013.艶美
ラークの箱を掴み、そこから一本。
煙草を口に挟み、ジッポで火をつけた途端、大下は手を掴まれた。

「・・・・は?」

あまりの唐突な事態に、大下の動きが止まる。
それを隣りで見ていた鷹山も固まった。
事務所で、相談があると言われ、話を聞き出そうとしていたのだが、依頼人の男はじっと黙って何も言い出してくれない。
空虚な時間を持て余して、大下が煙草をつけた時のことだった。

「あ、あの・・・」

女ならともかく、男に手を掴まれて、じっと見られると気持ちのいい物ではない。 口の端が引きつる。

「離してほ・し・いんですがっ」

そういいつつ、手を無理矢理引き抜く。

「あんた、その気があるわけ?」
「いや、あの・・・・」
「まーた黙る。何なの。俺に何を求めてる訳」
「彼女に・・・・」
「はい?」
「彼女に、男としての色気がないって言われて・・・」
「・・・・はぁ」

大下は、ちろりと鷹山を見た。
鷹山は、漸く我を取り戻したと同時に呆れて、自分のテーブルに戻って書類整理の振りをしている。
実際、片付けるような書類はないのを大下は知っていたので、そんな鷹山を睨みつけた。

「その色気ってなんだって聞いたら、貴方のお名前が」
「・・・・・いや、意味不明なんだけど」
「それとない、さりげない仕草が色っぽいんだって言われて、全然分かんなかったんですが」
「いや、俺も分かんない」
「今の手の動きで何となくわかりました」
「・・・分かったんだ、それならよかったじゃない」
「なので、教えて下さいっ」
「・・・・・・・・・・」

大下はがくーんと頭を落とした。

「あのね、これは教える教えないって話じゃないんだけど・・・」

そろそろ何とかして欲しいなーと思って、大下は鷹山を見るのだが、当の鷹山は、書類で顔を覆って、笑いを必死で堪えている。

「ユージ、いいじゃないか、男の色気を教えて上げなさい、うん。大変だなぁ、ほんと」

楽しんでるな、この野郎、と大下は思いつつも、仮にも客の前である。言えない。

「本当ですか?」
「あ、えと・・・」
「ですが、お客様。これは特別メニューでして・・・」

鷹山は、するっと男の前に書類を出した。

「こうなりますが?」

それを見た男は、血の気が引いて、青ざめた。

「やっぱり、いいです。すみませんでした」

と挨拶もそこそこに、脱兎のように部屋を出た。
ぽかんと見送った大下は、鷹山が男に提示した書類に目を落とした。

「特別メニュー。金額・・・・50万?」
「俺の相棒を貸すんなら、それ位は貰わないとな」
「払うって言ったら、どうしたよ」
「そしたら、こっちの写真出すだけ」

鷹山は、そう言って大下の目の前に写真を突き出した。
それは、先日の西部署との飲み会の時の写真だった。
そこには、薫に遊ばれて女装した大下の姿が写されている。
大下が慌ててその写真を取り、びりびりに破り、ゴミ箱に叩き付ける様に捨てた。

「あぶねぇ・・・・」
「よかったな、色っぽいって言ってもらえて」
「うれしくねぇぇぇぇぇ!!!!!」

データは薫が持ってるからw
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