幸せな日。M/F

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 ホワイトクリスマス。でも町は静かだ。恋人達にとって大事なのはイブで、今日は普通の日みたい。
 一人帰路につくわたし。ケーキ屋さんに差しかかる。昨日までショーウィンドーに飾られていた大きなケーキも安いね。
「1ホール買っちゃおうかな。」
 彼が聞いたら仰天するかも。それとも笑う? ダイエットにハマって拒食症になりかけた君がってね。でも、余り物になってしまった安いケーキが、なんだかわたしに重なって見えて、結局、一人で片付けられそうもない、でも素敵なケーキを買ってしまった。
 昨日も今日も一人きり。クリスマスが12月25日なんて、何処かの教会の事で、他にも1月の所もあると、漫画で読んだ。そして、安息日だから、何も出来ずに大人しくしなくちゃいけない、実は苦行の日なんてのは小説で。こっちは記憶違いかもね。
 そんな下らない雑学番組にも劣る知識を自分にひけらかしながら、わたしは歩く。……寂しいのね。結局。何かの例えだったけど、玩具を貰えないと分かった子供が、玩具なんか要らないもんと言うのと一緒。そう、わたしは強がりを言ってる。
 彼は仕事が忙しい。年末だもの。分かってる。謝られなくたって……。


「……ご免。26日には帰れるから。その時に、埋め合わせをするよ。」
「嫌ね。いくつだと思ってるの? クリスマスに会えないなんてって、我が侭言わないわよ。」
「みくびったつもりじゃなかったけど。」
「物分りが良すぎて不満?」
「まさか。」
 彼が笑って、わたしも笑って。
 強がってた。……ううん。その時は本気。でも、今から考えると……。


 家に着いた。あれこれやって、やっと落ち着く。だあれもいない、一人きりの部屋。
 最近、結婚は?なんて聞かれるようになってきた。結婚だけが女の幸せじゃない……と言える程、重要な役職にはついてない。皆、結婚までのつもり。同僚の女の子も会社も。寿退社が普通。
 ボーっとしていると、なんだか暗くなっちゃう。折角クリスマスケーキを買ったんだから、どうせなら、童心に返っちゃおう。カラフルな蝋燭をケーキに立てて、マッチをする。マッチってとこがポイント。子供はライターなんて使わないから。
 部屋を暗くして、揺れる炎をじっと見た。砂糖菓子のサンタがなんだか悲しそうに見えた。泣き笑いの顔。ホワイトチョコの板に書かれた、踊るようなメリークリスマスの文字も、はしゃいでいそうなトナカイも、悲しげで……。


「お嬢さん。」
 はっとしてわたしは飛び起きた。……つまり、眠っていたのね……なんて、それよりも……。
「26日に帰ってくるって……。」
 黒ぶち眼鏡の奥から煌くのは、いつもの優しい瞳。後は何も見えない。
 苦しいほど抱き締められて、離された後には、息をついた。
「吃驚させたくてね。」
 はいっと差し出された小さな小さな箱。えっ、これって……!?「受け取って頂けますか……?」
 輝く、わたしの薬指。給料三ヶ月分だっけ、なんて野暮な事は言わない。言えない。
「はいっ。」
 潤む瞳に気付かれないように、彼にキスをしたから。


 めくるめくような時間って、きっとこんな時に使うのね。あんなに燃えたのは久しぶり。朝日の中、鏡に映るわたしは、誰よりも綺麗に見えた。


 幸せな時間は長くは続かないものよって、何かの中で誰かが言ってた。わたしもそう思う。指輪を渡された次の日の、充実した部屋に響くのは、……わたしがお尻をぶたれる音なんだもの。
「一人暮しの女の子の部屋に鍵がかかっていないって、どういう事?」
 後から起きてきた彼に言われて、わたしは吃驚した。そう言われれば鍵をかけた記憶がない。青ざめるわたしの顔から、彼は答えを読み取った。
 問答無用で膝に乗せられ、ネグリジェの裾を捲られて……裸のお尻が冷たい空気を感じたと思ったら、彼の平手が叩きつけられた。
「きゃあ、昨日はちょっと……。」
 貴方が居なくて、寂しかったのよ。と言いかけたけど……。
「言い訳しないっ。」
 ピシッと打たれるように言われちゃったら…。
 ぱあんっ、ぱあんっ。平手がわたしのお尻で弾けて……もう実況中継は無理。彼が許す気になってくれるまで、わたしはただ耐えるだけ。ああっ、何て痛いの? この痛さも愛と思った方がいい?


「真っ赤になっちゃった……。」
 鏡に映るわたしのお尻は、サンタの服みたい。
「当然のお仕置き。入ってきたのが、俺じゃなかったら、君がどうなっていたのか、分からないんだ。」
「そうね……。」
 初めてぶたれたのは、拒食症になりかけた時。あの時に、わたしの未来は決まっていたのね。生涯を過ごす伴侶とともに、お尻を叩く手を得たって。
 それでも、幸せな日。



2003年12月24日(水)23時29分11秒

バケルさんとこのクリスマス企画に参加したもの。後でヴァレンタイン用のこういうお話も考えたけど、書かないまま終わったな。
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