そうだな、今は俺が忘れさせてやる…。」
 トゥーリナは百合恵を強く抱きしめました。先に進もうとドレスに手をかけて…。
「トゥーっ。そういう事は、僕や子供達がいない場所でやってよねっ!」
 ターランの怒鳴り声にトゥーリナは我に返りました。リトゥナは真っ赤になっているし、おませなソーシャルは残念そうにしています。
「あ…。」
 トゥーリナはターランがいてくれて良かったと思いました。百合恵は、照れくささが嫌な心を吹き飛ばしてくれたのか、すっかり元気になっています。トゥーリナはホッとすると同時になんだかつまらなくなりました。それで、ターランを引っ張っていって、高ぶってしまった気持ちを落ち着けました。ターランは幸せになりました。
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