病気のこと


 このページは、日常良くある遭遇する病気、症状について私の見解を記したものです。なるべくがんばって追加してゆきますので、また、寄ってみて下さい。あくまで一般論であり、どちらかといえば楽観的に考えてますので、これを読んでも心配な時は、診察を受けてください。主に犬、猫が対象になります。

1.下痢
2.便秘
3.嘔吐
4.頻尿

5.震える
6.目やに、涙目、目の充血
7.跛行(びっこをひく)
8.立てない、歩けない、寝たきり
9.犬の認知症(痴呆、ボケ)
10.去勢手術
11.避妊手術
12.皮膚の腫瘍(体表のしこり)
13.乳腺の腫瘍(乳腺のしこり)
14.腎不全
15.てんかん
16.身体が痛い
17.肛門嚢化膿
18.子宮蓄膿症
19.想像妊娠(偽妊娠)
20.前立腺疾患
21.回虫
22.フィラリア
23.ウイルス性疾患
24.歯周病
25.口内炎
26.咳
27.くしゃみ
28.変なものを食べてしまった。
29.副腎皮質機能亢進症
30.甲状腺機能亢進症
31.甲状腺機能低下症
32.膀胱結石
33.猫のけんか傷
34.耳疥癬(耳ダニ)症
35.疥癬症
36.毛包虫症
37.花火、雷に対する恐怖
38.熱中症
39.身体を異常に舐める
40.アレルギー性皮膚炎
41.悪性リンパ腫
42.肥満細胞腫
43.肛門周囲腺腫
44.皮膚組織球腫
45.股関節形成不全
46.レッグ・ペルテス病
47.膝蓋骨脱臼
48.前十字靱帯断裂
49.特発性前庭機能障害
50.肉芽腫性髄膜脳脊髄炎
51.僧帽弁閉鎖不全症
52.三尖弁逆流症
53.心筋症
54.腸骨動脈塞栓症
55.免疫介在性溶血性貧血
56.出血による貧血



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1.下痢


 下痢は日頃よく出る症状のひとつでしょう。その子によって、すぐ下痢する子、めったにしない子様々だと思います。
下痢をすると、「
原因はなんだろう?何か変なもの食べただろうか?」と考えてしまいますが、診察していても、飼い主さんの話を伺っていても、原因がはっきりしないこともあります。
 また、下痢の
ウンチに血がついているとなおさら心配になると思います。ヒトでは便に血がつくことはあまりないことですが、動物は下痢が続くとすぐに直腸の粘膜がただれて、血がにじみ出てウンチに付きます。これは、下痢が治まって血が付かなくなればさほど心配ありません。あと、「ウンチの最初は普通の固さだけど、最後のほうがゆるくなる」との質問もよく受けますが、これも心配ない場合がほとんどです。
 「
下痢のときは食餌やお水は控えたほうがいいんでしょうか?」ほとんどの場合、その必要はないと思います。動物はどうして食餌やお水がもらえないのかわかりません。おなかが空いて、のどが渇いているのに、何も与えられないのはとてもストレスになります。食事も水もいつも通り出してあげて下さい。無理に控える必要も、無理に食べさせたり飲ませたりする必要もありません。ただ、食べさせるものは、消化のいいものを与えてください。

 以下の時は、診察を受けることをお薦めします。
@子犬の下痢  消耗が激しく急変もあるので要注意。
A下痢だけでなく、嘔吐もみられる。ぐったりしている。
B排便の回数が多い。


 病院を受診するときは、
近い時間にしたウンチをお持ち下さい。検便で寄生虫、細菌のバランスなどを調べます。

 下痢は、
身体が自身に有害なものを早く体外に排出しようと努力している結果現れる症状です。身体の自浄能力を尊重し、それをサポートする治療を行うことが重要です。


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2.便秘

 前回の下痢と全く反対の症状「便秘」。下痢ほどではないにしても、診ることの多いトラブルです。また、下痢に比べて“繰り返す”ことが多いのが、便秘の特徴と言えるでしょう。
 便秘とは、言うまでもなく、大便が通じないで滞ることですが、様々な原因が重なり合って発生します。形体的な異常(骨盤狭窄、会陰ヘルニアなど)、内臓疾患の2次的な影響(糖尿病、甲状腺機能低下症など)、など原因がはっきりする場合もありますが、精神的なものや(同居動物と折り合いが悪く、いじめられるので、トイレを使いたい時に使えず、ウンチを溜め込んでしまう)、原因がよくわからない(猫の特発性巨大結腸症など)場合も多々あります。

今日で3日間排便が無いのですが、受診した方がいいでしょうか?」
よくある質問であり、皆さんも悩んだことがある疑問だと思われます。この場合、観察のポイントは

1.ふんばっているかどうか。  2.食欲や元気はあるか、嘔吐はないか。

主にこの2点です。
元気が普段と変わりなく、何回も繰り返しふんばってる様子がなければ、もう少し様子を見ても大丈夫でしょう。そのうち、もよおしたら普通に排便するかもしれません。逆に、ふんばっているのに出ない、何回もトイレに行く等の様子が観察される場合は、なるべく早く、診察を受けてください。
 不思議なもので、便意が無ければ数日間排便が無くても平気なことが多いのですが、便意があっても排便できないと(想像していただければわかると思いますが)短時間でとても消耗します。そして何より、“かわいそう”です。ふんばっても出ない時は、時間を待たずに病院へ。

人間用の下剤や浣腸を使ってもいいですか?
 基本的に使うことはできます。しかし、場合によってはかえって排便できないのに便意だけが増強するという最悪の結果になることがあるので、診察を受け、獣医師の指導の下で使用してください。特に下剤は、種類によってはかなりおなかが痛くなるものもあるようなので、できたら、使わないほうが無難だと思います。

 便秘は、いづれの原因であっても慢性疾患で、
日常生活においての管理が大切になります。特に毎日体内に取り込まれる食餌は非常に重要な要素です。獣医師の診察を受け、適切な食餌管理の指導を受け、実践してください。


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3.嘔

 嘔吐も犬や猫ではよくみられる症状です。動物の嘔吐はアクションが大きくので、見ていると辛そうでかわいそうに感じる飼い主さんも多いようです。

犬や猫はヒトに比べて、大して具合が悪くないのに嘔吐します。元気にしていたのに突然吐いた、とか、がつがつ食べていたの急に吐いて、その吐いた物をまた食べていた、などの話をよく聞きます。
このような場合は、心配ないケースがほとんどです。


早朝に胃液をもどす、仕事から帰ってみると、胃液が吐いてあることが時々ある。どこか悪いんでしょうか?
 皆さんもおなかが空きすぎると、胃が気持ち悪く感じることありますよね。同じように、犬や猫でもおなかが空きすぎると気持ち悪く感じると思いますが、この時犬や猫の場合、胃の中に過剰にある胃液を吐いてしまうようです。胃液が吐いてあっても、そのあとごはんを欲しがって食べるようであれば、さほど心配ないことが多いです。胃液を吐く回数が多い場合は、
胃が空になっている時間を短くすることで改善がみられる場合が多いです。

具体例 
普段は朝8:00と夕方6:00の2回の食餌で、早朝に胃液を吐くことが多いと仮定します。
対策としては、

@ 夕方の食事の時間を夜8:00にする。そのことで、夕食〜翌朝の朝食の間の時間が短くなり、結果、胃が空になる時間が短くなる。

A 1回分の食餌を半分に分けて夕方6:00時間と夜8:00に分割して与える。

B 夕食は6:00に与え、夜寝る前に少しだけ食べさせる。

などがあります。



吐いたものに血が混じっていました。大丈夫でしょうか?
 犬や猫(特に犬)はヒトに比べて、
容易に吐物に血が混じります。3回くらい吐くと最後に少し血が混じることはしばしばあります。胃の粘膜表面がただれて血がにじみ出てくるものと思われます。このようなケースは嘔吐が治まれば、粘膜も修復され元に戻りますので心配ありません。
 ただ、ヒトの場合と同様、胃潰瘍、胃がん、などの重篤な病気のケースもあります。心配な時は、内視鏡検査などを受けて下さい。


今朝から何回か吐いているのですが、食餌やお水は与えないほうがいいでしょうか?
 
お水も食餌も、いつもどおり出してあげてください。無理に控える必要もないし、無理に食べさせたり飲ませたりする必要もありません。ただし、食べさせるものは消化のいいものを与えてください。また、診察を受けた獣医師が、絶食や絶水を指示した場合は、それに従ってください。
 嘔吐がひどい時に、水をたくさん飲んでそれを吐くことを繰り返すことがあります。このような場合でも水を与えて下さい。吐く時に、胃液だけ吐くのと、水を吐くのでは水を吐く方が身体の負担が少ないのです。また、ほとんど吐いてしまっても、少量の水は胃に残りからだに吸収されます。(
:水を飲んで吐くことを繰り返す症状は、病状が重篤な場合が多いので、できるだけ早く、動物病院を受診することをお薦めします。)


まとめ

● 
犬や猫はヒトに比べて簡単に嘔吐する。
● 
犬や猫はヒトに比べて簡単に吐いたものに血が混じる。
● 
嘔吐したあとでも、(特別な場合を除いて)食餌やお水は控えなくても良い。


吐く回数が多い時、元気が無くて心配な時は動物病院で診察を受けて下さい。

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4. 頻尿

 排尿回数が多い。トイレでないところで、排尿してしまう。などの症状が観察されます。大まかに下記の3つのケースが考えられます。

@ 残尿感があるために、尿が溜まってないのに、尿意を催す。
A 腎臓で生成される尿量が多いため、何度も排尿しないと追いつかない。

B 尿の通路が狭くなる、もしくは塞がれていて、排尿したくても、排尿できない
(要注意)

@ 残尿感があるために、尿が溜まってないのに、尿意を催す。

 膀胱もしくは尿道に何らかのトラブルが発生し、その刺激が尿意となって症状を示します。
膀胱炎が代表的な疾患です。細菌感染が最もよく確認される原因ですが、ストレス、膀胱結石、腫瘍などで起こることもあります。たまたま一時的に症状が出ただけで回復してしまうケースもありますが、繰り返す場合が多い症状です。一度診察を受けて、必要であれば、長期的な管理をしっかり行うことが大切です。

A 腎臓で生成される尿量が多いため、何度も排尿しないと追いつかない。
 
糖尿病、慢性腎不全などが代表的疾患です。@の症状では、1回1回の尿量が少ないのが普通ですが、Aの症状では毎回ある程度多量の排尿があります。また、飲水量も多くなるのが普通です(多飲多尿)。さらに体重の減少、毛艶が悪くなる等全身状態の悪化が確認されることもあります。Aは泌尿器科ではなく内科の疾患です。いずれにせよ、血液検査をはじめ諸検査が必要ですので、必ず診察を受けて下さい。その時に近い時間に排尿した尿が採取できれば、持っていくと参考になります。また、ご自宅で一日に(24時間)水を飲む量を測れたら参考になるので、大体何十ccくらいかで結構ですので調べてみてください。[参考:犬猫では普通は体重(kg)当り50ml以下、体重(kg)あたり100ml以上飲むようなら明らかに多すぎ]

B 尿の通路が狭くなる、もしくは塞がれていて、排尿したくても排尿できない。
 膀胱結石が尿道に詰まって栓になってしまうことが多く、
オスの猫にとても多い症状です。想像していただければわかりますが、非常に辛くかわいそうな症状です症状の上では@と区別が付きにくいの
ですがBの方が症状が激烈です。また、元気がなくなる、嘔吐する、おなかを触ると痛がる、などの症状も見られることがあります。原因はいろいろありますが、とにかく、早く受診することです。これは緊急事態です翌朝まで待たないで夜中でも診てもらえる病院があれば、そこで診てもらうことをお薦めします。(当院の患者さんであれば、病院に電話してみてください)待てば待つだけ、動物が辛い時間が長引くし、回復までの時間も(費用も)かかります。

 不思議なことですが、たとえば飼い主さんがお出かけで犬や猫を預かることがあります。気の小さい子だと環境が変わるとしばらく排尿しません。丸2日排尿しないなんてこともあります。このように、自分の意志で排尿しない場合はたとえ丸2日排尿しなくても、それで体調を崩すことはまずありません。しかし、尿道が塞がって排尿できない、つまり、排尿したいけどできない場合は、丸1日でもかなり消耗してしまいます。何はともあれ、気がついたらなるべく早く受診。

まとめ
 動物が何回もトイレに行くときは、@〜Bのいづれかを見分ける。
 
Bが疑われる時は、なるべく早く受診する。
 @Aの場合でも、一度診てもらったほうがいいです。

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5.震える

 
動物が震えるのは、何らかの原因があるからです。寒いなどの単純な場合から、神経症状など複雑な場合まで、その原因は様々であり、時として原因が特定できないこともあります。ここでは、単純な原因から順に考えていきます。

 
まず、最も単純で、かつ、頻繁に見られる3つの原因は、

@ 寒い

A 怖い

B 痛い
          の3つです。


@ 寒い
 単に環境温度が低くて寒い場合と、体調が悪くて寒く感じるいわゆる「悪寒」の場合とあります。ヒトが風邪気味のときの注意をそのまま当てはめて管理してあげましょう。暖かくして、栄養を取って、ゆっくり休ませてあげる。

A 怖い

 動物病院で診察台の上に乗せると、震えだす子は多いです。怖くて不安で仕方がないのでしょう。気持ちは良くわかります。このようなケースはわかりやすいのですが、人間が想像つかないようなことに、恐怖や不安を感じていることがあるので注意が必要です。たとえば、近所で工事をしていて、音や振動がある。人間は、工事をしていることがわかっているので、うるさいなあ、程度にしか感じなくても、事情を知らない動物たちは、我々が想像つかないような恐怖に襲われている可能性もあります。動物の立場になってみて今一度、環境を見直してみてください。

B 痛い

 震える原因で最も多いのが、この痛いだと思う。痛いときには震える以外にも、あまり動かない、触られるのを嫌がる、食欲や元気がなくなる、などの症状を伴うことが多いのですが、痛みの場所や程度により一定しません。また、どこに痛みがあるかも特定しにくいことがあります。一般的には、おなかが痛い、首や腰が痛い、関節が痛いなどが多いです。いずれにしても、痛いときは、身体に何らかの異常が存在しますし、痛みがあることは身体にとってとてもストレスになります。どこか痛そうであれば、病院で診療を受けて下さい。

 上記の3つの原因に該当しないで震えている場合は、
神経が原因の可能性があります。診断には種々の検査、症状から判断します。この時、飼い主さんの観察が参考になることがありますので、次の点をポイントにして動物の症状を観察して下さい。

1.上記の3つ(寒い、怖い、痛い)があるか


2.いつ、震えるか

  @ 睡眠との関係(眠っている時に震える、寝起きに震えるなど)
  A 食餌との関係(空腹時に震える、食後に震える)
  B 運動との関係(散歩の初め、終わり頃に震える、動き始めに震えるなど)
  C 興奮との関係(喜んだ時、怒ったときなど)


3.ふるえている時間が、どのくらい長いか

4.震えているときに意識はしっかりしているか、ヨダレはでてないか

5.震えているのは全身か、身体の一部分だけか

まとめ

 
震えているときは、観察が重要。自宅でしてあげられることで、震えが止まらないときは、動物病院を受診してください。

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6.目やに、涙目、目の充血

 目とその周囲の異常は、どの種類の動物でもよく見られる異常です。病的な場合とそうでない場合、急を要する場合と、しばらく様子を見てもいい場合、それぞれ判断が難しいと思います。原因は、感染、炎症、外傷、アレルギー、眼圧の亢進・・・など様々ですし、症状も、結膜腫張、角膜混濁、強膜充血・・・など書ききれません。診断、治療は専門家に任せるとして、今回は、お宅での注意点と観察のポイントを中心にお話します。

まずは、診察することの多い例を紹介します。

1.鼻涙管の通過障害
  ヒトでも泣くと鼻水がでてきますよね。動物でも、涙が鼻に抜ける通り道(鼻涙管)が存在し、分泌された涙の一部は鼻腔へと流れてゆきます。この鼻涙管の通りが悪いと、目から外へ溢れ出る涙の量が多くなり、結果として涙が多く感じます。目の内側がべたべたしたり、その部分の毛が茶色に変色したりします。動物本人は特に気にしていないことが多いようです。また、幼いうちは、身体の構造上相対的に眼球が大きく、それが鼻涙管を圧迫している場合があり、このようなケースでは、体が成長するにしたがって改善されます。治療は、鼻涙管を洗浄して通りをよくしてあげます。ただ、この処置をするのには鎮静もしくは麻酔が必要なことと、一度洗浄しても、時間が経つと再び詰まってしまうことが多く、長い目で見るとあまり実用的ではありません。

2.結膜炎
  文字通り結膜の炎症で、感染性の場合か、アレルギー性の場合がほとんどです。結膜が充血し、涙や目やにが見られます。点眼薬で治療しますが、症状によっては注射、内服薬も併用するケースもあります。

3.角膜潰瘍
  眼球の前面の表層を覆っている透明な膜を角膜といいますが、この膜に傷がついてしまう症状です。シーズー、パグなど短頭種と呼ばれる種類のワンちゃんに多い症状です。この場合、特に傷がついた直後は、非常に目が痛い。ヒトでも、目にゴミが入った時に、涙が大量に出て、目が痛くて開けられないときありますよね。あの感じを思い浮かべていただければ近いと思います。目をつぶって開けない場合がほとんどです。痛みがひどい場合は、あまり動かなかったり食欲が落ちたりします。点眼薬による治療が基本ですが、状態によっては、それ以上の対処が必要な時もあります。また、経過の観察が重要なので、角膜潰瘍が疑われたら、動物病院を受診してください。


症状観察のポイント

1.動物が目を気にしているかどうか。
  手足で掻く仕草をしているか、壁や床にこすりつけていないか、目が開いているか、目や顔を触ろうとすると嫌がったり怒ったりしないかどうか。
 これらの症状が観察される時は、受診して下さい。特に、目が開けられない、目や顔を触ろうとすると嫌がる場合は、急を要する可能性があるのでなるべく早く受診して下さい。

2.結膜や強膜(眼球の黒目の周囲の白い部分)に充血があるか。
  炎症が起こっている可能性があります。受診をお薦めします。

3.眼球の色はどうか。白く濁っていたり、赤くなったりしていないか。
  受診をお薦めします。特に赤い場合はなるべく早く。

4.目やにの色、粘調度(ねばりけ)はどうか。
  目やにの色が、黄色、黄緑色、赤、茶色などの時は、受診をお薦めします。
  目やにが、透明、もしくはゴミのような黒いもので、上記の1〜3の症状が見られなければ、少し様子を見た上で症状が改善しなければ、受診するといいと思います。


点眼薬(目薬)をつけるときの注意

● 動物の後方からアプローチする。真正面から注そうとすると、動物は怖がります。なるべく視野に入らないところから点眼薬を目に近づけましょう。
● 点眼したあと動物が目を引っ掻かないように! 急に液体が目に入るので動物はびっくりします。また、炎症や傷がある場合、点眼薬が普通異常にしみて感じることもあります。動物が目を引っ掻いて、さらに目を傷つけてしまうことがあります。点眼したあとは抱き上げるとか、遊んであげるとか、動物が目を気にしないように十分気をつけて下さい。


日常生活での注意

● 目を掻かせない。
角膜潰瘍の最も多い原因は自分で自分の目を傷つけてしまうことです。目を痒がっているのを見たら声をかけるなどして、動物の興味を目からそらせて下さい。
● 部屋が乾燥しないように。
特に、冬場は暖房の関係で、部屋の中が乾燥します。空気の乾燥そのものが涙の蒸発を促進し、目が乾いた状態になりトラブルを起こしやすくなります。さらに、空気が乾燥するとほこりが舞いやすくなります。動物はヒトに比べて、とても低い位置で生活しており、暴露される埃の量も膨大です。それが目に入り、トラブルの元となります。部屋は乾燥し過ぎないように、そして埃の量もなるべく少なくしてあげてください。


まとめ

● 観察を正確に、急を要する時は速やかに病院へ
● 動物が自分で自分の目を傷つけないように注意してあげ


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7.跛行(びっこをひく)

 
外出から家に戻ったら、迎えに出てきたワンちゃんが歩き方がおかしい・・・、目の前をのんびり歩いている猫がどこかの足をかばっているようだ・・・、散歩途中にキャンキャンとないて、そのあと3本足で歩いている・・・。ふとしたことで動物がびっこをひいていることに気がつくことは、ペットを飼っている方なら経験あると思います。原因がはっきりしている場合、はっきりしない場合、動物がびっ子をひきながらも元気に歩き回っている場合、動かない場合、いろんなケースが考えられます。“骨が折れていたら・・・、脱臼していたら・・・、”心配も尽きません。
 びっこをひく原因は、骨折、脱臼をはじめ捻挫、打撲、関節炎など書ききれないほどあります。今回は、どちらかといえば、心配のないびっこについて書きます。

生爪はがした
 
「お散歩の途中で突然キャンキャンとすごい声で鳴いて、そのあと左の後ろ足着かないんです。骨が折れたかと思って飛んできました。」
 心配しながら、床においてみると、ちゃんと4本足を着いて、シッポ振りながら走り回っています。
 「まあ、この子は!さっきのは演技だったの?大げさな子ね、もう!」と顔を赤らめながら飼い主さん。


 皆さんも日常生活で時々ありませんか?つめがどこかに引っかかって“グキッ”と反らされてしまうこと。痛いですよね。でも、時間経つと痛くなくなりますよね。でも、またその爪をぶつけると少し痛かったりする。あと、家の中を歩いていて、家具のかどに足の小指をぶつけた時、これもその瞬間は息が止まるほど痛い。でも5分もすれば普通に歩ける。
 おそらく同じようなことが、前述のワンちゃんにも起こったんだと思います。別にワンちゃんの演技でも大げさでもなく、また飼い主さんの早とちりでもありません。

指の間の皮膚がただれている
 脚の指の間はその構造上どうしても蒸れてただれやすい場所です。さらに、アトピーの素質があるワンちゃんにとっては、最も痒みの強く出る部分でもあります。足の指の間がひどくただれていると、接地した時に痛みを感じるので、その脚をかばうように歩きます。この症状は砂利道など、凸凹した所を歩く時に顕著です。整形外科的には問題ないのですが、それだけ皮膚がただれているのであれば、やはりその治療はした方が望ましいです。


膝蓋骨脱臼

 
膝のお皿の骨が、本来の位置から内側あるいは外側にずれてしまいます。詳細はいろいろな書物やホームページに書かれているのでここでは触れません。治療法は手術です。
 しかし、手術しなくても私生活には差し支えない場合も多いのです。しばらくお寝ていたあと、動き始めの時に後ろ足のどちらかを着かないでケンケンするけど、特に痛そうでもなく間もなく4本脚で普通に歩く。この程度であれば、当院では手術は薦めません。
 ただ、症状が重度で、強い痛みが伴うときなど、手術が必要なケースもあります。かかりつけの先生とよく相談して治療方針を決定して下さい。


症状観察のポイント

● 
いつ、どのような時にびっこをひくか(お散歩の最初?最後?寝ていて起き上がったとき?)
● びっこを引いている脚は、
引きずっているか、持ち上げているか。
● 動物が、自分で
どこかをしきりに舐めていないか?飼い主さんが触ると痛がる所があるか?
● びっこをひくのは、同じ脚か、違う脚のこともあるか?


まとめ

こんな時は、病院へ行こう
● びっこの具合が、
時間が経っても改善されない。
● 
繰り返し、びっこをひく。


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8.立てない、歩けない、寝たきり

 動物も高齢化が進み、それに伴い、立てない、歩けないといった運動機能に関するトラブルも増えてきました。飼っている動物が寝たきりになってしまい、介護をされている飼い主さんも、少なからずおられることと思います。
 今回は、不幸にして運動機能の障害が起こってしまった場合、その介護において注意すべきポイントを書きたいと思います。症状やその程度はその動物によって様々だと思いますが、一般に我々が最も診る機会が多い老齢による運動機能の低下から起こる、立てない、歩けない、寝たきりを中心に書きたいと思います。なお、その原因については、実際に診察してみないとわからないので、ここでは触れません。


動物自身が立とうとする、歩こうとする時は、なるべくその意志を尊重し、補助しながら立たせたり、歩かせたりする。
 
転倒や転落による怪我がないように、周囲の環境を整備した上で、多少うまくできなくても挑戦させてあげることが大切です。また、身体の一部分が機能しなくて立てない場合は、そこを支えてあげるのも良い方法です。(たとえば、後ろ足が動かなくて歩けない場合、おなかを支えて、“手押し車”のように歩かせるなど)

手足の曲げ伸ばしを行う。

 
筋肉は使わないと痩せてきます。手足を曲げたり伸ばしたりすることで、筋肉が伸縮するので、筋肉が痩せる速度が遅くなります。もしも将来運動機能が回復に向かっても、筋肉がなくて必要な力が発揮できないと体重を支えられません。また、筋肉の量が少ないと、褥創ができやすく、治りにくくなります。また、筋肉の伸縮は、末梢毛細血管の血流を促進します。さらに、手足の曲げ伸ばしを行うことで、関節が固まってしまうことを防ぐこともできます。
 普通は歩くことで筋肉が伸縮するのですが、立てない、歩けない動物には、飼い主さんが手伝って上げて筋肉を伸縮させる必要があります。


動物の落ち着く姿勢を見つける。

 立てない、歩けない動物で、平衡感覚にも障害が見られる場合があります。このような動物は、姿勢を変えようと常に動いていたり、自分で姿勢が変えられないと鳴き続けるなどの行動が観察されます。姿勢を変えようと常に手足を動かしていると、床に触る部分が擦れて褥創になったり、体力を消耗したり、いいことありません。身体の右側が下になるのが落ち着くのか、左側なのか、頭の位置は少し高い方がいいのか、接地面(床)に角度が付いてるほうが落ち着くか、その他試行錯誤していただき、動物が最も落ち着く姿勢を見つけてあげてください。

褥創に注意する

 同じ姿勢が長くなると接地している部分に負担がかかり褥創ができてしまいます。痩せていて筋肉や脂肪が少ない動物の方が、より褥創ができやすい傾向にあります。また、手足をバタバタ動かし続けている動物は床に擦れる部分の皮膚がただれてきます。褥創は一度できてしまうとなかなか治りません。接地部分にクッションを当てる等工夫して、褥創ができないように気をつけて下さい。

最重要! 水分を十分に与える
 自分自身で動くことができる動物は、好きな時に食べたり飲んだりすることができます。しかし、自由に動けない動物には、飼い主さんが口元まで運んであげなければなりません。その際、食べさせることには気が向くのですが、意外と、水分を与えることには注意が届かない場合があるようです。
 褥創にも注意して、食べ物もしっかり与えているけど、どうも調子が悪い。診察してみると、かなりの脱水状態。飼い主さんの話を伺ってみると、「食べさせることに気をとられ、水分補給まで気が回らなかった。」とのこと。こんなケースが今までに何回かありました。点滴で脱水状態を改善し、飼い主さんに十分お水を飲ませてもらったところ調子がもどりました。
 老齢の動物は腎臓機能が弱っていることが多いです。
腎臓機能が落ちている動物には、健康な子よりさらに多くの水分が必要です。水分補給が疎かにならないように意識して十分お水を与えてください。


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9.犬の認知症(痴呆、ボケ)

 
近年、獣医学、予防医学の発展やペットフードの改善、飼い主さんのペットに対する意識の向上などの恩恵を受けて、動物が長生きするようになりました。同時に、新たな問題も起こってきます。その代表が、この認知症(痴呆、ボケ)でしょう。今回は、このボケについて書きたいと思います。

Q: 「うちの子、ボケてしまったんでしょうか?」
 
診察中によく問われる質問です。家出の様子を聞かせていただき、診察時の犬の様子を見て総合的に判断しますが、なかなかはっきりした答えが出せないことが多いです。参考までに、ボケの診断の参考にする症状は @ 夜中に意味もなく鳴く。 A 目的もなくトボトボ歩き続ける。同じ場所をグルグル回ったり、壁づたいに歩く、など。 B 呼びかけや周囲の音などに反応がない。 C 食欲が過剰にある。食べたばかりなのに、また食べ物を要求する。 などです。


Q:
「夜中に鳴いてうるさくて、飼い主さんが眠れない。何かいい方法はないのでしょうか?」
 
これもよくある質問です。眠らせてもらえないことは、ヒトにとって最も辛いことのひとつです。かわいいワンちゃんが原因とはいえ、毎晩続くとさすがにヒトの方が参ってしまいます。

@ ワンちゃんを昼間なるべくかまってあげて、夜は疲れて寝るようにする。
  ボケてるワンちゃんは昼間ぐっすり寝ていることが多いのです。昼間起きていてもらうと、夜には疲れてぐっすり眠ってくれる、そうなると生活のリズムがヒトと同じになります。

A 夜、部屋の電気をつけたままにしておく。テレビやラジオなど、音のするものをつけておく。
  ワンちゃんが夜になると鳴く理由が、“
不安”であることがあります。この場合、夜、暗くなって物音がしなくなると不安があおられ,鳴き出します。逆に、明るく騒々しい日中は、安心してよく眠るのです。ワンちゃんに光や音を感じさせ、“安心”させてあげることで寝てくれることがあります。

B 睡眠薬、精神安定剤
 いづれの薬も、代謝を抑える作用があります。ボケてるワンちゃんは、極めて高齢のことが多く、若い子に比べれば基礎代謝がかなり落ちています。そこへ、さらに代謝が落ちる薬を与えることは、
身体にとっていいことではなく、危険も伴います。ただ、他の方法で効果がなく、飼い主さんやワンちゃんがホトホト参ってしまっている。多少危険が伴ってもいいから、夜は寝かせてあげたい、という希望があれば、当院では、処方してます。
どんなに愛情を持ってかわいがっていても、飼い主さんが眠らせてもらえないのは耐え難いことだと思います。また、今までずっとかわいがってきたのに最後に、ワンちゃんを邪魔に思ってしまうとしたら、とても残念なことです。かかりつけの獣医さんに相談してみて下さい。


Q:
「どうもボケが始まったようだが、治らないか? 進行を遅らせることはできるか?」
 
以下に紹介する方法で、改善がみられるケースもあります。効果の有無とその程度は個々のケースで様々ですが、少なくとも悪化することはないので、できる範囲で試してみてください。

@ 内服薬、処方食。

  
当院では、DHA製剤、血液をさらさらにして末梢循環を改善する薬、などを処方しています。

A 生活環境の変化(場所)

  
繋いでいる場所を変える。(できれば、ヒトの往来が見える所等、外からの刺激が多いところがいい)いつもと違う部屋に居させる。食事する場所を変える。散歩コースを変える。など、変化があると刺激になり,脳が活性化することがあります。

B 生活環境の変化(時間、生活パターン)

 
例えば、いつも1日1回の食餌を2回に分けてみる。お散歩の時間を変えてみる。お散歩に連れて行くヒトを変えてみる。お散歩の回数を増やす。
 
普段の生活パターンが染み付いていると、次に何が起こるか、今日はこれで食餌も散歩も終わりか、など予測できてしまい頭を使わなくなってしまいます。もしかして、もう一回お散歩いけるかもしれない、とワンちゃんがわくわくするだけでかなり違うと思います。

C 排泄を尊重してあげる。

 
しつけられたワンちゃんであれば、排泄は決まったところにします。でも、ボケてくると失敗することもあります。また、運動機能が落ちて、トイレまで行き着けないワンちゃんもいるかもしれない。そんな時でも、オムツをあてたり、サークルの中にペットシーツを敷き詰めてその中に入れておくことは、なるべく控えた方が望ましい。経験的に、これをしてしまうとワンちゃんのボケは間違いなく進みます。

D 私の診察した中で最も劇的にボケが改善した例

 
飼い主さんの話や診察時の状態から、ボケが来ていると思われていた老齢のワンちゃんが居ました。飼い主さんが偶然に子犬を保護して、家に連れてきたのですが、その時点から、ボケてたワンちゃんがあっという間にかつての明朗活発な状態に戻り、一生懸命子犬の世話をしたそうです。診察にいらした時も、動き、表情,目の輝き等、全くもとの元気な頃の状態でした。その後、2〜3年後に老衰で息を引き取りましたが、最後まで、ボケの症状は出ませんでした。

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10. 去勢手術


 男の子のワンちゃん、ネコちゃん、ウサギさんを飼っている方なら、必ず考えなければならないのがこの去勢手術のことです。いつしたらいいのか?、かわいそうではないか?、メスが近くに居ないのにしなければならないのか?、しないでいたらどうなるのか?、麻酔は大丈夫なのか?・・・悩みは次から次へと押し寄せて来るでしょう。最近の飼育書はほとんど「なるべく若いうちに手術を受けましょう」と記載があります。確かに病気の予防の観点からみれば、その通りだと思います。でも、個人的には、賛成しかねます。
 去勢手術のメリット、デメリットを整理してみましょう。

去勢手術のメリット(利点)
● 大人しくなる。攻撃的でなくなる。しつけがし易くなる(犬)。
● マーキング行為をしなくなる、外に遊びに行く事が減る(猫)
● 前立腺疾患、肛門周囲腫瘍など男性ホルモンが関係している疾病になりにくい。(主に犬)
● 病気によっては、管理がし易くなる病気もある。(例:糖尿病、てんかん)

去勢手術のデメリット(欠点)
● 太りやすくなる。
● 自然ではない。
● 麻酔をかける必要がある。
● 去勢手術をした時点で精神的な成長が止まってしまうことがある。
● 尿路閉塞症になりやすくなる(猫)。

以上をふまえた上で、個人的な見解を述べさせていただくと、

● 可能であれば去勢手術はしない方がいい。
   なぜなら、それが動物本来の生まれ持った姿だから
でも、ヒトと一緒に生活する上で、それは難しいと思います。

● もし去勢手術するのであれば、犬猫とも1才半まで待ってから手術するといい。
   犬猫の1才半が、ヒトの20歳に相当する年齢です。たとえ精巣が体の成長には関係しないとはいえ、もともとは身体に備わっている臓器、成長途上で取り除いてしまうのは不自然だと思います。

 しかし、実際にはネコちゃんの場合は、1才半前に部屋の中でマーキング行為を始めます。これは同居していると耐えられない。やむなく生後8〜9ヶ月で手術するというケースが多いです。
 結局、去勢手術するのがいいのか、しないほうがいいのか、いつするのがベストなのか、それぞれの考え方次第です。いろんな情報を集めて、動物の生活様式や飼い主さんの考え方で去勢手術のするしない、手術時期を判断していただくことになります。


 ウサギの場合、犬猫ほど行動上の問題が多くないので、去勢手術する機会は少ないのですが、去勢手術のメリットは犬猫と同様です。ただ、ウサギは犬や猫に比べて、麻酔の危険が高いこと、ストレスに弱いことなど注意しなければならない点もありますので、かかりつけの先生とよく相談してください。


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11.避妊手術

 前述の去勢手術同様、女の子のワンちゃん、ネコちゃん、ウサギさんを飼っている方には、悩みの種だと思います。避妊手術のメリット(利点)、デメリット(欠点)を考えてみましょう。

避妊手術するメリット(利点)
● 発情が来なくなる。
● 不慮の妊娠、出産の可能性がなくなる。
● 将来、卵巣、子宮、乳腺の病気になりにくくなる。
● 病気によっては管理しやすくなる。(糖尿病、てんかんなど)

避妊手術するデメリット(欠点)
● 太りやすくなる。
● 出産の可能性が絶たれる。
● 自然ではない。
● 麻酔が必要である。
● 手術した時点で精神的な成長が止まってしまうことがある。

以上を踏まえた上で
個人的な見解を述べさせていただくと

最善は、
「出産を経験させて、避妊手術をしない」
それが最も自然な姿です。出産、育児を経験すると、
精神的にも落ち着きます。また、未経産の子に比べて、卵巣、子宮の病気になる危険性が少なくなります。

もし出産させないのであれば、
避妊手術をすることをお薦めします。時期は、1才半〜4才の間がいいと思います。去勢手術と同じで、あまり若い時に、卵巣を摘出してしまうのは不自然な感じがします。また、未経産で年をとると、婦人科系の病気は心配です。

ネコちゃんの場合は、日常外に行かない子でも、発情期には何とか外に出ようとスキを狙っています。発情期に外に出てしまうと、2度と戻ってこないか、妊娠して戻ってくるかのいずれかです。不慮の妊娠を避けるためにも、外に行かない子でも避妊手術をお薦めします。

ウサギの場合は、犬や猫に比べて、ストレスに弱いことと麻酔の危険が高いので、避妊手術自体が心配な部分があります。ただ、未経産の子が年をとった時、卵巣、子宮の病気になる危険性は、犬や猫より高いようです。


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12.皮膚の腫瘍(体表のしこり)

 
「抱いた時に何か固いものに触れた」「ブラシをかけてたら引っかかった」身体の表面にあるしこりは、飼い主さんの目に留まることが多いため、比較的早期に発見されます。

Q1.それは何なんですか

大きく分けて非腫瘍性病変(脂肪塊、肉芽腫性病変など)と、腫瘍性病変に区別され、腫瘍性病変には良性腫瘍悪性腫瘍があります。

Q2.どうすれば診断がつきますか

 手術でしこりを摘出して、病理検査(細胞の形態を調べる検査)を行えば、診断が確定します。

Q3.手術しなければ診断がつかないのですか

100%確実な診断を下すには、手術して病理検査をするしかありません。
ただ、しこりに針を刺して細胞を吸引し、細胞の形態を検査する方法もあります。しこりの種類によってはこの検査で診断が確定することもあります。しかし、診断がつかないこともあります。
また、しこりのできた場所、しこりのようす(大きさ、固さ、触った感じ、周囲の皮膚の色など)から、仮診断(診断を予測する)をつけることは可能です。

Q4.手術をした方がいいのですか

しこりの場所、大きさ、経過。さらには動物の年齢、体調、健康状態。加えて、動物が現在そのしこりを気にしているか、生活する上で邪魔かどうか、飼い主さんの希望など総合的に判断して手術するか否かを決定します。

体表のしこりの治療計画を決定する上で参考にする情報をいくつか提示します。

1.しこりの場所
@ 日常生活で邪魔になるかどうか
   たとえば、肉球のすぐ横にしこりがあると歩く時に邪魔になる。あるいは、鼻の頭にしこりがあると食べたり飲んだりするときに邪魔になる。
   また、まぶたにしこりがあると気になってしょうがない場合がある。(ただ、その子によって全く気にしない子もいる。)
A 「手術で摘出できるしこりの大きさ」は、場所によって異なる。
   脚、尾などの細長い構造をした部分にできたしこりは、あまり大きいと摘出が難しい。しこりの場所によって、大きくならないうちに摘出してしまった方が望ましい場合もあります。

2.しこりの大きさの変化
一般的に、悪性腫瘍は大きさの変化が早く激しい。良性腫瘍は大きさの変化が少なく、緩慢。ただ、例外もあります。要注意。

3.しこりの周囲の様子
  しこりと皮膚を持って少し動かしてみましょう。前後左右上下に動くようならタチのいいもの。奥の方で張り付いた感じであまり動かないものはちょっと心配。ただ、これも一般論であくまでも参考程度に。
  また、周囲の皮膚の色や温度も注意してみてください。赤くなっていたり、熱を持っているようだと炎症を伴っている場合があります。

4.しこりからの出血
  しこりが擦れて表面の皮膚から血がにじみ出てくる場合と、腫瘍が自壊して血が出てくる場合とあります。いずれであってもしこりの上の傷はなかなか治らないことが多いです。出血を止めるためには手術でしこりごと摘出しなければなりません。

5.動物の種類
  特に犬の場合、犬種によって発生が多い腫瘍があります。たとえば、シーズーの高齢犬では乳頭腫、毛包上皮腫などの良性腫瘍が発生しやすい。パグ、ゴールデン・レトリバーには肥満細胞腫が多いなど。

6.動物の年齢、健康状態
  手術には麻酔が必要になります。また、手術の後、傷が元に戻るためには、その動物の回復力が重要な要素です。そのため、動物の年齢、性格、健康状態の判断は大変重要です。
 各動物病院によって手術の際の麻酔の方法はいろいろだと思います。使う薬剤、全身麻酔か局所麻酔か、日帰りか入院か、など同じしこりを摘出するのでも病院毎で麻酔は違うと思います。ちなみに当院は、ほとんど全身麻酔で行います。よく、「局所麻酔で手術してもらえませんか?」と言われますが、申し訳ないけどできません。昔、私自身が局所麻酔で簡単な外科処置を受けたことがありましたが、痛いのなんの全身脂汗でぐっしょりで、危うく吐きそうになるくらい気分が悪かったのを今でもよく覚えています。動物は話すことができません。どれだけの痛みを感じているかが我々には正確にわからないのです。もし、私自身が感じたような痛みを動物たちが感じているとしたら、相当なストレスになると思われます。高齢の動物にこのような過度のストレスをかけるのは、全身麻酔をかけることより危険であると私は考えます。

まとめ
体表のしこりを手術で摘出するメリット
@ 診断が確定する。
A 良性腫瘍であれば完治する可能性大。
B 将来の不安が取り除ける。
デメリット
@ 麻酔をかける必要がある。
A 手術とはいえ身体に傷をつけることになる。

手術をしないメリット
@ 医療として動物の身体に負担がかからない。
デメリット
@ 診断が確定しない。
A 将来しこりに変化があったときの不安が残る。

いろいろ情報を集めて、よく考えて、相談して、治療方針を決めてください。
いずれにせよ、1度診察を受けることをお薦めします。

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13.乳腺の腫瘍(乳腺のしこり)

前回の体表のしこりと同様、乳腺のしこりも比較的早期に気がつくことが多いと思われます。乳腺のしこりと聞くと先ず「乳癌」が頭をよぎると思います。実際、乳癌のケースもあります。ただ、乳癌でない場合もあります。

Q1.そのしこりは腫瘍ですか?
腫瘍でない場合(非腫瘍性病変:乳房の肥大/過形成、乳腺炎など)と、腫瘍の場合があります。腫瘍の場合、良性腫瘍悪性腫瘍乳癌など)とに区別されます。
犬の乳腺腫瘍は50%が悪性、猫の乳腺腫瘍は80%が悪性といわれてます。

Q2.乳癌ではないですか?
確定診断は、体表の腫瘍と同様、しこりを手術で摘出して病理組織検査を行います。

Q3.乳癌の場合、助からないのですか?
腫瘍の種類、広がり方、転移の有無、悪性度(タチの悪さ)によって予後は様々です。
手術による切除で治る場合もあります。逆に、再発、転移が見られる場合もあります。

Q4.手術は、どの程度の手術になりますか?
腫瘍の場所、大きさ、経過、動物の年齢、健康状態など総合的に判断し決定します。
@ しこりのある乳腺のみを切除する。
A しこりのある乳腺とリンパ経路を共有する乳腺(例:第1〜3乳腺、第3〜5乳腺など)を切除する。
B しこりのある乳腺の片側を全部切除する。

のなかから選択する場合がほとんどです。

Q5.避妊手術も受けたほうがいいのでしょうか?
乳腺腫瘍の手術と同時に避妊手術をしても、乳腺腫瘍の再発率は変わらないという報告もあります。
ただ、乳腺にしこりができるような子は、卵巣の機能が普通でないことが多いです。その場合、将来婦人科系の病気卵巣腫瘍、子宮内膜炎、子宮蓄膿症など)になる確率が高くなります。今後の病気を未然に防ぐために、乳腺腫瘍切除手術と同時に避妊手術も行うことをお薦めします。

Q6.もし、手術をしないでそのままにしておいたら、どうなりますか?
しこりの性質によって様々です。
生涯大きさが変わらない場合、徐々に大きくなる場合、見る見る大きくなる場合、肺や脳に転移する場合、いろiいろな可能性があります。

まとめ

まず、手術をするべきかどうかで悩まれることと思います。
しこりの大きさ、場所、経過、動物の年齢、健康状態、その他総合的に判断し、手術をするか否か、いつ手術をするか、どの範囲の乳腺を切除するか、避妊手術も同時に行うか、を決定します。
一般論としては、私の個人的な意見としては、リンパ経路を共有する乳腺を切除+避妊手術をお薦めします。
いずれにしても、大切な決断です。主治医の先生とよく話し合って決定してください。

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14.腎不全

 何らかの原因で、腎臓の機能が低下した状態を腎不全と言います。急性腎不全と慢性腎不全があります。

腎臓の働き
  ご存知の通り、腎臓は尿を作る臓器です。尿の中に身体にとっての老廃物を溶かし込み、身体の外に排出します。いわばゴミ処理場ですね。腎臓の機能が落ちると身体の中に老廃物が滞ってしまい体調が悪くなります。これが、尿毒症です。

Q.原因は?
  排尿障害(尿の通り道が塞がれてしまう)、感染、毒物の摂取、他の病気の合併症(糖尿病など)、先天性の形成異常、加齢、などが考えられます。

Q.診断方法は
  血液検査、尿検査、レントゲン、超音波検査等を組み合わせて診断します。

Q.治療方法は
  点滴、皮下補液、飲み薬、処方食などで治療、管理をします。前記の何をどのくらい続けるのは、患者の病状、経過、回復具合などから判断します。
  人では、中心となる治療方法が「
透析」です。動物の場合でも透析を行うこともありますが、体重の軽い子だとできない、麻酔が必要なこともある、設備がない、費用が高いなど、実際に行ううえで様々な障害があるのが現実です。

Q.治るのですか?
  急性腎不全の場合は、原因が取り除かれれば回復するケースもあります。
  最も多い老齢性の慢性腎不全の場合、腎臓機能そのものが元に戻ることは、残念ながら、ありません。治療の目的は、機能の落ちている腎臓に負担をかけないようにすることです。ゴミ処理場の焼却炉が壊れた、では、ゴミそのものを少なくすれば街にゴミがあふれなくて済む。そんなイメージです。


長期管理
  前述の通り、腎臓そのものが回復するものではないので、長期管理がとても重要です。特に、処方食内服薬、この2つがゴミを出さないためにとても重要です。食事は、水と並んで毎日動物の体内に取り込まれるものです。それ故、長い時間で見れば、健康にとってはとても影響の大きな要素です。できる限りがんばって処方食を食べさせて下さい。また、内服薬の同じです。即効性はなくても長期的に見たとき、服用しているかしていないかで大きな差が生じます。
  腎不全の動物で、何日か点滴をすると、今まで食欲がなかったのがうそのように回復する子がいます。(特にネコちゃんで多い。)食べるようになると安心して、処方食も内服薬も止めてしまう飼い主さんがいらっしゃいます。繰り返しますが、
見かけが元気になっても腎臓機能が回復したわけではありません元気だからこそ、将来に備えて、しっかり管理することが大切です。
  その他お宅では、食欲、元気
飲水量尿の量、色、嘔吐の有無体重毛艶などを注意して観察してください。状態がよさそうでも定期的に来院して、体重、一般状態、必要であれば血液検査、尿検査を行い長期管理がうまく行われているか、修正が必要かを確認するのが望ましい。


早期発見
  腎臓は肝臓とともに沈黙の臓器と言われ、臓器が痛んでいてもなかなか症状として現れません。実際に、検査に異常が出てきたり、症状が現れるのは、腎臓全体の75%が機能しなくなってからと言われています。いかに早く異常に気がつき治療を開始するかが重要なポイントです。

以下の症状が見られるときは病院へ(特に老齢の動物)
● 最近食べる量が以前より少なくなった。
● 吐くことが以前より多くなった。
● 痩せてきた。毛艶が悪い。
● 
水を飲む量が多くなった。
● 尿の量が多くなった。
● 尿の色が薄くなった。


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15.てんかん

 発作的にけいれん、意識喪失などを現わす病気です。その中で、脳の病気が証明できないものを真性てんかんといいます。今回の“てんかん”は真性てんかんのことです。

症状は?
 
突然意識がなくなり、けいれん(ひきつけ)を起こします。全身の筋肉を硬直させ、ガタガタと震え、ヨダレを流したり、泡を吹くこともあります。その他、遊泳運動(あたかも泳いでいるかのように手足をバタバタ動かす)や、焦点発作(身体の一部だけがピクピクと震える)が見られることもあります。

原因は?

 
突然、脳波の異常が発生するためけいれんが起こります。どうして当然脳波の異常が発生するかは不明です。

診断は?

 
てんかんを確定する方法は、発作が起きている時に脳波を測定することです。しかし、現実には不可能に近いことです。よって、症状、発生状況、他のけいれんの原因を除外することで、てんかんと仮診断を下します。

けいれんを起こすほかの病気は?

代謝性

 
中毒、代謝異常、低血糖、肝臓疾患、低カルシウム血症、高脂血症、電解質の異常、尿毒症など。主に血液検査で診断します。

脳内病変

 水頭症、脳腫瘍、炎症性疾患、出血、梗塞ほか。脳脊髄液検査およびCT、MRIなどの断層写真で診断します。脳内病変が原因で発生するてんかんを“症候性てんかん”と言います。最近、動物でも断層写真が撮影できる設備を整える病院もできてきたので、今まで真性てんかんだと思っていたのが実は症候性てんかんだったという症例が多くなってきているようです。

治療は?

 
残念ながら現在のところ、100%確実にてんかんを抑える治療法はありません。治療の目的は、てんかん発作をなるべく少なくすることです。

内服薬による管理
@ 特に投薬を行わずに経過を観察する。
A 
ビタミンB1など神経の働きを調節する薬で、副作用の少ないものを長期投与する。
B 
けいれんを抑える薬を、けいれんが起きそうな時だけ飲ませる。
C 
ステロイド剤(脳脊髄圧を下げる薬効がある)を長期投与する。
D 
けいれんを抑える薬を長期投与する。
 番号が大きくなればなるほど、けいれんを抑える効果は強くなります。しかし同時に薬の副作用の心配も増加します。
 
薬の種類、量、回数は、てんかん発作の頻度、程度の強さ、そして飼い主さんの希望を考慮したうえで決定します。けいれんを抑える薬(抗てんかん薬)も改良され、副作用が少なくなったと言われておりますが、私はそうは思いません。私の知人(ヒト)で、ボケたようになってしまい、排泄もコントロールできずにオムツをあてなければならないほど状態が悪い方がおりました。その方が、当時服用していたある抗てんかん薬(最も副作用が少ないと言われている薬剤)を止めたとたんに、ボケの症状が改善し、オムツもとれ、今は普通に会話もできる状態まで戻ったのです。もちろん、副作用が出ないケースもたくさんあると思います。でも、個人的には、抗てんかん薬は副作用に注意して、慎重に処方しなければならない薬だとおもっています。動物はしゃべらない。だからこそ、気をつけてあげなければならない。

避妊・去勢手術

 
女性ホルモンは、てんかん発作を起こしやすくする作用があります。
 
男性ホルモンによって、動物は興奮しやすくなり、てんかん発作のきっかけになるケースがあります。
 避妊・去勢手術はてんかん発作を減らすためには有効です。


もしてんかんがおこったら?


注意点

@ 動物の口に、手や物を入れない。
  
舌を噛みそうな感じがしますが、それを防ぐのは不可能です。手を入れればヒトが危ないし、物を入れれば、それで動物が怪我をしてしまいます。
A 二次的外傷を避ける
 
 高いところから落ちる、硬いもの、尖ったもので動物が傷つくことがないようにけいれんしている動物の周囲に気を配ってください。
B てんかん発作が治まった後、動物が隙間に入り込まないように注意する。
  
発作後は動物自身、何があったのか理解できず、漠然と不安や恐怖にかられます。そんな時、日常決していかないような狭く暗い場所に入り込んでしまうことがあります。(例えばベッドの下など)そして、出て来られなくなってしまうことがあるので注意。

観察ポイント・確認ポイント

@ てんかん発作の継続時間
A てんかん発作の時、
意識があったか
B てんかん発作の
前兆は何かあったか
C 
何をしていた時にてんかん発作が起きたか(寝ていた時、興奮した時など)
D 
食餌との関係(空腹時、満腹時)
E 発作の
前後の様子(いつもどうりか、何か異常な行動はあったか)
 観察結果を獣医さんに報告してください。てんかんの長期管理を行う上で重要な情報となります。

てんかん重積状態(要注意
 けいれんが長時間続いたり、短い周期で何回も繰り返すと、
けいれんがけいれんを呼び込む悪循環に陥ります。この状態では体温が異常に上がったり、心臓に負担がかかったりするので、最悪の場合、命に関わる事態になります。なるべく早く治療を受けて下さい。

ちなみに当院では
● 避妊・去勢手術はお薦めしています。
● 抗てんかん薬は、なるべく使わないようにしています。
  
てんかん発作の回数が少なければ、それを抑えるために毎日飲ませることは薦めません。
  もし、発作の前兆があれば、その時だけ飲ませてもらっています。
  もちろん、発作の回数が多い時、発作の程度が激しい子、飼い主さんが毎日の投薬を希望する場合は、毎日飲ませていただくこともあります。



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16.身体が痛い

  「じっとして動かない」「震える」「触ると咬みつく」「抱き上げるとキャンキャンと鳴く」・・・痛みに対する動物の表現はその子その子によって、またどこがどの位痛いかによって様々です。また、それを見て通訳してくれる飼い主さんの主観も加わって、動物の痛みを正確に把握することは、我々獣医師にとって最も難しい作業のひとつです。また、痛みと一口に言っても、内臓痛、筋肉痛、神経痛など場所に身体の至るところに発生します。どこの痛みであれ、「痛い」ことは動物にとっては大きな負担、ストレスになります。少しでも痛みを和らげてあげなければならない。
  今回は、
人間でいう「腰痛」「肩こり」に近い痛みについて書いてみます。
  ご自身が腰痛、肩こりの経験がある飼い主さんであればイメージできると思いますが、何処が痛いわけではないけど、首、肩、腰がなんとなく、痛い、重い、モヤモヤする。普段は何でもないが、何かの拍子に “ビビッ” と痛みが走る。季節、時間、気温、体調などによって、調子のよい時と痛い時がある。とにかく、はっきりしない不快感があります。

症状は
  元気がない(動かない、動きたがらない)。震える。
段差の昇り降りができない、あるいは躊躇するようになった。前足をつかんで持ち上げるとキャンと鳴く。触られるのを嫌がる。背中が丸い。等がよく見られる症状です。ただ、症状がはっきりしないことも多いです。

原因は
  椎間板ヘルニア
、筋肉痛、急で無理な運動、などが考えられます。しかし、ヒトの腰痛や肩こりと同じで、はっきりした原因がわからないこともあります。

診断は
  一般身体検査、症状、レントゲン、診断的治療などから診断します。
椎間板ヘルニアなど
脊髄病変を確定するには、脊髄造影、MRIなどの特殊な画像診断が必要になります。

治療は

  鎮痛剤、ステロイド剤
、ビタミン剤による内科的対処療法と、外科的療法(手術)があります。症状に応じて選択しますが、一般的には内科療法が中心です。

日常生活上の注意
● 
身体が伸びる姿勢にならないように注意する。(特に抱き上げる時
● 
段差をなるべく少なく。階段の昇降、ベットやソファーの昇降
● 
足が滑らないようにフローリング、冬の凍結路面など、滑るとつらい)
● 無理な運動はしない、でも、だいじにしすぎるのもよくない。(痛いときは無理に動かさない。でも、あまり運動制限しすぎて、筋肉が落ちたり、体重が増えても良くない。痛みのないときは歩かせてあげて下さい。)
● 
体重の管理。太ることはこの病気の最大の敵です!

ポイント

  やはり日常生活での注意が最大のポイント。もちろん痛みの強い時には薬の助けの必要ですし、症例によっては手術で根治を目指した方がいい子もいます。でも、大半のケースでは、「
痛みとうまく付き合え」ば、日常生活には差し支えないですよ。


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17.肛門嚢化膿

肛門嚢とは?

 肛門のすぐ近くの皮膚の奥にある袋のような組織です。この袋の中に液体の分泌物を溜めておき、興奮した時、恐怖を感じた時、驚いた時に溜まっている分泌物を排出します。分泌物はとても“
臭い”。スカンクのおならは、この肛門嚢から出る分泌物の臭いです。

原因は?
 肛門嚢の中に細菌が入りそれが増殖して化膿することによって起こります。なぜ、細菌が入るのかは不明です。「ウンチの後お尻を拭いてあげないからかしら?」と自責の念に駆られる方が時々いらっしゃいますが、それが原因であることはほとんどありません。

症状は?
 元気がない、あまり動かない、触ろうとすると怒る、などです。他の病気にも共通する症状なので、わかりにくい。「何か元気なくて様子がおかしい」といって来院され、直腸で検温するためシッポを持つととても怒る。もしや?と思い肛門を見てみると、肛門嚢が化膿している。こんなことがときどきあります。化膿が進んで破裂し、
溜まっていた膿が漏出することで初めて飼い主さんが気がつくこともあります。

治療は?
 抗生物質、消炎剤もしくは鎮痛剤を注射、内服薬で投与します。化膿が破裂していない時は、切開して膿を出し、洗浄する場合もあります。あまり何度も繰り返す時は、肛門嚢を切除する手術を行います。

予防は?
 
肛門嚢内に分泌物を溜めすぎないこと。といっても、その子その子によって、溜まりやすい子、そうでない子、溜まっても嚢の外に排出しやすい子、なかなか自力では排出できない子、さまざまです。お尻を床につけて、床にこすり付けるように前足でずりずりと移動する、こんな仕草をしている時は、肛門嚢内がいっぱいで動物が不快感を感じている時です。肛門嚢を手でしぼって、中の分泌物を出してあげましょう。

手術した方がいい?
 肛門嚢を袋ごと切除してしまう手術があります。これをすれば肛門嚢がなくなりますから、その後肛門嚢が化膿することはありません。何回も繰り返す子には大変有効な手段です。しかし、肛門の周囲を切ったり貼ったりされるのは、いかに医療行為の手術とはいえ、あまり気持ちのいいものではありません。手術はあくまで最終手段、先ずは内科療法主体で治療を進めるほうがいいと思います。

肛門嚢は自宅でも出せますか?
 動物の体格や太り具合、飼い主さんの技術、動物が嫌がらないで協力してくれるかどうか、いろんな要素が影響してきます。コツをつかめばできると思いますが、難しいケースもあります。書いて説明するのは難しいので、動物病院に行ったときに直接指導を受けて下さい。

まとめ
● 肛門嚢が化膿することもある。そのことを頭の片隅においておき、動物が元気がないときには注意する。
● その子の肛門嚢は、溜まりやすい体質か、心配ないのかを把握する。
● 
溜まりやすい子、自力で出せない子は、定期的に搾って出してあげる。


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18.子宮蓄膿症

子宮内に膿が貯まる病気です。

症状は?
 
食欲がない、嘔吐、水をたくさん飲む、陰部からおりものが出る、発熱、下痢、おなかが膨らんでくる、などの症状が見られます。これらの症状が必ず見られるわけではないので注意が必要です。

原因は?
 子宮内に細菌が侵入し増殖するために起こります。「不潔にしていたからなったの?」「おしっこやウンチの後に拭いてあげなければならなかったの?」と後悔される飼い主さんがいらっしゃいますが、それが原因であることは極めてまれで、衛生的に問題ない環境でもこの病気になってしまうことはあります。

いつなるの?
 一般的には、
発情(生理)後1〜2ヶ月。年齢では5〜10歳がなりやすいと言われています。

どんな子がなるの?
 避妊手術をしていない子で、
子供を産んだ経験がない子がなりやすい。ただ、出産歴のある子でも子宮蓄膿症になる場合もあるので油断はできません。
 今までに、発情が不規則だったり、発情出血が通常(10〜14日間)よりも長く続くことが多い子想像妊娠になったことがある子。乳腺炎にかかった経験があったり、乳腺腫瘍がある子。これらに該当する子は、
普通の子より子宮蓄膿症になりやすいので注意が必要です。卵巣の働きが不規則だとホルモンの分泌も不規則になり、その結果女性ホルモンの影響を強く受ける子宮に異常を来たしてしまうのでしょう。

診断は?
 症状、血液検査、レントゲン、超音波画像診断、おりものの細胞診などから診断を下します。最終的に、おなかを開けて直接子宮を確認しなければ確定しない場合もあります。

治療は?
 
手術です。卵巣子宮切除術で、膿の貯まった子宮と卵巣をおなかの中から取り出します。

手術すれば治るの?
 合併症がなく、手術後の回復が順調であれば、その後の生活は、普通にできます。避妊手術をしたことになるので、子供を産むことはできません。

手術しないで治す方法はないの?
 抗生物質、消炎剤の投与、ホルモン剤の投与などで回復した症例もあります。しかし、
手術なしでは回復しない場合が多く、また回復しても一時的で時間が経てば元の悪い状況に戻ってしまうことがほとんどです。子宮蓄膿症は身体の中に膿がある病気です。もし薬で治らない場合は、その間ずっと身体のなかに膿が存在し続けることになり身体に非常に負担になるばかりでなく、細菌が子宮以外の臓器に広がってしまう危険があります。
 当院ではよほどのことがない限り、手術しないで治療することはお薦めしていません。

予防法は?
 
避妊手術です。あと、出産を経験させると子宮蓄膿症になる危険率を減らすことができます。(100%防げるわけではない)

まとめ
● 
子供を産んだことがない、5歳以上、1〜2ヶ月前に発情があったなら要注意。
● 症状は、
元気食欲の低下、嘔吐、水をたくさん飲む、下痢、陰部からのおりもの、など。
● 
疑わしい症状があるときは病院へ
● 
手術で治してあげましょう。(手術を受けたくない気持ちもわかるけど)


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19.想像妊娠(偽妊娠)



 発情(生理)のあと、妊娠していないにもかかわらず、あたかも妊娠したかのように、行動や身体が変化することがあります。これを想像妊娠(偽妊娠)といいます。犬ではしばしば見られますが、猫では稀です。

通常の発情
 犬の場合、外陰部が膨らむ、外陰部から出血が見られるなどの発情徴候が年に2回あります。この時、卵巣では卵胞が形成され、成熟した後に排卵し、そこに黄体が現れます。もし妊娠しなければまもなく黄体は消滅し、元の卵巣休止期に戻ります。妊娠すると黄体がそのまま存在し妊娠を維持するために黄体ホルモンを出し続けます。

想像妊娠とは
 本来妊娠しなければ消滅する黄体が、妊娠していないにもかかわらず存在し黄体ホルモンを出し続けるので、あたかも妊娠しているかのように、心身の変化が現れる状態です。

症状は
 おっぱいが張ってくる。おっぱいが出る。巣作り(隅の陰になるような場所で穴を掘るような仕草をするなど)を行う。ぬいぐるみなどをどこかに持って行き、取り返そうとすると激しく怒る。犬の妊娠期間は約2ヶ月間です発情が終わって2ヵ月くらい経った頃が最も強く徴候が現れます。

診断は
 症状、発情がいつあったか、交配したかまたは、した可能性があるかを確認して診断します。特に、
交配した場合は、本当の妊娠との鑑別は重要です。

治療は

 
時間が経って治まるのを待つのが基本です。しかし、おっぱいが張りすぎて炎症を起こす場合がありそんな時は消炎剤や抗生物質などで治療することもあります。

おうちでの対処
 
時間が経って治まるのを待つ。巣になるような場所を作らない。ぬいぐるみなど子供に見立てているものがある場合、こっそり取り上げる。
 おっぱいが張っているとき、おっぱいが出ている時には、
濡れタオルを当てて冷やしてあげるといいでしょう。決しておっぱいを搾らないで下さい。

まとめ

 想像妊娠は病気ではないので、緊急の治療を要することはほとんどありません。
体質的になりやすい子とならない子といるようで、毎回発情の度に想像妊娠になる子もいれば、1度もなったことがない子もいます。予防法としては、避妊手術をするか、出産を経験させることです。想像妊娠自体はさほど害はないのですが、想像妊娠になりやすい子は、乳腺腫瘍、乳腺炎、子宮蓄膿症などの婦人科系の病気に罹りやすい気がします。ホルモンの働きが不規則なのでホルモンの影響を受けやすい婦人科系の臓器が病気になってしまうのでしょう。想像妊娠になりやすい子は、将来、婦人科系の病気には注意してあげて下さい。できたら、予防のために、避妊手術を受けること、もしくは出産を経験させることをお薦めします。

付録

 
もともと居たワンちゃんのちょうど発情の後の時期に、そのおうちに新しい仔犬が来ました。今までなったことがなかったに初めて想像妊娠になった。
 
飼い主さんに赤ちゃんが生まれました。そのおうちで飼われていたワンちゃんが今までなったことがなかったのに初めて想像妊娠になり、あたかも自分の子を守るように赤ちゃんのそばを離れなかった。
 いずれも、当院の患者さんの家で実際にあったお話です。母性本能とは、不思議であり、すごいものだとつくづく感じました。


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20.前立腺疾患


 前の2つの病気が女性ホルモンの影響を受ける代表的な病気なのに対して、男性ホルモンの影響を受ける病気の代表です。

前立腺とは
 男性生殖器。膀胱から尿道に移行する部分に、尿道を取り囲むように存在する分泌腺。分泌液は精液の一部となり、精子の運動性を活発にする。

どんな病気になるか
 主なものに、前立腺肥大、前立腺嚢胞、前立腺炎、前立腺腫瘍などがあります。

どんな子がなりやすいの?
 去勢手術をしていない中〜高齢の犬に多く発生します。猫では極めてまれです。去勢手術をしてあるワンちゃんに発生することもまれです。

症状は
 血尿、頻尿、排尿困難などの
泌尿器関連の症状。おなかを痛がる、歩き方がおかしいなどの痛みから来る症状。下痢、便秘、しぶりなど消化器関連の症状と多岐にわたります。
どの症状が出るかは病態によってさまざまです。
元気がない、あまり動かないなど一見しただけでは前立腺が病んでいることがわからない場合も少なくないです。

診断は
 症状、尿検査、レントゲン検査、超音波画像検査などで診断します。確定診断のために、病理組織検査、試験的開腹手術が必要なこともあります。

治療は
 注射、内服薬で抗生物質、消炎剤、鎮痛剤を処方。
去勢手術。女性ホルモンの投与。前立腺摘出術などを病態や症状に応じて組み合わせて行います。
 実は、前立腺という臓器は、我々にとって治療をする上で大変な曲者です。なぜかといえば、@薬が届きにくい。薬の種類によっては注射をしても内服をしても、薬が前立腺まで到達しないものもあります。そのため、使う薬に限りがあります。A前立腺の存在する場所が悪い。前立腺は身体の奥のほうにあり、尿道を取り囲むように存在している上、数多くの血管や神経が分布しています。よって、診断も大変、摘出手術も難しい、摘出手術をしても合併症が発現する可能性がある、など治療をする上での困難が立ちはだかります。
 さらに、前立腺疾患は、慢性化したり再発したりすることが少なくなく、ワンちゃんにも、飼い主さんにも、獣医師にもストレスになることが多いです。
 当院では、注射、内服薬での治療を中心に行い、
去勢手術をお薦めしています。前立腺疾患はホルモンの影響に因る部分が大きく、前述のごとく慢性化、再発も多いので、長期管理を行う上で、去勢手術をして男性ホルモンの供給を絶つことは、大変重要です。

わかりにくい
 
症状が他の病気と紛らわしい。血尿や排尿困難は膀胱炎と間違えやすいし、歩き方がおかしいのは関節炎脊椎疾患と思われがちです。「3ヶ月間治療しているのに膀胱炎がぜんぜん良くならないんです。」と言って転院されてくる方がときどきいらっしゃいます。獣医師にとってもわかりにくい病気です。
診断は動物病院でなければできませんが、お宅で観察する時の目安として、
血尿のとき、
● 
排尿の最後に血が混じる時は、膀胱炎、尿道炎などことが多く、
● 
寝ている時、リラックスしているときに、ワンちゃんの意志や排尿動作と関係なく、チンチンの先からチョロッと血が出ている場合は、前立腺からの出血のことが多い。


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21.回虫

 代表的な消化管内寄生虫です。犬、猫にそれぞれ犬回虫、猫回虫が寄生します。いわゆる “虫下しの薬”は、一般的には回虫を駆虫するためのお薬です。

どんな虫?
 犬、猫の小腸に寄生します。長さが10〜15cmくらいの白く細長い虫です。容姿を形容すると「そうめんみたいな虫」「輪ゴムみたいな虫」などの表現をよく耳にします。

どうやって感染するの?
 母親から胎児のときに感染する胎盤感染、母乳から感染する乳汁感染、虫卵を摂取する経口感染、などが主な感染経路です。

ヒトにも寄生するの?
 
基本的には寄生しません。ただし、免疫機能が非常に弱っているヒト、幼児期のある時期(3〜5才)に偶然感染してしまった例もあります。注意するに越したことはありません。でも、過剰に恐れる必要はありません。

犬や猫は、みんな回虫が感染してるの?
 みんながみんな感染しているわけではありません。ただ、
子犬、子猫は感染している可能性が高いです。大人の犬猫は感染しているケースは少ないようです。

感染しているかどうかはどうやって調べるの?
 検便で、糞便中に回虫の卵がいるかどうかを調べます。ただ、まだ寄生して時間が経っていない時など、
回虫が感染しているのに糞便中に虫卵が検出されないこともあります。特に子犬、子猫は何回か検便を繰り返すことをお薦めします。
 また、糞便中に虫そのものが混じっていたり、嘔吐したものの中に虫がいたりすることで感染に気がつくこともあります。

症状は?
 下痢、食欲低下、嘔吐、痩せている、成長が遅い、などがあります。ただ、
全く症状が出ない場合もあるので、前記のような症状がなくても注意が必要です。

治療は?
 駆虫薬(飲み薬)を飲ませて治療します。

日常生活上の注意
 まず、
子犬、子猫を新しく迎えたら検便をしましょう。便を小指の頭くらい動物病院に持っていけば検査してもらえます。回虫の感染が疑われたら駆虫薬を服用しましょう。回虫は確実に投薬すれば駆虫できます。ただし、環境中に回虫の卵が残っていれば、犬や猫がそれを口にした場合、再感染してしまいます。卵は糞便中に排出されます。動物のトイレは常にきれいに、ウンチをしたらなるべく早く片付けましょう。また、子犬や子猫は手足にウンチがついてしまうこともあります。それを舐めたら再感染する危険があります。ふき取ってあげてください。

注意! 大人の犬猫の回虫感染
 大人の犬猫でも回虫の虫卵を摂取すれば感染してしまう可能性はあります。ただ、一般的に大人は免疫がしっかりしているので、回虫卵を摂取しても自分の力で排除でき、感染が起こらないことが多いです。もし、大人の犬猫で回虫感染が確認された場合は、駆虫による治療とともに次の2点にも注意してください。
@ その子のいる環境に回虫卵が常に大量に存在している可能性。
A 
その子の免疫能力が低下している可能性。特に猫の場合、猫エイズに感染していると、大人の猫でも回虫が感染してしまうことがあります。エイズの感染を調べてもらうことをお薦めします。

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22.フィラリア


 犬糸状虫(いぬしじょうちゅう)ともいいます。“フラリア”だったり、“マラリア”、になったり、“蚊に刺される虫”もあったり、飼い主さんによっては、いろんな表現を使っているようで、結構楽しませてもらってます。飼育書に怖い病気だと書いてあったから、毎年春になると動物病院から連絡が来るから、などなんとなく予防を続けている飼い主さんもおられることでしょう。なんとなくでも、予防をすることは大切、でも予防する意義がはっきりすれば、予防薬に支払う費用も多少安く感じるかも。

どんな虫?
 蚊に刺されて感染する虫。これはほとんどの方が知っておられると思う。
 ここでは、フィラリアの立場(虫の立場)になって考えて見ます。まず、犬の心臓に寄生している親虫がいます。この親虫がオスとメスとで交尾をし、子虫をたくさん産みます。子虫は大変小さいので、ちょろちょろ動きながら、犬の血液とともに犬の体中を巡ります。時々、犬が血液検査で血を抜かれると、子虫も一緒に吸い取られ、(顕微鏡下で)人目に姿を現わすことになります。子虫は、血液の中で体中を巡りながら、蚊に吸われて蚊の体内に入る機会をじっと待ちます運良く蚊の中に入り込めた子虫はそこで成長し、親虫になれる権利を得ます。蚊に吸われなかった子虫は、親虫になることができません。子虫のまま犬の血液中で一生を終えることになります。そう考えると厳しい世界ですね。さて一方、何千倍もの運を勝ち取って蚊の中に入り親虫になる権利を得た子虫は、蚊が再び犬を刺してくれるのをじっと待ちます。そして、蚊が犬を刺した時、ここぞとばかり犬の中に入り込みます。この時もまだ、顕微鏡でしか見えないくらいの大きさです。犬の中に入り込んだ後、犬の身体の中をあちこち場所を変えながら成長し、5〜6ヵ月後に、10〜15cmくらいになってようやく安住の地、犬の心臓に到着します
犬の身体に再び入り込んでも、入り込んで1〜2ヵ月の時にフィラリア予防薬の成分に暴露されると、子虫は死んでしまい親虫になれないのです。
ここでポイント。

@ 
フィラリア子虫はずっと犬の中にいて親にはなれない必ず一度蚊の体内に入らなければ、そして再び犬の体内に戻って来れなければ成虫(親虫)にはなれない。
A 蚊に刺されてから成虫になるまでは半年くらいの時間が必要
B 犬の心臓に寄生している親虫が、オスだけあるいはメスだけだと子虫を産まない。


感染する場所が心臓の中である。
 これだけでも怖い寄生虫だと言うことは十分わかると思いますが、もう少し具体的に怖さを検証しましょう。
@ 心臓は健康な身体の営みの中心を担う臓器である
   実際フィラリア症でも
主な症状咳(肺)肝機能障害(肝臓)、腹水(腹腔内)など心臓以外の臓器に現れる症状です。
A 駆虫(虫を殺す)しても、死んだ虫が身体の外に出て行かない。
   前回の項の「回虫」と比較するとわかりやすい。回虫は駆虫すれば死んだ虫はウンチとともに身体の外に出て行きます。しかし、
フィラリアは心臓の中に寄生しているので、虫を殺しても死んだ虫は肺動脈にそのまま存在し、血液の流れを堰き止めてしまいます。もちろんこれは身体にとっていいことではありません。一度寄生してしまうと、治療にも危険を伴う。これもフィラリアが怖い寄生虫だと言われる所以の一因です。


予防薬
 フィラリア予防の重要性はわかっていただけたと思います。
 現在、フィラリアの予防は、内服薬、注射薬があります。それぞれ、値段、投薬の確実性、副作用など多少の差異はありますが、いずれもフィラリア感染を予防する効果はあります。
 ただ、注意していただきたいのは、ヒトのインフルエンザや犬のジステンパーのワクチン(予防接種)は、生体自身に免疫をつけてウイルスに感染しないようにするのに対し、
フィラリア予防薬は感染子虫を殺すことで親虫の感染を防ぐ。つまり、作用方法が異なるのです。まじめに言えば、フィラリア予防薬ではなく、「フィラリア感染子虫殺虫薬」が正しい表現だと思う。
 話が長くて飽きてきたでしょう。書いてる方も疲れてきました。でもなぜここまでくどくど書いたかと言うと、次の一言のためです。
予防薬は最後まで確実に飲ませましょう。
 フィラリア予防薬は秋もしくは初冬まで月に一回投薬しますが(注射は6ヶ月に1回)、
投薬予定期間の最後にはもう寒くなり蚊もほとんど飛んでいませんもう蚊がいないから大丈夫と勝手に投薬を止めてしまう飼い主さんがよくおられます。これはおおまちがい、大変危険です。8月に蚊に刺されて犬に感染した子虫を9月10月の薬で殺すのです。薬を飲ませるときに蚊がいるかではなく、薬を飲ませる1〜2ヵ月前に蚊がいたか、ここが問題なのです。
予防薬は獣医師の指示通り確実に最後まで投与してあげて下さい。



まとめ

● 
フィラリアは予防が重要。感染を許してしまうと動物には大変な負担になります。
● 
もし、感染してしまっても、その後の予防で虫を増やさないことは可能。予防しましょう。
● 
予防薬は指示通り最後まで確実に投薬する。


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23.ウイルス性疾患


 ウイルスが原因で引き起こされる病気のことです。犬ジステンパー、犬パルボ、犬伝染性肝炎、ケンネルコフ、狂犬病、猫ウイルス性鼻気管炎、猫エイズ、猫伝染性腹膜炎など数多くの病気があり、いずれも伝染性の病気であり、一度罹ってしまうと治療がとても大変で場合によっては命を落としてしまうことになる怖い病気です。

ウイルスってなにもの?
 動物の身体は夥しい数の細胞が集まって構成されています。
ウイルスはその細胞の中に入り込んで、細胞を破壊すると同時にウイルス自身が増殖するというとても悪い卑怯な奴です。最近は「コンピューターウイルス」が蔓延しているのでイメージが湧きやすいと思います。コンピューターそのものは外見上以上がないのに、中のプログラムがメチャクチャにされてしまう。まさに、体の中の細胞で起こっていることが、ウイルス感染を受けたコンピューターの中で起こっていることと同じです。

細菌とはどう違う?
 細菌はそれ自体が1個の細胞です。ウイルスは細胞の中に入り込むのでもっと小さい。そして何よりの違いは、
細菌は抗生物質で殺せる。ウイルスを殺す薬はない。

ウイルス性疾患に罹ったらどうするの?

 それぞれのウイルスによって治療法は異なりますが、一般的には、
@ 栄養分、水分を十分に補給し体力を維持する。
A 免疫を活発にする薬を与え身体の抵抗力を高める。

B 抗生物質を与え2次感染を極力防止する。

残念ながらウイルスを直接殺す薬はありません。
動物の抵抗力とウイルスの力との勝負に勝つか負けるかで生きるか死ぬかが決まります。

ウイルス性疾患に対する対策は?
 
予防できる病気はワクチンを接種して予防します。ただ、ワクチンで予防できない病気もあります(特に猫に多い)。ウイルス性の病気のほとんどは猫同士のけんかや交尾で移ることが多い。外に出てノラ猫とけんかする機会をなくせば、それは有効な予防になります。

ヒトには移らないの?
 
狂犬病は移ります。上記のその他の病気はヒトには移りません猫エイズもヒトには移らないのでご安心を。

まとめ
 最近ヒトの病気で話題になったもの、エイズ、インフルエンザ、SIRS、C型肝炎、古くは天然痘、日本脳炎、ポリオこれらはすべてウイルス性疾患です。現在も我々の生活を脅かしているものもあります。しかし、ワクチンが開発されて長い時間経っているものは根絶に近い状態です。これからも人類、そして動物のウイルスに対する戦いは続いていくでしょう。さしあたり、今私たちが動物にしてあげられることは、
ワクチンをうってウイルスに感染しないように免疫をつけてあげることです。


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24.歯周病


 歯のまわりの歯周組織(歯肉、歯根膜、歯槽骨)の病気です。歯肉炎、歯周炎などを指します。
歯のある動物はすべて、歯周病になる可能性があります。

原因は?
 歯の周囲に歯垢がつき、そこで歯周病菌が繁殖することで歯や歯茎に感染や炎症を起こします。

症状は?
 歯茎が赤くなる食べたり飲んだりするときに痛がったり食べにくそうにする。
口臭がひどい。顔を触られるのを嫌がる。などがよく見られる症状です。
 歯根の化膿がひどくなると、
目の下の皮膚が化膿する膿性鼻汁(いわゆる青っ鼻)をずっと出しているなど、一見歯とは関係なさそうな症状が実は歯周病が原因ということもあります。

治療は?
 注射や内服薬で、抗生物質、消炎剤等を投与する内科的治療と、歯垢をとり、炎症部分にレーザーを当て、歯槽膿漏になっている歯を抜いてしまう外科的治療があります。内科的治療はあくまで対処でしかないので、麻酔をかけられない状態でない限り、
外科的治療をお薦めします。

一度ついてしまった歯垢はとれないのですか?

 
麻酔をかけて処置しなければ難しいでしょう。

歯垢をとって、悪い歯を抜いて、レーザーを当てれば治るの?

 元通りの健康な歯、歯茎になるかと言われるとそうではありません。しかし、
ほとんどの場合、状況はかなり改善されます。ただ、時間が経てば再び歯垢がつき、歯周病になってしまうことも十分考えられますので、処置後の口腔ケアも重要です。

ほっておいたらどうなるの?
 
炎症や化膿が進むと、歯や歯茎だけでなく周囲のほかの組織にまでも影響が出てくることがあります。前述した目の下が化膿する、膿性鼻汁が止まらないなどが典型的な症状ですが、何より怖いのが、歯周病があると常に膿を飲みこんでいることです。また、歯周病菌が血管に入り込み身体のほかの部分に運ばれて感染を起こしたケースがヒトでは報告されています。
 さらに、炎症が進めば
痛い日常生活の中で最大の楽しみの一つの食餌、この時に痛みがあるのはこの上なく不幸なことです。

定期的に歯垢はとってあげたほうがいいの?
 その動物それぞれの体質で、歯や歯茎の強い子弱い子、歯垢の着きやすい子着きにくい子さまざまです。歯垢の着きやすい子は定期的に診察を受けて必要であればとってあげたほうがいいと思います。

歯を抜いてしまうのに抵抗あるんだけど・・・
 その気持ちもわかります。ただ、
ヒトと違って動物の歯は主に喰いちぎるための歯であって消化の意味はあまりありません。ですから、人間と一緒に暮らしている生活であれば、例えば歯が一本もなくてもさほど影響ないのです。よって、悪い歯を残しておいて、痛い思いや、膿をいつも飲み込んでいるよりは、抜いてしまった方が動物のためになります。

ウサギが食べにくそうに口をモゴモゴ動かしていますが、ウサギにも歯周病ありますか?

 ウサギにも歯周病はあります。ウサギの場合、
歯周病以外にも、臼歯(奥歯)が内側に鋭く伸びて舌を傷つけてしまうことがあります。この時の症状が、口が痛そう、食べにくそう、固い物を食べなくなった、歯軋りする、など歯周病と紛らわしものです。動物病院でよく診てもらいましょう。

日常生活で歯周病にならないように気をつける方法は?
以下の方法を組み合わせて口腔ケアをしてあげましょう。
@ 歯を磨く。
   ヒトと同じように歯を磨ければそれが一番効果的です。動物用の歯ブラシもあります。ただ、これは動物が大人しく磨かせてくれることが条件になります。
A 固い物を噛ませる。
  ガム、おもちゃなど、固い物を噛んでくれれば歯垢がつきにくくなり、結果として歯周病の予防になります。最近では、歯垢がつきにくくなるガムも発売されていますので、より効果的です。物を噛むことは、ストレス解消の効果もあります。
B デンタルリンス
  口腔内の雑菌を退治し、衛生を維持するためのもので、口の中に直接液体を入れてあげます。歯周病菌の繁殖を抑えることで、歯周病を予防します。
C 歯垢の蓄積を予防する食餌を与える。
D ヒトの食べるものを与えない。

  ヒトの虫歯予防と同様、甘いものは歯周病にとって大敵です。

まとめ
● 歯周病は
歯、歯茎のみならず身体全体に影響を及ぼす病気である。
● 歯周病の治療の中心は、
歯垢の除去と、痛んだ歯の抜歯である。
● 
一度ついてしまった歯垢は麻酔をかけて処置ししないと取り除けない。
● 動物の歯は食いちぎるための歯であり、消化の働きはほとんどない。
● 
歯周病の予防は日常生活の中での管理が重要である。

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25.口内炎

 口腔内の粘膜の炎症です。ほとんどの方が自分自身でも経験あるかと思います。主な症状は、食べたり飲んだりする時に“痛い”“しみる”。「最近ヨダレが多いんですけど・・・」「この頃食べる時に首をかしげながら食べてます。」等の訴えで受診される方もいらっしゃいます。犬よりも猫に多いです。

原因は
 よくわかりません。ただ、何らかの理由で免疫能力が低下した時に発症しやすいようです。我々が診察する機会が多いのは、猫で
猫エイズウイルスに感染しているケースです。

症状は?
 食べる量が減ってきた。食べる時に痛がって食べにくそう。よだれが多い。首をかしげながら食べる。歯に何かが挟まっているようだ。頭や顎を触ると嫌がる。
 
口の中が痛いことが原因なのですが、症状の出方や飼主さんの感じ方は様々のようです。

治療は?
 
消炎剤の投与。免疫を強化するお薬の投与。レーザーの照射。などを組み合わせて行います。ただ、慢性化したものは完治させるのは難しく、痛みや炎症を抑える対症療法が中心となります。

治療にステロイド剤も使うのですか?

 
口内炎の痛みを取り除くのに最も効果的なのはステロイド剤です。ただし、副作用が心配です。口内炎の程度、症状の強さ、ステロイド剤の効果とその持続期間、これらを総合的に判断した上で使うかどうか判断します。

予防は?
 口腔内の衛生状態を気をつける、くらいしかありません。体調には十分気をつけて、基礎疾患のある子はその管理をしっかりしてあげることです。

まとめ
 口内炎は免疫機能が低下した時に発症することが多い。
● 決定的な治療法、予防法がない。


個人的な意見ですが
 
動物にとって食べることは最大の楽しみの一つですその食べる時に苦痛が伴うのはかわいそう。副作用が心配ですが、ステロイドを使って痛みを抑えてあげて、気持ちよく食べさせてあげるのがいいかと思います。


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26.咳

 人間でもちょっとしたことで「咳」は出ます。犬や猫でも同じように咳をすることがあります。

咳とは
 広辞苑によれば「せくこと。すなわち喉頭・気管などの粘膜に加えられた刺激によって反射的に起こされる短くて強い息。」とのこと。わかったような、わかりにくいような。
 とりあえず、身体が、空気の通り道(のど、気管、肺)などに何か異変を感じて、それを外に追い出そうとする反射行為なのです。わかったような、わかりにくいような。

咳の原因は?
 
空気の通り道に生じた異変です。それが、感染であったり、炎症であったり、腫瘍であったり、異物であったり、気管狭窄であったり、肺に溜まった水であったり、いろいろです。

診断は?
 通常、
レントゲン撮影を最初に行います。必要に応じて血液検査をはじめ他の検査を加え、咳の原因を特定してゆきます。

治療は?
 原因によってさまざまです。注射、内服薬が中心ですが、処方食、場合によっては手術が必要なこともあります。

気をつけよう!「動物の咳」と「ヒトの咳」は違う。
● 
咳がバカにならないことが多い。
  私自身喉が弱く、一度咳が出始めると2〜3週間咳がなかなか治まらないことが時々あります。特に熱もなく、食欲もあるので、“
まあ、そのうち治るだろう” と気楽に考えて普通に生活していると、実際そのうち治ります。みなさんも、咳に対する認識は同じような感じだと思います。
  もちろん動物でも、一時的に喉の調子が悪くて咳が出て、時間が経てば治まることもあります。
  しかし、
動物の場合、ヒトに比べて、咳の原因が感染や炎症以外のことが多いのです。特に、老齢の犬は要注意。
心臓が悪くて、循環が滞り、肺に水が溜まって咳が出たり、気管がつぶれて空気の通る空間がなくなって咳が出たりと、いろいろな病態が考えられます。
咳が続く時は、食欲や元気があっても診察を受けることをお薦めします。
● 
ヒトの咳とアクションが違うことがある。
  ヒトの咳は擬音語で表現すれば、“ゲホゲホ”“ゴホゴホ”あたりでしょうか。犬や猫の場合、ゲホゲホ、ゴホゴホよりも “
うぐぇっ”、“んがっ”といった感じのことが多いです。飼主さんによっては「吐きそう」とか、「吐きたいけど吐けないみたい」と表現される方もおられます。特に心臓が悪くて咳が出る場合は、「吐く」に近い動作をすることがあるので気をつけてみてください。
● 肺炎、肺腫瘍など重篤な呼吸器の病気でも咳をしないこともある
  レントゲンを撮ってみたら肺に腫瘍があった。でも、飼主さんに聞いてみても咳をしていた様子はないという。何でこんなに肺に腫瘍があるのに咳が出ないんだろう、と不思議に思うことが時々あります。
  ヒトの場合、進行した肺癌では咳が出ることが多いようです。また、逆に、長期間咳が続く場合は、肺癌も疑ってみないとならないと家庭の医学などにも記載があります。
  もちろん、動物の肺腫瘍でも咳が出るケースもあります。でも、意外と無症状のことが多い気がする。

まとめ
● 
動物の咳は要注意
● 動物の咳とヒトの咳は、様々な違いがある。


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27.くしゃみ

 実は、あまり書きたくないテーマです。なぜなら、治療してもくしゃみが治まらないケースが結構多いんです。特にウサギに多いと思う。動物にとっても、飼主さんにとっても、我々獣医師にとってもストレスの原因となる症状のひとつです。

くしゃみとは
 鼻腔内の刺激に対する反射で、急に強い呼気を発すること。と、文章にすると返ってわかりにくいですね。

原因は?
 鼻粘膜の刺激。
感染炎症アレルギー異物などが一般的です。

症状は
 ズバリ、くしゃみ。その他、鼻汁を伴う場合もあります。

治療は?
 抗生物質、消炎剤、抗ヒスタミン剤などの注射、もしくは内服


くしゃみはヒトの場合と同様、動物でもポピュラーな症状です。体調を崩して鼻カゼみたいな症状で、一時的なもので治療をすればすぐに治まってしまうものから、薬を飲んでいる間は治まるけど、薬を止めればすぐに再発し、薬が手放せないケース、ひどい場合には、どんな薬を飲ませても治まらないケースまで、まさにケース・バイ・ケースです。前回の「咳」に対してはレントゲンを撮ることで気管や肺に関する情報が得られるのですが、
鼻腔は、レントゲン撮ってもよくわからないことが多い正体の見えない闇の中の敵と戦わなければなりません。
 以前に、猫ちゃんで何の薬を注射しても飲ませてもひどいくしゃみが治まらないことがありました。その猫ちゃんが何回目かの来院の時診察室でくしゃみをしました。ちょうどその時、右の鼻腔からわずかに草のようなものが見えたのです。草の先を慎重にピンセットでつかみ、ゆっくり引っ張ると、
細長い草の葉が鼻の中からズルズルと出てきました。全長5cmほどあったと思います。それ以降、くしゃみはぴったり治まりました。
 そのことがあって以降、鼻腔内異物は常に気にしているのですが、鼻の穴から見える範囲はほんのわずかですし、鼻の穴から入るような細いファイバースコープは当院にはありません。つまり、鼻腔内に異物があるのかないのか確認する術がないのです。とっても、もどかしい思いをしております。

くしゃみとともに次の症状が見られた場合は
重篤な病気が関わっていることもあるので必ず受診してください。


● 
膿性鼻汁(黄色や緑色のドロドロした鼻水)が出てる時。
● 食欲や元気がない時
● 鼻汁に
血液が混じる時。
● 食べる時に痛がる、食べにくそうにするなど、
口腔内に異変が疑われる時
● 
鼻の付近の外見が変わってきている時


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28.変なものを食べてしまった。


 本来食べるものではない物を口にしてしまうことは、動物、特に犬では珍しいことではありません。「大丈夫でしょうか? どうしたらいいのでしょうか?」 我々にとっては答えにくい質問の一つです。緊急性を要するのか、待っても大丈夫なのか、どのような対処をすべきなのか。いつ、何を、どれくらいたべて、今現在の症状はどうなのか、その病院の設備、などによって対応が違ってきます。
 今回はあくまで、「概論」です。

本当に食べましたか?
 朝起きたらゴミ箱をひっくり返して荒らしてあった。痛んでいた魚を捨ててあったので食べてしまったかもしれない。大丈夫でしょうか? こんな場合、案外“実は食べていない”ことも多いです。
 外出から帰ってきたら、指輪がなくなっている。チャッピーが食べたに違いない。どうしよう・・・
 動物も基本的には食べられないものは食べません
本当に食べたかどうか今一度冷静に確認してみましょう。

どんな症状が現れますか?


@ 物が食道に引っかかってる場合。
  
よだれが多い。吐くような仕草を繰り返す。物が飲み込めない。落ち着きがないなど。これは食べられるものが引っかかっても同じ症状が出ます。

A 物が胃の出口、腸の中に詰まってしまった場合。
  
嘔吐。特に水をたくさん飲んでそれを全部吐いてしまうことを繰り返す場合は、物が腸のどこかに詰まっている可能性が高いです。

B 物が胃の中にあって、あちこちに動いている時。
  意外と
無症状のことが多いです。時々吐く、ということもあります。比較的緩やかな症状です。

C 物が腸の中にあって、詰まってないで少しずつ動いている時。
  
軟便、下痢。腸が異物を早く身体の外に追い出そうとして一生懸命活発に動くので、便の回数が多くゆるい便になります。

化学的に毒である物質は、そのものそれぞれで症状が異なるのでここでは述べません。



治療は?

● 吐かせる
 
飲んですぐであること吐いても胃や食道を傷つける危険性がないもの。そのままにしておくと、身体に害を与える心配があるものの場合に行います。

● 内視鏡で確認して口から引っ張り出す。
 胃の中ににあるもので、つかめる大きさ、形のものなら可能です。
全身麻酔が必要です。また、設備がないとできません。(残念ながら当院にはないのでできない。欲しい!)

● 開腹手術で摘出する。
 閉塞しているものに対しては、現場まで行って直接取り出すしかありません。

● 自力で排出するのを待つ。
 時間が経って便とともに出てきたり、あるいは嘔吐することもあります。もし、
うまいこと出てくれれば、動物にとっては最も負担が少ないことになります。


お家でできることは?


まずは、
本当に食べてしまったのか否かを再確認。次に今の動物の様子をよく観察してください。そして、かかりつけの獣医師に連絡が取れたら指示と意見を聞いてください。
その上で、一応、お家でできる対処を示しますが、
場合によっては副作用もあるので注意してね。
@ 吐かせたい
● 食塩をティースプーン一杯位(猫、小型犬)口を開けて無理やり飲ませる。
  5〜10分後に嘔吐する。
  
必ず吐くとは限らない。
  
その後十分に水を飲ませる。
  
老齢の動物、持病を持っている動物(特に心臓が悪い動物)には、飲ませないほうがいい。

A 食餌やお水は十分に与える。
 ただし、以下の場合は返って良くないので注意。
  
a) タバコを飲み込んでしまった場合。水飲ませるとよくない。
  
b) この後、全身麻酔をかける予定(内視鏡、開腹手術など)がある場合。

B 食べたものの製造元または販売元の会社に聞いてみる。
 我々でもすべての物に関しての知識があるわけではないので、変わったものを食べてしまった時に、これは消化される物なのか、毒性があるのか、など、わからないことがあります。そんな時製造元に尋ねると、的確な答えが得られることが多いです。解決にならなくても、緊急事態なのか、少し待ってみても問題ないかなどの判断をする上で貴重な情報になると思います。

予防も大切
@ 動物が口にしそうな物は、しっかり片付けておく。
A もし、動物が何かをくわえたら、
それを取り上げようとしてはいけません取られまいとして飲み込んでしまいますもっと魅力的なものを用意して興味がそちらに向かうように仕向けてください。


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29.副腎皮質機能亢進症


 腎臓の近くに「副腎」という小さな臓器があります。そこからホルモンが分泌されるのですが、その中で副腎皮質という部分から分泌される「コルチゾール」というホルモンが過剰に分泌される病気です。
クッシング症候群”とも言われています。

原因は?
1.下垂体性:脳下垂体から分泌される副腎皮質刺激ホルモンが過剰に分泌され、結果としてその刺激を受けた副腎がコルチゾールを過剰に分泌する。
2.腫瘍性副腎が腫瘍化して大きくなり、それに伴って、コルチゾールが過剰に分泌される。

症状は?
多飲、多尿、多食、パンティング(ハアハアする)、皮膚が薄くなる、おなかが膨らんでくる、など。

診断は?
 ACTH刺激試験、低用量デキサメサゾン刺激試験、高用量デキサメサゾン刺激試験、超音波画像診断、CT、MRIなどを組み合わせて診断します。

治療は?
 病態によって、
内服薬、手術など。

今までの部分は、いろんな本やサイトに詳しくわかりやすく書いてあるので、そちらを読んで下さい。


 私の言いたいのはここからですが、
この病気は治療がとても難しいと思う
 治療は手術にしても内服薬にしても、コルチゾールを少なくするのが目的です。このコルチゾール、
動物が生きてゆくために必要不可欠なホルモンです。もちろん、多すぎたら害になるし、上記のような症状も現れます。しかし、少なすぎても体調が悪くなるし、場合によっては死ぬこともある。さじ加減を間違うと大変なことになります
そのさじ加減をうまく調節するべく、マニュアルというかガイドラインというかがありますが、その通り治療や検査を進めてもうまく管理できない場合もあります。仲間の獣医さんに聞いてみても、管理がうまくいかなくて苦労した経験をしておられる先生が多いようです。
 私個人としては、この病気の治療に関しては、
完璧にコントロールしようとは思わずに、悪化しなければよしとするくらいの気持ちで投薬量を調節しています。マニュアルどおりに進めるとどうもコルチゾールが少なくなりすぎる危険があるような気がする。それに検査も多くなって、お金もかかるし、動物にかかるストレスも多くなるし・・。
 それが医学的にいいか悪いかはいろんな意見があると思う。でも、動物にとっては一番いいように思う。(注:あくまで個人的な独断ですよ)


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30.甲状腺機能亢進症


 気管の脇に「甲状腺」という臓器があり、ここから分泌されるホルモンが甲状腺ホルモンです。この甲状腺ホルモンが必要以上に分泌されることにより生じるのが
甲状腺機能亢進症です。

甲状腺ホルモンとは
 
動物の基礎代謝を維持管理するホルモンです。生きてゆくのには必要不可欠なホルモンです。「元気の源」と考えるとイメージがつかみやすいと思う。
 以前に何かの健康食品から甲状腺ホルモンの成分が検出され話題になったことがありました。甲状腺ホルモンを少量摂取すると元気が出ます。たぶんその効果を狙ったのでしょう。

原因は
 甲状腺の過形成、もしくは腫瘍。その結果、甲状腺ホルモンが必要以上に分泌されてしまいます。

症状は
 多食、多飲、痩せてくる、呼吸が早く荒い、心拍が早く強い、攻撃的になるなどですが、さまざまで一概には言えません。

治療は
 内服薬、もしくは手術。

 
老齢の猫に多い病気です。ただ、甲状腺ホルモン自体が元気の素なので、病状が進行するまで気づかないケースがとても多いいざ気づいた時にはかなり時間が経って病状が進行していたということが多いのです。
 そして、もう一つ難しいのが治療です。内服薬もしくは手術で甲状腺ホルモンを少なくするのですが、前述の副腎皮質機能亢進症と同様、
さじ加減がとても難しい甲状腺ホルモンが過剰にある状態に、身体が慣れてしまっていて、急に甲状腺ホルモンの量が減ると、身体全体のバランスが崩れてしまうことがあります。特に腎臓機能が落ちないようには十分注意する必要があります。
 個人的な意見としては、前述の副腎皮質機能亢進症の治療と同様、
完璧に管理しようとせずほどほどに治療するのがいいと思ってます。


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31.甲状腺機能低下症

甲状腺から分泌されるホルモンの量が不足してしまう病気です。中年〜老齢の犬に多い症状です。

原因は
 甲状腺の機能が低下するのですが、その原因はさまざまです。

症状は?
 元気食欲の低下、無気力、耐寒性の低下、皮膚・被毛のの異状、運動不耐性、悲しそうな顔など。いずれも細胞の基礎代謝が低下することの結果です。ただ、
これらが必ず発現するわけではない
 また、これらの症状は
年をとれば、ヒトを含めどんな動物でも見られる症状です。それ故、とてもわかりにくく、見過ごされやすい病気でもあります。

診断は?

 
血液検査で甲状腺機能に関係するホルモンを測定します。甲状腺ホルモン(血清総サイロキシン:T4)、遊離甲状腺ホルモン(遊離サイロキシン:fT4)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)などです。

治療は?
 甲状腺ホルモンの
内服薬を投与します。甲状腺機能は一度低下するとほとんどの場合回復することはないので、薬はずっと続けます。

好発犬種

 ボクサー、ゴールデン・レトリバー、ドーベルマン、ビーグル、オールドイングリッシュ・シープドッグほか。

 この病気、よく見られる病気の一つと言われています。。しかし、私個人としては、ほんとにそんなに多い病気なのか疑問です。
甲状腺ホルモン(T4)を測定してその値が低ければ甲状腺機能低下症と確定している先生がいるようですが、まずどのように検査をしているのか。
ヒトの臨床検査センターで血液の甲状腺ホルモン(T4)を測ってもらうと本来の値よりも低く測定されるような気がします。これをそのまま参考にして甲状腺機能低下症と診断しているケースがあるのではないかと推測されます。そして、治療に甲状腺ホルモンが処方されます。甲状腺ホルモンを飲めば、(甲状腺機能低下症であっても、単なる老化であっても、)元気は出ます。あたかも、診断が正しく的確な治療で症状が改善したように錯覚しても不思議はありません。
 当院では、甲状腺機能低下症の確定診断には、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)と、遊離型甲状腺ホルモン(fT4)動物専門の検査センターで測定して判断しています。これは、時間も費用もかかります。ただ、もし甲状腺機能低下症であれば一生薬を続けなければならない。もし、甲状腺機能低下症でないのにそうだと誤診されたならば不必要な薬を一生のみ続けなければならない。この差は大きいと思っています。最初の一歩を正しい方向に踏み出さなければ、その先ずっと間違った方向に進み続けることになります。正しい方向を確認するためには、それだけの手間と費用をかける必要と価値があると思う。
 さらに、これも個人的な見解ですが、一般的に言われている甲状腺機能低下症の犬に対しての甲状腺ホルモン薬の推奨投薬量は多すぎると思う。当院では、推奨量の1/5かそれ以下ぐらいの量から始めて、状況を見ながら量と回数を調節しています。

甲状腺機能低下症の場合は、薬を確実に飲みながら健康状態のチェックを定期的に行い、長期的な管理が必要不可欠です。診断は慎重にかつ確実に。治療は根気強く、確実に。

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32.膀胱結石

 膀胱の中に「
」ができてしまう病気です。偶然かもしれませんが、最近、膀胱結石の動物が増えたような気がする。


原因は?

 はっきりしたことはわかりません。
体質、生活環境、食べ物など複数の要因が重なり合って膀胱結石が形成されるものと思われます。

症状は?
 
血尿、頻尿、排尿困難、腹痛などですが、意外にも「無症状」のケースも多いです。健康診断のため、あるいは他の病気の診断のためにレントゲンを撮ったら膀胱結石がたまたま発見された。こんなことがさほど珍しくもないんです。

治療は?
@ 食餌療法(処方食)
 結石の成分や大きさによっては、処方食給与で石が溶けてなくなることもあります
A 手術  おなかを開けて、膀胱を開けて結石を取り出します。

膀胱結石がなくなっても治療の継続が必要なの?
 膀胱結石がなくなっても、
膀胱結石を作りやすい体質は変わってはいません。膀胱結石の成分に応じた処方食を続けることで、再発を防ぎます

膀胱結石をそのままにしておいたらどうなるの?
 常に膀胱内に石の物理的な刺激がかかることになり、
膀胱粘膜が痛みます。さらに、結石が細菌の隠れ家になるので、慢性の感染症になります。また、結石が尿道に詰まることがあり、そうなると排尿ができません。これは、非常に良くない状況です。

まとめ
 意外と無症状のことが多いので、積極的な治療を望まない飼主さんも多いのですが、やはり、
食餌療法で溶かすか手術で摘出することをお薦めします。もちろん、処方食を食べてくれるか、手術が可能かどうか(動物の健康状態、性格、年齢など)を考慮しなければなりません。
 あと、
結石が尿道に詰まった場合は緊急事態です。なるべく早く受診しましょう。何回も排尿ポーズをとるおなかを痛がる、などが主な症状です。男の子のほうが尿道が細くて長いので詰まることが多いのですが、女の子でも詰まることはあります。
 食事管理、定期的な検査はとても重要です。

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33.猫のけんか傷

 猫同士、仲がいい場合ももちろんありますが、けんかも絶えません。(人間もいっしょですが)
 けんかによる怪我の程度も、かすり傷から深いものまでさまざまです。
 猫はけんかをするときには、咬みつくか、爪を立てて引っ掻くかで攻撃しますが、歯にしても爪にしても、入り口は小さく奥に深く入ります。

症状は?
 傷の場所、大きさ、深さによって様々です。猫の皮膚には毛が生えているので、傷がわからない場合もあります。元気がない、ビッコを引いているなど一見けんかとは思わない症状を呈することもあります。

診断は?
 問診、視診、触診から総合的に判断します。

治療は?
 抗生物質、消炎剤などを注射、内服薬で投与します。化膿している場合は、切開して膿を出したり、傷を洗浄したりします。

注意
 猫の皮膚は厚いので、傷が閉じてしまうことがあります。もちろん、そのまま治ってくれれば一番いいのですが、そううまくいかない場合が多い。
 猫の口の中や、爪には雑菌が多い。それが傷の奥深くに侵入する。表面の傷は閉じてしまうが、奥の方では雑菌が増殖し、化膿する。
化膿が熟して腫れてきたり、自壊するときは、けんかをしてからすでに数日が経過している。飼主さんがけんかの現場を見ていないことも多く、受傷してから時間が経って症状が現れることも多いので、なぜ?どうして?いつのまに? よくあるパターンです。

 特に発情の季節はけんかも多い。外に遊びに行くネコちゃんや、多頭飼いのおウチは気をつけましょう。


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34.耳疥癬(耳ダニ)症

 外耳道にダニが寄生することによって生じる外耳炎です。

原因は?
 外耳道に
ミミヒゼンダニが寄生することです。このダニは、他の犬猫からうつったものです。自然発生はしません。

症状は?
 耳を痒がる。さかんに首を振る。黒い耳垢がでる。

診断は?
 耳垢を拡大鏡や顕微鏡で見て、ダニもしくはその卵を確認します。

ヒトにもうつりますか?
 動物に寄生するミミヒゼンダニが人に寄生することはありません。ただ、
ヒトを刺すことはあります。虫さされの症状がでます。体質的に皮膚の弱いヒトだとかなり広範囲が赤くなります。

治療は?
 ダニを殺す薬を点耳または注射します。
殺ダニ剤でダニの親虫は死にますが、ダニの卵は死にません。何回か繰り返して治療することで確実に駆除できます。獣医師の指示はしっかり守りましょう。

お家での注意
 ダニやその卵は時に、耳から出て環境中に潜んでいます(もちろん眼には見えませんが)。環境中に潜んでいるダニを放っておくとせっかく耳の中のダニを駆虫しても再感染してしまうことがあります。
動物がよく居る所を中心に、洗えるものは洗い、洗えない部分は掃除機をマメにかけて、極力環境中からダニとその卵を回収しましょう。
 
多頭数で飼育している場合は、皆耳ダニがいる可能性が高いです。1頭だけ治療しても他の子に耳ダニが居ればすぐ再感染してしまいます。皆で同時に治療を受けましょう。


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35.疥癬症

 前回の耳疥癬は外耳道に寄生するダニでしたが、この疥癬は、皮膚に寄生するダニです。疥癬によって生じる症状を疥癬症といいます。

どんな虫?
 皮膚にトンネルを掘って住み着きます。イヌではヒゼンダニ、ネコではショウセンコウヒゼンダニの感染が多いようです。

症状は?
 
痒い!皮膚が赤くなる、かさぶたができる時間が経つと化膿したり、脱毛したり、皮膚が肥厚したりと皮膚の状態が悪化してゆきます。ネコは、耳介、頭部、顔に病変が出ることが多いです。

診断は?
 病変部の皮膚を採取して、ダニあるいはその卵が存在するかを検査します。ダニは肉眼では見えない大きさなので、顕微鏡で調べます。
皮膚にトンネルを掘って住み着いているダニなので、実際は疥癬に感染しているにもかかわらず、採取した皮膚にダニが含まれないこともあります。症状が疑わしい時は、検査を繰り返すこともあります。

ヒトにもうつりますか?
 ヒトには寄生はしませんが、刺すことはあります。虫さされのような症状が出ます。

治療は?
 注射で虫を殺す薬を投与します。シャンプーや内服薬を用いる場合もあります。耳ダニと同様、
薬はダニには効きますがダニの卵には効きません。1回の投薬で症状は軽減しますが、投薬を繰り返さないと完治しません。

家での注意
 ダニと卵が動物から落ちて、環境中に潜んでいます。せっかく動物に寄生しているダニを殺しても、環境中に潜んでいたダニが再び感染すれば、また始めからやり直しとなってしまいます。
動物がよくいるところを中心に、洗えるものはあらい、洗えないものは掃除機をマメにかけて、極力環境中のダニとその卵を排除しましょう。

少頭数で飼育している場合は、さほど問題なく解決することが多いのですが、
多頭飼育の場合は、みんな同時に治療しないといつまでも撲滅できない。ネコで外に遊びに行く機会が多い子も、「せっかく治ったのにまたダニうつされてきた〜」ということがあります。ワクチンみたいなもので予防できればいいんですけど。


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36.毛包虫症


 皮膚の毛包の中に寄生する毛包虫が、過剰に増殖して皮膚炎を起こす疾患です。イヌに多いです。猫には稀。

毛包虫とは?
 ニキビダニ、アカラスなどとも言われます。皮膚の毛包(毛穴)の中に住み着いています。正常な皮膚にも少数存在しています。ヒトの皮膚にもいるんですよ。(イヌのものとは少し違いますけど) 少数寄生で症状もなければ、特に問題は生じません。

どうして過剰に増殖することがあるの?
 
動物の免疫能力が落ちると、毛包虫が過剰に増殖すると言われています。まだ幼くて免疫機能が充分発達していない場合、老齢で免疫機能が落ちた場合、他の病気で身体の抵抗力が落ちた場合、治療で免疫を抑える薬を使った場合などがあります。ただ、原因がはっきりしないこともあります。

症状は?
 皮膚炎の症状ですが、さまざまです。
脱毛、皮膚が赤くなる、かさぶたができる、湿疹、ふけが多い、化膿ただれ、痒み、などが挙げられます。これらが、皮膚の一部分のこともあれば、全身に広がることもあります。

診断は?
 
皮膚の一部を採取して、毛包虫がいないかどうか顕微鏡で調べます。皮膚の深いところにいる虫なので、検査に引っかからないこともあり、検査を繰り返す必要が生じることもあります。

治療は?
 虫を殺す薬を投与します。、注射、内服薬、外用薬(シャンプー)を組み合わせて治療します。免疫賦活剤を併用することもあります。
 
簡単には撲滅しない虫なので、長期間にわたり根気よく治療を続ける必要があります。

予防法はありますか?

 残念ながら無い。強いて言えば、健康状態を気をつけるくらいか。

イヌ泣かせ、飼主泣かせ、獣医師泣かせの困った虫
 なかなか治らないことが多い。薬も長期にわたり続けなければならないし、結構高くて費用がかさみます。その割りに結果が伴わないこともある。イヌは見た目も症状もかわいそう。個人的には経験ありませんが、ひどいケースでは安楽死になることもあるそうです。

ほんとにこの毛包虫は手強い相手です。ただ、よくわからない。何もしなくても時間が経てば自然に治ってしまうことあるんですよね。
治療も、よく効く薬は高い!。そしてそれで治りきってくれればいいけど、投薬中はよかったけど薬止めてしばらくしたらまた元に戻ってしまった、なんてこともあるのでホント困ってしまいます。薬も、薬用量が多く長期間投与するので処方するこちらもあんまりいい気持ちはしないんです。

当院では、もちろん状態によってですが、症状が限局的で、イヌに不快感がさほどなければ、先ずは自然治癒を期待して投薬しないで経過を見てみます。特に若いイヌの場合は、成長とともに抵抗力が増せば、いつの間にか治ってしまうこともあります。
投薬が必要な場合は、手間、費用などを総合的に考えて、飼主さんと相談の上で、治療法を決定します。


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37.花火、雷に対する恐怖

 夏になると各地で花火大会が開催されます。また、家族や友人たちと一緒に公園で花火を楽しむ光景もよく見られます。我々人間にとっては楽しく、美しい花火ですが、ワンちゃんたちにとっては、この上なく恐怖に感じるもののようです。同じように、雷も怖いもののようです。雷が怖いのは理解できるような気がしますよね。

どうして怖いのか、何が恐怖なのか?
 残念ながらはっきりはわからないです。光なのか、音なのか、振動なのか、ヒトにはわからない何かを感じているのか、これらすべてなのか。

動物に影響はないのか?
 「恐怖」は、かなり強烈なストレスとなります。ストレスは健康にとって害になることは周知のことです。また、てんかん持ちの子が発作を起こしたり、心臓に持病がある子が症状が急激に悪化したりすることがあります。私が過去に経験した例では、恐怖のあまり、引き綱を切って逃走してしまい、死に物狂いで走り続けたため、熱中症になって命を落としてしまったワンちゃんがいました。
「恐怖」の程度は、その子その子の性格によるところも大きく、近くに雷が落ちても平気な子もいれば、あたりが薄暗くなって夜が近づいてきたことを悟っただけで震え始める子もいたり、さまざまです。

対策は?
 決定的な手段はありません。やってあげられることとしては、
@ 光や音を極力さえぎる工夫をする。
A 傍にいて安心させてあげる。
B 行動に注意。 前述のようにパニックになって逃走したり、暴れて近くにあるもので怪我をすることが無いように。
C 薬を飲ませる。

薬はどんな薬をいつ飲ませるの?
 精神安定剤、ホルモン剤などを使用します。恐怖を感じる前に予め飲ませておくと有効です。
 当院では、ワンちゃんに対しては、メラトニンというホルモン剤を処方しています。

まとめ
 花火や雷は元来動物にとって怖いものであるので「仕方が無い」側面もあります。また、その子の持って生まれた「性格」に因る部分も大きいので、トレーニングで改善するのにも限界があると思う。
 しかし、
恐怖はとても大きなストレスの要因です。あまり怖がる子には、お薬を飲ませて恐怖を和らげてあげた方がいいと思う。雷や花火は、いつ行われるか、起きそうか、予想が可能なことが多いと思います。近所で花火大会がある日や激しい雷雨が予想される時は、予め薬を飲ませて落ち着けてあげるといいと思います。


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38.熱中症

 41℃以上の高体温が続き、身体の諸機能に影響が出る状態。犬に多く猫には稀です。命を落とすこともある危険な状態です。

原因は?
 動物の体温調節能力を超えて高体温になる。環境温度が高い。運動。興奮。恐怖。シャンプー後のドライヤーなどいろんな原因が挙げられます。また、同じ環境にいても、その動物の適応能力、その時の体調などによって、症状が出る場合と出ない場合、軽くすむ場合と重篤になる場合があるようです。

症状は?
 
呼吸が荒くなります。舌を出して、ハアハアと大きなアクションで呼吸します。ヨダレが多かったり、舌の色が紫色になったりすることが多いです。さらに重篤になると、立っていられず横になってしまう、下痢をする、などの症状が出てくることもあります。

診断は?
 
検温と症状から診断します。病院ではもちろん体温計で検温しますが、ご自宅で体温計が無い場合は、耳、おなか、口腔粘膜など毛の薄いところを触ってみて判断するといいでしょう。

治療は?

 
まず、体温を下げる。すなわち冷やす。水をかけるか、水風呂に入れる。呼吸が落ち着くまで冷やしてください。ご自宅もしくは出先でも、熱中症になったと思ったら病院に連れてくるより先ず冷やすことを優先してください。そして、ある程度体温が下がって呼吸が落ち着いてから病院にいらして下さい。
 体温が下がっても、体中の細胞が高温で痛めつけられるので、合併症が発現します。落ち着いているようでも必ず受診してください。

意外と盲点が多いんです
 気温が高い時に外で激しい運動をする。暑い時に車の中にいて熱中症になる。このあたりは誰でも思いつくでしょう。実際そのような状況では熱中症になってしまいます。でも、
その他にも、動物にはいろんな熱中症の危険があります。
@ 夕方涼しくなってから散歩したのに熱中症になった。
昼間の太陽光線でアスファルトが暑くなって、それが時間が経ってもなかなか冷めない。犬はヒトに比べて地面に近い高さを歩くので、ヒトが感じるよりはるかに多くの熱を地面から受けている。)
A 車で移動中に熱中症になった。(車の嫌いな子は車に乗ること自体で興奮してしまいます。窓を開けていれば大丈夫、と思っていると意外な落とし穴が。ただ、窓を開けたりエアコンを効かせたり、社内の温度を低くしてあげることは大切です。)
B ペットホテルに預けたら熱中症になった。(もちろんホテルの室温は適正に管理されているにもかかわらず、です。
その子の性格によっては、環境が変わるだけで、興奮や緊張、恐怖によって高体温になってしまう子もいます。
C シャンプーの後ドライヤーで乾かしている途中で熱中症になった。(ドライヤーの温風は結構暑い。さらに、ドライヤーの音などで恐怖を感じて高体温に拍車がかかってしまいます。)
D てんかん持ちの子が、てんかん重積状態になって熱中症になった。
全身の筋肉が痙攣するてんかん発作は、筋肉の収縮に伴って熱が発生します。これが長く続くと高体温になります。

 
熱中症は実際に命を落としてしまうこともある危険な症状です。とにかく熱中症にならないように気をつけましょう。もし、不幸にしてなってしまったら、先ず冷やすこと。そして、必ず診察を受けること。体温が平熱まで下がっても、腎臓の機能が低下したり、消化管粘膜が損傷を受けたりと合併症が多いのもこの症状の特長です。
 ワンちゃん、
特に鼻の短い顔のワンちゃん(ブルドック、パグほか)は、より危険度が高いので要注意です。
あと、幼い仔犬と、老齢犬が危険なのは、ヒトの場合と同じですね。



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39.身体を異常に舐める

 動物が身体を舐めるのは、毛づくろいのため、身体が濡れた時、痒い時、痛い時と様々な理由があります。今回は、精神的な理由で身体を過剰に舐めて、その結果皮膚や被毛に変化が生じてしまう場合について書いてみます。

具体的な症状は?
動物の性格、舐める場所、程度によって様々ですが、典型的な例を挙げると、
@ 
では前肢を舐め、舐めるところの皮膚が厚く硬くなります(舐めダコ)。いわゆる手首の関節辺りに“舐めダコ”ができることが多い。
A 
の場合は、お尻から太ももにかけて全体的に舐めて、毛が薄くなります。あたかもバリカンをかけたかのように、毛の生えている部分と薄い部分の境界がはっきりします。毛が薄くなっている部分も皮膚そのものは肉眼上普通に見えることが多い。
 実際に動物が頻繁に身体を舐めているのがわかることもあります。しかし、
飼主さんが外出している間や、就寝している時にこっそり舐めていることもあります

原因は?
 
ストレス
 ただ、そのストレスもいろいろです。恐怖であったり、寂しさであったり、不安であったり、イジケていたり・・・飼主さんにもわからないこともよくあります。
今までに経験した具体例を挙げてみると、
1.ネコ。新しい猫が一匹家族に加わった。
2.イヌ。お父さんが単身赴任で家から離れて暮らすことになった。
3.イヌ。新しく引っ越してきたイヌが、家の前の道を散歩するようになった
。 などです。
1と2は比較的わかりやすいのですが、3になると、動物本人に聞いてみないとわからないですよね。

治療は?
@ エリザベスカラーを装着。
A イヌの舐めダコの場合はステロイドの局所注射
B 精神安定剤、もしくは行動療法薬。

他の対処は?
先ずは何より、
ストレスの原因となるものがわかれば、それを取り除いてあげることです。それができなければ、次にしてあげることは、 動物を退屈”にさせないこと。たとえば、散歩の回数や時間を増やす。食餌の回数を増やす(一日量はそのままで)。いる場所を変える。(例えば、普段ウチの中にずっといる子なら外に繋いでおくとか)  要は動物に変化を与えて、気持ちが身体を舐めることにいかないように工夫してあげることです。
 
上記の治療よりも先ずこちらの生活上の工夫をやってみましょう。

まとめ

 
一見ストレスに思えても、他の病気や原因が存在して舐めていることもあるので、動物病院で診察を受けましょう。そして,動物の立場になって今一度、何がストレスの原因か考えてみましょう。さらに、治療よりも先ず対処。生活上工夫できることがあれば先ずそれから実行しましょう


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40.アレルギー性皮膚炎

 動物を飼っておられる方、特にワンちゃんを飼っておられる方には、最も興味深いテーマだと思われます。逆に我々からすると、最も書きたくないテーマの一つです。何故か?治療管理が難しいんです。また、この検査をすれば診断がつく、とか、この治療をすれば確実に治る、というものが存在しません。さらに、症状や、治療に対する効果も、その個体個体によって様々です。

アレルギー性皮膚炎とは?
 動物が生体外にあるアレルギー原因物質(アレルゲン)に感作して生じる皮膚炎のことをアレルギー性皮膚炎といいます。アレルギー性皮膚炎の中でも、アレルゲンを吸引することにより発生するものをアトピー性皮膚炎といいますが最近では同じ意味で使われることが多いようです。他にも、接触性アレルギー性皮膚炎、食餌性アレルギー性皮膚炎なども含まれます。

原因は?
 アレルゲンに対する生体の過剰反応です。ただ、ヒトの場合と同様、体質によるところも大きいようです。

症状は?
 皮膚が赤くなる、湿疹ができる、痒み
掻く、舐める、こすりつける)、ただれる、などです。とにかく“痒い”のです。
 よく症状が現れる部位は、
耳、顔(目の周囲、口の周囲)、四肢端(指の間)、わきの下、おなか、などです。季節や体調によって、症状が出る時と出ない時、痒みが強い時と弱い時があります

診断は?
 症状、治療に対する反応などから、総合的に判断します。

何に対してのアレルギーなの?
 アレルゲンの特定は難しいケースがほとんどです。また、アレルゲンが一つとは限らず、複数存在する場合もあります。血液検査等で調べる方法もあります。

治らないの?
 
残念ながら根治する確率は非常に少ないのが現実です。

治療は?

 抗ヒスタミン剤、
副腎皮質ホルモン(ステロイド)、抗生物質、ビタミン剤、漢方薬などを、注射、内服、外用で投与します。その他、食餌療法、シャンプーなども併用します。また、減感作療法という体質改善を図る治療法もあります。

まとめ
 飼主さんの立場からすると、「いかに痒みを押さえてあげるか」。獣医師の立場からすると「ステロイドをどのように使うか」。
 
ステロイドは効くんです。でも、副作用もあるあまり使いたくはない。でも、痒いのはかわいそう。痒いのを抑えるにはやっぱりステロイドがいちばん。
 飼主さんによっては、「痒いのを抑えてあげたいので、副作用が出てもいいからステロイドを続けたい」とおっしゃられる方もおられます。それはそれでそのヒトの考え方なので特に否定はしません。
 ポイントとしては、「線を何処に引くか」。ある程度痒いのはしょうがない。でも一線を越えたら、ステロイドで痒みを抑えてあげる。他に、シャンプーとか処方食とか、副作用のない方法で日常生活の中で管理してあげるのがいいんではないかと思っています。
 その子その子の状態、症状、痒みの強さなどを総合的に判断して、飼主さんの希望も聞きながら薬を処方していますが、う〜ん、とにかく難しい。厄介な病気です。「治す」病気ではなく、「
付き合う」病気だと思う。


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41.悪性リンパ腫

 リンパ系の悪性腫瘍。悪性リンパ腫、リンパ腫、リンパ肉腫は獣医学ではすべてこの病気のことを指します。

分類
 悪性リンパ腫は、発生部位によって @多中心型 A縦隔型 B消化器型 C皮膚型 D腎臓型 Eその他などに分類されます。

原因は?
 他の腫瘍と同様「わからない」。犬の場合、種類によって好発犬種はあります。また、猫では、白血病ウイルスに感染していると、リンパ腫の発生頻度は高くなります。

症状は?
 発生部位、進行状況によって様々です。

診断は?
 細胞を採取してその形態から診断します。

治療は?
 抗癌剤の投与が一般的です。発生場所や経過によっては、外科的切除放射線療法なども行います。

予後は?
 長期的な予後は残念ながら良くない。

以上が悪性リンパ腫の概要です。ホントは犬と猫でも、発生部位でもいろいろな違いがあるのですが、細かく書いていると長〜くなってしまうのでやめます。詳細は別のところで情報を得てください。

 ここから、私がこの悪性リンパ腫に関して個人的に感じていることを記します。
 まず、診断を慎重にしなければならない
 悪性リンパ腫は比較的多い病気です。体表に存在するリンパ節は皮膚越しに触れるので、飼主さんが発見することもしばしばあります。リンパ腫が疑われる場合は、リンパ節に針を刺して、細胞を採取し診断するのですが、これが意外と難しい。ただ、簡単に判断がつくケースもあります。でも、そうでないこともある。
 反応性リンパ節(感染や炎症、他の腫瘍に対してリンパ組織が反応する)や他の原発部位から悪性腫瘍がリンパ節に転移した場合でも、リンパ節が腫大することがあります
反応性リンパ節や悪性腫瘍のリンパ節転移と、悪性リンパ腫では治療が違います。この区別は確実につけておきたい。
 当院では、院内で細胞を診断し、さらに病理検査センターに細胞を送って病理医にも診断していただいています。かつて,悪性リンパ腫を疑ったケースでも病理医の診断が反応性リンパ節であったこともありました。もし、診断が違っていたら、毒性の強い抗癌剤を不必要に投与してしまうことになります。診断は慎重にするように心がけております。

 診断がついたら次は治療です。発生部位、進行度、その他いろんな状況を加味しなければなりませんが、基本的には悪性リンパ腫の治療は「
抗癌剤」です。抗癌剤治療には、手間、費用、負担(副作用)がかかります。悪性リンパ腫に対する抗癌剤の効果は、もちろんいろんな条件によりますが、よく効きます。概していうと、寛解率70%、1年生存率30%。すなわち、70%のケースで、腫瘍が小さくなります。ただし、1年後に生きているのは30%の子です。
 抗癌剤には副作用が伴います
白血球や血小板の数が少なくなる、嘔吐下痢などの消化器症状などが主なものです。もちろんこれもケースバイケースですが、ヒトに比べて動物は副作用少ないと思う
 抗癌剤の副作用の心配、費用、最終的に完治に至る可能性が非常に低いことなどから、抗癌治療を希望されない飼主さんもおられます。確かに、副作用が出てしまったり、期待された効果が得られない場合もあります。
 ただ、
悪性リンパ腫を治療しなかった時には1〜2ヵ月で命を落としてしまう場合がほとんどです。対して、抗癌剤がよく効き、副作用が出ない場合は、食餌を取ったり散歩したりと普通に生活が送れます。たとえそれが一時的であったにせよ、かけがえのない時間です。いろんな制約、そのヒトの考え方もあると思いますが、この悪性リンパ腫に関しては、私は抗癌剤治療をお薦めします

まとめ
● 
悪性リンパ腫の診断は確実に
● 
抗癌剤治療を受けることをお薦めします


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42.肥満細胞腫


 身体の中にある「肥満細胞」が腫瘍化することによって起こります。肥満細胞自体は正常な身体内に存在しますが、数はさほど多くはありません。体型の「肥満」とは全く関係ありません
 皮膚あるいは皮下組織に発生する場合と、内臓に発生する場合があります。
 基本的には
悪性腫瘍です。発生場所や分化度により、タチの良い場合と悪い場合があります。詳しく説明すると複雑すぎてわかりにくくなるので、どこか他のサイトでも参照して下さい。(スミマセン)
 圧倒的に犬に多い腫瘍なので、犬に関してのことを書きます。

症状は?
 体表に腫瘍ができた場合は、見てあるいは触ってわかります。できる場所にもよりますが、動物は気にして舐めたり掻いたりすることがあります。時に、腫瘍が自壊して表面がじくじくすることもあります。
 内臓に発生した場合、あるいは内臓に転移した場合は、なかなか症状がわかりにくいことが多いのですが、食欲不振、嘔吐、吐血、下痢、下血などが多いようです。

治療は?
 
第一選択は、手術による切除です。肥満細胞腫は悪性で再発、転移が起こりやすいので、広範囲の切除が必要です。四肢に腫瘍が発生した場合、広範囲の切除が不可能なので困ってしまいます。
 その他、放射線療法、抗癌剤、ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、H2ブロッカーなどで治療を行います。

予後は?
 さまざまですが、残念ながら基本的にあまりよくありません。

個人的な見解です。
 何年か前に、「アメリカのある大学病院では、肥満細胞腫と診断が確定した場合は、安楽死をすすめる。」と聞いた事があります。また聞きなので真意のほどはわかりませんが、もし事実だとしても、不思議ではありません。それだけ、
治療が難しく、不幸な結果に終わってしまうことが多い病気であります。
 さらに、完治を目指すならば、先ず広範囲の切除手術が必要です。これがまた問題。体表に腫瘍があって,それが肥満細胞腫とわかっている場合、「その腫瘍の周囲3cm以上(最近は2cmでもOKとも言われている)を、そして腫瘍の奥(深部)の筋肉もまとめて切除しなさい」と指導されています。かなり大きく切らないとならないんです。加えて困ったことには、肥満細胞腫って、手足にできることが結構多いんですね。そうすると、周囲2cmなんて物理的に不可能
可能な方法はただ一つ、肢ごと切除、すなわち断脚なんです。断脚には、抵抗ある飼主さんが多いです。そして、それはもっともなことだと思います。ただ、生命を守るために最も可能性の高い方法は断脚です。
 私が実際に治療させていただいたケースでも、前足に腫瘍ができて肥満細胞腫と確定し、飼主さんが断脚を希望されなかったので、抗ヒスタミン剤、ステロイドを使って管理した例があります。現在治療継続中のものを除けば、いずれも最後は肥満細胞腫内臓転移で亡くなりました。診断がついてから、最期を迎えるまでは1〜3年。末期はかわいそうな症状になりましたが、食欲も元気もあり普通に散歩にもいけた時間も比較的長かったです。いづれの飼主さんも、断脚しなかったことを後悔している様子はありませんでした。
 この選択が医療として正しかったかは疑問です。しかし、飼主さんも満足しているようでしたし、ワンちゃんたちもそれぞれ幸せそうでしたので、断脚をせずに内服薬等でできる範囲で治療管理してあげるのも、立派な治療法の一つだと思っています。
 放射線治療や抗癌剤は使った経験がないのでわかりません。もし機会があれば取り入れていきたいとは考えています。

まとめ
● 
肥満細胞腫は、難敵である。
● 
肥満細胞腫は、そのケースによって、経過が様々で予測が難しい。
● 
治療の第一選択は、広範囲の切除手術である。
● 
もし、それが叶わない場合は、治療方法は飼主さんや担当獣医師の考え方次第。


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43.肛門周囲腺腫


 肛門の周囲に腫瘍ができることが時々あります。犬に多く、猫には稀です。圧倒的にオスが多いので、男性ホルモンが腫瘍の発生に関与していると言われています。

症状は?
 排便時の痛み、残便感、便やお尻の周りに血が付く、お尻をさかんに舐めたり擦ったりする、など。ただ、
腫瘍があっても全く症状を出さない子もいるので、発見が遅れる場合もあります。

診断は?

 肛門周囲を直接見て、あるいは触って腫瘍があるかを確認します。
その腫瘍が、本当に腫瘍なのか、腫瘍だとした場合でも良性なのか悪性なのかは、摘出して病理検査をしないと確定しません。良性腫瘍の場合「肛門周囲腺腫」悪性の場合は「肛門周囲腺癌」となります。

治療は?
 
第一選択は手術による切除です。前述の通り、この腫瘍は男性ホルモンの影響が強いので、精巣がある男の子の場合は腫瘍の切除と同時に去勢手術も行います。
 手術を行えない場合は、消炎剤、止血剤など内科的治療で対処しますが、あくまで対処であり解決には至りません。

高齢のワンちゃんに多く発生するので、治療の選択が難しい場合があります。特に、腫瘍はあるけど症状がない場合に、判断に迷われるケースが多いと思う。「今のところ、普通に生活できているし、痛みもなさそうだし、老犬で麻酔も心配なのでもう少し様子見ようか・・」こんな風に考えられる方が多く、それも最もだと思う。そして、もし腫瘍に変化がなければ、それで問題ありません。
ただし、そううまく経過しない場合もあります。まず、
腫瘍があるのが肛門の周りなので、腫瘍が大きくなった場合、手術が難しくなります。また、ヒトと同じで、肛門の周りは敏感な部分なので今は腫瘍を気にしてなくても、今後気にするようになる可能性もあります。また、お座りをしたときに床に着く場所なので、腫瘍の表面が擦れて出血することがあります。腫瘍の表面の傷は治りが悪く、いつまでもジクジク出血が続くことがあります。加えて、肛門周囲腺腫ができるような子は、男性ホルモンの分泌が多い場合が多い。男性ホルモンの分泌が多いと、別の肛門周囲腺腫ができたり、前立腺の病気になる危険性も高くなります。
よって、
よほど麻酔をかけるのが危険でなければ、たとえ小さな腫瘍でも、症状が出ていなくても、腫瘍の切除手術+去勢手術を受けることをお薦めします。

まとめ

● 老齢の未去勢犬に多い。
● 症状が出ない場合もあるが、不快感を伴うことも多い。
● できたら腫瘍の切除手術+去勢手術が望ましい。



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44.皮膚組織球腫

 皮膚に発生する良性の腫瘍若い犬によく見られます。ミニチュア・ダックスとパグに多いようです。

症状は?
 皮膚の表面からドームのように膨らんで発生します。犬自身は全く気にしないこともあるし、気になって舐めたり掻いたりすることもあるようです。痛みはないようです。

診断は?
 外見、経過、動物の種類、年齢から仮診断を下します。さらに針生検を行うこともあります。 確定診断は、手術で腫瘍を切除し、病理診断を行います。

治療は?
 手術で切除。ただ、
この腫瘍は、切除しなくても時間とともに縮小して消えてしまうことも多いので、状況から皮膚組織球腫の可能性が高い場合は、経過を観察しながら、小さくなるのを待つこともあります。

この腫瘍は、治療する際に判断に迷うことがよくあります。
四肢に発生することが多いので、もし腫瘍が大きくなると切除が難しくなる。しかし、うまくいけば手術なんかしなくても自然に消滅してくれる。その辺りを、説明して飼主さんと相談した上で治療方法を決定しています。


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45.股関節形成不全

 股関節は大腿骨と骨盤の連結部分。この関節の構造が本来の形でないのが股関節形成不全です。遺伝性の病気と言われています。大型犬に多い異常ですが、中型〜小型犬でも見られます。

症状は?
 歩き方がおかしい。あまり動きたがらない。散歩に行ってもすぐに帰りたがる。お座りがうまくできない。ただ、
無症状の場合も多い。

診断は?

 
レントゲンを撮って確認します。しっかり真上からX線を骨盤に当てないとならないので、鎮静や麻酔をかけた上で撮影します。

治療は?
 鎮痛剤。あまりにひどい場合は
手術手術にも何種類かの方法があります。

 ゴールデン・レトリバーが以前ほどいなくなったので、股関節形成不全を見る機会が以前より減りましたが、それでも日常診療の中でしばしばお目にかかります。股関節が不安定なので、二次的に関節炎を生じ、痛みを伴うといわれています。個人的な感想を述べさせていただければ、
「意外と痛みは少ないんじゃないの?」。もちろんケースバイケースですが。
 というのも、他の目的でレントゲンを撮ってたまたま骨盤が写っていたら、結構酷い股関節形成不全だった、ってことが時々あります。飼い主さんに尋ねても、歩き方も普通だし、毎日元気に走って散歩いってるよ、との答え。こんなことが1回や2回ではないんです。
 もちろん、活動の活発な犬や、盲導犬、警察犬などは仕事に影響出る可能性はあります。でも、愛玩動物として家族と一緒に暮している分には、生活にはあまり影響ない場合が多いんじゃないかな。
 手術となれば、本来の骨格の形を変えることになります。もちろん、
痛みが激しくてかわいそうなワンちゃんは、手術をして治してあげないとならないと思う。そうでなければ、体重制限、鎮痛剤などで管理してあげて、あくまで手術は最終手段とするのが望ましいと思います。
 あと、運動制限もほどほどでいいと思う。もちろん無理に運動させる必要はないけど、犬自身が動きたいのであれば、ある程度は走らせたり遊ばせてあげていいんじゃないかと思ってます。

まとめ
体重管理は重要
運動制限は、痛がらなければ、さほど必要ないのでは。
手術は、痛くてどうしようもなくかわいそうな時に最終手段として。


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46.レッグ・ペルテス病


 大腿骨(後肢)と骨盤(体幹)が股関節でつながりますが、その大腿骨側の先端は球体を半分に割ったようなドーム様の構造をしています。表面はなめらかです。ところが、レッグ・ペルテス病では、その表面が滑らかでないのです。イラストや実際のレントゲン写真で見てもらうととてもわかりやすいのですが、ここに載せる技術がないのですいません。

原因は?
 大腿骨頭(大腿骨のドーム様の部分)の虚血性壊死(血液が流れなくて細胞が死んでしまう)。

症状は?
 歩き方がおかしい。びっこを引く。元気がない。あまり動きたがらない。要は、股関節が痛いのです。股関節形成不全と同様
無症状のこともあります

どんな子がなりやすいの?
 小型犬に多い。特に
ヨークシャー・テリアに多い気がする。(個人的な印象です)
 年齢では、1歳弱(生後7〜10か月)位が一番症状が強く出ます。

治療は?
 鎮痛剤。運動制限。体重管理。そして、
手術。

 前述の股関節形成不全と同様、関節のトラブルです。手術が治療の選択肢の一つですが、この病気に関しても、
「意外と手術しなくても大丈夫なんじゃないの?」が個人的見解です。症状が強く出るのが生後7〜10か月、ヒトでいえば中学生〜高校生。体の成長に筋力がついていかない時期です。この時期を乗り切れば、私生活には支障ない程度の痛みに収まるんではないかと思う。
 手術となれば、一般的には、大腿骨頭切除術、本来の身体の構造を変えることになります。あんまり気持ちのいいことではありません。もちろん、痛くて痛くてしょうがない子には手術をして痛みから解放してあげなければ可哀そうです。でも、手術はあくまで最終手段で、鎮痛剤を適度に使いながら時間を待つことで、痛みが治まればそれが望ましいんじゃないだろうか?


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47.膝蓋骨脱臼

 犬の膝の関節の構造は、ヒトの膝と似ています。膝蓋骨は、いわゆる「膝のお皿の骨」です。この骨は通常、膝の関節(正確には大腿骨の端ですが)の中央にあります。膝蓋骨がちょうど収まる「」があって、その溝の中を縦に動きます。膝蓋骨には左右に靭帯が付いていて、溝から外れないようにバランスよく左右に牽引しています。
 
本来なら中央の溝の中に収まっている膝蓋骨が、内側もしくは外側に外れてしまうのが膝蓋骨脱臼です。
 
小型犬には膝蓋骨内方脱臼が多く大型犬には膝蓋骨外方脱臼が多いといわれています。大型犬の膝蓋骨外方脱臼はあまり診療経験がないので、今回は小型犬の膝蓋骨内方脱臼について書かせていただきます。
 猫ではきわめてまれです。ウサギにも、まれですが、内方脱臼を診たことがあります。

原因は?
 膝蓋骨の外側の靭帯が伸びるもしくは切れるかで、膝蓋骨を定位置に維持できなくなることです。足をひねったり、ジャンプして着地をしたりすることがきっかけになることが多いようです。ただ、
膝蓋骨内方脱臼を起こす子は、もともと大腿骨の「溝」が浅かったり、足が内側に曲がりぎみだったり、股関節の構造が普通でなかったりと、何らかの素質があるケースがほとんどです。

症状は?

 靭帯が切れたあるいは伸びた時は、とても痛い。キャンキャン鳴きながら、痛めた足を持ち上げて着かないで、3本足で歩くでしょう。ほとんどの場合、時間が経って痛みが引くと徐々に着地して歩くようになります。その後、普通に生活するようになるものの、時々、脱臼している足を着かないことがあります。その時は、痛みもなく、しばらくすると元通り4本足で歩いている。寝ていて起き上がるときなどに時々見られる症状です。

治療は?
 根本的に治すには
手術です。いろいろな術式があり、症状に応じて最適な方法を選択します。痛みが強いときは鎮痛剤を投与します。

まとめ
 小型犬ではある意味宿命ともいえるトラブルです。治療のポイントは手術するかしないかだと思いますが、もちろん、その子そのこの症状によりです。ただ、個人的な見解ですが、
ほとんどの場合、手術は必要ないと思う。手術が悪いとは思いません。もし、手術で膝蓋骨を解剖学的に正しい位置に戻してあげられれば、身体にとってもいいことでしょう。でも、そのために、全身麻酔をかけ、関節を開け、骨を削り・・となると身体に負担がないとは言えません。さらに、膝蓋骨脱臼があっても、普通に不快感なく生活できる子がほとんどです。痛みが続いてしょうがない、普段の生活にも差し支えるほど足がうまく使えない、明らかに将来影響が出るくらい足が曲がっている、などのケースであれば多少の負担は我慢してもらって手術で修正してあげるのがいいと思いますが、痛みがなくて普通に生活できる機能があれば、太り過ぎに気をつけてそのまま様子を見てあげるのがいいんじゃないかな。


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48.前十字靱帯断裂

 大腿骨と脛骨が関節する部分が膝ですが、膝の関節の中で、大腿骨と脛骨を繋いでいる靭帯の一つが前十字靭帯です。この靭帯が、切れたり裂けたりすることがあります。とても痛いので、ビッコを引きます。犬に多く猫には稀。

原因は?
 膝の関節に強い力がかかることです。肥満、老齢のワンちゃんはリスクが高くなります。

症状は?
 ビッコを引く。痛い足を着かない。歩かないなど。

診断は?
 触診(膝の関節の部分で、大腿骨と脛骨が前後に滑る感じ)
レントゲン鎮静もしくは麻酔をかけて撮影)。設備があれば、関節鏡で関節内を確認。

治療は?
 手術。いくつかの術式があります。

 実は、私はこの前十字靭帯断裂の確定診断を下したことはほとんどありません。手術は1回もしたことありません。なぜなら、手術が必要なトラブルなのか、もし手術が必要なければ、麻酔かけてまで診断を確定する必要がないのではないか、と考えているからです。この考えに至ったのは、ある事を知ったからなのですが、そのある事とは、プロのサッカー選手(元日本代表のストライカー)が、前十字靭帯を切断するケガをして、切れた靭帯を手術してつなげることなく周囲の筋肉を鍛えることで関節を安定させる方法を選択したそうです。その選手は、前十字靭帯が切れたままで、現役プロサッカー選手としてプレーを続けました。私の知人にも同じようなケースの人がいました。やはり、前十字靭帯を切断したのですが、受傷直後は痛くて歩けず松葉杖で生活していたそうです。でも、結局手術せずに、周囲の筋肉をつけることで関節を安定させることを目指し、その後、私生活は全く問題なく、趣味のサッカーも楽しめるまでに回復しました。時々、膝がごろごろする感じはあるそうですが、痛みは全くなく、サッカーをプレーする時も、恐怖を感じたりプレーを加減することもないそうです。
 ヒトと犬は違います。でも、膝にかかる負担は、ヒトは2足歩行なので2分の1、犬は4足歩行なので4分の1。体重はヒトの方が重い。サッカーをプレーするのに匹敵する負荷が膝にかかる犬はどれくらいいるだろうか?そんなことを考えていると、
犬の前十字靭帯断裂に手術が必要なケースはあまりないんじゃないかな、と思ってしまいます。あくまで、個人的な見解ですからね、念のため。


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49.特発性前庭機能障害

 耳の奥に渦巻き型の前庭という器官があります。平衡感覚を調整している器官ですが、この働きがおかしくなると、まっすぐに歩けなくなったり、ヒドイときには普通に立っていることもできなくなります。ヒトでも、その場で何回も回転した後、歩こうとしてもまっすぐ歩けませんよね。あの感覚だと思っていただければ近いと思う。年をとった犬に多く、猫にも時々見られます。ウサギにもよくある病気です。特発性とは、原因がはっきりわからないことです。

原因は?
 前庭の機能障害。なぜ、前庭の機能が障害されるかはわからないが、出血もしくは梗塞ではないかという説もある。外傷や、感染が原因となることもある。

症状は?
 うまく歩けない。すぐに転んでしまう。立っていられない。バタバタ暴れ続ける。嘔吐。
目の動きがおかしい。平衡感覚がおかしくなっているので動物自身は世の中がぐるぐる回っていると感じている。(もちろん実際には回ってない)回っている世の中に何とか対応しようとしている動きなのです。

診断は?
 症状と目の動きから診断します。血液検査、画像診断、神経学的検査なども行うこともあります。

治療は?
 消炎剤、抗生剤などを投与しますが、基本的には
「回復を待つ」ことです。嘔吐が酷い場合には補液をします。バタバタ暴れ続けるケースでは、麻酔をかけて寝かすこともあります。

元に戻るの?
 80〜90%位の確率で私生活には差し支えない程度に回復します。頭が傾く後遺症が残ることもありますが、生活はそれなりに可能なことが多いです。

まとめ
 動物の異変を最初に発見した時は、驚かれると思います。基本的には「回復を待つ」ことになりますが、それまでの対処が問題です。さしあたりの治療の目標の一つが「
動きを止めてあげること」ですが、ご自宅でできることとしては、姿勢を気をつけてあげることです。動物の右側を下にするか左側を下にするかで暴れ方が違うことがあります。また、身体が斜めになるように、何かに寄りかからせてあげると、落ち着いて動きがすくなるなど、姿勢というか体勢によって動きがかなり違うものです。試行錯誤して一番落ち着く姿勢をとらせてあげましょう。どうしても動きが止まらない場合は、床や壁に擦る部分の皮膚を傷めないように気をつけてあげましょう。タオル等を引いてあげて、接触する部分が固くならないようにしてあげるなど、工夫してみて下さい。
 もう一つ大切なことは、
水分や食べ物の摂取ができるかどうか。平衡感覚がないと、気持ち悪いので食欲がないことがあります。また、食べたい気持ちがあっても、食事の場所まで歩いていけないとか、身体や頭を支えていられないのでうまく食べたり飲んだりできないこともあります。さらに、症状がひどいときは嘔吐があります。自宅でできる範囲で、採食や飲水を手伝ってあげて下さい。全く食べたり飲んだりしない、あるいは嘔吐してしまうようなら、動物病院で栄養や水分を補給する必要があります。


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50.肉芽腫性髄膜脳脊髄炎

中枢神経系の炎症による病気。犬に多く、猫にはまれです。

原因は?
 中枢神経の炎症。どうして炎症が起こるかは不明だが、免疫抑制剤が有効なことから、自己免疫が関与しているのではとの説がある。

症状は?
 神経のどこの部分が侵されているかによりさまざま。
けいれん、震える、平衡感覚失調、旋回、昏睡など。症状の程度、進行する速さ、発症頻度もその症例ごとでさまざまです。

診断は?
 臨床症状、
脳脊髄液検査、CT・MRIなどの画像診断から総合的に診断します。他の神経疾患(てんかん、脳腫瘍など)との鑑別が必要です。

治療は?
 
ステロイド剤、免疫抑制剤などの投薬が中心です。

まとめ
 近年の検査手技や設備の進歩、とりわけ断層写真が動物でも撮影できるようになったことで、この病気の診断がつくことが多くなりました。とはいえ、設備のある施設に行ってもらう手間や時間、全身麻酔をかけることによる動物の身体への負担や心配、検査費用等の問題から、断層写真の検査を希望されない飼い主さんも多く、それも尤もだと思います。結果、症状や犬種から推定し、仮診断の上で治療に入ることもしばしばです。
 治療には、ステロイドや免疫抑制剤を使うので、あまりたくさん投与したくはない、でも神経の症状なので、発症や進行はなるべく抑えたい。
匙加減が難しいところです。
 長期的予後はあまりよくない。ただ、確定診断できても、やってあげられることにかぎりがある(確実に解決に至る治療法がない)。故に、確定診断つけないで、仮診断の上でできる範囲の治療管理をしてあげるのも選択肢の一つだと思います。

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51.僧帽弁閉鎖不全症

 心臓の病気です。犬に多く、猫には少ない。心臓には4つの部屋があり、それぞれ壁もしくは扉で仕切られています。このうち、左心房と左心室の間の扉が僧帽弁です。血液の流れは、左心房→左心室に向かい、僧帽弁が働くことによって、逆向きに流れることを防いでいます。しかし、僧帽弁が働かなくなると血液のスムースな一定方向への流れが障害され、さまざまな問題が生じてきます。

原因は?
 僧帽弁の変性、腱索の断裂、心筋の変性、腫瘍など。一般的には、小型犬の高齢犬に多く見られます。

症状は?
 元気がない
すぐに疲れてしまう。呼吸が荒い。舌の色が悪い。咳。などです。単純に加齢でも現われる変化と重複する症状も多いので見過ごされてしまうことも少なくないです。また、僧帽弁閉鎖不全症でも、症状が全く見られない場合もあります。
 時に
状態が急変して呼吸困難になることがあります。その場合は、肺に水がたまる肺水腫と言われる状態になっている可能性が高いので、なるべく早く、診てもらえる病院を見つけて受診して下さい。

診断は?
 聴診で心雑音が聴取されます。レントゲン、心電図、エコーなどと組み合わせて診断します。

治療は?
 強心剤、ACH阻害剤、利尿剤、処方食などで管理します。ただ、あくまで対症療法です。手術で治す方法もありますが、特殊な技術と経験を要する処置なので、限られた施設でしか実施されておりません。
 
急性の肺水腫の場合は、酸素室に入れるなど、早急に厳重な対処が必要です。

予後は?
 さまざまです。投薬管理で長期間快適に生活できる場合もあるし、なかなかうまく管理できない場合もある。また、急変もありうる病気なので、いつ何時も油断はできません。

まとめ
 日常の診察で聴診を行っている病院では、比較的早期に検出できる異常です。心雑音が検出されても症状が出ていないと、なかなか飼主さんにも理解されず、検査や投薬に同意が得られないこともよくあります。
 病気の場所が身体の中で最も大切な臓器の一つ心臓であること、ほっておいて悪化することはあっても
改善することは期待できない病気であること、悪化すると生活の質が著しく悪くなることから、症状がない時から、しっかりと管理してあげることが大切です。症状がないのに薬を飲ませ続けるのに抵抗がある方もいらっしゃると思います。私も個人的には、薬を続けるのはあまり好きではありません。しかし、この病気に関しては、必要であれば薬は続けた方がいいと思う。今飲んでいる薬が、1年後2年後の快適な生活につながります。少しでも長い時間ワンちゃんを快適に過ごさせてあげたければ、お薬を続けてあげて下さい。
 
急性の肺水腫が疑われる時は、なるべく早く病院へ。夜中に気づいたら(なぜか夜中〜朝方になることが多い)、朝になるまで待ってかかりつけに行くよりも、夜中に診てくれる病院があれば、診てもらってください。どこの病院でも、どの先生でもこの症状は経験したことがあります。適切な対処をしてくれるでしょう。

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52.三尖弁逆流症

 心臓の異常です。三尖弁とは右心房と右心室の間にある弁です。三尖弁が開閉することで、血液が必ず右心房→右心室と一定方向に流れるしくみなっています。ところが、三尖弁の閉鎖が不十分だと、血液の一部が本来と逆方向の右心室→右心房に流れてしまうことがあります。これが、三尖弁逆流症です。言葉の使い方でいえば、前項の僧帽弁閉鎖不全に合わせて「三尖弁閉鎖不全」とするのが美しいのですが、僧帽弁は弁自体が痛んでしっかり閉まらなくなるのに対して、三尖弁は他の原因から二次的にしっかり閉まらなくなることが多いので、このように統一性のない表現になりました。公式文書ではないのでお許しを。

原因は?
 三尖弁がしっかり閉まらなくなること。しかし、
三尖弁逆流症が単独で生じることは少なく、僧帽弁閉鎖不全症と併発したり、心筋症だったり、肺高血圧だったり、犬糸状虫(フィラリア)の感染があったりと何らかの疾患が存在しその二次的な影響として三尖弁逆流症が生じていることが多いような気がします。

症状は?
 元気がない。すぐに疲れてしまう。病状が進むと、
失神腹水など。僧帽弁閉鎖不全症に比べて症状が現れにくい

診断は?
 症状、聴診、レントゲン、エコーなどで検査し診断します。

治療は?
 僧帽弁閉鎖不全症に準じた治療を行うことが多いです。その他、病態や症状に応じて治療します。

予後は?
 これも僧帽弁閉鎖不全症と同じで、うまく管理できることもあるけど、難しいこともあります。

まとめ
 三尖弁逆流症単独での発症というのはあまりなく、基礎疾患があり二次的に生じる病態というのがこの病気に対する私の印象です。よって、
三尖弁逆流を含めた基礎疾患の総合的な治療を行うこととなります。ただ、三尖弁逆流症が存在しているということは、心臓に異常があることは間違えないので、管理は厳重に行わないとなりません。動物の状態の観察はしっかりと、投薬は確実に。負担のかかっている心臓を大切にしてあげましょう。


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53.心筋症

 心臓の筋肉の形態が変化し、心臓本来の役割である血液を血管に送り出して循環させる能力が低下する病気。病態によって、心臓の筋肉が通常より厚くなる肥大型心筋症、心臓の筋肉が通常より薄くなる拡張型心筋症、心臓がうまく広がらなくなる拘束型心筋症に分類される。大型犬では、拡張型心筋症が多く、猫では肥大型心筋症が多いと言われています。

原因は?
 不明。

症状は?
 疲れやすい。すぐに息が上がってしまう。元気がない。病態が進行すると、血液循環不全が起こり、結果として肝臓腫大、腹水、胸水、肺水腫を起こすこともある。また、心臓の中で血栓が形成され、それが血流に乗って心臓を出て、血管を詰まらせることもあります。

診断は?
 レントゲン、超音波画像診断。

治療は?
 強心剤、末梢血管拡張薬、利尿剤、抗凝固剤などを症状に応じて投与。ただ、あくまで対症療法であって根治療法ではない。

予後は?
 残念ながら完治する可能性は低い。

「とても難しい病気」という印象です。ヒトの医療だと移植を考える病気ですよね。逆にいえば、移植以外に治す方法がない病気なんだと思う。もちろん対症療法はあるけど、これもいろいろ考えさせられます。心臓を励ましたらいいのか、大事にいたわったらいいのか、それをいつからどの程度してあげたらいいのか、いつも悩みます。原因も不明。予防法もない。“何でこんなになったんだろう、どうにかならないんでしょうか?”と落ち込む飼主さんや苦しそうにしている動物を見てると、自分の無力さを痛感します。
 
根治することはなくても、症状に応じてやってあげられることはあります。少しでも、苦しくなく快適に日常生活を送れるように、様子を観察しながら投薬を行って管理することになります。


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54.腸骨動脈塞栓症

 動物の後ろ脚には、心臓から大動脈を経由して腸骨動脈を通して血液が届けられます。大動脈から腸骨動脈に枝分かれするところに血栓が詰まって、腸骨動脈に血液が流れなくなるのが腸骨動脈塞栓症です。腸骨動脈に血液が流れないと、後ろ脚には血液供給が無くなります。当然のことながら、これは大問題です。猫に多い。犬ではあまりない。

原因は?
 血栓が大動脈の血管内に詰まること。血栓は心臓の中でできることが多い。前述の心筋症や肺の腫瘍などで血栓が形成されやすくなると言われている。

症状は?
 突然の後肢麻痺。呼吸困難。疼痛など。

診断は?
 症状と一般所見から。後ろ脚を触ると冷たく、触診で脈が取れない。
後ろ脚を深爪しても出血しない、などから診断します。確定診断は血管造影ですが、そこまでしなくてもほとんど場合診断がつきます。

治療は?
 
@血栓を溶かす薬を点滴で投与。A手術で血栓を取り除く。どちらを選択するかは、その先生の経験、好み、飼主さんの希望、動物の状態など総合的に判断して決定します。

予後は?
 
残念ながらあまりよくはない。ただ、絶望ではない。人事を尽くして天命を待つ。

まとめ
 非常に厄介な病気です。救命も難しい。
救命できても時間がかかったり後遺症が残ったり、再発や合併症が出たりとすっきりしないことも多々あります。また、症状が動物にとって苦痛を伴うものもあるので、場合によっては安楽死を選択するケースもありました。ただ、回復してその後投薬管理をしながら、普通に生活できているケースもあるので、可能性があるかぎりは、なるべく回復を目指して治療を行います。
 当院では、手術ではなく、血栓を溶かす薬を点滴で投与する方法を選択しています。血栓が溶けてくれる場合、溶けない場合、溶けなくても、側副血管が形成される場合と経過はさまざまです。
 後ろ脚に血液がいかないこと自体ももちろん大問題なのですが、血液が流れなくなることによる
痛み、血行動態が変わることによる心肺への負担の増加腸骨動脈以外の血栓栓塞、血栓を溶かす薬の投与による止血機能の低下など、合併症が数多く発現するのもこの病気の悩ましいところです。本当に、動物泣かせ、飼主さん泣かせ、獣医泣かせの病気です。

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55.免疫介在性溶血性貧血



 免疫とは、微生物など外部からの侵入があったときに、侵入者に対して働きかけ、排除、抑制を行う生体の機能です。まず第一に、攻撃対象が「自己」か「非自己」かを確実に認識し、非自己であれば攻撃を開始しなければならない。
 しかし、この病気は、
身体の一部である赤血球非自己と誤認し攻撃して破壊してしまう病気です。赤血球が数多く破壊された結果が「貧血」です。赤血球を脾臓で破壊する病態と、赤血球が血管内で壊される病態などの型があります。

原因は?
 自らの免疫機能による赤血球の大量破壊。何がそうさせるのかは不明。

症状は?
 元気、食欲の低下。粘膜や舌の色が薄くなる尿の色が茶色になる

診断は?
 
血液検査(貧血、溶血、赤血球の形態、再生像、クームス試験など)レントゲン及びエコー検査(脾臓の大きさ、体腔内に出血がないか)尿検査などを組み合わせて診断します。

治療は?
 ステロイド、免疫抑制剤、造血剤、グロブリン製剤、などを組み合わせて行います。貧血の程度が強く回復が思わしくない場合には、
輸血を行うこともあります。繰り返す場合や慢性経過をとる場合は、手術で脾臓を切除することもあります。

予後は?
 回復する場合もあるし、亡くなってしまうこともあります。
 繰り返すこともあれば、たまたま1回なっただけでその後何事もなく経過する場合もある。よくわからない。


まとめ
 比較的診断もつきやすい。治療法も確立している。その割には、個人的にはどうもシックリこない病気の一つです。なぜなるのか、何が引き金になって赤血球を破壊し始めるのか、回復する場合としない場合の差は何か等々謎だらけ。よって、飼主さんにアドバイスできることもあまりないし・・。唯一言えることは、貧血の程度が軽いうちに治療を始められれば、そのぶん予後はいいと思う。
早期発見早期診断早期治療開始。


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56.出血による貧血

文字通り、血液が血管外に大量に流出し、循環血液量が不足している状態。
大きな血管が損傷するなどして、短時間に大量の血液が一気に流出する場合と、長い時間かけてじわじわと出血する場合とあります。

原因は?
 急性の場合は、交通事故などの外傷、大きな血管を含む腫瘍の破裂、手術の際の止血が不十分など。
 慢性の場合は、
消化管からの出血、泌尿器系からの出血など。

症状は?
 急性の場合は、
急に元気がなくなり虚脱する、呼吸が速く苦しそう、舌の色が白い、など。
 慢性の場合は、元気がない、すぐに疲れてしまう、痩せてきたなど。急性の場合より症状がわかりにくい。

診断は?
 血液検査。
その他、レントゲン、エコー、尿検査、糞便検査などを組み合わせて確定します。

治療は?
 可能であれば、出血点を止める。止血剤。造血剤。輸血。原因疾患に対する治療。

明らかに出血していることが解かる場合(眼で見て出血していることがわかる)は、すぐに治療に入れるのですが、体腔内の出血だと外から直接眼で見て判断することができないので、診断に手間取ることがあります。また、慢性の出血だと出血点の確定にも苦労することがあったり、“貧血”でも出血ではない原因の貧血のことも多々あるので、意外と難しんです。さらに、出血だとわかっても、内科的治療(止血剤投与など)で治療するか、外科的に対処しないとならないのか、(麻酔をかけるので、危険と負担をを伴う)他の合併症はないのか、(肝臓が悪かったり、血小板が少ないと血が止まりにくい)といろんなことを判断して対応しないとならない。「出血しているところを見つけて、血を止めればいいじゃん。」と、思っておられる方も多いと思います。実際その通り。でも、それがけっこう大変なこともあります。血液は生きていくのに不可欠なもの。無駄に漏出するのは、抑えないと。

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