017.流血
大下は、少し反省していた。
西條に投げつけた言葉は、かなり乱暴だったな、と。
ただ、鷹山の行方を追う自分についた見張りが、ただ事ではない事を示していたから。
西條を巻き込む訳には行かないと思ったから。
「あいつは、知ってるんだろうけどな」
きっと、戻って来た時には、完全武装しているに違いない、と大下は口元を緩ませた。
自分の飛び道具は、弾切れはないのだが、西條の銃は弾切れを起こす。
だからこそ、突き放して戻らせる必要もあると思った。
するりと角を曲がった。
その途端に、自分の背後が賑やかになった。
それを楽しむ様に、大下の口角が上がる。
蛇の道は蛇。
道は必ず、鷹山へと繋がる。
軽いステップで、後ろの連中を翻弄する。
細い道へと引きずり込み、確実に一人ずつ片付ける。
大下のスリングショットは音がない。
ゲリラ戦にはもってこいなのだ。
確実に人数を減らしつつ、走り回る。
そんな時。
ちりっとした痛みが肩口を襲う。
「・・・っぁっっっ!!!」
ぎりぎり躱した刃の切っ先は、ジャケットを切り裂き、皮膚まで到達していた。
生暖かい液体が、左手を伝う。
その嫌な感触に、大下は顔を歪める。
「代償は、高くつくぜ・・・?」
次の刃の攻撃を、下へかがんで躱すとその勢いを利用し、ボディブローを叩き込む。
その痛みにくの字になったところの後頭部へ、さらに拳を振り下ろす。
地面へと倒れ込んだ男にとどめとばかりに、足を振り下ろした。
嫌な音がしたのは、その男のどこかの骨が折れた音だろう。
うめく男を大下は足蹴にして、さらに路地の奥へと走り出した。
一息つくと、大下は悪態をついた。
「さっいあく。昨日おろしたばっかなんだぜ、このジャケット!!」
ふと、もう一人、自分と同じ様に、二人を捜している男を思い出した。
「・・・コウのやつ、平気だろうな」
自分より、飛び道具持ってるだけいいか、と息を吐く。
首元のネクタイを外し、ハンカチごと傷口をしばる。
こんな傷で立ち止まってるわけにはいかない。
血の跡を追いかけて来たらしい足音が響く。
大下はすっと身を隠す。
「ここらへんで血が切れてるぞ」
「おい、大丈夫か?」
「まだ遠くに行ってない、探せ!!」
ばたばたと走り回る男達を、大下は近くのビルの屋上から見ていた。
「アナログな連中だこと。2Dより、3Dでしょ、時代は」
そう呟くと、大下はそのビルの屋上から屋根続きの家を渡り歩いて、別のビルの出口から商店街へと駆け抜ける。
「大下さん?」
その声に、大下が振り向くと、立花が驚いたような顔で見ていた。
「どうしたんですか、その傷っ」
「んー、ちょっと遊びが過ぎちゃって。で、どうよ、情報ゲットした?」
「俺を誰だと思ってるんですか?」
にっと笑う立花に、大下は肩を竦めた。
「西部軍団の特攻隊ナンバー2」
と、人差し指でぴしっと立花を指差した。
「だ・か・らっっっ!! 何でうちがゾクなんですかっ」
立花はその指を手ごとたたき落とす。
「鷹山さん、どうも銀流会の麻薬のネタ掴んだらしくて、うちのハトさんと一緒に拉致られたみたいなんですよ。ちょっと締め上げたら、場所吐きました。青梅だそうです」
「青梅?」
「ええ。行きますよ」
大下が立花の後をついて行くと、ぽつんとバイクがあった。
「・・・これ」
「一般市民から借りたんです」
「お前は・・・タカか」
文句を言っても仕方ない。
諦めた大下は、立花の後ろにまたがった。
青梅までの道中、大下は鷹山たちの心配もしていたのだが。
「死ぬかと思った・・・」
と一人ごちたのは、足を青梅の地につけてからのことだった。
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あり、暴走してないw
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