019.明日
原から連絡を受けた西條は、青梅署まで、車を飛ばした。
青梅署につく頃には、日が既に西に傾いていた。

廊下で革靴の音が響く。いつもより早足で。
そして、ドアの前で軽く一息吐く。

「失礼します。七曲署の西條です」

がちゃりとドアを開けると、三角巾で腕を吊った大下と、微笑みながら談笑する立花の姿が目に入り、西條も自然と目を細めた。
いつもの空気、いつものテンション。

全て、いつも通り。

その空気が一番、と西條は思った。

「何やってんだか。二人っきりでよくあいつら見つけたなぁ。お前らエスパーかよ」
「俺を誰だと思ってんだよ」
「TOPの特攻隊長?」
「誰がゾクだよっ」

ぴしっと人差し指で西條が大下を指差す。その手を大下がたたき落とす。

「そりゃあいつだけ。俺はおとなしいんだぜ?」
「どの口が言うかな」

なあ、と西條は立花へと同意を求めた。だが立花は、苦笑して意見を言わなかった。

鷹山と鳩村は、仲良くベッドを並べて、入院している。
彼らは後で転院する事になっている。

西條は、立花と大下を連れ、外へと出た。


ひやりとした風が頬をなでる。

「じゃあ、コウは自分のバイクで帰るんだな」
「はい、置いて行けませんし。大下さんをお願いします。明日、ハトさんの代わりに刀に乗らないとだし。仕事だし。休めませんし」
「俺はー休みっ」

大下は腰に手を当て、ぐっと背筋を伸ばした。どこかの骨がぱきっと音を立てた。

「とは、いかねぇかな。会社でネットでもやるか」
「マインスイーパーか?」
「残念。マリオブラザーズ。エミュ」
「・・・・聞かなかったことにしてやる」

立花は、自分のバイクの前に立つと、メットを手にして、二人を見た。

「じゃあ、お先です」
「お先って、俺らの方が早いぜ、多分」

西條がにやにやするのを見て、立花は眉根を寄せた。

「パトランプは服務規程違反ですよ?」
「うちのおばさんに言うか?」
「いーえ、本店の藤堂さんに言います」
「やめます」

即答した西條に、立花はあはは、と軽く笑うと、メットをかぶってひらりとバイクに乗り、そのまま出て行った。

「乗らなくても、良かったのかな?」

と西條が立花の後ろ姿を指差すと、大下は首をぶるぶる振って拒否の態度を取った。

「ごめんこうむる、つか、マジで死ぬから」

その言葉に、西條は首をかしげた。

「そんなに?」
「そんなに」




首都高は光のカーテンだった。

その車たちが、家路を急ぐ。

気付くと、賑やかだった助手席からは、寝息が漏れていた。
疲れた大下の寝顔に、通り過ぎる何本もの街灯が影を作り出す。

これからは、いつもの日常。
普通の生活をしている人達からすると、非日常かもしれない。
皆が揃っている日々が、自分にとっての日常。


西條の車は、いつしか東京の雑踏の中へとまぎれて行った。

本気でラスト。
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